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金融ビッグバンと公的金融

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(1)

金融 ビッグバ ンと公 的金融

経済学研究室 藤 はじめに 一― 問題の所在 ――

I

日本版金融 ビッグバ ンの特徴 とその問題点 Ⅱ 日本版金融 ビッグバ ンにおける公的金融の位置 Ⅲ 市場原理のフイクションと民間金融機関の行動 Ⅳ 郵貯民営化問題 と金融 ビッグバ ン

V

財政投融資の改革問題 と金融 ビッグバン Ⅵ 金融 ビッグバ ン下の金融行政の特徴 とその問題点 おわ りに `よ じ め に 一 ― 問題 の所 在 ― ― わが国は1990年代 に入 るとともに

,バ

ブルの崩壊 を契機 に

,一

転 して戦後最大の経済不況へ と突 入 し

,未

だに回復 の兆 しが見 えない。株価 や地価 の暴落 に象徴 される資産デフレに加 え

,消

費税の 増税・医療費の大幅負担増や企業の リス トラによる人員削減の進展 などが

,国

民の購買力 を急速 に 低下 させ

,典

型的な消費不況 と呼ばれる状況 になっている。 こうした経済不況の深刻 さを実証す るかの ように

,連

日の新聞には

,月

ごとに企業倒産件数お よ び倒産 にともなう負債総額

,そ

して失業率のいずれ も戦後最悪の記録 を更新 した とのニュースを載 せている。嫌がお うにも国民の不安 は高 まらざるをえない。 なかで も

,金

融機関にかかわるニュースが多いのが 目につ く。銀行や証券会社

,保

険会社 などの あいつ ぐ倒産

,金

融機関の合併。銀行の貸 し渋 りが原 因による企業倒産 と

,倒

産 した企業経営者の 自殺。金融機 関の不正融資事件や利益供与 にともなう銀行員や大蔵官僚の逮捕。 これ らの記事 は, 国民 にとつて生活不安 を増すだけでな く

,現

在の金融 システムヘの不信感 をも増大 させている。な ん とか この ような状態 を打破 したい, しか し

,ど

の ようにすれば良いのか見通 しが もてない一一 国 民のい らだちは募 るばか りである。 したがつて

,現

在 の金融 システム改革である金融 ビッグバ ンに

,な

にほどかの現状打破の希望 を 託 したい気持 ち もわか らな くはない。 しか し

,そ

の気持 ちが急 なあま り

,金

融 ビッグバ ンの問題点 をつかみ きれていない ことも事実であろう。 本稿の課題 は

,こ

うした点 を考慮 しなが ら

,

日本で実施 され ようとしている金融 ビッグバ ンの問 安 田

(2)

藤田安一 :金 融 ビッグバ ンと公的金融 題点 を

,公

的金融 との関連で考察することにある。

日本版金融 ビッグバ ンの特徴 とその問題点

金融 ビッグバ ンについて書かれた多 くの本 には

,以

下のような賛美の文章が満 ちあふれている。 「 日本版 ビッグバ ンの進展 によって

,元

利保証や予定利率 などに縛 られたマネーフローか ら

,実

質 リター ン型のマネーフローヘ と変わってい き

,証

券市場が著 しく拡大 してい くであろう。銀行 も 投資信託の販売 をは じめ として証券業務 を拡大 してい くことになる。1,200兆円 に及ぶ わが 国の個 人金融資産の有効 な運用手段 を提供する場 こそ

,証

券市場である。今後 は

,顧

客 に有利 なさまざま な金融商品が提供 されるようになるであろう。J° (傍点は引用者) しか し最近 になって, ようや くわが国の金融 ビッグバ ンの問題点 を指摘 した本 も出て きている。 た とえば

,

日本版 ビッグバ ンには利用者の立場が考慮 されていない として

,つ

ぎの ように警告する もの もある。 「従来の金融行政 と同 じようにビッグバ ンで も大 きく抜 け落ちているのが

,利

用者の立場である。 先の郵貯の民営化で も主張が 目立つのは業界代表であって

,声

な き声の利用者 はいつで もお ざな り に扱 われる。 ところが

,金

融機関の行 き過 ぎた行為で犠牲 になるのは利用者である。わが国の利用 者 は概 して金融機 関を信頼 しているだけに

,こ

うした事態が広がってい くとその反動が きわめてお そろ しい。……欧米の ように利用者保護規定や保護機構が整い

,利

用者 を守 る法的環境が きちんと 整 っているところなら

,利

用者の参加 を得 て

,た

とえばイギ リスの リテールバ ンクやアメリカの ミ ューチュアルファン ドの ように

,金

融・証券市場の活性化 を実現で きるであろう。 しか し

,規

定や 機構それに慣例が整 っていないわが国で

,

ビッグバ ンを安全機構 な しに推 し進めてい くと

,利

用者 の犠牲が多発 し

,わ

が国金融・証券市場への利用者の参加 はおろか逃避す ら生 じかねないおそれが ある。」②(傍点は引用者) こうした利用者か らみた金融 ビッグバ ンの問題点 を

,

さらに発展 させて考 えるためにも

,こ

こで 日本版 ビッグバ ンの内容 について簡単 にみてお こう。 もともとビッグバ ン (Big・

Bang)と

,宇

宙が大爆発 によ り創 出された とす る宇宙物理学 の用 語であるが

,イ

ギ リスが行 なった1986年の証券制度の改革 をビッグバ ンと呼んだことか ら

,金

融 シ ステムの大改革 をさして

,こ

の ように呼ばれるようになった。 このイギ リスの ビッグバ ンにあやか って

,橋

本首相 は1996年11月

,Free(フ

リー

),Fair(フ

ェアー

),Global(グ

ローバ ル

)の

3原

則 を金融 システム改革のスローガ ンに して

,東

京 をニュー ヨークやロン ドンに並ぶ金融市場 として再 生する

,い

わゆる日本版 ビッグバ ン構想 を打 ち出 した。 外国為替管理法の改正 をフロン トランナー として

,い

よいよわが国において も今年 (1998年

)か

ら2001年にかけて

,大

胆で急激 な金融 システムの大改革

=日

本版 ビッグバ ンが始 まろうとしている。 この ビッグバ ン構想が「 日本版」 といわれる理由は

,イ

ギ リスの ビッグバ ンが証券売買 にかかわ る固定委託手数料の 自由化や

,取

引所会貝への外部資本出資制限の撤廃 などを柱 としたロン ドン証 券取引所の改革であったのに対 して

,

日本で実施 され ようとしているビッグバ ンは

,イ

ギ リスのそ れ よりも

,は

るかに広範 な内容 を包摂するものであるか らである。 日本版 ビッグバ ンのスローガンとして

,第

1に あげ られた「 フリー」 は

,市

場原理が働 く自由な 市場 をめざして

,銀

行 。証券・保険分野への参入促進

,長

短分離等に基づ く商品規制の敏廃 と証券・ 銀行 の取扱業務の拡大

,各

種手数料の 自由化

,為

銀主義の撤廃

,資

産運用業務規制の見直 しがあげ

l

(3)

鳥取大学教育学部研究報告 人文・社会科学 第49巻 第

2号

(1998) 285

られている。 また第

2の

「フェアー」は

,透

明で信頼できる市場 をつ くるため

,デ

ィスクロージャーの充実・ 徹底

,ル

ール違反への処分の積極的発動を内容 としている。 さらに第 3の 「 グローバル」では

,国

際的で時代 を先取 りする市場をめざして

,デ

リバティブ等 の展開に対応 した法制度の整備・会計制度の国際標準化

,グ

ローバルな監督協力体制を確立 しよう とするものである。 このように

,

日本版 ビッグバ ンは証券分野の改革だけではなく

,銀

,証

,保

険などの規制緩 和 をすすめ

,外

国為替や会計制度から税制

,商

,雇

用慣行 まで

,お

よそ金融システム全般を

,グ

ローバル,スタンダー ド(国際基準

)に

合わせて徹底的に改革することを目的としている。 予定 どお り

,こ

うした金融システム改革が実施 されていけば

,株

式売買手数料や金融商品の設計 は自由になるばか りか

,銀

,証

,保

険会社の相互参入は促進 され

,銀

,証

,保

険 という業 態の枠 を越えた再編が急速 に進んでい く。さらに

,持

株会社の解禁や外資系企業の参入が

,こ

の再 13 を加速 させ

,体

力のない金融機関に洵汰を迫るのは確実であろう。 事実

,

ビッグバ ンの波は

,早

くも私たちの眼前で金融機関の相つ ぐ破綻 という形で表面化 してい る。1997年 11月の三洋証券の会社更生法適用申請に始まった金融破綻の波は

,北

海道拓殖銀行の北 洋銀行への営業譲渡

,山

一証券の自主廃業

,徳

陽シティ銀行の仙台銀行などへの営業譲渡へと広が つていき

,ま

さに止 まるところを知 らない感がある。 この現在の極めて深刻な金融不安でさえ

,今

年から実施 されるビッグバ ンの影響に比べれば

,単

なる序曲にす ぎないと言えようか。それほど

,大

きなインパク トを社会に与える金融システム改革 であるにもかかわらず

,こ

の金融 ビッグバ ンには基本的に重大な問題点が指摘できる。その問題点 とは

,利

用者である国民のへの配慮に欠けていることであ り

,そ

れの典型的な現れが

,金

融 ビッグ バ ンを成功させるためには

,公

的金融を思いきって縮小ない し廃止 しなければならないというスタ ンスをとってぃることである。後に本稿で詳 しく言及するように

,具

体的には郵便貯金の民営化や 財政投融資の改革問題の中にその姿勢がみられる。 要するに

,

日本版 ビッグバ ンには

,公

的金融を排除 しようとする姿勢が余 りにも強 く

,利

用者に 配慮 して正当に公的金融の存在が位置づけられていないのである。 Ⅱ 日本 版 金 融 ビ ッグバ ンにお け る公 的金融 の位 置 ところで

,本

稿のテーマにある「公的金融」 とは

,郵

便貯金

,簡

易保険

,厚

生年金ゃ国民年金の ような公的年金の形態をとって調達 した資金を

,資

金運用部を経由して

,な

んらかの政策目的のた めに公団

,事

業団

,地

方公共団体などに投資 した り

,政

府系金融機関などを通 じて国民に融資する 金融活動の総体 をさす。 まさに

,

これは国家による投融資活動であ り

,国

の制度や信用を通 じて集められ国が保管する郵 便貯金などを

,政

府事業への投融資や政府機関を通 じての民間への投融資に充てるという資金循環 をさす。この財政投融資を金融仲介システムとしてみると,「入口」は郵貯,「中間」は翻 部, 「出口」は公団・事業団や政府系金融機関となる。 ここに公的金融 として

,郵

貯 と財投が一体のものとして同一視 される根拠がある。そのため

,現

在の行政改革の中で

,行

草をすすめるためには財投の見直 しが必要であ り

,ま

,そ

のために郵貯 を含む郵政三事業の民営化が不可欠である

,

と主張 されてきた。この主張を支持 し推進 しようとす

(4)

藤田安一 :金 融 ビッグバ ンと公的金融 る者 にとっては

,自

由な金融市場のメカニズムに反するこれ ら公的金融の存在 は

,金

融 ビッグバ ン をすすめる上で障害 となる。そこで, ビッグバ ンの成功 のために公的金融の縮小 ない し廃止 を強 く 求めていたのである。 しか し

,

日本版 ビッグバ ン構想 を打 ち出 した先の橋本首相の提案の中にも

,金

融制度調査会の答 申「わが国金融 システムの改革 について」 (1997.6,13)に おいて も

,金

融 ビッグバ ンにおける公 的 金融のあ り方 に言及す ることをさけた。そのため

,

日本版 ビッグバ ンについての橋本構想が出 され るやいなや

,い

っせいに各紙 はこの問題 をとりあげた。

2,3拾

ってみ よう。 『日本経済新聞』 は

,そ

の社説で次の ように述べ た。 「 日本版 ビッグバ ンの問題 は

,時

間の感覚 とともに

,そ

の視野の狭 さにある。 ビッグバ ンが掲 げ た Fフリー・ フェア・ グローバル

J(自

由 。公正・国際的

)と

い う原則 に最 もそ ぐわないのは

,世

界 に例 をみない 日本の国営金融の仕組みだろう。郵便貯金―財政投融資 ―政策金融 とい う巨大 な国 営金融は金融社会主義その ものだ。個人預貯金の3分の1が郵便貯金 に回 り

,政

策金融機 関が幅 を利 かす金融 システムを国際基準 に沿 うとはとて もいえない。国営金融 もビッグバ ンしないか ぎり

,本

物の ビッグバ ンにならない。」③ また F産経新聞』 は「不透明な公的金融の肥大 は市場機能 を歪める。郵貯 を聖域 に してはな らな い。中途半端 な金融 システム改革は

,

日本市場の空洞化 に拍車 をかける」

0と

述べた。 『読売新聞』 は「 ビッグバ ンで金融市場の規制 をな くし

,市

場原理 を徹底 させ るには

,個

人預貯 金の

3分

1が

官僚 の論理で動 く郵貯

,そ

の資金が流れこむ財投 を見直す ことが不可欠だ。そ うで なければ

,ビ

ッグバ ンではな くパーシャル (部分的

)バ

ンに終 わって しまう」⑤ と述べている。 要するに

,こ

れ らマス コミは

,一

様 にビッグバ ンの提唱 を高 く評価 しなが ら

,公

的金融の見直 し をすすめない と, 日本版 ビッグバ ンは失敗 に終わって しまう, と言いたいのである。それなのに, 政府 はこの問題 を回避 した

,そ

の責任 を非難する主張 を展 開 したのである。 マスコミ以外で

,こ

の ビッグバ ンと公的金融の関連 について最 も敏感であったのは

,言

うまで も な く

,従

来か ら公 的金融の見直 しを主張 して きた民 間の金融機関であつた。 『読売新聞』が橋本首相 により日本版 ビッグバ ン構想が発表 された翌 日の紙面 ぐ

96.11.12)に

おいて,「今 回の改革条 には『まず民活か ら』(三塚蔵相

)と

して

,郵

貯や財投資金 を原資 とした政 府系金融機関の改革 には触れ られていない。民業圧迫 と批判の強い部分 に手 をつけず に

,民

間に改 革 を強いることは反発 も予想 される」

0と

述べ たように

,い

つせいに民 間金融機関は反発 した。 さ くら銀行頭取の橋本俊作氏 は

,つ

ぎの ように述べ た。 「郵貯 など公的金融改革 に触れ られていないのが最大の問題 だ。 日本の公的金融 は郵貯残高が 220兆円を超 えるなどあま りにも肥大化 しす ぎている。 これに改革のメスを入れていか ない と

,金

融市場の効率性が損 なわれる。郵貯見直 しは

,橋

本改革の最大の政治課題である行政改革の成否 に もつながるものだ。政府系金融機関や財政投融資 などと合わせて

,全

体 をどう改革 してい くのかハ ッキ リと示すべ きだ。」① また

,富

士銀行頭取の山本恵朗氏 は,「一番大 きな問題 は公 的金融改革が欠けてい る点 だ。 市場 原理 を無視 した公 的金融は市場のか く乱要因になっている。官業 は民業の補完 に徹すべ きで

,郵

便 貯金 は民営化すべ きだ。 日本の ように公 的金融が非常 に大 きなウエー トを占めている国で金融改革 をやる場合

,公

的金融改革 を抜 きに しては実質的な効果は上が らない」

0と

述べている。 以上

,い

ずれの主張 も要約すれば

,金

融 ビッグバ ンが金融 。証券市場 における金融機関のあ り方 を見直 し

,市

場の活性化 をはかる改革であるのに

,そ

の市場で大 きな存在 となっている公的金融の

(5)

鳥取大学教育学部研究報告 人文 。社会科学 第49巻 第

2号

(1998) 287

改革 をタブー視 してはならない

,

との主張である。 この ように言 えば聞こえはよい。 しか し, もっ と率直 に言 えば

,つ

ぎの ようになろう。 ビッグバ ンによって

,金

融機関 どうしの競争 は一層激 しくな り

,本

格的な「銀行洵汰の時代」 に 突入する。 まさに

,不

安定な金融市場がつ くられることになる。す ると国民 は

,当

然 にも安定 さを 求めて公的金融機関を利用す る。そのために,「入口」 としての国民の預貯金 は

,郵

便貯金 な どに 集 まって しまい,「出口」では財投機関である政府系金融機関の活動 を盛 んにす る。 そ う した事態 は

,民

間の金融機関にとって大変迷惑だ。そこで

,公

的金融機関を民間と同 じ競争の上俵 の上 に引 き込むための改革 をす る必要がある。それが

,郵

便貯金ゃ財政投融資の廃止

,あ

るいは民営化問題 として浮上す るわけだ。 しか し

,こ

の ような理 由で公 的金融が金融 ビッグバ ンの中に位置づ けられ

,公

的金融の改革が行 われることが

,果

た して

,わ

が国の金融 システムの再建 にとつてプラスになるものなのか。本稿の 課題 は

,こ

うした問題意識の もと

,金

融 ビッグバ ンの実施 にあたつて

,利

用者である国民 にとって の公 的金融の存在意義 を明 らかに しようとす るものである。 この視点か ら

,次

の Ⅲでは民間金融機関の行動 を検討 したうえで

,Ⅳ

では郵貯の民営化問題 を, さらに

,Vで

は財政投融資の改革問題 を

,そ

して

,Ⅵ

では金融 ビッグバ ンを推進す る金融行政の問 題点 を

,そ

れぞれ考察 しよう。 Ⅲ 市 場 原 理 の フ ィク シ ョン と民 間 金 融 機 関 の行 動 ここに

,全

国銀行協会連合会が出 した「郵便貯金民営化の論点整理」(1997年3月

)が

あ る。 そ の中で

,金

融 ビッグバ ンの実施 を念頭 において

,つ

ぎの ように述べている。 「郵便貯金が民営化 されれば

,公

的金融 システム全体 において も市場原理が貫徹 され

,

自由で活 力のある金融・資本市場が構築 される。」 この文章の内容は

,市

場原理 とい う言葉 をキーワー ドに して

,誤

解 を招 き易い

2つ

の前提の上 に 成 り立 っている。第1には

,市

場原理 に基づかない郵貯 な ど公的金融 は

,

自由で活力 のある金融・ 資本市場の成立 を妨 げている。その反対 として第2に

,市

場原理 に基づ く民間金融 は

,自

由で活力 のある金融市場 を形成 している。 しか し

,い

ずれの前提 も

,以

下 に述べ るように説得力 はない。 民間金融機 関の資金の動 きをみると

,バ

ブルを前後 にして極端 な変化 を示 している。 まず

,1980年

代 の後半か ら90年代 のは じめにかけてのバ ブル経済期の銀行の行動 をみてお こう。 そ もそ も

,銀

行の基本的姿勢 としては

,元

本保証

,確

定利付 の預金 とい う形で顧客か ら資金 を預 かっているため

,そ

の資金の運用 に際 して細心の注意 を払 って リスクを管理 しなければな らない責 任がある。すなわち

,資

金の使途 を厳密 に審査 し

,借

入金の支払いや元本返済が可能か どうか

,十

分 に調査 したうえでなければ貸 してはな らないはずである。 しか し

,バ

ブル経済期 の銀行が

,日

先 の利益 をもとめ土地や株の投機 に走 ったことは周知の事実である。 鈴木淑夫氏の適切 な表現 を借 りれば,「土地

,株

,高

級絵画の購入資金だ とい われれば

,二

つ 返事で融資 に応 じた。土地や株式 などが担保 に入れば

,地

,株

価 の上昇がいつ まで も続 くという 『バ ン ド・ ワゴン』 に目が くらみ

,利

払いや元本返済の能力 は間違いない と考 え

,実

際の資金使途 を十分 に審査 しな くなった。」

0

その結果

,バ

ブルがは じけるとともに

,住

友銀行の出資法違反や富士銀行 の不正融資 など

,偽

造 預金証書の発行やそれ を担録 とす る不正融資 などの不祥事が明るみ に出た。 しか も

,銀

行 による不

(6)

288 藤田安一 :金 融 ビッグバ ンと公的金融 動産関連会社への過剰融資が

,資

産 インフレを引 き起 こし地価高騰 を招 くことによつて

,固

定資産 税の増税や家賃の値上げをもた らし

,ま

た庶民のマイホームの夢 を奪 うなど

,国

民経済 と国民生活 全体 に与えた損失 ははか りしれない。 つ ま り

,バ

ブル経済期の銀行が教 えたことは,「市場原理 に基づ く民間金融機 関の行動 こそが, 資金の最適配分 をもた らす」 とい う考 え方が

,実

はフイクシ ョン以外の何 もので もなかった とい う ことである。 しか も

,バ

ブル経済期 における以上の ような銀行 の反社会的行為 に

,国

民の零細 な貯 蓄が動員 された意味は大 きい。銀行 は自らの行為 を反省するだけでな く

,今

こそ

,同

じ国民の貯蓄 をあつかいなが ら

,少

な くともバブルの演出 とは無関係であった郵便貯金の存在 を

,謙

虚 に受 けと めなければな らないであろう。 つ ぎに

,バ

ブル経済期が崩壊 してか ら現在 に至 る民間金融機関の行動 をみてお こう。 バ ブル期 に土地や株 などへの過剰投機 に走 った銀行が

,今

では一転 して「貸 し渋 り」である。 現在

,銀

行の貸 し渋 りを原因 とす る企業倒産が社会問題 となっている。す なわち

,銀

行の貸 し渋 り傾 向が強 まるなか

,資

金繰 りに苦 しむ中小企業経営者が,「商エ ロー ン」 とい う高金利 の借 金 に 手 を出 し

,連

帯保証人 を巻 きこんで経営破綻 をひきお こす例が多発 しているのである。 大阪中小企業家同友会の調査 によれば

,金

融機関の貸 し渋 りを受 けた企業が31.8%と 3割を超え, 今後貸 し渋 りがあ り得 るとした企業の25.2%を加 えると

,な

ん と

6割

近い企業が貸 し渋 りを覚悟 し ていることが明 らかになった。 この貸 し渋 りによる企業倒産の実態は

,民

間信用調査会社である帝国データバ ンクの「全 国企業 集計」 によると, 3月の「貸 し渋 り倒産」は79件発生 し

,前

月を19件 (31,7%増

),前

年 同月 を68 件 (618,2%増

)と

それぞれ大幅 に上回つた。 この結果

,集

計 開始の97年1月以降で最高だった前月 (60件

)を

上回 り

,過

去最悪の記録 を更新 した。 また

,97年

1月以降の「貸 し渋 り倒 産」 の累計 は 407件

,負

債総額

1兆

2,911億円に達 したのである。(図

1.貸

し渋 り倒産の月別推移 を参照) (件) ここには

,金

融 ビッグバ ンをひかえた現 在の銀行が

,そ

の生 き残 りをはかるために, (億円

)猛

烈 な貸 し渋 りと強硬 な債権 回収 に走 って

8,000

ぃる姿が浮 きば りにされている。不良債権

7,000

1長

g森

6,000 かがわかるであろう。

5,000

;く

η

t袢

4,000

では一転 して「貸 し渋 り」。 こうした民間 金融機関の行動が

,

どうして「自由で活力

3,000

のある金融・資本市場」 をつ くると言える

2,000

のであろうか。

1 2 3

1997年 この ような民間金融機関の行動に対 して,

1'000

公的金融機関の存在意義 を

,つ

ぎのⅣでは

0

郵便貯金 について

,さ

らに

Vで

は財政投融 資 について

,そ

れぞれみてお こう。 80 70 図

1「

貸 し渋 り倒産」の月別の推移 (帝国データバ ンク調べ)

101112 1 2

984F 3月

PAI

(7)

鳥取大学教育学部研究報告 人文・社会科学 第49巻 第

2号

(1998) Ⅳ 郵 貯 民 営 化 問 題 と金 融 ビ ッグバ ン 千葉銀行の玉置孝頭取 は

,郵

便貯金の廃止 をも視野 に入れて

,郵

便貯金 と財政投融資のあ り方 に 関 し

,つ

ぎの ように述べ た。 「 ビッグバ ンが市場原理や 自己責任 を原則 とするならば

,郵

便貯金 など公 的金融の改革 は避けて 通れないはずだ。郵貯 は廃上 を前提 に

,経

過措置 として民営の貯蓄専門金融機関に改組す るの も一 案だ。政府系金融機 関や財政投融資制度 も当然

,整

理・再編が必要になる。」・ ° 金融 ビッグバ ンを迎 え

,こ

のように

,ま

す ます激 しく郵便貯金お よび財政投融資の改革問題が議 論 されている。以下では

,そ

れぞれの議論 を整理 し

,そ

の論点 を明 らかに してお こう。 まず

,郵

便貯金 を批判す る論拠 として

,次

の点が主張 されている。 第1に

,銀

行 に比べて郵貯 に個人の貯蓄が集 まりす ぎて

,郵

貯が民間金融機 関の経営 を圧迫 して いるとの批判がある。 もちろん

,郵

貯 は現在その残高が220兆円を突破 し

,個

人貯 蓄 に占め る郵貯 のシェアも

22.3%(1996年 )と

その

5分

の 1を 超 えている。 この数字 は1985年の21.5%と比べ

,特

にこの10年間で著 しく増大 したわけではないが

,確

実 に国民の生活 をその金融面か ら支 える大 きな 存在であることはまちがいない。 問題 は

,そ

れを郵貯の「肥大化」 と批判 し

,そ

の原因 をもっぱ ら郵貯の責任 であるかの ように言 うのは誤 っている。主たる原 因は

,バ

ブルの種 をまき

,

しか もそれによって自ら招いた民 間金融機 関の経営破綻 にある。国民が大切 な虎の子の預金 を

,

どうして不安定 な民 間金融機 関にあず けよう とするであろうか。郵貯 に託 した庶民の切実な願いを知 るべ きである。 仮 に

,郵

貯 を民営化すれば

,民

間の金融機関には今以上の資金が集 まるか もしれない。 しか し, 民間金融機関は

,そ

の資金 を社会のため有効 に運用す る能力があるのだろうか。 バブル経済期の銀行行動が示 したように

,資

金の配分 を民 間金融機関にのみ委ねることは

,銀

行 に膨大 な収益 をもた らしは して も

,社

会的には

,不

良債権 の累積 に象徴 されるように

,適

正 な資金 酉己分 を乱 して しまう。 しか も

,こ

の過程 は数々の民間金融機関による偽造預金証書の発行や

,そ

れを担保 とす る不正融 資

,総

会屋 に対する利益供与事件 など

,反

社会的な金融不祥事の連続であった。実 に

,1989年

か ら 1992年の間に表面化 しただけで も

,銀

行 あるいは銀行員が引 き起 こ した内部不祥事 の合計件数 は 1,811件

,1,398億

円にものぼったt'。 民間の金融機関は郵貯 を批判す る前 に

,同

じ零細 な個人の預貯金 をとりあつかいなが ら

,こ

うし た金融不祥事 と無関係であ りえた郵貯の価値 を謙虚 に受け とめなければな らないであろう。そ して, いかに郵貯が民間金融機関にとつて好 ましくない存在であろうと

,そ

の理由で郵貯排除の対象にす るのではな く

,国

民 の立場 にたって民間金融機 関 と郵貯 とがそれぞれに

,今

後のわが国の金融 シス テムを安定 させ るために

,何

がで きるかを考 えるべ きである。 第2に

,郵

貯 に国民の貯蓄が集 まるのは

,定

額貯金の金利が高いな ど

,そ

の商品性が民 間に比べ て有利であるか らだ との批半Jである。 確かに

,か

つては定額貯金の利 回 りは半年複利で計算 され

,

しか も預入期 間は10年と長期 間であ り

,預

け入れか ら半年経過後 はいつで も解約可能 とい う有利 な流動性 を兼ねそなえていた。 しか し

,93年

6月 に郵貯金利の決定方式が変更 された後 は

,郵

貯の金利 は10年国債の金利 を基準 に して決め られるようになった。定額貯金の諸特性 は国債金利 を基準 として金利 に換算 され

,預

(8)

藤田安一 :金融 ビッグバ ンと公的金融 替 えが 自由である分

,国

債金利 よりも低い金利 に設定 されるようになった。 この結果

,長

期金利が 短期金利 を上回っている場合の定額貯金の金利 は

,期

間3年の銀行預金金利 の90∼

95%程

度 の水準 となった。 また

,長

期金利が短期金利の水準 を下回る金融情勢 となった場合 には

,10年

国債の金利 か ら0.5∼

1%低

く設定 されている。 第3に

,郵

貯 は確かに民 間の金融機関に比べれば効率は良いが

,そ

れは郵貯が税金や預金保険, 預金準備 の必要が ないため コス トが低いためだ とい う批判である。 念のため

,郵

貯 と民 間金融機関 との効率性 を比較するために経費率 をみてみ よう。経費率 とは,イ 資金 を集め運用す るのに人件費や物件費などの経費が どの程度かかっているかを表 し

,資

金残高 に 対するこれ ら経費の割合 を示 している。 したが つて

,そ

のパーセ ン トが低 ければ低いほ ど効率的だ とい うことになる。各金融機関の効率性 を示す大切 な指標 だ。 表

1

財投各機関・銀行の経費率 (1995年度) (単位

:%)

資金運用部

0.0013

都市銀行

0.87

郵便貯金

0.47

地方銀行

1.43

政府関係金融機関

0.25

第二地方銀行

1.77

(出所)大蔵省理財局「財投 リポー ト'97J それによると

,表

1で明 らかなように

,都

銀が

0,87%,地

銀が

1.43%に

対 して郵貯 は

0.47%で

あ り

,郵

貯 は都銀や地銀の2∼

3倍

とい うずば抜 けた効率で機能 している。 もっとも

,郵

貯民営化 を 唱 える人は,「郵貯 は貯金 を集めるだけで, 自主運営 は一部 にす ぎないか ら

,運

用 コス トが低 くて 済む」「国営だか ら郵貯 は税金 も払 わず に低い コス トで運用で きる」 と批判す るであろ う。 仮 に

,郵

便局 を民間企業ベースで運営 した場合の税負担 を考 えてみると

,2,100億

円 と試算 され ている。 これを郵貯の経費 に参入 して も

,経

費率 を

0.1%引

き上げるだけ となる。 さ らに

,

この郵 貯の効率性の高 さは

,本

来の収益性 の観点か らは不利 なため

,民

間の金融機関がその出店 を嫌 う山 間地や過疎地 にも

,ま

んべ んな く郵便局 を通 じ機能 していては じき出 された結果である。 まさに, 都市部や農村部 にかかわ らず

,ひ

ろ く国民 に利用 される利便性 と効率性 とを兼ね備えた制度 として, 郵貯 は国民の生活 にとけこんで機能 しているのである。 しか も

,郵

貯 には国民の税金 は一銭 も使 われていない。郵政三事業 (郵便

,郵

,保

)は

,そ

れぞれ独立採算性 をとってお り税金 をそそ ぎ込むことな く運営 されている。 この点は

,先

の住専問 題で話題 になった ように

,民

間金融機関の不良債権処理のために6,950億円 もの国民 の税金 が使 わ れたの と大 きな違いである。 第4に

,財

政投融資 との関連で,「入口」の郵便貯金が貯金 を集めす ぎるか ら

,財

投 の規模 が拡 大 した り

,無

駄 な使い方がなされるのだ との批判である。 全国銀行協会連合会が発表 した「郵便貯金民営化の論点整理」(1997.3)に1ま,「郵便貯金 は…多 くの問題 を抱 えている財政投融資 システムの肥大化 を可能ならしめた要因の一つ」であると特記 さ れている。つ ぎにみるように

,財

政投融資 は

,あ

る意味では多 くの問題点 をかかえていることは確 かであるが

,財

投 の肥大化 を郵貯の責任 にするのは誤 っている。 確かに

,1995年

度末の財政投融資計画残高 は約356兆円であ り

,こ

の うち郵貯 の資金 は

43.5%と

1

(9)

鳥取大学教育学部研究報告 人文・社会科学 第49巻 第

2号

(1998) 高い割合 を占めている。 しか し

,こ

の財政投融資計画は

,各

省庁の資金配分要求をもとに大蔵省 と 調整 し

,国

会の予算議決によつて決定される。そのため

,郵

貯の増加額 と財投計画額 とが連動 して いるわけではない。 いま

,財

投計画残高の増加額 と郵貯が資金運用部に預託する郵貯預託純増額 とを比較すると

,つ

ぎの表 2お よび図 2に みられるように一致 した動向を示 していない。むしろ,1989・ 90年あるいは, 1993,94年 には

,郵

貯預託純贈が前年度 よりも低下 しているにもかかわらず

,財

投計画残高は増加 してお り

,両

者は明らかに正反対の動 きを示 してさえいるのである。 表

2

財投計画残高の増加額 と郵貯預託純増額 (兆 円) 35 30 25 20 15 10 5 0 図

2

財投計画残高の増加額 と郵貯預託純増額 ω :( )内 は,昭和60年度を10oと した場合の1995年度の指数。 以上

,郵

貯民営化の論点 を検討 した結果

,つ

ぎの ように結論づけることがで きよう。す なわち, 金融 ビッグバ ンをすすめるために郵便貯金 を民営化 しようとする「郵貯民営化論」 とは逆 に

,郵

貯 を国民生活 を支 える重要な金融 システムの一環 として再評価 し

,そ

れをいっそ う国民生活の安定 と 向上のために

,い

かに積極的に活用すべ きかを考 えることこそが

,議

論の中心 にす えられなければ ならない。

V

財 政 投 融資 の改革 問題 と金 融 ビ ッグバ ン 郵貯の民営化問題で

,必

ず議論になるのが,「出口」の財政投融資の改革問題である。 財政投融資は

,大

蔵省理財局編 『財政投融資

Jに

よると

,つ

ぎのように定義 されている。 「財政投融資 とは

,国

の制度・信用を背景として集められる各種の公的資金を財源 として

,国

の 政策 目的実現のために行われる投融資活動である。」 (単位 :兆円) 年 度 1985 1988 1989 1990 1992 1994 1995 財投計画残高の増加額 00 17.4 つ々 22.2 27.3 30,8 便 貯 預 託 純 増 8,7 4,6 14.0 12.8 13.8 16.4 財投計画残高の増加額 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995

(10)

藤田安一 :金 融ビッグバンと公的金融 図

3

財政 投融 資 の システム 金融機 関等 簡易生命保険 積立金 83ノ【円 厚生年金・ 国民年金 116ツヒ円 郵便貯金

212兆

円 財政投融資協力 引受け 政府保証 債等 22ヅL円 簡易生命 保険資金 53ツヒF弓 産業投 資 特別会計 3)ヒ円 資金運用部資金

374兆

円 財政投融資対象機関 国 債 等 国の特別会計等 (49ツヒ円) ●国有林 野 事 業 特 別会計

0国

営土 地 改 良事 業特別会計 など 公庫等 (123ツヒ円)

0住

宅金融公庫 0日本開発銀行 ●公営企 業 金 融 公 庫 0国民金融公庫 0日本輸出入銀行

0中

小 企 業 金 融 公 庫 など 公団等 (118ジヒ円)

0年

金福祉事業団 0日本道路公団 0日本国有 鉄 道 清 算事業団

0住

宅・ 都 市 整 備 公団 な ど 融資サービス等 (注

)数

字は1955年度末残高 (出所

)大

蔵省理財局「財投 リポー トつ6」

4

(11)

鳥取大学教育学部研究報告 人文・社会科学 第49巻 第

2号

(1998) 293

図 3を 参照 しなが ら

,具

体的にその仕組みを見てみよう。財政投融資 とは

,郵

便貯金 (郵貯

)の

ような市場を通 じて調達 される資金 と

,厚

生年金・国民年金のように法律 にもとづいて調達 される 資金を原資 とする資金運用部資金のほか

,簡

易保険 (簡保

)資

,産

業投資特別会計及び政府保証 債

,政

府保証借入金の4種の資金を

,

日本開発銀行 (開銀

),住

宅金融公庫 (住宅公庫

)な

どの政府 系金融機関や地方公共団体

,ま

,

日本道路公団 (日本道路公団

),住

宅・都市整備公団 (住都公 団

)な

どの公団等や電源開発株式会社などの特殊会社 に対 し

,出

,貸

,債

権引受などの資金運 用をおこなうものである。これらの資金運用のうち

, 5年

以上のものをとりまとめたものを

,財

政 投融資計画 とよぶ。 最近

,こ

の財投 について種々の批判がなされている。たとえば,(1)すでに民間部門でも対応でき る事業まで行 ってお り肥大化 しす ぎである。(2)そうした事業を財投機関である特殊法人が非効率に 行つている。(3)採算が取れず

,本

,有

償資金を投入すべ きでない国鉄清算事業団や国有林野事業 にも貸付 を行 っている。は)繰上償還に伴 って多額の不用額を発生させてお り

,

もはや政策金融 とし ての機能を失っている

,な

どである。 このような批判には

,財

投 システムに内在する本来の機能から必然的に生 じてきたかのような誤 解に基づ くものが多 くある。 たとえば

,上

言Ⅸl)の財投の肥大化の問題は

,す

でにⅣでみたように

,財

投 と結びついて資金を集 めすぎる郵貯 に責任があるわけではない し

,民

間部門が

,自

らのビジネスチャンスを拡大するため に

,身

勝手な要求をしていると思われるものも少なくない。 次に,(2)の特殊法人の問題では

,現

在わが国に存在する79の特殊法人のうち

,財

投が融資 してい るものは39しかない。また特殊法人の非効率の問題は

,財

投機関を政府役人の天下 り先に利用 し, 無責任な経営を行ってきた責任を明らかにするという問題であ り

,財

投のシステムとは別個の問題 である。 さらに,(3)の問題は

,国

鉄清算事業団の債務 には

,旧

国鉄の財政赤字・

JR民

営化の際の国鉄の 資産・負債の委譲

,国

鉄清算事業団による債務償還処理などすべてにかかわる政治上の問題が集約 されている。それは直接

,財

投問題ではない。また国有林野事業特別会計への貸 し付けも同様であ る。外材が安 く入って くるようにな り

,

もはや独立採算 を建前 とするこの特別会計の運営は不可能 となって

,国

有林の管理は国の環境・治水 などの政策 として一般会計に財政基盤を移すべ きであっ たのに

,財

投でその場 しのぎをつづけてきたことに原因がある。 表

3

貸出金の残存期間別構成比 (1996年3月 末) (注)資金運用部の7年超の貸出金のうち, 7年超10年以下が16.0%,10年超15年以下が16.4%,15年超が36.6%となっている。 (出所)有価証券報告書および大蔵省理財局「財政リポー ト'96」 (単位

:%)

1年以 内

1年

3写

3年

以 下

5年

以 下

5年

7年

以 下

7年

超 期間の砂 のない もの 合 計 資金運用部 68.9 100.0 長期信用銀行 うち固定金利 変動金利 37.1 37.1 22.9 16.2 6.7 16.8 13.0 3.8 7.4 6.1 1.3 9.1 9.1 100.0 77.8 22.2 都市銀行 うち固定金利 変動 金利 42.0 42.0 8 つ つ 5 4,4 1.3 3.1 26.1 2.1 24,0 100.0 49,8 50。2

(12)

下 藤田安一 :金融 ビッグバ ンと公的金融 最後 に,偉)の問題 は

,金

利が低下 している場合 に

,低

金利への借換が行 われるため生 じる問題で あ り

,金

利が上昇す るような局面では緩和 される。 したがつて

,こ

れは現在 の ような異常 な低金利 の もとで生 じる特殊 な問題 と考 えられる。 以上の ような誤解 にもとづ く改革 によつて

,財

投の もつメリッ トが失われて良いものであろうか。 そこで

,民

間部門に対 して財投 システムの もっている有位性 をみてお こう。 財投 は

,融

資期間が長す ぎて民間では金利 リスクを支 えきれない分野 などへ

,長

期かつ低利 の融 資 を可能 とす るシステムである。表3にみるように

,財

投の出口機関に融資す る運用部の貸出期間 は

,期

7年

超のシエアが

69%,15年

超だけをとつてみて も

37%を

占めている。 これに対 して

,民

間金融機関の場合

,各

銀行の有価証券報告書 に記載があるように

,都

市銀行では貸 出金の約半分が 変動金利であ り

,固

定金利での融資期 間 も平均

2年

程度で,7年超の固定金利貸出は全体 の

2%程

度 とほとん ど例外的にしか行 われていない。国民 に身近 な住宅ローンを例 にとると

,住

宅金融公庫が 長期固定融資であるのに対 して

,銀

行 は変動金利貸付がほとんどである。 また

, 5年

金融債の発行 を認め られて きた長期信用銀行の場合で も

,変

動金利貸 出の比率 は

22%

ほどもあ り

,固

定金利 による期 間

7年

超の融資は全体 の

6%ほ

どにす ぎず

,融

資期 間は平均

3年

程 度 と見 られる。政府系金融機関に比べて

,融

資期間は著 しく短いのである。 さらに

,資

金運用部が10年国債の金利で

,25年

もの融資 を補助金 を受 けることな く行 うことがで きるのに対 して

,民

間銀行が預金

,金

融債で資金 を調達するとなると

,明

らかに資金 コス トは資金 運用部 よりも高 くなる。原資 ごとに

,個

別 に資金の運用 を行 えば

,重

複投資 は もちろんのこと行政 機構や人員の重複 となって

,資

金 コス トの増大 を招 く。 しか し

,財

投 のシステムによつて資金 を一 元化すれば

,そ

の弊害 を取 り除 くことがで きる (図 4を参照)。 図

4

財政投融資 と銀行の経費率 (1995年度)

2.0%

1.5%

1.0%

0.5%

財 投 都市銀行 地方銀行 第二地方銀行 譲渡性預金,債券の他, 注1:財投の経費率には,上記の他に資金運用部の経費率 (0.0014%)が プラスされる。 注

2:都

市銀行,地方銀行,第二地方銀行の経費率算出の際の分母 (資金量)には,預金, コールマネーが含まれている。 (出所)大蔵省理財局「財投 リポー ト'96」 政府系金融機 関 0,25

(13)

鳥取大学教育学部研究報告 人文・社会科学 第49巻 第

2号

(1998) 295

今後

,急

速 に進 む高齢社会 に備 えてのバ リアフリー・ タウンや下水道・公園などの生活基盤整備 の事業 には

,長

期・多額の資金 を必要 とするであろう。 こうした資金 を税収だけで賄 うとすれば, 高齢社会の進展のテ ンポに間に合 わない恐れがある。 しか もこうした事業 は収益性が低 く

,民

間金 融機関では十分 な対応 はで きない。そのため

,こ

のような領域への資金供給 は

,財

投 システムによ る対応が必要 とされる。 この財投 の もつ社会的存在意義 を

,最

近の生々 しい事実 によって確認 してお こう。 バブル期の1980年代後半か ら90年代 は じめにかけて

,民

間金融機関の多 くが土地や株 な どに関わ るバブル関連業種 に向けた貸 し出 しへ と傾斜 し

,対

製造業向け貸 し出 しのウエイ トを急速 に低下 さ せたのに対 し

,財

政機 関である政府系金融機 関は

,製

造業向け融資 において極めて重要な役割 を果 た して きた 。D。 さらに

,現

在 の民間金融機関にみ られる「貸 し渋 り」 とは反対 に

,つ

ぎの ようにこの間

,政

府系 金融機関による中小企業向け貸 し出 しが急増 している。 たとえば

,

日本開発銀行 の融資実績 は1994年度か ら減少傾向が続 いていたが

,97年

度は前年度比

9%増

1兆

9,000億 円 と

4年

ぶ りに増加 に転 じた。特 に金融機関の破綻

,貸

し渋 りな どの対策 と して昨年12月 に新設 した中堅企業向けの「金融環境対応融資」 は

,今

年 3月 までの4カ 月間で年間 融資総額の訳

45%を

占める8,400億円に達 した。 また

,中

小企業金融公庫では昨年12月か らの5カ 月間で融資総額が8,227億 円 と

, 5年

ぶ りの高 水準 となったほか

,国

民金融公庫 の教育 ロー ン融資 も97年度 には前年度比

21.9%増

えて

,79年

の制 度発足以来最大の融資額 となった こ。。 金融 ビッグバ ンを迎 え

,ま

す ます「民業 を圧迫す る」 として批判 されている公的金融機 関が

,皮

肉にも

,い

ま改めてその存在の意義 をア ピールす ることになったのである。 しか も

,そ

の存在意義 は

,一

時的な もの と見 ることはで きない。 その理由は

,公

的金融機 関である郵便貯金への国民的信頼 は根強 く

,民

営化 に反対 し現行の郵貯 を維持する声が高い ことや

,国

民 との関連が深い住宅金融公庫や国民金融公庫

,中

小企業金融公庫 などの低利で長期 の資金需要が高いことなどによつて も明 らかである。先 に指摘 した財投への批判 点 にもとづ く財投 の廃止や改革 によつて

,こ

の ような国民生活 に密着 した住宅融資や中小企業への 融資 に果たす財投 の役割 まで も

,切

り捨てて しまうことは許 されないであろう。 Ⅵ 金 融 ビ ッグバ ン下 の金 融 行 政 の 問 題 点 従来

,わ

が国における金融行政の特徴 は

,参

入規制・店舗規制 な どの競争制限的規制や人為的低 金利政策 を中核 としてお り

,既

存の金融機関を保護 し収益 を保証す ることで

,事

前的に経営破綻 を さけようとす る

,い

わゆる「護送船団方式」 と呼ばれるものであった。 この護送船団方式のもとで, 戦後の 日本では,「銀行倒産 はない」「銀行 はつぶ さない」 とい う表現で,「銀行不倒神話」 が成立 して きたのである。 しか し

,現

,金

融機関の相次 ぐ破綻 と,「住専問題」 にみ られる金融行政へ の国民 的批判 とを 背景 に

,金

融 システム安定化のための政策が さまざまな角度か ら提起 され

,護

送船団方式 に代 わる 望ましい「ポス ト護送船団方式」のあ り方が論 じられている。 この新 しい金融行政は

,護

送船団方式 の反省 にたつて

,不

透明 さと恣意性 を排除 した公正で透明 なルールに基づ くものであ り

,金

融機 関保護ではな く預金者保護 を最優先 とする ものでな くてはな

(14)

296 藤田安一 :金 融 ビッグバ ンと公的金融 らない。そ うでなければ

,自

由で公正 な金融市場の実現 をうたっている金融 ビッグバ ンの理念 に反 することは明 らかである。 しか し

,現

在の金融行政が依然 として護送船団方式か ら脱却 しきれていない とした ら

,ど

うであ ろうか。 ここでは

,現

在盛 んに活用 されている預金保険制度 を例 に

,金

融 ビッグバ ン下のわが国金 融行政の問題′点をみてお こう。

預金保険制度 (deposit insurance system)と は,「預金 を取 り扱 う金融機関が集 まって1つの機 構 をつ くり

,こ

こに保険料 を積み立て

,加

盟金融機 関の経営が破綻 して預金の払戻 しがで きな くな つた ときに,預金者 に対 し,一定の限度内で預金保険金の支払い を行 うことを中核 とする制度」tり ある。わが国の場合

,一

般金融機 関用の預金保険機構 と

,農

漁協系用の農水産業協 同組合貯金保険 機構が存在 し

,前

者 は

,1971年

4月 1日の「預金保険法」の公布・施行 にもとづいて

,同

年 7月 1 日に設立 され

,後

者 は

,1973年

7月 16日の「農水産業協 同組合貯金保険法」制定 にもとづいて

,同

年 9月 1日 に設立 され現在 に至 っている。 現在 わが国の預金保険制度 は

,金

融機関が破綻 し預金の支払いが本可能になった場合 に

,積

み立 てて きた基金 を取 り崩 し

,そ

の預金者 に対 し

1人

1,000万円までの預金元本相 当額 を無 険金 と して 支払 うシステムになっている。 そ もそ も

,わ

が国の預金保険制度 は

,1971年

の成立以前 にも導入が検討 されたことがあ り

,1957

年1月 に「預金者保護等のための制度 に関する答 申」 として

,金

融制度調査会が預金保障基金の設 立 を提言 している。 しか し

,同

年 4月 に

,こ

の答 申にもとづ く預金保障基金法案が国会 に提 出 され たにもかかわ らず成立 をみなかった。その理由は,「この預金保障基金が

,実

態上

,普

通銀行 を除 いた中小金融機関だけを対象 としていたことや

,金

融機関経営 に対する厳 しい監督 を内容 としてい たこと等か ら

,各

方面の反対が強かったため」Q° といわれている。 再び

,預

金保険制度の導入が検討 され始めるのは

,1960年

代半ば頃か ら

,金

融効率化 をめ ぐる議 論が盛んに行 われるようになって きてか らである。その背景 には

,資

本の 自由化が強 く要求 され開 放経済体制への移行が進む とともに

,当

時はまだ高度経済成長の途上 にあった とはいえ

,1965年

の 不況 をきっかけに

,将

来成長率が低下 し

,資

金需要が弱 ま り

,利

輪が縮小することが予想 される時 代が来るか もしれない との見通 しがあった。 この厳 しい状況 に対応する金融機 関のあ り方 として, 金融機関にその経営の効率化が求め られた。具体的には

,社

会全体 に対する適正な資金供給 の手段 として

,金

利の弾力化 を進め

,金

利機能 を活用することが必要であると考 えられたのである。 この ような金融機関に経営の効率化 を求める金融効率化の提唱は

,預

金者の保護 とはいいなが ら, 結局 は金融機関の過度の保護 となっていた従来の金融行政 を反省 し

,預

金者の保護 と金融機 関の保 全 とを分離 して

,預

金者 に対す る保障制度 として預金保険制度 を導入 しようとする主張へ と発展 し ていった。以上の点 を

,金

融制度調査会の答 申「一般民 間金融機関のあ り方等 につ いて」(1970年 7月 2日

)で

,つ

ぎの ように述べている。 「国民大衆の預金の保護 に万全 を期するとともに

,金

融機関に対す る過保護 ともい うべ き体制 を 改めて

,適

正 な競争原理 を導入 し

,そ

の経営の効率化 を促進 してい く見地か らは

,こ

の際

,預

金者 保護 と金融機関保護 との分離 を図 り

,預

金 に対する直接 的な保障制度 としての預金保険制度 を導入 することが必要であると認め られる」・ °。(傍点は引用者) ここでは

,理

念 として

,預

金者保護 と金融機関保護 とに分離する必要があると明言 されたわけで あ り

,預

金保険制度 は

,効

率化行政推進の受皿 として

,預

金者保護 を目的 として導入 されたのであ る。 この答 申を受 けて

,1971年

4月 に預金保険法が公布・施行 され

,同

法 にもとづいて同年 7月 に

]

(15)

鳥取大学教育学部研究報告 人文 。社会科学 第49巻 第

2号

(1998) 預金保険機構が設立 された。 したがって

,上

記 の主 旨か ら当然

,金

融機 関の破綻 に際 して

,預

金保険機構が行 なう業務 は

,預

金者への保険金の直接支払いに限定 されていて

,現

行制度の ように

,破

綻金融機関を救済する金融 機関に対する資金援助 はで きないことになっていた。事実

,当

初制定 された預金保険法は

,預

金保 険制度の 目的を第1条において,「この法律 は

,預

金者等の保護 を図るため

,金

融機 関の預金等 の 払戻 しにつ き保険 を行 なう制度 を確立 し

,

もって信用秩序 の維持 に資すること」 としていたのであ る。 ところが

,1980年

代 に急速 に進展す る金融 自由化 を背景 に

,こ

れまで述べ て きたわが国の預金保 険制度の理念が

,大

きく変更 されるのである。言 うまで もな く

,1986年

5月 の預金保険法の改正 に よって

,預

金保険制度 は

,破

綻金融機関を救済す る金融機 関に対 して

,資

金援助 (資金の貸付や金 銭の贈与等

)を

行 なえることとなった。 これによって

,預

金者保護 と金融機 関保護 とを分離 して, 預金者保護 を目的 として導入 されたわが国の預金保険制度 は

,資

金援助 をとお して金融機 関を保護 す る制度 に変 えられてい くことになる。 さらに

,重

要な預金保 険制度の改正が

,1996年

と97年に行 なわれた。その内容 は

,預

金保険機構 が

,破

綻 した金融機関を吸収合併 する金融機 関への資金援助の対象 を

,2001年

までの

5年

間に限る とはいえ

,一

般預金だけでな く銀行の資本勘定以外の全ての負債 にまで拡大 したことである。 しか

,こ

の改正 によって

,預

金保険機構が不良債権 を直接買い取 ることがで きるようにしたため

,同

機構が「不良債権の最終処分場」 となる可能性がでて きた。 また

,1997年

の改正では

,従

来の預金保険機構 による資金援助の対象 を

,破

綻 した金融機 関を吸 収合併す る金融機関に限っていたの を

,経

営困難 な銀行同士が合併 して新銀行 をつ くる場合 にまで 拡大 した。そ うなる と

,こ

れほどまでに拡大 した資金援助 を預金保険機構 の財政では

,ま

かない き れな くなる恐れが生 まれ

,預

金保険機構 を利用 した新 たな公的資金導入 につながる危険があった。 この危険性が現実化 したのが

,今

年 (1998年

)2月

の補正予算の成立であ り

,こ

の予算 には

,銀

行への公的資金 を導入すべ く30兆円が含 まれていた。 30兆円にものぼる公的資金導入の内容は

,預

金保険機構の財政基盤の強化 を図る目的で

,①

預金 保険機構に

,金

融機関の発行する優先株の買い取 り資金として3兆円の国債 と10兆円の政府保証 を 与え

,さ

らに

,②

預金保険機構に

,破

綻金融機関の預金を全額保護するため

,7兆

円の国債 と10兆 円の政府保証を付与する

,

というものであった。 さっそ く都銀など21行が

,こ

の公的資金を受けようと預金保険機構に申請 した。 しかし

,こ

うし た一連の公的資金導入が

,あ

まりにも従来の護送船団方式そのものの金融行政であったので

,さ

す がにマスコミは,「市場原理 どこ吹 く風」 という見出 しで

,つ

ぎのように批判 したのである。 「預金保険機構の金融危機管理審査委員会は8日から都銀など21行が申請 した公的資金投入につ いて審査 を開始するが

,金

融システム安定に向けた一連の手続 きは市場原理の徹底や公平性を掲げ た日本版 ビッグバ ン (金融制度改革

)の

流れに逆行するものが目立つ。国際標準 どころか時代遅れ と思える。」Q0 みるように

,こ

こに一挙にビッグバン下の金融行政の問題点が明るみに出た形 となった。金融機 関が自ら生んだ不良債権や経営破綻を処理するために

,国

民の税金など公的資金 を投入 して金融機 関を救済する一― このような金融機関の県護を最優先させるや り方 といい

,公

正で透明なルールに もとづかない日本独 自のや り方といい,ヤヽずれもフリー・ フェアー・グローバルな金融市場をめざ す金融 ビッグバ ンのスローガンとは

,ほ

ど遠いものであることは明らかであろう。

(16)

T

298 藤田安一 :金融 ビッグバ ンと公的金融 今後

,金

融 ビッグバ ンの進展 に伴 って

,ま

す ます多 くの金融機関の破綻が予想 される。その時に, このように従来 と同様

,公

正で透明なルールか ら逸脱 し

,行

政当局 と金融機関 との裁量 によつて金 融機関の破綻処理が行 われるとした ら

,金

融行政への国民の不信 は一層高 まってい くであろう。金 融 システムを安定化 させ るには

,何

よりも国民のこの不信感 を失 くし

,わ

が国の金融行政 と金融機 関への信頼性 をとりもどす ことにあるとすれば

,こ

の問題 は決 して無視 させ るべ きではない。 お わ 'ザ に 1980年代

,わ

が国は外 国か ら経済大国 と言われなが ら

,国

内では過労死 に至 る長時間労働 や労働 強化

,地

価の異常 な高騰や住宅難など

,深

刻 な問題 をかかえていた。経済大国のわ りには豊か さの 実感がない。そのために

,経

済の豊か さを国民が実感で きるよう

,既

成のさまざまな社会 システム を生活者の視点か ら見直そ うとする動 きが

,社

会各層の間か ら起 こって きたのは当然であった。 こうした生活者重視の発想 は

,1990年

代 に入 り,「経済大国」 に代 わる「生活大 国」 の実現 をめ ざそ うとするスローガンとなって

,さ

つそ く政府の新経済計 画 に も盛 り込 まれ た。経 済企 画庁が

1992(平

4)年

7月 に発表 した『生活大国 5カ 年計画一地域社会 との共存 をめざして一』では, つ ぎの ように述べ られている。 「真 に国民が豊か さを実感で きるようにするためには

,今

,我

が国は生活者 。消費者 を重視す る視点 に立 って

,経

済社会の在 り方 を総点検 し

,自

己実現の機会が十分与 え られたより自由度の高 い社会 を実現すべ きである。その意味で

,人

間一人一人 を尊重する視点が重要である。……つ ま り, 国民一人一人が豊か さとゆ とりを日々の生活の中で実感で き

,多

様 な価値観 を実現す るための機会 が等 しく与 えられ

,美

しい生活環境の下で簡素 なライフ・ス タイルが確立 された社会 としての F生 活大国』への前進が図 られなければならない。」・9 以上の指摘が示 しているように

,一

人一人の国民が生活の中で豊か さを実感で き

,快

道な生活環 境の もとで

,等

しく自己実現の機会 を得 られる社会が

,今

求め られているのである。 しか し

,こ

の ような理念 とは逆 に

,現

実 は生活者 にとって非常 に厳 しい ものにな りつつある。 戦後最悪の企業倒産

,戦

後最悪の失業率

,戦

後最悪の自己破産など

,こ

の間の新聞には

,た

て続 けに「戦後最悪の」 とい う言葉が踊 っている。 また

,そ

れにまつわる悲惨 な事件 も多 く生 じている。 リス トラによつて解雇 された労働者の自殺, 経営難 を苦 に しての企業経営者のあいつ ぐ自殺

,な

かで も

,自

己の生命保険金 を企業経営の再建 に 役立ててほ しい と書 き残 して

,自

らの命 を絶 った中小企業主の自殺 には

,な

ん ともや りきれない衝 撃 を感 じた。残 された家族 は, どの ような思いで

,そ

れを受け とめたのであろうか。 こうした人々は

,例

外であるとは言い きれない ところに

,今

の 日本経済の深刻 さがある。さらに, 金融機関や証券会社のあいつ ぐ倒産 による金融不安定化

,財

政危機 を口実 とす る社会福祉や医療制 度の悪化。 これ らは

,い

ずれ も国民生活 をおびやか している。 ′ 今後

,日

本経済は どうなるのか。財政危機 はどの ように した ら切 りぬけ られるのか。金融機関は この先 どの ようになるのであろうか。いつ になったら

,私

たち国民が安心 して暮 らしやすい社会に なるのか。 この ような疑間に応 えるかの ように

,政

府 は

6大

改革 (行政改革

,経

済構造改革

,金

融 システム 改革

,社

会録障構造改革

,財

政構造改革

,教

育改革

)を

具体化 させている。 なかで も

,金

融 システ ム改革 には

,短

期間で急激 な とい う意味の「 ビッグバ ン」 と名づけ られ

,他

の分野の改革 を促 して

(17)

鳥取大学教育学部研究報告 人文・社会科学 第 40巻 第

2号

l19981

いく華引力の

1役

割が期待されているかのようである。

こうした大規模で急激な改革がなされる時に

,い

つも警戒しなければならないことは

,国

民にと

つて必要かつ社会を健康に維持するためイ

.こ

なくてはならない部分までも

,破

壊されてしま―

うことで

ある。あたかも

,ャ

ブ医者が手術の際に

,健

全な細胞にまでメスを入れて身体を台無しにしてしま

うのに似ている。

本稿は

,日

本版ビッグバンカヽ 郵便貯金と財政投融資に代表され―

る会的金融のメリットを壊しは

しまいか, という思いに駆られて書いたものである。

大切な

tと

,本

稿で分析した会的金融のメリットを生かしながら

,そ

の機能を社会と国民生活

の安定のために

,い

かに改善するかを改革の中心課題に置かなければならないということである

.。

しかし

,現

在の改革の方向は

,改

善で―

はなぐ解体であ り,こ うした

1郵

貯や財投の民営イと

,縮

小を基

本とする会的金融の解体が実施されていけば

,国

民生活に多大な犠牲を強いるものとなるであろう。

(1)相

沢幸悦F日本の金融ビッグバン』日本放送出版協会,1997年1 4ペ ージ。

(2)精

本博『日本版ビッグバンのすべて』東洋経済新報社,1997年,1215∼-216ページ心

(3)『

日本経済新聞』1,97年2月 3日。 (4)『産経新聞』199c年12凋1日。 (5)「読売新聞』1997年5月9日

(6)F読

売新由』1996年11月 12日。 (7)『読売新商』1997年1月7日 。

(8)F読

売新聞』1996年11月 27日。 (.9)鈴木淑夫『日本の金融政策』岩波書店,1993年,124ペ ージ。

(10

『目1本経済新聞』1996年12月 12日。 (11)大蔵省銀行月「金融機関別不祥事件発生件数状況」『現代』1994年二月号を参照。 (121 詳しくは,忽那憲治「中小企業金融における民間金融機関と公的金融の関係」仰 赤経済』 照。 F日本海新聞』1998年5月18日 館 龍■郎編 F金融辞典

J東

洋済新報社,1994年,324ペ ージ。 『金融』1995年5月 号i36ペ ージ。 金融

li郡

査会「一般民間金融機関のあり方等についてJ(1つ704F7月 2日

)隣

融』 『日本海新聞』1998年3月IS日。 (13) (14) (10 (10 (17) (10 1994年12月号)を参 1970年3月 号,39ペ ージ。 経済企画庁編「生活大国五カ年計画―地域社会との共存をゆざして』19銘年

)2ペ

ージと

(18)

参照

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