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中国・台湾における「市民社会」に関する研究-「官民連動」という視角から-

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Academic year: 2021

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は し が き

博士の学位を授与したので、学位規則(昭和28年4月1日文部省令第9号)第8条 の規定に基づき、その論文の内容の要旨及び論文審査の結果の要旨をここに公表する。 氏 名 今井 淳雄 生 年 月 日 昭和55年12月30日 本 籍 日本 学 位 の 種 類 博士(国際学) 学 位 記 番 号 博第15号 学位記授与年月日 平成27年3月24日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項 研究科・専攻の名称 宇都宮大学大学院国際学研究科(博士後期課程)国際学研究専攻 学 位 論 文 題 目 中国・台湾における「市民社会」に関する研究 ―「官民連動」という視角から― 論 文 審 査 委 員 主査 教 授 松 金 公 正 教 授 佐々木 史 郎 教 授 重 田 康 博 教 授 高 際 澄 雄 教 授 中 村 真 教 授 松 村 史 紀 教 授 西 村 一 之

博士論文の内容の要旨

専攻名 国際学研究専攻 氏 名 今井淳雄 1.論文題目 中国・台湾における「市民社会」に関する研究 ―「官民連動」という視角から―

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2.研究の背景 中国の民間非営利組織は、1980 年代末から 90 年代にかけて政府主導で進められた各 種法整備の進展に伴い、いくつかのカテゴリー分類がなされることにより、組織の輪郭 が明確化し、結果として数が増加するにいたった。 このような民間非営利組織の増加と活動の多様化を目の当たりにした中国の公共政 策分野の研究者のなかには、このような動きが、レスター・サラモン(Lester M.Salamon) がいう 80 年代以降の世界的規模での民間非営利組織の台頭、いわゆる「連帯革命 (associational revolution)」の一部を成すものであると指摘する者がいる。また、 公共哲学分野においても、一部の研究者は、ユルゲン・ハーバーマス(Jürgen Habermas) がいう、自由な意志にもとづく非国家的・非経済的な結合関係としての市民社会が中国 に構築されつつあると指摘している。このことは、中国において民間非営利組織を研究 の対象とする研究者(以下、NPO 研究者)の間で、90 年代以降、学問分野横断的に限定 的な意味をもつ「市民社会」概念が共有化されつつあることを示している。 しかし、中国の NPO 研究者が分析対象とする組織について、その事業内容などを細か く見てみると、人民団体や国家の規定によって登記が免除された社団などが含まれてお り、決して独自で事業を展開している組織だけでなく、政府機関の事業の代替を行って いる組織を民間非営利組織の範疇に含むものと捉える傾向がみられる。これは、サラモ ンやヘルムート・アンハイアー(Helmut K. Anheier)が提起する「民間であること」 という民間非営利組織が本来有すべき条件から大きく乖離している組織について、十分 な批判的検討を加えることなく、その乖離度よりも機能上の近似性を重視し、民間非営 利組織の範疇に含み込んでいることを意味する。 一方、溝口雄三は、中国思想史の立場から清末におきた社会の構造的変容を分析し、 そこに「官民連動」の空間というものが存在するという指摘を行っている。これは一般 的な「市民社会」論にも通じる公共空間論の 1 つとみなしうるものであるが、先述のサ ラモンやハーバーマスらの定義に準拠する「市民社会」といかなる関係性を有するもの であるのかについては、十分に検討されてきたとはいえない。 3.研究の目的 本論文は、NPO 研究者による先行研究によって展開されてきた中国における「市民社 会」論が、西洋から中国への影響という横軸を議論の中心に据えていた状況を踏まえた 上で、「官民連動」の空間という歴史的な縦軸の概念を用いて、中国及び台湾を拠点に 活動を展開する仏教系民間非営利組織の活動を通じ、現在の民間非営利組織との連続性 を明らかにし、中国社会の思想基盤に立つ「中国的市民社会」の存在を呈示することを その目的とする。そして、これまでその価値が十分に認められてこなかった中国の民間 非営利組織を理解・分析・研究するための新たな視角を提起する。

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4.研究の内容 本論文では、「市民社会」が中国にも構築されつつあるのか、という中国の民間非営 利組織研究において主要な論点となっている課題に着目し、中国の NPO 研究者による先 行研究を整理した。その上で、サラモンやハーバーマスらの定義に準拠する「市民社会」 (西洋型市民社会)が中国に構築されつつあると主張する立場が中心だった中国の NPO 研究者の唱える「市民社会」論に対し、溝口雄三が唱えた「官民連動」の空間を公共空 間概念と捉えた上で「中国的市民社会」と仮定し、中国と台湾の実際の民間非営利組織 によって、それがいかに継承され、また、そこにどのような断絶があるのか、連続性と 非連続性という視角から検討を進め、その連続性の存在について明らかにした。 序章では、先行研究の整理を踏まえ、研究の背景と目的、方法を示すとともに「市民 社会」概念の整理を行った。 第 1 章では、中国の NPO 研究者が中国国内外の民間非営利組織の歴史をどのように捉 え、いかなる組織を民間非営利組織として理解しているのかについて整理した。そして それは、欧米で考えられている民間非営利組織の範疇とどのような差異があるのか明ら かにした。また、近年、中国において「市民社会」の担い手として注目されている「草 の根組織」に関する中国の NPO 研究者の研究について検討し、中国に「西洋型市民社会」 が構築されつつあるとまではいえないと結論づけた。その上で、溝口雄三による「官民 連動」の空間という概念が、「西洋型市民社会」とは異なる「中国的市民社会」という 公共空間概念として捉えることができる可能性があることを提起した。 第 2 章では、台湾の民間非営利組織の歴史・制度を整理した。その上で、第 3、4 章 では、台湾の仏教系民間非営利組織である慈済会(財団法人中華民国仏教慈済慈善事業 基金会)及び仏光山(国際仏光会)の国内外の慈善事業、特に東日本大震災支援の事例 から、「官民連動」の空間の形態について考察した。その結果、慈済会、仏光会ともに 慈善事業を展開する上で、政府機関と自らをつなぐ紐帯としての「民」の存在が確認で きた。そして、「官民連動」の空間は、台湾のみならず海外にも拡張される空間である ことを示した。 第 5 章では、中国本土における基金会の歴史、現状及び法的位置づけ、非公募基金会 の概念について整理した。その上で、第 6 章では、仏教系民間非営利組織である仁愛会 (北京市仁愛慈善基金会)の慈善事業の事例から「官民連動」の空間の形態について分 析を進めた。その結果、仁愛会の場合は、龍泉寺の住職であり、かつ全国政治協商会議 常務委員である学誠が、政府機関と仁愛会の紐帯となっていることを明らかにした。 以上の考察から、取り上げた仏教系民間非営利組織には、以下の 3 つの共通点がある と整理した。(1)各種慈善事業を展開するにあたり、政府の政策路線に合わせた形で事 業展開を行い、協調路線を採用する。(2)政府機関とは、必要に応じて協力関係を構築 する。その際、「民」たる民間非営利組織と「官」たる政府機関との間は、政治家等の 「官」と「民」の両方の立場を有する者が紐帯となり、両者を結び付ける。(3)国外で

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慈善活動を展開する際も、「官」と「民」を結ぶ紐帯者を見つけ、現地の政府機関と連 携を図ろうとする。その上で、これらの共通点が「官民連動」の空間、すなわち「中国 的市民社会」の重要な特徴とであると指摘した。そして最後に、「官民連動」の空間と いう視角が、現代の中国で展開する民間非営利組織を分析・研究する上で有効なもので あると結論づけた。 5.研究の意義 本論文では、サラモンやハーバーマスらの定義につながる「西洋型市民社会」が中国 に構築されつつあると主張する立場が中心だった中国の NPO 研究者の唱える「市民社 会」論に対し、溝口雄三が唱えた「官民連動」の空間の存在を「中国的市民社会」と仮 定し、中国と台湾の実際の民間非営利組織の活動からその存在を明らかにした。 つまり、本論文の第一の意義は、これまで中国における「市民社会」論をめぐっては、 西洋から中国への影響という横軸が議論の中心であった状況に対し、「官民連動」の空 間という歴史的な縦軸の概念を用いて、現在の民間非営利組織と清末のそれとの連続性 を初めて示したことにある。また、十分にその価値が認められてこなかった中国の民間 非営利組織を理解するために新たな視点を提供したことも本研究の意義の 1 つといえ る。

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博士論文審査結果の要旨

専攻名 国際学研究専攻 氏 名 今井 淳雄 1.審査概要 1)予備論文審査 学位請求のための予備論文「中国・台湾における『市民社会』に関する研究―『官民 連動』という視角から」は、2014 年 2 月 28 日に提出された。同論文に対し、国際学研 究科所属の教員 6 名および外部審査委員 1 名によって構成される予備論文審査委員会が 設置され、まず「宇都宮大学国際学研究科における博士の学位授与に関する取扱要項」 第 5 条に定められた書類が提出されていることを確認した。その書類の内には、以下の 1 本の学会誌掲載論文が含まれる。 今井淳雄「中国における民間非営利組織の発展と『中国的市民社会』の可能性につ いての一考察」『公益学研究』第 12 巻第 1 号、日本公益学会、2012 年 8 月、p.59 ~p.68 その上で、委員会は同論文を精査し、同年 4 月 7 日に開催された審査委員会で、中国・ 台湾における「市民社会」について、官民連動という視角により、精緻な資料収集を行 い、考察を加えた点に高い学術的意義があり、同論文が学位請求論文に値すると判断し た。ただし、学位論文の完成に向けて以下のような改善、追加の要求があった。 ①序論を見直し、先行研究の整理をより精緻なものとし、本論文の学術的位置づけを 明確化した上で、結論との論理的整合性をはかる。 ②基本的概念や定義づけをより明確にし、収集した資料に対する説明をより説得力の あるものにする。 2)学位論文審査 学位請求論文は 2014 年 12 月 15 日に提出された。これを受けて予備審査委員会委 員と同じ 7 名からなる学位審査委員会を 2015 年 1 月 23 日に開催し、第1回委員会、 口述による最終試験、第2回委員会を実施した。 (1)第1回学位審査委員会 第1回審査委員会では、「宇都宮大学大学院国際学研究科における博士の学位授与

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に関する取扱要項」第 10 条で規定された書類が提出されていることを確認するとと もに提出された論文を精査、翌年 2015 年 1 月 23 日に開催した審査委員会において予 備論文審査で改善、追加の要求のあった事項につて審査し、予備論文審査において改 善、追加の要求があった事項について改善のはかられたことを確認して、全員一致で 最終試験の実施を行うことを決定した。 (2)最終試験 最終試験は、同日第1回学位論文審査委員会に引き続いて実施された。最初に著者 である今井淳雄氏に対して本論文について説明を求めた後、口頭試問を行った。 (3)第2回学位審査委員会 最終試験終了後に行われた第2回審査委員会においては、論文審査および最終試験 における今井淳雄氏との口頭試問の結果から、本論文について以下のような評価がな され、全員一致で、本論文が学位論文[博士(国際学)]の要件を満たしているとの 結論に達した。 ・予備審査において改善が求められた事項が十分に改善されていると確認できる。 ・序章については、研究の背景と目的が先行研究に基づいて十分に整理され、本論文の 学術的位置づけや意義が明確となった。 ・序章と結論との論理的整合性がはかられた。 ・中国における「西洋型市民社会」の有無や形式を論じるのではなく、歴史という視点 を入れることで、中国社会の思想基盤に立つ「中国的市民社会」の存在を指摘した。 ・中国が伝統的に培ってきた特徴からみると、現在の中国における「市民社会」に関す る様々な現象がより意味のあるものとして分析できるという、これまでにないアプロ ーチを提案し、論文内で事例に基づきその有効性を検証した。 ・台湾と中国双方を視野に入れ研究を進め、中国の「市民社会」研究に、これまでとは 異なる新たな枠組みを提供した。 2.審査結果 合

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