主要な研究成果
背 景
PCB(ポリ塩化ビフェニル)は、かつて絶縁油などに使用されたが、残留性や毒性から、製造と使用が禁止
された。現在、先進諸国では、環境汚染調査や PCB 含有物の無害化処理が検討されているが、その際に行う
質量分析やガスクロマトグラフ分析が煩雑かつ高価であることが問題となっている。抗原抗体反応を利用した
生物検定法は、簡易かつ安価に化学物質を検出できるため、PCB についても適用が期待されている。しかし、
多数の PCB 異性体の同時検出が困難であること、鉱油成分や溶媒により測定が妨害されることなどから、環
境試料や絶縁油中の PCB の検出に有効な生物検定法は、これまでに提案されていない。
目 的
抗原抗体反応を利用した絶縁油中 PCB の簡易かつ迅速な検定法を開発する。
主な成果
1.絶縁油からのPCBの簡易抽出法
生物検定法の確立には、油中の反応妨害成分を排除しつつ、数分間程度で PCB を抽出できる簡便な前処
理技術が必要である。PCB の簡易抽出について検討した結果、絶縁油を塩酸とジメチルスルオキシド
(DMSO)の混合物で洗浄し、DMSO で再抽出を行うことで、抗原抗体反応に適した PCB 抽出液を調製で
きた(図-1)。なお、絶縁油からの PCB の抽出率は、50%程度と計算された。
2.カネクロールを加えた模擬混入油の分析
かつて絶縁油に使われた PCB 異性体の混合物であるカネクロール(KC300 ∼ 600)4 種を含む模擬混入絶
縁油について、前述の方法で抽出液を調製した。抽出液を抗 PCB 抗体溶液で測定に最適な 1000 倍まで希釈
し、当所開発のバイオセンサー* 1
にて PCB 測定を行った(図-1)。その結果、約 5 分間で、カネクロール中
の PCB 異性体を ppb 単位で検出できた(図-2)。従って、希釈倍率から求められる検出範囲は、絶縁油中全
PCB 濃度として KC300 で 10 ∼ 1400ppm、KC400 で 6 ∼ 600ppm、KC500 で 2 ∼ 100ppm、KC600 で 2 ∼
100ppm であった。
3.PCB混入油の分析
11 種の使用済み PCB 混入絶縁油について、上述の抽出と測定を行い、質量分析により決定した全 PCB 濃
度(0.3 ∼ 32ppm)と比較した。その結果、バイオセンサー出力値と全 PCB 濃度の間には、高い相関が得
られた(図-3)。なお、出力値を基に求めた校正曲線から、検出範囲は実油中の全 PCB 濃度として 5 ∼
120ppm であった。
以上の結果から、バイオセンサーを用いた簡便かつ迅速な絶縁油中 PCB の検定法に見通しを得た。
今後の展開
さらに多数の PCB 混入絶縁油の分析を行い、絶縁油に適した校正曲線を得るとともに、質量分析計との相
関や分析精度を確認する。また、検出感度の向上を目指し、PCB の簡易抽出法を改良する。
主担当者 環境科学研究所 バイオテクノロジー領域 上席研究員 大村 直也
関連報告書 「生体機能を利用したセンシング(その 5)」電力中央研究所報告: U02032(平成 15 年 3 月)
112
バイオセンサーを用いた絶縁油中PCBの簡易迅速検出
* 1 :バイオセンサーの詳細は上記の報告書に記載。
10.先端的基礎研究/生物科学
113
0 10 20 50
0
20
40
60
80
100
質量分析による実試料中の全PCB濃度、ppm
バイオセンサーによる 実試料中の全PCB濃度、ppm
30 40
酸性
DMSO
洗浄
中性
DMSO
抽出
PCB混 入 油 PCB混 入 油
PCB抽
出液
油中P CBなし
油 中 PCB多 い
信
号値,
ボルト
0
2
4
6
0 100 200 300 400
時間 ,秒
酸性
洗浄
中性
抽出
0
2
4
6
0 200 400
PCB混入油
2分間撹拌
PCB混入油
PCB
抽出液
DMSO
DMSO
抗体溶液で1000倍希釈し,バイオセンサーで測定
信号値,ボルト
100 300
時間,秒
油中PCBなし
油中PCB多い
相対信号値,%
0
20
40
60
80
100
カネクロール500
カネクロール600
カネクロール400
カネクロール300
カネクロール添加濃度,ppb
10-2
10-1
100
101
102
103
104
図-1 測定の操作
絶縁油を酸性DMSOで洗浄した後、中性DMSOを加え
てPCBを抽出する。この抽出液を抗PCB抗体で1000倍
に希釈し、バイオセンサーで測定する。
PCBがない場合は、大きな信号値が得られ、PCBが多
い場合は、信号値が小さい。
図-2 模擬PCB混入油の測定
P C B 異 性 体 の 混 合 物 で あ る カ ネ ク ロ ー ル
(KC300∼600)4種を含む模擬混入油の測定
例。縦軸のセンサーの信号値から、各種カネ
クロールの濃度を読みとることができる。
図-3 PCB混入絶縁油における質量分析との
相関
PCB混入絶縁油におけるバイオセンサーの測
定値と質量分析により決定した全PCB。相関
係数は0.96であった。