Ⅰ.はじめに
放射線皮膚炎は,放射線治療を受けるほとんどの患者 が経験する急性有害事象であり,出現する症状の強さは さまざまな要因によって異なる1).頭頸部がんの放射線 治療では,一般に 70Gy 近くの高線量が処方されること が多く,頭頸部という凹凸が強い部位への照射であるこ とから2),他の照射部位に比べて皮膚障害が強く出現す る.そのため,患者の苦痛も大きく治療中断を余儀なく されることもある.また,晩期有害反応である皮膚障害 の出現の可能性も高い2).最近では,患者の希望を重視 する背景もあり,QOL や形態の維持のため患者自身が, 手術ではなく放射線治療を選択する場合もある.特に化 学放射線療法は,増加傾向にあり,さまざまな病期で実 施されている3)4). 頭頸部がんへの放射線治療において皮膚障害が起きや ■ 原 著 Key words: 放射線皮膚炎,頭頸部照射,皮膚ケア,保湿剤 本研究の目的は,頭頸部の放射線治療で頻度の高い急性有害事象である放射線皮膚炎 に対する,保湿クリーム(リモイス®バリア)の効果を明らかにし,看護支援に役立て ることである. 方法は,2011 年 1 月∼ 2013 年 9 月に頭頸部に放射線治療を実施し(気管孔のある患 者,および頸部全体が照射野に入らない喉頭がん以外の症例を除く),研究の同意が得 られた患者 33 名を対象とした.封筒法(封筒に入れた複数のカードの中から患者自身 が選択する方法)により保湿クリーム使用群と未使用群に分けた.保湿クリームは治療 後と眠前に撫でるように塗布することを患者に指導し,照射時に自覚症状と他覚症状を 観察した.皮膚障害の程度は,「症状なし」を「0」,「症状あり」を段階的に「1 ∼ 6」 に点数化し,照射ごとに加算した.さらに,保湿クリーム使用群 16 名と未使用群 17 名 の皮膚障害の程度を比較し,統計的に分析した. その結果,保湿クリーム使用群は自覚症状,他覚症状ともに出現頻度が低く,出現時 期が遅かった.また,両群の線量が進むごとに加算した皮膚障害の程度の点数を照射線 量ごとに検定を行った結果,60Gy 以上で有意差があった.さらに,保湿クリーム使用 による皮膚炎の悪化は認めなかったことにより,放射線皮膚炎に対して保湿クリームは 有効であることが分かった.保湿クリームは,放射線皮膚炎の進行を抑制する効果があ り,皮膚炎による苦痛の軽減につながった. (受付日:2014 年 6 月 16 日,受理日:2015 年 4 月 17 日) 連絡先 齊藤真江/防衛医科大学校病院看護部 〒359 0042 埼玉県所沢市並木3 2 Phone:04 2995 1511/Fax:04 2995 0633/E mail:[email protected]放射線皮膚炎に対する保湿クリームの効果
―耳鼻科領域の頭頸部照射の患者に保湿クリームを使用して
―*齊 藤 真 江
**1),林 克 己
**2) 要 旨 **1)防衛医科大学校病院看護部 **2)防衛医科大学校放射線科Ⅱ.研究目的
本研究の目的は,保湿剤の放射線皮膚炎に対する効果 の詳細を明らかにし,放射線皮膚炎の予防ケアとして確 立することで,治療を受ける患者・家族への看護支援に 役立てることである.Ⅲ.研究方法
1.研究対象者 対象は,入院および外来において耳鼻科領域の頭頸部 がんに対する放射線治療を受けている患者のうち,本研 究への参加に同意が得られた 33 名とした.放射線治療 は 1 回 2Gy,週 5 日,6MeV の X 線エネルギーを用いた 標準治療である.対象者 33 名は,封筒法(封筒に入れ た複数のカードの中から患者自身が選択する方法)によ り保湿剤使用群と未使用群の 2 群に分けた.調査データ の均一性を高めるため,気管孔のある患者,および頸部 全体が照射野に入らない喉頭がん以外の症例は除外し た.また,オリエンテーション実施時に理解力があり, セルフケアが可能であることを確認した.しかし,入院 加療中に認知症状が出現し,保湿剤の使用が不確実に なった 1 症例は除外した. 2.研究期間 調査期間 2011 年 1 月∼ 2013 年 9 月. 治療後 1 カ月まで症状観察を実施した. 3.方法と内容 1)研究デザイン:ランダム化比較試験. 2)患者指導および説明:「放射線治療に対するスキン ケア」のパンフレットを用いて,シャワー浴や入浴を奨 励すること,照射部位の洗浄方法(弱酸性の石鹸を使用 し,擦らず泡をつけて流す)や髭剃りの方法(電気 シェーバーの使用)などの日常生活上の皮膚ケアを統一 すること,物理的・化学的刺激を避けることを説明し た.掻痒感の増強や湿性落屑を発症した場合は,放射線 治療担当医師の診察後,速やかに必要な治療を行うこと を説明した. 3)保湿クリームの選択:油性の軟膏に比べ,べたつ きがなく塗布時の刺激が少ないことや,撥水効果による 皮膚保護効果が期待できることから,アルケア社のリモ イス®バリアを使用した.リモイス®バリアは,シリ コーンを主成分とし,グリセリンやポリマー,ヒアルロ ン酸などの保湿成分を含有した弱酸性のクリームであ る. 4)保湿クリームの使用方法:1 日 2 回照射直後と眠 すい要因は,放射線治療側の要因として根治目的の症例 では照射線量が 60Gy 以上となること,治療精度を高め るためのシェル(固定具)の使用が考えられる.また, 解剖学的要因として腫瘍が比較的皮膚表面に近いこと, しわが多く頸部の動きや衣類による機械的刺激を受けや すいことが考えられ,その他の要因として抗がん剤併用 による双方の影響5),口内炎や咽頭粘膜炎による摂食障 害から生じる栄養状態低下,高齢化による皮膚の老化や セルフケア能力の低下などが考えられる. 現在,放射線皮膚炎のメカニズムについては,放射線 照射により表皮内の未熟な基底細胞がダメージを受け, 基底細胞の増殖が抑えられて上皮が菲薄化し,皮膚バリ ア機能が低下することが明らかになっている.さらに, 照射開始後 2 ∼ 3 週間くらいになると皮膚表面に存在す る微小血管も影響を受け,血管内皮細胞の崩壊と血管の 透過性が亢進して浮腫や炎症が起こり,発赤,灼熱感, 水疱,びらん,潰瘍といった急性炎症の症状が現れる5) とされている.そして,放射線皮膚炎は,通常は時間が 経つにつれて自然軽快することから,根治的放射線治療 では,ある程度の急性障害は許容せざるをえない6).予 防的皮膚ケアは,皮膚の清潔の保持,物理的刺激や化学 的刺激からの保護と照射部位の観察および適切なケアが 行われているかの確認である5)7)とされている.しかし, 皮膚の乾燥や炎症症状が悪化すると掻痒感や熱感,痛み など患者の苦痛が増強し,治療終了後も皮膚炎の治療に 難渋する場合もある. 保湿ケアについては,掻痒感などの皮膚症状の悪化が なければ,軟膏の使用を控え,皮膚症状の観察のみを行 う7)という考え方が一般的である.その理由は,散乱線 のため皮膚表面の放射線線量が高くなり,皮膚炎症状が 増強しやすくなるため7)と,乾性皮膚炎に軟膏を塗布す ることで皮膚が浸軟化し,少しの刺激で皮膚剥離を起こ しやすくなるため1)といわれている.しかし,乾性皮膚 炎に対し保湿剤を使用する5)7)という意見もあり,見解 は統一されていない.また,放射線皮膚炎に保湿剤を用 いた先行研究もある8)が,適切な予防ケアとして評価さ れた研究がないため,保湿剤の予防的使用は,治療法と して確立されていない. 中野谷ら9)は,放射線皮膚炎に着目したケアの現状か ら「適切な保湿剤についての研究が必要である」と述べ ている.そこで,皮膚の保護と予防的ケアの観点から放 射線皮膚炎に対する保湿剤の効果の詳細を明らかにする 必要があると考えた.[倫理的配慮] 対象者には研究の目的・方法を説明し,研究への参加 は自由であり,参加を希望しない場合でも医療サービス に関して不利益を被ることはないこと,また自分でくじ を引き,どちらかに振り分けられることを説明したうえ でこの研究への参加を同意した場合であってもいつでも 途中で辞退することができること,その場合でも不利益 を被ることはないことを説明した.データは研究の目的 にのみ使用すること,プライバシーの保護は硬く守るこ となどを文書で説明した.保湿クリームは防衛医学推進 研究費にて購入し,患者の経済的負担はないことも文書 で説明した.そのうえで同意書への署名により同意を得 た.業者との利益相反はなかった.本研究は,防衛医科 大学校倫理委員会の承認を得て行った. [用語の定義] 1)急性有害事象:放射線治療期間中,およびその直 後から数カ月までに観察される有害事象である. 2)乾性落屑:非伝染性の表皮・真皮炎のうち,水疱 形成,びらんなどの湿性変化を伴わないもの.発赤,腫 脹などに続いて皮膚の角化・落屑が起こる. 前に軽く撫でるように塗布する.1 回の使用量は,照射 野の面積により個人差があるため,適量の目安として 10㎝× 20㎝に対して直径約 1.5㎝のさくらんぼ小粒大 (約 2g)とした.治療開始日に治療計画をもとに照射野 を確認し,実演しながら保湿クリームの使用方法を患者 に指導した. 5)データの抽出方法:患者の苦痛の訴えを自覚症状, 皮膚障害の程度を他覚症状とし,段階的に点数化した (表 1).これらは,急性有害事象の評価として一般的に 用いられている CTCAE v 3.0 日本語訳(JCOG/JSCO 版 2007年 3 月 8 日)10),および長場ら11)の研究方法などを 参考にした. 自覚症状と他覚症状の調査は放射線治療時に行い,他 覚症状は信頼性を高めるため治療時に診療放射線技師を 含め 2 ∼ 3 人で判断した.さらに,患者の苦痛の程度を 自覚症状および他覚症状の点数の和とし,照射ごとに加 算して累積点数とした. 4.データの分析方法 1)保湿クリーム使用群(以下,使用群とする)およ び保湿クリーム未使用群(以下,未使用群とする)の背 景について Mann―Whitneyの U 検定およびχ2検定を用 い検定を行った. 2)使用群および未使用群の自覚症状および他覚症状 について比較検討した. 3)自覚症状と他覚症状の累積点数を Mann―Whitney の U 検定を用い検定を行った. すべての分析は StatView ver 5.0 を用いて行い,有意 水準を 5%とした. 表 1 皮膚障害の点数化 点数 自覚症状 他覚症状 0 無症状 無症状 1 かさつく 乾燥・淡い発赤 2 つっぱる 発赤・色素沈着 3 痒い 腫脹・中∼高度の発赤 4 痛痒い 乾性落屑 5 痛い 水疱・湿性落屑 6 間擦部以外の湿性落屑 表 2 対象者の背景 使用群 n=16 未使用群 n=17 検定結果(p 値) 性別 男性のみ 男性のみ 年齢 36∼ 83 歳(平均 66.2 歳) 46∼ 86 歳(平均 66.4 歳) (U) 0.9281 疾患 喉頭がん 6 名 喉頭がん 9 名 (カイ) 0.6546 咽頭がん 7 名 咽頭がん 6 名 その他 3 名 その他 2 名 総線量 50Gy 1 名 60Gy未満 0 名 (カイ) 0.5783 60Gy 1 名 60Gy 3 名 66Gy 4 名 66Gy 4 名 70Gy 10 名 70Gy 10 名 化学療法併用 11名 9名 (カイ) 0.5597 手術創あり 6名 3名 (カイ) 0.3678 U:Mann―Whitneyの U 検定 カイ:χ2検定 ※検定の結果, p>0.05 であった。ゆえに両群の差はなかった.
表 3 使用群と未使用群の照射線量ごとの自覚症状と他覚症状 a.使用群 皮膚症状出現時の照射線量(Gy) 自覚症状 他覚症状 症例 年齢 (Gy)総線量 化学療法併用 手術創 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 6 1 60歳代 70 有 有 4 24 40 2 70歳代 66 56 8 28 42 52 3 60歳代 66 有 46 6 18 44 50 64 4 60歳代 70 有 42 6 32 50 54 5 70歳代 66 60 4 30 48 6 80歳代 66 46 16 34 44 62 7 70歳代 70 有 64 66 68 2 24 44 62 68 8 70歳代 60 有 2 8 24 9 60歳代 70 有 有 58 68 2 4 30 60 10 60歳代 70 有 48 2 38 54 11 30歳代 70 有 有 64 2 4 58 12 60歳代 70 有 有 2 4 50 58 13 60歳代 70 有 54 8 28 52 68 14 80歳代 70 52 58 6 16 44 62 15 50歳代 70 有 36 66 10 20 60 64 66 16 60歳代 50 有 有 46 48 2 22 32 48 症状出現時の平均照射線量 53.0 0.0 51.5 64.5 58.0 5.2 19.3 41.9 57.1 66.0 0.0 症状の出現率(%) 12.5 0.0 68.8 25.0 12.5 93.8 100 87.5 87.5 18.8 0.0 b.未使用群 皮膚症状出現時の照射線量(Gy) 自覚症状 他覚症状 症例 年齢 (Gy)総線量 化学療法併用 手術創 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 6 17 60歳代 70 有 42 52 64 2 8 42 50 64 18 50歳代 66 32 44 54 6 20 30 44 54 19 60歳代 70 有 52 60 2 4 48 56 20 70歳代 70 有 44 60 2 32 46 21 70歳代 66 36 40 60 4 8 28 56 22 80歳代 70 有 46 48 52 2 30 46 50 52 62 23 50歳代 66 32 46 4 10 32 48 24 60歳代 70 有 30 56 4 40 46 52 56 66 25 80歳代 66 64 10 36 56 64 26 60歳代 60 有 2 6 40 58 27 70歳代 60 42 44 4 8 32 56 28 70歳代 70 有 44 56 12 46 56 29 60歳代 60 有 42 54 14 22 42 50 54 30 60歳代 70 有 38 46 52 6 8 44 52 31 60歳代 70 18 20 66 4 8 44 56 66 32 50歳代 70 有 有 8 6 8 32 66 33 40歳代 70 有 48 58 68 2 38 46 52 58 症状出現時の平均照射線量(Gy) 42.0 31.2 44.0 52.6 58.6 5.1 19.5 40.5 53.9 56.4 64.0 症状の出現率(%) 23.5 29.4 82.4 41.2 41.2 100 100 88.2 88.2 52.9 11.8
8:3.1 で あ る. 年 齢 は, 使 用 群 36∼83 歳( 平 均 66.2 歳),未使用群 46∼86 歳(平均 66.4 歳)であった.疾 患の内訳は喉頭がんが最も多く,次いで下咽頭がん,そ の他(原発不明がんなど),中咽頭がん,上咽頭がんの 順であった.照射総線量は 70Gy が最も多く,両群とも に各 10 名,66Gy が各 4 名,次いで 60Gy は使用群 1 名, 未使用群 3 名,50Gy は使用群 1 名であった.また,化 学放射線療法の患者は,使用群 11 名,未使用群 9 名で あり,手術創のある患者は,使用群 6 名,未使用群 3 名 であった.対象者 33 名は,すべて予定した放射線治療 を完遂した.Mann-Whitney の U 検定及びχ2検定にて検 定を行った結果,両群間の背景に差はなかった(表 2). 3)湿性落屑:皮膚のびらんや潰瘍. 4)びらん:潰瘍の深さがきわめて浅いもので,粘膜 あるいは角膜の被膜上皮のもの,限局性の欠損である.
Ⅳ.結 果
1.対象者の背景 対象は,使用群 16 名と未使用群 17 名であった.そ の対象はすべて男性であったが,これは意図的ではな かった.2011 年の人口動態統計(厚生労働省大臣官房 統計部 4 編)の部位別死亡率によると,喉頭がんの男女 比は 14:1 であり,口唇・口腔・咽頭がんの男女比は 0 10 20 30 40 50 60 70 0 10 20 30 40 50 60 70 0 10 20 30 40 50 60 70 0 10 20 30 40 50 60 70 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 Gy Gy 照射線量 使用群 未使用群 痛い 痛痒さ 掻痒感 ツッパリ感 かさつき 無症状 図 1 使用群と未使用群の照射線量ごとの自覚症状58.6Gy(52Gy・68Gy)であった.治療終了まで無症状 だった 4 名(使用群 3 名,未使用群 1 名)とつっぱり 感のみを訴えた 1 名(未使用群)は,すべて手術創が あった.「かさつく」「痒い」「痛痒い」「痛い」の出現割 合は,使用群の方が未使用群より低かった.また,「か さつく」「痒い」「痛痒い」の出現線量の平均は,使用群 の方が多かった.つまり,出現時期は使用群の方が遅 かった.「つっぱる」は,未使用群のみに出現し,使用 群では出現しなかった. 次に使用群と未使用群の他覚症状を比較した(表 3, 図 2).「 乾 燥・ 淡 い 発 赤 」 は, 使 用 群 93.8 %,5.2Gy (2Gy・16Gy), 未 使 用 群 100 %,5.1Gy(2Gy・14Gy) 2.保湿剤使用群と未使用群の皮膚障害の比較 1)使用群と未使用群の自覚症状を比較した(表 3, 図 1).以下は,各症状の出現割合と出現線量の平均 (最小値・最大値)である.「かさつく」は,使用群 12.5%,53Gy(48Gy・60Gy),未使用群 23.5%,42Gy (38Gy・52Gy)であった.「つっぱる」は,使用群 0%, 未使用群 29.4%,31.2Gy(8Gy・46Gy)であった.「痒 い」は,使用群 68.8%,51.5Gy(36Gy・64Gy),未使用 群 82.4 %,44Gy(20Gy・64Gy) で あ っ た.「 痛 痒 い 」 は, 使 用 群 25 %,64.5Gy(58Gy・68Gy), 未 使 用 群 41.2%,52.6Gy(44Gy・66Gy)であった.「痛い」は, 使用群 12.5%,58Gy(48Gy・68Gy),未使用群 41.2%, 0 10 20 30 40 50 60 70 0 10 20 30 40 50 60 70 0 10 20 30 40 50 60 70 0 10 20 30 40 50 60 70 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 Gy Gy 照射線量 使用群 未使用群 間擦部以外の湿性落屑 湿性落屑 乾性落屑 中~高度発赤 発赤・色素沈着 淡い発赤 無症状 図 2 使用群と未使用群の照射線量ごとの他覚症状
屑」が生じた患者も化学放射線療法を受けた 50 歳代, 60歳代,70 歳代の各 1 名であった.放射線治療単独の 場合,「湿性落屑」が出現した患者は,使用群 0%,未 使用群 50%,55.5Gy(48Gy・66Gy)であった.「湿性 落屑」が出現した患者の内訳は,50 歳代 2 名,60 歳代 2名であった.一方,70 歳代 5 名(使用群 3 名,未使 用群 2 名)および 80 歳代 3 名(使用群 2 名,未使用群 1名)の患者には乾性落屑のみで湿性落屑は出現しな かった. 2)使用群と未使用群の自覚症状と他覚症状の累積点 数は,いずれの照射線量においても正規性は認めなかっ た.さらに,使用群と未使用群の照射線量ごとの累積点 数 を 比 較 し,Mann-Whitney の U 検 定 を 行 っ た 結 果, 60Gy以降で有意差が認められた.得点の平均およびそ の検定結果は,60Gy:67.7vs.88.4(p=0.0086),66Gy: 8 3 . 9 v s . 1 1 2 . 3(p=0.0041),70Gy:94.5vs.127.3 (p=0.013)であった(図 3). で あ っ た.「 発 赤・ 色 素 沈 着 」 は, 使 用 群 100 %, 19.3Gy(4Gy・38Gy),未使用群 100%,19.5Gy(4Gy・ 46Gy)であった.「腫脹・中∼高度の発赤」は,使用群 87.5 %,41.9Gy(24Gy・60Gy), 未 使 用 群 88.2 %, 40.5Gy(28Gy・56Gy)であった.「乾性落屑」は,使用 群 87.5 %,57.1Gy(48Gy・68Gy), 未 使 用 群 88.2 %, 53.9Gy(44Gy・66Gy) で あ っ た.「 水 疱・ 湿 性 落 屑 」 は, 使 用 群 18.8 %,66Gy(64Gy・68Gy), 未 使 用 群 52.9%,56.4Gy(48Gy・66Gy)であった.「間擦部以外 の湿性落屑」(「間擦部」とは皮膚が擦れる部分を意味 し,皺や皮膚が折り重なって擦れ摩擦が起きやすい部 分)は,使用群 0%,未使用群 11.8%,64Gy(62Gy・ 66Gy)であった.「乾燥・淡い発赤」「発赤・色素沈着」 「腫脹・中∼高度の発赤」「乾性落屑」の出現割合および 出現線量の平均は,ほとんど差がなかった. しかし,「水疱・湿性落屑」の出現割合は,使用群の 方が未使用群より低く,出現線量の平均も使用群の方が 多かった.つまり,出現時期は使用群の方が遅かったこ とになる.「間擦部以外の湿性落屑」は,未使用群の患 者のみに出現し,化学放射線療法を受けた 60 歳代と 80 歳代の患者であった.また,使用群で「水疱・湿性落 図 3 照射線量ごとの累積点数 * * * *p<0.05 0 10 20 30 40 50 60 70 80 160 140 120 100 80 60 40 20 0 累積点数 照射線量(Gy) 使用群 平均 未使用群 平均 照射線量(Gy) 10 20 30 40 50 60 66 70 使用群の累積点数 平均 3.4 10.0 18.4 29.6 45.1 67.7 83.9 94.5 未使用群の累積点数 平均 3.4 11.6 21.4 34.8 56.1 88.4 112.3 127.3 使用群 標準偏差 2.4 4.7 6.4 8.3 8.8 9.0 12.0 14.3 未使用群 標準偏差 1.9 5.4 9.8 15.2 20.8 24.5 27.8 22.9 両群の累積点数の検定結果(p 値) 0.9417 0.5618 0.8144 0.4277 0.1211 0.0086 0.0041 0.013 Mann-Whitneyの U 検定:p<0.05 にて有意差ありとした.
た.特に,「乾性落屑」から「水疱・湿性落屑」までの 移行期間は,平均でわずか 2.5Gy であった.つまり,乾 性落屑が出現してから 1∼2 回の照射で湿性落屑が出現 していたことになる.一方,使用群の「乾性落屑」から 「水疱・湿性落屑」までの移行期間は,平均で 8.9Gy で あり,湿性落屑が出現した 3 症例の移行期間の平均は, 7.3Gyであった.つまり,使用群の方が未使用群に比べ 落屑が薄く,角層が維持されていたと考えた.また, 「間擦部以外の湿性落屑」は,未使用群の化学放射線療 法を行った 2 症例(60 歳代と 80 歳代)のみに出現し た.一方,使用群で「水疱・湿性落屑」が出現したの は,化学放射線療法を行った 3 症例であり,そのうちの 2症例は先行して化学療法が行われていた.そして,使 用群のほとんどの症例が「乾性落屑」のみで放射線治療 を終了し,その後,皮膚炎はすみやかに軽快した. また,高齢者の皮膚は,乾燥し薄く脆弱で,真皮と表 皮の結合がゆるく,皮膚バリア機能が低下しているた め,皮膚炎の発生リスクが高い5)といわれている.しか し,本研究では放射線治療単独の場合,使用群・未使用 群ともに 70 歳以上の患者には湿性落屑は出現しなかっ た.このことは,皮膚の老化により放射線感受性が低下 することも関与している可能性があると考えた. 保湿クリームは,皮膚を保湿してバリア機能を回復さ せ,正常細胞の自然治癒力を高める働きを助け,撥水作 用により皮膚保護をより強化した.それにより,皮膚炎 の進行を抑制し,湿性落屑の出現割合を減少させた.ゆ えに,放射線皮膚炎の予防ケアは,治療開始とともに保 湿・保護を行うことが効果的であることが示唆された. また,保湿クリーム使用の場合,散乱線によると思われ る影響や皮膚の浸軟化はなかった.ゆえに,他覚症状に おいて保湿クリーム使用による悪影響は認めなかったと いえる.本研究で使用した保湿剤は,油性ではなく,撥 水効果のあるノンアルコールの低刺激性保湿クリームで ある.この保湿剤は,無臭で浸透性が高く,べたつき感 がないため顔面にも使用が可能であり,不快感などの不 満も聞かれなかった. 次に,放射線治療による患者の苦痛は,「自覚症状」 と「他覚症状」を統合したものであり,治療中持続し, 増強していく.本研究では,患者の苦痛の程度を「自覚 症状」と「他覚症状」の点数の和とし,照射ごとに加算 して累積点数とした.そして,使用群と未使用群の「自 覚症状」と「他覚症状」の累積点数を比較した結果, 60Gy,66Gy,70Gy で有意差が認められた.よって,使 用群は未使用群より患者の苦痛が少なかったと考えた. 以上のことより,保湿クリームの予防的使用は皮膚炎
Ⅴ.考 察
1.放射線皮膚炎に対する保湿剤の効果 放射線皮膚炎初期の自覚症状は,皮脂腺や汗腺の放射 線感受性が高いことから「かさつく」とし,照射開始後 数回で出現すると考えていた.しかし,未使用群では, 「かさつく」の出現率は 23.5%と低く,出現した照射線 量は平均 42Gy であり,「痒い」の出現した照射線量の 平均 44Gy とほとんど変わらなかった.これは,徐々に 乾燥状態が進行していくことや,皮膚の乾燥が照射部位 (頸部)に限定されるため,自覚症状として現れにく かったと考えた.しかし,未使用群では,乾燥して粉を 吹いたように白く見える症例も散見された.また,未使 用群では,「つっぱる」の出現率も 29.4%と低く,出現 した照射線量は最小 8Gy,最大 46Gy と個人差が著明に みられた.一方,使用群では,「かさつく」の出現割合 は 12.5%と未使用群より低く,「つっぱる」の訴えは聞 かれなかった. 次に,「痒い」「痛痒い」「痛い」の出現割合は,使用 群の方が低くかった.また,「痒い」「痛痒い」の出現時 の照射線量も使用群の方が多かった.以上のことから, 保湿クリームは,放射線皮膚炎の自覚症状の出現割合を 下げ,出現時期を遅らせる効果があったと考えた.つま り,皮膚の保湿により皮膚表面の乾燥が改善されバリア 機能が働き,さらに皮膚表面が保湿クリームの撥水作用 により保護された.その結果,乾燥性皮膚炎の進行が抑 えられ,炎症症状である「痒い」「痛痒い」「痛い」の出 現割合が未使用群より低かったと考えた. 本研究では,手術創のある患者の場合には自覚症状の 訴えが少なかった.頭頸部の手術の場合,皮下脂肪が少 なく,切開創が大きくなることや皮弁形成術などにより 神経組織への侵襲もある.そのため,創部のツッパリ感 や知覚鈍麻などの影響で自覚症状が曖昧になったと考え た. 他覚症状である「乾燥・淡い発赤」「発赤・色素沈着」 「腫脹・中∼高度の発赤」「乾性落屑」の出現割合および 出現線量の平均は,使用群と未使用群でほとんど差がな かった.しかし,「水疱・湿性落屑」の出現割合は,使 用群 18.8%(3 名)に対し,未使用群 52.9%(9 名)と 使用群の方が低く,出現線量の平均も使用群 66Gy に対 して未使用群 56.4Gy であり,使用群の照射線量の方が 多かった.つまり,出現時期が遅かったことになる.ま た,未使用群では,「中∼高度の発赤」「乾性落屑」「水 疱・湿性落屑」の個人差が大きく,次の症状に移行する 期間が,症状が進むごとに短縮していく傾向がみられムの効果を明らかにしたことの意義は大きいと考える. 本研究の対象外への適応は,実践的活用に委ねたい.ま た,皮膚炎症状に合わせた保湿クリームの 1 日の塗布回 数や他の保湿剤についても予防効果を確認する必要があ る.
Ⅷ.おわりに
本研究で,保湿剤の使用により放射線皮膚炎の予防効 果が確認できた.今後も患者が自ら有害事象に対処して 行動できるよう情報の提供を行い,放射線治療を受ける 患者の精神的・身体的苦痛の軽減が図れるよう支援をし ていきたい. 謝 辞 本研究を行うにあたり,ご協力いただきました患者の皆様,ま たご支援いただきました防衛医科大学校放射線医学 加地辰美教 授,防衛医科大学校耳鼻咽喉科医学 塩谷彰浩教授,病院のスタッ フの皆様に心よりお礼を申し上げます.本研究は,第 28 回日本が ん看護学会学術集会で発表した内容を再構成した. 文 献 1) 祖父江由紀子.放射線治療における皮膚への影響.がん看護. 14 (6), 637―641 (2009) 2) 石原武明. その他の晩期有害事象 .放射線治療の有害反 応.丹生健一,佐々木良平 編.東京,日本看護協会,2011, 59 3) 日本頭頸部癌学会.2011〈http://www.jshnc.umin.ne.jp〉(参照 2014―9―26) 4) 独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター: がん情報サービス 頭頸部がん 〈http://search―ganjoho.ncc. go.jp/search?q〉(参照 2014―10―14) 5) 松原康美.放射線皮膚炎の看護.がん看護.14 (3), 408―411 (2009) 6) 大屋夏生.有害事象と耐用線量.臨床放射線腫瘍学.日本放 射線腫瘍学会研究機構.東京,南江堂,2011,62―65 7) 石久保雪江.放射線皮膚炎発生時のアセスメントとケア.が ん看護.14 (6), 646―649 (2009) 8) 石井利佳,渡部桂子,岡田徳子,他.頸部放射線治療におけ る皮膚炎予防への試み(その 2).日本看護学会論文集.成人 看護Ⅱ(1347―8206).31, 73―75 (2000) 9) 中野谷朱美,新寛夕香理,太田勝正.乳がん患者の放射線治 療におけるケの現状.日本看護学会論文集.成人看護Ⅱ (1347―8206).41, 248―251 (2011) 10) JCOG / JSCO.有害事象共通用語基準 v 3.0 日本語訳.2007 年版 〈http://www.jcog.jp/doctor/tool/ctcae.html〉(参照 2012―08―27) 11) 長場直子,田中順子,金本礼子,他.肺癌患者の放射線治療 に伴う苦痛の緩和に関する研究.日がん看会誌.5 (1), 43― 46 (1991) 12) 黒田寿美恵,秋元典子.外来外照射療法開始前のがん患者が 必要とする情報と患者の内的世界.日がん看会誌.27 (3), 14 ―23 (2013) の進行を抑制し,患者の苦痛を軽減したと考えた. 2.放射線皮膚炎に対する看護支援 本研究の対象から除外した 1 症例は,入院加療中に認 知症が出現し,言動の不確実さとセルフケア能力の低下 により保湿クリームの使用が不確実な期間があった.治 療中の予防ケアは患者のセルフケアに頼るところが大き い.そのため,治療期間および終了後も患者のセルフケ ア能力を評価していくことは重要である. 初めて放射線治療を受ける患者は,放射線治療への不 安や期待があり,医療従事者からの情報に対して非常に 関心が高い12).放射線皮膚炎は,予防的ケアを患者自ら が行うことで症状緩和が図れる.ゆえに,放射線治療を より安全安楽に行うためには,看護専門職としての看護 介入が重要である.本研究より,放射線皮膚炎に対する 保湿クリームの予防効果が確認できた.ゆえに,保湿ク リームを放射線皮膚炎の予防ケアとして確立していくこ とは,患者の放射線皮膚炎による苦痛の軽減に繋がると 考えた.Ⅵ.結 論
1.保湿クリーム(リモイス®バリア)の放射線皮膚 炎に対する効果. ①保湿クリームを使用することで放射線皮膚炎の自覚 症状の割合を低下させ,症状の出現時期を遅延させるこ とができた. ②保湿クリーム使用群と未使用群で,放射線皮膚炎初 期にみられる他覚症状「乾燥・淡い発赤」「発赤・色素 沈着」「腫脹・中∼高度の発赤」「乾性落屑」の出現割合 に差はみられなかった. ③保湿クリームを使用することで,放射線皮膚炎の他 覚症状「乾性落屑」から「水疱・湿性落屑」の進行期間 を遅延させた. 2.保湿クリーム使用による皮膚炎の悪化は認めな かった. 3.保湿クリームを予防的に使用することで,皮膚炎 症状がコントロールされ患者の苦痛軽減につながった.Ⅶ.本研究の限界と今後の課題
本研究は,耳鼻科領域の頭頸部照射を受ける患者のみ を対象に実施した.頭頸部照射による皮膚炎は他の部位 に比べ重症度が高く,放射線皮膚炎に対する保湿クリーAbstract
The Effect of Moisturizing Cream for Radiation Dermatitis
―Use the Moisturizing Cream for Patients Undergoing Head and Neck Irradiation―*
by
Masae Saito**1), Katsumi Hayashi**2)
from
**1)Nursing Division, National Defense Medical College Hospital **2)Department of Radiology, National Defense Medical College
The purpose of this study is to illustrate the value of moisturizing cream in preventing the acute skin side ef-fects induced by radiotherapy and helps nursing care. Thirty three patients with radiotherapy for head and neck cancer from January 2011 to September 2013 were enrolled with their consent. Patients were ineligible if they had undergone tracheotomy or they had not had whole neck field radiotherapy excluding larynx cancer patients. Using the envelope method, we divided patients into those using moisturizing cream (n=16) those not using cream (n=17).
The moisturizing cream was applied gently twice a day, after the radiotherapy treatment and before going to bed. During treatment patients underwent daily subjective and objective assessments. We classified these as-sessments from 0 to 6 step by step and totaled these scores.
We analyzed these scores using a statistical method (Mann Whitney U test).
As a result, the patients using moisturizing cream displayed a delay in appearance symptoms and significant lower scores subjective and objective assessment than the patients not using moisturizing cream (60Gy: 67.7 vs. 88.4 p<0.01, 66Gy: 83.9 vs. 112.3 p<0.01, 70Gy: 94.5 vs. 127.3 p<0.05).
Using moisturizing cream prevents the worsening of radiation dermatitis and relieves the symptoms induced by radiation dermatitis.
Key words: radiation dermatitis, undergoing head and neck irradiation, skin care, moisturizing cream
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Masae Saito. Nursing Division, National Defense Medical College Hospital 3 2 Namiki, Tokorozawa-shi, Saitama 359 0042, Japan