原 著 ( 東 女 医 大 誌 第55巻 第7
号)
頁 566-570 昭和60年7月jてんかん児における注意欠陥状態
東京女子医科大学 小児科学教室(主任:福山幸夫教授〉 ハラ原
仁
( 受 付 昭 和60年3月28日〉 Attention Deficit in Epileptic Children Hitoshi HARA,
M.D. Department of Pediatrics(Director: Prof: Yukio FUKUYAMA) Tokyo Women's Medical College To evaluate sustained attention, a new procedure called the continuous performance test (CPT) was developed to detarmine whether or not there is a certain kind of attention deficit in epileptic children. The subjects consisted of 24 normal children, and 8 epileptic ones taking no anticonvulsants.The Tanaka-Binet test was conducted to all of them for IQ measurement. The normal and the epileptic subjects were devided into three subgroups each based on their mental ages of 8 & 9
,
10& 11,
and 12& 13
,
respectively. The 7 epileptic children showed inferior CPT scores to the average of the normal subgroups. Furthermore, three out of the seven scored less by more than one standard deviation. The result in this study suggests there are a large percentage of epileptic children with subtle attention deficit despite no anticonvulsant have been administered to them. はじめに てんかん児の療育指導をする場合,発作の有無 と抗けいれん剤による身体上の副作用に担当医の 関心が向けられ,学習,行動などの徴細な問題に は十分な対応ができていないのが現状である. 一般に,てんかん児は,“落着かない"“反応は 素早いが長続きしない"などの印象をもたれてい る1) これらの問題が,てんかん発作あるいはてん かんそのものに由来するのか,抗けいれん剤の副 作用として理解できるのか,全て解明されたとは 言えない. 著 者 が 開 発 し たContinuous Performance TestC以下CPTと略〉は,てんかん児の注意持続 力を測定し,上記の問題点を明らかにすることを 目的としたものである. 今回健常児24名と無投薬のてんかん児8名の注 意持続力を測定したので報告する. 対 象 1.健常児 -566 健常児とは,1)親への問診で,けいれんの既往 がなく, 2)同じく問診で,学習,行動,発達上の 問題がないこと, 3)著者による,神経学的徴症状 を含む,神経学的診察で異常を認めないことをそ の選定の条件とした. 6歳 3カ月から11歳11カ月 までの男児1
8
名,女子6
名である. 2.てんかん児 けいれん発作を主訴に東京女子医科大学病院小 児科を受診したもので,無投薬の愚児8例である CTable 1). 方 法 1.CPT 今 回 新 た に 開 発 し たCPTは 次 の ご と く で あ る. 刺激は,丸,三角,四角,ノミツの 4個の図形よ り成っている.繰り返しを許さず,その組合せを 作成すると, 24種の図が可能となる.これらを遮 蔽スライドとして一種につき10枚撮影し,ランダ、 ムに配列した80枚を1セットとすると 3セットTable 1 Profileof epileptic children
Frequency Intervalbetween
Case Sex Age Diagnosis EEG findings o f the a ttack the lastattack and the CPT 1 TN F 6y 3m FC normal 6 13days 2 KF M 8yllm BECCT rC sharp 2 5days 3 TK F 10y10m GM rO spws 2 6days 4 Y M M 8y10m PME"+GMb' diff. Frequent則 Oday" 3c/s sp-w 1b' 12daysb'
5 T M F 8y 8m BECCT raT laT
&
, mT sps l 5days 6 TA M 12y5m GM rF slow 3 6days 7 YT F 12y5m BECCT rFp, aT, C sps 3 12days8 M N F 12yllm PME diff3.c/s sp-w 2-3/day Oday
FC: febrile convulsion, BECCT: benign epilepsy of children with centro・temporalEEG
foci, GM : grand mal seizure, PME: petitmal epilepsy
作成できることになる.連続して同じ刺激図形の 呈示があった場合を正答とする.
1
セットには正 答が8枚用意されている. 各セッションでは,各々のセットを3回,連続 的に,被検児から90cm離れた,高さ95cm,縦40 cm横30cmのスクリーン上に, 20X20cmの図形 として呈示する.刺激呈示は0.8秒,刺激間隔は1.3 秒であり,合計240枚の呈示に約9分を要する.正 答数8のセットが3巡するのだから 1回のセッ ションの正答数は24ということになる(
F
i
g
.
1). 被検児は,テスト開始前に1
セット4
8
枚,正 答数 4の練習セットをもちいて,正答が呈示され た場合はただちにそなえつけのブザーを押すよう に教示され, このテストに十分に習熟するまで練 習する. 1回のテストは,最低5分の休息時閣をとり, Fig. 1 A FigureoftheStimuli on CPT 3セッションから成立する. 3種のセットは,あ らかじめ被検児が選択した組合せ順に全て実施さ れる. Stimuli Oム Oム O X O X 口X 06 ×口 ×口 ムロ ム口 ムo
X口 1",, 1 -i 0.8i -Isecj -: 1.3sec! -Response n H H H + l ln~
CorrE!'ct Omission Commis引on r田ponse error errorFig. 2 Continuous Performance Test
567-これらの刺激の呈示には,竹井器機製D P・6型タ キストスコープ,電子シャツタ, コダック社製カ ローセル
4
2
0
0
型スライドプロジェクター,前述の スクりーンを装置した特製ブースなどを使用し た テスト場面は,通常の明るさの個室で,午前1
0
時または午後2
時より開始された. 2.評価法 測定は, Omission Error C反応しなければし、け ない刺激に反応しない誤り, OE), Commission Error C反応してはいけない刺激に反応した誤り, CE)である (Fig.2入
各セッションのO E,CEを比較し,それぞれ最 小の数値をとるセッションの O E,CEをテストの 代表値とした.ただし,どちらかの指標の最小値 が複数の場合,もう一方の指標がよりすくない数 値をもっセッションを採用した.また, O E,CEの 最 小 値 の セ ッ シ ョ ン が 異 な る 場 合2
つのセッ ションのO E,C Eの相加平均を代表値とした. 下記に示すごとく,各テストのO E,CEを百分 率で表わし,それぞれ% O E,% C Eとした. O E %OE=一 一2
4
X100 C E % C E二 円X100 Correct Resp< 次に,注意持続力の指標として, Error Index CEI)を下記のごとく設定した. EI=〆
C%OE)2+C%CE)2 CPT被検児全員に,田中ビネ一式知能検査2)を 実施した.知能検査はCPT後1
カ月以内におこ なわれている. 知能検査による精神年齢で 1群 :8歳 0カ月 から9歳 11カ月, II群 :10歳 Oカ月から 11歳11カ 月,m
群 :1
2
歳0
カ月から1
3
歳11カ月に分割し, そ れ ぞ れ の 群 で , 健 常 児 群 と て ん か ん 児 群 の % O E, % C E, EIを比較した. 結 果 CTable2) てんかん群は各例の得点を,正常群は1, II,m
群の平均値と標準偏差を表示しである.症例6 CTA)の% O E,症例8CMN)の%CE,EI以外は 全て,てんかん児の得点は,正常児の平均値より 劣っていた.また1
標準偏差以上劣っているも のは,症例1CTN)の% O EとEI,症例2 (KF) の% C EとEI,症例4
の%CEとEI,症例7
CYT) の% C Eであった.Table 2 CPT scores and Binet test: comparison between epileptics and normal control
Case Sex CA MA IQ %OE %CE EI 1 TN F 6Y 3m 8y Om 128 69 32 76.0 2 KF M 8yllm 9y 2m 104 33 53 62.4 ーーーーー.".ー・ーー ----ーー幽ー幽ーー .値・・._--- -・ー・・ーー...押ーー ーーーーーーーーー-ー -ーーー'・ーー・ーー・e M: F 7y 8m 9y Om 117.2 25.0 31.9 44.1 n==9 7 : 2 C:t11.1m)〔士5.8m)(土11.4) C:t18.5) C:t25.D C:t15.2) 3 T K F lOy10m 10y 2m 94 33 27 42.6 4 Y M M 8y10m 10y10m 123 35 61 70.3 II 5 T乱f F 8y 8m 11y6m 133 33 35 48.1 ーーーーーーーーーーー ーー・・・・・・・・・ー』・...幽・・・... ー・ーー・・ー..・骨骨' ー-ーーーーーーー-ーー M: F 8y10m 10y 8m 123.7 23.7 27.3 37.2 n==9 7 : 2 C:t18.5m)(士8.4m)(士15.3) C:t12.0) 〔士16.8) C:t 18.4) 6 TA M 12y 5m 12y 4m 99 6.3 24 24.8 7 YT F 12y 5m 12y 6m 101 29 17 33.6 III 8 M N F 12y11m 13y 5m 104 13 8.7 15.6 ーーーーーーーーーーー -・ーーーーーーーーーー ーーーーーーーーーーーー ーーーーーー曙'・...---.--- -M: F lOy3m 12y 6m 122.2 12.2 16.2 21.0 n==6 4 2 〔士7.6m) C:t46m) (:t7.5) (:t13.5) (:t11.5) (:t16.6) CA: chronological age, MA: mental age, OE: omission error, CE: commission error,
EI: error index
考 察 Rosvoldら3)の 考 案 し た CPTは注意持続力を 測定する方法として,すでに確立したものである. その後,呈示刺激,呈示時間,刺激間隔,回答方 法などに工夫がなされ,種々の変法が報告されて いる4ト6) 著者らは, Rutschmanらの方法4)を 改 変 し た CPTを用いて,注意欠陥障害児の注意持続力を測 定した7)-9) 今回は,呈示刺激をスペードとクラブ のトランプカードから,丸,三角,四角,バツに, 呈示時間を0.5秒から0.8秒に変更し,新たなテス トバッテリーの標準化を試みた.こらの改良は, 被検児のトランプゲームの経験の有無によって, 課題解決に差が出る可能性があること,つまりだ れもが等しく了解でき,かっ新しい経験となる刺 激が必要であるため,また,より年少児へも適応 可能であり,従来の対象児の年齢においても使用 できる方法が,本研究のために不可欠なためであ る.前述の変更によって改良の目的は達せられ, この CPTは,注意持続力を測定するきわめて有 用な手段と思われる. 被検児の年齢下限を6歳児とし,比較のため, 集計は精神年齢8歳以上を対象としたが 5歳児 で精神年齢6 - 7歳程度でもテストは十分可能で あった.また基本的には性差による注意持続力に は大きな変化はないといわれているが川,健常児 の性比のかたよりは,今後女児例のデータの追加 によって標準値の修正が必要となるかもしれな し、 CPT によって明らかにされる注意持続障害は, 多動児症候群11)(注意欠陥障害入精神分裂病問, またその子供ベ慢性・服薬てんかん患者6)に存在 することが指摘されてきた.しかしてんかん児, しかも無投薬例に関する報告はまだない.結果で 示したように,コントロール群の CPT得点,特に EIの平均値とてんかん児のそれを比較すると,て んかん児8例中7例で,てんかん児の方が劣り, またこの
7
例中1
標準偏差以上劣っているものは3
例であった.これらはその程度は徴細にしろ, てんかん児の注意持続力に何らかの問題が存在す る可能性を示唆する.つまり抗けいれん剤の副作 -569 用のみでてんかん児の注意持続障害を理解でき ず,てんかん児が本来もっている性向も無視でき ない.またてんかん発作そのものの影響,発作型, 脳波所見による差異などについては少数例のみの 結果より結論を示すことはさしひかえたいが,今 回の症例では明らかな関連性を見い出し得なかっ た ま と め 新たに開発した Continuousperformance test (CPT)をもちいて,健常児24名,無投薬のてんか ん児8名の注意持続力を測定した.てんかん児に は元来注意持続障害が存在する可能性が示唆され た 稿を終えるにあたり,御校閲,御指導戴いた福山幸 夫教授に感謝いたします. 本論文は,昭和59年度科学研究費補助金,奨励研究 (A),課題番号59770694による. 文 献 1)Hara,
H.,
et al.: Personality and electroence. phalography: Significance of epieptiform activity on mass secreening electroencephalo -graphy. Brain Dev 5 20-28 (1983) 2) 田中教育研究所 田所・田中ビネ一知能検査法. 1970年 新 訂 版 田 研 出 版 東 京 ( 1970) 3)Rosvold,
H.E.,
et al.: A continuous perfor -mance test of brain damage. ] Consult Clin Psychol20 343-350 (1956) 4)Rutschmann,
H.,
et al.: Sustained attention in children at risk for schizophrenia. Report on a continuous performance test. Arch Gen Psychiatry34 571-575 (1977) 5)Buchsbamn, M.S., et al.: An adaptive-rate continuous performance test: Vigilance char -acteristic and reliability for400male studients. Percept Mot Skills51 707 -713 (1980) 6)掛川則夫:てんかん性発作放電におよぼす精神作 業負荷の影響.精神経誌 86 865-878 (1984) 7)渡辺義文・ほか:多動に対する刺激剤の有効性に 関する研究.厚生省『長期疾患療育児の養護・訓 練・福祉に関する総合的研究』研究班昭和56年度 研究報告 8)原 仁・ほか:多動に対する刺激剤の有効性に 関する研究.厚生省『長期疾患療育児の養護・訓 練・福祉に関する総合的研究』研究班昭和57年度研究報告
9) 太田昌孝・ほか.小児の行動異常の薬物療法.神 経精神薬理 6 135 -144 (1984)
10) Berch, D.B.,et al.: Individual di妊erences.In Warrn JS (Ed.) Sustained attention in human performance. John Willey & Sons Chichester (1984) 570ー 11) Sykes