日中関係における集合的屈辱感が両国間の態度に及ぼす影響 [ PDF
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(2) 名である (男性 79 名、 女性 63 名、不明 3 名、 平均年齢 25.63. 調査対象:全ての調査協力者の 280 名の中国国内の大学. 歳)。分析項目に欠損値が見られた回答者を削除して、144. 生のうちに、158 名の回答を有効回答とした。性別の内訳. 名のデータを分析した。. は男性 83 名、女性 66 名であり、平均年齢は 21.46 歳 (19. 調査期間:2010 年 12 月 28 日から 2011 年 1 月 16 日まで の約 3 週間であった。. ~24 歳) であった。153 名の調査協力者のうち、4 名は性 別不明、年齢不明であった。. 調査方法:個別自記入形式の質問紙で実施された。筆者 自身、または在校留学生を通し、個別配布個別回収形式で. 調査期間:2011 年 11 月 4 日から 2011 年 12 月 6 日までの 約一カ月間であった。. 実施された。. 調査方法:サーベイモンキーというウェブサイトで質問. 分析項目:愛国心 (4 項目,α=.811)、国家主義 (5 項目, α=.701)、象徴的脅威 (4 項目,α=.759)、現実的脅威 (4. 紙調査を実施した。調査協力者はウェブサイトで調査を受 けると、質問紙が自動的に回収された。. 項目,α=.749)、集合的屈辱感 (3 項目,α=.579)、戦争支 持 (3 項目,α=.641). 分析項目:ゼロサム信念 (3 項目,α=.878)、集団ナルシ シズム (5 項目,α=.777)、象徴的脅威 (4 項目,α=.832)、. 結果と考察 1. 現実的脅威 (4 項目,α=.743)、集合的屈辱感 (7 項目,. 図 1 は本調査の結果に基づくモデル図を示す。統計パッ. α=.957)、戦争支持 (3 項目,α=.721). ケージ Amos17 を用い、仮説モデルをもとに共分散構造分析. 結果と考察 2. を行った。適合度指標によって、予測モデルでは十分な適 2. 図 2 は本調査の結果に基づくモデル図を示す。統計パッ. 合度が得られた [χ (3)=.866, p=.834, GFI=.998, AG-. ケージ Amos17 を用い、仮説モデルをもとに共分散構造分析. FI=986, RMSEA=.000]。愛国心は現実的脅威の認知を下げた. を行った。適合度指標によって、予測モデルでは十分な適. が (β=-.31,p<.01)、国家主義は現実的脅威の認知に影響. 合度が得られた [χ2(4)=1.433, p=.838, GFI=.997, AG-. を及ぼさなかったと示す。また、愛国心と象徴的脅威の間. FI=984, RMSEA=.000]。ゼロサム信念から現実的脅威への影. の有意な関連が見えず、有意な傾向が見られた (β=-.16,. 響は有意であり (β=.51,p<.001)、現実的脅威が集合的屈. p<.10)。国家主義から戦争支持への影響を高めた (β=.19,. 辱感としての媒介効果も見えた (β=.29,p<.01)。ゼロサム. p<.05)。現実的脅威 (β=.33, p<.001) と象徴的脅威 (β. 信念は象徴的脅威を高めた (β=.48,p<.001) が、集合的屈. =.18, p<.05) は集合的屈辱感への媒介効果が見えた。最後. 辱感への象徴的脅威の媒介効果が見いだされなかった。集. に、現実的脅威 (β=.20, p<.05) と集合的屈辱感 (β=.24,. 団ナルシシズムは集合的屈辱感への影響が見えなかったが、. p<.01) は戦争支持を高めたが、象徴的脅威 (β. 戦争支持を高めた (β=.18,p<.05)。集合的屈辱感は戦争支. =-.19,p<.05) は戦争支持を下げたと示唆された。. 持を高めた (β=.30,p<.001)。 e1. e1 ** 愛国心 -.31. -.16. .14. .55***. e3. 現実的 脅威. †. 象徴的 脅威. .03. .33*** .18*. 集合的 .24** 戦争 支持 屈辱感. .19* 正の影響. e2. p<.001. p<.01. **. 負の影響. p<.05. *. p <.10. †. 図 1 留学生集合的屈辱感パス解析. 研究 2. 脅威. .48***. -.14 -.04. 集団ナル. e3. 現実的. 信念. .20*. -.19*. 国家主義. ***. ゼロサム .51***. e4. 象徴的. .12. .29** .08. e4. .04. 集合的. .30***. 戦争 支持. 屈辱感. .18*. 脅威. シシズム e2. p<.001. ***. p<.01. **. p<.05. *. 図 2 中国人集合的屈辱感パス解析. 研究 3 方法. 予備調査に基づき、集合的屈辱感の尺度を修正し、新た. 調査対象:全調査協力者 111 日本国内大学の学生のう. な尺度を作った。研究 2 と研究 3 の仮説モデルは同じであ. ちに、91 名が有効調査協力者となった。性別の内訳は男性. った。. 35 名、女性 54 名で、平均年齢は 21.14 歳 (19~24 歳) で 方法. ある。91 名の調査協力者の中に 2 名は性別不明、年齢不明.
(3) 因子については日本人 (M=2.18) よりも中国人 (M=3.33). である。 調査期間:2011 年 11 月 4 日から 2011 年 12 月 25 日まで、. が有意に高い値を示した (t=-10.73, p<.001)。 「現実的脅 威」因子については、中国人 (M=2.42) よりも日本人. 約2カ月間であった。 調査方法:サーベイモンキーというウェブサイトにおい. (M=3.07) の得点が高かったと確認された (t=5.80,. て質問紙調査を実施した。調査協力者はウェブサイトで調. p<.001)。最後に、 「戦争支持」因子については日本人. 査を受けると、質問紙が自動に回収された。. (M=2.60) よりも中国人 (M=3.84) が高い値を示した. 分析項目:ゼロサム信念 (3 項目,α=.621)、集団ナルシ シズム (5 項目,α=.832)、象徴的脅威 (4 項目,α=.804)、 現実的脅威 (4 項目,α=.685)、集合的屈辱感 (7 項目,. (t=-10.33, p<.001)。 図 4 日中間比較のt検定の結果. ***. ***. ***. ***. α=.937)、戦争支持 (3 項目,α=.768)。 結果と考察 3 共分散構造分析による仮説の検証:図 3 は本調査の結果に 基づくモデル図を示す。統計パッケージ Amos17 を用い、仮 説モデルをもとに共分散構造分析を行った。適合度指標に よって、予測モデルでは十分な適合度が得られた [χ 2. (4)=4.671, p=.323, GFI=.983, AGFI=913, RMSEA=.043]。. ゼロサム信念から現実的脅威への影響は有意であったが (β=.41,p<.001)、現実脅威が集合的屈辱感としての媒介効 果が見いだされなかった。ゼロサム信念は象徴的脅威を高 め (β=.37,p<.001)、集合的屈辱感への象徴的脅威の媒介 効果が見えた (β=.48,p<.001)。集団ナルシシズムは象徴. パス解析の差の検定結果:日中両集団におけるモデルの適. 的脅威(β=.26,p<.01) と現実的脅威 (β=.32,p<.001) を. 合度 [χ2(4)=4.671, p=.323, GFI=.983, AGFI=913,. 高めた。集合的屈辱感は戦争支持を高めていた (β. RMSEA=.043] を確認した上で、モデルの各推定値に関する. =.23,p<.05)。また、現実的脅威は戦争支持に直接な影響を. 集団間の差異を検討した。統計パッケージ Amos17 を用い、. 与えていた (β=.25,p<.05)。. 多母集団パス解析の差の検定を行った。結果によれば、集. e1. 団ナルシシズムから現実的脅威へのパス係数 (-3.192) と. ゼロサム .41*** 信念. 脅威. .37***. 象徴的脅威から集合的屈辱感へのパス係数 (-2.497) の絶. e3. 現実的. e4 .25*. .09. 集合的 .32***. .21. 象徴的. .48***. 脅威. 集団ナル .26**. .23*. 屈辱感. 戦争 支持. .16. 総合考察 研究1では、愛国心と国家主義に着目し、脅威の認知を 媒介として集合的屈辱感との関連を検討する目的で、中国 基づき、仮説と調査項目を修正し、研究 2 と研究 3 を行っ. e2. p<.001. ていた。他のパス係数の間に差は見られなかった。. 人留学生を対象として調査を行なった。次に、その結果に. シシズム. ***. 対値が 1.96 以上であり、5%水準で差があったことを示し. p<.01. **. た。研究 2 と研究 3 は大学在学の中国人と日本人を対象と. p<.05. *. 図 3 日本人集合的屈辱感パス解析. t検定による日中間比較:分析対象者を中国人 (n=153) と日本人 (n=91) の 2 群に分け、t 検定を行った。 本研究で扱った全ての因子について有意差が確認された。. して、ゼロサム信念、集団ナルシシズムに着目し、脅威の 認知を媒介として、集合的屈辱感との関連を検討した。ま た、先行研究によれば、個人レベルでは屈辱感は攻撃行動、 憂うつ、自殺行為などの結果を導きやすいとされてきた。 しかし、集団レベルになると、内集団メンバーが外集団の. 図 4 に示したように、 「象徴的脅威」 、 「集合的屈辱感」は日. 攻撃意図を意識すれば、集合的屈辱感が自衛的戦争への支. 中間の有意差が見られなかったが、他の因子について日中. 持を高め、回避行動を促進しないと考えた。. 間の有意差が見られた。なお、 「ゼロサム信念」因子につい. 結果を見ると、愛国心は共感性、寛容性と関連する国家. て、中国人 (M=2.90) よりも日本人 (M=2.09) が有意に高. アイデンティティである。愛国心を持つ人は外集団を寛. い値を示したが (t=6.87, p<.001)、「集団ナルシシズム」. 容・理解できるため、外集団へのネガティブな感情も生じ.
(4) にくいと考えられる。また、集団間の価値観、考え方が違. 集団ナルシシズムは脅威をもたらさない外集団に対して. う時に、攻撃行動よりも相手との接触を回避する傾向が強. 攻撃性がなかったが、脅威をもたらす外集団に対して攻撃. いと考えられる。それは、象徴的脅威が戦争支持を弱化す. 性を高める。Ginger ら (2008) は、ナルシシズムの高い人々. るという結果から推察できる。しかし、この象徴的脅威の. は侮辱行為に対し、屈辱感を感じず、直接的な攻撃の反応. 認知は集合的屈辱感を引き起こすと、外集団への敵意を増. を導くと考えた。本章の研究 2 では、この観点を支持した。. 加させ、戦争支持のような攻撃行動を高めると考えられる。. しかし、Zavala (2009) は集団ナルシシズムと攻撃行動の. この調査では、愛国心、国家主義は集合的屈辱感の生起に. 関連は通常外集団の脅威の認知と内集団への侮辱の認知を. 影響を与えないと示された。この結果に基づき、新たな仮. 媒介し、攻撃行動を高めると主張した。研究 3 では、この. 説を立て、研究 2 と研究 3 を行った。. 観点も支持した。すなわち、集団ナルシシズムの影響につ. 研究 2 と研究 3 の仮説は同じであったが、調査対象は違. いて、中国人と日本人では異なる結果が見られた。特に、. った。研究 2 では、中国人を対象として調査を行った。調. 集団ナルシシズムから現実的脅威の認知へのパス解析の差. 査結果により、ゼロサム信念は現実的脅威を媒介して集合. 検定では有意差が見られた。集団ナルシシズムは自己愛を. 的屈辱感を引き起すことが明らかになった。集団ナルシシ. 強調するアイデンティティであるため、自己防衛意識が強. ズムから戦争支持への影響が見られた。. い。中国人のナルシシストは日本からの攻撃意図を意識す. 研究 3 の結果により、ゼロサム信念と集団ナルシシズム. る時、第一反応は日本を攻撃することであろう。日本の場. は象徴的脅威を媒介し、集合的屈辱感を高めるが、現実的. 合は、中国からの攻撃意図を意識すると、まず脅威の認知. 脅威の媒介効果が見えなかった。また、研究 1 と研究 2 と. を生じ、集合的屈辱感を喚起する。そして、攻撃的な政策. 同じように、集合的屈辱感は戦争支持に正の影響を与えた。. を支持するようになるというプロセスをたどると考えられ. ゼロサム信念は中国人、日本人ともに脅威の認知を高 めていた。なぜなら、ゼロサム信念は集団間の対立的で共. る。 本研究では、集合的屈辱感は戦争支持を高めると示唆. 存できない信念であり、このような信念は集団間の対立的、. された。なぜなら、外集団が実際に内集団への脅威になる. 競争的関係を導き、集団間の緊張感、不安、脅威感をもた. 時に、戦争支持は内集団の尊厳を守る基本的な社会的機能. らすと考えられる。また、ゼロサム信念は現実的脅威を媒. からであると考えられる。. 介して中国人の集合的屈辱感を引き起こしでた。現実的脅. 日本人のゼロサム信念と現実的脅威の認知は中国人より. 威は象徴的脅威より知覚されやすい。例えば、両国の間に. 高かった。なお、中国人の集団ナルシシズムと戦争支持は. 領土紛争があったら、集団メンバーは脅威を知覚しやすく. 日本人より高かった。両国の友好な関係を構築するため、. なる。その時、現実的脅威は中国人に被害を感じさせ、集. 日本の場合はゼロサム信念を下げ、日中両国の関係を見直. 団の尊厳、面子の問題まで上昇し、集合的屈辱感を喚起し、. す必要がある。中国の場合は、攻撃性を下げ、柔軟な政策. 戦争支持を導くと考えられる。他方、日本人の場合は、戦. によって日本人が中国に対する認知、イメージを変える必. 争支持は基本的に低いが、それでも直接的な戦争支持を導. 要があるだろう。. くのは現実的脅威の認知であることがわかった。中国の場. 主要引用文献. 合は、戦争支持へのパスは集合的屈辱感が強力である異な. 薊 理津子(2008). 恥と罪悪感の研究動向 感情心理学研究,. る結果である。. 16(1), 49-64.. また、中国人の場合は象徴的脅威から集合的屈辱感へ. Esse, V.M., Dovidio, J.F., Jackson, L.M.,&Armstrong,. の影響が見られなかったが、日本人の場合は象徴的脅威が. T.L.(2001). The immigration dilemma: The role of. 集合的屈辱感を喚起すると示された。パス解析の差検定で. perceived group competition, ethnic prejudice, and. もこの差が見られた。つまり、日本人と中国人の間に影響. national identity. Journal of Social Issues, 57,. プロセスが大きく異なる可能性がある。日本人の場合は、. 389-412.. 現実的脅威は集合的屈辱感に繋がらないが、象徴的脅威は. Ginges, J. and Atran, A.(2008). Humiliation and Inertia. 繋がっていた。日本の一員としてのプライド、尊厳が犯さ. Effect: Implications for Understanding Violence and. れ、集合的屈辱感が喚起されると考えられる。他方で、中. Compromise in Intractable Intergroup Conflicts.. 国人の場合は、現実的脅威が集合的屈辱感に繋がっていた. Journal of Cognition and Culture8, 281-294.. が、象徴的脅威繋がっていない。つまり、日本から価値観・. Lindner, E. G. (2006b). Making enemies: Humiliation and. 文化などの脅威を認知する時に、集団の尊厳、面子の問題. international conflict. Praeger Security Interna-. まで上昇しなかったと考えられる。. tional..
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