Review
Thermal Med, 35 (3):
33-40, 2019.A Review of Current Microwave Cancer Therapy and
Mechanism of Cell Death by Microwave Irradiation
MAMIKO ASANO
1*, JUN-ICHI SUGIYAMA
2, KATSUYOSHI TABUSE
31The Research Institute for Sustainable Humanosphere, Kyoto University, Gokasho, Uji, Kyoto 611-0011, Japan 2National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, 1-1-1 Higashi, Tsukuba, Ibaraki 305-8565,
Japan
3Osaka University of Pharmaceutical Sciences, 4-20-1 Nasahara, Takatsuki, Osaka 569-1094, Japan
Abstract
:
Microwaves (frequency: 0.3‒300 GHz) have the ability to heat materials according to their dielectric properties and are used in microwave ovens for heating food and to yield improvements in the synthesis of medicine and decomposition of environmental pollutants, among other applications. In the medical field, microwaves have been used in cancer treatments such as hyperthermia and microwave coagulation therapy, and favorable treatment results have been obtained. Cancer treatments also have advantages for various types of cancers and have few serious side effects. In contrast, in cancer cell death by microwave heating, the cells are reportedly killed via different pathways compared with that by normal heating. In the future, the treatment efficiency needs to be improved, and the associated side effects can be reduced by analyzing the cell death mechanism in detail. In this review, we outline the latest methods of microwave cancer therapy and introduce the mechanism of cancer cell death by microwave irradiation with a focus on authorsʼ reports.Key Words
:
hyperthermia, microwave coagulation therapy, cancer cell death1.はじめに マイクロ波は,周波数0.3~300 GHzの電磁波であり,独自の加熱機構にて物質を加熱する.電子レ ンジによる食品の加熱が代表的であるが,それ以外でも産業・工業界にて幅広く利用されている.例え ば,多くの有機化学反応の反応促進や収率向上が報告され1-2),効率的な医薬品合成に応用されている. また,セラミックス合成や製鉄3-4),アスベストを始めとする環境汚染物質の無毒化5)にもマイクロ波が 利用されている. 医療におけるマイクロ波は,主に癌治療において使用されている.その代表的な治療法は,「ハイ パーサーミア」や「マイクロ波凝固焼灼療法(Microwave Coagulation Therapy, MCT)」である.これ らの治療では,マイクロ波が生体を効率良く加温できる特性が利用されている.また,様々な癌種に適 応できる,重篤な副作用がほとんど存在しない等の利点があり,これまでに数多くの臨床経験が積まれ ている6-12).
一方で近年,半導体発振器の開発や電磁界強度シミュレーション技術の発展等に伴い,マイクロ波の
Received 26 May, 2019, Accepted 10 August, 2019: *Corresponding author; Tel, +81-0774-38-3602; e-mail, [email protected]
doi: 10.3191/thermalmed.35.33
特殊な加熱機構が明らかになるとともに,多くの化学反応が熱伝導加熱よりも低温で進行することが確 認されている13).更に,MCT施行時における肝臓の穿刺部位において,十分に加熱されていない箇所 での死滅が確認された14-17).ここから著者らは,低温でもマイクロ波加熱により癌細胞死の誘導が可能 と推測した.その場合,死滅メカニズムを解析・制御できれば,熱による副作用の少ない新しい癌治療 法として構築できると考えた.そこで,マイクロ波を精密照射可能な装置を開発した.また,培養癌細 胞に体温と同程度の37℃にてマイクロ波を照射し,その死滅誘導を行った.更にその死滅メカニズム の解析を行っている最中である. 以下に,マイクロ波加熱の原理を概説するとともに,マイクロ波癌治療として代表的なハイ パーサーミア及びMCTについて紹介する.また,著者らのマイクロ波低温照射による癌細胞死誘導に ついて説明する. 2.マイクロ波加熱の原理 マイクロ波は電界と磁界の間を振動して伝搬するエネルギーである.この電磁波エネルギーが電磁波 でないエネルギーに変わることを損失という.損失は主に熱エネルギーへの変換であり,周波数や物質 の特性によって起こりやすさの度合いが異なる. 電界の作用による損失は,イオン種に対する導電損失,電気双極子を持つ分子に対する誘電損失があ る.また磁界の作用による損失は,磁性体に対する磁性損失の他,イオン種に対する誘導損失がある. 電界の作用,磁界の作用を広義にまとめて,それぞれの指標を単に誘電率ε,透磁率μと表現すること がある.マイクロ波は電磁波であるため,物質内を伝搬する際の挙動は屈折率n及び吸収率kで表さ れる.屈折率及び吸収率を複素数とした場合,この二乗は誘電率と透磁率の積に比例する.したがって 誘電率も透磁率も本来は複素数である. (n-jk)2 =εr*μr* 上式のεr*,μr*は複素比誘電率,複素比透磁率であり,実数部と虚数部を持つ.比とは真空の誘電 率ε[0 F/m],真空の透磁率μ[0 H/m]に対する比であって,比を用いることによって単位が無次元化され る.例えば純水の複素比誘電率εr*=εr’-jεr”は2.45 GHzで78.9-j10.8である18).磁性材料でないもの に対しては透磁率の作用を無視し,μr*= 1-j0とした仮定で議論が行われることが多い.いずれにしろ, 照射対象のεr*,μr*の虚部が0または非常に小さい場合,マイクロ波は透過するが,無視できない大き さであれば損失が起こる.したがって対象の虚部が周囲に比較して大きければ,対象の選択的な加熱が 行われる. ここでいう広義の誘電率は誘電損失だけでなく導電損失の寄与も含まれているとする.誘電損失も導 電損失も,ともに照射周波数によって損失量が変化する.厳密には温度によっても変化するが,数度の 範囲内では一定とみなされることがある.よって対象の物性を示す場合は,測定周波数及び温度も記載 する必要がある. ハイパーサーミアやMCTに利用されている高周波帯(数百MHz~数GHz)では,誘電損失が主な 加熱要因とされる.また,磁性体(Fe3O4のナノ粒子など)を患部に局在させ,ここにマイクロ波を照 射する「磁性ハイパーサーミア」では,磁性損失で加熱される. 照射対象の物性差により特定の物質のみが選択的に加温される「選択加熱」や,マイクロ波自体の伝 搬集中によって生じる「ホットスポット現象」は,広域な熱伝導によって生じる均一な加熱とは異なる 熱分布を与える.これが癌細胞の効率的な死滅に優位に寄与していると考えられている.
3.マイクロ波によるハイパーサーミア 日本におけるハイパーサーミアは,ラジオ波帯の周波数による治療が主流であるが10),アメリカ等の 海外においては,マイクロ波によるハイパーサーミアが行われている.例えばアメリカでは,BSD-500 (Pyrexer Medical社)が使用されている.周波数は915 MHzであり,進行性及び再発性の表面及び表 面下のメラノーマや扁平上皮癌,基底細胞癌,腺癌,肉腫に適用されている.また熱傷や潰瘍等の副作 用はあるが頻度は少なく,重篤なものは報告されていない.本装置では,並行に設置された2枚の電極 を生体患部に挟むことで加温する.更に,電磁界強度シミュレーション解析を生体内で行うことにより, 癌発生部位のみを選択的に加温することが可能である. 4.マイクロ波凝固焼 療法 4-1.肝臓癌での MCT MCTは,マイクロ波で生体内の腫瘍を熱凝固させ,壊死を誘導する外科的治療法である6-9).田伏ら は本手術器として,電極プローブとマイクロ波発振器を搭載したマイクロターゼ(アルフレッサ ファーマ社)を開発し,原発性肝細胞癌と転移性肝癌の切除に適用した6-7).現在では,上記に加え, 乳癌や直腸癌,膀胱癌など様々な癌に施行されている19-21). 肝細胞癌の代表的な治療法は肝切除であるが,MCTは肝切除が適用不可の病態にも施行可能であ る22-23).それは,MCTの持つ種々の利点のためである.まず一つ目の利点は,MCTでは術中での出血 が少ないことである.そのため,肝切除を行うことが難しい深部癌や個数が多い腫瘍にも適用できる. 第二の利点として,肝機能が著しく低下した症例にも適用可能な点である.多くの肝細胞癌症例では, B型及びC型肝炎ウイルスへの感染による慢性肝炎や肝硬変を併発しているため,肝機能障害が治療 の妨げとなる.しかしMCTは,肝切除が適用不可の重篤な肝機能低下症例にも適用されており,肝切 除と同程度の治療成績が得られている22-23).また腫瘍の状態によっては,内視鏡下にてMCTを施行す ることが可能であり24),侵襲性の観点からも極めて有用な治療法である. 4-2.次世代 MCT 近年,アンテナや発振器の改良から,従来のMCTを凌駕した次世代マイクロ波アブレーション機器 が開発された.Emprint ablation system(Covidien社)は,腹腔鏡下におけるMCTの電極プローブと して,日本にて2017年7月に保険適用された25-26).本機器は,アンテナの先端から正確な球形のマイ クロ波を,周波数を一定に保った状態にて発生させることができる.更に,アンテナ内部に冷却水を循 環させることによって,アンテナ近傍のみが過剰に加温されるのを防ぐことができる.従来のMCTで は,heat sink効果(=血流により焼灼部位が冷却されてしまう現象)により十分な焼灼に時間を要する ことから,焼灼部位を正確にコントロールすることが困難であった.一方で本機器ではこれらの弱点が 克服され,穿刺回数,焼灼時間の大幅な短縮が可能となった25-26).また,次世代MCTと新薬を組み合 わせた新しい集学的治療が実施されている27).分子標的治療薬であるレンバチニブは,肝細胞癌治療薬 として2018年3月に保険適用となった.本薬剤と次世代MCTとの併用により,更なる治療効果の向 上が期待されている. 5.マイクロ波による細胞死誘導メカニズムの解析 これまで述べた通り,マイクロ波は特殊な加熱機構を有し,物質を効率良く加熱することができる. 我々は,マイクロ波由来の癌細胞死では,熱伝導加熱由来のそれとメカニズムが大きく異なると推測し
た.更に,そのメカニズムを解析・制御できれば,現行よりも効率良く癌細胞死を誘導できると考えた. そこでまず,マイクロ波の照射条件を精密に制御できるマイクロ波照射システムを開発した(4-1).次 に本装置を用いて,培養癌細胞における細胞死解析を行った(4-2). 5-1.培養細胞用マイクロ波照射装置の開発 我々が開発したマイクロ波照射システム(MTS03(S),サニーエンヂニアリング社製)は,半導体発 振器とアプリケーターにより構成されている28-29)(Fig. 1).半導体発振器の導入により,世界的主流の マグネトロン発振器と比較して,精密な周波数や出力の制御が可能である.またアプリケーター内には, シャーレの設置場所が2ヶ所あり,各シャーレの底面温度を赤外線温度センサーにより非接触にてモニ ターできる.マイクロ波出力は,一定にて連続もしくはパルス照射が可能であるが,赤外線温度セン サーの温度が目標温度に維持されるよう,照射出力を制御することもできる.更に,アプリケーター内 には冷却装置が設置されており,目標温度が同じでも,冷却温度が低いほど高出力のマイクロ波を照射 可能である.また,出力や赤外線温度センサー及びアプリケーター内の温度,電圧定在波比(Voltage Standing Wave Ratio, VSWR)を記録できる.
5-2.マイクロ波照射における HL-60 細胞の細胞死メカニズム解析 ヒト骨髄性白血病由来HL-60細胞を用いて,本細胞のマイクロ波照射による細胞死メカニズムの解 析を行った30).マイクロ波は,5-1の装置を用いてHL-60が37℃となるように1時間照射した.その際, アプリケーターの温度は12℃に冷却した.照射後,CO2 インキュベーター内で培養し,各種タンパク 質の発現変動,及びミトコンドリア傷害,核の断片化の解析を行った.また比較対象として,細胞死滅 温度である42.5℃にてHL-60を1時間静置し,同様の解析を行ったものを熱処理群とした. 細胞死は,その形態学的特徴等から「アポトーシス」,「ネクローシス」及び「オートファジー」に大 別される.アポトーシスは,カスパーゼ群の活性化を伴いながら進行する「カスパーゼ依存性アポ トーシス」と,カスパーゼ群の活性化を伴わず,ミトコンドリアから漏出されるAIFにより核の断片 化が起こる「カスパーゼ非アポトーシス」に分類される.本解析の結果,マイクロ波照射による主な細 胞死経路はミトコンドリア傷害によるカスパーゼ非依存的アポトーシスであった.マイクロ波照射後に ミトコンドリアが傷害され,Apoptosis-inducing factor(AIF)がミトコンドリアからサイトゾル内に漏 出し,その後DNAが断片化した.一方で,シトクロムCの漏出も確認されたが,Apoptotic protease activating factor 1(Apaf-1)及びカスパーゼ9の発現が減少し,Apoptosomeが形成されていないこと が示唆された.その結果,カスパーゼ3/7は活性化されず,カスパーゼ依存的アポトーシスは進行しな
かった.またHeat Shock Protein70(HSP70)の活性は上昇せず,熱ストレス応答が起きなかった.一 方で,熱処理群(42.5℃にて静置)では,マイクロ波照射とは異なる熱ストレス応答による経路にて死 滅した30)(Fig. 2). 6.おわりに マイクロ波は,ハイパーサーミアやMCT等の癌治療にて長年利用されてきた.そしてこれらの癌治 療法は,近年でも更なる進化を続けている.更に我々は,マイクロ波照射により,熱ストレス誘導とは 異なる機構にて癌細胞死が誘導されることを発見した.これは,マイクロ波照射により,癌細胞が高温 化を伴わなくても死滅する可能性を示唆している.一方で,赤外線温度センサーでは測定不可能な細胞 のミクロ領域では高温になっている可能性は否定できない.その場合,ホットスポット現象に見られる 一過性の高温化であれば,熱ストレス機構が応答しない可能性もある.また,他の癌細胞でも同様の機 構にて死滅が起こるのか,現在検討中である.これらの疑問点解決のために更なる解析を行い,新規マ イクロ波癌治療法の構築を目指したい. 引用文献
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