博 士 ( 工 学 ) 笠 原 伸 介 〆
学 位 論 文 題 名
高効 率型高 度浄水処理システムの開発
学位論文内容の要旨
近年、水道原水の悪化に伴い、水道水の異臭味やりスクの削減に対する関心が高まって いる。高度浄水処理は、これらの原因と考えられる各種の溶解性成分に対応できるとして 高く評価されている。しかしながら、従来の急速ろ過システムに、オゾン酸化と活性炭吸 着プ口セスを付加する現行方式では、その構成が複雑にナょり、敷地面積の増大と動力消費 丶、
の増加により、その普及は制限される。
現行の急速ろ過システムでは、フロッキュレータの維持管理に多くのコストとエネルギ ーが消費 されてい る。ま た、通常では浄水の3〜5%程度を使用する深層ろ層の洗浄水量 は、原水水質の悪化や高度処理導入に伴う深層ろ過プロセスの増加によって、今後増加す ることが予想される。
そこで、本研究では、除濁プロセスの改善のために、フロ・ソク形成・沈殿プロセスの簡 素化・省 エネ化を 目的と した噴流 攪拌固 液分離装 置(JMS)と、洗浄水量の削減を目的 とした空気洗浄方式を導入し、生物活性炭プ口セスの効率化のための木質系活性炭を導入 した改良型高度浄水処理システムを提案し、個々のプロセスの機能と処理水質からみた処 理シ ス テ ムの 評 価 に関 す る 研究 を 行 った 。 内 容を 要約する と、以下 の通り である。
第1章では、高度浄水処理システムに関する問題点を指摘するとともに、実験に用いた パ イ 口 ッ ト プ ラ ン ト の 各 プ ロ セ ス の 構 成 と 本 論 文 の 構 成 を 示 し て い る 。 第2章 では、JMSの固 液分離特 性と水 理特性に っいて 検討した 。まず、 既往の動力学 モデルに基づき、沈殿を伴うフロック形成過程が成立することを指摘し、さらに基礎実験 によって その妥当 性を証 明するこ とによ り、JMSの理論的背景を裏付けた。また、パイ ロットプ ラントの 操作を 通じ、JMSの最適操作条件と多孔板問におけるフロ.yクの挙動 を明 確 に し、JMSが 水 質 変動 に も 十分 耐 え 得る こ とを実証 した。さ らに、JMS後段 に 傾斜管を挿入することにより、低いエネルギ一消費、短い滞留時間の下で、従来と同等の 沈殿後水水質を達成できることを明らかにした。
っぎに、流速分布の測定により、水は流下する際に偏流を起こしていること、局所的に きわめて大きな乱れが発生していること、および水平方向に比べて垂直方向の乱れが小さ いことな ど、噴流 撹拌に 見られる 特徴的 な流況を 把握した。また、JMSでは、パドル式 や上下う流式フ口ッキュレータに比べて、全体のエネルギ一消費率に対するフロック形成 に有効なエネルギ一消費率の割合が高いことを証明した。
第3章では、深層ろ層の空気洗浄の現象解明と洗浄水量の削減を期待できる空気・水同 時併用洗浄法の洗浄効果にっいて検討を試みた。硅砂を充填したべンチスケールのモデル ろ過筒を用いて、空洗時に認められるろ層内圧カの変化と押し上げ水の挙動を調べること により、空洗工程は、加圧空気の挿入と同時に比較的高いピーク圧カが発生する不安定期 と一定の微振動が継続する安定期の2工程からなること、不安定期にtまろ層内水の約20〜 30%が砂上に押し上げられることを明らかにし、同時にそれらの変動に及ぼすろ材径や空
‑ 509−
洗強度などの影響因子の寄与率を算出した。また、空洗に伴うろ材径分布と排出濁質量の 変化を捕らえることにより、空洗を行うとろ層の混合が起こること、不安定期に排出され る濁質量は抑留濁質量の約60〜80%にも及び、空洗は主洗浄として評価できること、一度 排出された濁質は、空洗の経過に伴ってろ層内に舞い戻ることを明らかにした。さらに、
銅イオンをトレーサ―とした排出濁質の追跡実験を行うことにより、舞い戻り量の変動に 及ばす影響因子の寄与率と、舞い戻り濁質のろ層内分散に関する現象を明確にした。加え て、空洗を主洗浄とする空気・水同時併用洗浄法の特徴として、空洗強度は濁質の排出効 果にほとんど影響しないこと、併用する逆洗速度はろ層非膨張の低速度が望ましいことを 明らかにした。
第4章では 、パイロ ットプラントの処理性評価を行った。まず、実験原水とした千歳川 表流水の凝集特性にっいて調べたところ、E260発現性成分の限界除去に必要な凝集剤注入 率は 、濁度除 去に要す る注入率の約2.5倍に及び、この限界点で操作しなければ安定なJ MS流出 濁度を保 持でき ないこと 、および その時 のE260発現性成分の分子量別の除去率を 明確にした。`まlた、原水中に含まれるTHMFPは比較的高レベルであるが、凝集・沈殿・砂 ろ 過 に よ り 、 平 均 除 去 率 均 54.6% と 効 果 的 に 削 減 で き る こ と を 示 し た 。 っぎに、オゾン・活性炭プロセスにおける溶解性成分の処理特性にっいて、生物分解特 性が 高いとさ れる木質 系活性 炭(PICABIOL)と、 一般に吸着剤として用いられる石炭系活 性炭 (F−400)の 比較を中心に検討した。DOC破過曲線にっいて比較を行ったところ、見 かけ上の平衡状態に到達するまでに要した通水倍率は、PICABIOLで約8,000倍、F−400で 約50,000倍とフミン質類の吸着性に優れているFー400の方が圧倒的に長く、しかもE260、 THMFPにっいて も同様 の傾向を 示した。 また、 活性炭においてTHMFPの選択的な除去が行 われるのは、F―400を用いても通水倍率約10,000倍程度までで、その通水倍率は、低分子 のE260発現性成分の選択的除去が認められなくなる点とーほぼ致することを明らかにした。
さら に、アン モニア性 窒素とAOCの除 去性に っいては 、PICABIOLの方 がとくに低水温時 にそ の効果を 発揮する ことを 明らかに した。 しかしな がら、 流出水中 のAOCは細菌類の 二次増殖を抑制するには十分ではないこともわかった。
加えて、生物活性炭の前処理としてのオゾン処理の影響にっいて検討した。回分吸着実 験と固定床カラム通水実験により、本実験のオゾン処理は、有機成分の低分子化に比べて 疎水性有機物の親水化を顕著に引き起こすため、活性炭の吸着性を低下させるが、破過曲 線 はほ ば 合 致 する こ と を示 し た 。ま た 、 オゾン 処理に よってAOCが約2〜7倍増加 し、
有機 物の生物 分解性は 向上す るが、同 時にAOC除去に 要する 接触時間 が長くなること、
アンモニア性窒素の硝化活性は阻害されることを明らかにした。
−510− ・
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
高効率型高度浄水処理システムの開発
近 年、 水道 原水 の悪 化に 伴 い、 水道 水の 異臭 味や りス クの 削減 に対する関心が高まっ て いる 。高 度浄 水処 理は 、こ れ らの 原因 と考 えら れる 各種 の溶 解性 成分に対応できるとし て 高く 評価 され ている。しかしながら、従来の急速ろ過システム に、オゾン酸化と活性三炭 吸 着プ ロセ スを 付加 する 現行 方 式で は、 その 構成 が複 雑に なり 、敷 地面積の増大と動力消 費 の増 加に より 、そ の普 及は 制 限さ れる 。
現 行 の 急 速 ろ 過 シ ス テ ム で は 、 フロ ッキ ュレ ータ の維 持管 理 に多 くの コス トと エネ ル ギ ー が 消 費 さ れ て い る 。 ま た 、 通 常で は浄 水の3〜5%程 度を 使 用す る深 層ろ 層の 洗浄 水 量 は、 原水 水質 の悪 化や 高度 処 理導 入に 伴う 深層 ろ過 プロ セス の増 加によって、今後増加 す るこ とが 予想 され る。
そこ で、 本研 究で は、 除濁 プ ロセ スの 改善 のた めに 、フ ロッ ク形 成・沈殿プロセスの簡 素 化 ・ 省 エ ネ 化 を 目 的 と し た 噴 流 撹 拌 固 液 分 離 装 置 (JMS) と 、洗 浄水 量の 削減 を目 的 と した 空気 洗浄 方式 を導 入し 、 生物 活性 炭プ ロセ スの 効率 化の ため の木質系活性炭を導入 し た改 良型 高度 浄水 処理 シス テ ムを 提案 し、 個々 のプ ロセ スの 機能 と処理水質からみた処 理 シ ス テ ム の 評 価 に 関 す る 研 究 を 行 っ た 。 内 容 を 要 約 す る と 、 以 下 の 通 り で あ る 。 第1章 では 、高 度浄 水処 理シ ステ ムに 関す る問 題点 を指 摘す る とと もに 、実 験に 用い た パ イ ロ ッ ト プ ラ ン ト の 各 プ ロ セ ス の 構 成 と 本 論 文 の 構 成 を 示 し て い る 。 第2章 で は 、JMSの 固 液 分 離 特 性 と 水 理 特 性 に っ い て 検 討 し た 。 ま ず 、 既 往 の 動 力 学 モ デル に基 づき 、沈 殿を 伴う フ ロッ ク形 成過 程が 成立 する こと を指 摘し、さちに基礎実験 に よ っ て そ の 妥 当 性 を 証 明 す る こ と に よ り 、JMSの 理 論 的 背 景 を裏 付け た。 また 、パ イ ロ ッ ト プ ラ ン ト の 操 作 を 通 じ 、JMSの 最 適 操 作 条 件 と 多 孔 板 間 にお ける フロ ック の挙 動 を 明 確 に し 、JMSが 水 質 変 動 に も 十 分 耐 え 得 る こ と を 実 証 し た 。 さ ら に 、JMS後 段 に 傾 斜管 を挿 入す るこ とに より 、 低い エネ ルギ ←消 費、 短い 滞留 時間 の下で、従来と同等の 沈 殿後 水水 質を 達成 でき るこ と を明 らか にし た。
っぎ に、 流速 分布 の測 定に よ り、 水は 流下 する 際に 偏流 を起 こし ていること、局所的に き わめ て大 きな 乱れ が発 生し て いる こと 、お よび 水平 方向 に比 べて 垂直方向の乱れが小さ い こ と な ど 、 噴 流 撹 拌 に 見 ら れ る 特 徴 的 な 流 況 を 把 握 し た 。 また 、JMSでは 、パ ドル 式 や 上下 う流 式フ ロッ キュ レー タ に比 べて 、全 体の エネ ルギ ←消 費率 に対するフロック形成 に 有効 なエ ネル ギー 消費 率の 割 合が 高い こと を証 明し た。
公 男
雄
義 哲
達
辺 桑
水
渡 高
清
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
第3章では、深層ろ層の空気洗浄の現象解明と洗浄水量の削減を期待できる空気・水同 時併用洗浄法の洗静効果にっいて検討を試みた。硅砂を充填したベンチスケールのモデル ろ過筒を用いて、空洗時に認められるろ層内圧カの変化と押し上げ水の挙動を調べること により、空洗工程は、加圧空気の挿入と同時に比較的高いピーク圧カが発生する不安定期 と一定の微振動が継続する安定期の2工程からなること、不安定期にはろ層内水の約20〜 30%が砂上に押し上げられることを明らかにし、同時にそれらの変動に及ぼすろ材径や空 洗強度などの影響因子の寄与率を算出した。また、空洗に伴うろ材径分布と排出濁質量の 変化を捕らえることにより、空洗を行うとろ層の混合が起こること、不安定期に排出され る濁質量は抑留濁質量の約60〜80%にも及び、空洗は主洗浄として評価できること、一度 排出された濁質は、空洗の経過に伴ってろ層内に舞い戻ることを明らかにした。さらに、
銅イオンをトレーサーとした排出濁質の追跡実験を行うことにより、舞い戻り量の変動に 及ばす影響因子の寄与率と、舞い戻り濁質のろ層内分散に関する現象を明確にした。加え て、空洗を主洗浄とする空気・水同時併用洗浄法の特徴として、空洗強度は濁質の排出効 果にほとんど影響しないこと、併用する逆洗速度はろ層非膨張の低速度が望ましいことを 明らかにした。
第4章では、パイロットプラントの処理性評価を行った。まず、実験原水とした千歳川 表流水の凝集特性にっいて調べたところ、E260発現性成分の限界除去に必要な凝集剤注入 率は、濁度除去に要する注入率の約2.5倍に及び、この限界点で操作しなければ安定なJ MS流出濁度を保持できないこと、およびその時のE260発現性成分の分子量別の除去率を 明確にした。また、原水中に含まれるTHMFPは比較的高レベルであるが、.凝集・沈殿・砂 ろ 過 に よ り 、 平 均 除 去 率 均54.6% と 効 果 的 に 削 減 で き る こ と を 示 し た 。 っぎに、オゾン・活性炭プロセスにおける溶解性成分の処理特性にっいて、生物分解特 性が高いとされる木質系活性炭(PICABIOL)と、一般に吸着剤として用いられる石炭系活 性炭(F―400)の比較を中心に検討した。DOC破過曲線にっいて比較を行ったところ、見 かけ上の平衡状態に到達するまでに要した通水倍率は、PICABIOLで約8,000倍、F―400で 約50,000倍とフミン質類の吸着性に優れているF‑400の方が圧倒的に長く、しかもE260、 THMFPにっいても同様の傾向を示した。また、活性炭においてTHMFPの選択的な除去が行 われるのは、F−400を用いても通水倍率約10,000倍程度までで、その通水倍率は、低分子 のE260発現性成分の選択的除去が認められなくなる点とーほぼ致することを明らかにした。
さ らに、アンモニア性窒素とAOCの除去性については、PICABIOLの方がとくに低水温時 に その効果を発揮することを明らかにした。しかしながら、流出水中のAOCは細菌類の 二次増殖を抑制するには十分ではないこともわかった。
加えて、生物活性炭の前処理としてのオゾン処理の影響にっいて検討した。回分吸着実 験と固定床カラム通水実験により、本実験のオゾン処理は、有機成分の低分子化に比べて 疎水性有機物の親水化を顕著に引き起こすため、活性炭の吸着性を低下させるが、破過曲 線 はほ ぼ合 致す るこ とを 示し た。 また 、オゾ ン処 理に よっ てAOCが約2〜7倍増加し、
有 機物の生物分解性は向上するが、同時にAOC除去に要する接触時間が長くなること、
アンモニア性窒素の硝化活性は阻害されることを明らかにした。
これを要するに、著者は、高度浄水処理システムにっいて、その省エネルギ一化と効率 化 の 新 知 見 を 得 て お り 、 水 道 工 学 の 進 歩 に 貢 献 す る と こ ろ 大 な る も のが あ る 。 よって著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める。