交通学研究 第 63 号 (研究論文)
鉄道輸送サービスの高付加価値化に関する定量的研究
―経験価値を中心とする観光列車の価値属性に着目して―
藤田 知也(大阪市立大学大学院)
1 要旨 本研究では観光列車料金から鉄道輸送サービスの高付加価値化を達成する要因を明らかにすることを目的として、ヘドニッ ク・アプローチを用いて実証分析を行った。本研究より、車内空間の快適性を高めることに加え、SL 列車やビュッフェ・カウ ンター等の車内販売設備の設置、グッドデザイン賞の受賞に示される高いデザイン性が高付加価値要因として機能しているこ とが示唆された。事業者属性が有意に働いているケースもあることから、地方鉄道事業者など経営資源に乏しい事業者におい ては、同属性がブランド属性と見做せるようになるソフト面での取り組み等も今後求められると言える。 Key Words: 観光列車、鉄道輸送サービス、高付加価値化、経験価値、ヘドニック・アプローチ 1.はじめに 1.1 研究目的 本研究の目的は、観光列車で見られている鉄道輸送サービスにおける高付加価値化について、これを達成する 要因を定量的に明らかにすることである。 鉄道は派生的需要という特徴を有しており(山内・竹内、2002)、人々はあらゆる交通サービスを通勤・通学、 買い物といった目的を達成するための手段として用いる。しかし我が国では人口減少が見られ始めており、今後 もこの流れは続くとされていることから、従来のような地域輸送や都市間輸送を中心とした輸送サービスの提供 だけでは鉄道事業の衰退を免れず、現に、地方鉄道事業者を中心に廃線など鉄道事業の経営問題が取り沙汰され ている。廃線問題はJR や大手私鉄などでも見られることから、鉄道の維持・振興には従来の鉄道輸送サービスに 加えて新たな鉄道の価値の提供が必要と言える。 こうした中、観光目的の定期外利用客を獲得することは、鉄道事業者にとって今後の経営戦略を考える上で極 めて重要な観点であり、実際に多くの鉄道事業者は、観光客の誘致を沿線外からの利用客を獲得するための手段 の1つとして考えている(新納、2017)。観光客を誘致するに当たり、鉄道そのものを観光資源化し需要を創出す るという鉄道産業におけるイノベーションが見られはじめており、その代表例が「観光列車」である。原田(2015) はこうした動きを交通のコンテクスト転換として捉えているように、従来の鉄道輸送サービスとしての鉄道とは 異なる価値を造成しているものと言える。そしてこの観光列車は多くの鉄道事業者で導入されており、SL やトロ ッコ列車だけではなく、豪華さを売りにしたクルーズトレインなど、観光列車の種類も様々である。このように 我が国の鉄道事業者においては観光列車ブームが起こっている。 一般に鉄道輸送サービスは安全性・速達性といった要素で品質が規定されると考えられるが、観光列車に備わ 2019 年11 月17 日初原稿受理、2020 年2月1日採択。査読者の指摘を受け、研究報告会発表時のタイトルに副題を付けた。 1 問合せ先。〒558-8585 大阪市住吉区杉本3-3-138 大阪市立大学大学院創造都市研究科 博士(後期)課程 藤田知也。 E-mail: [email protected]っている価値を捉えることによって観光列車を通じた鉄道輸送サービスの高付加価値化に有用と考えられる価値 属性が明らかとなり、高付加価値化戦略を達成する上での示唆を得られるものと思われる2。しかしながら、この 点について定量的に明らかにした研究は見られない。そこで本研究では財・サービスを様々な属性の集合体とし て考えるヘドニック・アプローチの考え方を用いて、観光列車の価値属性の把握を試みる。 1.2 先行研究 鉄道輸送サービスの高付加価値化に着目した研究として、藤田・榊原(2017)は JR 九州の鉄道事業戦略を分析 し、観光列車導入を含めた同社の鉄道事業戦略において「経験価値3」が重要なファクターとして機能しているこ とを明らかにした。中村・小長谷(2014)は「見る楽しみ」「食べる楽しみ」「買う楽しみ」の観光要素に依拠し た上で観光列車を類型化し、「食」「土産」の開発余地があること、JR 九州の観光列車がより多くの観光要素を兼 ね備えていることを示した。米田(2015)は観光列車「伊予灘ものがたり」を事例に、乗客と沿線住民等による 手振りという非言語コミュニケーションが観光価値を生成していると論じている。 このように、観光要素による鉄道輸送サービスの高付加価値化というコンテクストで分析がなされた先行研究 はあるものの、定性的な分析に留まっており、どのような要素にどの程度の価値を有しているかを定量的に把握 した研究は見られない。つまり、本研究によって、観光列車の導入を通じた鉄道輸送サービスの高付加価値化に 有用な属性を定量的に捉えることができ、鉄道事業者の経営戦略や鉄道事業の振興に有益な知見をもたらすこと が可能になると考えられる。 また、経験価値による高付加価値化に関する研究蓄積も多く見られているが、小売業における経験価値共創モ デルを研究した近藤(2013)や、伝統芸能・食などの「日本型クリエイティブサービス」における価値共創モデ ルの類型化を行った原・岡(2013)などマネジメントに着目した研究が多数を占めているのが現状である。長沢・ 西村(2015)が指摘しているように、高価格(高付加価値化)戦略のマネジメントは定量的なデータからは得ら れない。しかしながら、定量的に示している研究が欠如していることは間違いなく、鉄道事業において経験価値 による高付加価値化が行われていることを踏まえると、定性的研究が主流の経験価値研究においても、付加価値 部分を定量的に明らかにすることは大きな意義を持つものと思われる。 先述のように本研究ではヘドニック・アプローチによる分析を行うが、付加価値を同手法によって明らかにし た研究として、住宅サービスにおけるデザイン性や地域ブランドといった質的側面について評価した小西他(2007) が挙げられる。よって、鉄道輸送サービスにおいても同様の手法で価値属性の把握が可能だと考えられる。 1.3 本論文の構成 本研究は以下の構成で議論を進めていく。2では観光列車について概説し、3でヘドニック・アプローチによ る実証分析を実施する。4では本研究から得られた知見やインプリケーションについてまとめた後、今後の課題 を述べる。 2.観光列車とは 本研究は各鉄道事業者の観光列車を対象に分析するため、はじめに観光列車の定義を行う必要がある。例えば 中村・小長谷(2014)は「鉄道輸送の本来持つ普遍性を持った機能美を追求すると同時に、運行する地域のアイ 2 観光列車を従来の鉄道輸送サービスと全く異なるものとする見方も可能であるが、観光列車の導入が沿線地域(観光地)へ の移動を主目的とした上での交通機関選択に変化をもたらすケースも考えられる。この点を考慮すると、観光列車の導入を鉄 道輸送サービスの高付加価値化と捉えて分析を進めることで、交通機関選択に影響を与える価値属性を明らかにすることがで きるという利点がある。
3 Pine and Gilmore(1999)は、「経験(Experience)」を「コモディティ」「製品」「サービス」に次ぐ第4の経済価値とした。経済
価値としての経験は、思い出に残るという特性を持ち、経験を買う人は企業が提供してくれる“コト”に価値を見出すと主張 している。
デンティティを洗練された形でデザインした列車」と、JTB 総合研究所は「内外装を凝らし、味覚を楽しみなが ら旅行が出来るなど、乗ること自体を目的にした列車のこと」とそれぞれ定義している4。また、新納(2017)や 立松(2006)は鉄道そのものが観光資源として機能すると論じていることも踏まえ、本研究では、①観光要素を 内包している(観光放送や文化資料の展示など)、②内装・外装のデザインが洗練された特徴的なものである、③ 固有の愛称を持ち、専用車両で運行している、④運賃以外の料金を収受している5、⑤観光客輸送に特化している 鉄道路線を走行している列車及び発駅に帰着する形式の列車は含まない6、の性質を有し、現存している列車を観 光列車と定義する。なお、表1には本研究におけるサンプルとなる観光列車を記載している。 表 1 本研究のサンプルとなる観光列車(2019 年4月現在) ※「いさぶろう・しんぺい」は専用車両が導入された2004 年を、「ストーブ列車」はストーブ列車料金が新たに設定された2007 年をそれぞれ導入年としている。 3.実証分析 3.1 使用するモデル ヘドニック・アプローチとは、財・サービスを様々な属性の集合体として捉える考え方であり7、多くの実証研 究が見られている。ヘドニック・アプローチでは市場が競争下にあることが前提となっていることから、地域独 占的な性質を持つ鉄道事業では適さないとも考えられるが、料金については、JR や大手私鉄を中心に既存の料金 の枠組みを用いて観光列車料金が設定されていることも多い。そして、使用されるその枠組みは一律ではなく、 指定席料金・特急料金・グリーン料金などが適宜組み合わされており、加えて、柔軟な価格設定が可能な旅行商 品としての販売も近年は多く見られている。また、一度設定された料金がその後変更されているケースもあるこ 4 https://www.tourism.jp/tourism-database/glossary/tourist-train/(2019 年8月10 日最終アクセス) 5 本研究においては観光列車料金を分析することからこの条件を設定した。 6 本研究は鉄道輸送サービスの高付加価値化を明らかにすることを目的としているため、この条件を設定した。 7 ヘドニック・アプローチの理論的背景については、白塚(1994)や肥田野(1997)等が詳しい。 運行会社 導入年 愛称 運行会社 導入年 愛称 大井川鐵道 SLかわね路 新金谷 千頭 京都丹後鉄道 丹後あかまつ号 天橋立 西舞鶴 JR西日本(国鉄) SLやまぐち 新山口 津和野 JR四国 しまんトロッコ 宇和島 窪川 南阿蘇鉄道 ゆうすげ号 立野 高森 肥薩おれんじ鉄道 おれんじ食堂 新八代 川内 秩父鉄道 SLパレオエクスプレス 熊谷 三峰口 JR東日本 とれいゆつばさ 福島 山形・新庄 JR東日本 SLみなかみ 高崎 水上 JR東日本 SL銀河 花巻 釜石 JR北海道 くしろ湿原ノロッコ 釧路 塘路 JR東日本 越乃Shu*kura 上越妙高 十日町 JR九州 ゆふいんの森 博多 由布院 しなの鉄道 ろくもん 長野 軽井沢 真岡鉄道 SLもおか 下館 茂木 大井川鐵道 SLトーマス号 新金谷 千頭 JR西日本 SL北びわこ号 米原 木ノ本 京都丹後鉄道 丹後くろまつ号 天橋立 西舞鶴 JR東日本 リゾートしらかみ 秋田 弘前・青森 JR四国 伊予灘ものがたり 松山 伊予大洲・八幡浜 JR北海道 富良野美瑛ノロッコ 旭川 美瑛・富良野 JR東日本 おいこっと 長野 十日町 わたらせ渓谷鐵道 トロッコわたらせ渓谷 大間々 足尾 JR東日本 フルーティアふくしま 郡山 会津若松 JR西日本 奥出雲おろち 木次 備後落合 小湊鐡道 里山トロッコ 上総牛久 養老渓谷 JR東日本 SLばんえつ物語 新潟 会津若松 大井川鐵道 SLジェームス号 新金谷 千頭 会津鉄道 お座トロ展望列車会津浪漫 会津若松 会津田島 JR西日本 花嫁のれん 金沢 和倉温泉 JR北海道 SL冬の湿原号 釧路 標茶・川湯温泉 JR西日本 ベル・モンターニュ・エ・メール 新高岡・高岡 氷見・城端 JR東日本 きらきらうえつ 新潟 酒田 のと鉄道 のと里山里海 七尾 穴水 伊予鉄道 坊っちゃん列車 道後温泉 松山市・古町 JR九州 或る列車 大分-日田 佐世保―長崎 JR九州 いさぶろう・しんぺい (熊本)・人吉 吉松 西武鉄道 旅するレストラン 52席の至福 池袋・新宿 西武秩父 JR九州 はやとの風 鹿児島中央 吉松 JR東日本 現美新幹線 越後湯沢 新潟 JR西日本 瀬戸内マリンビュー 三原 広島(呉線経由) JR東日本・伊豆急行 伊豆クレイル 小田原 伊豆急下田 JR四国・JR西日本 瀬戸大橋アンパンマントロッコ 岡山 高松 富士急行 富士山ビュー特急 大月 河口湖 津軽鉄道 ストーブ列車 津軽五所川原 津軽中里 えちごトキめき鉄道 雪月花 上越妙高 糸魚川 JR東日本 リゾートみのり 仙台 新庄 長良川鉄道 ながら 美濃太田 郡上八幡・北濃 富士急行 富士登山電車 大月 河口湖 近畿日本鉄道 青の交響曲 大阪阿部野橋 吉野 南海電鉄 天空 橋本 高野山(極楽橋) JR西日本 ラ・マルせとうち 岡山 宇野 JR九州 SL人吉 熊本 人吉 JR四国 四国まんなか千年ものがたり 多度津 大歩危 JR九州 海幸山幸 宮崎 南郷 JR九州 かわせみやませみ 熊本 人吉 JR東日本 リゾートビューふるさと 長野 南小谷 東武鉄道 SL大樹 下今市 鬼怒川温泉 富山地方鉄道 アルプスエキスプレス 電鉄富山 宇奈月温泉 東急・伊豆急行 7+(52<$/(;35(66 横浜 伊豆急下田 JR九州 指宿のたまて箱 鹿児島中央 指宿 JR東日本 +,*+5$,/ 小淵沢 小諸 JR九州 あそぼーい! 熊本 宮地 JR西日本 ○○のはなし 新下関 東萩 JR九州 A列車で行こう 熊本 三角 JR四国 志国高知 幕末維新号 高知 窪川 JR東日本 Pokemon with youトレイン気仙沼号 一ノ関 気仙沼 長良川鉄道 川風 美濃太田・関 郡上八幡 わたらせ渓谷鐵道 トロッコわっしー 桐生 間藤 近畿日本鉄道 つどい 近鉄名古屋 湯の山温泉
JR東日本 72+2.8(027,21 八戸 久慈 JR西日本 あめつち 鳥取 出雲市 近畿日本鉄道 しまかぜ 難波・京都・名古屋 賢島 西日本鉄道 7+(5$,/.,7&+(1&+,.8*2 西鉄福岡 太宰府・大牟田
平成筑豊鉄道 ことこと列車 直方 行橋
とから、観光列車料金は市場価格に近い値が得られるものと考える8 9。 白塚(1997)によると、ヘドニック価格関数の推計は、観察された価格を被説明変数に、品質に影響を与える 諸特性を説明変数として選択し、定数項と誤差項を入れた形で回帰分析を行うとしている。推計するに当たって、 適切な関数形の選択が必要となるが、ヘドニック価格関数は諸特性に関する市場の需給均衡価格曲線とされるた め、関数形のアプリオリな理論的制約は存在せず、実証的観点から適宜のものを選択すればよいとされている(白 塚、1994)。先行研究の多くでは対数変換を行った半対数型または両対数型が用いられていることから、本研究に おいてもそれに倣い、以下のモデルを用いて推計を行う10。 ln𝑃𝑃𝑖𝑖= 𝛼𝛼 + 𝛽𝛽ln𝐾𝐾𝑖𝑖+ 𝛾𝛾ln𝐶𝐶𝑖𝑖+ 𝜇𝜇ln𝑌𝑌𝑖𝑖+ ∑ 𝛿𝛿𝑗𝑗 18 𝑗𝑗=1 𝐷𝐷𝑖𝑖,𝑗𝑗+ 𝜀𝜀𝑖𝑖
𝑃𝑃
𝑖𝑖 は観光列車i の料金、𝐾𝐾
𝑖𝑖 は観光列車i の運行距離、𝐶𝐶
𝑖𝑖 は観光列車i の車両あたり定員数11、𝑌𝑌𝑖𝑖 は観光列 車i の運行年数12、𝐷𝐷
𝑖𝑖,𝑗𝑗 は観光列車i の第 j 番目の属性、ε は誤差項をそれぞれ表している。料金と運行距離は観 光列車i の両端駅間(即ち始発駅から終着駅)の数値を採用しており、JR の特急料金については通常期の指定席 料金としている13。なお、1列車で複数の等級が設定されている場合は下位等級の料金を14、旅行商品で販売され ている等、運賃と料金がセットになっている場合は、当該観光列車の運行区間の普通運賃額を差し引いた値をそ れぞれ採用している。また、本研究では基本的には1列車1サンプルとしているが、列車によっては既存の料金 枠組みを活用した観光列車料金と旅行商品が併売されているように、複数のプランが設定されているケースがあ る。この場合に限り、1列車複数サンプルを認めているため、75 種類の観光列車に対してサンプル数は 90 とな っている。 ダミー変数として処理している観光列車の属性として、非日常を楽しめる列車の代表格と考えられる「SL」属 性と「トロッコ」属性、車内設備として物販や飲食物の提供を行っている「ビュッフェ・カウンター」、風景を楽 しむための「展望スペース」、沿線地域の文化・民俗資料等を展示している「文化資料の展示・上演」、アニメキ ャラクターとのタイアップを示す「キャラクター」、デザインに対する価値を示す「デザイン性1~4」をそれぞ れ設定した。なお、デザイン性の概要については表2に記載している。 運行距離、SL、トロッコ、ビュッフェ・カウンター、 展望スペース、文化資料の展示・上演、キャラクター、 表 2 デザイン性属性一覧 デザイン性では正の符号が想定される。車両あたり定員 数に関しては、定員が減るほど車内での1人あたり面積 が増えることから快適性を表していると考えられるため 負の符号が、運行年数についても新しいほど(運行年数 が短いほど)観光列車の魅力が高いと考えられることか 8例えば「現美新幹線」は運行当初、旅行商品として販売が主であったが、2019 年8月現在は指定席特急料金或いは自由席特 急料金で乗車可能となっており、「SL トーマス・ジェームス号」は当初乗車券(普通運賃は1,810 円)に加えて 1,000 円の追 加で乗車できたが、2019 年夏季は3,000 円で乗車券がセットとなり、フリー切符と組み合わせての乗車に制約がかかるように なっている。 9加えて、近年はネット予約割引など既存の料金の枠組みよりも安価で特急列車等を利用できることからも、通常の鉄道輸送 サービスにおいても従来に比べて市場価格に近い料金になってきているものと思われる。 10 太田(1980)、白塚(1994)は、対数変換を行った関数形が選ばれる理由として、推計及び解釈が容易であることを挙げて いる。 11 基本的には1両あたりの平均定員数だが、編成内で等級が複数ある場合、当該等級で利用可能な車両数で除した平均定員数 としている(例えばSL ばんえつ物語は7両編成だが、うち1両はグリーン車のため普通車の定員を6で除している)。 12 当該観光列車の現行車両の運行開始からの年数を採用している。なお、対数変換するため運行初年を1としている。 13 但し、現美新幹線については主たる設備が自由席扱いのため、新幹線自由席特急料金を採用している。 14 したがって、SL ばんえつ物語やSL やまぐちは普通車指定席料金を採用している。 概要 デザイン性1 水戸岡鋭治氏デザインの列車(2011年まで) デザイン性2 水戸岡鋭治氏デザインの列車(2012年以降) デザイン性3 奥山清行氏デザインの列車 デザイン性4 グッドデザイン賞受賞列車ら負の符号がそれぞれ予想される。 水戸岡鋭治氏が監修を務めた観光列車のデザイン属性については、2011 年を境にそれ以降は JR 九州のみなら ず各鉄道事業者においても同氏がデザインを担当した観光列車が増加し始めてきたことから、表2にあるように 2011 年まで(デザイン性1)と 2012 年以降(デザイン性2)に分けている15。2011 年までは他に同様の内装を持 つ列車が殆ど見られないことから、デザイン性の価値 が高く見られる一方、それ以降においては同氏の監修 表 3 基本統計量(1) した観光列車がすでに日本各地を走行していたため、 当該属性の価値が前期と比較し低下する可能性が考え られる。したがって先述した通り予想符号は、デザイン 性1・2ともに正ではあるが、後期は前期よりも小さい 値となることが想定される。 小西他(2007)が地域ブランド属性を取り入れたように、本研究においても事業者属性が何らかの傾向を見せ る可能性が考えられる。そこで、事業者別で見た場合に最も多くの観光列車を導入しているJR 東日本を基準と したうえで、JR 北海道、JR 西日本、JR 四国、JR 九州に加え、大手私鉄(西武、東武、東急、南海、近鉄、西鉄)、 地方鉄道(JR 各社及び大手私鉄に属さない鉄道事業者)に区分した事業者属性(計6種)を設定している。 また、観光列車には、旅行商品として車内で提供される食事がセットとなった形で販売されているケースもあ ることから、そのような場合は食事代金に該当する部分が料金に反映されている。この影響を取り除くため、ラ ンチ・ディナーと軽食(カフェメニュー等)のダミー変数を設定している。これらの予想符号は全て正である。 なお、基本統計量については表3・表4に記載している。 表 4 基本統計量(2) 3.2 分析・考察 分析結果を表5に示している16。多重共線性の可能性を見るためにVIF を算出したところ、10 を超える説明変 数は見られなかった。自由度修正済み決定係数は0.898 と非常に説明力の高い結果と言える。想定した符号通り で有意となった変数は運行距離、車両あたり定員、SL、ビュッフェ・カウンター、デザイン性4(グッドデザイ ン賞)、軽食(カフェメニュー等)、ランチ・ディナーである。この他、事業者エリア属性としてJR 九州、地方鉄 道についても正で有意な結果が得られている。 車両あたり定員数は負で、ビュッフェ・カウンター属性は正でそれぞれ有意になったことから、車内空間の快 適性・魅力が高いほど価値が見られているものと思われる。 SL 属性は1%水準で有意となった。今や前時代的な交通手段といえる SL は乗車機会が限られているため、大 きな経験価値を有していると考えられるが、その価値の存在が定量的にも示唆されている。2017 年度に入り、東 15 同変数については、導入時期を考慮せず水戸岡氏デザインの列車や地方鉄道における同氏デザインの列車でのダミー変数の 投入も試みたが、VIF が10 を超え多重共線性の可能性が否定できないことから導入時期で区分した組み合わせを採用した。 16 Breusch-Pagan 検定の結果、5%水準で均一分散は棄却されなかったが、p 値が0.067 と極めて小さかったことから頑健標準 誤差での有意性判定も行ったところ、5%水準で有意となった変数に差異は生じなかった。 属性名 ダミー比率 属性名 ダミー比率 属性名 ダミー比率 6/ JR北海道 デザイン性1 トロッコ JR西日本 デザイン性2 ビュッフェ・カウンター JR四国 デザイン性3 展望スペース JR九州 デザイン性4 文化資料展示・上演 大手私鉄 軽食(カフェメニュー等) キャラクター 地方鉄道 ランチ・ディナー <参考>JR東日本のダミー比率:21.4% 変数 単位 平均値 標準偏差 最小値 最大値 料金 円 車両あたり定員 人 運行距離 NP 運行年数 年
武鉄道では「SL 大樹」の運行が開始され、JR 西日本は「幕末維新やまぐちデスティネーションキャンペーン」 の開催に合わせ、「SL やまぐち号」に旧型客車に模している車両を導入した。こうした動きは、SL が観光客に対 する強い誘因力を持つ観光資源であることを如実に表しており、本分析の結果から、SL 列車は鉄道輸送サービス の高付加価値化に寄与していることを示唆している。 デザイン性を捉える各種変数についてはグッドデザイン賞受賞列車であるデザイン性4のみが正で有意となっ たことから、グッドデザイン賞の受賞が価値属性として 機能していることが示唆されている。デザイン性1(水 表 5 分析結果 戸岡氏が2011 年までにデザインを行った観光列車のデ ザイン属性)については負で有意となった。その理由と して、本属性に該当する殆どがJR 九州の観光列車(11 本中9 本)となっているため、JR 九州の観光列車の影 響力がかなり強く働いている可能性が挙げられる。実 際にJR 九州属性の推計値は非常に大きいことから、水 戸岡氏のデザインの影響というよりも、この値を調整 する効果を拾ったものと考えられる。デザイン性2に ついては有意とならなかったこと及び、事業者属性の 有意性判定より、特に2012 年以降の JR 九州の観光列 車に対して、また、地方鉄道の観光列車に対して、消費 者の支払意思が反映されている可能性が示唆されてい る。したがって、これらの事業者ブランドをはじめとす る、事業者や地方エリア固有の属性が付加価値として 働いているものと思われる。 文化資料展示・上演属性については有意となったが 想定とは反対の符号であった。この属性を有する観光 列車は、いわば博物館的な要因を持つため、観光列車料 金を入場料のような形で捉えることができることから 17、この属性には付加価値として料金を設定できる余地 があると言えよう。 また、運行年数が有意とならなかった理由として、観 光列車の中には定期列車と週末を中心に運行する臨時 列車が混在していることから年間あたりの運行本数が観光列車によって異なること及び、ストーブ列車やSL か わね路号のように古い車両に価値があるという側面が存在すること等が推察される。 4.結びにかえて 4.1 まとめ 本研究では観光列車料金に着目しヘドニック・アプローチを用いることで鉄道輸送サービスの高付加価値化の 定量化を試みた。分析の結果、車内の居住空間の快適性の向上やビュッフェ・カウンターといった車内販売に関 する設備の設置、SL 属性やグッドデザイン賞属性の存在が高付加価値化に寄与していると考えられ、観光列車に よる鉄道輸送サービスの高付加価値化が達成されていることが定量的に示唆された。 事業者別の属性についてもJR 九州、地方鉄道事業者で有意な結果が得られたことから、これらの事業者の観 17 観光列車が博物館的機能を持つことを示した研究に藤田(2019)がある。 説明変数 係数 標準誤差 t値 9,) 定数項 ― 運行距離 車両あたり定員 運行年数 6/ トロッコ ビュッフェ・カウンター 展望スペース 文化資料展示・上演 キャラクター JR北海道 JR西日本 JR四国 JR九州 大手私鉄 地方鉄道 デザイン性1 デザイン性2 デザイン性3 デザイン性4 軽食(カフェメニュー等) ランチ・ディナー $GM5 観測値数 Breusch-Pagan検定 χ㻞 p値 ※***は0.1%、**は1%、*は5%水準で有意であることを示す。
光列車に対して、消費者の支払意思が反映されており、事業者ブランドをはじめとする事業者や地方エリア固有 の属性が付加価値として働いている可能性も示唆されている。 一方、沿線における民俗資料の展示や上演については有意に負の値が推計されたことから、この点については 高付加価値化に対する料金として設定する余地があるものと思われる。 4.2 本研究のインプリケーション 観光列車を通じた鉄道輸送サービスの高付加価値化を達成する要因について、先行研究では経験価値や非言語 コミュニケーションによる観光価値の生成といった定性的な分析で明らかにされていた。こうした中、本研究で は観光列車による高付加価値を達成する要因を定量的に把握した。 本研究より、高付加価値化を達成する要因が定量的に明らかとなったが、その1つにビュッフェ・カウンター の設置が挙げられる。この属性は観光列車の価値を高めるだけではなく、食事や土産品の購入に繋がることから、 その設備を介して沿線特産品を販売することで地域経済にも寄与するものと思われる。 また、デザイン性に対する価値は限定的なものであった。尤も、本研究では新造あるいは改造車両をサンプル としているため、一定程度のデザイン性は観光列車の所与の条件として成立しているものと思われる点には留意 すべきだが、その上でデザイン性によって差別化を図るには、グッドデザイン賞など第三者に評価されるような 高いデザイン性を持つ列車を造成する必要があることを示唆している。しかし、一般的に経営資源が潤沢とは言 えない地方鉄道事業者にとっては、新造しグッドデザイン賞などを受賞した「雪月花」のような事例はあるもの の、デザイン性に資源を集中させることが難しいという側面が否定できない。事業者属性が部分的ではあるが正 で有意の結果が見られていることも踏まえると、おもてなしに代表されるソフト面での付加価値の向上などを通 じた、各鉄道事業者のブランド戦略も重要になると言えよう。 4.3 今後の課題 本研究では観光列車が鉄道輸送サービスの高付加価値化に寄与していることを定量的に明らかにしたが、その 際、観光列車料金が市場競争下で決定されているという仮定を置いて分析を進めてきた。先述したように、観光 列車料金は市場価格に近しい値に設定されてくると思われ、加えて、サンプルには既に運行を取りやめた観光列 車は含めていないため、運行費に見合わない、いわば不人気な観光列車は廃止されるという市場作用は一定程度 反映されていると考える。しかし、列車の製造・改造に要した固定費部分の回収やダイヤ編成上の都合といった 経営上の理由等により観光列車の存廃が規定されることも考えられるため、市場作用が働いていない可能性も否 定できない。また、本源的需要としての観光列車利用を考慮すると、運賃部分も何らかの価値への対価となって いる可能性が考えられる。したがって、運行開始以降、乗車率が一定程度持続的に見られる列車を対象とした分 析や、利用者の本源的需要・派生的需要を踏まえた上でのアンケート調査による価値属性の分析等により、鉄道 輸送サービスの高付加価値化要因を精緻に把握することが今後の課題の1つである。 また、各事業者が実施している「おもてなし」といったソフト面の取り組みについては捕捉しきれなかった。 この点については定量的分析では限界があることから、観光列車の経営戦略に対する有用性をより具体的に明ら かにしていくためにも、本研究を補完する形で、ケーススタディ等の定性的研究を実施していく必要がある。加 えて、観光列車が沿線地域にもたらした効果を捉えることも今後の課題として挙げられる。 謝辞 日本交通学会第 78 回研究報告会での討論者を担当して下さった那須野育大先生(富山高等専門学校国際ビジ ネス学科)、3名の査読者の先生方をはじめ、日本交通学会関西部会8月例会において、新納克広先生(奈良県立 大学地域創造学部)、福田晴仁先生(西南学院大学商学部)、水谷淳先生(神戸大学大学院海事科学研究科)、安達 晃史先生(同志社大学商学部)からは大変有益なコメントを頂戴致しました。この場をお借りして御礼申し上げ
ます。なお、本研究における誤りは全て筆者の責任です。 参考文献 藤田知也(2019)「観光列車が有する博物館的機能に関する研究―教育・普及的機能に着目して―」、『博物館学雑誌』、第44 巻、 第2号、pp.1-15. 藤田知也・榊原雄一郎(2017)「鉄道事業者における観光列車戦略の研究~JR 九州の事例から~」、『関西大学 経済論集』、第 67 巻、第3号、pp.237-254. 原良憲・岡宏樹(2013)「日本型クリエイティブ・サービスの価値共創モデル―暗黙的情報活用に基づく価値共創モデルの発展 的整理―」、『研究技術計画』、Vol.28、No.3、pp.254-261. 原田保(2015)「デスティネーション指向へ、そして地域指向や精神指向へ」、原田保・板倉宏昭・加藤文昭編『旅行革新戦略― 地域デザインとライフデザインによるコンテクスト転換―』、白桃書房、pp.52-113. 肥田野登(1997)『環境と社会資本の経済評価』、勁草書房. 近藤公彦(2013)「小売業における価値共創~経験価値のマネジメント~」、『マーケティングジャーナル』、 Vol.32、No.4、pp.50-62. 小西俊作・佐藤要祐・太田充(2007)「東京都心部における賃貸集合住宅価格の付加価値要因に関する研究」、『都市計画論文集』、 第42 巻、pp.89-99. 長沢伸也・西村修(2015)「地場産業企業に見る高価格戦略のマネジメント」、『早稲田国際経営研究』、No.46、pp.85-94. 中村敏・小長谷一之(2014)「地域振興に資する観光列車戦略の分類と経済効果」、『総合観光研究』第 13 号、pp.1-10. 新納克広(2017)「鉄道ビジネスと観光」、塩見英治・堀雅通・島川崇・小島克巳編『観光交通ビジネス』、pp.73-85、成山堂書 店. 太田誠(1980)『品質と価格』、創文社.
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