報告④
「北海道のワイン産業における集積−余市を日本のナパに」
札幌大学経済学系 准教授武者 加苗
北海道代表として,酒類からワイン,地域としては NHK の朝ドラの舞台としても注目 を集めている余市を取り上げます。実はここ数年,余市地域にはワイナリ―の新規での進 出が目立ってきています。製造業などでは集積が正の外部性を生むことが知られています が,今日は余市におけるワイナリーの集積についてお話したいと思います。 最初に酒類,お酒の一般的なお話もしますので,先のパネリストの先生方と少し重複す る部分もございますが,お聞きいただければと思います。 まず,ワインの導入としまして,日本人のお酒の関心度というものを見ておきます。実 はワインというのはそれほど沢山の人に飲まれているものではないのです。酒類総合研究 所の調査を見てみますと,男女ともビールが一番多いのですが,ワインはだいたい飲む人 の比率が 8% から 10% 前後と言われています。女性ですともう少し多いのですけれども, 若い世代だとリキュールが多いです。40 代 50 代辺りの女性からは一定の支持があるとは 言えますけれども,全体で見る限りではそれほど幅広い層が飲むアルコールではない。ただ市場が大きければ良いというものでもないです。ワインの愛好家というのは一般的に非 常に熱烈な方が多く,マニアが多いと言われています。ですので,ビールや日本酒といっ た他のお酒と比べて嗜好に少し違った面もありますので,決して市場としては小さいから 駄目だということにはならないと考えています。 地域のシンポジウムですので,お酒の関心分野に関して地域性はあるのかというのも見 てみました。それによりますと,今回のデータは国税局の管轄ベースですので,残念なが ら鹿児島県単独のデータはなかったので福岡で代替させていただきたいと思います。ワイ ンに関しては特に地域性,特定の地域で人気というのはあまりみられないようです。一方 で焼酎,泡盛というのは明らかに地域性がございまして,データでは焼酎と泡盛が一緒に 扱われているのですが,札幌ではこれらへのあまり支持が大きくない。一方で沖縄や福岡 といった九州地域では非常に支持されているアルコールであると言えそうです。ちなみに 札幌は日本酒への支持が大きい地域です。 更に,お酒のどの部分に関心があるのか。成分であるのか,蔵元であるのか,飲み方で あるのか,といったところでも地域性が見られるのですけど,その中でワインの特徴は何 だろうか。ひとつはワインが料理との相性が重視されるお酒という点です。沖縄の方は成 分品質等に関心がある方が多いであるとか,札幌は蔵元や製造方法もしくは健康に関心の ある方が多いといったような切り口もあります。 では北海道のワインの話に入っていきますが,実は,ワインには国内での生産と消費に 関して大きなギャップがあります。焼酎や泡盛,または日本酒といったような日本古来の お酒というのは,基本的には国内で生産され,一部輸出されてはいるものの,大部分が国 内で消費されているというものです。ところが,日本のワインに関しては輸出が多くない というのは同じですけれども,国内消費分を国内の生産でまかなえていません。つまりこ の生産と消費のギャップというのは国外からの輸入で賄うわけで,しかもそのギャップが 非常に大きいという特色があります。これはワインが他のお酒と違う大きなところではな いかと思います。 では国内の生産と消費のではギャップをどうやって埋めているのかといいますと,実は これは先ほどの焼酎,泡盛の報告でも課題としてあげられておりましたけれども,原料が 海外産という意味では同じです。実は国産ワインと名乗っている中にも,相当部分が海外
の原料を使ったものがあるということです。これは今日,地元産の原料を使っていこうと する六次産業化の話にあたっては重要なところではあり,課題とすべきところでもありま す。 日本で流通しているワインは輸入がかなりの部分を占めています。国内での 3800 万ケー スの消費のうち,2800 万ケースが輸入です。更に国産ワインとして,日本国内で製造さ れているとされているものであってもその原料が,チリやアルゼンチンあたりからブドウ のジュースを買ってきて,それを日本国内で醸造しているものが 1000 万ケースあるわけ です。100% 国産のブドウを使っているワインというのは本当に数が少なく 170 万ケース にすぎません。更にこの中で北海道産のものというのはもう一段階少なくなるわけです。 ただ六次産業化の話をする上では,この日本産ワイン 170 万ケースに着目していくこと が必要にはなるわけです。 これは北海道の主要なワイナリーの地図で,私が回ったことのあるものです。先ほどマッ カリーナのお話がありましたけども,マッカリーナは洞爺湖サミットの時に利用されたレ ストランということでも有名になりました。これも洞爺湖サミットでふるまわれたワイン ですね。月浦ワイナリーという,映画の舞台にもなったところですけれども,そこのワイ ナリー,ブドウ畑から見た洞爺湖です。北海道のワイナリーには非常に風光明媚なところ が多いわけで,本当に北海道ブランドというのが素晴らしいものだと。私自身は結構楽観 的に考えております。 ワイナリーはブドウの生産に適している,雨が少なくて湿度の低い地域に立地しますが, 冬でもこれほど雪が積もるブドウ畑というのはヨーロッパ等にもほとんどありませんから, 観光資源としても非常に面白いものではないかと思います。北海道のブドウ畑は雪対策も してあるので,通常のブドウ畑と樹木の植えつけ方などが違っていたりします。 ではその北海道のワインですけれども,どういう位置付けになるのかというのを,ワイ ン用ブドウの栽培面積や,醸造量から確認しておきたいと思います。 実は先ほど国産ワインであっても,チリやアルゼンチンからブドウジュースを輸入して 醸造しているという話をしました。県別にみた栽培面積の比率と醸造量の比率が合わない
というのは原料の輸入の状況と関係があります。これは国内のデータなのでそういう数字 は入っていないのですが,例えば神奈川県に大手の酒造会社の工場があるので,そこで輸 入してきたジュースを醸造して詰めたワインをカウントしますと,ワインの生産の県別の 値というのはまた変わってきます。今回それを除いているのですが,それでもこの比率が 合わないというのは,必ずしも地元のブドウを使ってその近辺で生産するということが行 われていないということです。ただし,ブドウの生産地とワインの醸造地が異なるという こと自体は別に悪いということではありません。ワインの世界ではネゴシアンと呼ばれて いて,さまざまな産地のブドウを組み合わせていかに美味しいワインを作るかはワイナ リーの腕の見せ所ともなっています。 北海道の,これからお話しします余市町であっても,道外のワイナリーにブドウを出荷 しているという場合もありますし,またその逆もあります。長野や山梨のブドウを使って, 北海道のブドウと混ぜて,そのブレンドを楽しむという面もあります。ただ日本国内にお いては北海道,山梨,長野あたりが非常に生産量,栽培面積も多い地域であるということ は言えるかと思います。 ワイン生産地として国内でもっとも有名なのは山梨かと思いますけれども,北海道とい うのはワイン生産地として近年非常に伸びてきている地域ではないかと思います 道内の主要ワイナリーをお示しします。道内では余市周辺と空知周辺にワイナリーの集 積があるのですけれども,すべて記載はしておりません。この報告のテーマであります,「集 積」という点で考えますと,北海道は 2 ヶ所集積が見られるのではないかと思います。余 市と空知です。余市というのは今年の NHK の連続テレビ小説の舞台にもなりましたニッ カウヰスキーの工場があるところでもあります。元々ウィスキーづくりに適したスコット ランドのような冷涼な気候を持ち,果樹の生産が非常に多い地域で,ワイン用ブドウに関 しても生産地としても非常に有名な地域です。そこにワイナリーが集積するのはある意味 当然と言えます。良質な原料の調達地が近くにあるからです。 ほかに北海道のワイナリーの集積として成長しているのは空知ですね。空知に関しては, 北海道内でも非常な豪雪地帯ではあるのですが,昔は炭鉱地として栄えた地域も多いです。 同じく元炭鉱地であった夕張もこのあたりに含まれますし,三笠など,そういった昔の炭 鉱地帯,炭鉱がなくなって代わりの産業をというところでワイン用ブドウ生産を始めたと いう地域も多いようです。
空知地域にも有望なワイン生産者がここ 2,3 年どんどん移住しておりますし,今年「ぶ どうのなみだ」という映画の舞台になったりもしています。 余市と空知それぞれ非常に魅力的のある地域なのですけれども,今回は余市を取り上げ ておきましょう。 余市には,2014 年末時点で 6 軒ワイナリーがあり,来年 7 軒目のワイナリーがオープ ンするそうです。これ以外にも今後オープンを予定しているワイナリーが複数あります。 最も歴史があるのが余市ワイン,次に北海道ワインですが,これはいずれも親会社が日 本清酒,田中清酒です。日本酒メーカーのグループ会社です。その中でドメーヌ・タカヒ コという,有機栽培を行う面白い生産者が 2010 年から生産を始めまして,非常に少量品種, 少量しか生産しないのでなかなかお目にかかれないのですけど,市場では非常に評価が高 いワイナリーです。更にベリーベリーファームが立地しています。続いて 2013 年からオ チガビワイナリーが生産を始めました。ここの醸造家がワイン界では非常に有力者で,今 の余市のワインブームの中心人物かと思いますが,新潟でカーブドッチという非常にまた これも有名なワイナリーを成功させて余市に戻ってこられた方です。この方が単に余市の ワイン業界だけではなくて,余市地域全体を変えていくのじゃないかというぐらいのパワ フルな方ですね。 3 軒目がリタファーム,また 2015 年に生産開始を予定している仁木ヒルズファームと いうのは,まだ出来ていないので不明点も多いのですが,一つ注目すべきなのは東京資本 の会社であるということです。東京の会社がメインとなって立地しているというところで す。余市のポテンシャルについに東京の企業も気付き始めたのかという,そういう意味で は非常に感慨深いものがあります。 このオチガビワイナリーと仁木ヒルズワイナリーは近代型で大規模な資本を投下してお り,レストランや宿泊施設も併設しています。これから取り上げる六次産業型のモデルケー スとしてイメージしやすいのではと思います。 一方でドメーヌ・タカヒコ,ベリーベリーファーム,リタファーム,これらのワイナリー は非常に小規模で,オーガニック栽培等を行い,自身でもブドウを栽培し手間を掛けて高 品質の物を少量作るというワイナリーであると思います。
余市の醸造用ブドウの状況について触れます。先ほど北海道が醸造用ブドウの生産額, 栽培面積でも相当国内で大きな地位を占めているということを申し上げましたけれども, 道内で見ても余市町は醸造用ブドウの一大生産地であるということです。ただし冷涼な 気候で冬がかなり寒いので温かい気候で育つようなブドウというのは生産が難しく,ケル ナーなどドイツ系の品種が多い。これは北海道全体に共通することですけれども,ドイツ 系やフランスのアルザス系のブドウの栽培が中心になっています。 ここでワインと六次産業の関係をご説明しておきます。実はワインというのは六次産業 という概念に非常にマッチングしている業界ではないかと思います。今ここ 2,3 年,農 林水産省の後押しもあって六次産業化というのが非常に叫ばれるようになりましたけれど も,実はワインの業界というのは昔から六次産業化していたのですね。というのも,まず テロワールといいますが,ブドウの畑の環境です。その土に何が含まれているか,隣の畑 がどのような土の質であるかとか,地域の気温,日照時間,湿度など,そういったもの全 てひっくるめてテロワールと呼ぶのですが,それを元々非常に重視する。ということは, 同じ品種のブドウを使ってワインを作ろうと思っても他の地域では同質のワインは作れな いということにもなります。 ワインの醸造方式には大きく分けて 2 種類あるのですけれども,ネゴシアンとドメーヌ という並立する関係があります。ネゴシアンというのは他の生産者が作ったブドウやワイ ンをブレンドして作る方式です。先ほど言いました,アルゼンチンからブドウジュースを 買ってきてというのもこの方式ですし,逆に北海道のブドウを使って長野でワインを作る というのもこの方式です。ネゴシアンによっては素晴らしい品質のワインを生み出します。 一方でドメーヌ方式,これは各地でいろんな呼び方があるので,ドメーヌというとだい たいブルゴーニュ地方の呼び方です。自社畑を所有して,ブドウの栽培から,ここで一次 です。そのブドウを使ってワインを醸造し瓶詰めして出荷する。ここで二次ですね。更に ワインの試飲所やレストラン,オーベルジュを併設する。ここで三次。これを一括して行 うと六次化になるわけですね。1 足す 2 足す 3,もしくは 1 かける 2 かける 3 で六次と言 われています。しかしワイン界ではこの方式はそれこそ 19 世紀から成されてきたことで すから,六次産業という概念に非常に馴染みやすい業界ではないかと思います。 アルコールを楽しむ人が,興味を持つ酒に関する関心事は何か。平均して見ますと第一
に成分,第二の関心は酒毎に違うのですが,ワインの場合にご注目ください。ワインは料 理との相性を気にする人が他のお酒に比べて多いというのが特色です。 これもワインが六次産業化という概念に適している一つの根拠かと思います。つまり料 理との相性でどうにでもなると言いますか,かなり変わるということですね。もちろん地 元のお酒を地元の料理と合わせるというのは基本でありますけれども,一番美味しい組み 合わせとしておすすめできます。ワイン愛好家というのは,一般的に料理との相性という のを非常に重視するのでありますから,ワインという製品そのものの質だけではなくて, 三次の部分ですね,料理であるとか,もしくは試飲の環境であるとか,このあとお話する ナパですと非常に見晴らしのよい湖の畔で,日の燦々と当たるところで試飲が出来たりす るわけです。もうそれだけで味が 3 割ぐらい美味しくなるような感じがします。ワインと いうのは飲むシチュエーションで味が変わる,そういうお酒であるということが言えるの じゃないでしょうか。あとは,ナポレオンが愛飲したなど,伝説やストーリーも重視され るお酒です。 ここから少し学問的なお話になりますけれども,経営の先生方もおられますので触れた いと思います。集積による効果というのは経済学・経営学どちらでも見られる話ですけれ ども,一般的な効果としては集積すると何が良いのか。取引費用が節約される,技術進歩 のスピルオーバーが見られる,あと専門化された労働力が集まりやすいという優位性が あります。集積によって正の外部性が生じるわけです。製造業の場合の豊田市や日立市, IT 産業のシリコンバレー,映画産業のハリウッドなどが有名です。 専門化されていない普遍的な労働力であれば集積がなくても集まりますけれども,専門 化された労働力というのは生産側からの需要がないと集まりません。産業集積が起こると 地域にとっては生産性の高い人材を集められるというプラスの側面があります。結果的に 地域全体でも生産性の向上が見られます。生産性が高く所得の高い労働者が地域で落とす 消費も大きいです。 一方で集積のデメリットがないわけではなくて,地価が高騰する,ラッシュアワーの発 生などの,過密や混雑が見られる。特に,農業の場合は地価が高騰したからといって他の 地域に出て行くということが,製造業のようにはやりにくいわけです。先ほど申し上げた ようにブドウはテロワールを非常に重視する,ブドウ,ワイン以外の農産物にもテロワー
ルというのはある程度必要ですので,農産物の生産に重要な投入項目である土地の価格が 高くなってしまうというのは,大きな負の影響になるわけです。 あと,私が空知より余市が北海道のワイナリーの集積としては将来性があると思うもう 一つの理由は,交通の便の良さ,今後予想される交通の便の改善,そして立地の面です。 2016 年に,北海道新幹線が函館まで延伸されます。その後札幌までの延伸が決まってお りますが,これが実は余市の近くを通るのです。余市がどこにあるかというと,わかりに くいですけど,この小樽の少し上の方です,ですので,東京からのお客様にも来てもらい やすくなりますし,あと今日本で最も外国らしい土地であるニセコから車で 40 分ほどで 余市に行けます。所得の高い外国人に来てもらいやすい立地であるというのもこれから大 きく成長していく一つの要因なのではないかと思っています。 余市をナパにというのは,オチガビワイナリーの方が言っておられることなのですが, 私も確かにそうかと思います。ワイン産業が集積することでどういった効果が得られるの か。先行事例としてのカリフォルニアのナパ地域の話をしますと,ワイナリーの数がま ず 850 ほどと非常に多く集積しています。しかもワイン生産地としては後発ですが,歴史 のあるフランスやイタリアのワインに負けない高付加価値なワインを作っている。1 本 10 万円もするようなカルトワインも作っています。 ナパ地域はワインツーリズムの走りとしても有名で,年間 500 万人ほどの観光客を集め ています。カリフォルニア大学デイビス校の中に醸造学部があるのですけれども,ここの 卒業生がナパ地域の成長に非常に寄与している。つまり専門的な教育を受けた人々が大学 で得た知識を活用して,その近くのワイナリーで高品質なワインを作っているということ もあります。近くにシリコンバレーがありますので,そこでの成功者がワイナリーを設立 し,大量に資金を投入して最新鋭の設備を持つものもあります。もちろんそういうものば かりではなくて,小規模なワイナリーで生産しているものも多いです。あとオーガニック の,最先端のオーガニックというんですか,月の満ち欠けと合わせてブドウの剪定を行っ たり紅茶の茶がらを肥料としてまくなど,そういうチャレンジングな取り組みをしている ようなワイナリーもあります。 ここで,北海道のワイン生産が増加すると今後どうなっていくのかというシミュレー ションを過去に試算したことがありますので,それの結果をご紹介したいと思います。
このシミュレーションでは施策を 7 つ考えました。北海道のワインの弱いところとして, まだ低付加価値のワインが多いというのがあります。頑張っている生産者は出てきていま すけれども,やはりまだまだお土産用の 1 本 1000 円前後の甘口ワインが多いというのも 事実です。逆に言うと理由もありまして,ワインというのは醸造してすぐ売れる物ではな いのです。通常は最低でも 1 年寝かせることが必要です,そうすると原料ブドウに必要な 資金回収が出来ないわけです。今年のブドウを収穫して,今年ワインを作って,そのワイ ンの売上高が今年入ってくればいいですけれども,そうではない。そうするとやっぱり運 転資金が厳しくなるわけですね。ただ逆に数年寝かせることで味に深みが生まれ,より高 く販売できるというのも事実ですので,1 つ目の前提として,コストは掛かるのだけども 売値を平均 2500 円 / 本と引き上げたパターンを想定しました。 2 つ目に,今は日本で四回目くらいのワインブームが来ていると言われていますけれど も,実は 2000 年前後のワインブームの時よりもマクロでの生産量は減っています。これ は北海道も同じです。ですので,その当時の水準に生産量が回復するパターンを想定しま した。 3 つ目として,北海道の場合まだまだワインの付加価値が低いですので,今のところ, 日本で最も高級なワインを多く生産する地域と言われている甲州ワインと同様の価格構成 比が達成されると仮定した場合を想定しました。 施策 4 番目として土壌改良を行うというパターンです。ブドウを含め農業分野は補助金 等で土壌改良費というのが交付されています。それを利用して土壌改良を行うパターンを 想定しました。 更に 5 番目として,土壌改良の資金を金融業から調達すると。補助金とするのではなく て,一部金融業から調達するパターンを想定しました。資金を民間から借りるということ ですね。 たまたま 6 番目でちょうど六次化になっているのですけれども,ホテルとレストラン建 設の資金を,補助金と一部金融業から調達するパターンを想定しました。 最後 7 番目に,低農薬栽培を導入するパターンを想定しました。低農薬というのは, GDP を増加させるのに何故こんなものが出てくるのかと疑問に思われるかもしれません。 低農薬生産を行うということは農薬使用量は減りますが手間と人件費がかかります。低農 薬,オーガニックということでワインの付加価値が増すと,買ってくれる方もいないわけ ではないですので,それを一部導入した場合にどうなるかという想定です。 これらの前提を置いたパターンでシミュレーションいたしました。それぞれ,想定順の
数字が大きくなればなるほど想定が全部含まれています。例えば 7 番のシミュレーション ですと,1 番から 6 番までの過程は全部含んでいる。3 番であれば 1 番と 2 番は含んでい るということになります。 施策の番号が大きくなるほど付加価値の増加額というのは大きくなります。 雇用に関しても大きなプラスの影響が予想されます。地域経済に与える影響の中でもポ リシー 6 と 7 は,一段 GDP の増え方が大きくなっているということがわかると思います。 乗数効果は投入と産出の係数,投入したコストに対しての付加価値の増加額を比率にした ものですけれども,ポリシー 1 から 3 までは変わりませんが,4,5,更に 6,7 になりま すと 0.7 を超えてきます。一方で乗数が 1 を超えていないので,投入したコスト以上に回 収できているかというとまだまだ不足であるということも言えます。 更にこの結果を北海道の GDP に換算した場合に,どの程度のパーセンテージになるの かというのも試算しています。このようなシミュレーションは前提の置き方等にも左右さ れるのですけれども,それぞれ 0.011%から 0.066%程度に相当するという結果が得られて おります。この結果から何が言えるのか。得られる示唆というのは,単純なワイン増産だ けでは地域にとってはあまりプラスがないということです。そもそも農業部門というのは, 付加価値を生み出すという面では単体では弱いという部分があります。経済学的には高い 付加価値を生み出していないというだけで,もちろん環境面などそれ以外の付加価値を生 み出しているという見方はありますけれども,少なくとも GDP で表される数字でいくと 少し不十分ということです。 六次産業化を今後進展させていることは農業の高付加価値化のためにはもちろん大切な のですけれども,各ワイン会社やワイナリーがレストランやホテルを併設してもそれほど 経済に与える影響は高くならないということも明らかにされています。施策 5 の部分にな ります。 一方で新規の施策に資金を投入する,土壌改良であるとか,六次化であるとか,そういっ た投入資金を政府の補助金だけではなくて民間の資金を入れること,もちろん金融業から 単にお金を借りるというだけではなくてコンサルを使ってブランド力を高めるであると前 提も置いていますので,そういった部分に波及してくるとより効果的であるという結果が 得られます。
ただし北海道というのは,公務や公共サービスといった公的な部門の産業比率が高いで すので,逆に言うと公的部門が波及倍率に寄与しているということでもあります。ですの で,100% 民間出資にすると現状では逆に効果が少し落ちるということも言えます。 農業部門や食品加工部門の生産性を高めるという結論はなかなか難しいのですが,農業 部門や食品加工部門等の集積をうながすための産業構造を誘導してもいいのではないのか ということも言えます。 これらの結果はあくまでシミュレーションで予測的なものです。 六次産業化政策に関しては,そろそろデータも揃って出てきていますし,ケーススタディ とも集められるようになっていますから,今後は事後の評価,政策評価も今後必要になっ ていくのではないかと思います。 最後に北海道のワインに限りませんけれども,アルコール業界全体の課題を最後にまと めておきます。あとのディスカッションでも使ってもいいかと思っていますが,日本には 酒税法があっても酒造法がないのです。これは先ほどの泡盛の事例でも出てきていたと思 います。つまり酒税法というのは果実酒の場合,果実を発酵させたものという定義でしか ないわけです。ワインの場合はこの定義に当てはまるものは 1 キロリットル当たり何万円, というような税金のかけ方をされています。逆に言うと果実を原料としているのであれば, それこそ外国からジュースを持ってきて醸造して国産ワインとしてラベルを貼ってもいい わけですね。ところが EU であれば,フランスの場合であると AOC というのですが,原 産地の呼称規制がありまして,フランス産と明記するのであれば原料原産地の名称しか名 乗れません。第三国とのワインのブレンドは法律で禁止であったりします。 この酒造法を今後日本でも制定していこう,特に日本産ワインを輸出するのであれば, この酒造法を作るのが必須であるということは言われていますので,これを後のディス カッションの時の課題の一つにしたいと思っております。 最後に北海道のワイン産業の課題と,私の感じている優位性についてお話しします。北 海道はまだまだ低付加価値なワインが多いと思います。1 本最低でも 3000 円ぐらいする ようなワインを作っていかないといけません。今後は,今ワインブームですけれども,そ れがまた下火になった時に生き残れないと思います。もちろん高付加価値なワインも道内
産であるのですけれども,生産量が少なくて道外に出回らないのです。せっかく素晴らし いワインを作っているのにもかかわらず,道外の人に飲んでいただけないというのはブラ ンド力の面からも残念です。この辺は難しいところです。生産量を増やしても,供給が多 すぎると価格が下がるので,一概に言えないところでもあります。 一方で,広大な土地というのは北海道の大きな魅力ですから,それを活かしてワインツー リズムと合わせて六次化の進展を今後やっていけばいいのではないかと思います。ワイナ リー設立を志す人々にとっても農地が広大であるというのは魅力になります。 施策のところでも少し触れましたけれども,低農薬やオーガニックというのは一つ北海 道の売りになると思っています。北海道は日本の他のワインブドウ生産地よりも冷涼で乾 燥した気候のために害虫が付きにくいので,農薬が少なくて済みます。アレルギーを持つ 子供が増えていくことが予想されていますし,所得が上がれば低農薬やオーガニックの安 全な農産品が欲しいと皆言い出しますから,その時代が来た時に北海道産の低農薬なワイ ンや農産物というのは,世界的にも大きな競争力を持つのではないかと思います。 私の方からは報告としては以上となります。どうもありがとうございました。 司会:ありがとうございました。 さすがは最後のスピーカーで次の準備の問題提起までしていただきましてありがとうご ざいます。 それでは少しですね,テーブルのセッティングをいたしますので,またお茶でも飲んで ですね,5,6 分お過ごしください。 4 時 20 分からディスカッションを始めたいと思います。よろしくお願いいたします。 【報告④ レジメ】 農業の高付加価値化を目指して,製造業,サービス業との連携を強化し「六次産業化」 を目指す動きが活発化している。もっともワイン産業では,ぶどう生産からワインの醸造・ 瓶詰めまでを一手に担い出荷する「ドメーヌ方式」が 19 世紀から行われていた。さらに ワイナリーにレストランやホテルを併設し,自社製品を提供して高収益を確保する事業者 も,ナパやブルゴーニュなど海外のワイン名産地には存在する。
しかし,わが国においてはサービス業を併設して大々的に利益をあげているワイナリー はほとんど存在しない。これまでの研究によると,その原因は以下の2点と考えられる。 1. 通常のワインは醸造と瓶詰めが直結せず生産から出荷までのラグが生じるため,生産 コストの回収が滞ると資金繰りが困難になりやすい。 2. 付加価値の高いワインほど醸造期間も長く必要であるが,製品の将来価値を担保にとっ た貸金システムが確立されていない。 この結果,国産ワインの販売単価は概して欧州の伝統的生産国に比較して低く,付加価 値の高いワインが生産されづらい状況にあった。ところが,近年では国産ワインの質が向 上し,国産ぶどう 100%で生産したワインを「日本ワイン」と呼ぶ動きがみられる。また 日本ワインの価値を国際的に高めるための品質保証制度として,欧州なみのワイン酒造法 の制定を目指す動きも活発化してきた。 このような動向を見越して,北海道内にはワイナリーの集積が目立つようになった。元 来,北海道では冷涼な気候を生かしたぶどう作りは盛んで,ワイン生産も行われていたが, その大半は土産物需要としての低価格帯のものであった。近年のワイナリーの集積はこれ らとは一線を画しており,余市地区を例にあげると 2013 年,2014 年,2015 年と毎年新規 のワイナリーが開業されている。大規模なものではレストランやコテージが併設されてい る一方,小規模なものでは付加価値の高い少量生産を行い,道外にも熱烈な固定客を持つ ものもある。加えて,北海道内では空知や函館地区にも同様の集積が生まれており,映画 の舞台となって観光客を集めているワイナリーも存在する。 高齢化・人口減少で疲弊の激しい地方部において,六次産業化に深くかかわる食品製 造業,飲食店業は中期的に安定した市場規模が保たれている。これらの産業はグローバル 化が進む中でも,地域に一定の雇用を確保するという側面を持つ。全国的に出身地域で就 職を希望する若年者が増加する現在,彼らの雇用の受け皿の規模が確保されるという面で も六次産業化は意義を持つと思われる。 本研究では,余市地区のケースを紹介しつつ,複数の仮定を置いたシミュレーションを 実施し,産業連関分析によって北海道経済および雇用市場に与える影響を計測・比較分析 する。