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海中転落者のための救助システムに関する研究 学位論文内容の要旨

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博 士 ( 水 産 科 学 ) 和 田 雅 昭

学 位 論 文 題 名

海中転落者のための救助システムに関する研究 学位論文内容の要旨

【はじめに】

  本研究は、海中転落者の生存救出を目的として、救命衣にGPS (Global Positioning System)受信 装置を 組み込む という 発想から 、平成10年にスタートしたものである。

海上にお ける遭難 および 安全に関 する世 界的な制 度とし てはGMDSS (GlobaIMaritime Distress and Safety System)が、国内では海の118番通報が制定され大きな役割を果 たしている。しかしながら、これらの制度は船舶を対象としており、個人を対象とした ものとはなっていない。また、大規模システムとしての課題である 90%以上の誤報 とぃった問題を抱えている。そこで、本研究では、個人を対象とした実用的な救助シス テムの提案を行う。海中転落者の生存救出のための最低条件としては、 海上に浮いてい ること 、 事故の発生を通報すること の2点が挙げられる。そのため、海上に浮いて いるための常時着用型の安全衣と、事故の発生とその位置を通報するための救助システ ムが必要となる。本研究では、 衛星通信 、 特定小電力無線機 ヽ 携帯電話 を通信装 置とする、3種類の救助システムを考案、構築した。そして、洋上において実際に海中転 落を行うことで、その有効性を示した。なお、本研究のキーワードは以下の6項目であ る。

  . 個人 を対象とした救助システム

  . ローカルマネージメント な救助システムの構築   ・ 安全衣 と救助システムの一体化

  ・ 双方向 の通信による心理面からの保護   ・ 免許不要 な通信システムの選定   . コスト を考慮した救助システム

なお、ローカルマネージメントとは運用管理体制が小規模であり救助対象者の把握が容 易であることを意味している。また、免許不要とコストは救助システムの普及のための 条件として挙げることができる。

【衛星通信を用いた救助システム】

  最初に、全世界で利用可能な救助システムとして、オーブコム衛星通信サービスを用 いた救助システムを考案、構築し評価を行った。採用したオーブコム衛星通信サービス は、車輌および船舶での利用を想定しており、通信装置は携帯型の装置とはなっていな     ―1483―

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い。そのため、最初に携帯型アンテナの開発を行った。安全衣への組み込みを前提に、

アンテナにはフレキシブルな素材を用いたへりカルアンテナを試作した。しかしながら、

ヘリカルアンテナを安全衣に組み込んだ状態では、海水の影響により通信を行うことが できなかった。そこで、必要時にはアンテナを取り出し、手に持つことを前提として、

衛星用アンテナとして有用なダ イポールアンテナを収縮式とすることで携帯可能とし た。開発したダイポールアンテ ナを用いた洋上試験では、海中転落から4分後に、事故 発生の第一報を、5分後に、位置情報を含んだ第二報をホス卜コンピュータで確認するこ とができた。しかしながら、試作した携帯端末は通信装置と通信アンテナの十分な小型 軽量化が図れなかったことから、常時着用型の安全衣ではなく船舶設置型の救命衣に組 み込む用途を想定していた。ところが、平成15年にステラーサテライト社(イスラエル)

によって外形寸法0.080X 0.110X 0.016m、重量が0.18kgfの通信装置が開発されたこと か ら 、 現 在 で は 常 時 着 用 型 の 安 全 衣 へ の 組 み 込 み が 可 能 で あ る 。

【 特定小電力無線機を用いた救助システム】

  次に、携帯端末の小型軽量化を第一の目的として、特定小電力無線機を用いた救助シ ス テムを考案した。海上保安統計年報によると、海中転落事故における死亡・行方不明 者 のうち、約60%が船舶の海難によらない海中転落事故、または、港内における海中転 落 事故となっている。そこで、特定小電力無線機を携帯端末とすることにより、海中転 落 時には起動信号を発信し、船舶や港湾に設置した中継端末を起動することで、間接的 に 事故の発生を通報するりレー方式を考案した。中継端末には携帯端末からの起動信号 を 受信する受信装置を組み込んでおり、船舶既設のGPS受信装置、並びに通信装置と接 続 している。リレー方式では、GPS受信装置、並びに通信装置は船舶既設の設備を利用 す ることから、携帯端末の機能は起動信号を発信するだけの単機能となり、携帯端末の 小 型軽量化が可能である。湖沼、沿岸、沖合における海中転落実験の結果、安全衣の左 胸 部 に携 帯端 末を 組み 込ん だ状 態に おいて、湖沼 では半径約500m、海洋では半径約 300mの範囲に存在する中継端末を起動することができた。さらに、携帯端末を手に持つ た 状態では、海洋においても半径約1,OOOmの範囲で中継端末を起動できた。特定小電 力 無線機を用いた救助システムは、操業区域を特定の沿岸域とする前浜漁業には最適な 救 助システムであり、すぐにでも実用化が可能である。

【携帯電話を用いた救助システム】

  最後に、救助システムの運用面からの実用化を目的として、携帯電話を用いた救助シ ステムを考案し、評価を行った。携帯電話はその急速な普及により、国内最大級の通信 手段として成長した。平成14年における海の118番通報の通信手段としては、携帯電話 が過半数を占めていることから、洋上における緊急通報の手段として大変有効であると 言える。そこで、 GPSケータイ を携帯端末とする、DLP (DoCoMo Location Platform) サービスを用いた救助システムを考案した。

てDLPサ ーバにアクセス することにより、

このシステムではインターネッ卜を経由し 携帯端末の位置情報を取得することができ

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る。そのため、シ ステムの構築、および、導入が容易であることから、口ーカルなシス テムの構築に適し ている。プールにおける実験の結果、安全衣の左胸部に携帯端末を組 み込んだ状態にお いて、落水した被験者の位置情報を含む緊急通報をコンピュータ上で 確認することがで きた。しかしながら、手動による操作では、被験者の30%が携帯端末 の起動に失敗した ことから、自動起動装置の開発を行った。自動起動装置は海水の伝導 性を利用して、露 出させた2本の電極問に流れ る電流を検出する電子式を採用した。電 子式とすることで 、小型化が可能となる。自動起動装置を用いた洋上実験の結果、海中 転 落か ら60秒以 内に コン ピュ ータ 上 で事 故の 発生と位置を確認することができた。

【安全衣】

  安全衣とは、 作業合羽に必要最小限の浮カを持たせたもの と定義した。本研究では、

漁労作業では必ず 着用する作業合羽に救命衣の機能を付加することで、常時着用を推進 することを考案し た。研究の前半は、漁業用救命安全衣の技術基準を参考に、6.5kgfの 浮カをもつ安全衣 の開発を行った。研究の後半は、平成14年10月より導入 された小型 船舶用浮力補助具 の技術基準を安全衣の技術基準とし、浮カは5.85kgfとした。また、

安全衣は作業性を 最優先としてデザインを考案した。その結果、浮力材を多数のブロツ クに分割配置する ことで、高い作業性が得られた。安全衣の生地に関しては、強靭軽量 で防弾チョッキにも利用されているダイニーマ素材を用いた安全衣の試作を行ったが、1 着10万円程度と高 価であり、普及を目的とした安全衣には適さなかった。そして、漁業 者による漁労作業 での試用と試作を繰り返し、改良を重ねた結果、理想的な安全衣とし て、O.llm角の浮力材を30のブロックに分割配置したウレタン素材の安全衣を完成させ、

既に実用化してい る。この安全衣の乾燥重量は1.38kgfであり、作業合羽(1.04kgf)と 救命衣(0.65kgf)の組み合わせに比べ、約20% の軽量化を実現した。なお、浮遊姿勢に 関しては、一般的 な垂直型ではなく、水平に近い ラッコ型 の浮遊姿勢となる。15歳 から49歳までの10人の被験者による浮遊姿勢の実験の結果、安全衣の左胸 部に配置し た携帯端末を収納 するポケットは、いずれの被験者であっても水面上に位置することが 確認できた。

【おわりに】

  本研究では、衛 星通信、特定小電力無線機、携帯電話と免許不要で利用可能な全ての 通信装置を用いた 救助システムを考案、構築し評価を行った。その結果、目的に合わせ た救助システムを 選択することで、あらゆる状況の海中転落事故に対して、迅速な救助 活動の要請を行い 、生存救出へと結び付けることが可能である。救助システムは単独の システムとして構 築するのでなく、日常利用する他のシステムと組み合わせることによ り、普及が推進す る。例えば、携帯電話を用いた救助システムでは、同じくDLPサービ スを基盤として構 築されている、船舶の運航管理システムと統合することに成功した。

また、特定小電力 無線機を用いた救助システムでは、漁労機器のコント口ーラとしての 機能を付加することは、非常に有効な方法である。第7次交通安全基本計画では、「平成

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17年までに海中転落による死亡・行方不明者数を年間200人以下とする」とした、具体 的 数値目標が掲げられているものの、現在は年間320人前後で横這いの状況が続いてい る。本研究は、海中転落者を迅速な救助活動により生存救出するために、ITの活用を提 案し、実践したものである。また、救助する立場ではなく、救助される立場、すなわち、

海中転落者の視点で救助システムを考案した。そのため、いずれのシステムにおいても、

双方向の通信を前提としており、海中転落者が救助活動の開始を認知することで生存意 欲を高め、心理面からも保護するシステムとしている。安全衣との一体化により、本研 究 の成果 を実用化 するこ とで、多くの海中転落者を生存救出することが可能である。

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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査   教授   天下井   清 副 査    教 授    烏野慶一 副 査    教 授    芳村康男 副査   助教授   木村暢夫

学 位 論 文 題 名

海中転落者のための救助システムに関する研究

  本研 究 は 海中 転 落者 の 生 存救 出 を目 的 と して 、 救 命衣 にGPS受 信 装 置を 組み込 み個 人を 対象とし た実用的 な救助シ ステムを 考案し、そ の有効性 を実証し たものである。海 上に 浮いてい るための 常時着用 型の救命 安全衣とし て改良を 重ねて、 浮力約6kgf丶乾燥 重 量1.38kgfと ぃ う軽量で左 胸部に通 信装置の 収納ポケ ットを設 けたウレ タン素材の 安 全衣を完成させた。

  本研究では、 衛星通信 ヽ 特定小電力無線機 、 携帯電話 を通信装置とする、3種 類の救助システムを考案、構築した。

【衛星通 信を用い た救助シ ステム】

  最初に、 全世界で 利用可能 な救助シ ステムと して、オー ブコム衛 星通信サービスを用 いた救助 システム を考案、 構築し評 価を行っ た。採用し たオーブ コム衛星通信サービス は、車輌 および船 舶での利 用を想定 しており 、通信装置 は携帯型 の装置とはなっていな い。その ため、最 初に携帯 型アンテ ナの開発 を行った。 安全衣へ の組み込みを前提に、

アンテナ にはフレキシブルな素材を用いたヘリカルアンテナを試作した。しかしながら、

ヘリカル アンテナ を安全衣 に組み込 んだ状態 では、海水 の影響に より通信を行うことが できなか った。そ こで、必 要時には アンテナ を取り出し 、手に持 つことを前提として、

衛星 用 ア ンテ ナ とし て 有 用な ダ イ ポー ル アンテ ナを収縮 式とする ことで携 帯可能とし た。 開 発 した ダイ ポールアン テナを用 いた洋上 試験では 、海中転 落から4分 後に、事故 発生の第 一報を、5分後に、 位置情報 を含んだ第二報をホストコンピュータで確認するこ とができ た。しか しながら 、試作し た携帯端 末は通信装 置と通信 アンテナの十分な小型 軽量化が 図れなか ったが、 平成15年に ステラー サテライト 社(イス ラエル)によって外 形寸 法0.080Xo.iioX0.016m、 重 量が0.18kgfの通 信 装 置が 開 発 され た こと から、現 在 では常時 着用型の 安全衣へ の組み込 みが可能 である。

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【特定小電力無線機を用いた救助システム】

   次に、携帯端末の小型軽量化を第一の目的として、特定小電力無線機を用いた救助 システムを考案した。海上保安統計年報によると、海中転落事故における死亡・行方 不明者のうち、約60 %が船舶の海難によらない海中転落事故、または、港内における 海中転落事故となっている。そこで、特定小電力無線機を携帯端末とすることにより、

海中転落時には起動信号を発信し、船舶や港湾に設置した中継端末を起動することで、

間接的に事故の発生を通報するりレー方式を考案した。中継端末には携帯端末からの 起動信号を受信する受信装置を組み込んでおり、船舶既設の GPS 受信装置、並びに通 信装置と接続している。リレー方式では、 GPS 受信装置、並びに通信装置は船舶既設 の設備を利用することから、携帯端末の機能は起動信号を発信するだけの単機能とな り、携帯端末の小型軽量化が可能となった。湖沼、沿岸、沖合における海中転落実験 の 結果、安全 衣の左胸部に携帯端末を組み込んだ状態において、湖沼では半径約 500m 、海洋では半径約 300m の範囲に存在する中継端末を起動することができた。さ らに、携帯端末を手に持った状態では、海洋においても半径約1 ,OOOm の範囲で中継 端末を起動できた。特定小電力無線機を用いた救助システムは、操業区域を特定の沿 岸域とする前浜漁業にも最適な救助システムであり、すぐにでも実用化が可能である。

【携帯電話を用いた救助システム】

   最後に、救助システムの運用面からの実用化を目的として、携帯電話を用いた救助 システムを考案し、評価を行った。携帯電話はその急速な普及により、国内最大級の 通信手段として成長した。平成 14 年における海の118 番通報の通信手段としては、

携帯電話が過半数を占めていることから、洋上における緊急通報の手段として大変有 効 であると 言える。そ こで、 GPS ケータイ を携帯端 末とする、 DLP (DoCoMo Location Platform) サービスを用いた救助システムを考案した。このシステムではイ ンターネッ卜を経由してDLP サーバにアクセスすることにより、携帯端末の位置情報 を取得することができる。そのため、システムの構築、および、導入が容易であるこ とから、ローカルなシステムの構築に適している。プールにおける実験の結果、安全 衣の左胸部に携帯端末を組み込んだ状態において、落水した被験者の位置情報を含む 緊急通報をコンピュータ上で確認することができた。しかしながら、手動による操作 では、被験者の 30 %が携帯端末の起動に失敗したことから、自動起動装置の開発を行 った。自動起動装置は海水の伝導性を利用して、露出させた 2 本の電極間に流れる電 流を検出する電子式を採用した。電子式とすることで、小型化が可能となった。自動 起動装置を用いた洋上実験の結果、海中転落から60 秒以内にコンピュータ上で事故の 発生と位置を確認することができた。

   本研究は、海中転落者を迅速な救助活動により生存救出するために、IT の活用を提

案し、実践したものである。また、救助する立場ではなく、救助される立場、すなわ

ち、海中転落者の視点で救助システムを考案した。

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   以上の研究の成果は我が国の漁船数の約 95 %に当たる救助通信手段を持たない20

トン未満船の漁業者はもとより、全世界で操業する漁業者の遭難時の救助システムの

実用化が可能となるものであり、何よりも双方向の通信を前提としたことにより、海

中転落者が救助活動の開始を認知し、生存意欲を高め待つことにより一層の生存救出

の可能性を示した。よって審査員一同は、本論文が博士(水産科学)の学位を授与さ

れる資格のあるものと判定した。

参照

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