香川生物(KagawaSeibutsu)(36):5−8,2009
小豆島北部海域で確認された生きたシオガマサンゴを含む
2種の非造礁性イシサンゴ類
明 石 英 幹・山 田 達 夫・吉 松 定 昭
〒76卜0111香川県高松市屋島東町75−5 香川県水産試験場
AlivingOulangiastokesianamiltoniandanOtherahermatyPICCOralfromoff
ShoreofthenorthpartofShodo−Island,KagawaPrefecture
HidekiAkashi,TatsuoYamadaandSadaakiYoshimatsu,KqgawaPYdbctuYalFisheries 且軍e′メ朋e乃JαJ∫gα血〃,7ター・5ね5カメ椚α−〃なα5カブ,7b肋椚dお玖&曙αWα7∂ノー0ノノノ,J‘pα〝 ため,小豆島吉田地区沖合の漁場に集まって くる」との証言を得たこ.とにより,2008年2 月5日,同所で操業した小型機船底曳網漁船 により採取された底質および底棲生物試料を 当水産試験場に持ち帰って分析を試みた際, 非造礁性イシサンゴの一・種とみられる個体が 見出されたため,分離して,種の同定と個体 測定を行なった。種の同定にあたっては,小 川ほか(1996,2002)の記載に基づいて精査 した。 シオガマサンゴ仇南砂α∫わお∫メαⅧ仁椚訪仏融 は,小型の非造礁性イシサンゴの−・種である (江口,1965)。我が国では1932年に宮城県塩 釜市沖で初めて見つかり,その後の調査で日 本各地に広く分布していることが判っている (Ogawae′dJり,1993;幸塚・秋吉,2007;立 川,2008)。瀬戸内海において−も古くからその存在が知られていた(稲葉,1963,1988)
が,香川県沿岸海域における本種の確認は明 石ほか(2008)および明石・吉松(2008)が 白化した骨格の採取事例を紹介しているにす ぎず,生きた個体の発見例についての報告は見当たらない。今回,香川県水産試験場が行
なったマコガレイ PJe祝′・0〃eCね∫γ0た0ゐα椚αeの 産卵場所特定調査の過程で,本種の生きた個 体を含む2種の非造礁性イシサンゴ類が得ら れたことから,ここに報告する。調査方法
2種の非造礁性イシサンゴ類が得られた場所を図1に示す。マコガレイの産卵場所を特
定する目的で実施された聞き取り調査におい て,漁業者の方から,「産卵期には餌を漁る 図1.2種の非造礁性イシサンゴ類が確認さ れた場所(●印) − 5 −OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
変え,餌料生物の添加を中止した。この条件
により,1年経った2009年2月現在も衰弱す
ることなく飼育を継続中である。 2−2.コツヅミサンゴ鱒卯靴り融払=め血肌 今回得られた2個体の非道礁性イシサンゴ 類のうち,コツヅミサンゴと同定されたもの を図3に示す。この個体は,コスタの幅がコ スタ間の幅を超えることがなかった点で近縁 のタワラツツミサンゴP.カ//血J〟∫ と区別さ れ,小さな円盤状であること,セプタから連 なるコスタが底面へと達していること,各コ スタが縁辺から歯車のように突出しているこ と,セプタは6系3回で24枚と完全であるこ と,等の点において,小川ほか(2002)に記 載された指標とよく一致したことから,本種と同定された。ただし,コスタの幅の測定結
結 果 1.調査海域の概要 調査を行なった/ト豆島吉田地区は同島北端 に位置しており,沖合100mの水深は約25m で,海底は緩やかな傾斜となっている。海底 の基質は砂礫を主体に構成されており,沖合 へと進むにつれ 砂の割合が増加した。底棲 生物として,スゴカイイソメβゆα′rα∫〟gO血才∼ をはじめとする,複数種の多毛類およびその 棲管が確認された。 2.確認された非違礁性イシサンゴ類 調査海域で採取した底質および底棲生物の 分析を行なっていた際,2個体の非造礁性イ シサンゴ類が見出され,精査した結果,以下 の2種に分類された。 2−1.シオガマサンゴ0〟Jα〃g′α∫わ毎∫ね∽α /〃〟/()再 今回得られた2個体の非道礁性イシサンゴ 類のうち,シオガマサンゴと同定されたもの を図2に示す。この個体は,総てのセプタが 細かな鋸歯状であること,セプタ上線が乳白 色を呈すること,セプタは6系5回で49枚と 不完全であること,等の点において,小川ほ か(1996)に記載された指標とよく一致した ことから,本種と同定された。ただし,小川 ほか(1996)では骨格,共肉ともに濃い茶色 となっていたのに対し,本個体は骨格がやや 橙色を帯びた桃色であること,英内部が茶褐 色であることなど,色調の点で異なってい た。英の測定結果は,径7,1×6,4m皿,高さ 4.9Ⅲ札 深さ1.9mmであった。着生基質は14.5 ×20.7×8.Ommの小石であった。 骨格の状態が良かったため,海水中で静置 しておいたところ,透明な触手の展開が見ら れるなど生体反応を示したことから,飼育を 試みた。100m鼠ビーカーに海水を満たした中へ 本個体を入れ,無加温の状態で飼育した。最 初の1ケ月間はアルテミア解化幼生を与えて いたが,その後は3日に一度,水産試験場地 先で汲んだ生海水を用いて全換水する方法に図2.シオガマサンゴ 仇血吻わ油壷血糊
刑∫Jわ〝7と同定された個体.A・Bは収容直後,C・Dは触手を伸ばした状
態.A・Cは側面,B・Dは上面,
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果(N=10,0.09∼0.14mm,平均0.11mⅢ)お
よびコスタ間の幅の測定結果(N=10,0.16 ∼0.23m恥 平均0.19mm)はいずれも,小川ほか(2002)に記載された値(コスタの幅約
0.015皿Ⅲ,コスタ間の幅約0.020皿Ⅲ)を大きく 上回っていた。実の測定結果は,径2.8×2.8 mm,高さ1.Om皿で,いずれも小川ほか(2002) に記載された値(径2.4∼3.2×2.5∼3.3m軋 高さ1.1∼2.0皿皿)に近いものであった。この 個体は,長さ24.Om恥 外径8.4mmのスゴカイイ ソメの棲管とみられる,砂でできた筒の表面 に取り込まれて付着していた。 骨格の状態が良く,生時の色調とされる白 色を呈していたことから,海水中で静置して おいたものの,生体反応が見られなかったた め,標本処理を行ない,当水産試験場で保管 している。 考 察 瀬戸内海に分布するとされる非造礁性イシ サンゴ類6種のうち,香川県沿岸海域からは これまでに,オノミチキサンゴ加〃d■甲卸〃ぬ crか0∫dとシオガマサンゴの2種が報告されている(稲葉,1988;明石ほか,2007,2008;
小川・高橋,2008)。このうち,生きた個体が 確認されたのはオノミチキサンゴのみであ り,シオガマサンゴについては,今回が初めての報告となる。本報告の調査海域は,水深
約20∼25m,海底の基質は砂礫と粗砂を主体 に構成されていたが,これは稲葉(1988)が 示した,水深20∼30m以浅の礫または岩礁性 海域という,本種の生息環境に合致するもの であった。稲葉(1988)が瀬戸内海全域に普 通としているにもかかわらず,これまで生き た個体が見つからなかったのは,本種が他の 多くの非造礁性の単体イシサンゴ類と同様に /卜型(小川ほか,1996)で,目立たないため と推察された。 スゴカイイソメの棲管に取り込まれる形で 見つかったコツヅミサンゴは,既に白化して いたものの,これまでに香川県沿岸海域からの報告はなく,初めての確認事例である。稲
葉(1988)によれば,本種は水深20∼30m以
浅の砂地怯または礫性の場所に普通とされて いるが,分布は備後灘∼燵灘海域に限定され ており,′卜豆島吉田地区沖合での発見は,播 磨灘海域においても初記録とみられるもので あった。本種がこれまで発見されなかったの は,小型種が多い単体イシサンゴ類の中でも 特に小型で,かつ砂礫の間隙に遊離して生息 しているとされる(江口,1965;小川ほか, 2002)ことから,シオガマサンゴよりもさら に目立たないためと推察された。 今回は,マコガレイ資源に関する調査を進 める中で偶然見出されたため,わずか2個体 しか得られなかったものの,シオガマサンゴ の生きた個体の発見,コツヅミサンゴ骨格の 発見はいずれも,香川県沿岸海域では初の報 告となる貴重なものであり,今後も注意深く 調査を続けることで,同所海域における非造 礁性イシサンゴ類相とその分布の把握につな がる,有益な情報が得られるものと期待され る。 謝 辞 本稿をまとめるにあたり,調査採取にご協 図3.コツヅミサンゴア甲0〃0αα血∫椚J〃∼椚〟ぶ と同定された個体.右下はサンゴ体を 拡大したもの.上段は側面,下段は上 面. − 7 …OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
内海の生物相Il:246−260い 広島大学理学 部付属臨海実験所,広島. 幸塚久典・秋吉英雄..2007り 隠岐諸島に生息 する浅海産非造礁性イシサンゴ類.うみう し通信54:4−6一. Ogawa,Kazunari,KanaeMatsuzaki,KoheiWata−