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制度会計とその展望について(陵水七十年記念論文集)

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制度会計とその展望について

清  水  哲  雄

〔1〕序  制度とは慣習あるいは人が相互に期待する行為の基準である場合と法律の場       1) 合がある。したがって制度には規範として比較的緩いものときついものがある。 このきつい規範のもとでの制度会計を端的に法律的会計とするならば,緩い規 範のもとでの制度会計は企業会計を財務会計を管理会計に二分した場合,慣習       2) の一部としての財務会計と同一視することができるから経済社会に広く慣習と して存在する会計原則を集約した企業会計原則も当然制度会計の範疇に入るこ とになる。  企業会計にきつい縛りである法的規制の枠を嵌めると制度会計は商法,証券 取引法,税法の3つの法律に関わる会計規範となる。商法会計は商法の立法精 神である債権者保護の立場から財産計算の適正な表示を重視するから,法的に 認められない債権や債務は基本的には貸借対照表能力はない。一方証券取引法 会計似下証取法会計という)は証取法の立法精神から,投資者保護を指向し ているので損益計算書を重視し,適正な期間損益計算をおこなうため法的には 債権や債務と認められないものであっても貸借対照表に記載されることになる。 たとえば商法会計において繰延資産のような担保能力のない資産が貸借対照表 に記載されることは債権者保護の商法の理念からは容認されないが,投資者保 護の目的からは期間損益計算を正しく把握する必要性からこれが容認されるの で,限定された繰延資産については分配可能利益の算定目的から容認されざる 1)木村重義:「制度会計の概念と実i務の発展」『企業会計』第24巻第1号 昭和47年1月。 2)浅羽二郎:『制度会計論の基礎』同文館 昭和50年 21ページ。

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102 彦根論叢第283・284号 を得ないことになる。証取法は株式や社債の投資者の保護を指向していると同 時に証券市場における証券流通の円滑化を図るという狙いがある。株式を上場 している企業や社債発行企業は公認会計士や監査法人の監査を受ける義務があ るから,一般に公正妥当な会計原則によって財務諸表が作成されているかどう かを判定するために企業会計原則がある。したがって昭和23年に制定された証 取法は企業会計原則の設定にあたって大きなインパクトを与えている。この企 業会計原則は開示すべき企業の財務内容の計算に係る実体規定(=処理規定) とその表示形式に係る規定(=報告規定)を示している。さらに開示される財 務諸表の形式を具体的かつ詳細に規定する「財務諸表等の用語,様式及び作成 方法に関する規則」(略して財務諸表規則)の実質的内容を担うものとして当初 の目的である投資者の判断に有用な会計情報を提供できるように企業会計原則 が設定されたのである。このような観点から財務諸表規則や企業会計原則は投 資者に対する開示規定である。このように証取法とのかかわりから生まれた企 業会計原則は商法第32条の「公正なる会計慣行」を示す内容をもつものとして 一般化しているという点で,企業会計原則は商法と証取法との接点をもってい る。 〔2〕制度会計としての財務会計  制度会計をきつい規範で縛ったものとして法律制度に組み込まれた会計(商 法会計,証取法会計,税務会計)という一般論に対して緩い規範にもとつくも のという制度会計も考えられ.たが,さらにいくつかの理由で又別の制度会計領       3) 域も考えられる。  (1) 企業会計制度は法律によって規制された会計だけで完結されるもの ではなく,現実に行われている他の会計も法律に入り得る余地がある。これは 制度化の枠外でなされている情報として必要な会計を指するものであり,いわ ば制度会計の延長線上にある情報会計は将来において制度会計となり得る分野 3)伊藤邦雄:「制度会計のフレームワーク シンポジウム/制度会計の重要課題と展望  〔第1回〕『企業会計』第37巻第12号 昭和60年12月。

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である。  (2) 制度会計を狭く限定すると制度の本質が見失なわれる可能性がでて きて,法律によって会計と規制するという意味がなくなる。  (3> 制度会計論を発展させるためには伝統的な方法によってはその枠が 狭くて拡張の余地がない。  以上のような3つの根拠を踏まえて制度会計を2つのディメンションから考 えてみる。第1のディメンションは一般に言うように法律によって規制される, いわば強制された制度会計mandated accounting−M型制度会計 第2は法 律によって強制されず,目的適合的あるいは利益追求のために企業あるいは経 営者が自発的に且つ継続的に行うような会計ディメンションである。たとえば 企業会計原則に準拠して行う会計や法的規制や企業会計原則が制定される以前 に自発的に行われる会計voluntary accounting−V型制度会計である。このM 型制度会計とV型制度会計は歴史的にはM型はV型を取り込みながら領域を拡 大し,その結果両者の交差面積が拡大し,V型自身も自己増殖しそのディメン ションを拡大した。

ご一

M型

M型

V型

V型  さらに制度会計への接近法としてつぎの2つが考えられる,その第1はノー マティブ接近法である。これは一定の価値判断を前提として,最適な会計方針 の選択や規制が如何にあるべきかを明らかにする接近法である。その第2はポ ジティブ接近法である。これは価値判断や政策決定には関係なく客観的事象あ るいはそのメカニズムの解明を目的とする接近法である。前者は規範的制度会 計接近法,後者は存在論的制度会計接近法と呼ぶことができよう。

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104  彦根論叢 第283・284号  上述の制度会計についての2つのディメンションと制度会計への2つの接近 法を組み合わせると1つのマトリックスができる。 N型アプローチ P型アブu一チ M型制度会計 V型制度会計   I M−N型 制度会計論   III V−N型 制度会計論   II M−P型 制度会計論   IV  V−P型 制度会計論  わが国の従来から支配的である制度会計論は第1のタイプのM−N型の制度 会計論であり,法律で強制され且つ一定の価値判断を前提としてかくあるべし とする制度会計論であった。したがって他のII, III, IVのそれぞれの型は非制 度会計論ということになるが,ここではこれらも制度会計論の範疇に考えたい。 これはたとえば企業会計原則にインフレーション会計を導入すればIIIのV−N 型になるであろうし,また商法に連結財務諸表制度を導入すれば1のM−N型と なって,現在すでに制度会計として存在する。  つぎにそれぞれのタイプの内容を検討してみよう。  第1のタイプは商法の立法精神が債権者保護であり,債権者の利益の増進は 株主の利益の低減につながることになるから,商法会計論としては債権者の利 害と株主のそれとの公平性に関する調整が課題となってくる。証取法会計論の 側面ではその基本理念は不正の防止と投資者保護である。  第2のタイプはたとえば商法第32条第2項の「商業帳簿の作成に関する規定 の解釈に付いては公正なる会計慣行を斜酌すべし」という包括規定の法解釈に ついては多くの意見があったが,いずれも実施あるいは説明理論を欠いたアプ リオリな解釈であった。またステユアードシップにもとづいた議論もあったけ

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れども,これが客観的事実を持つかどうかは疑問として残る。証取法会計では 強制的に開示される情報が投資者の意思決定にどのような影響を与えているか の実証の試みは殆んどなされていない。したがって証取法による情報開示がど のように投資者の保護に役立っているかは不明である。  第3のタイプは企業会計原則あるいは企業会計原則に対する種々の理論的な アプローチを内容とするものである。企業会計原則は費用・収益の適切な対応 を図ることを基礎として企業会計原則の一般原則第1及び第7からそれぞれ真       4) 実利益主義,経済的実態主義を採っている。それとともに利用者指向的な接近 法も採っている。  第4のタイプは今日まで議論されたことのないタイプであるが,これへの接 近法には1つには情報作成者指向型の接近法で,従来の会計情報の作成はこの 方法によっているので一方通行の会計情報が作成され,伝達される。ここでは 情報のコスト分析,利益の平準化,会計方針の変更,保守的経理のような会計 政策の有効性をテストする必要がある。他の1つの接近法は情報利用者指向型 の接近法で,これには会計情報が情報利用者の意思決定にどのように有効に働 らいているかという有用性の検証が必要である。会計情報の利用者は企業を取 り巻く内外の人達に有効でなければならないが,この会計情報の利用者のそれ ぞれの意思決定事項は多岐にわたるから,要求する会計情報も多重的である。 会計情報の基準の第1に掲げられるのは,したがって目的適合性の基準である。 会計情報の利用者にとって有効性の検証がなされなければならない理由はここ にある。  わが国において制度会計の領域が確立されたのは古くはない。尤も1673年の フランスの商業条令による債権者保護のための会計情報の開示=貸借対照表作 成の義務付けをその噛矢と考えることも出来るが,会計情報の開示という問題 4)昭和24年にわが国の企業会計原則が制定され,その制定精神からは第IIIのタイプに属す ると考えられるが,昭和38年以降は企業会計原則は商法会計の傘下に入っているから今日 の企業会計原則はむしろ第1のタイプに属するとする研究者も存在する。たとえば斉藤静 樹教授がそうである。

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106  彦根論叢 第283’284号 がクローズアップされてきたのは石油ショック以降の企業が行った買い占めや 売り惜しみ,あるいは便乗値上げ等の一連の行動の批判をめぐって企業の業務 内容の開示を強化して,業務運営を公正にしょうとするために一連の法令改正 をして企業のディスクロージャ制度が改善された。さらに経済の急激な発展の 副産物とでもいうべき公害問題からの経営内容の開示の要請もあった。したが       5) って現代会計における制度会計は特に法令改正後というべきであろうという議 論があるが,制度会計をこのように法律で縛るきつい規範と考えるものから緩 い会計規範もその範疇に入れようとする考え方からすれば,戦後すでに企業会 計原則が制定されているから,制度会計はその頃から発祥していると考えるべ きであり,さらに企業会計原則は昭和37年の商法改正を契機にしてそれまでの 企業会計原則本来の指導理念は商法主導に移行した。現象面では企業会計原則 の本文においてその指導原理を,また注解において実践規絶を採った。これは 昭和44年の企業会計原則修正案でもそのようになっているといわれているが,       6) 本文においても商法に歩み寄っているという議論もある。  わが国の制度会計としての財務会計は昭和50年代に顕著な拡大を遂げた。商 法会計の領域では,昭和57年に商法計算書類規則が改正され会計方針の注記が 強制され,営業報告書と付属明細書の記載事項が詳細に定められた。営業報告 書の法定記載事項は後発事象の記述,営業の経過および成果についての部門別 記述,親会社子会社との関係など企業結合の状況に関する記述,付属明細書で は支配株主や子会社に関連した明細記述,会社の利益に相反する役員等の特別 利害関係者との取引明細記述が注目される。他方証取法会計の領域では昭和51 年の連結財務諸表制度の導入,昭和52年の中間財務諸表制度の導入,昭和57年 の財務諸表規則の改正による重要な会計方針や後発事象の注記等の開示強化, 昭和58年半連結会計における持分法の強制適用などがある。  このように商法会計と証取法会計の双方にわたって重複する部分が見受けら れるが,これらを総括すると財務会計情報の拡大の方向は概ね4つに分類でき 5)興津裕康:「制度会計の方向」『会計』第133回目1号。 6)たとえば松山大学の神森智教授。

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る。  第1は基幹会計情報の領域の拡大である。特に商法会計の領域では営業報告 書と付属明細書でかなり詳しい会計情報が提供されることになっている。連結 財務諸表は個別財務諸表を基礎として作成されるところがら矢張り基幹会計情 報である。むしろ中間財務諸表には一部分予測主義の考え方がある。たとえば 営業費の繰上計上や繰延処理を行う際には,会計帳簿からは導くことができな い情報が中聞財務諸表に計上されるので部分的には周辺会計情報となる。  第2は証取法会計の領域での時間的ひろがりは,中間財務諸表制度の導入や 後発事象の注記による開示であり,また空間的ひろがりとしては連結財務諸表 制度の導入や持分法の強制適用がある。商法会計領域での会計情報のひろがり は,営業報告書や付属明細書における対子会社出資・債権債務・営業取引の明 細開示等の拡大が行われている。  第3は財務会計情報の濃密化である。これは商法会計の領域で付属明細書に 役員等特別利害関係者との取引明細や役員報酬が開示されることになった。  第4は財務会計情報の伝達方法が改善に向って大きく前進したことである。 これは会計方針を開示することに端的にあらわれている。すなわち財務諸表は 事実の記録と判断と慣習の総合的産物であり,財務諸表の妥当性はそれが作成 された時に採用された会計方針に依存しているので,これが開示されるように なったのは会計情報の伝達の改善に向かうことであり,財務会計情報の拡大の 1つの方向を示すものである。  制度会計としての財務会計の領域を拡大し,より多くの情報利用者に役立て る試みが,商法や証取法によってなされてきたが,これらの制度で財務会計の 情報提供能力は満足すべきものであろうか。あるいは財務会計の拡大は何処ま で可能なのであろうか。この両者には限界があると思われる。それはとりも直 さず財務会計情報の有用性ないし信用性にかかわってくると考えられる。  そこで財務会計情報の拡大の限界について検討してみる。第1は財務会計情 報は主としてフローの拡大の方向に限られる。継続企業の活動は不断の流れを なしているから,財務会計情報を拡大しようと思えば自らフローが中心となる。

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108  彦根論叢 第283・284号 逆にいえばストック情報の提供の拡大には限界がある。第2は制度会計として の商法会計,証取法会計における財務会計情報は債権者と投資者のための情報 提供を指向するものであったので,この開示方式による限り多種多様な情報要 求には応じられないという限界がある。第3は財務会計情報の提供は権威ある 機関が設定したルールにもとづいていなければならないが,このルールの設定 に際しては情報提供の側とその利用側との間で情報提供の費用と情報利用の便 益,情報の確実性と適合性,情報提供者の機密保持と利用者の知る権利等の相 矛盾する利害の調整が必要である。この調整にはかなり時間を必要とするので, 今後ますます増加する情報利用者の要求に応じていけないという限界がある。 第4は財務会計情報は過去的情報であるが未来的情報の開示には限界がある。 たとえば公益法人では予算の開示がなされ,予算の厳正な執行が意味を持つが, 営利企業では極大利潤の実現を指向しているから予算は当初から弾力的運用が       7) なされている。したがって予算という未来的財務会計情報の開示は行われ難い。 〔3〕商法会計の特質  商法会計が実施される主体はすべての商人である。しかし商人の行う会計に ついて法的規制の厳しさは自然人である個人よりは法人である合名会社や合資 会社であり,さらに有限会社や株式会社と高くなる。これは人的結合よりも物 的結合の方が社会に対する副耳が大きいからである。株式会社についても小, 中規模の会社よりも大会社の方が社会性が高まるという訳で法的規制が厳しく なっているのは当然であろう。  中小会社においては取締役は計算書類を定時株主総会に提出し,貸借対照表, 損益計算書,利益の処分あるいは損失の処理に関する議案について承認を求め なければならないが,営業報告書については単にその内容を報告すればよいこ 7)白鳥庄之助:「財務会計の課題と限界」『会計』第129巻第1号。  尤も管理会計の領域では予算は極めて重要な会計情報であり,この未来指向的会計数値を  ターゲットにして日々の企業活動がなされ,実績との対比によって経営管理が行われ,利  潤極大化の方向を歩む。したがって予算管理は企業の内部報告会計であり,ここにいう外  部報告会計としての財務会計とはその会計領域を異にする。

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とになっている(商法第283条第1項)。  大会社では各会計監査人の監査報告書に貸借対照表と損益計算書について法 令および定款の規定に従って会社の財産および損益の状況を正しく示している 旨の記載があり,且つ各監査役の監査報告書に会計監査人の監査の結果を相当 でないと認めた旨の記載がない時には商法第283条第1項の規定に拘らず取締 役は貸借対照表および損益計算書について定時総会の承認決議を求めなくても よい(商法特例法第16条第1項)。貸借対照表,損益計算書につき定時総会での 承認決議を必要としない場合でも,定時総会にこれらの書類を提出してその内 容を報告しなければならない。なお大会社,中小会社を問わず利益処分案につ いては定時総:会における承認決議が必要である(商法第283条第1項)。また取 締役は貸借対照表,損益計算書を定時総会に提出して承認された時,あるいは 承認を求めることを要しないで,その内容を定時総会で報告した時は遅滞なく       8) それらの書類あるいはその旨を公告しなければならないことになっている(商 法第283条第III項,商法特例法第16条第II項)。  会計監査を検討する場合,2つの方向がある。1つは証取法にもとつく監査 であり,他の1つは商法にもとつく監査である。  昭和25年以前の商法では監査役に会計監査と業務監査を行う権限が付与され ていた。昭和25年の商法改正によって業務監査は取締役会に委ねられ,監査役 には会計監査のみを行う権限が認められることになった。これは監査役が業務 の執行から独立していて,取締役の業務の執行の適否について意見を述べるこ とは妥当ではないということである。昭和27年から証取法にもとつく監査が実 施されたが,これが商法監査との重複を生じ,幾つかの会社倒産とこれに関連 した粉飾決算事件が発生したのを契機に株式会社の監査制度の強化の必要性が 社会的に重視されることになった。  昭和49年目商法が改正され,また商法特例法が制定されて商法監査が強化充 実された。その特徴は1) 監査役の権限が会計監査のみならず業務監査にま で及んだこと,2) 大会社の会計監査に際して監査役の監査のほか,会計監 8)若杉 明:『制度会計論』森山書店 1987年 pp.222一一224.

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110  彦根論叢 第283・284号  9) 査人によって監査が行われるようになった(商法特例法第2条)。  昭和56年の商法および商法特例法の一部改正によって大会社の範囲が拡大さ れ,監査役の権限の強化,会計監査人の監査対象となる計算書類の範囲等の改 正が行われ商法監査はさらに強化された。因みに商法による会社の大小の区別 は,大会社は資本額が5億円以上,あるいは負債の合計が200億円以上であり, 中会社は資本の額が1憶円を超え5億円未満で且つ負債総額が200億円未満,小       10) 会社は資本の額が1億円以下である。  すべての商人をその対象とする商法が株主および債権者の保護と利害調整に よって産業社会における秩序の維持を図ることを考えているとしても,大会社 ではこれをめぐる利害関係者が債権者や株主だけでなく多様であるから,大会 社をめぐる社会秩序を維持するためには利害関係者を同列においてこれらの人 々の保護と利害調整をはからなければならない。商法における監査役および会 計監査人による監査は株主総会で承認・確定される前の計算書類について行わ れるから事前監査である(商法第281条第2項,283条第1項および第2項,商 法特例法第2条)。商法特例法が株主総会の前に会計監査人による監査を実施さ せるのは会社における経理不正,粉飾決算などを未然に防ぐために不適正で法 令に反するような計算書類が株主総会で承認されることのないようにするとい う考えである。このことは又,商法会計が会計報告の根拠とするequity accountabilityと深い関係がある。すなわち株主や債権者に対するaccount− abilityの一環としてなされる会計報告は,会計監査人による監査を受けた適正 且つ適法で信頼され得る計算書類によらなければならないが,このような監査 を受けた計算書類は株主総:会の承認・確定を受けたことによって,株主や債権 者その他の会社の利害関係者を保護し利害の調整をはかろうとするものである。  会計監査人の監査の対象となる会計記録は商法第281条第1項の書類である 貸借対照表,損益計算書,営業報告書,利益の処分又は損失の処理に関する議 9)会計監査人とはわが国の公認会計士,外国の公認会計士あるいは監査法人を指す(商法  特例法第4条第1項)。 10)若杉 明:前掲書pp. 227 一一 228.

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案およびこれらの書類の付属明細書であり,会計監査人が従うべき会計基準は 商法の計算規定,計算書類規則,公正なる会計慣行である。また会計監査に関 する基準は日本公認会計士協会がこれまでに公表してきた各種の解釈指針,財 務諸表等の監査証明に関する省令および同取扱通達,証取法監査に際して従わ        11) なければならない監査基準などである。  商法会計の枠組みについて考察すると,これには2つの側面がある。第1は 株主有限責任制度から派生するものとして債権者保護のための配当可能利益計 算の側面である。それは内容としては資本維持の原則と原価主義に立脚してい る。第2は所有と経営の分離の見地から資本の受託者である取締役から,その 委託者である一般株主や債権者等に対する受託責任遂行のための企業の経営内 容の開示の側面であり,その中心は業績の開示と利益の開示である。この2つ の側面からつぎの3点が引き出されてくることになる。1)すでに述べた2つ の側面のうち,商法会計の中心となるのは配当利益の算定である。2)会計情 報が作り出される計算構造からみて,あるいは配当可能利益の計算構造によっ て,会社内容の開示の側面は制約を受ける。3)開示情報の質的側面の改善に より,逆に配当可能利益の計算の構造が改めちれることになる。  商法については昭和56年に大改正がなされたが,それが会計に与えたインパ クトはどのようなものであったであろうか。それは会社内容の開示制度および 自主的監視制度の強化充実という見地から,会計の側面ではつぎの諸点の改正 があった。a)営業報告書の記載の法定化 b)付属明細書の記載事項の拡充 。)貸借対照表および損益計算書の開示能力を強めるための注意事項の新設 d)監査報告書の記載事項に関して重要な会計方針の変更の相当性についての 監査役あるいは会計監査人の意見および理由の追加,これは継続性原則の間接 的な採用である。e)引当金規定の整備。これらの改正により開示手段として の会計情報が拡充され豊富になり,且つ会計情報の信頼性を高めるために計算 書類作成基準の明確化や監査体制の強化が図られ,株主や債権者に対する会社 内容の開示制度は従来よりも改善された。この改正の方向はドイツやフラン 11>若杉 明:前掲書 pp. 229∼231.

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112 彦根論叢第283・284号 スにおける制度の改正に対応するものであり,その背後に公開規定は企業の外 部者に役立つことを指向してその範囲において充分であり,内容的に信頼し得 るものであり,且つ経営問の比較を可能にする情報を提供しなければならない とする情報会計論の影響があったと考えされる。  FASB(Financial Accounting Standards Board)の財務会計概念に関する ステートメントNo.・2の会計情報の質的特徴によると,情報の信頼性は経済事象       12) の表現の忠実性,検証可能性および中立性とから成り立っている。この観点か ら現行の商法の会計規定を考察するとつぎの点が問題となる。  (1) 計算面において利益操作の余地が残されている。それらは具体的に は1)暖簾,繰延資産,引当金の計上の選択権が許されているが,この許容選 択権は本来的には削除することが必要であろう。2)昭和56年の商法改正で改 善はされたが,会計処理の継続性の確保という点で未だ不充分である。したが って継続性の原則を商法に明文化すべきであろう。  (2) 企業の経済的現実に適合した情報開示の面で現行商法は不充分であ る。たとえば1)棚卸資産と有価証券については低価法の適用が商法において も認められている。いわゆる切放し低価法の場合には当該資産の評価減の原因 がなくなっても,引き下げた低い評価額がそのまま残っている。この状態では 秘密積立金の設定となり,計算書類の開示能力を阻害することになる。真に企 業の情報開示を求めようとするならば評価増も必要であろう。アメリカではこ       13) の評価増は棚卸資産には認められていないが,株式については認められている。 2)リース情報の開示が求められていない。3)インフレ会計情報の開示が求 められていない。4)個別財務諸表を前提として連結の場合は持分法が認めら れているけれども,関連会社に対する投資株式に関しては持分法の適用が認め られていない。これらのものは営業報告書あるいは付属明細書の記載事項とし て取り上げることにしては如何かと考えられる。会計情報として有用と考えら 12) Financial Accounting Standards Board: Statement of Financial Accounting Con−  copts, No. 2. paragraph 58一一97. 13) FASB No. 12.

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れるからである。  大会社の一連の経理に関する不祥事件の発生で企業の社会的責任の遂行と, そのための自主監視機能の強化充実が昭和56年の商法改正の1つの大きな点で あったので計算書類の商業登記所への提出と公示の方法が追求される心要があ る。こうすることによって従来の公告にくらべて費用の負担が軽くなり,より 多くの情報の公開を可能にし,社会一般に対してより公平に情報を知る機会を 確保することができ,計算書類の作成・記載が適法になされていることを審査        14) 可能にする等のメリットがある。 〔4〕 証取法会計の特質  証取法会計は証券取引法を基礎とし,企業会計原則や大蔵省令等に従って実 施される。証取法のもとにおける企業内容開示制度においては,有価証券の発 行市場および流通市場において投資者の有価証券への投資の意思決定に際して 有用な諸情報の開示がなされることによって投資者の保護が図られている。そ れらの諸情報とは,①有価証券届出書②有価証券報告書 ③半期報告書④ 連結財務諸表 ⑤臨時報告書等である。  証取法によれば一定額以上(1億円以上)の有価証券を発行する会社は有価 証券届出書を大蔵大臣に提出する義務を負い,また届出をした会社や上場会社 は毎年有価証券報告書を大蔵大臣に提出しなければならないことになっている。 これらの提出書類にはつぎの記載事項が必要とされる。①会社の目的 ②商号 および資本又は出資に関する事項 ③営業および経理の状況その他事業の内容 に関する重要な事項 ④会社の役員等に関する事項 ⑤募集又は売出に関する 事項ないし会社の発行する有価証券に関する事項 ⑥その他公益又は投資者保 護のため必要且つ適当なものとなっている。またこれらの事項を記載する財務 計算に関する書類を財務書類と呼び,そのうち貸借対照表,損益計算書および 利益金処分計算書などを財務諸表と呼んでいる。 14)森川入州男:「商法会計の問題点シンポジウム/制度会計の重要課題と展望〔第2回〕  『企業会計』第38巻第1号昭和61年1月。

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114  彦根論叢 第283・284号  証取法会計は投資者に企業の状況を知らせるものであり,これを基礎付けて いる会計理論は損益法である。投資者の主たる関心は企業が保有する財産,さ らに正確には正味財産(=資本の有高)ではなく企業の収益力であるから期間 損益計算を適正に行わなければならない。したがってこれを損益計算書にまと        15) めて開示することが主たる目的となる。  証取法会計の適用対象となる会社が有価証券届出書や有価証券報告書に含め て提出する財務計算に関する書類については,会社と特別の利害関係のない公 認会計士又は監査法人の監査証明を受けなければならない(証取法第193条の 2,第2項)。これが証取法監査である。この制度は昭和25年3月の証取法改正 によって制度化された。この制度はさらに昭和25年9月に企業会計審議会によ って公表された監査基準および昭和26年に公布された監査証明省令に支えられ て昭和26年7月より実施され今日に至っている。  証取法監査では財務諸表を一般に公正妥当と認められる会計基準に従って作 成すべきことを要求している。これは別のいい方をすれば適正性の要請でもあ る。証取法監査が対象とする財務諸表は株主総会において承認され確定された ものである。したがって監査役監査が事前監査であるのに対して証取法監査は 事後監査ということになる。  証取法会計における企業内容の開示は参加の理論にもとづいてなされる。す なわち企業内容の開示は潜在的な株主や債権者等が企業への参加の意思決定に 有用であることを狙いとしている。したがって証取法監査もその趣旨に沿って 財務諸表の真実性を制度的に保証し,投資者の意思決定に有用であることが必 要である。  証取法監査の対象となる会計記録は個別財務諸表と連結財務諸表である。個 別財務諸表には正規の決算によるものと中間財務諸表がある。前者は損益計算 書,貸借対照表,財務諸表付属明細書および利益処分計算書であり,後者は中 間損益計算書および中絶貸借対照表である。連結財務諸表は連結損益計算書, 連結貸借対照表および連結剰余金計算書からなっている。 15)若杉明二前掲書 pp.225∼227.

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 証取法監査で従わなければならない会計基準は,①企業会計原則(昭和24年 7月9日,経済安定本部企業会計制度対策調査会中間報告,最終改正 昭和57 年4月20日) ②企業会計原則注解(昭和57年4月20日) ③連結財務諸表原 則(昭和50年6月24日,企業会計審議会) ④連結財務諸表原則注解(昭和50 年6月24日,最終改正 昭和57年4月20日,企業会計審議会) ⑤中間財務諸 表作成基準(昭和52年3月29B,最:終改正 昭和57年4月20日,企業会計審議 会) ⑥外貨建取引等会計処理基準・同注解(昭和52年6月26日,最終改正 昭 和58年12月22日,企業会計審議会) ⑦原価計算基準(昭和37年11月8日,企 業会計審議会) ⑧企業会計上の個別問題に関する意見(昭和43年11月11日, 企業会計審議会) ⑨企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書 (昭和35年6月22日,企業会計審議会) ⑩財務諸表規則(財務諸表等の用語, 様式及び作成方法に関する規則 昭和38年11月27日 大蔵省令第59号,最終改 正 平成3年8月26日 大蔵省令第41号) ⑪財務諸表規則取扱要領(平成4 年7月20日 二二第1004号) ⑫連結財務諸表規則(昭和51年10月30日 大蔵 省令第28号,最:終改正 平成3年3月25日 大蔵省令第10号) ⑬連結財務諸 表規則取扱要領(平成4年7月20日 蔵証第1005号)⑭中間財務諸表規則(昭 和52年8月30日 大蔵省令第38号,最:終改正 昭和57年9月21日 大蔵省令第 48号) ⑮中間財務諸表規則取扱要領(平成4年7月20日 蔵証第1006号)で ある。また会計監査に関する基準は ①監査基準・監査実施準則・監査報告準 則(昭和31年12月25日 企業会計審議会,最:終改正 平成3年12月26日) ③ 中間財務諸表監査基準(昭和52年3月29日,最終改正 平成3年12月26日,企       16) 業会計審議会)等である。 〔5〕 制度会計の展望一結びに代えて一  ドイツ会計理論の生成発展を考えてみると,古くは1673年の当時のフランス における詐欺・破産による債権者保護を目的とする商業条令が制定され,これ がドイツ商法典となって大陸系商法の形をとり,財産計算を主体とする商法会 16)若杉明:前掲書 pp.232∼234.

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116  彦根論叢 第283・284号 計となって定着し今日のわが国の商法会計の中心的な思想となっている。投資 者保護を目的とする証取法会計も制度化されてこの両者によって会計情報を真 実性の側面から正しい利益計算をすることが企業を取り巻く人々の信頼を得る ことになる。しかしながら会計情報の利用者の側からは,単一の会計情報では 満足し得ない程今日の経済環境は複雑になっている。それはそれぞれの目的に よって異なった情報を欲することから生じている。したがって制度会計におけ る真実性=客観性は情報利用者が欲する会計すなわち情報会計における目的適        17) 合性に置き替えられなければ会計情報の信頼性は得られないことになる。  制度の浸透性という観点からいえばこれを2つに分類できる。1つは商法の 制度枠は商法第32条の「公正なる会計慣行」を通じ,また税法の制度枠は法人 税法第22条の「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」を通じて流動的, 発展的に商人の実務慣習からの移行が認められる。他の1つは,先に述べた情 報要求の多様化と利用者の目的指向の積極的援助という社会的経済的情況の変 化が法律の制度枠に様々な形でインパクトを与えている。たとえば石油危機以 降の経済構造の変化によって貨幣中心の経理思考(一般購買力修正会計)から 物財中心のそれとともに投資者の意思決定の援助に対処するためにSECでは 取替原価情報を脚注に開示する方向にある。これは制度の枠内での情報の豊富       18) 化を意図するものである。  制度会計に大きなインパクトを与えるものにはインフレと技術革新がある。 技術革新のインパクトは通常インフレ会計に吸収されている感があるが,本来 は峻別されるべきものと考えられる。わが国の場合も制度会計と並行してイン フレ会計を実務に移している企業がある一方,物価変動会計は必要であるが時

       19) 20)

期尚早とする意見や実務上の問題点の指摘などがあって制度化への道は尚厳し いものがある。しかし昭和55年の企業会計審議会の答申として『企業内容開示 17)興津裕康:「体系財務諸表論』中央経済社 平成3年 262ページ。 18)武田隆二:『制度会計論』中央経済社 昭和57年 pp.18∼19. 19)竹中正明;「物価変動会計情報は必要だが時期尚早」『企業会計』第32巻第8号。 20)藤野信雄:「物価変動会計意見書に係る実務上の問題点」『企業会計』第32巻第8号。な  おこの第32巻第8号はインフレーション会計詳細特集号である。

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制度における物価変動財務情報の開示に関する意見書』が公表され,わが国に おけるインフレ会計は一歩前進したように思われる。米国におけるインフレ会 計はSECの会計連続通牒第190号,1976年によって実務に入った。他方英国で も会計基準委貝会のインフレ会計一暫定勧告書Inflation Accounting;An Interim Recommendationによって1977年末に終了する年度から現在原価に もとつく損益計算書を開示する企業が多く現れている。又一方オランダのフィ リップ社は1930年代以降基本財務諸表において資産評価と費用測定に時価を用 いるという取替価値会計を継続実行している。貨幣価値変動に対して画一的な 原価主義を用いている制度会計を補うものとしての物価変動会計は経営に役立 ち,株主に対して企業の真の姿を報告するものとして価値がある。  今日的見地からすれば,経済環境は1970年以降単に貨幣価値の下落のみでは なく,さらに技術革新の別の波が押し寄せ,昨日の生産財は今日は既に古く, 生産性があがらないという激変の時代に入っている。しかも古くは産業革命が 組織の新たな改革であったと同時に資本の固定化をもたらしたことを考えれば 今日の経済環境ははるかにそれを上廻る状態である。ここに特に固定資産の測 定を伝統的な原価主義ではなくカレントコストによる測定や,またBacklog減        21) 価償却を実施して生産力の維持を図ったうえで,真の利益=操業による利益を 計算しなければ会計情報の信頼性は得られない。  インフレと技術革新を乗り切るための新たな会計領域を情報会計と認識し, それを制度会計の廷長線上に設定し,時代の要請に応じつつ一歩一歩制度化を 進めなければならないと考える。 21)清水哲雄:『情報会計の理論』第2版 中央経済社 平成3年 41ページ,pp.129∼  130.

参照

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