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教員養成課程の学生における自律性支援―統制の 有効性認知に関する研究-香川大学学術情報リポジトリ

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教員養成課程の学生における自律性支援―統制の

有効性認知に関する研究

岡 田   涼

<要 約>  本研究の目的は、教員養成課程の学生における自律性支援―統制の有効性認知の特徴を明らかに することであった。教育学部学生に質問紙調査を実施し、110名のデータを分析対象とした。自律 性支援―統制の有効性認知について、現職教員のデータ(岡田, 2017)と比較したところ、学生が 動機づけにとって有効であると考える指導のあり方は、現職教員が有効であると考える指導と異な る部分がみられた。また、教師効力感のうち、教師の力量が高いほど自律性支援の有効性認知が高 く、個人的効力感が高いほど統制の有効性認知が高かった。さらに、中学校教員を志望する学生で は、統制の有効性認知が低かった。以上の結果をもとに、教員養成課程における動機づけを促す指 導法の学習のあり方について論じた。 キーワード:自律性支援―統制の有効性認知、動機づけ、教師効力感、教員養成課程 問題と目的  近年の学校教育が抱える多様な課題を考える と、教員養成課程のあり方は重要である。学習 面の指導から生徒指導、学級経営まで、教師 には多様な側面での知識と技術が求められる。 平田・小泉(1997)は、教職を志望する学生が、 現職教員に比して教育技術や生徒指導など多く の面で自身の能力を低く捉えていることを報告 している。学校現場において即戦力が求められ る状況がある一方で、職業経験を通しての成長 過程もあることから、必ずしも教職を志望する 学生が現職教員と同じ水準の知識や技術をもつ 必要はない。しかし、教職への準備段階とし て、学校現場での実践を見据えたうえで教育課 題に向き合い、知識や技術の習得を図ることは 重要である。  学校現場でもっとも関心が寄せられている課 題の1つに学習意欲の問題がある。研究主題や 教育目標に学習意欲の育成を掲げている学校は 少なくない。次期学習指導要領において、「主 体的・対話的で深い学び」の重要性が打ち出さ れたこともあり(文部科学省中央教育審議会初 等中等教育分科会教育課程部会, 2016)、児童・ 生徒の学習意欲を支える指導のあり方を考える ことは、重要な教育課題となっている。  教育心理学において、学習意欲の問題は動機 づけ研究として知見が蓄積されてきた。そのな かで、児童・生徒の動機づけに対する教師の自 律性支援(autonomy support: Deci & Ryan, 1987) の重要性が明らかにされている。自律性支援と

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は、学習者の視点に立ち、学習者自身の選択や 自発性を促そうとする態度や信念であり、ある 種の指導観を示すものである。Reeve(2016)に よると、自律性支援には、①児童・生徒の視点 に立つ、②内的な動機づけの資源にはたらきか ける、③要求する際に理由づけをする、④児 童・生徒の否定的な感情を認める、⑤統制的で ない言語表現を用いる、⑥辛抱強く待つ、とい う6つの側面がある。また、自律性支援の対極 には、児童・生徒に特定の行動を強いる統制 (control)があるとされている。概念的には自律 性支援と統制が両極と考えられるものの、実証 研究では別の側面として扱われることが多い (Reeve, 2016)。自律性支援的な信念をもつ教師 は、実際の指導場面において、「学習者の話を 聞く」「学習者の要求を尋ねる」「理由づけを行 う」などの指導行動が多く、統制的な信念をも つ教師は、「命令や指示を出す」「特定の正しい 方法を示す」「教材を独占する」ことが多いと されている(Reeve, Ryan, Deci, & Jang, 2008)。  多くの実証研究において、教師の自律性支 援が児童・生徒の学習成果につながることが 明らかにされている。教師が自律性支援的で あると認知している児童・生徒ほど、学習に 対する興味や自律的な動機づけ(Deci, Schwartz, Sheinman, & Ryan, 1981;岡田 , 2014)、学業成 績(d’Ailly, 2003)、ウェルビーイング(van der Kaap-Deeder, Vansteenkiste, Soenens, & Mabbe, 2016)が高く、退学傾向が低い(Hardre & Reeve, 2003; Vallerand, Fortier, & Guay, 1997)ことが示 されている。これらの知見から、教師の自律性 支援的な指導行動は、児童・生徒の学業達成を 促し、学校適応を支える要因であると考えられ る。  自律性支援の有効性は、教育心理学の実証研 究の中で示されてきたものである。一方で、現 職教員も自律性支援の有効性を認知しているこ とが示されている。岡田(2017)は、「児童・生 徒の自律性を支えるような指導あるいは行動を 統制するような指導が、動機づけにとって効果 的であるという認知」を自律性支援―統制の有 効性認知とし、現職教員の自律性支援―統制の 有効性認知の特徴を検討している。項目や尺度 の平均値をみると、全体として教師は自律性支 援に相当する指導が動機づけを高めるうえで有 効であると捉えていた。ただし、その高さは学 校種や教職経験年数によって異なっており、小 学校教員で特に自律性の有効性認知が高く、ま た高校教員においては教職経験年数が増すごと に自律性の有効性認知が高まっていた。  教員養成課程で児童・生徒の動機づけに対す る指導や支援のあり方について考える機会を設 け、その方法について学習することは重要であ る。ただし、指導法を教授するうえでは、学生 の既有知識を把握しておくことが必要となる。 大学での学習以前から、教員養成課程の学生は 自律性支援に相当する指導について何らかのイ メージや独自の知識を有していると考えられ る。秋田(1996)によると、教師は、自身の学 校教育の経験から就職以前にも授業に関する一 定の知識を有している。ただし、その知識やイ メージは、現職教員とは異なるものである。川 上・秋山(2006)は、現職教員に比べて学生は、 授業中の学習活動の指示や目標設定についての 重要度を低く感じていることを報告している。 これらのことを考えると、教員養成課程の学生 は自律性支援的な指導についても何らかの知識 をもち、独自のとらえ方をしていると考えられ る。教員養成課程の学生に自律性支援的な指導 のあり方を効果的に学習させるためには、学生 の自律性支援―統制の有効性認知の特徴を理解 しておくことが必要である。  自律性支援―統制の有効性認知は、教師効 力感と関連することが示されている。教師効 力感(teacher efficacy)は、特定の文脈におい て、指導上の課題をうまく成し遂げるために 必要な一連の行動を組織化し、実行する能力 についての信念であり(Tschannen-Moran, Hoy, & Hoy, 1998)、教師一般の有効性を示す「教 師の力量」と、指導法に関する教師個人の有 効性を示す「個人的効力感」の二側面から捉え られることが多い(前原,1994;三島・井上・ 森, 2012)。この2つの側面は、Bandura(1977) による結果期待と効力期待に相当するものであ

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る。教師の力量は、一般的に教師の指導がどの 程度児童・生徒に影響を与え得るかの評価を示 し、個人的効力感は、個人的にどの程度有効な 指導を行うことできるかの評価を示す。現職教 員において、教師効力感の高さは、授業に対す る熱意や指導に対する粘り強さなどと関連す ることが知られている(Guskey, 1984;Woolfolk & Hoy, 1990)。また、教員養成課程における学 生の教師効力感は、教職志望度や学習動機と 関連することが示されている(西松, 2008;桜 井, 1992)。  岡田(2017)は、現職教員において、個人的 効力感が自律性支援の有効性認知と関連するこ とを報告している。教員養成課程の学生も同様 の特徴を有するとすれば、自律性支援の有効性 認知と個人的効力感が関連すると予想される。 一方で、現職教員の教師効力感は自身の教職経 験にもとづくものであるのに対し、学生の教師 効力感は、まだ経験していない教職経験に対す るものである。そのため、岡田(2017)でみら れたものとは異なる関連が示される可能性も考 えられる。自律性支援―統制の有効性認知が、 指導のあり方全般に対する評価であることを考 えれば、個人的効力感よりもむしろ教師一般の 有効性を示す教師の力量の側面が関連するかも しれない。  本研究では、教員養成課程の学生における 自律性支援―統制の有効性認知の特徴を明ら かにすることを目的とする。まず、教員養成 課程の学生における自律性支援―統制の有効性 認知を、岡田(2017)で報告されている現職教 員のデータとの比較から検討する。次に、岡田 (2017)で、学校種によって自律性支援―統制 の有効性認知が異なっていたことを鑑み、教職 志望度および志望する学校種との関連を検討す る。さらに、教師効力感との関連を検討する。 なお、教育実習の前後で、教職に対するイメー ジや意識、教職能力の自己評定が変化するとさ れていることから(平田・小泉,1997;川上・ 秋山,2006;三島他, 2012)、本研究では教育 実習経験のない学部生のみを対象とする。 方法 対象者  国立大学法人 A 大学教育学部の学生161名に 回答を依頼した。そのうち、教育実習の経験 がない学部生のデータのみを分析対象とした。 また、質問紙への回答に不備がみられた学生 のデータを削除し、最終的に110名(男性48名、 女性62名)のデータを分析に用いた。平均年齢 は19.72歳(SD=0.89)であった。なお、時間の関 係から自律性支援―統制の有効性認知尺度はす べての学生に回答を求めたが、教師効力感尺度 については一部の学生(n=75)にのみ回答を求 めた 質問紙  自律性支援―統制の有効性認知 岡田(2017) で作成された自律性支援―統制の有効性認知尺 度を用いた。自律性支援的な指導行動10項目、 統制的な指導行動7項目について、どれぐらい 児童・生徒の動機づけを高めるのに有効である と思うかを尋ねた。教示は、「それぞれの指導 の仕方は、児童や生徒のやる気を高めるうえ で、どの程度効果的だと思いますか? 各項目 について、もっともあてはまる数字に丸をつけ てください」であり、回答方法は「1:効果的で ない」から「5:効果的である」の5件法であっ た。なお、「教職に就くうえで志望している教 科」もしくは「もっとも指導を得意としている 教科」を想定して回答するように求めた。  教師効力感 Woolfolk & Hoy(1990)の教師 効力感尺度の日本語版(前原,1994)を用いた。 教師の力量(「児童・生徒の学業に影響を及ぼ している要素すべてを考えた場合、教師の力は それほど大きいものではない」(逆転項目)な ど8項目)と個人的効力感(「授業中に、児童・ 生徒が騒いだり、授業の妨害をしたりしたと き、自分は素早く適切に対応できる」など12項 目)の2下位尺度からなる。なお、学部学生を 対象とするにあたって、いくつかの箇所を適切 な文言に修正した(「教職経験や研修」を「大学 での授業」とするなど)。教員になったところ を想像し、各項目に対して「1:そう思わない」 から「5:そう思う」の5件法で回答するように

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求めた。  教職志望度 伊田(2003)を参考に、教職を 志望する程度について、「第1希望」「選択肢の 1つ」「教職には就かない」から選択を求めた。 また、志望する学校種について、「幼稚園」「小 学校」「中学校」「高等学校」「特別支援学校」 から複数回答可で選択を求めた。 結果 自律性支援―統制の有効性認知尺度の検討  自律性支援―統制の有効性認知尺度17項 目について、平均値と標準偏差を算出した (Table 1)。 ま た、 現 職 教 員 の 平 均 値(岡 田, 2017)との比較を行った。その結果、自律性支 援の有効性認知については、「4.授業の内容 や課題について、なぜそれを学ぶのかを児童 や生徒に説明する」(d=-0.42, t(324)=3.57, p <.001)、「10.授業中に、自分で決めたり、選 んだりする機会を児童や生徒にもたせる」(d =-0.41, t(324)=3.48, p<.001)、「11.授業中 に、問題や課題ができなくて困っている児童や 生徒に個別に対応する」(d=-0.28, t(324)= 2.35, p < .05)、「13.授業のなかで、児童や生 徒に自分の得意なところを気付かせる」(d = Table 1 自律性支援―統制の有効性認知尺度の項目の要約統計量 項目 学生 (本研究) (岡田, 2017)現職教員 d tMean SD Mean SD 自律性支援の有効性認知         1. 児童や生徒ひとりひとりの発言や意見をきちんと聞く 4.45 0.76 4.56 0.62 -0.16 1.40 3. 指導案などの授業の計画よりも、そのときの児童や生 徒のペースに合わせて授業を進める 4.15 0.81 4.00 0.83 0.18 1.55 4. 授業の内容や課題について、なぜそれを学ぶのかを児 童や生徒に説明する 4.06 0.88 4.38 0.70 -0.42 3.57*** 7. 自分で説明するよりも、児童や生徒に考えさせる 4.47 0.71 4.25 0.75 0.30 2.54* 9. 児童や生徒の興味にあわせて、授業を展開する 4.30 0.91 4.17 0.84 0.15 1.28 10. 授業中に、自分で決めたり、選んだりする機会を児童 や生徒にもたせる 4.32 0.77 4.59 0.60 -0.41 3.48*** 11. 授業中に、問題や課題ができなくて困っている児童や 生徒に個別に対応する 4.18 0.78 4.38 0.70 -0.28 2.35* 13. 授業のなかで、児童や生徒に自分の得意なところを気 付かせる 4.36 0.74 4.53 0.65 -0.25 2.14* 15. 授業中に、児童や生徒に自分で解き方や考え方をみつ けさせる 4.20 0.88 4.29 0.74 -0.11 0.97 17. 授業中に、児童や生徒どうしで意見を交換する機会を もたせる 4.51 0.66 4.51 0.66 0.00 0.00 統制の有効性認知 2. 授業中に、テストに出る部分をはっきりと伝える 3.42 0.96 3.58 1.03 -0.16 1.36 5. 「勉強しておかないと困る」ということを、児童や生徒 に伝える 3.41 1.08 3.30 1.01 0.11 0.91 6. 課題や提出物の締切りをはっきりと示す 4.42 0.86 4.21 0.84 0.25 2.12* 8. 授業中、「勉強しなければいけない」という雰囲気を作 る 3.37 1.07 4.15 0.85 -0.84 7.18*** 12. 「今おしゃべりの時間ですか」のように、質問のかたち で児童や生徒に指示をだす 3.55 1.05 3.09 1.07 0.43 3.69*** 14. 毎授業ごとに、やるべき宿題や課題を与える 3.57 1.08 3.26 0.98 0.31 2.61** 16. 授業中に、「~しなさい」という言い方で、指示をはっ きりと伝える 3.25 0.95 3.50 1.01 -0.25 2.16* * p<.05, **p<.01, ***p<.001

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-0.25, t(324)=2.14, p<.05)で、現職教員より も学生の方が有意に低かった。「7.自分で説 明するよりも、児童や生徒に考えさせる」では、 現職教員よりも学生の方が有意に高かった(d =0.30, t(324)=2.54, p<.05)。統制の有効性認 知については、「8.授業中、「勉強しなければ いけない」という雰囲気を作る」(d =-0.84, t (324)=7.18, p<.001)と「16.授業中に、「~し なさい」という言い方で、指示をはっきりと伝 える」(d=-0.25, t(324)=2.16, p<.05)では、 現職教員よりも学生の方が有意に低かった。 「6.課題や提出物の締切りをはっきりと示す」 (d =0.25, t(324)=2.12, p < .05)、「12.「今 お しゃべりの時間ですか」のように、質問のかた ちで児童や生徒に指示をだす」(d=0.43, t(324) =3.69, p < .001)、「14.毎授業ごとに、やるべ き宿題や課題を与える」(d=0.31, t(324)=2.61, p<.01)では、現職教員よりも学生の方が有意 に高かった。 自律性支援―統制の有効性認知尺度に対して 確認的因子分析を行った。岡田(2017)で用い られた自律性支援の有効性認知6項目、統制の 有効性認知5項目について、2因子を想定した モデルを検証した。分析の結果、適合度がやや 低い部分があったため、修正指数をもとに項 目10と項目17、項目14と項目15の間に共分散 を設定し、再度分析を行った。その結果、適 合度は、χ(41)=58.54(p < .01)、CFI = .91、 RMSEA = .06、SRMR = .08と一定の値が得ら れた。因子負荷量を Table 2に示す。各尺度の 信頼性について検討したところ、自律性支援の 有効性認知の α 係数が .71、統制の有効性認知 の α 係数が .64であった。それぞれの項目の合 計得点を下位尺度得点とした。自律性支援の有 効性認知の平均は26.31、SD は2.90、統制の有 効性認知の平均は18.02、SDは3.24であった。 教職志望度および志望校種と自律性支援―統制 の有効性認知  教職志望度について、「第1希望」が62名、 「選択肢の1つ」が39名、「教職には就かない」 が9名であった。「第1希望」としたものを積 極群、「選択肢の1つ」と「教職には就かない」 としたものを消極群とした。自律性支援―統制 の有効性認知について、積極群と消極群の差を 検討した。その結果、自律性支援の有効性認知 (d = .21, t(108)=1.12, n.s.)、統制の有効性認 知(d=.14, t(108)=0.70, n.s.)のいずれについ ても有意な差はみられなかった。  次に、志望する学校種について、小学校、中 学校、高校のそれぞれの志望の有無による自律 性支援―統制の有効性認知の差を検討した。そ の結果、中学校の志望の有無によって、統制 Table 2 自律性支援―統制の有効性認知尺度の確認的因子分析の結果 項目 F1 F2 15.授業中に、児童や生徒に自分で解き方や考え方をみつけさせる .72 13.授業のなかで、児童や生徒に自分の得意なところを気付かせる .55 17.授業中に、児童や生徒どうしで意見を交換する機会をもたせる .53 10.授業中に、自分で決めたり、選んだりする機会を児童や生徒にもたせる .46 7.自分で説明するよりも、児童や生徒に考えさせる .45 1.児童や生徒ひとりひとりの発言や意見をきちんと聞く .42 14.毎授業ごとに、やるべき宿題や課題を与える .74 6.課題や提出物の締切りをはっきりと示す .60 8.授業中、「勉強しなければいけない」という雰囲気を作る .50 5.「勉強しておかないと困る」ということを、児童や生徒に伝える .47 16.授業中に、「~しなさい」という言い方で、指示をはっきりと伝える .31 因子間相関 .36

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の有効性認知が異なり、あり群(Mean=17.20, SD=3.12)がなし群(Mean=18.61, SD=3.22)より も有意に低かった(d=.44, t(108)=2.30, p<.05)。 その他に有意な差はみられなかった。 自律性支援―統制の有効性認知と教師効力感と の関連  教師効力感について下位尺度ごとにα係数を 算出した。教師の力量について、α係数を下げ ていた2項目を削除したところ、α=.81となっ たため、6項目の合計を教師の力量得点とし た。個人的効力感については、α=.82と一定の 値を示したため、12項目の合計を個人的効力感 得点とした。  教師効力感と自律性支援―統制の有効性認 知との相関係数を算出した(Table 3)。その結 果、教師の力量が自律性支援の有効性認知と正 の相関を示し(r=.26, p<.05)、個人的効力感が 統制の有効性認知と正の相関を示した(r=.36, p<.01)。自律性支援―統制の有効性認知に対し て教師効力感の2下位尺度を説明変数とする重 回帰分析を行った(Table 3)。自律性支援の有 効性認知に対しては、教師の力量が有意な関連 を示した(β=.32, p<.01)。統制の有効性認知に 対しては、個人的効力感が有意な関連を示した (β=.37, p<.01)。 考察  本研究では、教員養成課程の学生における自 律性支援―統制の有効性認知の特徴を明らかに することを目的とした。自律性支援―統制の有 効性認知について、学生と現職教員で違いがみ られた。自律性支援の有効性についてみると、 項目によって差の出方が異なっていた。児童・ 生徒に考えさせるという指導については、現職 教員よりも学生の方が有効であると評定してい た。一方で、学ぶ意味を説明することや選択の 機会を児童・生徒に与えるといったことは、学 生よりも現職教員の方が有効性認知の評定が高 かった。これらについて、前者は児童・生徒自 身が活動主体になることを示す項目であり、後 者は教師が直接的に行う指導を示す項目であ る。教員養成課程の学生は、教師の立場よりも 生徒の立場で考えやすく、自分が有している教 師や子どものイメージにこだわりやすいとされ ている(Furlong & Maynard, 1995)。自律性支援 ―統制の有効性認知の評定にあたっては、教師 の立場を想像して回答しつつも、児童・生徒と しての視点やイメージをもとに評定した可能性 がある。同じ自律性支援に相当する指導であっ ても、教師が直接的に行う指導よりも、児童・ 生徒が自ら活動するような内容をより動機づけ にとって有効なものと認知しているものと考え られる。  また、統制の有効性認知についても、項目に よって評定が異なっていた。質問のかたちで指 示を出したり、宿題などを出して締め切りを はっきりと示すといった指導については、学生 は現職教員よりも有効であると考えており、そ の反対に、勉強しなければいけない雰囲気を作 ることは学生の評定は現職教員よりも低かっ た。宿題などを出したり、教師の指示で授業規 律を確立することによって、児童・生徒が動機 づけを保つことができると考えている学生は比 較的多いといえる。この場合に、統制的な指導 によって高められる動機づけの質を考える必要 がある。統制的な指導は、不安を低減したり、 外的な要求を満たすなどの外発的な動機づけを 高めることが示されている(Reeve, 2016)。学 Table 3 教師効力感と自律性支援―統制の有効性認知との関連   自律性支援の有効性認知 統制の有効性認知   r β r β 教師の力量 .26* .32** -.09 .03 個人的効力感 .06 .17   .36** .37** R2 .09* .13** * p<.05, **p<.01

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生が自身の児童・生徒としての経験をもとに指 導の効果を考えているとすると、これらの統制 的な指導によって外発的な動機づけが喚起され た自身の経験をもとに、統制の有効性認知を高 く評定したことが推察される。  自律性支援―統制の有効性認知について、教 職志望度による違いはなかった。伊田(2003) は、教職志望度が高い学生ほど、教員養成課程 の授業内容に興味や実践的な意義を感じ、達成 動機が高いことを報告している。しかし、この ような動機づけの高さは、必ずしも児童・生徒 の動機づけを促すかという指導のあり方に対す る認知の側面にまでは影響しないと考えられ る。  一方で、志望する学校種によって統制の有効 性認知が異なる面がみられた。中学校教員を志 望する学生は、そうでない学生に比べて統制の 有効性認知が低かった。この結果には、中学校 教員を志望する学生が自身の中学校時の経験を 想起したことが影響しているかもしれない。小 学校から中学校への学校移行において、学習 に対する内発的動機づけが低下することが指 摘 さ れ て い る(Gottfried, Marcoulides, Gottfried, & Oliver, 2009; Lepper, Corpus, & Iyengar, 2005)。 その原因として、成績に対する評価や教師から 与えられる課題などの外発的な要因の顕現化が 想定される。そういった外発的な要因は、本研 究での統制的な指導と共通するものである。中 学校教員を志望する学生は、中学生の時期に統 制的な要因や指導によって動機づけが低下した 自己の経験を参照し、統制的な指導は動機づけ にとって有効でないと認知するものと考えられ る。  教師効力感との関連をみたところ、自律性支 援の有効性認知と統制の有効性認知で、それぞ れ異なる側面が関連していた。自律性支援の有 効性認知に対しては、教師の力量が関連してい た。すなわち、教師は指導によって児童・生徒 に影響を与え得る存在であると考えている学生 は、児童・生徒の自律性を促すことで動機づけ を喚起し得ると考えているといえる。現職教員 においては、個人的効力感が自律性支援の有効 性認知と関連していた(岡田 , 2017)。これは、 自身の教職経験を参照しながら児童・生徒の動 機づけに対する指導の有効性を考えるためであ ると考えられる。しかし、教員養成課程におけ る学生は、まだ実際の指導経験をもたない。そ のため、自己の能力に対する評価よりも教師が 一般的にもつ影響力の評価が自律性支援の有効 性認知と関連したと考えられる。一方で、統制 の有効性認知に対しては、個人的効力感が関連 していた。この結果は、自身が児童・生徒に対 して効果的な指導を行えると感じている学生 は、統制的な指導によって動機づけを高められ ると考えていることを示している。学生は、大 学入学までに受験等を経験してきており、ある 意味では外発的な動機づけによって学習を継続 してきている。そのため、統制的な指導のもと での学習の必要性や有効性を感じていると推察 される。自身が教師として効果的な指導を行え るという個人的効力感には、外発的な要因が存 在する環境下や統制的な指導のもとで、児童・ 生徒を学習に向かわせることができるという認 知が含まれていると考えられる。  本研究では、教員養成課程の学生における自 律性支援―統制の有効性認知の特徴を検討し た。得られた知見から、教員養成課程で自律性 支援的な指導のあり方を教授する際には、い くつか注意すべき点があると考えられる。ま ず、指導の有効性に関して、学生は現職教員と は異なる捉え方をしていることを念頭において おく必要がある。自律性支援に相当する指導で も、児童・生徒に学ぶ理由を説明したり、選択 をさせるといったように、教師側がはたらきか けるような指導については、学生は現職教員ほ どに有効性を感じていなかった。自律性支援 は、単に児童・生徒に活動をさせたり、考えさ せたりすることだけでなく、教師の側が積極的 にはたらきかける指導としても実現し得るもの であることを伝える必要があるかもしれない。 また、学生が志望する学校種によっても、自律 性支援に対して異なる捉え方をしている可能性 がある。そのため、学生の志望校種を考慮した うえで授業等を構成し、自律性支援に相当する

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指導の有効性の伝え方について工夫する必要が ある。さらに、教師の力量が自律性支援の有効 性認知と関連していた点も重要である。学生に 個人的な成功経験や体験を積ませることに加え て、教師が一般的に児童・生徒に多大な影響力 を与え得る存在であることを明確に伝え、教職 全般に対する知識と理解が深まるような学習の 機会を提供することが求められる。  今後の課題は以下の2点である。1つ目に、 教育実習前後の変化を検討することである。本 研究では、教育実習経験の影響を統制するため に、教育実習を経験していない学部生のみを対 象とした。教育実習の経験は、教授スキルの自 己評定や授業イメージなどに影響を与えること が知られており(川上・秋山,2006;三島・石川・ 森,2013)、自律性支援―統制の有効性認知に ついても教育実習前後で変化がみられる可能性 が考えられる。この変化を検討することで、自 律性支援―統制の有効性認知の変化を教員養成 課程の学生の発達過程として位置づけることが できるかもしれない。2つ目に、自律性支援― 統制の有効性認知と実際の指導行動との関連を 検討することである。本研究では、自律性支援 ―統制に相当する指導行動を提示し、各指導行 動が動機づけにとってどの程度有効であるかを 自己評定してもらった。自律性支援―統制の有 効性認知が、実際にどのような指導行動とし てあらわれるかは検討していない。Reeve, Jang, Carrell, Jeon, & Barch(2004)は、現職教員に対 して自律性支援の有効性を教授するプログラム を実施することで、実際の授業場面における自 律性支援的な指導行動が増加することを報告し ている。学生においても、自律性支援の有効性 を高く認知しているほど、実際に自律性支援的 な指導を多く行うことが考えられる。模擬授業 や教育実習中の指導を観察し、自律性支援―統 制の有効性認知と指導行動との関連を検討する ことが今後の課題である。 引用文献 秋田喜代美 (1996).教える経験に伴う授業イメージ の変容―比喩生成課題による検討― 教育心理学 研究, 44, 176-186.

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謝辞   本 研 究 は、 科 学 研 究 費 補 助 金(基 盤 研 究 (C)、課題番号:17K04357、研究代表者:岡田 涼)の助成を受けました。調査にご協力いただ きました学生のみなさんに厚くお礼申し上げま す。

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