の一環として
著者
三上 俊治
著者別名
Shunji MIKAMI
雑誌名
東洋大学社会学部紀要
巻
50
号
2
ページ
161-173
発行年
2013-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00005505/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止インターネット・セキュリティ不安に関する国際比較研究
ワールド・インターネット・プロジェクトの一環として
A Comparative Study of the Anxiety about Internet Security
The World Internet Project
三上 俊治
Shunji MIKAMI
はじめに 本研究は、アメリカの USC を中心に世界30カ国と共同で取り組んでいる「ワールドインターネッ トプロジェクト(WIP)」の一環として行ったものである。WIP は1999年に米国の UCLA を中心とし て設立された国際共同研究組織であり、日本は2000年から正式に参加している。2012年現在、30カ国 が参加している1。この国際共同研究の目的は、テレビと同じく、これまで人類が経験したことにな いほど急速に普及しつつあるインターネットという巨大メディアが、世界の社会、経済、政治、文化 システム全体にわたって、どのような影響を及ぼすか、実証的な調査研究を通じて明らかにし、その 問題点と将来の展望、課題を解明することにある。 本論文では、このうちインターネット利用率全体およびオンラインショッピングに伴うセキュリ ティ不安について、国際調査データをもとに分析を行う。 1 調査の概要と方法 今回用いる調査データは、2009年 7 月、マカオ大学で開催された WIP 国際会議で合意された国際 共通設問をもとに、2009年から2010年にかけて16カ国(オーストラリア、チリ、コロンビア、キプロ ス、ハンガリー、イスラエル、日本、メキシコ、ニュージーランド、ポーランド、ポルトガル、ス ウェーデン、台湾、アラブ首長国連邦、イギリス、アメリカ合衆国)で実施された全国調査の結果で ある。主な調査項目は、インターネットの利用状況、利用しない理由、各種オンライン情報サイトへ のアクセス、各種オンライン・サービスへのアクセス、クレジットカードのセキュリティ不安、イン ターネットと対人関係、インターネットと政治意識、オンライン・コミュニケーション、ソーシャル メディア利用状況などである。 調査方法は各国ごとに異なるが、全国調査で無作為抽出サンプル調査にもとづく調査であること、 英語の国際共通設問を各国語に翻訳して実施することにより、国際比較調査としての信頼性、代表性を担保している。 2 インターネット利用状況の国際比較 ( 1 )全体のインターネット利用率 16カ国におけるインターネット利用率(18歳以上全人口比率)は、図 1 に示すとおりである。もっ とも利用率が高い国はアラブ首長国連邦(94%)であり、日本とスウェーデン(84%)がこれに次い でいる。 ( 2 )性別、年齢別、所得別のインターネット利用率 性別のインターネット利用率を比較してみると、すべての国において、男性の方が女性よりもイン ターネット利用率が高くなっている。年齢別にみると、ほとんどの国において、年齢が低くなるほど インターネット利用率が高いという傾向が共通してみられる。所得別に比較してみると、いずれの国 においても、高額所得層は低額所得層にくらべてインターネット利用率が高くなっている(表 1 )。 また、数値は示していないが、学歴との関連をみると、いずれの国でも、学歴が高い人ほどインター ネット利用率が高いという傾向が共通してみられる。 このように、2010年という時点においても、性別、年齢別、所得別、学歴別というサブグループの 間で、いわゆる「デジタル・ディバイド」(digital divide)が存在することが明らかになった。 図 1 WIP 参加国におけるインターネット利用率(18歳以上 %)
3 オンラインのクレジットカード利用に対する不安 インターネットは日常生活を送る上で有益な情報が溢れており、またクレジットカード等による電 子決済を伴うサービスも多々ある。これらは人々に多くの便益をもたらすと同時に、セキュリティ上 の問題も少なからず含んでいる。ネット上のセキュリティに対する不安については、さまざまなタイ プのものがあり、不安の程度もさまざまである。例えば、三上ら(2005年)は、ワールドインター ネットプロジェクトの一環として、次の 6 種類のインターネット・セキュリティを取り上げ、それぞ れについての不安度を調査した。 ① 自分が見たウェブサイトや自分がやりとりしたメールの内容が他人に知られてしまうことへの不 安 ② 名前・住所・勤務先・クレジットカード番号・パスワードなどの個人情報漏洩への不安 ③ コンピュータウィルスへの不安 ④ 不正アクセスに対する不安 ⑤ インターネット違法請求への不安 ⑥ インターネット上の有害情報への不安 その結果、もっとも不安度が高かったのは、②であった(71.6%の人が「非常に不安を感じる」と 回答)。性別に比較してみると、男性より女性の方がインターネット上の個人情報漏洩に対して不安 を感じる傾向が有意に高く、年齢別にみると、「非常に不安」という人は30代と40代に比較的多いと いう傾向がみられた。 表 1 性別、年齢別、所得別にみたインターネット利用率(%) 性別 年齢別 所得 男 女 18 24 25 34 35 44 45 54 55 64 65 低所得 高所得 オーストラリア 82 80 98 94 94 87 75 39 67 94 チリ 54 48 85 71 48 29 19 0 38 74 コロンビア 62 46 81 60 46 26 17 3 36 65 キプロス 59 51 88 80 66 44 23 10 45 78 ハンガリー 48 41 85 70 55 44 25 6 19 50 イスラエル 76 69 95 79 80 72 66 36 64 88 日本 86 82 100 99 96 91 67 32 76 90 メキシコ 49 31 68 46 34 22 13 13 ニュージーランド 82 81 94 92 97 88 81 53 74 95 ポーランド 57 50 93 84 59 47 27 9 31 64 ポルトガル 45 37 92 71 45 30 20 4 スウェーデン 86 82 100 100 100 96 84 50 80 97 台湾 55 52 93 84 61 43 21 6 36 73 UAE 96 92 98 97 93 81 79 57 94 96 イギリス 69 67 81 86 84 76 55 32 48 88 アメリカ 81 79 99 90 88 80 78 48 70 94
類似の先行研究としては、橋元ら(2010)の行った「インターネット利用に際する不安の10カ国国 際比較調査」がある。この調査では、インターネット上のプライバシーに関して、「自分のクレジッ トカード番号を書く」「自宅住所を書く」「自分の電話番号を書く」「自分の顔写真を載せる」など 8 つの項目を取り上げ、それぞれに関する不安の程度を質問している。その結果、ネット上でのプライ バシーの流出に関する日本人の不安は、10カ国の中で相対的にきわめて大きいという結果が得られ た。また、 8 項目中クレジットカード書き込みを含む 7 項目において、有意に男性より女性の不安度 が高いという傾向が明瞭にみられた。 そこで、本研究では、項目を絞って、インターネット上でのクレジットカード支払いへの不安につ いて、WIP(2009年∼2010年実施)のデータを用いて、国際比較を試みることにした。具体的には、 「あなたは、インターネットで商品等を購入し、支払いをクレジットカードや銀行カードで行なうと したら、カード情報の安全性について、不安を感じますか」という設問に対して、「 1 .まったく不 安を感じない」「 2 .あまり不安を感じない」「 3 .やや不安を感じる」「 4 .とても不安を感じる」 の 4 段階で回答してもらった。図 2 は、15カ国のデータを示したものである。 「やや不安」「とても不安」を合わせた数値で比較してみると、日本は、他の国にくらべて、オンラ インのクレジットカード等の決済に対する不安度がもっとも高いという結果が得られた。次に高いの はコロンビアで、 UAE、イスラエルがこれに続いている。反対に、もっとも不安度が低い国はポー 図 2 オンライン・ショッピングでのクレジットカード決済に対する不安度 (オンラインショッピングをした人で不安が強かった人の割合)
ランドであり、メキシコがこれに続いている。このように、オンライン・ショッピングにおけるクレ ジットカード等決済について、国の間で大きな差異がみられる。 そこで、次に、オリジナル・データセットが利用可能な日本、アメリカ、スウェーデンの三カ国に ついて、オンライン・クレジット決済に対する不安度の要因分析を行うことにしたい。 ( 1 )性別の不安度比較 図 3 ∼ 5 に示すように、日本、アメリカ、スウェーデンいずれの国においても、男性より女性の方 がオンライン・クレジット支払いに対する不安度が高いという共通の結果が得られた。 図 3 性別に見たオンライン・クレジット支払いに対する不安感(日本) (カイ 2 乗検定;p<0.01) 図 4 性別に見たオンライン・クレジット支払いに対する不安感(アメリカ) (カイ 2 乗検定;p<0.01)
( 2 )年齢別の不安度 次に、年齢別にみたインターネット・セキュリティ不安を比較してみよう。 日本の場合、年齢の若い人ほどセキュリティ不安は低いという傾向がみられる(カイ 2 乗検定;p <0.01)。不安度がもっとも高いのは、45歳∼64歳の中高年層である。65歳以上で不安度がやや低下 しているようにみえるが、これは、この年齢層のサンプルが非常に少ないため、特異値の影響を受け たものと考えられる。 図 5 性別にみたオンライン・クレジット支払いに対する不安感(スウェーデン) (カイ 2 乗検定;p<0.05) 図 6 年齢別にみたインターネット・セキュリティ不安(日本)
アメリカの場合には、日本以上に、年齢別のネット・セキュリティ不安度との関連が明確にみられ る。すなわち、年齢が上がるにつれて、ネット・セキュリティへの不安度も高くなってゆくという関
図 7 年齢別にみたインターネット・セキュリティ不安度(アメリカ)
連がはっきりと見られるのである(図 7 )。 スウェーデンの場合をみると、インターネット・セキュリティへの不安がもっとも強いのは、65歳 以上の高齢者であり、不安度がもっとも低いのは25∼34歳の若年層である。 このように、いずれの国においても、インターネット・セキュリティ不安が強いのは、高齢層であ るという共通の傾向が確認された。 ( 3 )その他の属性との関連 以上、性別、年齢別のインターネット・セキュリティ不安について 3 カ国のデータを比較してみた が、この他の主要属性との関連についても、興味深い知見がいくつかみられた。 所得階層別の不安度を国別に比較してみると、アメリカでは、所得が高い人ほどインターネット・ セキュリティ不安感が低いという傾向が有意にみられたが、日本とスウェーデンでは所得による有意 な関連はみられなかった。 ( 4 )オンラインショッピングの頻度との関連性 高齢者層ほどインターネット・セキュリティ不安が高くなるという共通の傾向の背景には、オンラ イン・ショッピングの経験度の差もあるのではないかと考えられる。すなわち、オンライン・ショッ ピングをする頻度の高い人ほど、セキュリティの安全性を感じる割合が高いのではないか、と考えら れる。もちろん、これとは反対の因果関係の存在も考えられる。すなわち、インターネット・セキュ リティへの不安感が低い人は、それだけインターネット上での購買行動への動機づけが高まり、オン ライン・ショッピングを多くするという傾向がみられるものと考えられる。この仮説を実証するため 図 9 所得階層別にみたインターネット・セキュリティ不安度(アメリカ)
に、ネット・セキュリティ不安とオンライン・ショッピング頻度との関連性をクロス集計してみた。 その結果は、図10∼12に示すとおりとなっている。いずれの国においても、日頃オンライン・ ショッピングをする頻度が高い人ほど、インターネット・セキュリティ不安が低くなるという関連が 有意にみられる。 図10 オンライン・ショッピングの頻度別にみたインターネット・セキュリティ不安度(日本) 図11 オンライン・ショッピングの頻度別にみたインターネット・セキュリティ不安度(アメリカ)
( 5 )重回帰分析による要因分析 以上みたように、インターネット・セキュリティ不安度は、性別、年齢別、所得階層別、オンライ ン・ショッピング頻度と有意な関連をもつことが、 3 カ国調査のデータによって明らかになった。 しかし、これらの関連性は、いわゆる擬似相関によって成立しているようにみえるという可能性が ある。例えば、年齢と所得の間には、年齢が上の人ほど所得が高いという可能性がある。また、オン ライン・ショッピング頻度と所得、年齢との間にも相関があり、それがインターネット・セキュリ ティ不安度との間の有意な関連を生じているということも考えられる。 そこで、これらの要因間の相関を排除して、それぞれの要因がインターネット・セキュリティ不安 に及ぼしている純粋の関連をみるために、インターネット・セキュリティを従属変数として、性別、 年齢、所得、オンライン・ショッピング頻度を独立変数(説明変数)とする重回帰分析を行ってみ た。その結果は、表 2 に示すとおりである。 日本では、「オンライン・ショッピングの利用頻度」の標準化係数が -0.226でもっとも大きな関連 性をもつという結果が得られた。つまり、オンライン・ショッピングの利用頻度が高い人ほど、イン ターネット・セキュリティ不安は小さいという関連である。これは、ネットショッピングの経験が多 くなるにつれて、インターネットセキュリティ不安が軽減するという因果関連と、インターネット・ セキュリティ不安の強い人はオンライン・ショッピングを控えるという因果関係の双方が考えられ る。この変数以外に有意な関連を示したものはない。統計的に有意ではないが、年齢要因の影響も比 較的大きく、高齢者ほどインターネット・セキュリティへの不安が高くなるという傾向がみられる。 アメリカでは、年齢の要因がもっとも大きく、日本と同じく、年齢が高くなるにつれて、インター ネット・セキュリティへの不安も高まるという関連がみられる。また、オンラインショッピング利用 図12 オンライン・ショッピングの頻度別にみたインターネット・セキュリティ不安度(スウェーデン)
〈注〉 1 WIP の参加国は、2012年 7 月現在、オーストラリア、ブラジル、カナダ、ケープヴェルデ、チリ、中国、 コロンビア、クロアチア、キプロス、チェコ、エクアドル、フランス、ドイツ、ハンガリー、インド、イラ ン、イスラエル、イタリア、日本、マカオ、メキシコ、ニュージーランド、ポーランド、ポルトガル、シンガ ポール、南アフリカ、韓国、スペイン、スウェーデン、台湾の30カ国である。WIP の公式ウェブサイトは、 http://www.worldinternetproject.netである。 【引用文献】
Cole J.(ed.), 2012, World Internet Project International Report, 3rd. University of Southern California, Center for
Digital Future. http://www.digitalcenter.org/WIP2012/2012_wip_report_third.pdf
頻度との関連も有意であった。すなわち、オンラインショッピングの利用頻度の高い人ほど、イン ターネット・セキュリティへの不安が小さくなるという、日本と同様の傾向がみられた。その他の属 性との関連は有意ではなかった。 スウェーデンについてみると、統計的に有意な関連を示す変数は一つもないという結果が得られ た。とくに、オンライン・ショッピング頻度との関連性はきわめて低いという、日本やアメリカとは 異なる結果が得られた。ただし、関連の方向性という点では、いずれの説明変数についても、アメリ カと同じ傾向がみられる。 おわりに 本研究を通じて、インターネット利用およびネット不安において、国家や文化の違いをこえて、性 別・年齢別でのデジタル・ディバイドが存在することが明らかになった。すなわち、女性や高齢者は インターネットの利用率が低く、またネットショッピングの頻度がインターネットに対する不安と強 い相関を持つことがわかった。このような関連性の背後には、インターネットの利用に関する情報リ テラシーという要因があるものと考えられる。今後、インターネットの利用がさらに進み、インター ネット・セキュリティの向上が図られることを通じて、性別、年齢別にみられるデジタル・ディバイ ドが軽減されることが期待される。今後の研究課題としては、インターネット利用経験、情報リテラ シー、ネット不安の間の因果関係の構造を解明することが必要だと考えられる。 表 2 インターネット・セキュリティ不安度の重回帰分析結果 日 本 アメリカ スウェーデン 標準化係数 有意確率 標準化係数 有意確率 標準化係数 有意確率 性別 0.073 0.136 0.050 0.057 0.048 0.111 年齢 0.092 0.064 0.097 0.000 0.033 0.301 世帯所得 0.046 0.345 0.030 0.276 0.012 0.707 学歴 0.049 0.321 0.042 0.118 0.014 0.640 オンラインショッピング頻度 0.226 0.000 0.063 0.020 0.008 0.796
橋元良明他、2010、『インターネット利用に際する不安の10カ国国際比較調査』東京大学情報学環 三上俊治他、2006、『インターネットの利用動向に関する実態調査報告書2005』情報通信研究機構
Mikami, S., 2009, The Internet Under a Changing Media Environment , Cardoso, G., Cheong, A, and Cole, J. (Eds.), World Wide Internet: Changing Societies, Economies and Cultures. University of Macau Press, PP.93 109.