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妊娠と肺結核症に就て

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〔特 別 掲 載〕

(東京女医大回第27巻第10号頁531−546昭和32年10月)

娠こ肺結核症に就て

緒 東京女子医科大学産婦入科学教室(主任柏木祥三郎教授) 言 阿 ア

秀 ヒ戸

(受付昭和32年8月6日)

妊娠と結核と言う問題は既に相当古くからとり あげられていて,実験的にも臨床的にもいくつか の報告があるが今尚解決されてはいない。 妊娠並びに分娩によって結核殊に肺結核が悪化 するか否かについてこれを次の6項目に分けてと りあつかってみたい。 (1)結核殊に肺結核が妊娠或は分娩によって如 何なる影響を受けるか。 ② 肺結核患者はどの程度の病状あるいは病勢 で妊娠分娩を許容出来るか。 〔3)授乳,育児は母体の肺結核に悪影響を与え るか,又乳児に対する影響はどうか。 (4)肺結核を有する妊産婦の健康管理を如何に すべきであるか。 近時化学療法の進歩発達は結核症の様相を一変 せしめた。したがって上記の4つの項目も亦化学 療法の出現という新しいスポッイトライトに照し ロ ザ て考える必要が生じて次の第5番目の項目を加え なければならない。すなわち, ㈲ 化学療法の出現によって以上の諸項目を如 何に考えて.ゆけばよいかQ 更に肺結核の外科的療法即ち胸廓成形術,肺葉 切除等が行われるようになった。しかしその結果 患者は多少とも肺機能の減歩とゆう問題に遭遇す る。したがって第6の項目が追加される必要が生 ずる。 ㈲ 外科的療法によって生じた肺機能の減退が 妊娠分娩にどんな影響を与えるか。 第6の項目については別に報告するのでそれ以 世 ヨ 外の5項目について自験例をあげて考察してみた いと考える。 症 例 私は昭和26年以来結核予防会結核研究所と緊密 な連絡をとり妊産婦の肺結核に関する実態を調査 し,併せて肺結核と妊娠分娩との関連性の研究を 行って来た。すなわち妊婦には初診時ツ反応を施 行し,血沈及び間接撮影(6×6)を行い要すれ ば直接撮影及透視等を行って肺結核の発見に注意 し,症状により適切な指導治療を行い妊娠分娩と 肺結核との関係を追求して来た。すでに第一報と して昭和29年東京女子医科大学第20回総会にその 一部を発表したが引続き今日までこの問題を追求 して来たのでこの聞において経験した症例の一部 をあげて前述の5項目について私の老えを述べ御 批判を仰ぎたい。 (1)妊娠中肋膜炎を惹起した例 (2)肺結核の為人工妊娠中絶をした例 (3)分娩後悪化した例 (4)人工気胸を行いながら分娩した例 ㈲ 化学療法を施行しながら分娩した例

(2)

Aの1

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妊娠中ツ反応陽転,右湿性肋膜炎発病 ツ反応陽転発病,分娩後悪化死亡の例

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1昭25 1 ・, l t1 26 tl 年1月 s・s・ . 昭和4年9月生 昭22 24 26 11 32 1 11 5 1 7 結婚 ッ反応(一),ワ氏反応(一) 女子分娩 妊娠5ヵ月 ツ反応(一),梅毒反応(一) 女子分点(3650g)

興野霧囎鑑欝舩・

{難魏遜灘院

家族検診の結=果夫に肺結核発見 即ち右上葉に小葉大病巣あり 喀疾培養(十) 長女 ッ反応G+i) 肋膜炎後月症のみで健存 ,l1 27 I1 28 11

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妊娠中ヅ反応陽転,左湿性肋膜炎発病

i年月A・M・昭和3年4月生 ...一一.1

.昭26i 4 i結婚 ッ反応(一),ワ氏反応(一) … 27151妊娠4ヵ月 ツ反応(柵),ワ氏反応(一) 1 : I I Sp(6×6)右上葉に初感染巣 1

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1 分娩直前左湿性肋膜炎化療(S.M.+Pas)i ド

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29..W1妊娠3ヵ月 人工中絶 …

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3坤軸る男子と結婚・反応(一) 5!ッ反応陽転夫に結核なし ユ1i主医により肋膜炎と診断された .1…入工気胸開始 3 入工気胸中止 8i初診,妊娠4ヵ月 Xp撮影,血沈84/114 1 肺結核症(IVAa1)と診断人工中絶を推め たが分娩を熱望し肯ぜず止むを得ず化療 を推めたが聞き入れなかった 2[女子分娩(25009)直後発熱直ちに化療開始

運搬塑で退膨医し充分な化療を

51発熱シュ「一ブを起し某医によID(S・M・+Pas) 1化療を受けた 2…妊娠2ヵ月 人工中絶 7・肺結核症悪イヒ死亡 l

Bの2

ツ反応陽転発病,気胸分娩後シ;= ・一ブを起した例 ・・

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剛・儲・反応・一・

6 8 7 1 6 8 ツ反応陽転 両側肋膜炎発病 妊娠2ヵ月 男工中絶 妊娠5ヵ月 sp. xp.血沈73/100 肺結核症IVBb1と診断 妊娠持続 入工気胸開始 女子分娩(3050g) シユーブを起す,血沈80/108 人工気胸中止,化療開始(INH十Pas) 妊娠3ヵ月 入園中絶

Bの3

分娩後シユーブを起した例

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Aの3

妊娠中ッ反応陽転,右湿性肋膜炎発病 ’一”P 一t一@一P’T”’黶f

年 月iH.K.昭和7年2月生

恥281111結婚ツ反応(一) 29 4 妊娠6ヵ月 ッ反応(十+十),ワ氏反応(1+り ! . Sp. XP.異常なし 〃i5i駆梅療法開始 ■ 7::妊娠9ヵ月 右湿1生肋膜炎発病化療 v1 s l ll’(i’1’{,i>一dw3306g)’ ’一”r” ”(’slM−FJ4−pas)1 32: :肋膜炎後胎症のみにて健存 , 昭8 9i右肋膜炎 15i41結女昏 i7 15男子分娩 20ig「夫肺結核にて死亡

鑑臆面、翻

、t・ 13子宮後屈症手術

四;1購論。謝NBb1と診圏〒

i,7三二、用人工雪

1〃 82右葉間肋膜炎 XP.血沈111/124化療 28:6.妊娠3ヵ月 丁丁中絶 (S.M,+Pas) 132 旨現在健存 1 一 582 =一

(3)

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図Aの1 妊娠中ツ反応陽転,右湿性肋膜炎発病(V皿A型)

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図Aの3 妊娠中ッ反応陽転,右湿性肋膜炎発病(皿A型)

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図Bの2(1)ッ反応陽転発病,気胸分娩後シa一ブ(悪化前)(WBbI型)(昭28.2) −S一一一v))〉一[ 窪 ドゆ ’『 藁 痢 あ 墓 薪

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図Bの2〔2)ッ反応陽転発病,気胸分娩後シ=一ブ(昭28.6)

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図Bの3(1)分娩後シーt一 一ブを起した例(悪化前)(IVBbI型)(昭26.9) ’h L・i

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図Bの3(2)分娩後シユーブを起した例(昭27.8) 一586一

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〉 図Dの2 化学療法を行いながら分娩(IVBbI型) 一 588 一一一

(9)

図Dの3 化学療法を行いながら分娩(IVBbI型)

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一一一一/ 1 鑑 , 図Dの4 化学療澱を行いながら分娩(IVBbI型)

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人工妊娠中絶を行った例(IVAaI型) へ

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織工妊娠中絶を行った例(VH型) 540 一

(11)

Cの1

入掛気胸を行いながら分娩 年 月 M。Y.大正5年9月生

Dの2

i日窮o 10 2 12 11 化学療法を行いながら分娩 24 25 27 28 29 32 8 3 3 年月i M… 昭和5年10月寒 結婚} 男子分娩 自然流産(3ヵ月) 女子分娩 生後8ヵ月結核性脳膜炎にて死 亡 妊娠3ヵ月 ッ反応18×13/20×15(40×30) Sp. Xp.血沈78/106,喀湊培養(十) 肺結核症(IVBb1)と診断直ちに記入山気 胸開始

二丁嘘痴(一)1茎

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!1言・7 i 27 i 28 i 4 ヅ反応陽転 11i結婚 7

臨娠4朔肺結核症WBb・

SP. Xp.血.沈(86/115) ・、 、,

溝細岡ξ認醤㌦鞭蓑」

!291男子分娩(32509) 〃 10 妊娠3ヵ月 入工中絶 31 3 妊娠8ヵ月(活動性病巣なし) 1 〃 6 1女子・分・娩(3200g)

32 糀母子共晶存 1

Dの3

Cの2

人工気胸を行いながら分娩 垂訓K・T・ f〈正・2T:・肚 昭25 tl l1 27 28 11’ 5 6 8 7 1 6 1瀧・反応(一) ツ反応陽転 両側肋膜炎 妊娠2ヵ月 人工中絶 妊娠5ヵ月 妊娠持続,人工気胸開始 女子分娩(3050g) シユーブを起す,入工気胸中止 化学療法開始 肺脚結症IVBb1と診断 1案

化学療法を行いながら分娩 年 月 M。K.大正15年6月生 「昭23 24 26 27 28 29 30 r1 31 32 8 2 3 2 8 1 2

難賑嘉入頂購杢↑

僻難球(S.M.・・A・+IN・)蕎} 11i妊娠3ヵ月 5「女子分娩(26159) 乳児は直ちに乳児院に収容哺育 ツ反応(一,,BCG施行 現在母子共に健存 化病持続(SMIOg) 入電気胸中止 化学療法(Pas十INH) 結婚 肺結核症IVBb1化療 。 (PAS十INH) .Dの4

Dの1

化学療法を行いながら分娩 年 月 昭16 23 24 25 26 28 K・H.昭和3年3月生 3 11 3 6 2 5 ツ反応陽転(BCG施行せず) 結婚 左肋膜炎(S.M.10g使用) 妊娠2ヵ月 肺結核:melVBbl (Sp. Xp.血沈46/75) 安静度四度 化学療法開始(S.M.一ドPas) 男子分嬬(2800g) 妊娠3ヵ月 郊野中絶(活動性病巣有.)

1

化学療法を行いながら分娩,

姻月M’.H.六正・4年4月無ゲー

4 昭24i 10 25 28 29 tl I! 30 31 4 7 1 4 10 3 8 ツ反応陽転(B.C.G施行せず) Sp.異常なし(郵政省検診). 結婚 妊娠3ヵ月 Sp.異常なし、 女子分娩(2800g) Sp.異常なし ・ 妊娠4ヵ月(Sp. Xp.血沈58/82) 肺結核症IVBa1と診断 化学療法開始(S.M.十PAS十INH) 男子分娩(31009)児ツ反応(一) B.C.G.施行,直ちに乳児院に収 容満1力年哺育後家庭に引取る 妊娠2ヵ月 入工中絶

(12)

考 按 まえがきに述べた様に妊娠並に分娩と肺結核の 問題を6っの項目に分け,最後の外科的療法によ って生じた肺機能の減少と妊娠分娩の関係につい ては別に報ずるので残りの5つの項目について以 上述べた各々の症例に基いて考按を加えてみたい と思う。 (1)結核殊に肺結核が妊娠分娩によって如何な る影響を受けるか。 まつ実験的研究が本質的にこの項目の解明には 必要であるので従来の文献を調べてみたがこの種 の実験は甚だ少数でありかつ完全な実験の結果報 告はない。すなわち妊娠分娩によるホルモン作用 と結核との関係の実験である。之は所謂動物実験 による実験的肺結核症は人体のそれとは異り慢性 肺結核の経過をとらず急性に進む事に帰因する事 に依るものと考えられる。 つぎに臨床的に結核が妊娠によりどの様な影響 を受けるかについて述べた報告は多数ある。 19世紀半ばまでは妊娠は肺結核に良い影響を及 ぼすと言う考えであったが,1850年Grissoleの発 表以来考え方は一変して悪化すると言う説が高ま り入工妊娠中絶が広く行われる様iになった。1920 年代には悪化の説に対する多くの批判が述べられ て現在に至っている。この問題はなお充分に解決 されていないが現在の考えは悪化の説にすこぶる 批判的で結核は妊娠により余り影響を受けないと 云う考え方1と近い様である。この考えは化学療法 発見後は勿論,化学療法の発見以前からの傾向で ある。少くとも現在の結核専門医の考え方は妊娠 による各種ホルモン作用はそれ程重大な影響を肺 結核に与えないでむしろ妊娠,分娩,育児による 労働過重や栄養不足等の二次的な因子によって悪 化すると考えられている。以上の謡えを覆すに足 る実験的研究が今なお不足している為である。又 分娩により血行性に転移する例が論れであるが報 告されている。妊娠分娩中の血行性転移と非妊婦 のそれとの正確な統計的基礎がないのでこれも各 種ホルモン作用によるものと言明できるものでは ないであろう。 (2)肺結核患者はどの程度の病状あるいは病勢 で妊娠分娩を許容できるか。 近時優生保護法設定以来妊娠中絶の適応が拡大 されて来たが一方肺結核に罹患しつつ妊娠分娩の 完遂を切望する揚合如何なる限界において之を許 容し母子の安全をはかるべきであるかは重要な問 題である。本質的には妊娠分娩と言う肉体的な変 化が肺結核症の経過に影響を与えると考えられる 病型においては妊娠中絶を行うべきである。 いわゆる現在活動性と考えられる晶晶は勿論中 絶を要するが現在非活動性のものであっても悪化 する話合があるので注意を要するものと思う。 岡式病型のうち1型(初期結核症),r【型(播種 結核症),皿i型(肺尖型),IV型(浸潤型), VI B型 (均等収縮型),珈型(混合型)及びlqllA型(滲出性 肋膜炎)では一一・応中絶を考慮する必要があり,特 に1型,ll B型,蝋型, IV A型, VII[A型等の病型 を示している限り中絶は絶対適応と言えよう。H A,IV B, VI B及び八型の揚合はその撒布範囲, 主病巣の性状及び大きさにより判断すべきであ る。叉V型(結節型),VIA型(巣状硬化型)の一部 も中絶を全く除外するわけには行かない。一般に 最も判定に苦しむ症例はIV型の中で空洞及び新し い浸潤が認められないが病変が硬化型に達してい ない揚合である。この場合確実な判定の条件を挙 げる事は甚だ困難であるが,硬化型に近くなって いて病巣は密在せず誌面が周囲の健康肺と比較的 明確に境界きれていて最大病巣が小葉大以下で, 広がりが一区域以内であれば妊娠分娩を許容して もよいと私は考えている。一般に,病巣の安定度 はX線所見に基く病型の種類別のみならず既往の 治療の有無及程度により著明な相違がみられるの で妊娠時の所見を正しく診断すると同時にこれま でに至った過去の経過を確実に把握しなければな らない。この際排菌状態を検討することも是非必 要で排菌を続けている限り妊娠分娩を許容するこ とは望ましくない。又VIA,田B等の所謂治癒型 以外は妊娠発見時にすべて化学療法を行うのが望 ましい。この際注意すべきことは化学療法により 影響を受け易い病型と受けにくい面詰があること で出産時までに肺病型がどの程度まで安定し得る か予め化学療法開始時に推測する必要があること と母体の定期的観察(尿中蛋白,ウロビリノーゲ ン肝機能検査,白血球数)により化学療法による 副作用の早期発見に努めねばならないことであ る。(化学療法剤の胎児に及ぼす悪影響は多数の 研究者が否定している。) 以上の如く妊娠分娩を許容すべき限界は個々に 一 542 一一一

(13)

より充分に病巣の状態を把握し更に社会的,経済 的生活環況を老恥して決定すべきであると考え る。殊に近時化学療法外科的療法の進歩発達によ り妊娠中絶の適応範囲は非常に縮小されたと考え られる私の経験した症例においても結核専門医の 意見によれば当然妊娠中絶の適応と診断されたが 妊娠分娩を希望しその治療及び生活環境は充分医 師の指示に従い満期分娩良好なる経過をとったも のも多数ある。(症例Cのユ,Dの1, Dの2参 照)然し分娩後悪化の症例(症例Bの1,Bの2, Bの3参照)にみる如く治療面において叉その生 活環況において医師の指示に従い得ない場合は不 幸な転帰をとるに至る場合の多くあることは充分 注意を要すると思う。 外国文献にみる如く重症活動性肺結核妊婦にお いて人工流産したものと満期分娩したものとの母 体死亡率や結核悪化率が満期産群の方が良好であ るという事実がそのまま社会的経済的事情の異な る吾が国にあてはめられるとは言い得ないが少く とも医師の指示に従い適正な治療及び生活のでき るものでは妊娠分娩の許容は化学療法,外科的療 法発達以前に比し非常に適応範囲が広められたと 遣えられる。 活動性乃至重症肺結核妊婦の死亡・悪化率 i入門流産 満期産 1

Steward & Simmond(1947) 400/,i, 1 26.6%

Baron et al. (1947) Schaefer et al., (1952) 430/S 1 27.Oo% 300/S [ 14.0% Henry PhipPs研究所で1925∼54の30年間に肺 結核の治療中に妊娠した152人241回の妊娠につい ての調査報告によると表示の如くで, .一活動性33回(4回増悪 5回軽快) ・一軽症101回一 つド活動性71回(増悪なし)

鴫野・囎〔欝翻鷲馴0回寸

断・・呼灘雛細細し瀦緯張、

入工中絶を行った19例(軽症1’,中等症9,重 症9)中4例(中等症1,重症3)21%が翌年中 に増悪し,人工中絶をすすめられたが実行しなか 経快で,わっかに23人9.5%が妊娠中あるいは出 産後1年以内に増悪したのであるが,これらのう ち適正な医療をうけていたのは単に3人1.25%だ けで,16人はすべて医療を拒否し,4人は今日の 標準では不適正な治療をうけていた。妊娠中軽快 した19人8%は良好な医療下にあった。それで妊 娠は結核増悪の病因として憂慮すべきものではな いと述べている。 私が中絶を行った症例はIV型とVll型でそれぞれ 空洞あるいは新しい浸潤を有するもので妊婦でな くても治療を要するものであり中絶は各々妊娠15 週以内に行い治療は医師の指示に従って気胸ある いは化学療法を行いつつ生活環況も良好なものは それぞれ軽快あるいは治癒している。しかし症例 Bの1の如く医師の指示に従わなかった(治療及 び生活環況)ものでは分娩後悪化し叉入工中絶後 も悪化を重ね不幸の転帰をとるに至ったものであ る。 化学療法を施行しながら妊娠分娩を完了し良好 なる結果を得た例は15例で病型はIV型でそれぞれ

2者併用(SM+PAS)3者併用(S.M.+PA

S十INH)を数隔月以上行ったものである。 なお化学療法普及以前に人工気胸を行いながら 分娩を完了した症例3例の病害は何れもIVBb 1で 共に良好なる結果を得ている。気胸の期間は第…一 症例は妊娠3カ月より分娩後1力年迄,第二症例 は妊娠5カ月より分娩後10カ月迄,第三症例は妊 娠前6ヵ月より分娩後1力年間であった。 分娩後悪化の6命中3例は分娩と前後して肋膜 炎を惹起したものであって容れも陽転発病であ る。

Aの1症例(Aの1図参照)は妊娠20週時ッ反

応陰性,分娩直前右湿性肋膜炎を起こし,その時 ツ反応は強陽性であった。直ちに化学療法(S.M. 十PAS)を施行した。分娩直後薪産児のツ反応 は陰性で乳児院に収容哺育し満1力年後家庭に引 取り母子共に5隔年目の現在健在である。感染源 を調査したところ健康と考えられていた夫の右上 野に小葉大の浸潤巣を発見し,検疫培養陽性で気 胸療法3力年行い治癒した。

Aの2症例(Aの2図参照)は結婚時ツ反応陰

性,9カ月後妊娠し,妊娠16週の際ツ反応強陽性

(14)

M.十PAS)を行い4力年後の現在異常を認めな い。筒感染源は義父であった。

Aの3症例(Aの3図参照)結婚時ッ反応陰性

にて問もなく妊娠し妊娠25週にて初診の際ッ反応 強陽性で間接撮影及び直接撮影にて異常を認めな かったが妊娠35週にて右湿性肋膜炎を起こし化学 療法(SM+PAS)を施行しながら分娩終了, 3力演後異常を認めない。 以上の如くッ反応陽転発病の危険性を痛感した 3例を経験した。 千葉,所沢氏の研究によると陽転後の発病は6 カ月以内に多く陽転者の6%にあたる。 6%のうち肋膜炎,肺門淋巴腺結核,初期浸 潤,双極性浸潤各々大体同じノNO 一N一セントで現はれ る。よって陽転発病の%は肋膜炎を起し,かつ3 ∼6カ月以内であると報.解しているからッ反応陰 性者の妊娠の際はツ反応の陽転時期に注意を払い 陽転の際には発病防止の化学療法も必要と考えら れる。 分娩後悪化の他の3例は本人の医学的知識の欠 乏により医師の言を入れず悪化したものである。

Bの1症例(Bの1図参照).SSはIVAa1型で

妊娠4カ月にて初診の際妊娠中絶及び化学療法を 推めたが聞き入れず其後友人の推めで山羊の白血 球療法を行ったと述べていた。分娩後も全く医師 の言を入れず児の隔離もなさず4カ月間授乳,シ ユーブを起し始めて授乳を中止化学療法を行い一 時改善の傾向を見たが分娩後10カ月目再び妊娠し 妊妨覗カ月にて人工中絶を行ったが既に病状は相 当葱化の状態確あって約5ヵ月後に死の転機をと った。

Bの2症例(Bの2図参照)K.T.はIVBb1型

で第1回分娩は気胸により完了したが,分娩後6 カ月にて再妊娠し同時にシユーブを回した。これ も本人の医学的智識の欠乏のため時々気胸を中断 していた。よって気胸を中止し化学療法(S・M.十 PAS)を行い妊娠3カ月にて入」:中絶を行って 療養を持続した。 Bの3症例(Bの3図参照)Y.Y・は右肺野に 石灰を混じた小葉大の散布巣ありIVBbユ型である がVlAl(近い病巣であったので分娩を要注意で完 了したが分娩後6カ月目にシユーブを起し(SM 十PAS)化学療法を行った。・本曲は育児其他家 事に忙殺され労働過重が認められた例である。こ の例はVIAに近くども悪化を起した例であるから 硬化型に近くとも注意を要すると思う。病巣が石 灰化していてもその病巣から結核菌が培養できた と言う報告もあるから注意を要すると考える。 (3)授乳,育児は母体の肺結核に悪影響を与え るか。文乳児に対する影響はどうか。 前述した分娩後悪化の第1,第3症例は何れも 授乳哺育中悪化O.例で前者は分娩後5カ月目,後 者は分娩ff 6カ月目であって両者共に授乳育児に よる労働過重が重要な役割を演じている。私は前 述の通り授乳育児等による労働過重及び栄養不足 の問題を重要視し分娩後は殊にこの点に老慮を払 い負担軽減のため又一方乳児を感染の危険から除 く目的で乳児の隔離哺育を推めて良好な結果を得 ている。 なお肺結核患者の分娩に際しては新産児は直ち に隔離ツ反応を施行したが全部陰膝であった。叉 新産児発育は体重その他において健康婦人のそれ と何等差違を認めなかった。 (4)妊産婦の健康管理は如以にすべきか。 一・般に家庭婦人は健康管理を受ける機会が非常 に少いので殊に妊娠時の健康管理には充分注意を 要すると考える。 私が調査した昭和26年から昭和31年までツ反応 陽性で間接撮影(6×6)を行った妊婦ユ930名の 殆んど凡ては何等病覚を有せず妊娠診断のために 来院したもので連接撮影のほか直接撮影,透視其 他の精密検査の結果有所見者427名(22.2%)有病 者131名(6.8%)と言う実態を示している。これ らの諸点を考慮し妊婦には血液梅毒反応検査と同 様にツ反応検査施行,陽性者はレントゲン検査を 行い有病者の発見に努めなければならない。なわ. 陰性者は3カ月毎にツ反応施行陽転時期の発見に っとめ発病防止に注意しなければならないと考え る。 結 語 妊娠分娩と結核と言う問題は相当古くからとり あげられていたが化学療法の普及した今日尚種々 論議されている。この問題は次の6つの項目に分 けて考えられる。即ち, (1)結核殊に肺結核が妊娠分娩によって如何な る影響を受けるか。 ② 肺結核患者はどの程度の病状あるいは病勢 で妊娠分娩を許容できるか。 一5忽一

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〔3)授乳,育児は母体の肺結核に悪影響を一与え るか。叉乳児に対する影響はどうか。 C4)妊産婦の健康管理を如何にすべきである か. C5)化学療法の出現により以上の諸項目を如何 に考えるべきか。 〔6)外科的療法によって生じた肺機能の減退が 妊娠分娩に如何なる影響を与えるか。この項目に ついては別に報告するので主として第1から第5 の項目を経験例により検討してみた。 ω 化学療法の二普及した現在妊娠分娩の許容は 次の様に考えられる。妊婦の肺結核症の現状が緊 急に治療を加えなければならない病状と考えられ る蜴合,すなわち岡式病型のうち1型,H型,皿: 型,IV型, VI B型, W型及びVIIIA型では一一応中絶 を老回する必要があり,特に1型,■B型,Iff 型,IVA型,棚A型の病型では妊娠分娩の許容は 困難と考えられる。HA型, IVB型, WB型及び 田面の掛含はその撒布範囲,主病巣の性状及び大 きさにより判断すべきである。 e;化学療法を継続しながら分娩が許容できる と考えられる場合は岡式病害ではIVB型の一一部で ある。すなわちその病影が最大,小葉以下で病巣 は密在せず各病巣影は周囲の健康肺と比較的明確 に境界され,その広がりが一一一・区域以内の場合は, 化学療法を施行しながら分娩を完了せしめる方法 により良好なる結果を得ている。 ㈲ 私は分娩と同時に肋膜炎を起した3例を経 験した。これはいつれも妊娠初期ツ反応陰性であ って妊娠末期及分娩直前に湿性肋膜炎を惹起しッ 反応は強陽転を示していた。伺3例中2例は感染 源が家族内に発見されたものである。よってッ反 応陰性の妊婦には陽転発病の可能性を充分老湿す る必要がある。 (4)分娩後の悪化例3例をあげたがいつれも本 人の医学的知識の欠乏により医師の言を聞き入れ ず治療を怠ったもので,又その中2例は育児其他 労働過重及び栄養不足が大なる役割を演じたもの と云えられる。よって肺結核に対する妊娠及び分 娩による影響は病巣の状況のみでなく療養環境及 び経済生活か大なる関係を有する点も充分考慮し なければならないと考えられる。 ン反応陽性の妊婦1930名は何ら病覚を有さないに もかかわらず肺結核有所見者222%,有病者6.8% と言う実態であるから妊産婦には.血L液梅毒反応と 同様に結核に対する検査の重要性を考慮しなけれ ばならない。肺結核を有する妊婦で生児を希望す る統合は病巣の状態を工Eしく診断し適正な治療を 継続し叉生活状態も良好に進め得る環況下に置か れるか否かを充分考慮レて結該専門医と産婦人科 医の提携のも. ニに慎重に妊娠を継続分娩を終了さ せ,更に産褥中及び共後の適正な治療及び生活環 況に充分な注意を払うなれば肺結核患者の妊娠分 娩は決して憂慮の必要はないものと考えられる。 終りに臨み御指導御校閲を賜った東京女子医科大学 産婦入科柚木祥三郎教授,北里研究所高橋智広博士, 並びに御懇篤なる御指導御協力を賜った結核予防会結 核研究所小林栄二,松尾公三,黒川信雄博士に深甚の 謝意を表します。 文 献 1)藤森速水:日本臨床結核,7(12),499(昭23), 10 (10), 5エ。 (日召26) 2)藤森速水:治療,55(4),34(昭28),38(4), 487 (目召31) 3)藤森速水:日本医事新報,1566,1875(昭29) 4)藤森速水:産婦人科の世界,6(7),682(昭29), 7 (9), 61 (目召30) 5)藤森速水:産婦人科の実際,4(4),221(昭30) 6)藤森速水:臨床婦人科産科,頂0(6),373(昭31) 7)真柄正直:目本内科学会雑誌,41(8),503(昭 27) 8)岩田正道二日本臨床結核,11(2),85(昭27) 9)岸田正道:産婦入電の実際,4(1),47(昭30) 10)加来道隆:産科と婦入科,20(1),1(昭28) 11)杉本高嶺:日本産婦入域学会誌,5(3),257(昭 28) 12)林直敬:産婦歯科の世界,5(4),10(昭28) 13)小島駒夫他:結核の臨床,2(3),43(昭29) 14)坂井保雄:産科と引入科,21(7),543(昭29) 15)水野秀夫・青山千世:抗酸菌研究雑誌,10(ユ), 69・・一/73 (日召29) 16) 1日井治郎:結核,30 〔6),315(昭30) 17)佐藤英蕊:逓信医学,7(9),655(昭30) 18)齊川俊一他:産科と副耳科,23(10),31(昭31) 19)野嶽幸雄他:臨床嬬入墨産科:10(6),381(昭 31)

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参照

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