天然ガス自動車用燃料噴射系の
瞬間流量計測手法
群馬大学 大学院工学研究科 機械システム工学専攻
准教授 荒木幹也
PFI 気体燃料インジェクタ (ケーヒン(株)) 気体燃料噴流の可視化写真 (3気圧,噴射開始0.7 ms後) 10 mm気体燃料の自動車エンジンへの適用
気体燃料 (水素,CNG:圧縮天然ガス など) - ガソリン,軽油などの液体燃料の代替燃料として,幅広く使用. - 単位発熱量当たりのCO2排出量を低減できる. - SOx排出量を大幅に低減できる. 気体燃料の適用 - 吸気管噴射式火花点火エンジン (3 気圧) - 筒内直接噴射火花点火エンジン (100 気圧) - 筒内直接噴射圧縮点火エンジン (1000 気圧以上,多段噴射?) エンジン開発において,気体燃料インジェクタ の特性を知ることはきわめて重要となっている. CNG DI ディーゼルエンジン搭載車 (いすゞ自動車HPより抜粋)燃 料 噴 射 率
燃料噴射率 - インジェクタ噴口から噴出する燃料の瞬間流量. - 燃料の貫徹力,微粒化(液体燃料の場合),混合気形成,燃焼, 排気特性に大きな影響を及ぼす. - 時間とともに,きわめて急激に変化する.Injection rate Time (order of msec or less)
液体燃料の場合
ボッシュ式
Bosch-type
fuel injection rate meter - 液体燃料は断面積一定の管内に噴射 され,一次元流れを形成する. - 燃料速度duは,管内静圧dPに比例 する. ここで a:音速, ρ:密度. - (a ρ)は 「音響インピーダンス」と 呼ばれ,液体燃料の場合は定数となる. ρ a dP du =
いかにして噴射率を計測するか?
いかにして噴射率を計測するか?
計測は不可能である. - 気体燃料の場合,音響インピーダンス (a ρ) は,もはや定数と ならない.気体燃料の持つ圧縮性のため, P,,ρ, T, a, uと いった量が,全て変数となる.気体燃料の場合
ボッシュ式で計測は可能か?
本発明では, - 管内一次元流れを用いた気体燃料噴射率計を開発. - 計測精度を2~3 %(従来は10 %)まで向上. - 気体の圧縮性を考慮した定式化の改良. - 管摩擦の大きさを事前に予測し補正. - 管内流れのレイノルズ数が非常に大きくなり( 104~105 の オーダ),管摩擦の影響が顕著となる.気体燃料は密度が小さい ため,速度が非常に大きくなる.データ収集系
管内静圧のみを取得する
気体燃料噴射率計概略
気体燃料噴射率計概略
いかにして噴射率を計測するか?
A A A - A section 100 4000 D = 8 B B B - B sectionFuel injector Press. transducer
• 供試気体: N2
• 噴射圧力 Pinj: 356 kPa(a) (255 kPa(g))
(流れはインジェクタ噴口で「閉塞」する) • 管内初期静圧 P0 : 大気圧 • 管内初期静温 T0 : 室温 • 噴射期間 τ : 3.4 ~ 20 ms • インジェクタ噴口径: 2.0 mm • 管内径: 4.0 および 8.0 mm • データサンプリングクロック: 2 μs
実 験 条 件
u x x P Wave front of compression wave x T x ρ a x du a+da P+dP ρ+dρ T+dT 0 a P ρ T ρ' Contact surface Injector du dt a dt a' T'
定式化(改善後)(
1/3)
- 断面積一定の管内に,流体が 満たされている. - 管内に新たに流体が流れ込むこと で引き起こされる圧力波により, 管内の流体は圧縮される. 液体燃料の場合 - u および P は変化する.ただし, a,ρ,Tは変化しない. 気体燃料の場合 - 圧縮性のため,全ての量が変数と なる.定式化(改善後)(
2/3)
一次元,圧縮性,非粘性,断熱流れ を仮定. - 質量保存則より, - 運動量保存則より, - 以上より,P と u の関係は, - 上式を積分することで,気体 燃料速度 u を求めることが できる. Adt ) du a )( d ( aAdt = ρ + ρ − ρ dPA A a A ) du a )( d ( ρ + ρ − 2 − ρ 2 = ) t ( ) t ( a dP du ρ = u x x P Wave front of compression wave x T x ρ a x du a+da P+dP ρ+dρ T+dT 0 a P ρ T ρ' Contact surface Injector du dt a dt a' T'定式化(改善後)(
3/3)
ρおよびa を, P で表す必要がある. - 断熱流れの仮定より, - 音速の式より, 0 1 0 ρ ρ ⎟⎟γ ⎠ ⎞ ⎜⎜ ⎝ ⎛ = P ) t ( P ) t ( ) t ( ) t ( P ) t ( a ρ γ = u x x P Wave front of compression wave x T x ρ a x du a+da P+dP ρ+dρ T+dT 0 a P ρ T ρ' Contact surface Injector du dt a dt a' T' 気体燃料噴射率は, ) ( ) ( ) (t A t u t m& = ρ′ 2 2 0 0 2 1 0 1 0 0 ) 1 ( 2 ) ( 1 2 ) 1 ( 2 ) ( 2 ⎪⎭ ⎪ ⎬ ⎫ ⎪⎩ ⎪ ⎨ ⎧ − − − − − = − γ ρ γ γρ γ γ γ γ γ γ γ γ P t P P RT A t P ⎪⎭ ⎪ ⎬ ⎫ ⎪⎩ ⎪ ⎨ ⎧ − − − × − 2 0 0 2 1 0 1 0 ) 1 ( 2 ) ( 1 2 γ ρ γ γρ γ γ γ γ γ P t P P(1) 開弁信号が入力され ると ,P は急激に増大 する. (2) 全開期間でも P が 増大を続ける. (3) 閉弁信号が入力され ると,P は急激に減少 する. ただしP は初期値 まで戻らない. インジェクタ駆動信号と管内静圧の履歴(噴射期間τ= 20 ms) -10 0 10 20 30 40 90 100 110 120 130 140 150 Static pressure P kPa(a) Time t ms
Inj. start Inj. end
Arrival of 1st reflection wave (b) △ P1 △ P2 -10 0 10 20 30 40 -5 0 5 10 Input voltage V (a)
管内流れの模式図 - 管摩擦のため,圧力勾配 dP/dx が形成され,その圧力 信号が,本来の静圧変動に 重畳する. - 圧力勾配のため, 静圧が時間とともに増大する ように「見える」. この結果,噴射率を過大評価 してしまう.
レイノルズ数が計測精度におよぼす影響
- ダルシー・ワイズバッハの式 を用いて,圧力勾配を補正.補正された管内静圧と噴射率の履歴(噴射期間τ= 20 ms) 気体燃料噴射率 - 圧力勾配補正により,「見かけの 圧力上昇」を回避. 計測精度を確認するため, - 噴射率を時間で積分することで, 噴射1回当たりの燃料流量を 求め,較正試験結果と比較を行う.
気体燃料噴射率の計測結果
-10 0 10 20 30 40 90 100 110 120 130 140 150Corrected static pressure
P
kPa(a)
Inj. start Inj. end
Arrival of 1st reflection wave (b) -10 0 10 20 30 40 -5 0 5 10 Input voltage V (a) -10 0 10 20 30 40 0 2000 4000 6000 Injection rate m(t) mg/s (c) Time t ms ・
較正試験装置概略
いかにして計測精度を確認するか?
較正試験 - 噴射期間を一定とし,気体燃料 を圧力容器に1000回~2000 回噴射する. - 容器内の圧力上昇から燃料 の総流量を求め,噴射回数で 除することで噴射1回当たりの 燃料流量を求める.気体燃料噴射率計と較正試験との比較 計測精度 - 2~3 %以内. - ほぼ実用レベル.当研究室 内では,問題なく使用中. 計測精度向上のため, - 定式化の改善が必要. - 管摩擦の影響を完全に 排除することが必要.
気体燃料噴射率の計測精度
0 10 20 0 10 20 30 40 50 60Mass flow rate mg/st
Injection rate meter Calibration test (a) 0 10 20 -10 -5 0 5 10 Error % (b) Injection duration τ ms
• 天然ガス・水素自動車用燃料噴射弁(インジェクタ)の開発ツール → 「噴射率」は,燃料噴射弁の性能を決める最も重要なパラメータ のひとつ. → 従来,多数の製品試作を行い,数値解析を行うことで性能予測. 試作工数,解析時間の大幅低減が期待される. • 天然ガス・水素自動車用エンジンの開発ツール → 「燃料噴射弁」と「エンジン」の設計は密接に関連.切り離して考え ることはできない. → 技術的には,走行中の燃料噴射量のオンボード計測も可能. • 各種配管内の瞬間流量計測 → 自動車業界に限らず,急激な流量変動を伴う各種配管流れに 幅広く応用可能.
想 定 さ れ る 用 途
• 想定されるユーザー 自動車部品製造メーカーの燃料噴射弁研究開発部 自動車製造メーカ(含バス・トラック)のパワートレイン研究開発部 自動車エンジン関連の各研究機関および大学 • 想定される市場規模 自動車部品製造メーカ(20社:各20セット納入),自動車製造メーカ (5社:各20セット + オンボードタイプ10セット納入),各研究機関・ 大学(30機関:各2セット納入),1台の導入費用を200万円と想定. → 10億円の市場規模
想 定 さ れ る 業 界
• 計測精度は2~3 %であり,ほぼ実用レベル. • 計測精度を低下させる要因の洗い出しは,ほぼ終了. • 今後,継続研究により計測精度を1 %以内まで向上する予定. 計測精度向上のためのソフト・ハード面での変更を計画中. 随時,特許申請を予定. • オンボード計測のためのソフト・ハードの製作も計画中.
実 用 化 に 向 け た 課 題
本 技 術 に 関 す る 知 的 財 産 権
1. 発明の名称: 気体燃料インジェクタの瞬間流量計測装置 出願番号: 特願2005-095570 (2005年3月29日出願) 出願人: 国立大学法人 群馬大学 発明者: 荒木幹也,志賀聖一,石間経章,小保方富夫,中村壽雄, 藤原康裕 2. 発明の名称:気体燃料インジェクタの瞬間流量計測装置 出願番号: PCT/JP2006/306370 (2006年3月22日PCT出願) 出願人: 国立大学法人 群馬大学 発明者: 荒木幹也,志賀聖一,石間経章,小保方富夫,中村壽雄, 藤原康裕 3. 発明の名称: 気体燃料インジェクタの瞬間流量計測方法 出願番号: 特願2007-179982 (2007年7月9日出願) 出願人: 国立大学法人 群馬大学 発明者: 荒木幹也,藤原康裕,志賀聖一,石間経章,小保方富夫• 管内一次元流れを用いた気体燃料インジェクタの瞬間流量計測 装置を発明し,その計測精度を検証した. • 一次元,圧縮性,非粘性,断熱流れを仮定し,管内静圧から気体 燃料の密度,音速,速度,温度,質量流量を求める式を導いた. • レイノルズ数の増大とともに,管摩擦の影響が顕著になる.管摩 擦による圧力勾配の影響を理論的に見積り,計測精度を向上した. • 本発明の計測精度は,現状2~3 %である.ほぼ実用レベルに達 していると考えている.今後,計測精度1 %以内を目指して研究を 継続中. • 関連特許を,国内2件,国外1件(米国,独国(JST国際特許出願 支援))を申請済み.