香川大学農学部学術報告 第33巻 算1号 い)5,1981
温州ミカンの栄養生理に関する研究
Ⅶ窒素施用濃度と6年継続砂耕樹の果実品質の年次変化
井 上
宏STUDIES ON THE NUTRIT工ON OF SATSUMA MANDARIN
ⅦYearly changesintheyieldandfruitqualityofyoungtreesasrelated
to the concentration of nitrogenin sand cultur’e for six years
HirOSbiINOUE
Young sats11ma mandar・in trees on trifoliate orange rootstock were grownin sand culture with sixnitrogenlevels(Oto160ppm)forSixyears小 Phosphoricacidand potassiumin nutrientsolutions Were maintained at40ppmい
AlternatebearingoccuredonthetreesinallplotsAmongthem,20to40ppmofnitrogenapplication
resultedinhigherfruityields,andtotalyieldforsixyearswashighestin the20ppm−・plotVariations O董the董ruit qualitiesby the growingSeaSOn Werefound.But,there was a tendency that as nitrogen
Supplyincreased thefruit sizebecame smal1er and coloringOf fruits was retarded。Proportion of
rind of airuit becamelowerinlower nitrogenlevels.Totaland reducing sugar contentin the
fruit juice were higher,and citric acid content waslowerin20to40ppm of nitrogenapplication. From the results of this study,the optimtlm Value ofleaf nitrOgen COntentin AuglユSt for the 董ruitpr・Oduction with high fruit qualityis considered to beless than 3%
樹勢のそろったカラタチ台杉山系温州ミカン7年生樹を窒素施用濃度の6段階(0,10,20,40,80,160ppm) で6か年継続砂耕し,果実収監ならびに果実品質の年次変化を観察した. 隔年結果現象がすべての供試樹に認められたが,窒素施用迅度が20∼40ppmの範囲で果実収盈が多く,6年間の 累税収鼻ほ20ppm区で最高であった.果実品質の蘭でも年次による変異が多かった.果実の大きさは施用濃度が高 くなるほど小異となった.果皮歩合および果皮の若色の点からは10∼20ppmの範囲で優れ,果汁の糖,酸舎監およ び甘味比の点からは20∼40ppmの範囲で優れた.綜合的にみて,温州ミカンの果実品質ほ8月の某内窒素含有率が 3%以下で良好のように思われる. 緒 筆者は第2報(1)において,温州ミカンの4年生樹を標準窒素(80ppm),倍盈窒素(160ppm)および無窒素(O ppm)の肥料溶液で5年間継続砂耕して果実品質の年次変化を観察し,倍藍窒素および無窒素区では綜合的にみて 次第に品質が劣っていくことを指摘した. 前報く2)で温州ミカンの7年生樹を6段階の窒素潰虔の肥料溶液で6年間継続砂耕し,栄養・生殖両作用に及ぼす窒 素の影響を検討したところ,窒素施用潰皮が20∼40ppmの範囲で,栄養・生殖両生長ともに優れたが,それより高 波皮でも低濃度でも樹勢は次第に衰え,結実ほ著しく悪くなった.本報ではこれら供試樹に着生した果実の品質の年 次変化を観察することにより,窒素の果実品質に及ぼす影響を明らかにしようとした. 実験材料および方法 本実験は香川大学農学部構内の研究は場において花こう岩の川砂を満した円筒形コンクリートポット(内径50cm,
馴】人草遷せ蘭学術報望 第33巻 第1号(1981) 探さ50cm)に栽植したカラタチ台杉山系温州ミカン7年生樹を用いて1971年から6年間,窒素処理.を行った.本供 試樹は1969年春に定植し,2年間窒素,リン酸,カリのそれぞれ40ppmの砂桝液で一億に栽培した.1971年から 1976年までの問の栄養生島面の成績(菓分析値も含む)および収穫果実数,同異実重は前報(2)に記したとおりであ る・12月上旬に毎年,果実を収穫し,果実乱異形指数(横径/縦径),果実比重,果皮の厚さ(果実の赤道部),果 皮歩合(重恩%),着色歩合(緑色果を0,完全着色果を10として目測)および果汁中の糖・牧舎盈を測定した.糖 の定盈にはSomogyi新試薬法を,酸の定鼠(クエン酸鼻で表示)には0.川か性ソーダで滴定する方法を用いた. なお,葉果比は1971年と1975年に調査した. 処理区は第1表のとおりで,1区4樹を供試した.砂耕液は第1表に 示す濃度に各肥料を水道水に溶して作成し,毎年4月1日から11月30日 まで週3回,隔日に1鉢10Jずつ施用した.窒素濃度は0,10,20,40, 80および160ppmの6段階とした.リン酸およびカリの施用濃度ほい ずれも40ppmとした.要素源は窒素には硫酸アンモニア,リン駿には 過リン酸石炊,カリには硫酸カリを用いた.なお,マグネシウムは硫酸 マグネシウムで,ほう素はホウ酸で適宜施用し,それぞれの欠乏症発生 を防止した.砂耕彼のpHは6.5∼616の範囲にあった.12月から3月 までの期間は各区とも水道水のみを施用した.供試樹の栽培管理は−・般 の慣行に従ったが,せん定は故少限に止め,枯枝を除く程度とした.ま 第1表 砂耕液の組成
処理区 N P20さ K20
160ppm 160ppm 40ppm 40PPm 80 80 40 40 40 40 20 20 40 10 10 40 0 0 40 40 40 40 40 40 た,摘果は行わなかった. 結 果 1.果実収量および葉果比 窒素処理を開始した1971年より6年間にわたる各区の果実収巌は鰐2表のとおりである.いずれの年にも摘果をま 節2表 果 実 の 収 毘(kg) 1972 1973 1974 160ppm 80 40 20 10 0 9 0 0 5 3 3 8 4 5 ﹁1 4 3 0 1 2 2 3 2 4 3 2 3 7 8 8 5 5 7 4 1 0 2 5 6 2 0 0.81 2.77 5小03 7.75 5.30 0.86 0 7 00 9 8 4 2 6 5 9 2 2 0 1 2 3 1⊥ l 5 9 1 8 1 5 .4 1 4 5 1 7 0 2 5 6 5 0 〇 3 2 12078⋮一
4 7 1 1 3.43 13.63 23.75 29.28 17.59 5.36 ったく行わなかったために隔年結果の現象が各区とも認められたが,平均して20ppml芸と40ppm区で収鼠が多か った.160ppm区は初年度より収監が極端に少なく,窒素の過剰の菩を示した.−LB,無窒累区(Oppm区)では 2年次から極端に収監が減じた.1976年度には10ppm 区とOppm区で果実収監は皆無となった.菜内窒素含意 (前報(2〉で記述)からみてもやや窒素が不足気味の10ppm区で隔年結果現象が 最も著しかった.結局,6年間の累敢収藍では20ppm区で最高となって約30kg であったのに対し,40ppm区で24kg,10ppm区で18kg,80ppm区:で14kg 罪3表 菓 果 比 処理屈 1971 1975 150 であった・Oppm区と160ppm区ではそれぞれわずか5kg・3kgであった・ 44 なお,葉菜比について1971年と1975年の両年度のみ調査した(第3表).初年 21 皮ほ窒累の施用濃度が高くなるはど菓果比は高くなったが,1975年になると160 18 ppm区とOppm区で極鰍こ高い数値を示した外は,10∼40ppm区で20前後の 23 適正な値を,80ppm区でやや高い44を示した. 93 2.果実重 各室累処理区の1果平均重の年次変化は第1図のとおりである.年次がすすむ 160ppm 88 80 63 40 47 20 57 10 29 0 36井上 宏:温州ミカンの栄養生腰」Ⅶ にしたがって果実は小さくなる傾向を示した. 窒素処理区間でほ施用濃度が高くなるほど,果 実は小果となった.とくに,160ppm区では初 年度に110gの平均果実蛮を示したが,1976年 にはわずか40gにすぎなかった. 3.異形指数 果実の横従を縦従で除した果形指数の年次変 化は第2図のとおりである.年次のすすむにし たがって,異形指数が低下する傾向がみられ, 窒素施用濃度が高くなるほど腰高果となった. 4.果実比重 果実客観を果実蛮で険して求めた果実比並の 年次変化ほ第3図のとおりである.1972年と19 75年は全体的に来光比藍が小さく,浮皮果の発 生も40ppm区で著しかった.40ppm区では筒 に果実比頚が小さく,それより窒素施用弘皮が 高くても,低くても果実比雷は大となった.と くに,10ppm区とOppm区でばいずれの年も 簿1陛1果 実 誼 の 年 次 変 化
1.3
果 形 指1.2 比重が大きく,浮皮果の発生はほとんど認めら 数 れなかった. 5.果皮の厚さと果皮歩合 1・1 果皮の厚さおよび果皮歩合の年次変化は第4 図および第5図のとおりである.果皮の厚さは19751976年
1974197119721973
碍2図 果形指数の年次変化 ∧ ′仙‥....._ 0山92 O 90 年次のすすむにしたがって蒔くなったが,40p pm区で最も厚く,10ppmまたは20ppm区で 薄い傾向がみられた。果皮歩合も年次とともに 果0・88 低下したが,窒素施用浪皮が低いほど歩合が低 0・86下する傾向がみられた.すなわち,醸窒兼区で 実084
最も果皮歩合が小さく,80ppmまたは160ppm 比0・82 区で大であった. 6.果皮の着色歩合 緑色果を0,完全着色果を10とする果皮の着 色歩合の年次変化は第6図のとおりである. 0 80 盃0い78 0176 O 741971 1972 1973
197419751976年
1973年と1975年は砂桝液の窒宍濃度常より,区 間の着色歩合の差が著しかったが,いずれの年 次にも,窒素施用濃度が高くなるほど着色は悪 くなった.無窒素区/でほ12月上旬にほ完全に着 色したが,緑色が消えたに過ぎず,果皮に亦橙 果 第3図 果実比重の年次変化 色ほみられず,黄色見であった. 7.果汁の糖および酸含盈 果習の全糖,還元糖および酸含毘をユ2月上旬 の収穫果について年次別にみると,第7∼9図 のとおりである.全糖含毘は0,10ppm区で は初年度を除き,年次による変化はほとんどな く,他の区に校べて著しく劣ったが,他の4区 では年次とともに合鼠が増大する傾向にあっ 皮4 の 厚 3 さ 2香川大学農学部学術報告 第33巻 第1号(1981) た・とくに,40ppm以上の窒素の高濃度区に % おいて全精舎屋は大であった.還元糖含還では 35 1974年まではいずれの区も年次がすすむに㈲っ 果 て増大したが,以降は減少を示した・窒素処理 皮30 区間では1974年までは40ppm区で還元糖舎監 が最も高く,それより高濃度またほ低濃度区で 含昆が低かったが,1974年以降ほ施用濃度が高 くなるほど還元糖含藍は高くなった.−・方,ク エン酸合鼠は年次変化が著しく,1973年と1975 年は著しく低かった.いずれにしても,40ppm または80ppm区でクエン酸合鼻は最も低く, 窒実施用猥度がそれより高くても低くてもクエ ン酸舎監は高くなった.とくに,Oppm区で は合鼻が高かった.仝糖含毘をクエン酸合鼠で 歩 合25 20
197119721973197419751976年
滞5図 果皮歩合の年次変化 険した甘味比をみると,40ppmまたは80ppm 色 区でどの年次でも最大であった. 歩6 5 合4 3 2 考 察 わが国の各県の果樹試験場でおよそ10年間に 個々に行われた露地栽培の温州ミカンの成木を 用いた窒素施肥に関する試験成椋の集録(8)の■ま とめによると,果実の生産鼠に対する窒素の適 還(高収監をあげるに必要な最低菓内舎監)は 2.7∼3.2%の範囲にあるのに対し,品質に対す る適鼠(駿,甘味比に遥点をおき,果皮の着 色,果皮率,果実比露をも考慮)は2.5′〉3.0% で0.2%程度低い値を示した.砂排栽培の本実 験成敏(前報(2)と本報)でみると,窒素施用温 度が20∼40ppmの範囲で樹勢,収量ともに俊197119721973197419751976年
第6図 果皮の着色歩合の年次変化 80ppm区 遂160ppm区 %7 40ppm区 れ,糖と酸合嵐および甘味比からみた果汁の品 昆5 質も優れたが,果皮歩合および果実の着色は10 ∼20ppmの範囲で良好であった.葉内窒素合 4 有率の年次変化は前報(2)で述べたが,20ppm197119721973197419751976年
欝7区l果汁の全糖合盟の年次変化 区では1975年に2.7%の値を示し, 3%を切っ た.綜合的にみて,温州ミカンの良好な果実品%
質は樹体の窒素栄養が8月の葉内含有率で3% 3ル0 以下で得られるように思われる. 還 従来,多くの果樹類で窒素栄養が長ければ大 _2.5 果となると考えられてきた.本実験の温州ミカ ンの成鎮からみると,葉果比は異なるが窒素の 施用此度が高くなるほど果実は腰高で,小果と 含 なった.果実が小さくなる点についてはすでに 佐藤(4)も指摘しているところであるが,これは 葉菜比の関係ではなく,窒素の直接的な肥大抑 制の影響と考えられる.すなわ■ち,窒素過剰と 考えられる160ppm区においては某果比100以鼻1..5
1.0197119721973197419751976年
第8図 果汁の道元糖舎監の年次変化井上 宏:温州ミカンの栄養生理 Ⅶ 上にかかわらず,極小呆であった.温州ミカン は果皮と果肉の発育が他の種類の果実のように 平行的ではなく,窒素栄養が良好になった場 合,果皮の発育は促進されるが,果実全体の70 %以上を占める果肉の発育ほ必ずしも促進され ないようである.しかし,これらについて−は窒 素栄養と光合成産物の果皮と果肉への分配の関 係もあると考えられ,今後の検討が必要であ る. 果皮の着色は,窒素施用濃度が高くなるはど 著しく遅れた.−・方,窒素の低濃度区では葉緑 素の消失は早かったが,亦橙色の発現がほとん どみられなかった.窒素の多い区での着色の遅 延または着色不良果の発生は温州ミカンに限ら ず他の果樹類でも等しくみられる現象である. 寛皮他力ンキツの温州ミカンの特長である浮皮果の発生ほ窒素の高濃 皮区とは関連せず,好適の濃度区より若干高いところで浮皮果発生が多く,過剰の場合は果皮が厚くても発生がはと んどみられなかった.これは前述した果実が大果とならない現象と関係があるものと思われる. 文 献 1.井上 宏:農業および園芸,46(3),525−526(197 1). 2.井上 宏,磯辺猿二:香川大学農学部学術報告,32 (2),95−・102(1981). 3.石原正義:カンヰツの窒素施肥に関する研究集録 (農林省呆樹試験場編),Ⅳ1−9(1975). 4.佐藤公一・,石原正義,栗原昭夫:農業技術研究所報 告,Eけ,17−・39(1958). (1981年5月30日 受理.)