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ハロッド変動成長理論の不安定性と,企業行動の期待および不確定性

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ハロッド変動成長理論の不安定性と,企業行動の期待および不確定性 87

ハロッド変動成長理論の不安定性と,

企業行動の期待および不確定性

!.序 韓国が経済危機から脱したことでも注目された「選択と集中」は,M&A の グローバル化を通じた産業界の国際的再編の波とともに,各国の経済に大きな 変革をもたらしている。こうした変革は,産業組織の集約化だけでなく,産業 構造の集約化にも及び,このため巨大企業への資源の集中が生じ,さらには所 得格差の拡大や二極化という一種の集約化さえ生み出そうとしている。こうし た変革の中で明らかなことは,数少ない巨大企業が一国の経済を支えるように なって来ているということである。例えば,そうした変革の結果として,韓国 の世界的にも巨大な家電や半導体メーカーと自動車メーカーが韓国経済で果た す国内での役割は極めて大きいものとなっている。当然のことだが,それらの 巨大企業活動で得られる付加価値の国内経済での波及の大きさは,マクロ経済 的な規模であり,詳細は計り知れない。 したがって産業構造の集約化が進むにつれ一層そうであるが,新聞の経済欄 をにぎわす国際的な巨大企業の投資戦略は,一企業の行動というミクロ的な意 義を超えてマクロ的なレベルの重要性を持つようになっている。換言すれば, こうした巨大企業の行動はマクロ経済に影響するのであり,そうであれば動学 的にも,巨大企業の投資や主な企業の動態がマクロ経済の動態を決定すると言 える。たとえ国内の企業群が集約化されていない場合でも,マクロ経済学では, 周知のように企業行動を総体的に捉えることができれば,つまりマクロ的に企 業行動をまとめて扱うことでマクロ経済へのその影響が把握できる。これらが 示すように,企業行動がマクロ経済にとって決定的に重要な役割を果たしてい

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88 彦根論叢 第370号 平成20(2008)年1月 ることは明らかである。 このように,近年の動向における集中化の傾向からもわかるように,マクロ 的な企業行動がマクロ経済を「動学的にも」左右すると考えることができる。 こうした企業行動の重要性に注目したのが,ケインジアンの経済成長理論で周 知のハロッド(Harrod[1939]等)による研究であった。それゆえ本稿では, 企業行動を最も重視するハロッド的な理論を採用して,マクロ的な企業の動態 とマクロ経済の動態の関係を変動性の経済成長理論において解明しようとす る。すなわち,ハロッド的な経済変動成長モデルで,マクロ的な企業行動が経 済成長に及ぼす影響やこれらの関係を明らかにしようとする考察が展開され る。 ケインジアンの動学理論(浅野[1970],武野・山崎[1977],佐藤[1979] 等)としての「不安定性原理」などのハロッド的な研究(Alexander[1950], Sen[1970]等)は,現在では,経済発展などの応用マクロ経済学的な研究(秋 山[1999])や一部の経済成長理論研究で時折扱われているに過ぎないが(足 立[1994],難波[2002],鈴木[2001,2003a]),新古典派の研究にはほとん ど見られないマクロ的な企業行動を主要なモデル要素として扱っている理論研 究なので,本稿での考察には最も適している。次節以降の考察では,鈴木[2006] のモデルないし仮説と分析結果に基づきつつ,これらに期待やリスク要素を加 えることでそれについて一層の補強と展開が企てられる。 以下での本稿の研究は,鈴木[2006]と同様に,最も基本的な諸変数から不 安定性原理を構築する詳細な整合性を追究したり吟味する考察は除外され,不 安定性原理に伴う各成長率概念の関係性の面で,ハロッドの後期の研究(Harrod [1973])における不安定性原理の理論的立場の吟味に基づく,理論的整合性 と安定的成長の可能性をモデル分析で探究する。特に,鈴木[2006]では定式 化の形式面に重点を置いて理論的整合性や安定成長の可能性が分析されたが, 本稿では,その分析結果に基づきつつも,企業行動の特性,中でも期待や不確 定性ないしリスクを考慮した重要な経済理論解釈に踏み込んで,一層意義深い 解釈を伴う理論的特徴づけと分析の拡張を試みる。それゆえ,基本的な定式化

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ハロッド変動成長理論の不安定性と,企業行動の期待および不確定性 89 は鈴木[2006]と同じであり,定式化等の形式的側面の拡張は若干行われるに 過ぎず,考察の重点は経済理論的解釈の側面にあり,鈴木[2006]に基づき, 企業行動の安定志向の期待や将来の不確定性ないしリスクに関する単純でも有 意義な想定の提示と整合的な解釈,さらに比較静学的効果の導出と解釈などが 当該研究における考察の目的である。 このため,本稿と密接な鈴木[2006]からの展開が捕捉しやすいように,本 稿の第Ⅱ節では,本稿での分析の準備も兼ねて,鈴木[2006]から主要な設定 と本稿の考察に必要な部分を要約し,若干の補足を加える。本稿の第Ⅲ節では, 鈴木[2006]の変動成長モデルの(動学的)長期的安定均衡と企業行動の安定 志向の期待に関する有意義な想定の提示と,長期的均衡成長の可能性について の整合的な解釈を導き,さらにその第Ⅳ節では,前節の理論解釈に基づきつつ, 不確定性ないしリスクに関する有意義な想定の提示と,長期的均衡成長の可能 性についての整合的な解釈を導き,若干の拡張とともに,不安定性原理のハロッ ド的経済変動成長に関する長期的安定均衡について,主に安定志向の期待やリ スクの影響を比較静学的に分析し,これらの外生的な影響や効果の導出と解釈 が試みられる。(なお,本稿での補題や命題等には,節ごとで,登場する順番 にのみ従う一続きの連番が付されている。) !.ハロッド的経済変動成長についての解釈と定理 鈴木[2006]は,可変的な保証成長率と不安定性原理を伴うハロッドの変動 成長理論(Harrod[1973])を動学的にモデル化し,次のような2状態変数の

動学的な連立方程式体系にまとめている(ibid, p.154, equ.(3.1)and, p.155, equ.

(4.1))。ただし,G は「現実成長率」であり,GWは「保証成長率」である。 ・ (2.1) G=Γ(G , GW), where∂Γ/∂G>0,∂Γ/∂GW<0, ・ and, sgn[G ]=sgn[G −GW]. ・ (2.2) GW=ΓW(G , GW), where∂ΓW/∂G>0,∂ΓW/∂GW<0,

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90 彦根論叢 第370号 平成20(2008)年1月 ・ GW=0⇔[GW=GW*], and, GW*=const. >0. ・ ただし,ドットは時間微分を表し,t を時間変数の記号とすると,例えば,G=dG /dt で あ る。ま た,sgn[ ]は 符 号(:−,0,+)を 示 し,sgn[G ] =sgn[G −GW]ではそれらの両辺の符号一致を意味する。ここで,その(2.1) 式は,G と GW の値に乖離が生じれば,G の動学的調整だけに注目すれば, この乖離幅が時間の経過とともにますます拡大して行くという不安定性原理を 表している。 経済変動成長に関するハロッドの主張では,一般には,古典的な命題として 周知の「不安定性原理」が有名であるが,彼の主張についての鈴木[2006] (pp.153―154,解釈3.1))による解釈では,保証成長率の動学的な可変性と 不安定性原理を伴うハロッド的経済変動成長が,GWと G について,動学的に 安定となるだろうという形で,ハロッドの見解がまとめられている。このこと をここで便宜的に「ハロッド(の)第2命題」と呼び,また「不安定性原理」 についての主張を「ハロッド(の)第1命題」と呼ぶことにすれば,この命題 は短期的な動学的均衡 GW=G*が動学的に安定的に成立することを主張してい る。これと同様に,長期的に GN=GW=G*があまり成り立つことがないとい う主張を「ハロッド(の)第3命題」と呼ぶことにしよう。それゆえ,ハロッ ドの見解に沿う形で形式的にこれらをまとめると,それぞれの命題は次のよう な主張となる。 ・ 命題2.1(ハロッド第1命題):第一に,sgn[G ]=sgn[G −GW]という性 質を意味する不安定性原理が G と GWの動学的経済体系には存在する。第二に, ・ ∂ΓW/∂G>0,∂ΓW/∂GW<0,GW=0⇔[GW=GW*],むしろ G =GW=GW* で均衡する安定的な動学過程が存在する。■ 命題2.2(ハロッド第2命題):不安定性原理と保証成長率調整を伴う G と GWの動学的経済体系は,G =GW(むしろ≡)GW*で均衡し,かつ動学的に

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ハロッド変動成長理論の不安定性と,企業行動の期待および不確定性 91 安定である。■(この証明は鈴木〔2006〕の定理2.1前半と全く同じである。) 命題2.3(ハロッド第3命題):不安定性原理と保証成長率調整を伴う G と GWの動学的経済体系の均衡では,G =GW=GW≠GN(:所与の自然成長率) となるのが普通である。■ ここで,命題2.1は,先行の鈴木[2006](pp.153―154,解釈3.1))によ るハロッド解釈で明確に抽出された主張であるが,その先行研究の後半のモデ ル分析や本稿の分析では,公準のような役割を果たし,以下の理論体系におい ては,基本的な前提つまり理論的想定とされる。また,その命題は,上記の動 学的経済体系のモデル構築でもすでに導入されていて,モデルの記述に部分的 に含められている。 上記の(2.1)と(2.2)で構成される「ハロッド的な動学的体系」をいっ そう単純化した定式化は,GW=GW=G * となる均衡点の近傍で線形に近似した 形にでき,次のような連立微分方程式の動学的体系で得られる(ibid, p.148, equ. (2.4)and, p.160, equ.(4.5))。 ・ (2.3) G=γ(G −GW), where γ=const.>0. ・ (2.4) GW=γW 1G−γW 2GW−ΓN,(γW 1W 2N)=const.>0, γW 1>γW 2, and,(γ+γW 22 /4γ<γW 1. この単純化された動学的体系を用いて鈴木[2006](第Ⅳ節の末尾)は,次 のような,重要だがやや特殊な定理を導出している(ibid,pp.160―161,定理 4.6;動学的体系の軌道の解釈については大和瀬[1987]を参考にしている)。 定理2.4:(拡張解釈された)ハロッド的経済変動成長の線型近似の動学 的体系(2.3)と(2.4)の下では,もしもγ<γW 2ならば,唯一の長期均

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92 彦根論叢 第370号 平成20(2008)年1月 衡点(:螺旋点または渦状点)は,漸近安定的な螺旋系,または,減衰振動系 であり,他方,反対にγ>γW 2ならば,不安定な螺旋系,または,発散振動系 である。このような相軌道は,縦軸 GW横軸 G の図で反時計回りの渦状となる。 しかも,GNを所与の(ハロッドの)自然成長率として,もしも(0<)ΓN/(γW1 −γW2)=GNなるときは,GN=GW=G*となり,漸近安定な長期均衡点で長期 的均衡成長または均斉成長が達成できる。■ ただしこの定理などでは,上記のようなγW 1>γW 2や(γ+γW 2)2/4γ< γW 1等の仮定は,当該の動学的体系の特性方程式を調べれば分かることだが, 当該の動学的体系が螺旋系または振動系であることや,GW=G * =ΓN/(γW 1− γW 2)>0を可能にする。しかも経済成長率の値について,経済学的にはΓN< (γW 1−γW 2), つまり,1>ΓN/(γW 1−γW 2)>0が通常の範囲では必要であり, 次のことも明らかである。 補題2.5:(拡張解釈された)ハロッド的経済変動成長の線型近似の動学 的体系(2.3)と(2.4)が,螺旋系,または,振動系の動学的解を持つに は,(γ+γW 22 /4γ<γW 1の成立が必要十分である。また,そのためにはγW 1 >γW 2が必要である。■ また,上記の命題2.2はこの定理2.4の前半部分に含まれている内容であ り,論証済みである。他方,命題2.3はその定理の後半に関連するが,この 命題の主張自体の論証がその定理に含まれているわけではない。それゆえ,こ の定理2.4では,命題2.3すなわちハロッド第3命題の内容について形式的 に触れられているが,命題の主張の正否自体については証明も無く,全く言及 されていない。命題2.2を用いて定理2.4の表現をやや手短に書き替えれば 次のようになる。 定理2.4′:(拡張解釈された)ハロッド的経済変動成長の線型近似体系

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ハロッド変動成長理論の不安定性と,企業行動の期待および不確定性 93 (2.3)と(2.4)では,もしもγ<γW 2ならば,「ハロッドの第2命題」 が成立し(相軌道が縦軸 GW横軸 G の図で反時計回りとなる螺旋点または渦状 点の)長期均衡点は漸近安定となるが,他方反対にγ>γW 2ならば成り立たな い(不安定な螺旋系)。所与の(自然成長率)GNがもしも(0<)ΓN=(γW 1− γW 2)GNならば,その動学的均衡では,GN=GW=G*の長期的均衡(または均 斉)成長が成立する。■ この定理2.4′または同じく定理2.4の後半では,つまりハロッドの第2 命題に関係する主張では,単に「GN=GW*」と仮定すれば,定義から均衡成長 になっていると言っているに過ぎない。この仮定「GN=GW」の経済学的な根 拠は,極めて重要であるにもかかわらず全く何も示されていない。これらにつ いては,次の節で詳しく検討される。 !.保証成長率の特徴化と,期待成長率および自然成長率 定理2.4または2.4′の内容の前半部分により命題2.2は明らかにされ, 投資関数自体に踏み込まないという意味ではその命題の証明や分析は確かに形 式的な考察ではあるが,それでも「ハロッドの第2命題」の可能性を提示し, かつ形式的に証明している。他方,それらの定理の後半部分で,保証成長率と 自然成長率について触れているが,それは経済学的理由に乏しく全く仮の関連 について記述しているに過ぎず,ほぼ定義的なものの反復に過ぎない。にもか かわらず,「ハロッドの第3命題」を理論的に明らかにすることは極めて重要 である。周知のように,「ハロッドの第3命題」が関わるそれらの成長率概念 がどのような関係にあるかを明らかにすることなしに,一層詳細に長期的均衡 成長または均斉成長の可能性を明かにすることはできないからである。 それゆえ,本節では,命題2.2の「ハロッドの第2命題」ないし上記の定理 を踏まえながら,命題2.3の「ハロッドの第3命題」を詳しく考察し,ハロッ ド的な経済変動成長における長期的均衡成長または均斉成長の理論的可能性が 分析される。そこでまず,命題2.2の「ハロッドの第2命題」自体の確認を行

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94 彦根論叢 第370号 平成20(2008)年1月 い,それから,それら二つの予想または命題の経済学的な関連性や理論解釈の 展開について吟味することとする。 現実成長率と保証成長率の長期的な動学的安定性を主張する命題2.2の「ハ ロッドの第2命題」について論証は既に完結しているが,特に重要なのはその 動学的な長期的均衡の性質である。すなわち,その動学的な長期的均衡におい ては,それらの成長率の均衡値が完全に一致するという特性がそれである。上 記の定理でも述べられているように,適当な条件を満たせば,漸近安定な渦状 点が長期的均衡点(G* ,GW)となり,かつ同時に G (*) W =G (*) が成立する。こ の G=GWという長期的性質が注目すべき特性である。理論的興味からすれば, 注目すべきは,この長期的均衡状態では企業の行動がどうなるのだろうかとい うことである。 保証成長率 GWは,GW=GWのときも,つまりその長期的均衡値 GWにあって も,保証成長率自体の定義から,命題2.1のようにマクロ的に企業が所望す る経済成長率であり,かつ動学的な企業行動の基準となる値である。しかも, その長期的均衡では,当該の経済成長率が実現し,マクロ的に企業がその実現 を以後の経済状況でも予想できる経済成長率でもあると考えられる。つまり, 当該の長期的均衡点では,G=GWが実現値 G =GW*となっているので,マク ロ的に企業が所望する経済成長率が(当該のモデルの現実における)実際の経 済で実現しているのである。換言すれば,長期的均衡にあっては,長期的均衡 値 G=GWは,マクロ的に企業が長期的均衡で期待する経済成長率,あるいは 簡略して,期待成長率と言える。 さらに,上記の定理や命題2.2から,その長期的均衡点が動学的に安定で あるときには,G=GWという企業の期待成長率がマクロ的に実現する状態が 長期的に維持されることになる。このように G=GWなる長期的均衡点は企業 の期待成長率がマクロ的に実現する場合であり,それが安定的均衡の場合には, この期待成長率に等しい経済成長率の実現が動学的にも持続する状態となる。 こうした均衡状態は,動学的な調整の途中の経済状態や動学的な状況とは明ら かに異なり,G と GWの間の相違に由来する動学的調整が全く消滅し,動学的

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ハロッド変動成長理論の不安定性と,企業行動の期待および不確定性 95 に定常的となるから,動学的に定常的な長期的均衡状態自体の経済的意義が, マクロ的な企業行動にとって長期的に整合的なものでなければならない。 こうした企業の期待成長率がマクロ的に実現する動学的に定常的な長期的均 衡点,または,長期的均衡が実現し続ける持続的な状態の長期的安定均衡点で は,この長期的均衡点の値すなわち均衡値(G GW)がどのように決まるの であろうか。まず,当該の長期的均衡点では G=GWとなるのだから,G ついては,経済状態の指標と言ってもよい(G ,GW)の動学的調整の結果,GW* に等しくなるように決定されると考えることができる。次に,保証成長率の長 期的均衡値 GWはどうだろうか。少なくとも GWは G=GW*という長期的均衡 点と矛盾の無い値でなければならない。すなわち GWは長期的均衡値なのだか ら,この値は長期的均衡点や(動学的に一層うまく行っているときには)その 安定性と無矛盾でなければならないのであり,企業の期待成長率がマクロ的に 実現するかまたは実現し続ける必要がある。換言すれば,定常的な期待成長率 という「保証成長率の動学的に安定な長期的均衡値」が長期的に持続的な状態 と長期的に整合的でなければならないということである。 企業の期待成長率がマクロ的に実現または実現し続ける持続的な状態におい て,期待成長率すなわち長期的均衡値としての定常的な保証成長率とは,どの ような値であろうか,あるいはその値が企業によってマクロ的にどのように形 成ないし決定されるであろうか。長期的均衡点の状態や持続的な長期的均衡点 という動学的に安定した状態では,不安定性原理のような短期的性格の動学的 不安定性が完全に解消されている状態,またはこの状態が持続しているので, マクロ的に企業は,期待成長率すなわち長期的均衡保証成長率 GWを「現実的 に望ましいだけでなく,実際的に最適な経済成長率」に設定するようになって いるのではないだろうか。動学的に(安定に)成り立つ G=GWという当該の 長期的(安定)均衡状態の下では,動学的企業行動のそうした理想的な傾向が 自ずと生まれると考えても良いだろう。 動学的に安定な均衡状態の中にあって,動学的な調整を一切必要としないと いうことはその均衡状態が実際に望ましいからであり,さらにはある意味で実

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96 彦根論叢 第370号 平成20(2008)年1月 際上最適だからであろう。定常的な長期的均衡ではマクロ的に企業が比較的に 理想的な傾向を追求すると考えるとしても,その「現実的には望ましいだけで なく,実際的に最適な経済成長率」はどのように形成ないし設定されるだろう か。この「現実的には望ましいだけでなく,実際的に最適な経済成長率」は, 少なくとも,「出来るだけ長く持続して欲しいと願う期待経済成長率」でなけ ればならないだろう。さもなければ,マクロ的な企業行動で現行の長期的(安 定)均衡が失われても良いことになるが,これでは長期的(安定)均衡の下に ある企業行動としては合理的でなく全く矛盾してしまう。かくしてこのように 「出来るだけ長く持続して欲しいと願う期待(経済)成長率」で期待成長率が 企業によりマクロ的に形成および決定されると考えられる。 そうした「(マクロ的な企業が)出来るだけ長く持続して欲しいと願う期待 (経済)成長率」にとって最も重要な要件は,そのままずっと続いて欲しいと いうマクロ的要件であり,要するに,超長期的な状況でも当該の長期的(安定) 均衡が持続することである。長期的(安定)均衡が達成されている場合に,超 長期的な状況でも長期的(安定)均衡が持続するのに必要な条件を満たす(期 待)経済成長率とは,明らかに,ハロッドの「自然成長率」のことである。し たがって,マクロ的な企業が定常的な状況で求める期待(経済)成長率とは, まさしく,ハロッドの「自然成長率」に等しいと考えられる。 すなわち,「現実的には望ましいだけでなく,実際的に最適な経済成長率」 は,長期的に安定な均衡状態という確固たる成功の中にある企業行動の属性か ら「出来るだけ長く持続して欲しいと願う期待(経済)成長率」に等しいもの と特徴づけられるだろう。そして「出来るだけ長く持続して欲しいと願う期待 (経済)成長率」がハロッドの「自然成長率」に等しいものと考えることは, 経済学的に自然であり,マクロ的な企業行動の脈絡において最も相応しいので はないだろうか。少なくとも,これに代わる他の何等かの適当な成長率を見出 すことは出来ない。なお,こうした考え方は,以下で,簡略に「長期安定志向」 (性または仮説)と呼ばれることがある。 これら一連の特徴づけから「期待(経済)成長率」GW≡「現実的には望ま

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ハロッド変動成長理論の不安定性と,企業行動の期待および不確定性 97 しいだけでなく,実際的に最適な経済成長率」=「出来るだけ長く持続して欲 しいと願う期待経済成長率」=ハロッドの自然成長率 GNである。かくして, ハロッド的な経済変動成長の長期的(安定)均衡 G=GWは,論理的特徴化が 可能で,マクロ的な企業行動の性質に基づき,同時に GW=GNとなるに違いな いと理論的な解釈に基づき仮定されるから,結局のところ,当該の動学的均衡 において長期的均衡成長または均斉成長 G=GW=GNが成り立つことになる。 これらのことを考慮して定理2.4′を僅かに変更すれば,やや表現が異なり次 のような定理になる。 定理3.1:(拡張解釈された)ハロッド的経済変動成長の線型近似体系 (2.3)と(2.4)では,もしもγ<γW 2ならば,「ハロッドの第2命題」 が成立し(相軌道が縦軸 GW横軸 G の図で反時計回りとなる螺旋点または渦状 点の)長期的均衡点は漸近安定となるが,他方反対にγ>γW 2ならば成り立た ない(不安定な螺旋系)。またこの長期的均衡(点)では,企業行動の「長期 安定志向」の下では GN=GW=G*となり,「長期的均衡成長」(または「均斉 成長」)が成立し,ΓN=(γW1−γW 2)GNとなる。■ このように,保証成長率の長期的均衡値を期待成長率と解釈し,さらに,企 業行動において長期安定志向を仮定すれば,期待成長率を自然成長率に等しい と解釈でき,それ以外に「比較的に理想的な保証成長率値」という企業行動基 準に相応しい有力な解釈が見出せそうにないということからも,その仮定を認 めれば,結局のところ命題3.3つまり「ハロッドの第3命題」は成立せず, 反対に,長期的均衡では,GN=GW=G*となり,「長期的均衡成長」(または「均 斉成長」)が成立するのが分かる。 ただし,こうした主張は,動学的に安定な長期的均衡の下で「長期安定志向」 を伴う企業の行動に,マクロ的に,「不確定性」が全く存在しない場合に限り 可能となるのである。しかしながら,一層実際的な経済状況を考えに入れるの であれば,モデルの分析においても経済成長に伴う「不確定性」を考慮しなけ

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98 彦根論叢 第370号 平成20(2008)年1月 ればならない。以下で考慮する「不確定性」とは,将来事象の生起についての 不確からしさの程度や,将来事象に関する単なる無知とか情報の不足ないし入 手困難さなどの全てを一まとめにした概念として扱われている。つまり,将来 事象に関わる全ての何かわからないことを「不確定性」と呼ぶことにするとい うのがその用語法である。以下ではこの用語法に従い,「不確定性」を考慮し て命題2.3や定理3.1の内容を再検討し,分析を拡張する。 !.不確定性のリスクを伴う期待成長率と均斉成長の可能性 上記の「不確定性」の定義から,将来事象の生起についての不確からしさや その程度を意味する「不確実性」や,将来事象に関する単なる無知とか情報の 不足ないし入手困難さを意味する「将来情報の不完全性」などは認識に相違が あっても同一の範疇で把握されるので,経済行動上では同様に扱われ,何等か の「不確定性」として経済主体は把握するだけである。ここでは,こうした「不 確定性」の度合いまたは程度を目安として表示する指標を単純に「リスク」と 呼ぶことにする。こうした「不確定性」や「リスク」の下で,マクロ的に企業 はどのように行動し,どのように期待成長率の値を見出し,したがって経済成 長やその長期的均衡がどのようになるのか等といった事柄が考察され,均斉成 長に関する含意を中心としてモデル分析が展開される。 それでは,経済主体はそうした「不確定性」や「リスク」に対してどのよう に対処し,かつ行動するであろうか。不確定性という概念自体はかなりあいま いに定義されていて,対応するリスクも不確定性を何等かの仕方で数値化した ものに過ぎず,将来事象の生起に関する特定の確率分布などが想定されている わけではない。それゆえ,ここでの不確定性やそのリスクには,経済主体の行 動や企業行動としては大雑把に対処するしかなく,企業が経験的に大まかに対 処する他は無いだろう。例えば,よくわからない不確からしさを伴う事象には, 情報を十分詳細に検討して対処することが出来ないのであるから,経済主体は 自らの経験に照らしてその可能性を経験的な目安で見積もり,対処の仕方や判 断,対応策を決める他はないのである。

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ハロッド変動成長理論の不安定性と,企業行動の期待および不確定性 99 したがって,企業行動などにおいて,リスクを伴う経済変数をどう捉えるか, あるいはどう評価し,したがってそれを値としてどれだけに見積もるかも,事 象に関するリスクへの対処の仕方と同様に,経験的で大まかに為されるはずで ある。こうしたリスクへの経験的な対処の仕方として実際的に有力なのは,当 該のリスクの大きさに見合ったプレミアムすなわち割増分を追加的に付加する ように考慮するという仕方である。つまり,ある経済変数を数値として捉える とき,その変数の純粋な予想値にリスク・プレミアムの追加的値を加えた合計 値で,その変数の経常値を見込むという仕方がそれであり,こうした仕方によ り,もしもその変数のある値が経常的に実現する際に,リスク・プレミアム分 が結果的に消滅しても,もともとの純粋な予想値の大きさが経常的な実現値と して確保されるわけである。 こうした対処法は,本稿での考察の基礎を成すハロッドやケインジアンの経 済学が重視する実際的な経済過程ではもっともらしいので,以下の考察におい ても採用されるものとするが,本稿では長期的考察が主に展開されているので, 長期的考察の分析を深めるために,短期的な不確定性やリスクを無視するとい う考察の単純化を施し,分析の関心を長期的不確定性や長期的リスクに集中す ることとする。こうした単純化の理由付けには,短期的リスクが,動学的過程 で繰り返される経常的調整の中で,マクロ経済に及ぼすその瞬間的な影響を相 殺され,マクロ経済的重要性を失うものと考えられるということもある。他方, 長期的リスクは,動学的過程での一連の経済状態の軌跡の主な部分やその全体 に大きな影響を及ぼす傾向がしばしばあり,本稿の全ての分析が主に軌道レベ ルで行われていることからすれば,こうした影響が軌道上のレベルの動学的過 程で無力化することはなく,その動学的な重要性が大きいと考えられる。 それゆえ,長期的な不確定性やリスクを伴う経済状況の下では,G と GWの ・ ・ 時間変化率(つまり G と GW)を短期的性格の変数と想定することでこれらの 短期的リスクを無視することとするが,期待成長率という,保証成長率の長期 的な値すなわち長期的均衡値 GWを企業がマクロ的に決める際にも,そうした 対処法が採用されるものと以下では想定する。したがって,ここでのモデル分

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100 彦根論叢 第370号 平成20(2008)年1月 析では,長期的リスクのみを考慮するのであるから,企業はこのリスクを考慮 して期待成長率を設定することになる。すなわち,当該のマクロ経済学的な長 期的リスク・プレミアムをρGと表示すれば,マクロ的な企業行動により GN+ ρG=GWとなるように期待成長率が設定される。また,長期的均衡では,GN+ ρG=GW=G*が成立し,これを用いてΓN=(γW 1−γW 2(GN+ρG)となるのが わかる。これらのことから,定理3.1の内容は,この場合には,長期的均衡 点のところだけが異なることになるから,その定理はこの場合次のように部分 的に書き替えられる。 定理4.1:(拡張解釈された)ハロッド的経済変動成長の線型近似体系 (2.3)と(2.4)では,もしもγ<γW 2ならば,「ハロッドの第2命題」 が成立し(相軌道が縦軸 GW横軸 G の図で反時計回りとなる螺旋点または渦状 点の)長期的均衡点は漸近安定となるが,他方反対にγ>γW 2ならば成り立た ない(不安定な螺旋系)。またこの長期的均衡(点)では,所与の長期的リス ク・プレミアムρGだけを伴う企業行動の「長期安定志向」の下では GN+ρGGW=G*となり,「長期的均 衡 成 長」が 成 立 し,ΓN=(γW 1−γW 2(GN+ρG) となる。ρG→0のときそのときに限り長期的均衡点は定理3.1のそれ(均斉 成長)と同じになるが,通常はρG≠0だから,命題3.3が成り立つ。また, 外生的変位⊿ρG>0について比較静学的に⊿ GN or⊿ρG=⊿ GW=⊿ G*とな る。■ このように,所与の値で導入されているに過ぎないが,長期的リスク・プレ ミアムが存在する場合でも,経済成長過程が動学的に安定であるという点では 新古典派経済成長理論(Solow[1956],Swan[1956],Burmeister and Dobell[1970], Jones[1975],Jones[1998],Romer[1996]等)と 同 様 の 結 果 で あ る が,し

かしながら,ρGの分だけ,長期的均衡点は均斉成長状態からずれてしまい,

その新古典派経済成長理論の結論とは異なるのがわかる。

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ハロッド変動成長理論の不安定性と,企業行動の期待および不確定性 101 との間に動学的な不安定性が(超)長期的に生じる可能性も予想しているが, 本稿での以上の分析では,当該の動学的体系の経済成長過程からはそうしたハ ロッドの予想または可能性を検出することは出来なかった。むしろ,定理4.1 から,たとえ GN≠G (*) W の場合でも,すなわち自然成長率と保証成長率が一致 することがない場合であっても,当該の動学的体系に備わる動学的調整の特性 次第で,その長期的均衡の動学的安定性が得られることが証明されたのである。 換言すれば,長期的均衡で均斉成長が成立するかどうかということと,動学 的体系が動学的に安定かどうかということは無関係となる場合があるというこ とを定理4.1は我々に示唆している。 参 考 文 献 足立英之『マクロ動学の理論』(経済学叢書16),有斐閣,1994年。 秋山裕『経済発展論入門』(経済学研究双書),東洋経済新報社,1999年。

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札幌、千歳、 (旭川空港、

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