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バングラデシュ経済発展モデル(BED-Model)に関する研究*

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日本経済政策学会西日本部会

OnLine ワーキングペーパーシリーズ

№ 3

Japan Economic Policy Association Nishinihon Branch

OnLine Working Paper Series

バングラデシュ経済発展モデル

(BED-Model)に関する研究

An Analysis on Bangladesh Economic Development Model (BED-Model)

チョウドリ マハブブル アロム(長崎外国語大学)

Mahbubul Alam CHOWDHURY, Nagasaki University of Foreign Studies

2011 年 12 月 27 日

日本経済政策学会西日本部会

Japan Economic Policy Association

Nishinihon Branch

(2)

1

バングラデシュ経済発展モデル

(BED-Model)に関する研究

*

An Analysis on Bangladesh Economic Development Model (BED-Model)

チョウドリ マハブブル アロム(長崎外国語大学)

**

Mahbubul Alam CHOWDHURY, Nagasaki University of Foreign Studies

要旨 バングラデシュ経済は,1990 年代初期からマクロ経済の安定的な成長,貿易の自由化,農村インフ ラや農業への投資を通じて,経済成長を遂げ,貧困を削減してきた.その原動力は,マイクロ・ファ イナンス活動,海外出稼ぎ労働者からの送金,および既製服の輸出の3つである.本稿は,バングラ デシュ経済について,その原動力を分析し,バングラデシュ経済発展モデル(BED-Model)を構築す る試みである. Abstract

Since 1990, Bangladesh economy experienced some stable growth with regard to major macroeconomic indicators, and significant progress in social development indicators, rural infrastructure, investment in industrial agricultural sector, and poverty alleviation. This succeeded has come through the miracle activities of Microfinance activities, inflow of Remittance from Migrant Workers, and Export of Readymade Garment products as a “Prime Mover”. This paper reviews aspects of economic development in Bangladesh, an analyzed three prime power, and try to find out a pattern development, vis-à-vis construct Bangladesh Economic Development Model or BED-Model.

キーワード:マイクロ・ファイナンス,グラミン銀行,貧困削減,原動力,BED-Model Keywords: Microfinance, Grameen Bank, Poverty Alleviation, Prime Mover, BED-Model

JEL 区分:O15, P36, I32

*本稿は,日本経済政策学会西日本部会第 87 回大会での報告論文に加筆・修正を施したものである.討論者の佐藤秀樹

教授(九州産業大学)はじめ,朴哲洙教授(熊本学園大学),朝元照雄教授(九州産業大学),塚田広人教授(山口大学)

よりコメントを頂いた.

**連絡先:〒851-2196 長崎市横尾 3 丁目 15-1 長崎外国語大学 TEL:095-840-2000

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1.はじめに

バングラデシュにおいてマイクロ・ファイナンス機関(Micro Finance Institutes:以下,MFIs と略記す

る.)が発展するにつれて,同国からの出稼ぎ労働者が国際労働市場に貢献し,(国産の)既製服の輸出(Export

of Ready Made Garments:以下,ERMG と略記する.)等が安定的な経済成長をもたらしてきた. 1972 年に,わずか 120 ドルしかなかった一人当たり GDP は,2010 年には 750 ドル(47,281 タカ)とな った(MOF[2011, p.8]).また,1972 年に 70%(Akmal:ウェブサイト)以上もあった 1 日1ドル以下で 暮らす貧困層は,2005 年には 40%にまで削減された.ちなみに,バングラデシュ統計局の Report on Welfare Monitoring Survey 2009 報告によれば,貧困層はさらに削減され,31.9%になっているという(BBS[2010] ). また,バングラデシュは,BRICs 予備軍として期待される Next-11 の一国として位置付けられているほか, Union 銀行(スイス)によると,2050 年までに世界第 12 位の新興国になると見込まれている(2008 年 2 月17 日付The Daily Star).

90 年代以降,バングラデシュは,年平均で 5%以上の安定的な経済成長を続けている.同国の独立から現

在までの40 年間の経済発展を顧みると,次の3つがその原動力であるといえる.すなわち,グラミン銀行,

Non–Government Organizations (NGOs),Non–Government Development Organizations (NGDOs)1)

よるマイクロ・ファイナンス(以下,MFと略記する.),海外出稼ぎ労働者からの送金(以下,RMWと略記 する.)及びERMGである.1995 年の 47.5%から 2005 年には 40%,2009 年には 31.9%へと,90 年代半 ば以降の貧困人口比率の大幅な減少を背景として,2010 年現在,輸出指向型の縫製業の発展及び海外出稼ぎ 労働者からの送金が,各々,対GDP比で,12.5%及び 11%以上を占めている. 本稿では,拙稿([2003],[2004],[2005],[2006])に基づき,バングラデシュの経済発展をその原動力 に関して実証的に分析する.すなわち,MF,RMW 及び ERMG について,各々の特徴を述べた上で,経済 成長及び貧困削減に対してどのように貢献したかを説明すると共に,モデル分析という研究の評価原則に関 して注意を喚起する.その際,バングラデシュ独立後の,1972 年から 1975 年まで(社会主義政策)の社会 経済回復期と1975 年から 1990 年までの軍事政権期,及び 1990 年から 2005 年までの3つの期間の 5 年次 統計を分析し,更に,2006 年から最近までの統計を利用しつつ,バングラデシュ経済の発展過程における MF 活動,輸出産業及び RMW の影響に関して長期的統計を分析する.データに関しては,政府統計のみな らず国連,世界銀行,アジア開発銀行,国際協力機構・日本貿易振興機構等の統計やクロス・カントリー分 析,各分野の時系別データやTFP 分析を含む先行研究等を幅広く参照した. 本稿の構成は以下の通りである.すなわち,第2 節では,バングラデシュ経済発展の3つの原動力の各々 に関して考察し,第 3 節では,バングラデシュ経済発展(BED)モデルに関する分析を行う.すなわち, MF による生活改善,人的資源開発による就学改善,労働集約型の輸出産業を重視する経済成長メカニズム が機能する鍵にはBED 型原動力(MF,RMW,ERMG)があり,その一連の原動力が一定水準の発展を遂 げていることが必要である,という仮説をたてて分析する.第4 節では,バングラデシュにおける経済発展 を国際的に比較分析し,最後に,第5 節では,若干の展望について述べる. 1) MF 活動を行っている NGO,NGDOs は,2008 年の時点で国内団体 2347 と国際団体 213 であり,さらに未承認の団体を加え ると5万程度が存在している(NGOs Affairs Bureau[2009]).

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2.バングラデシュ経済発展の原動力に関する考察

2.1 マイクロ・ファイナンス(MF)

バングラデシュでは,政府当局,グラミン銀行,NGOs 等が,MF の活性化による貧困緩和,人的資源の 能力向上のための学校教育や技術訓練,さらに,少人数のグループによる経済活動ないしマイクロ・エンタ ープライズ(Micro Enterprises: MEs)に対する支援を行っている.

MFについては,近年,特にグラミン銀行についての批判や意見2)が散見されるが,周知の通り,バングラ デシュは,MFを成功させ活性化した最初の国であり,バングラデシュの農村社会におけるMF活動と経験そ してそのやり方は,ユニークである(チョウドリ[2007, pp.113-132]).昔と違ってよく働くようになってき た農村の貧しい女性は,MF受益者として経済的機会を積極的に活用し,マイクロ・エンタープライズ,(特 に,農業セクターと非農業セクターから成るインフォーマル・セクター3)を中心に,手工芸品生産,大工, 材木商,服の行商,養鶏,養魚,搾乳,菓子作り,精米といった日銭が入る仕事)に従事するようになった (シャプラニール[2006, pp.94-120]).このことは,貧困削減や経済発展に対して著しく有益であった(チョ ウドリ[2007, pp.113-132]). バングラデシュ政府は,極貧困層を対象とした数多くの融資プログラムを実施し,MFIs にライセンスを 与えフォーマル化する機関(Microcredit Regulatory Authority)及び MF の仲介機関(PKSF)を設立する ことによってフォーマル・セクターの振興を図ってきた. MFIs に対する施策は,バングラデシュの中央銀行によって行われている.具体的には,貧困層の個人所 得の向上機会のみならず,就業・職業訓練等の機会を提供する可能性に注目して,融資条件を緩和している. この施策は,補助金に近い色彩をもつものである(開発と倫理:ホームページ).バングラデシュの MFIs は,累計では,グラミン銀行が最も多く,NGO がこれに次いでいたが,現在の貸付残高ではすでに NGO が最大となっている. この他,政府系の機関も MF を行っている(表1).その結果,バングラデシュの「貧 困ライン以下の人口割合(全国)」は1991/92 年の 58.8%から,2005 年には 40.0%になった. 一般に,貧しい人々にとって国内の商業銀行から融資を受けることは不可能に近い.そこでMFIsはMEs ローンによってその潜在的なニーズにも取り組んでいる.MEsローンの利用者には自営業が多い.自営業を 強化,拡大させ,着実にその生産性拡大を狙うことが可能となれば,自ずと貧困から脱することができるだ ろう.最近,グラミン銀行はMEsローンの金額を無制限として,2007 年に 1,817,138 メンバーに 445.2 億 タカ(671.99 百万ドル)を融資した.平均融資額は,24,495 タカ(355.05 ドル)である.なかでも最大の 融資金額は一人1.6 百万タカ(23,209 ドル)の融資で,その使い道はトラックの購入のためであった(グラ ミン銀行ウェブサイト).グラミン銀行をはじめ,NGOs,NGDOs,MFIsより融資を受けた貧困層は,2007 年度に3,910 万人に達し,それは,貧困家庭の 75%以上を占める(MOF[2009, p.184]).その結果,貧困が 解消し(表2),教育指標の改善及び優れた人的資源が創出され,それらが経済発展に結びついている4). 2) 例えば「彼が言っているほど事業はうまくいってはいない」,理想的なカネの回り方をしているわけではない」,けっこう取 り立てがきびしい」あるいは金利がなんだかんだ言っても,グレーゾーン並みに高い」などといった声が聞こえてくる(浜・高 橋[2009, p.188]). 3)

1993 年に開かれた国際労働統計家会議(Conference of Labor Statisticians, ICLS)では,インフォーマル・セクターに‘インフォ ーマル賃金労働者’(非公式企業の被雇用人,employees of informal enterprises)というカテゴリーを追加した.これは初期の自 営業主や家族事業従事者を意味していたインフォーマル・セクターの定義が,拡大されたことを意味するものである. Jicr. Roukyou. Gr. jp/publicationhttp:/ /2002/115/115W-6-2. pdf#

4)

加茂[1998, pp.22-23]は, 所得の上昇が保健衛生指標を改善する効果を高めるためには紛争の終結が重要であるとし,政府の

役割として産業政策や貿易の開放度,インフラ整備,政府の最終消費支出,などのマクロ経済変数に注目している. マクロ経

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表 1 バングラデシュにおける MF を実施する機関 (億タカ) MF の実施する機関 1998 累積 2000 2005 2006 2007 MFIs (NGOs) 535.44 301.99 781.53 5,556.76 7,323.23 グラミン銀行 1,009.00 160.07 459.05 3,063.69 3,567.98 PKSF 46.82 11.80 36.60 350.60 497.25 BRDB 111.64 24.89 68.37 196.92 229.24 銀行など* 442.14 69.69 93.47 1,440.94 1,782.36 政府関係機関(省) 160.63 65.88 98.56 638.63 965.91 合計 億タカ) 1,306.76 634.32 1,440.56 11,340.57 14,505.66 百万ドル 2,875.16 1,175.76 2,346.57 16,908.56 21,142.20

注:PKSF(Palli Karma Shahayak Foundation 農村就職援助機関),BRDB(Bangladesh Rural Development Board 農村 発機関),*民間銀行含めない. 出所:MOF 各年版より作成. 表2 貧困率(貧困ライン以下の人口割合)の推移(CBN) (%) 貧困層(Upper) 年度 1983/84 1985/86 1988/89 1991/92 1995/96 2000 2005 全国 58.5 51.7 57.1 58.8 51.0 48.9 40.0 農村部 59.6 53.1 59.2 61.2 55.2 52.3 43.8 都市部 50.2 42.9 43.9 44.9 29.4 35.2 28.4 最貧困層(Lower) 全国 40.9 33.8 41.3 42.7 34.4 33.7 25.5 農村部 42.6 36.0 44.3 46.0 38.5 37.4 29.3 都市部 28.0 19.9 22.0 23.3 13.7 19.4 13.7 経済成長率 % 3.4 4.4 3.4. 3.4. 5.3. 5.9 6.6

注:1973/74 年度から実施された Household Expenditure Survey(HES)において,DCI(Direct Calorie Intake)及び FEI

(Food Energy Intake)による貧困ラインが用いられていたが,DCI や FEI では非食料の消費量が考慮されないこと等

に鑑み,非食料品消費量も含めたCBN(Cost of Basic Needs) に基づく貧困ラインが 1995/96 年により採用された.

出所:(1) “Poverty in Bangladesh: Building on Progress,” Dec. 2002, (2) BBS, “Preliminary Report on Household Income and Expenditure Survey 2005,” p.26, Table 15, p.79,MOF[2009, p.198]

2.2 海外出稼ぎ労働者の送金(RMW) バングラデシュの海外出稼ぎ労働者による外国からの送金は,増加傾向にある.2009 年の 6 月までで総 計57 百万6千人以上の海外出稼ぎ労働者が存在する.2007 年度には 98 万 1 千人が出稼ぎに行き,同年の 送金額は79 億ドル以上,バングラデシュの GDP に占める割合は 10.1%である(表3).これは,輸出額の 半分弱に相当する.同年の経常収支赤字より大きいことから,出稼ぎ労働者による送金が貿易ギャップをか なりの程度埋める役割を果たしていることが分かる.海外出稼ぎ労働者からの送金には乗数効果が見られる. また,資本財,原材料の輸入,海外からの帰国によって生み出されている知識の外部効果は,技術移転,マ ーケットシステムの成立及び経済発展に向けた構造変化の推進に対して重要な機能を果たしている. 2007 年 10 月 12 日付Financial Expressによると,70 の途上国に関して,海外出稼ぎ労働者の送金額は, 2007 年現在,2000 億ドルに達し,第 1 位は中国,バングラデシュは第7位であった.海外出稼ぎ労働者が 本国の家族等へ送金する金額は,経済のグローバル化の進展,人的資源の移動が容易になりつつあること等 を反映して増加している. 済政策は直接的に保健衛生指標に影響を及ぼすというよりも,所得上昇によって貧困が解消し,経済成長を通して間接的に影 響を及ぼしていることを示唆している. 4

(6)

表 3 バングラデシュにおける出稼ぎ労働者,送金,及び全国の識字率 項目/年度 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2006 2007 2008 総合労働人口(百万人) 21.9 25.9 30.9 51.2 56.0 56.0 65.5 66.6 68.0 69.4 出稼ぎ労働者(千人) 6.08 38.45 78.42 110.0 181.0 213 291 564 981 576 1) 専門職(千人) 2) 熱練者(千人) 3) 半熱練者(千人) 4) 熱練ない者(千人) 0.57 1.98 2.56 6.00 6.35 10.66 1.94 0.9 0.67 1.86 1.77 12.20 28.22 35.61 59.90 99.60 113.65 115.46 165.33 281.45 0.54 2.34 7.82 20.79 32.05 26.45 24.54 33.96 183.67 132.82 3.20 13.53 39.07 41.40 89.22 85.95 112.55 231.15 482.92 458.91 出稼ぎ労働者の送金(百万ドル) 23.71 379 555 763 1217 1882 4802 5979 7915 7891 GDP 対する送金(%) 0.03 2.95 3.55 3.62 5.78 3.73 7.75 8.73 10.05 9.99 識字率(%) 27.0 29.0 30.2 35.0 45.3 48.4 52.1 53.6 55.8 56.1 注:1975 年から 2005 年までの5年間隔のデータ(2010 年のデータはまだ報告されていない.)に 2006 年から 2008 年までの データを追加した.

出所:MOF, Bangladesh Economic Review各年版,BMET(Bureau of Manpower and Training)より筆者作成.

この数年間,Non Residence Bangladeshis(NRBs)5)による海外からの送金のみならず直接投資が増加して

いる.その促進のための施策が必要であろう.また,事実,バングラデシュ政府は,輸出加工区の設置等を 通じてNRBsによる投資の促進等に取り組んでいる.国際的な労働移動を許容する労働市場が形成されるこ とによって,労働資源の効率的配分が促され(表3),人的資本に関する投資からの期待収益を高め,さらな る人的資本投資を促すことになるだろう.このような過程を経ることによって,人的資本をエンジンとした さらなる経済成長がもたらされるであろう. 2.3 既製服の輸出(ERMG) ERMG は,バングラデシュの経済発展の原動力の一つとして重要な役割果たしている.アジア諸国の経済 発展にとって最も基礎的な産業の一つが繊維産業であり,その前方リンケージ(forward linkage)産業とし て RMG(既製服)がある.既製服は,バングラデシュの輸出,雇用,生産部門に大きく貢献しており(表 4),特に,2010 年の総輸出額は 16,236 百万ドル,内 RMG 輸出額は 12,497 百万ドルに達している(BB[2011, p.228]). RMG 産業の発展は,農業部門から非農業部門へ,特に,農村の女性労働力の都市部の製造業への著しい 移動をもたらし(その大部分はMF 利用者である),その結果,貧困削減やエンパワーメント効果が生じた (Chowdhury[2005, pp.67-86]).RMG の発展の背景には,1982 年の新産業政策(NIP’82)がある.新産 業政策では特に,①国営企業への投資の縮小化,②国営企業の民間への払下げ実施および国営企業の民営化, ③民間投資に関する規制緩和措置の実施・インセンティブ供与,等を強調した.85 年までに BTMC(バング ラデシュ繊維産業公社)傘下の 35 工場が民営化された.さらに「第3次5ヵ年計画」(1986-90 年度)が 1986 年に発表されこの計画で冷凍食品やRMG の輸出がみられるようになった.RMG の原材料は輸入に依存す るところが大きい.既製服は輸出指向産業であったが,同時に輸入代替産業でもあった.輸出向既製服の工 場は,1975 年には 9 工場しかなかったが,10 年後の 1985 年に 632 工場になり,1995 年には 2190 工場, 2008 年に 4740 工場になった(表 4)(チョウドリ[2005, p.196]). 90 年代以降,既製服,皮革,冷凍食品等の輸出が大きく増大した.なかでも既製服は輸出奨励策が重点的 5) 長期的移住の場合,NRBs と呼ばれている.バングラデシュでは 2007 年にダッカで NRBs の初めての会議を行い,2009 年 12 月に第 2 回目の会議が行われる. そこで,移住労働者を中心に,国の発展のために投資を募った.バングラデシュ政府の Ministry of Expatriate Welfare and Overseas Employment は,14 人の NRBs を最高直接投資額(送金)順に CIP として登録した(2007 年 10 月 12 日付Financial Express).

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表4 バングラデシュにおける既製服(RMG)産業の展望 年度 工場数 職員百万人 生産量百万タカ 輸出百万ドル 総合輸出百万ドル 輸出割合(%) 対 GDP 比(%) 1985 594 0.19 2.8 131.48 819.21 16.05 5.25 1990 834 0.40 19.6 866.82 1,717.55 50.47 8.16 1995 2,353 1.29 48.82 2,547.13 3,882.42 65.61 9.53 2000 3,480 1.80 71.48 4,860.12 6,467.30 75.15 12.83 2005 4,220 2.20 108.82 7,900.80 10,526.16 75.06 17.00 2006 4,490 2.40 133.08 9,211.23 12,177.86 75.64 17.79 2007 4,740 2.50 147.43 10,699.80 14,110.80 75.83 17.86

出所:MOF, Bangladesh Economic Review 各年版.

に施行された.政府は 2005 年産業政策で,既製服産業を“Trust Industry”として表現した.その後,2008 年 に新規の産業政策を発表した.その主な内容は,次の通りである.すなわち,①輸出を促進するために既製 服企業に,海外への直接販売を認め,②既製服関係の原材料の輸入手続き・関税手続きを簡素化し,その港 などを整備,③既製服品の品質向上のためにその技術改善やR&D 開発等を支援し,④バングラデシュ大使 館を通して既製服品情報を収集すること,等である.更に,2009 年度の国家予算発表では,縫製業に対する 既存のインセンティブに加えて,その他セクターも含めて以下の追加的対応策を行った.更に,銀行利子を 12-13%に引き下げ,銀行貸し付けの返済期限を 2009 年 9 月まで延期し,輸出振興基金のサイズを拡張し て個人への貸付額の上限を100 万ドルから 150 万ドルに引き上げた(MOF[2009]).2007 年度の時点で, ERMG は,GDP の 17.86%,輸出全体の 75.83%の外貨を稼いでいる(表4).ERMG に係る直接,間接の 雇用者は500 万人であり,この数は農業に次ぐ(直接雇用は,半数を占める).このように RMG 産業は, 収入源及び雇用創出に活力ある役割を果たし,またGDP に寄与している最重要産業の一つである.但し, バングラデシュにおけるERMGの拡大は,同国の安定的経済成長に貢献してきたが,欧米市場向けのERMG は,輸出先のおよそ7 割を占めるため,2008 年以降の金融危機の影響は避けられないであろう.

3.経済発展における BED 型原動力の分析

3.1 BED 原動力のメカニズム バングラデシュは,1990 年代初期から貿易の自由化,自然災害に対する脆弱性に起因するリスクを管理 する能力の向上,農村インフラや農業への投資を通じて,安定的な経済成長を遂げている.政府やNGOsは 人材育成に力を入れ,各種の人間開発指標は改善し,人口増加率は,1975 年から 1990 まで 2.5%以上であ ったが,2009 年の人口増加率は 1.3%と低い水準になり,平均寿命は 66.8 歳,識字率は,54.8%,経済成長 率は,6%以上にまで上昇した(MOF[2010, p.3, p.12]).世界経済危機により 2008 年は 5.9%になったが, 1990 年代以来経済成長率は高く,そのままの経済成長が続くと,早ければ 2015 年には中進国の仲間入りを 果たすという世銀の予測もある.このようなバングラデシュ経済発展には,三つの原動力が大きく貢献して いる(表 5).MCを含む各種金融サービスを包含するMFは,主にインフォーマル・セクターの経済活動に 従事する貧困層に利用され,その結果,貧困層の所得が増加し,資産が蓄積され,延いては各種の変化(例 えば,MEsの起業,教育や消費に対する支出の増加等)をもたらしてきた.また,MFは,教育を受けた人 材を国内・外の労働市場に送り出す“原動力”としても機能し,そこから外需・送金という双子の原動力が 派生した6). 6) 努力段階一として,生活改善,努力段階二として,就学改善,努力段階三として労働集約工業の発展,これらの段階的な経 6

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表5 バングラデシュにおける三つの原動力のGDP 成長への貢献(2007年度) 原動力 百万ドル GDP割合% MF 19,908.22 24.99 RMW 9,689.08 10.96 ERMG 14,110.80 17.86 出所:MOF[2009]より著者作成. 三つの原動力が次のように経済成長を可能にしていると考えられる.すなわち,「Push Up」によって貧 困が徐々に解消され,人的資源が発展し,国内・海外の労働市場へ貢献し,巧みにインフォーマル・セクタ ーがフォーマル・セクターに変化し,さらに輸出指向産業の発展がもたらされ,輸出が拡大していく.その 結果,経済成長が実現する.それは,BED原動力のメカニズムが働いていることを表している.言い換える と,BED型経済成長は次のような一連の過程であると考えられる.すなわち,まず貧しい人々が生活改善(貧 困緩和)のためMFを受け,途中から就学状況が改善し,やがて(人的資源開発による)RMWが起き, 労 働集約的産業発展へと向かい,これが,ERMG(まず後進国向けに,次には先進国向け)および輸出を拡大 し,そして,前述のように,人的資源開発による労働市場の拡大(RMW)に代わって新しくNRBsが直接 投資に貢献する,というものである. 3.2 BED 原動力の効果 バングラデシュの長期的マクロデータをもとにして貧困解消と経済成長の関係を概観すれば,1980 年か ら1990 年までの経済パフォーマンスは平均 3.5%の成長率しかなかったが,同じ期間の貧困層は 58.8%以上 あり,1 人当たり GDP はおよそ 1.3%から 5.6%上昇した(表6).この間経済成長を促進するために,工業 化の推進,産業構造の高度化,輸出振興などが重視され,1982 年に民営化政策の実施により,社会主義政策 から転換した国内経済は漸進的な市場経済改革をしたが,経済成長は遂げなかった.しかし,90 年代に MF 活動が活性化して,貧困層も所得が上昇,RMW が上昇して,ERMG も増加したことにより 5%以上の経済 成長を遂げている(表6).

1) 人口増加率減少と Human Development Index(HDI)向上

貧困削減の結果として,バングラデシュの HDI は数年間向上し,南アジア諸国の中で高い数値を示してい る(表7).バングラデシュの25歳未満人口は60%,65歳以上は3%である(2008年2月17日付 The Daily Star). バングラデシュの 2008 年の男性の平均寿命は 65.6 歳,女性 70.0 歳,15 歳未満人口 36.3%(うち 5 歳未満が 11.9%,5-9 歳は 12.7%,10-14 歳 11.7%),65 歳以上人口は 5%であったが,人口増加率が 1980 年の 2.32% から 2010 年に 1.3 ポイント下がり,多産多死の富士山型人口ピラミッドから釣鐘型に移行しつつある. 5 歳以下の子供の死亡率は 1990/91 年の 1.51%から 2000 年には 1.10%に低下したものの,目標達成のた めにはさらに0.60 ポイントの低下が必要とされている. 同様に乳児死亡率も 9.2%から 1997/98 年には 5. 7%に低下しているものの,さらなる改善が必要である.妊産婦死亡率も同様である(山形[2008]).これは バングラデシュの人口増加率が経済成長に安定的に貢献していることを示す.人口増加率が下がっているの は,バングラデシュの“家族計画”の実施による結果であり,人口政策がバングラデシュの経済発展に対し て促進的役割を果たしてきたといえる. 済成長がBED 型経済成長である(図2).なお,努力展望段階は,軽工業・重工業の発展である.バングラデシュの経験から 見ると,それぞれの努力段階は,短期(1 年から 5 年以内),中期(5 年から 15 年間以内),長期(15 年以上)に区分され, 三つの原動力の活性化によって,ピラミッド型の経済発展を導くことができる(図2)(チョウドリ[2011]). 7

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表6 BED-モデルにおける貧困削減,RMW,ERMG 及び経済成長の実績と予想

出所:MOF, Bangladesh Economic Review 各年版より筆者作成.

表7 南アジア諸国における HDI の状況 国 1980 2010 変化% バングラデシュ 0.259 0.469 81.1 インド 0.320 0.519 62.2 パキスタン 0.311 0.490 57.6 スリランカ 0.513 0.658 28.3

出所:United Nations Development Programme (UNDP)

2) 初等教育就学率上昇 初等教育の修了率の改善は進んでいるものの67%に過ぎず,目標の 100%にはほど遠い.同様に女子の初 等教育就学率も97%にまで達しており,女性の識字率は2000 年に40.1%(山形[2008]),2008 年には49.1%, 男性の識字率が48.6%となったが,まだまだ不十分である(MOF[2010, p.12]).男女を合わせた初等教育の 就学率は 1990/1991 年の 77%から 2000 年には 97%に上昇し,2015 年の目標値をほぼクリアしている. 3) 貯蓄増加 貧困は,さまざまな視点から定義できるのであるが,最も狭義の定義として人々の所得水準に着目し,購 買力平価を用いて換算した 1 日 1.25 ドル所得を基準(貧困線)にして貧困率を算出する方法が,20 世紀の半 ばから多く用いられるようになった.これによって,消費水準を基準とした絶対的貧困層の把握と国際比較 が可能になった.これにより,貧困層から所得は上昇し,借り金の返済,生活費,子供教育費を差し引いた ものが貯蓄となる.グラミン銀行のメンバーの預金残高(表 8)から貯蓄が分かる.バングラデシュの自助 努力を示す最も端的な指標は,国内貯蓄率の高さである.さらにハロッド=ドーマーによる貯蓄の増加は経 済成長の鍵である.外国からの送金よりマイクロ・エンタープライズ,家族関係,労働内容や生活内容があ る程度明らかになった(表 8).それらが貧困緩和や自己自立の共通点になっている. 8

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表 8 グラミン銀行におけるグラミン・メンバーの預金残高 (単位:100 万ドル)

グラミン銀行預金 1990 1995 2000 2005 2006 2007

総合預金 25.86 117.56 126.78 481.22 633.31 756.61

グラミン・メンバーの預金 16.51 99.83 100.54 306.10 390.48 430.39

グラミン・メンバーの預金割合(%) 64 85 79 64 62 57

注:グラミン銀行のメンバーは,3 種類の預金口座(Personal Savings Account, Special Savings Account, Pension Deposit Account)に 預金できる. 出所:グラミン銀行のウェブサイト 4) 製造業の重要性 バングラデシュにおける投資と貯蓄率は従来低かったが,とくに 90 年代から投資と貯蓄率が上昇して, 2007 年には 5%上昇し(表 9),今後,投資と貯蓄率の上昇は,国民経済における工業部門のシェアの拡大を 通じて可能であり,これがバングラデシュ全体の経済成長の活性化において工業化が不可欠であるとの論拠 となったのである.さらにルイスの「無制限労働供給」理論は,農業部門の過剰労働力の存在を前提とする ことによって,農業の生産水準を減少させることなしに工業化の過程で必要となる(Lewis, W. A. [1954, pp.139–191]). ルイスは,労働力を確保することが可能であると指摘した.こうして工業化は経済成長にとって不可欠で あること,同時に工業化は農業部門の生産を減少させることなく実現することが可能である,とルイスは主 張したのである(Lewis, W. A. [1954, pp.139–191]). また,新ケインズ派のカルドア=フェルドーンの法則では,製造業は経済成長と強い相関関係を持ち,製 造業の成長は製造業の労働生産性を高め,収穫逓増を生み出す. その理由は,投資によって新しい技術進歩 が導入されると,投資行動を通じて企業家は学習をして,その後の投資をより効率的に変え,生産に伴う外 部経済が生じ,その結果,生産拡大による生産費の低下が生じる(Kaldor, N. [1975]).バングラデシュの国 内市場が十分に大きく製造業まず軽工を業中心に競争力が育成できれば,これが輸出指向に転換し,次の重 工業化を準備することも可能になる.しかし,これによって経済が成熟すると,生活水準とともに賃金水準 も上昇し,生産費が騰貴する.バングラデシュの強みを背景にした製造業(インフォーマルセクターからフ ォーマルセクターへ)を成長させることが,バングラデシュ経済の成長にとって重要である. 5) 外貨収益 バングラデシュは貿易赤字国である.バングラデシュの輸出品としては伝統的一次産品ジュート製品が主 であったが,1970 年前半からジュートの代用品として化学繊維ができてジュートの需要が世界市場において 減少し,バングラデシュの貿易収支はより赤字になった.1980 年度のバングラデシュの輸入額は 23 億 5200 万ドルであり,その輸出は8億1100 万ドルであった.貿易赤字として 15 億 4200 万ドルになった. 1995 年度輸出額約 39 億ドルに対し輸入額は 68 億ドル,貿易赤字 29 億ドルになった.さらに 2007 年に は輸出額141.11 億ドル,輸入額 218.15 億ドル,貿易赤字 77.04 億ドルになった(表 9).結果として年々貿 易赤字は増加しているが,1985 年度の同国における外貨収支の 16%は既製服であったが,1995 年度に既製 服の輸出額は 2547.13 億ドルに達し,輸出総額の 50.47%の輸出収益をえた.2008 年の既製服輸出額は 10,699.8 億ドルで外貨収支の 75%は既製服が占め,GDP の 17.86%を占めている.このような輸出収益を 見ると,既製服産業はバングラデシュの経済発展のために貢献していると言える. 9

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表9 バングラデシュにおける人的資源の帰国後社会・経済的活動の使用金 (単位:タカ) 区別 ミレルショライ(4 村) カリハティ(3村) 合計(7 村) タカ 割合(%) タカ 割合(%) タカ 割合(%) 食糧・服・医療 2,913,900 27.98 2,256,180 19.73 5,170,080 23.67 子教育 340,200 3.27 260,740 2.28 600,940 2.75 農土地買う 1,339,400 12.88 1,326,000 11.59 2,665,400 12.20 家建て変え・家具 1,946,500 18.69 1,485,300 12.99 3,431,300 15.71 坦保土地返す 70,000 0.67 420,000 3.67 490,000 2.24 土地坦保する 190,000 1.82 245,000 2.14 435,000 1.99 借金返す 676,000 6.49 2,384,100 20.87 3,062,100 14.02 投資 448,000 4.30 591,200 5.17 1,039,200 4.76 貯金 385,000 3.70 285,000 2.49 670,000 3.07 保険 72,140 0.69 0 0.0 72,140 0.33 社会活動 1,497,000 14.38 483,000 4.22 1,980,000 9.07 親関援助金 470,000 4.51 1,101,000 9.63 1,571,000 7.19 その他 63.500 0.61 1,071,520 5.14 2,632,520 2.99 合計 10,411,140 100.00 11,428,540 100.00 21,839,680 100.00

出所:Siddiqui, Tasneem and Rafiqul Abrar Chowdhury [2003]

表 10 バングラデシュにおけるマクロ経済状況 項目/年度 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2006 2007 人口(百万人) 71 87 97.8 104 119 124 137.8 139.8 140.6 人口増加率 2.45 2.31 2.26 2.14 1.81 1.41 1.49 1.31 1.31 名目 GDP 総額(億ドル) 71.82 128.36 155.91 210.37 407.04 503.97 618.97 684.45 789.50 実質 GDP 成長率(%) 5.7 3.4 4.4 3.4 5.3 5.97 6.63 6.43 6.19 一人当たり GDP(ドル) 203 277 330 277 330 388 429.33 417.7 490.4 一人当たり GDP(%) 1.3 1.4 2.1 1.5 2.6 4.6 4.2 4.6 5.3 インフレ(%) 16.0 13.4 10.1 8.9 6.7 1.94 7.17 7.22 9.93 国民貯金対 GDP(%) 3.0 4.4 5.8 19.7 20.0 22.4 26.6 27.0 28.7 投資対 GDP(%) 5.5 14.4 12.7 16.9 20.0 23.1 25.0 25.5 24.5 外貨準備高(億ドル) n.a 1.21 4.76 8.8 30.3 16.0 28.55 38.78 52.79 輸出額(億ドル) 3.80 7.10 8.18 17.21 38.86 100.1 105.26 121.78 141.11 輸入額(億ドル) 9.76 25.33 23.65 36.00 68.77 69.29 147.59 171.59 218.15 直接投資(億ドル) 0.0 0.05 0.02 0.02 1.64 1.48 6.50 6.90 7.60 注:バングラデシュの会計年度は 7 月 1 日~6 月 30 日である. 出所:MOF, Bangladesh Economic Review 各年版より筆者作成.

6) 経済成長 貧困削減,人的資源,経済成長,雇用をもう少し拡大解釈するならば,社会開発し,「貧困解消と経済成長 の両立」論が出てくる.例えば MF をスタート地点とすると,所得向上により貧困削減し,従って教育・能 力向上して生産性も上昇に,さらに雇用機会が増加する.そこで経験者の生産能力が向上し,経済成長につ ながり,続いて技術改善し,大量生産・大量消費時代に向かい,新しい雇用機会へ移行することから所得向 上が可能となる.そして,保健・医療,教育,スキル向上により支出を行うようになり,その結果,さまざ まなセクターや職種で生産性が向上し,実質賃金が向上する. 10

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4.バングラデシュにおける社会経済発展の国際的比較分析

アジア諸国(特に,東アジアNIEs及び東南アジアASEAN)の場合, 経済成長の結果,貧困が徐々に解 消した.最近の研究報告で,アジア諸国・地域の経済発展パターンは,海外直接投資により,日本を先頭に NIEs,ASEANが,順次これを追う雁行型発展7)の特徴を伴う(チョウドリ[2005, pp.38-43]).その特徴は 海外直接投資の受入れと輸出志向型工業化である.それは「Top to Bottom」方式型と言える. タイ,インドネシアは,急成長を背景に都市と農村の所得格差が拡大している.途上国においては経済成 長が所得分配の不平等をもたらし,豊かな人々と貧しい人々との間の所得格差を拡大しているとの見方があ る.但し,貧困削減に及ぼす重要な要因は経済成長だけではないのも事実である.それは貧困削減と経済成 長の関係のみに焦点を当てるだけでは,各国間の格差を十分に説明できないからである. 最近の実証研究分析では,途上国において1985 年と 1995 年の間,1人当たり経済成長率は 2.2%であっ たが,ジニ係数は同期間に平均して毎年わずか0.3%しか変化していないこと,特に台湾では 1964 年から 1990 年にかけて1人当たり実質所得が 1540 ドルから 8063 ドルまで 5 倍に拡大したにもかかわらず,ジニ 係数はわずか 32.2 から 30.1 に低下したに過ぎないことが指摘されている(Deininger and Squire[1996, pp.565-591]). 要するに,実際の貧困や失業問題の解決に対する経済成長の効果はまちまちなのである.経 済成長の果たす役割は大きいが,それも成長のタイプによって異なる.すなわち,経済成長とともに,貧困 率が低減するとともに,一方では不平等が拡大するのだ.一見矛盾するような現象ではあるが,実際には底 辺層の所得水準が上昇する以上に高額所得者の所得が上昇することを意味している(吉田[2000]).

従って,最近のバングラデシュの経済発展の論点は,貧困が徐々に解消された後に,経済成長が活性化し ているという現象が生じること,いわゆる「Bottom to Top」方式型であると考えられる.アジア NIEs と ASEAN 諸国と異なるところは,海外直接投資(FDI),いわゆる「Top to Bottom」方式型と考えられる. バングラデシュのFDIをアジアNIEs及びASEANと比較すれば非常に少ない8).また,世界銀行の経済成長 に関する資料によると,所得が低いほど人口増加率が高く,経済成長の果実が高い人口増加率によって食わ れてしまうということである.すなわち,経済成長の促進と高い人口増加率の抑制が大きな課題になってい る(加茂[1998, p.28]).前節の表 9 に見られるように,バングラデシュでは,1975 年から 1990 年までの人口 増加率は 2%以上ときわめて高い.同期間の経済成長率は平均 3%から 4%未満と低い成長率にとどまってい る.さらに,Sachs[2005]の研究報告では,貧困解消を何年もの間持続させるためには,ドナーの援助のみな らず,開発徐上国の側の自律的な経済成長が必要である,という.ミレニアム開発目標はあくまで目標であ って,それを達成する手段まで示されてないが(山形[2008, p.82]),バングラデシュの経済成長は自律的であ ると言える. 7) 筆者は,アジア諸国の産業の雁行形態的発展ついて,既に『アジア産業発展の神秘性』創成社,そして,日本,東南アジア, 南アジアなどの地域・国々の産業の雁行形態的発展について学術論文 10 編以上を『世界経済評論』世界経済研究協会や大学の 論集に報告した. 8) 1989~94 年では,バングラデッシュの外国直接投資の受入は,中国の 2,500 分の 1,タイの 333 分の 1,インドの 100 分の 1, スリランカの 18 分の 1 といった水準にすぎない(JETRO[1997]). 11

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5.おわりに

国際社会において MF は,貧困改善のためのモデルとして認められているが,本稿の BED-Model は,特に, 最貧国の貧困緩和及び経済発展の考察の際に用いられるべきものである. MF は,いわゆるインフォーマル・セクターの MEs の成長にとって重要であるものの,本稿ではインフ ォーマル・セクターにおける競争促進の効果は分析していない.むしろ,MF により,教育水準と社会生活 水準が引き上げられ,農業の近代化と工業化が実現するためには,官民双方が意欲を強めねばならないこと を強調したい.その意欲を基礎に,MEs を始めさせ,経済的な自立を促すことを目指すべきであろう.輸出 産業を経済発展の推進力として一方で,この産業を絶えず改善しつつ,他方で他の産業も内需・外需を育て 上げ,生産と販売を発展させていこうとする国民の意欲も育てていかねばならないであろう. バングラデシュ政府は,2008 年 12 月の総選挙9)後も,長期的かつ持続的な成長に向けて,政治・経済の 諸課題について政党間のコンセンサス形成を十分に行い,安定した政治環境の実現を目指しつつ,中期的な 経済発展の展望として,中進国となることを目指している. 9) 2008 年に総選挙を実施し,2 大政党のアワミ連盟(AL),バングラデシュ民族主義党(BNP)において,それぞれの首相経験者 が政権を進めた.民主的な新政権への移行は,国際社会が注視した. 12

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資料 外国からの送金や MF を受けた MEs はいかなる自営事業に従事し,生活を営んでいるのであろうか.著者 は,2008 年 12 月下旬から 2009 年 1 月初旬までバングラデシュのマニクゴンジ・ウポジェラのケース・スタ ディを行った(2007 年グラミン銀行はマニクゴンジのグラミン銀行メンバーを対象とした 92,269 人の調査を 行い,13,247 人の貧困解消につながったと報じている(グラミン銀行ホームページ)).以下の,3 人の事例 を通して,それらが貧困緩和や自己自立の共通点になっていることが垣間見られる. ケース・スタディⅠ:シュモン・ウッデン(Shumon Uddin:男 28 歳) 出身地であるマニクゴンジ県マニクゴンジ・ウポジェラのウキアラ村に雑貨店を経営している家族と3 エーカーの土地がある.そこから 1 年間分の米を確保している.家族は父,母と姉(結婚して近くの村 に住んでいる),弟(高校 2 年生)である.父(シャフクル・ウッデン・ムンジュルミヤ:58 歳)はダ ッカの民間企業に勤務していたが,健康状態が悪くなり,10 年前に仕事をやめた.そこで長男のシュモ ン・ウッデンが高校卒業後,韓国へ出稼ぎに行き 3 年後に帰国した.帰国後韓国で稼いだ金で現在の雑 貨店を開いた.この店の特徴は,日本の一昔前,「昭和時代の店」と同じぐらいである.国内製品から外 国の製品,日常生活品,食料品,おもちゃやなどの生活雑貨と,米を代表する食糧,そして灯油まで取 り扱っている.店舗は住居と一緒になっているために,200,000 タカ(約 2900 ドル)を費やして家をリ フォームし,最初に店舗の資本金として 500,000 タカを投資した.現在この店の売上は毎日平均 5,000 タカ(約 72 ドル)である.父親ムンジュルミヤは,「自分がサラリーマンの時代より生活が豊かになっ た」と言う. ケース・スタディⅡ:トタ・ミャ(Tota Miya:男 54 歳) 出身地であるマニクゴンジ県マニクゴンジ・ウポジェラのゴルパラ村に雑貨とチャイ(紅茶)店を経営 している.家族のわずかな土地がある.食べる米は殆ど買い上げである.父親が急逝し,家族を助ける 人はいない.中学を中退して働き,現在 Bangladesh Water Development Board(BWDB:バングラデシュ水 資源開発委員会)のサラリーマンとして働いている.家族は母,妻,娘(中学 3 年生),息子が二人(長 男は中学を卒業して店の手伝いをし,次男は中学 1 年生)合わせて 6 人である.ちなみに現在兄弟のう ち男 1 人,妹 3 人は結婚して離れて暮らしている.サラリーマンの月給で生活するには非常厳しい,そ れのために,MF から(50,000 タカ)を借りて店を開いている.家族のメンバーで交代順番に店の営業して いる.店の売上一か月平均 10,000 タカ(145 ドル),最終的利益は 3,000 タカから 4,500 タカ(40 ドルか ら 65 ドル)である.毎月返済金を返して,残りはわずかな金額である. ケース・スタディⅢ:サイド・シディキ(Sayeed Siddiqui:男 56 歳) 出稼ぎ労働者として 1973 年カナダの Montreal へ行き,そこで英文科で学びながら工場で働いた.その 後 Montreal から Toronto へ移動した.Toronto で正社員として Belinda and Brothers ショッピングセンター で働きながら店の経営ノウハウを身に付けた.奥さんもデパートで働きながらデザイナーの訓練を受け た.1980 年に帰国,在加中の経験を生かして 3000 ドルの資本金でダッカの Green Super Market に既製服 の店「Cat Eye」を開いた.その後,1983 年に Elephant Road に移動,「Cats Eye」と名前も多少変えて店 を開き直した.最初 10 年間は売上や経営的にも非常に厳しかったが,それを乗り越えて,ダッカ,シレ ットとチタッゴンで(2008 年)現在 27 ヶ所店を持っている.自分たちの Cats Eye ブランドを作るため に工場を建て,そこで約 600 人の職人が働いている.バングラデシュの大規模企業になった.

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参照

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