EU 指令
年
号と無罪推定法理
久
岡
康
成
Ⅰ は じ め に
「無罪の推定の一定の側面と刑事手続における公判に出席する権利に対
する権利の強化についての
年 月 日の欧州議会及び EU 理事会の
指令
年
号」(以下,
年 EU 指令と呼ぶ)
⑴は,無罪推定法理
(黙秘権および自己負罪しない権利も併せて定められている)および刑事
手続における公判に出席する権利について,欧州連合(European Union,
以下,EU と呼ぶ)が加盟国を名宛て人として定めた指令(Directive)で
ある。無罪推定法理は,ヨーロッパ人権条約 条 項および EU 基本権憲
章
条により明文で保障されているのであるが,その実効的な保障を確
保するために,EU における共通最小限基準(common minimum standard)
を共通最小限規則(common minimum rules)として定めたものである。こ
の
年 EU 指令は,
年
月
日に欧州委員会により提案され,
欧州議会と EU 理事会での審議と「合意」(
年)にそって,欧州議会
及び EU 理事会で採択され,
年 月に公布された
⑵。
年 EU 指令の内容たる無罪の推定と刑事手続における公判に出席
する権利は,手続的権利保護の共通最小限基準のための
年ロード
マップ
⑶で課題として列挙された措置には含まれていないが,後に確認する
ように,この
年ロードマップが採択されるまでの過程の中で,その
検討が要請されたものである。その意味では,
年 EU 指令までに
年ロードマップの具体化として採択された EU における手続的権利保護強
化のための幾つかの EU 指令とともに
⑷,EU における刑事手続における手
続的権利保護の共通最小限基準を構成するものである。ヨーロッパ人権裁
判所の無罪の推定についての判例は,犯人報道と警察当局の責任につい
て,既にわが国にも紹介され検討されているが
⑸,この
年 EU 指令は,
それらヨーロッパ人権裁判所の判例をも含め EU において形成されつつあ
る無罪の推定についての共通最小限基準に関わるものであり,刑事手続に
おける手続的権利保護の共通最小限基準を全体として理解するためにも有
益と思われるので,本稿でその内容を確かめ,若干の検討をしてみること
にする。
Ⅱ
年 EU 指令の概要
年 EU 指令は,
項の前文と
条の条文からなるもので,重複す
るところもあるが,それぞれ紹介する。
.
年 EU 指令前文
⑴ 前文 ないし 項は,EU 基本権憲章などで規定されている無罪の推定と公正な裁 判に対する権利が,被疑者・被告人の権利保護の共通最小限基準として EU において確 立されるべき所以と,それが EU 指令として立法された経緯を述べている。 まず前文 項は,無罪の推定と公正な裁判に対する権利が,EU 基本権憲章 条 および 条,ヨーロッパ人権条約 条,国際人権(自由権)規約 条,および世界 人権宣言 条に規定されていることを指摘している。ついで前文 項は,EU が一つ の自由・安全・司法の領域(An Area of Freedom, Security, and Justice)の維持と発展を 自らの目的として定めていること,および 年タンペレ欧州理事会議長国総括,特 にその 項によれば,強化された相互承認と立法の接近は権限ある機関の間の協力と個人の権利の司法的保護を促進し,それゆえ相互承認原則(Principle of mutul recognition) は,EU 域内における「民事刑事における司法協力の礎石(cornerstone of Judicial co-operation)」となるべきであるとされていることを述べ,前文 項は,EU 機能条約(TFEU) によれば,EU における刑事の司法協力は相互承認原則に基礎をおくべきものとされて いると述べている。
前文 項は,この(相互承認)原則の実施は,加盟国が相互の刑事司法システムを 信頼することを前提とし,相互承認原則の範囲は多くのパラメーターに依存するので あるが,そのパラメーターは,被疑者および被告人(suspects and accused persons)の権 利の保護のメカニズム並びに相互承認の原則の適用を促進するために必要な共通最小 限基準(common minimum standards)を含むことを指摘する。
ついで前文は,この必要な共通最小限基準が EU 指令として立法される経緯を説明 する。 加盟国はヨーロッパ人権条約および国際人権(自由権)規約の当事国でもあるが, 経験上,それ自体では他の加盟国の刑事司法システムへの信頼の十分な程度を常に提 供するものではなかった(前文 項)。 年 月 日に EU 理事会は,被疑者または被告人の刑事手続における手続的 権利の強化のためのロードマップ( 年ロードマップ)をその決議として採択した。 この 年ロードマップは,ステップ・バイ・ステップ方式により,翻訳と通訳に対 する権利(措置 A),権利及び弾劾(charge)についての情報に対する権利(措置 B), 法的助言と法律援助に対する権利(措置 C),親族,雇用主および領事機関との連絡に 対する権利(措置 D),傷つきやすい(vulnerable)被疑者・被告人に対する特別な保護 措置(措置 E)を採択することを求めている(前文 項)。
欧州理事会(The European council)は,この EU 理事会による 年ロードマップを 歓迎し, 年 月 日に採択した,「ストックホルム・プログラム−市民に奉仕し 市民を保護する開かれた安全な欧州」において, 年ロードマップをその一部とし たが(point ., Stockholm Programme, − ),併せて欧州理事会は,この領域で のよりよい協力を推進するために, 年ロードマップの非網羅的(non-exhaustive)な 性格を強調し,被疑者・被告人の最小限手続的権利についてのそれ以上の要素を検討 し,例えば無罪の推定を含む,他の課題が提出される必要があるか否かを判断するこ
とを,欧州委員会に要請した(前文 項)。
刑事手続における手続的権利についての三つの措置(measures)が 年ロードマッ プにしたがっていままでに採択された。すなわち 年 EU 指令 号, 年 EU 指 令 号, 年 EU 指令 号である(前文 項)。
⑵ 前文 ないし 項は, 年 EU 指令の目的,適用範囲につき述べている。 年 EU 指令の条文との関係では,「第 章 主題と範囲(SUBJECT MATTER AND SCOPE)」(第 条ないし第 条)に対応している。
まず前文 項は, 年 EU 指令の目的について,この指令の目的は,無罪の推 定のある側面および公判に出席する権利(the right to be present at the trial)に関する共 通最小限規則(common minimum rules)を定めることによって,刑事手続における公正 な裁判を受ける権利(the right to a fair trial)を強化することである,と述べている。
また前文 項は,被疑者および被告人の手続的権利の保護についての共通最小限規 則を確立することによって, 年 EU 指令は相互の刑事司法システムに対する加盟 国の信頼を強化し,それにより刑事における決定(decisions)の相互承認を促進するこ とをねらいとするものであり,またこのような共通最小限規則は,加盟国の領域にお ける市民の自由な移動に対する障碍を除去するであろう,と述べている。 前文 ないし 項は, 年 EU 指令の適用範囲につき述べている。 まず, 年 EU 指令は刑事手続にのみ適用され,民事手続や,行政手続(administrative proceedings)には適用されない(前文 項)。 また,この 年 EU 指令は,刑事手続において被疑者または被告人である自然人 に対して適用されるべきであって,人が被疑者または被告人となったときから,加盟国 の権限ある機関から,正式の告知または他の方法で知らされる以前でも適用され,また 刑事手続の全ての段階で,判決(decision of final determination)が最終的(definitive)に なるまで適用されるべきである(前文 項)。 さらに,この 年 EU 指令は,自然人および法人に関し,無罪の推定のある側面 の保護について,異なった必要や水準があることを認める。自然人に関しては,この ような保護はヨーロッパ人権裁判所の判例法を考慮しているが,他方,EU 司法裁判所 は無罪の推定から生ずる権利は,法人については自然人と同じほどには発生しないこ とを認めている(前文 項)。国内法ならびに国内法および EU の判例の発展の現在の
段階においては,法人に関する無罪の推定について EU レベルで立法することは時期尚 早である。それゆえこの 年 EU 指令は法人には適用されるべきでないが,このこ とは法人に対し,ヨーロッパ人権条約で定められたり,ヨーロッパ人権裁判所や EU 司 法裁判所(Court of Justice of the European Union)で解釈された無罪の推定が,法人に 対して適用されることを妨げるものではない(前文 項)。法人に関する無罪の推定 は,現存する条項および判例法によって確保されるべきであり,その発展が EU の行動 の必要があるか否かを決定すべきである(前文 項)。 ⑶ 前文 ないし 項は,無罪の推定につき述べている。 年 EU 指令の条文との 関係では,「第 章 無罪の推定(PRESUMPTION OF INNOCENCE)」のなかの第 条 ないし第 条に対応している。第 章冒頭の第 条は,無罪の推定の宣言であるが, 前文では特に触れられていない。
前文 ないし 項は,有罪であるとの公の言及(public references to guilt)( 年 EU 指令第 条)につき述べている。
まず,被疑者または被告人が法律による手続によって有罪であると証明されていな い間は,公の機関による公の陳述もしくは有罪の判決以外の司法的決定(decisions)が, 被疑者または被告人に対し有罪であると言及(refer as being guilty)するならば,無罪 の推定は侵害されるであろう(前文 項)。これらの陳述や司法的決定は,その者が 有罪であるという意見を反映すべきでない(前文 項)。 但しこのことは,防禦の権利が尊重されている限り,被疑者または被告人の有罪の立 証を目指す公訴提起のような訴追の行為を妨げず,その結果として判決猶予(suspended sentence)の効果が生ずる司法的決定を妨げるものでない。またこれは,そのような決 定が被疑者または被告人に対し有罪であると言及しないかぎり,未決拘禁の決定のよ うな,嫌疑もしくは帰罪的証拠(incriminating evidence)の要素に基づく司法もしくは 他の権限ある機関によりとられる手続的性質の予備的決定を妨げるものではない。手 続的性質の予備的決定がとられる前に,まず権限ある機関が,当該決定を根拠づける に十分な被疑者または被告人に対する帰罪的証拠の要素があるかを審査(verify)しな ければならない。なお,この決定はこれらの要素への言及を含み得るであろう(以上 前文 項)。
国内法による免責を妨げないが,刑事犯罪に言及し,かつその刑事犯罪に関する刑事 手続に関わる司法機関,警察および法執行機関,もしくは大臣や他の公職のような機 関から発出するあらゆる陳述であると理解されるべきである(前文 項)。 被疑者または被告人が有罪であると言及しない義務は,公の機関が刑事手続に関す る情報を公に発表することを,これが刑事捜査もしくは公の利益に関する理由によっ て厳密に必要とされている場合には妨げるものではない。刑事捜査に関する理由とは, 刑事犯罪の犯人と思われる者を特定するためにビデオ資料を公開するような場合であ り,また,公の利益に関する理由とは,安全の理由から環境犯罪によって影響を受け る住民に情報を提供するような場合や,訴追機関や他の権限ある機関が,公の秩序の 混乱を防ぐために刑事手続に関する客観的な情報を提供するような場合である。この ような理由の使用は,全ての利益を考慮に入れて,これが「合理的かつ相当(reasonable and proportionate)」な状況である場合に制限されるべきである。いずれにせよ,情報が 発表される方法と状況は,その者が法律によって有罪と証明される前に,その者が有 罪であるとの印象を創造するものであってはならない(以上前文 項)。 加盟国は,それらが広報媒体(media)に情報を提供するときは,被疑者または被告 人が法律によって有罪と証明されていない限りは,公の機関が被疑者または被告人が 有罪であると言及しないことを確保する適切な措置をとるべきである。そのために加 盟国は,広報媒体に情報を提供もしくは明かす(divulging)ときの,無罪の推定に対し 十分な考慮を持つことの重要性を,公の機関に告知しなければならない。このことは, 国内法が新聞および他の広報媒体の自由を保護することを妨げるものではない(以上 前文 項)。 前文 および 項は,被疑者および被告人の「連れ出し(presentation)」( 年 EU 指令第 条)につき述べている。 権限ある機関は,そのような手段の使用が,被疑者または被告人が自己または他人 に危害(harm)を加えまたは財産を毀損することを防止することを含む安全性に関わっ てか,もしくは被疑者または被告人の逃亡または証人あるいは被害者のような第三者 との接触の防止に関わって,その事例特有の理由で要求されていない限り,法廷もし くは公の場(in public)における手錠などの身体的拘束の手段の使用を通じて,被疑者 または被告人を有罪として「連れ出し(presentation)」することを控えるべきである。
身体的拘束の手段の使用の可能性は,権限ある機関がそのような手段の使用につき何 らかの正式の決定をすることを意味しない(以上前文 項)。 また,可能な場合には権限ある機関は,彼らが有罪であるという印象を与えるのを 避けるために,被疑者または被告人が刑事施設服(prison clothes)を着用している間は, 被疑者または被告人を法廷もしくは公の場への連れ出し(presentation)を控えるべきで ある(前文 項)。 前文 および 項は,立証責任(burden of proof)( 年 EU 指令第 条)に つき述べている。 被疑者および被告人の有罪を確立(establish)するための立証責任は訴追側にあり, いかなる疑いも被疑者または被告人の利益になるべきである。もし立証責任が訴追側 から防禦側に転換されるならば,無罪の推定は侵害(infringe)されるであろうが,こ のことは裁判所の職権による事実認定(fact-finding),被疑者または被告人の有罪の判 断の場合の裁判官の独立性,被疑者または被告人の刑事責任に関わる法律上,事実上 の推定の使用を妨げない。そのような推定は,問題(What is at stake)の重要性,防禦 の権利の維持を考慮に入れて合理的な範囲に制限されるべきであり,用いられる手段 は追求される正当な目的に合理的に相当でなければならない。そのような推定は反証 を許すべきであり,いずれにしても防禦の利益が尊重されている場合にのみ用いられ るべきである(以上前文 項)。 さまざまな加盟国において,訴追側のみならず裁判官および権限ある法廷が,帰罪 的証拠および免罪的証拠を探求する責任(charge)を負っているが,当事者主義的なシ ステムをとっていない加盟国は,それがこの EU 指令に合致しかつ EU 法および国際法 の他の関連する規定に合致するならば,それらの現在のシステムを維持することがで きるべきである(前文 項)。 前文ないし ないし 項は, 年 EU 指令第 条が定めている黙秘権(right to remain silent)および自己負罪しない権利(right not to incriminate oneself)につき述べて いる。
黙秘権は,無罪の推定の重要な側面であり,自己負罪からの保護として役立つ(serve) べきである(前文 項)。自己負罪しない権利は,また無罪の推定の重要な側面であ る。被疑者および被告人は陳述をすることや質問に答えることを求められたときに,
証拠や書類を提出する(produce)ように,または自己負罪に導くような情報を提供 (provide)するように強制されるべきでない(以上前文 項)。 黙秘権および自己負罪しない権利は,あるものが行ったと嫌疑を受けまたは訴追さ れている刑事犯罪に関連する質問に対して適用されるべきであって,例えば被疑者ま たは被告人の確認(identification)のための質問に対しては適用されるべきではない(前 文第 項)。 黙秘権および自己負罪しない権利は,権限ある機関は被疑者または被告人に対し, もしそれらの者がそうすることを望まない(not wish to do so)ならば,情報を提供す るよう強いる(compel)べきでないことを意味する。黙秘権または自己負罪しない権利 が侵害されたか否かを決定するためには,ヨーロッパ人権条約の公正な裁判に対する 権利についてのヨーロッパ人権裁判所の解釈が考慮に入れられるべきである(以上前 文 項)。 黙秘権または自己負罪しない権利の行使は,被疑者または被告人に対し不利益に用 いられるべきでなく,そして,それ自体,その者が当該の犯罪を行ったことの証拠に なると考えられるべきでない。このことは,それが防禦の権利を尊重するならば,裁 判官および裁判所による証拠の評価に関する国内法の規則をそこなわないはずである (以上前文 項)。 自己負罪しない権利の行使は,権限ある当局が法的な強制の権限の行使を通して被 疑者または被告人から獲得される,被疑者または被告人の意思から独立した存在であ る証拠を収集することを妨げるべきでない。そのようなものとして,令状に従って取 得される資料,保有と要求された場合の提示が義務づけられている資料,呼気,血液 もしくは尿サンプルおよび DNA テストの目的のための身体的組織等がある(以上前文 項)。 黙秘権および自己負罪しない権利は,加盟国が,軽微な道路交通犯罪のような軽微 な犯罪に関して,審理(proceedings)の実行またはそれ以後の手続きが書面により,も しくは当該の犯罪との関わりで権限ある機関による被疑者または被告人の質問なしで 行われ得ると決することを,それが公正な裁判に対する権利に合致するならば,排除 すべきでない(前文 項)。 加盟国は, 年 EU 指令 号第 条による権利についての情報が被疑者または被
告人に提供される場合には,それがこの指令に合致する国内法のもとで適用されてい るように,自己負罪しない権利についての情報が提供されることを確保することを考 慮すべきである(前文 項)。 加盟国は,被疑者または被告人が 年 EU 指令 号 条に従って,権利告知書 (Letter of Rights)を提供される場合は,それがこの指令に合致する国内法のもとで適用 されているように,そのような告知書がまた自己負罪しない権利についての情報を含 むことを確保することを考慮すべきである(前文 項)。 ⑷ 前文 ないし 項は,公判に出席する権利につき述べている。 年 EU 指令 の条文との関係では,「第 章 公判に出席する権利(RIGHT TO PRESENT AT THE TRIAL)」に対応している。
前文 ないし 項は,公判に出席する権利について述べている。
公正な裁判の権利は民主主義社会の基本的な原理であり,被疑者および被告人の公 判に出席する権利は(the right to be present at the trial)この権利に基づくものであり, EUを通して保障さるべきである(前文 項)。不可抗力によって被疑者または被告人 が公判に出席できなかったときは,公判の新たな期日を請求する可能性が与えられる べきである(前文 項)。但し,被疑者および被告人の公判に出席する権利は絶対的 なものでなく,一定の条件のもとでその権利を放棄できる(前文 項)。 前文 ないし 項は,被疑者または被告人が出席していなくても許される公判 について述べている。 一定の条件の下で,その者が公判に出席していなくても,被疑者または被告人に対 し有罪もしくは無罪の裁判が下されることが可能であるが,それは,被疑者または被 告人が,適切な期間をおいて,公判および公判に不出席の場合の結果について知らさ れながら,なお不出席のような場合であろう(前文 項)。他方また裁判所は,被告 人が公判について知らされており,かつその者または国家によりその者を公判で代理 するために任命され,被疑者または被告人を代理している弁護人に信認を与えている 場合には,被疑者または被告人が欠席の場合に有罪もしくは無罪の結果を来しうる公 判を行うことが可能であるべきである(前文 項)。情報が与えられる方法が,公判 についてのその者の認識を確保するに十分であるか否かを考えるに当たっては,公の 機関による情報を知らせるための努力(diligence)と当該の者による情報を受けるため
の努力(diligende)に注意が払われなければならない(前文 項)。加盟国により公判 を行う可能性が定められ,他方裁判が下される条件が,合理的な努力にもかかわら ず,例えば被疑者または被告人の所在が不明であるために満たされていない場合は, それらの不在のまま裁判を下し,その裁判を執行(enforce)することが可能である。そ の場合,加盟国は,逮捕されたりして,被疑者または被告人が裁判について知ったと きは,それらの者が裁判を争う可能性や新公判(new trial)等に対する権利について知 らされるべきことを確保すべきである(前文 項)。 権限ある機関によって,適切な刑事手続の実行を確保する利益がある場合には,被 疑者または被告人を一時的に公判から除くことが許される。例えば,被疑者または被 告人が聴聞(hearing)を妨害し裁判官の命令で公判廷外に移される場合は,被疑者ま たは被告人が証人の適切な聴聞を阻害するように見える場合である(前文 項)。 公判に出席する権利は,聴聞が行われる場合にのみ行使されうるものであり,それ が EU 基本権憲章,ヨーロッパ人権条約,EU 司法裁判所およびヨーロッパ人権裁判所 の解釈,ことに公正な裁判の権利に合致するならば,書面手続のような関連する国内 法規定が聴聞を定めていないときは適用されない(前文 項)。 ⑸ 前文 ないし 項は,弱者(vulnerable persons)や子供に対する配慮から始まっ て,救済,資料収集,報告,不切り下げ,国内執行,発効,名宛て人につき述べてい る。 年 EU 指令の条文との関係では,「第 章 一般かつ最終規定(GENERAL AND FINAL PROVISIONS)」に対応している。 前文 および 項は,弱者(vulnerable persons)や子供(children)に対する配慮 について述べている。 加盟国はこの 年 EU 指令の解釈に当たっては,ことに公判に出席する権利と新公 判に対する権利については,弱者に対する特別な必要を考慮に入れるべきであり,刑事 手続における弱者たる被疑者または被告人に対する手続的保護に関する 年 月 日欧州委員会勧告によれば,弱者たる被疑者または被告人とは,彼らの年齢,精神的 または身体的条件あるいは彼らが有している可能性のある何らかの障害により,刑事 手続を理解し効果的に参加することのできない者である(前文 項)。子供は弱者で あり,保護の特別な程度が与えられるべきものであるから,この 年 EU 指令に定 められている権利についても,特別な手続的保護が確立さるべきである(前文 項)。
前文 および 項は,救済および実効性の確保ついて述べている。
EU 法の実効性原理(the principle of effectiveness)は,加盟国が,EU 法により個人に 与えられた権利の侵害(breach)が生じた場合に,適切かつ実効的な救済を整備するこ とを要求する。実効的な救済は,公正な裁判に対する権利および防禦の権利を保護す る見地から見て,被疑者または被告人を侵害が生じなかった場合と同一の状況に置く ものであるべきである(以上前文 項)。 被疑者または被告人によってなされた陳述または黙秘権もしくは自己負罪しない権 利に違反して取得された証拠の評価に当たっては,裁判所および裁判官は防禦と手続 の公正さの権利を尊重すべきである。この文脈においては,ヨーロッパ人権裁判所の 判例法が顧慮されるべきであるが,それによれば,拷問(torture)またはヨーロッパ人 権条約第 条に違反する他の虐待(ill treatment)の結果として得られた陳述を,刑事手 続において関連性ある事実の確立のための証拠として許容することは手続を全体とし て不公正にする。国連の拷問及び他の残虐な,非人道的な又は品位を傷つける取り扱 い又は,刑罰に関する条約によれば,拷問によるものと認められるいかなる供述も, 当該供述が行われた旨の事実についての,かつ,拷問の罪の被告人に不利な証拠とす る場合を除くほか,訴訟手続における証拠とされてはならない(以上前文 項)。 この 年EU 指令の実効性を監視し評価するために,加盟国はこの EU 指令で定 められた権利の実施に関し入手できる資料を,救済に関するものも含めて,欧州委員 会に送らなければならない(前文 項)。 前文 ないし 項は,この 年EU 指令の EU 法および加盟国との関係につ いて述べている。 この 年EU 指令は,EU 基本権憲章およびヨーロッパ人権条約によって認められ た基本的権利を確認するものであり,それらには拷問及び非人道的な又は品位を傷つ ける取り扱いの禁止,自由と安全に対する権利,個人と家族の生活の尊重,個人の尊 厳に対する権利,子供の権利,障害を持つ人を差別しないこと,実効的な救済を受け る権利と公正な裁判の権利,無罪の推定および防禦の権利が含まれる。EU 条約 条に 特別な顧慮が払われなければならないが,それによれば,EU は,EU 基本権憲章に定 められている権利,自由,原理を承認し,ヨーロッパ人権条約によって保障された り,加盟国に共通の憲法的伝統から帰結されるような基本的権利は,EU 法の一般原理
を構成する(以上前文 項)。 この 年 EU 指令は最小限規則を定めるものであるから,加盟国はより高い保護 を提供するためにこの EU 指令に定められている権利を拡張することができるべきであ るが,加盟国によって提供される保護の水準は,ヨーロッパ司法裁判所またはヨー ロッパ人権裁判所の判例法によって解釈された,EU 基本権憲章またはヨーロッパ人権 条約によって提供されている基準を決して下回ってはならない(前文 項)。 この 年 EU 指令の目的,すなわち無罪の推定のある側面および刑事手続におけ る公判に出席する権利に対し最小限規則を定めることは,個別加盟国では十分に達成 できず,その規模と効果のゆえに EU レベルでよりよく達成可能なものであるので, EU は,EU 機能条約(TFEU) 条が定める補完性の原理に従い,この EU 指令を採択 するものとし,また,同条項が定められている相当性の原理に関しては,この EU 指令 はその目的を達成するために必要な範囲を越えるものでない(前文 項)。 自由,安全,司法の領域に関する連合王国及びアイルランドの地位についての,EU 条約及び EU 機能条約(TFEU)に附属する第 議定書第 条および 条によりその第 条を損なうことなく,これらの加盟国はこの 年 EU 指令の採択に参加せず,そ れに拘束されずまたはその適用に服さない(前文 項)。デンマークの地位について の,EU 条約及び EU 機能条約(TFEU)に附属する第 議定書第 条及び第 条によ り,デンマークはこの EU 指令の採択に参加せず,それに拘束されずまたはその適用に 服さない(前文 項)。
.
年 EU 指令の条文
第 章 主題と範囲 第 条 主題(Subject matter)この指令は,以下についての共通最小限規則(common minimum rules)を定める。 ⒜ 刑事手続における無罪の推定のある側面
⒝ 刑事手続において公判に出席する権利((the right to be present at the trial))
第 条 範囲(Scope)
この指令は,刑事手続の全ての段階で,人が刑事犯罪または申し立てられた刑事犯罪 を行ったと嫌疑を受けもしくは訴追されたときから,その者が当該刑事犯罪を行った か否かについての判決(decision of final determination)が最終的(definitive)になるま で適用される。
第 章 無罪の推定
第 条 無罪の推定(Presumption of innocence)
加盟国は,被疑者または被告人が,法律によって有罪と証明されるまで(until proved guilty)無罪と推定されることを確保すべきである。
第 条 有罪であるとの公の言及(Public references to guillt)
.加盟国は,被疑者または被告人が法律による手続によって有罪であると証明されて いない間は,公の機関による公の陳述もしくは有罪の判決以外の司法的決定(decisions) が,被疑者または被告人に対し有罪であると言及(refer as being guilty)しないことを 確保するために必要な措置をとるべきである。このことは,被疑者または被告人の有 罪の立証を目指す訴追の行為を妨げず,司法または他の権限ある機関による嫌疑また は帰罪的証拠に基づく手続的性質の予備的決定を妨げるものでない。 .加盟国は,被疑者または被告人に対し有罪と言及しないという本条第 項に定め られている義務が違反された場合に利用できる,この指令ことに第 条に合致する適 切な措置を確保すべきである。 .第 項に定められている被疑者または被告人に対し有罪と言及しないという義務 は,犯罪捜査または公の利益に関わる理由によって厳格に必要な場合には,公の機関 が刑事手続における情報を公表(publicly disseminateng)することを妨げない。
第 条 被疑者および被告人の連れ出し(Presentation of suspects and accused persons) .加盟国は,被疑者および被告人が身体的拘束の措置の使用を通して,裁判所もし くは公に,有罪であるものとして連れ出し(presentation)されないための適切な措置を とるべきである。
の接触を防止するために身体的拘束の手段を使用することを妨げない。 第 条 立証責任(Burden of proof) .加盟国は,被疑者および被告人の有罪を確立(establish)するための立証責任は訴 追側にあることを確保すべきである。このことは,裁判官および権限ある法廷が帰罪 的証拠および免罪的証拠を探求する義務を負うことを妨げず,適用可能な国内法に従っ て証拠を提出する防禦側の権利を妨げない。 .加盟国は,罪責(guilt)の問題に関する如何なる疑いも,裁判所が当該の者が釈放 (acquitted)されるべきかを判断(assess)する場合を含めて,被告人または被疑者の利 益とさるべきことを確保すべきである。
第 条 黙秘権および自己負罪しない権利(Right to remain silent and right not to incriminate oneself)
.加盟国は,被疑者または被告人が,彼らが行ったと嫌疑を受けもしくは訴追され た刑事犯罪に関して黙秘権(right to remain silent)をもつことを確保すべきである。
.加盟国は,被疑者または被告人が,自己負罪しない権利(right not to incriminate oneself)をもつことを確保すべきである。 .自己負罪しない権利の行使は,権限ある機関が適法な強制の権限の行使を通して 獲得される証拠で,被疑者または被告人の意思から独立した存在である証拠を収集す ることを妨げない。 .加盟国は,量刑(sentencing)において,その司法機関が被疑者および被告人の協 力的態度(cooperative behaviour)を考慮にいれることを許してもよい。 .被疑者および被告人による黙秘権または自己負罪しない権利の行使は,彼らに不 利益に用いられてはならず,そして彼らが当該の刑事犯罪を行ったことの証拠と考え られてはならない。 .本条は,加盟国が,軽微な犯罪に関して,審理(proceedings)の実行またはその後 の段階が,書面により,もしくは当該犯罪との関わりで権限ある機関による被疑者ま たは被告人の質問なしで行われ得ると決することを,それが公正な裁判に対する権利 に合致するならば,排除しない。
第 章 公判に出席する権利
第 条 公判に出席する権利(Right to be present at the trial)
.加盟国は,被疑者および被告人が彼らの公判に出席する権利を持つことを確保す べきである。 .加盟国は,以下の場合には,被疑者または被告人の有罪もしくは無罪の決定に至 る公判がそれらの者の欠席において行われることを定めてもよい。 ⒜ 被疑者または被告人が適切な期間をおいて,公判および公判に不出席の場合 の結果について知らされている場合,もしくは, ⒝ 被疑者または被告人が公判について知らされ,かつ被疑者または被告人もし くは国家によって任命された弁護人により代理されている場合。 .第 項に従って下された裁判は当該の者に対して執行され得る(may be enforced)。 .加盟国は,被疑者または被告人の欠席のもとに公判を行う可能性が定められてい るが,本条第 項で定められた条件に合致することが,合理的な努力が為されたにも かかわらず例えば被疑者または被告人の所在が不明であるために可能でない場合は, 加盟国はそのまま裁判が下され,その裁判が執行(enforce)されることを定めることが 可能である。その場合,加盟国は,逮捕されたりして,被疑者または被告人が裁判に ついて知ったときは,それらの者は,裁判を争う可能性や第 条に従って新公判(new trial)もしくは他の法的救済を求める権利について知らされることを確保すべきであ る。 .本条は,国内法が,裁判官または権限ある裁判所が,刑事手続の適切な実行を確 保する利益のために必要がある場合に,防禦の利益に適合(complied with)するならば, 被疑者または被告人を一時的に公判から除くことができることを定めることを妨げな い。 .本条は,国内法が,審理(proceedings)またはそれ以後の段階が書面により行われ ることを定めることを,それが公正な裁判に対する権利に合致するならば妨げない。
第 条 新公判に対する権利(Right to a new trial)
加盟国は,被疑者または被告人が彼らの公判に出席せず,そして第 条第 項で定め られた条件が満たされていない場合には,被疑者または被告人は新証拠の取調を含め
て,事件の実体(merits)に対する新しい決定を許し,当初の裁判の破棄を導きうる新 公判もしくは他の法的救済に対する権利を有することを確保しなければならない。こ れに関わって,加盟国は,これらの被疑者および被告人が国内法のもとでの手続きに 従って,出席し,実効的に参加し,そして防禦の権利を行使する権利を有することを 確保しなければならない。
第 章 一般規定および最終規定(GENERAL AND FINAL PROVISIONS) 第 条 救済(Remedies) .加盟国は,被疑者および被告人が,もしこの指令のもとでの彼らの権利が侵害 (breach)されたならば,実効的な救済を持つことを確保しなければならない。 .証拠の許容性についての国内の法やシステムを害することなく,加盟国は,被疑 者または被告人によってなされた陳述あるいは黙秘権もしくは自己負罪しない権利を 侵害して取得された証拠の評価において,防禦の権利および手続きの公正さが尊重さ れなければならない。 第 条 資料収集(Data collection) 加盟国は, 年 月 日までに,この指令で定められた権利がどのように実施され たかを示す入手できる資料を欧州委員会に送らなければならない。 第 条 報告(Report) 欧州委員会は, 年 月 日までに,この指令の実施について欧州議会および EU 理事会に対し報告を提出しなければならない。 第 条 不切り下げ(Non-regression) この EU 指令のなかのいかなるものも,EU 基本権憲章,ヨーロッパ人権条約もしくは 関連する国際法またはより高度の保護を定めている加盟国法の関連する規定のもとで 認められている権利や手続的保障(procedural safeguards)の制限や,それからの離脱 (derogating)として解釈されるべきでない。
第 条 国内執行(Transposition) .加盟国は, 年 月 日までに,この指令を遵守するために必要な法律,規程, 執行規定(administrative provisions)を発効させなければならない。それらについては, 加盟国は,直ちに欧州委員会に知らせなければならない。 加盟国がそれらの措置を採択するときは,それらはこの指令への言及を含むか,もし くはその正式の公表の機会にそのような言及を伴わなければならない。これらの言及 を行う方法は加盟国により定められるべきである。 .加盟国は,この指令によってカバーされている国内法の主要な措置のテキストを 欧州委員会に送らなければならない。
第 条 発効(Entry into force)
この指令は EU 官報に公布後 日で効力が発生する。 第 条 名宛て人(Addressees) この指令は条約により加盟国を名宛て人とする。