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温故知新 DDS - 30 年の歴史と未来 - ベンチャーキャピタルから見た DDS ビジネス 三菱 UFJ キャピタル株式会社ライフサイエンス室 * 長谷川宏之 DDS business from venture capital's viewpoint Venture capitals are i

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三菱 UFJ キャピタル株式会社 ライフサイエンス室

長谷川宏之

ベンチャーキャピタルから見た DDS ビジネス

DDS business from venture capital's viewpoint

Venture capitals are investing in ventures with high growth potential providing a product and service through new technology and business model. In Japan, many ventures with a DDS (Drug delivery system) technology (DDS ventures) have established, and some of them have carried out the clinical trial of their pipeline.

There are two important points in DDS ventures from my experience of an investment activity as follows. 1) For the pharmaceutical company, the attractiveness as a product itself with their DDS technology is more valuable than the superiority of their DDS technology. 2) As for the DDS ventures, the manufacturing process of materials of DDS and the bulk of products with DDS becomes the big hurdle in research and development (R&D).

In a tide of the open innovation in the R&D, pharmaceutical companies have been trying to find DDS technologies in academia directly. We recognize this situation as one of the investment opportunity and will keep eyes on DDS technologies more closely.

 ベンチャーキャピタル (VC)は、高い成長性や将来性を有するベンチャーに対して投資を行う。日 本において、DDS(Drug Delivery System)技術を保有するバイオベンチャー(DDS ベンチャー) が多く起業され、多くはないが臨床試験入りした。  小職が投資活動の中で感じた DDS ベンチャーにおける事業上重要な観点は、「DDS 技術としての 優位性よりも医薬品としての魅力が不可欠」、「DDS 技術自体あるいは DDS 技術を含めた医薬品原 体の製造に研究開発上の大きなハードル」である。  医薬品開発におけるオープン・イノベーション(Open innovation)の潮流の中で、製薬会社が直 接大学に DDS 技術を探す動きがある。小職はこの動きを投資機会の 1 つと捉え、これまで以上に 深い興味を持って DDS 技術に関わっていきたい。 HiroyukiHasegawa*

Keywords: Drug Delivery System, venture, venture capital

温故知新 DDS - 30 年の歴史と未来- *LifeScienceOffice,MitsubishiUFJCapitalCo.,Ltd.,JAPAN はじめに  DrugDeliverySystem(DDS)とは、小職がいる ベンチャーキャピタルの業界にはさまざまなバック グラウンドを有する者がおり、医薬分野に明るくな い者にとっては“医薬品搬送システム”をイメージす るらしいが、いうまでもなく、医薬品の有効成分の 効果を最大限に発揮させ、あるいは毒性・副作用を 軽減させるための理想的な体内動態に制御する技術 のことである。  ベンチャーキャピタルにとって、バイオベン チャーだけでなく大学や製薬会社の研究者を通じ て、興味深い DDS 技術やその事業に接する機会が ある。  今回、ベンチャーキャピタルから見た DDS ビ ジネス、すなわち DDS 技術に基づいた創薬事業、 あるいは創薬支援事業を担う DDS ベンチャーに ついて、また、大学にある DDS 技術にも関連が ある製薬会社のオープン・イノベーション(Open innovation)の動向について述べたい。

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ベンチャーキャピタルとは  ベンチャーキャピタル(Venturecapital:VC)は、 主に高い成長性や将来性を有する未上場企業(ベン チャー)に対して投資を行う。VC による投資は、 一般的に投資を受けたいベンチャーが発行する株式 を取得するかたちをとる。VC は投資とともに経営 支援・営業支援を行い、ベンチャーの企業価値の 向上を図り、投資した企業を株式上場(IPO:initial publicoffering)させたり、事業会社やファンドな どに転売したりして、売却益(キャピタル・ゲイン (Capitalgain))を獲得する(VC においては「出口 (Exit)」という)。ハイテク系のベンチャーの場合、 複数の VC によって、事業進捗に応じ、複数回に分 けて必要な調達額を集めるのが一般的である。投資 は融資とは異なり、投資を受けたベンチャーは VC に対し、利息の支払いや返済義務は生じない。この ように、VC は産業振興という観点で重要な役割を 果たしており、間接的ではあるが新しい技術・製品 やビジネスモデルを創出している。 バイオベンチャーとベンチャーキャピタル  最近承認された医薬品の多くはバイオベンチャー (英語では Biotech といわれることの方が多い)を起 源としている。また、製薬会社による自社開発品で あっても、研究・開発プロセスでは数多くのバイオ ベンチャーの技術やリソースを活用している。過去 には製薬会社は自前主義で医薬品の創製・開発を 行ってきたが、現在ではオープン・イノベーショ ン(後述)により、より多くのバイオベンチャーか ら創薬基盤技術や開発品を導入し、自社に取り込 むことが事業戦略上、重要となっている。図 1 に 医薬品開発の流れの中でのバイオベンチャーと VC の位置づけを示した。VC は、大学や研究機関から の技術をもとにした事業を行う、いわゆる大学発 ベンチャーや、製薬会社の開発品を導入したベン チャー、製薬会社から戦略上切り出された特定技術 や疾患領域チームのスピンアウトベンチャー(Spin-outventure)に対して投資を行っている。 国内における DDS ベンチャー  日本において、1990年後半から 2000年初頭にか け、バイオベンチャーを取り巻くさまざまな体制・ 制度が整った。すなわち、1998年の「大学等技術移 転促進法」(日本版バイドール法)施行や大学各地 に TLO(TechnologyLicensingOrganization)設置、 2000年のヒトゲノム塩基配列解読の終了宣言を端に 発した「ミレニアム・プロジェクト」の開始、『ゲノ ム』という言葉の知名度が一気に高まった。2001年 には「大学発ベンチャー 1,000社」構想など、株式市 図 1 ベンチャーキャピタルの位置づけ 1)ベンチャー自身が製造販売承認を取得し自ら販売するケースはある 2)Amgen 社等のように成長・拡大し製薬会社の規模となったベンチャーも含む ・技術を基にした  事業化 ・製薬会社との提携・製薬会社による被買収 ( 大学発ベンチャー) ・製薬会社からの開発品導入 ・製薬会社からの特定技術・疾患領域の切り出し ( 導入型ベンチャー) (スピンアウト / カーブアウトベンチャー) 資金

ベンチャー

1)

大学・研究機関

製薬会社

2)

製品上市

ベンチャーキャピタル

三菱 UFJ キャピタル株式会社 ライフサイエンス室

長谷川宏之

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場では東証マザーズやナスダック・ジャパン(その 後、JASDAQ に統合)といった新興市場が創設され、 ベンチャー投資の出口も整備された。  このようにバイオベンチャーが盛り上がる環境 の中で、DDS ベンチャーも多く起業された。自社 ホームページなどで臨床試験段階、または上市して いるパイプラインを保有していることが確認できた DDS ベンチャーを表 1 にまとめた。2013年 11月現 在、2社が東証マザーズの上場銘柄である。  ナノキャリア(株)1)は、東京大学の片岡一則教授、 東京女子医科大学の岡野光夫教授らが研究してきた ミセル化ナノ粒子技術による医薬品の開発を目的に 設立され、現在、パクリタキセルを有効成分とした NK105 は日本化薬と提携し、胃癌(日本)や乳癌(ア ジア)を対象にそれぞれフェーズ II、フェーズ III を実施中である。  メビオファーム(株)2)は、帝京大学薬学部の丸山 一雄教授(現取締役)らが DDS を応用したリポソー ム製剤技術による医薬品の開発を目的に設立され、 オキサリプラチンを有効成分とし、リポソーム表面 にトランスフェリンを結合した MBP―426 は、セカ ンドラインの胃癌、食道癌などを対象としたフェー ズI/IIを米国で開始し、2013年3月に終了予定となっ ている。  (株)LTT バイオファーマ3)は、レシチン化した スーパーオキシドジスムターゼである PC―SOD を 特発性肺線維症治療薬(吸入製剤)として、日韓で フェーズ II を開始し、登録完了した。また、注射 剤においても、特発性間質性肺炎および潰瘍性大腸 炎を対象としたフェーズ II が終了している。加え て、同社の創業者であった故水島裕博士が開発し、 同社が保有するリピッドマイクロスフェア技術をも とにした、プロスタグランジン E1封入のパルクス® (大正製薬)やリプル®(田辺三菱)は医薬品として上 市されている。  (株)メドレックス4)は、イオン液体を利用した 独自の経皮吸収型製剤技術 ILTS®(IonicLiquid TransdermalSystem)を中心とした医薬品製剤技術 により、エトドラクを有効成分とした ETOREAT (消炎鎮痛貼付剤)を米国にて開発中で、現在フェー ズ III 開始前の段階である。 これまでの大学発バイオベンチャーの教訓  バイオベンチャー統計動向調査報告書5)によれ ば、2006年にバイオベンチャー数が 587社をピーク とし、その後、数が減少している。前述のように臨 床試験段階まで進めたベンチャーはあるが、バイオ ベンチャーの設立・投資・運営を通じ、ヒト、モ ノ、カネの面で各種課題・問題点があり、バイオ ベンチャー当事者だけでなく VC を含むバイオベン チャーを取り巻く関係者をも苦しめることになっ ベンチャー企業 本社 所在地 保有技術 主なパイプライン状況 開発品(有効成分、適応領域):開発段階 提携先 株式上場 (2013 /11現在) ナノキャリア㈱ 千葉県 高分子ミセル NK105(パクリタキセル、癌):フェー ズ III(アジア) 日本化薬 東証マザーズ NC-6005(シスプラチン、癌):フェー ズ III(アジア) Orient Europharma ㈱メドレックス 香川県 イオン液体を利用した経皮 吸収型製剤技術(ILTS®: Ionic

Liquid Transdermal System)

ETOREAT(エトドラク、消炎鎮痛): フェーズ III 開始前(米国) 興和 東証マザーズ ㈱ LTT バイオファーマ 東京都 リピッドマイクロスフェア パルクス®(大正製薬、プロスタグランジン E1、慢 性動脈閉塞症)、リプル®(田辺三菱、同):販売 未上場 レシチン化タンパク ミジスマーゼ(スーパーオキシドジスム ターゼ、肺疾患):フェーズ II(日韓) - 未上場 メビオファーム㈱ 東京都 リポソーム表面にトランス フェリンを結合 MBP-426(オキサリプラチン、癌): フェーズ I/II(米国) - 未上場 出所:各社のホームページから作成(2013年 11月現在) 表 1 国内 DDS ベンチャーのパイプライン

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た。これらの教訓は、DDS ベンチャーにも共通す ることである。  「ヒト」に関しては、当時から経営者となり得る人 材が少なかったこともあり、大学教授がベンチャー を創業し、社長となったが、企業運営がうまくいか ないケースが多かった。また、製薬会社で研究開発 の経験のある若い人材は流動化しておらず、大学 シーズを製薬会社が活用できる段階までに育成でき る人材の確保は難しかった。さらに、ベンチャーと いうことで、製薬会社も開発を進めてこなかった新 しいモダリティの開発品(例 : 新しい DDS 医薬、癌 ワクチン、再生医療、遺伝子治療など)のベンチャー が多く起業したが、そもそも国内での規制面がまだ 未整備の中で、官民ともに経験を有する人材が乏し く、研究開発が頓挫したり、幾度の試行錯誤により 長期間要したりした。  「モノ」に関しては、バイオベンチャーのモノ・サー ビスが製薬会社にとってのマーケットインのモノ・ サービスとなっていることが望まれるが、プロダク トアウト型となると、製薬会社にとって魅力度は薄 くなる。また、大学シーズを製薬会社が導入するに は、データ量・質の面で両者間でのギャップは大き く、特許戦略が不十分であるケースもあった。  「カネ」に関しては、調達した資金全てを研究開発 費として活用できるわけでなく、管理部門費用、上 場準備費用などが嵩むことになる。また、VC から の資金調達を受けるには、無理して株式上場を狙う 資本政策(経営陣の株式における議決権シェア維持 を踏まえた VC などからの資金調達計画のこと)を 考えざるを得ない。一方で、株式上場までに十分な 資金が国内では集められるバイオベンチャーは少な い。 DDS 技術を活用したビジネスモデル  DDS 技術をビジネスの視点から見た場合、製薬 会社内の新規事業展開、大学発ベンチャー化や製薬 会社からのスピンアウト(Spin-out)、異業種からの 医薬事業参入の 3 つの方向性があると考えられる。 また、研究開発戦略において、DDS 技術は自社製 図2 DDS 技術の導入と DDS 医薬品の研究開発起源

大 学

ベンチャー

製薬会社

DDS 技術 有効成分 (主に特許切れ薬) DDS 技術 有効成分 (既存薬または新薬) 有効成分 (既存薬または新薬) DDS 技術

医薬品上市

医薬品上市

DDS 医薬品B DDS 医薬品C DDS 医薬品A ①事業化・技術導入 ②技術導入 ③提携・買収 ④自社開発

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品のライフサイクルマネジネント、他社の特許切れ 既存薬の高機能化、新規有効成分の効果・安全性の 強化などに活かされる。  製薬会社や DDS ベンチャーにおいて、DDS 技術 を活用した事業を立ち上げる場合の 3 つのケースを 図 2 に示した。①は大学が有する DDS 技術シーズ を基にベンチャーを起業化したり、既存ベンチャー が新たに大学からの技術シーズを技術導入したりす る場合である。②は①と同様に、製薬会社が DDS 技術を導入する場合である。③は DDS 技術を有す るベンチャーと提携し、新たな DDS 医薬を創製す る場合や DDS 医薬の開発品を導入、あるいは DDS ベンチャーごと買収する場合である。④は製薬会社 が自社で DDS 技術から研究開発する場合や素材・ 化学系の事業会社が他分野技術を医薬品に応用する 場合である。  DDS 技術と有効成分の組み合わせとして、以下 の 3 つが想定でき、前述に併せて図 2 に示した。 ベンチャーが保有する DDS 技術と提携先となる製 薬会社がもつ有効成分を組み合わせた医薬品(DDS 医薬品 A)を創製する場合である。この場合は有効 成分としては、主に当該製薬会社が有する既存薬 や新薬が想定できる。次に、ベンチャーが有する DDS 技術を用いて特許切れの承認薬を元に有効性 や安全性の面での付加価値を高めた医薬品(DDS 医 薬品 B)を自社で創製する場合である。3 つ目に製 薬会社が DDS 技術と有効成分を組み合わせて医薬 品(DDS 医薬品 C)を創製する場合である。  今回は DDS ベンチャーにおける DDS 医薬品 A と DDS 医薬品 B を考えることとし、それぞれの事 業としてのメリット・デメリットを表 2 に示した。 DDS ベンチャーの収益モデルとして、提携した製 薬会社より契約一時金(アップフロントペイメント (upfrontpayment))、承認までの開発段階のステッ プアップに応じた収入であるマイルストンペイメン ト(milestonepayment)、承認後の製品売上に応じ たロイヤリティ収入(royality)がある。また、契約 によっては、ベンチャーへの出資や共同開発費の支 給、製薬会社への DDS 材料や DDS 医薬品原末の 供給分がベンチャーの売上に加算される。  DDS 医薬品 A の事業では、まず提携して欲しい 製薬会社に DDS 技術の魅力・有用性を示す必要が ある。もし早期の提携が難しければ、DDS 医薬品 B を自ら研究開発していくビジネスモデルに変換す ることも考えなければならない。また、1 つのプロ ジェクトから得られる収益は大きくないことから、 複数の製薬会社から複数のプロジェクトを進めてい く必要がある。顧客の研究開発のニーズに合わせた 医薬品を創製することが可能で、研究開発費は嵩ま ないメリットがある一方で、顧客側の研究開発の優 先順位に従わざるを得ないデメリットがある。  DDS 医薬品 B の場合の事業は、創薬ベンチャー と同様であり、まず自社でトータルの開発品として 少なくとも POC(ProofofConcept、ヒトでの効果 確認)まで進めていく必要がある。自社の研究方針 で進めることができ、提携に成功したときの収益は 特 徴 事業としてのメリット 事業としてのデメリット DDS 医薬品 A DDS 技術を製薬会社が要望 する有効成分と組み合わせる ・ 製薬会社との共同開発あるいは受託で 進めていくので、自社の研究開発費は 大きく嵩まない。 ・ 製薬会社のニーズにもとづくプロジェ クトであり、魅力的な医薬品となる可 能性は大。 ・ 1 つのプロジェクトとしての収益は小 さく、事業として成立するためには複 数のプロジェクトを進めていく必要が ある。 ・ プロジェクトの進捗は共同開発してい る製薬会社のペースに合せざるを得な い。 DDS 医薬品 B DDS 技術を活用した医薬品 として自社開発 ・ 自社開発品であり、収益は大きくなる。 ・ 自社方針で研究開発を進められる。 ・ 自社開発品として研究開発費が嵩む。 ・ 製薬会社への提携が必要であるが、製 薬会社にとって魅力的でなければ、提 携できない。また、早期提携ができな ければ、後期臨床試験も自社で進めて いく必要がある。 表2 DDS 医薬品 A と DDS 医薬品 B の違い

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大きいというメリットがある一方で、提携までは自 らの研究開発費で賄わなければならず、製薬会社の ニーズに合わなければ提携もできないデメリットが ある。 海外における代表的な DDS ベンチャー・DDS 医薬品  海外には数多くの成功している DDS ベンチャー があるが、その中で DDS 医薬品 A の事例として NektarTherapeutics(Nektar)が手がける PEG(ポ リエチレングリコール)化医薬品を、DDS 医薬品 B の事例として Abraxane®を挙げる。  Nektar は、現在バイオ医薬や低分子医薬に対し、 PEG 化技術を提供している DDS ベンチャーで米国 株式市場の 1 つである Nasdaq に上場している。当 社はもともと肺吸入技術を保有し、インスリン肺吸 入製剤を開発していた InhaleTherapeuticSystems だが、2001年に PEG 化技術を保有する Shearwater Corporation(2000年に EnzonPharmaceuticals から 提訴されていたが、2001年に和解)を買収した後、 同社に社名変更した。Naktar 関連の PEG 化医薬品 の売上推移を各社の AnnualReport により表 3 を 作成した。製薬会社による製品売上に対し、Naktar 社が受け取っているロイヤリティは小さい。また、 2005年以降に上市された 3剤(Macugen®,Cimzia®, Mircera®)の承認前に製薬会社から受け取った何ら かの研究開発段階の収入は 10百万ドル以上程度で ある。これが前述で DDS 医薬品 A のビジネスモデ ルの場合は、複数のプロジェクトを進めていく必要 がある所以である。  Abraxane はヒト血清アルブミンにパクリタキセ ルを結合させナノ粒子化したパクリタキセル製剤で あり、2005年に米国にて乳癌の承認を取得し、そ の後、胃癌、非小細胞肺癌と適応拡大し、世界で、 2013年 2月現在 42 か国で承認されている6)。2001年 に AmericanBioscience が開発していた Abraxane をフェーズ III の段階で、同社の子会社にあたる AmericanPharmaceuticalPartners(APP 社)に北 米の開発販売権を付与した。この契約には、一時 商品名 医薬品名 適応症 オリジナル 契約年世界初上市年(百万ドル)各社売上 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 Pegasys® peginterferon alfa-2a C 型肝炎 インターフェ ロンα 1998 2002 Nektar 1 3 5 3 3 4 2 2 2 2 2 2 Roche 61 701 950 1,127 1,171 1,366 1,513 1,528 1,582 1,626 1,759 Somavert®pegvisomant先端巨大 症 成長ホルモン 様タンパク 2000 2003 Nektar (1) (3) 5 1 1 2 1 1 1 1 1 1 Pfizer (Sensus, Pharmacia) 5 178 240 190 209 255 245 157 183 197 PEGIntron®peginterferon alfa-2b C 型肝炎 インターフェ ロンα 2000 2001 Nektar 1 1 1 3 3 3 Merck (Scering-Plough) 802 563 751 837 911 914 845 737 657 653 Neulasta® pegfilgrastim好中球減 少症 G-CSF 1995 2002 Nektar (1) 3 6 5 6 11 6 7 8 8 8 8 Amgen 464 1,255 1,740 2,288 2,710 3,000 3,318 3,355 3,558 3,952 4,092 Macugen®pegaptanib sodium 加齢黄斑 変性症 抗 VEGF-165 アプタマー 2002 2005 Nektar (2) (5) (4) 5 3 1 0 Pfizer/ Valeant (Eyetech, OSI) 185 110 31 31 19 15 11 15 Cimzia® certolizumab pegol リウマチ 抗 TNFα抗体 2002 2007 Nektar (5) (9) (3) 1 2 3 5 注 UCB (Pharmacia, Pfizer) 15 105 263 434 600 Mircera® methoxy polyethylene glycol-epoetin beta 腎性貧血エリスロポエチン 2002 2007 Nektar (1) (5) (5) (3) (1) 1 1 2 2 注 Roche (Solvey) 36 50 165 245 390 410

出所:NektarThrapeutics(2002年以前は InhaleTherapeuticSystems)や製薬各社の米国証券取引委員会(SEC)に提出された 10-K(Annualreport)から作成 契約年:製薬会社との PEG の製造、ライセンス契約の締結

各社売上:( )内は研究開発段階における提携した製薬会社からの収入、百万ドル単位に四捨五入、空欄はデータなし。 注:2012年 2月に Cimzia と Mircera のロイヤリティ権利を RoyaltyPharma に 124百万ドルで売却

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金として 60百万ドル、共同開発費 2百万ドル、乳 癌、肺癌、卵巣癌での承認毎に 60百万ドルのマイ ルストンペイメントなどが含まれている7)。また、 2005年に AmericanBioscience が日本の権利を大鵬 薬品(現在、大塚 HD のグループ会社)に付与した 際には、契約一時金 20百万ドル、フェーズ I 開始 時に 3百万ドル、他マイルストンペイメントの合計 が 35.5百万ドルとなっている8)。ちなみに、2006年 に AmericanBioscience と APP 社は合併し、さら にそこから 2007年に Abraxane 事業を含む Abraxis BioScience がスピンオフした。2010年に Abraxis BioScience は Celgene に買収された。Abraxane の 売上推移を各社の AnnualReport により表 4 を作 成した。 DDS ベンチャーにおける事業上重要な観点  小職が投資活動の中で感じた DDS ベンチャー における事業上、重要な観点が 2 つある。1 つは、 DDS 技術としては優れていても、トータルの医薬 品として製薬会社にとって魅力的かどうかの方が重 要である。すなわち、保有する DDS 技術に相応し い狙うべき適応症は何で、そのために有効成分とし て何を選択するのが良いのか、と考えるのが理想で ある。大学での研究では、DDS 技術の実現可能性 を追求するあまり、最終製品として DDS 医薬品の ニーズがあるか、他社開発品などの競合優位性はど うかを確認していない場合がある。また、研究とし てのやりやすさ、手に入れやすさで有効成分を選択 している場合がある。この研究成果をもって、起業 するベンチャーの第一開発品となる場合にはこの壁 にぶつかることになる。  もう 1 つは製造面である。有効成分は承認を得て おり、比較的原薬は手に入りやすい。一方、DDS 材料の方は GMP 製造できる受託会社を探す必要性 がある。DDS 技術が画期的なものである場合には、 前臨床用、治験用、将来の商業用のために比較的大 きな設備投資や委託製造費が必要となる。また、実 際の開発段階より前もって原薬が必要となり、先行 投資となる。DDS ベンチャーの多くは製造面の壁 にぶつかった。 大学と製薬会社とのオープン・イノベーション  前述したキーワードである“オープン・イノベー ション”とは、当時ハーバード・ビジネス・スクー ル助教授であった HenryChesbrough 博士の著書 『OpenInnovation』で提唱した新しいビジネス戦 略である9)。従来の“クローズド・イノベーション (closedinnovation)”では、自社だけで新製品や新 技術を開発する自前主義だったが、オープン・イノ ベーションは、自社の強みを活かしつつも、大学や 他の事業会社などの外部組織・人材と協働しながら 新製品や新技術を開発していく考え方である。  製薬業界において、患者が多い生活習慣病などを 中心とした「低分子化合物×ブロックバスター医薬 品」モデルから、癌、自己免疫疾患や希少疾患など のアンメット・メディカル・ニーズ(未充足な医療 ニーズ)に対する対応が求められている。その中で、 製薬会社は抗体医薬や核酸医薬などの新しいモダリ ティの技術獲得が必要となり、研究開発戦略が多様 化し、従来型のクローズド・イノベーションでは対 応できず、オープン・イノベーションへの転換が求 められている。  そのような中で、国内製薬会社が大学などに直接 シーズを求める動きがみられる10)。最も早かったの は、協和発酵㈱(現在、協和発酵キリン㈱)であり、 2003年に「創薬シーズ・コンテスト」を実施した。そ 商品名 医薬品名 適応症 オリジナル 世界初 上市年 契約年 各社売上 (百万ドル) 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 Abraxane® albumin-bound paclitaxel 乳癌 paclitaxel 2005 2001 Abraxis BioScience 134 175 325 336 315 306

2006 大塚 HD(大鵬) 13 41 45 2010 Celgene 71 386 427

出所:AbraxisBioSciences(2005年以前は AmericanPharmaceuticalPartners)や製薬各社の米国証券取引委員会(SEC)に提出された 10-K(Annual report)から作成

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の後、2007年に塩野義製薬による“FINDS”11)、2011 年に第一三共による“TaNeDS”12)、アステラス製薬 による“a3(エーキューブ)”13)と呼ばれるシーズ公募 が開始された。最近開始した 3社の概要を表 5 に示 した。  これらのシーズ公募では DDS 関連の技術も求め ており、例えば、FINDS の 2013年度募集における ウィッシュリストには「次世代先端医薬品につなが る創薬プラットフォーム技術」の中で「次世代中分子 医薬品を開発するのに役立つプラットフォームテ クノロジー(ライブラリ構築、経口吸収化、DDS な ど)」、TaNeDS でも「低分子医薬・バイオ医薬に持 続性・標的指向性を付与する、実用性の高い DDS 新技術・新規創薬アプローチ」と応募テーマに入っ ており、DDS 技術は製薬会社にとって魅力的なテー マといえる。  さらに、2013年 9月に三菱 UFJ キャピタルは、 第一三共と共同で“OiDE”(Openinnovationforthe DevelopmentofEmergingtechnologies)と名付け た新しいタイプのオープン・イノベーション事業を 開始した14)。この事業の目的は、国内大学などの将 来有望な創薬基盤技術となりうる研究成果から、製 薬会社の視点で画期的な創薬基盤技術に育成するこ とである。有望な研究成果に対して、「OiDE ファ ンド」15)(ファンド総額 10億円)による全額出資でベ ンチャーを設立し、第一三共と三菱 UFJ キャピタ ルが全面的に支援し育成する。対象とする技術分野 に、ワクチン、核酸、次世代抗体、ペプチドなどと ともに DDS 技術も加えている。 期待する DDS ベンチャーの一社  小職がファインディング活動を行っている中で最 近注目しているベンチャー(未上場企業)は、2013年 4月に独立した企業体として産声をあげた株式会社 糖鎖工学研究所(京都市、朝井洋明代表取締役社長) である。とはいっても、当社は 2012年 4月に大塚化 学(株)の研究開発部門の 1 つであった「糖鎖工学研 究所」を新設分割し16)、その後、MBO(Management Buyout、経営陣買収)を行ったベンチャーである17)  当社は、糖ペプチドや糖タンパク質を化学合成で きる技術を有し、2013年 7月 10日、ペプチド受託合 成で世界最大手のスイス Bachem 社との共同研究 により、インターフェロンβ―1a を世界で初めて工 業的な完全化学合成に成功し、その生理作用も確認 したと発表した18)。当社技術は、大阪大学理学部化 製薬会社 活動名 開始年 内 容 塩野義製薬 シオノギ創薬 イノベーションコンペ (FINDS) 2007 ・ 募集対象:国内研究機関、海外(2011年より開始) ・ 2013年度募集(終了):アイデア段階の独創的、革新的な創薬シーズにつな がる研究を対象とした「萌芽的シーズ発掘型」と実用化に限りなく近い研究 を対象とした「創薬ニーズ解決型」の 2 つの枠組み ・ 1件あたりの研究費:萌芽的シーズ発掘型は最大 3百万円 / 年、創薬ニーズ 解決型は最大 5百万円 / 年 ・ 研究期間:萌芽的シーズ発掘型は最大 5年、創薬ニーズ解決型は最大 2年 ・ 2011年度実績:応募件数 104件、採択件数 2件 第一三共 TaNeDS (タネデス) 2011 ・ 募集対象:国内研究機関、海外(2013年より開始) ・ 2013年度募集(終了):創薬につながるシーズ / 技術の獲得につながる研究 テーマ、及び医薬品製造のプロセス開発に関わる課題を解決する研究テー マ。フィージビリティ研究型と共同研究型。 ・ 1件あたりの研究費:5 ~ 20百万円(研究型により異なる) ・ 研究期間:1 ~ 2年程度 ・ 2011年実績:応募件数 333件、採択件数 21件 アステラス製薬 a3 (エーキューブ) 2011 ・募集対象:国内研究機関 ・2013年度募集(11月末終了):研究テーマ事前設定型、創薬標的・創薬基 盤技術の探索研究。 ・ 1件あたりの研究費:100万円~ 1億円 ・ 研究期間:1年 ・ 2011年実績:応募件数 84件、採択件数 10件 表5 製薬会社による大学からのシーズ公募施策

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文献  1)http://www.nanocarrier.co.jp/research/pipeline/index.html (2013.11.25 アクセス)  2)http://www.mebiopharm.com/sou1.html(2013.11.25 アクセ ス)  3)http://www.ltt.co.jp/souyaku02.html(2013.11.25 アクセス)  4)http://www.medrx.co.jp/business_iltspipeline.html (2013.11.25 アクセス)  5)一般財団法人 バイオインダストリー協会 「2011年バイオ ベンチャー統計・動向調査報告書」  6)アブラキサン 医薬品インタビューフォーム 大鵬薬品  7)AmericanPharmaceuticalPartners,Inc.,Annualreport2002  8)AmericanPharmaceuticalPartners,Inc.,Annualreport2006  9)HenryChesbrough『OPENINNOVATION』産業能率大学出 版部 10)公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 HS レポート 学専攻の梶原康宏教授の研究成果をもとに、大塚化 学内の糖鎖工学研究所がさらに研究開発したもので ある。ニワトリ卵黄から抽出したヒト型糖鎖アスパ ラギンを原料に、糖ペプチドを化学合成し、複数の ペプチド鎖を連結し糖たんぱく質を合成できる。こ れまで、バイオ医薬品の多くが CHO 細胞(ハムス ター卵母細胞)で生産されているため、糖鎖はヒト 型ではなく、糖鎖の種類や本数、糖鎖を結合する場 所は不均一であった。当社技術により、ヒト型糖鎖 でかつ糖鎖の種類・本数・結合場所を自由自在に操 ることができ、均一な糖ペプチド、糖タンパク質を 合成することできる19)  当社を DDS ベンチャーとして取りあげた理由は、 バイオ医薬の領域で糖鎖修飾(Glycosylation)を自由 自在に行うことができれば、現在、広く活用されて いる PEG 修飾(PEGylation)を一部置き換える DDS 技術になるのではないかと考えたからである。水溶 性を高めたり、血中滞留性を高めたりする目的で、 PEG 化されたペプチドやタンパク質は医薬品とし て承認されており、すでに確立された技術ではある が、PEG は生体にはない物質であり、その毒性に 関して完全に払拭されているわけではない。また、 修飾される PEG の数、鎖長、結合される場所が多 様であり、その中から薬理的に最適な構造を持った ものを精製することが製造上の課題になっていると 聞く。ペプチドやタンパク質に対し、生体成分であ るヒト型糖鎖を均一に修飾できる技術は、バイオシ ミラー、バイオベターの領域だけではなく、これま で医薬品にできなかったペプチドなどから画期的な 新薬につながる DDS 技術になるのではないかと期 待している。 おわりに  医薬品のターゲットが限られている中で、DDS 技術が従来医薬品の効果、安全性を向上させるだけ でなく、これまで効果、安全性、薬物動態の面で医 薬品にできなかった有効成分を、DDS 医薬品に飛 躍させる可能性を秘める。実際、DDS 技術は広く 医薬品として実用化され、また、数多くの開発品が 存在する。海外では本稿で紹介した以外にも DDS 医薬品が上市、開発されているが、残念ながら国内 発の DDS 技術により上市した医薬品や開発品はま だ少ない。  医薬品開発におけるオープン・イノベーションの 潮流の中で、製薬会社がバイオベンチャーを介さず に直接大学に DDS 技術に関わる研究成果を探すよ うな動きがある。小職はこのような動きを投資機会 の 1 つと捉え、これまで以上に深い興味を持って DDS 技術に関わっていきたい。 No.28 研究資源委員会調査報告書「創薬におけるオープンイ ノベーション-外部連携による研究資源の活用-」2013年 3 月 11)http://www.shionogi.co.jp/finds/(2013.11.25 アクセス) 12)http://www.daiichisankyo.co.jp/corporate/rd/taneds/ (2013.11.25 アクセス) 13)http://www.astellas.com/jp/a-cube/(2013.11.25 アクセス) 14)三菱 UFJ キャピタル ニュースリリース 2013年 9月 17日 15)http://www.mucap.co.jp/newslist/OiDE/tabid/77/Default. aspx(2013.11.25 アクセス) 16)大塚化学株式会社 ニュースリリース 2012年 3月 28日 17)大塚化学株式会社 お知らせ 2013年 03月 27日 18)Bachem、糖鎖工学研究所 ニュースリリース 2013年 7月 10日 19)日経産業新聞「先端技術 テクノトレンド 糖タンパク質完 全化学合成」2013年 8月 23日

参照

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