国際関係論
情報の問題,シグナリング,コミットメント問題 伊藤 岳 富山大学 経済学部 2018 年度前期 Email: [email protected] June 14, 2018Agenda
1 戦争の交渉モデル:情報の問題 情報の問題による交渉の失敗:ゲームの構造 情報の問題による交渉の失敗:均衡と解釈 2 私的情報の信憑性のある伝達 行動の「不自由」という処方箋 処方箋と副作用 3 戦争の交渉モデル:コミットメント問題 コミットメント問題:論理 コミットメント問題:類型 コミットメント問題:交渉ゲーム情報の不確実性による交渉の失敗
交渉可能領域の存在と「範囲」は,piと ciに依存する pi ▶ Siが戦争に勝つ確率 ▶ 能力 (capability) とそのバランスの関数 (パワー・バランス,軍部の能力, 兵器 etc.) ci ▶ Siが戦争において負担するコスト ▶ 係争解決のために戦争というコストの高い政治的手段をとる決意(resolve) ▶ 政治体制,世論,係争対象の「パイ」の重要性の関数情報の不確実性による交渉の失敗
交渉可能領域を規定する piと ci ▶ これらの情報は互いに観察できない私的情報 (private information) ▶ たとえば,軍事機密 ▶ 交渉の構造は,不完備情報 (incomplete information)のゲーム 不完備情報下の交渉 ▶ 仮定 1:S2は,「戦争コストの低い」S2L(戦争を厭わない「狼」) と,「戦 争コストの高い」SH 2 (戦争を恐れる「羊」) のいずれか ▶ 仮定 2:cH 2 > cL2 > 0(p1, p2は今までと同様に定義) ▶ 仮定 3:S2のタイプ (戦争コスト ck2, k ∈ {H, L}) は私的情報であり,S2自 身は把握しているが,S1には分からない ▶ 仮定 4:S2が S2Lである確率を l > 0 とする ▶ 1− lでS2Hとなり,S1もこの確率lは知っている ▶ 疑問:この場合,S はどのような意思決定を迫られるだろうか?情報の問題:交渉ゲーム
Choose cH 2 (S2is Sheep) 1− l Choose cL 2 (S2is Wolf ) l 1 0 Propose x Reject q, 1− q (現状維持) Accept x, 1− x (交渉による解決) Attack p1− c1,p2− cL2(戦争) 1 0 Propose x Reject q, 1− q (現状維持) Accept x, 1− x (交渉による解決) Attack p1− c1,p2− cH2 (戦争) N S1 S1 SH 2 SL 2情報の問題:交渉ゲーム
SL 2 との交渉可能領域 SH 2 との交渉可能領域 0 Sk 2の理想点 1 S1の理想点 p1 q0 p1− c1 q1 p1+ cL2 q2 p1+ cH2 q3 S1の戦争の期待利得 SL 2 の戦争の期待利得 SH 2 の戦争の期待利得 S2H にとって交渉⪰戦争の範囲 SL 2 にとって交渉⪰戦争の範囲 S1にとって交渉⪰戦争の範囲情報の問題:均衡クラス
Prob( S2 is Wolf ), l 1 cH 2− cL2 cH 2+ c1 q− p1− cL 2 q− p1+ c1Risk of War Equilibrium Peaceful Revision Equilibrium
Status Quo (No Revision) Equilibrium
情報の問題:均衡クラス
状況 1:q∈ [0, p1+ cL2]
▶ 解釈:いずれのタイプの S2も,現状 q (e.g., q0 & q1) に不満を抱いていない ▶ 均衡:Status Quo (No Revision) Equilibrium
▶ S1の戦略: x≥ q ▶ SL 2 の戦略: x≤ qならばAccept, x > qならばReject ▶ S2Hの戦略: x≤ qならばAccept, x > qならばReject ▶ 結果:現状が維持される ▶ 「現状」への相対的な満足度が,均衡で実現する利得を左右していることに注意 ▶ 現状維持という結果は同じでも,S1の利得はq0とq1で異なる ▶ 証明:「信憑性のない威嚇」の交渉ゲームと同じ
情報の問題:均衡クラス
状況 2:q∈ (p1+ cL2, p1+ cH2] ▶ 解釈:SL 2 は現状 q (e.g., q2) に不満を抱いているが (q > p1+ cL2),S2Hは現 状に不満を抱いていない (q < p1+ cH2) ▶ q− p1− c L 2 q− p1+ c1 :均衡を分ける線,閾値▶ 均衡:(1) Peaceful Revision Equilibrium, (2) Risk of War Equilibrium
▶ S1: (1) l≥ q− p1− cL2 q− p1+ c1 ならばxL= p1+ cL2, (2) l < q− p1− cL2 q− p1+ c1 ならば xH= qを提案する ▶ l が大きければ狼用の xLを提案し,l が小さければ羊用の xHを提案する ▶ SL 2: x≤ p1+ cL2 ならばAccept, x > p1+ cL2 ならばAttack ▶ この状況では,1− q < 1 − p1− cL2 に注意 ▶ S2H: x≤ qならばAccept, x > qならばReject ▶ この状況では,1− q > 1 − p1− cH2 に注意
情報の問題:均衡クラス
状況 2:q∈ (p1+ cL2, p1+ cH2] ▶ それぞれのタイプの S2が上記の均衡戦略をとることを,S1は認識している ▶ x = p1+ cL2 を提案するといずれの S2も受諾するので,利得は p1+ cL2 ▶ x = q を提案すると,SH 2 (羊) は受諾するが S2L (狼) は戦争を仕掛けるの で,期待利得は (1− l) × q + l × (p1− c1) ▶ S1が無差別になる「境目」は,p1+ cL2 = (1− l)q + l(p1− c1) これを l について整理すれば, p1+ cL2 = (1− l)q + l(p1− c1) = l(p1− c1− q) + q l = p1+ c L 2 − q p1− c1− q = q− p1− c L 2 q− p1+ c1 .情報の問題:均衡クラス
状況 3:q∈ (p1+ cH2 , 1] ▶ 解釈:SL 2 も S2Hも現状 q (e.g., q3) に不満を抱いている (p1+ cH2 < q) ▶ c H 2 − cL2 cH 2 + c1 :均衡を分ける線,閾値▶ 均衡:(1) Peaceful Revision Equilibrium, (2) Risk of War Equilibrium
▶ S1: (1) l≥ cH2 − cL2 cH 2 + c1 ならばxL= p 1+ cL2, (2) l < cH2 − cL2 cH 2 + c1 ならば xH= p1+ cH2 を提案する ▶ l が大きければ狼用の xLを提案し,l が小さければ羊用の xHを提案する ▶ SL 2: x≤ p1+ cL2 ならばAccept, x > p1+ cL2 ならばAttack ▶ SH 2 : x≤ p1+ cH2 ならばAccept, x > p1+ cH2 ならばAttack ▶ いずれの S2についても,1− q < 1 − p1− ck2 に注意 (k∈ {L, H})
情報の問題:均衡クラス
状況 3:q∈ (p1+ cH2 , 1] ▶ それぞれのタイプの S2が上記の均衡戦略をとることを,S1は認識している ▶ x = p1+ cL2 を提案するといずれの S2も受諾するので,利得は p1+ cL2 ▶ x = p1+ cH2 を提案すると,S H 2 (羊) は受諾するが S L 2 (狼) は戦争を仕掛け るので,期待利得は (1− l) × (p1+ cH2) + l× (p1− c1) ▶ S1が無差別になる「境目」は,p1+ cL2 = (1− l)(p1+ cH2) + l(p1− c1) これを l について整理すれば, p1+ cL2 = (1− l)(p1+ cH2) + l(p1− c1) = p1+ cH2 − l(c H 2 + c1) l = c H 2 − c L 2 cH 2 + c1 .過小評価の帰結:非効率的な係争解決
誤認 1: S1が,S2の決意を過小評価した場合 ▶ 設定:現実には「戦争を厭わない SL 2」を相手にしているとき,「戦争を恐れ る SH 2 」だと S2を誤認した場合 ▶ S1の行動:妥協案xH = p1+ cH2 やxH= qを「誤って」提案してしまう (戦争回避に必要な譲歩をしない) ▶ S2の行動:1− p1− cL2 > 1− xH = 1− p1− cH2 なので,S2Lは戦争に訴える ▶ 交渉による解決(1− p1− cH2 )より,戦争(1− p1− cL2)の方が「得」だから ▶ 交渉による解決では,SL2 なのにせいぜい「戦争を恐れるS H 2 の戦争の期待利 得1− p1− cH2」しか獲得できない ▶ 例:p1= 0.5, cH2 = 0.2, cL2 = 0.1ならどうなる? ▶ 結果:戦争という非効率的な係争解決に至る過大評価の帰結:効率的だが,自らに不利な係争解決
誤認 2: S1が,S2の決意を過大評価した場合 ▶ 設定:現実には「戦争を恐れる SH 2 」を相手にしているとき,「戦争を厭わな い SL 2」だと S2を誤認した場合 ▶ S1の行動:妥協案xL= p1+ cL2 を「誤って」提案してしまう (必要以上に 譲歩してしまう) ▶ S2の行動:1− p1− cH2 < 1− xL= 1− p1− cL2 なので,S2Hは提案 xLを 受諾 ▶ 戦争(1− p1− cH2 )より,交渉による解決(1− p1− cL2)の方が「得」だから ▶ 交渉による解決では,SH2 なのに(本来望めない)「戦争を厭わないSL2 の戦争 の期待利得1− p1− cL2」を獲得できる ▶ 例:p1= 0.5, cH2 = 0.2, cL2 = 0.1ならどうなる? ▶ 結果:「共通の不利益」(戦争) は避けられるが,S1は「大損」(国益の損失). 必要以上の譲歩という,効率的だが,S1に好ましくない係争解決に至るリスク・リターンのトレードオフ
S1のせめぎ合う誘因 1 一方では,非効率な戦争 (交渉の失敗) を回避したいという誘因 ▶ 相手の決意を過小評価すれば,戦争に陥りかねない(誤認1) 2 他方では,自らの利益を最大化したいという誘因 ▶ 相手の決意を過大評価すれば,国益を失いかねない(誤認2) =⇒ 戦争の危険性を最小化しようとすれば,国益を失いかねない.国益を最大化 しようとすれば,戦争の危険を招きかねない (risk-return trade-off) ▶ 情報の不確実性は,「交渉の失敗」(戦争) の必要条件 Kydd, Chap. 6.情報の不確実性
(
不完備性
)
と誤認させる誘因
誤認させる誘因 (incentives to misrepresent) Q S1が S2のタイプを誤認することが,戦争という「共通の不利益」に繋がり 得る.この構図が明らかなら,S2が私的情報を開示すれば,交渉による解 決という「共通の利益」を実現できるのでは? ▶ 実際,危機外交は「武力の威嚇を背景とした交渉あるいはコミュニケー ション」 ▶ 武力の威嚇や軍事力の動員は,「武力紛争の準備」(軍事)と同時に「危機外交の 言語(language of coercive diplomacy)」(政治)▶ 武力を背景としたコミュニケーションが成功すれば,戦争も回避できるはず A 信憑性 (credibility)のある私的情報の伝達は困難 1 威嚇を実行に移すことには,コストを伴うから 2 うまく相手に誤認させれば,S2はより大きな譲歩を引き出せるから (incentives to misrepresent) 3 S1もこの構図を理解しているから
情報の不確実性
(
不完備性
)
と誤認させる誘因
現実の S2 S1が認識する S2 S1が提案する配分案 x 交渉の帰結 SL 2 (狼) S H 2 (羊) x H 戦争(誤認 1) SL 2 (狼) S2L(狼) xL 交渉妥結 SH 2 (羊) S2H (羊) xH 交渉妥結 SH 2 (羊) S2L(狼) xL 交渉妥結 (誤認 2) ▶ 仮定より cH 2 > cL2 なので,S2の利得について 1− xL> 1− xH =⇒ SH 2 は「自分は S2Lだ」と S1に誤認させれば,より大きな譲歩を S1から引 き出せる (誤認させる誘因がある) ▶ ただし,誤認させる誘因が生じるのは,1− q < 1 − p1− cL2 ⇐⇒ q > p1+ cL2 の場合(少なくとも,SL 2 は現状qに不満を抱いている) ▶ 均衡クラスの図でいうと,q > p1+ cL2 のq2やq3となっている状況2と3疑問:私的情報の
信憑性のある
伝達は可能か?
問題の所在 ▶ SH 2 (羊) は,(騙すと「得」なので)「誤認させる誘因」をもつ ▶ S2L (狼) も,(戦争は「損」なので)「本当のことを言う誘因」をもつ ▶ 上の均衡では,「lが高いほどS1は(狼にあわせて)大きく譲歩する」ことに注意 ▶ S1もこれを理解しているので,「同じことを言う」誘因をもつ S2が ck2を 「言葉で」伝えたところで,信憑性 (credibility)はない ▶ S2HもS L 2 も「同じことを言う」ことで,より大きな利得を実現できる可能性 があるから ▶ 狼にも羊にもできるチープ・トーク (cheap talk)は信用できない疑問:私的情報の
信憑性のある
伝達は可能か?
意図の伝達
The Secretary [of State Dean Acheson] pointed out that the Chinese Communist were themselvestaking no riskin as much as their private talks to the Indian Ambassador could be disavowed. . . . [I]f they wanted to take part in the “poker game”they would have to put more on the tablethan they had up to the present (FLS, 99)
疑問:私的情報の
信憑性のある
伝達は可能か?
3 つの「処方箋」
発想:S2L (狼) しか払えないコストをかけて伝達すればいい! (costly signaling)
前提:コスト∈ { 事前 (ex ante) コスト, 事後 (ex post) コスト }
▶ 瀬戸際外交 (brinkmanship diplomacy):「今にも落ちそうな吊り橋」に「相手 を一緒に連れて行って」,橋を揺らす̸= 「死ぬ死ぬ詐欺」
▶ 「手を縛る」(tying-hands):「背水の陣を敷く」
意図の伝達としてのコミュニケーション
意図の伝達
It is possible that the Chinese government is resolved to intervene if we attack North Korea, and it is possible that it isnot so resolved. How can we know if we
are facing a “resolute” China or an “irresolute” China? What would we look for to
distinguish these two “types” of adversary. The answer is: we would want to look foractions that a resolute China would be willing to take but an irresolute China would be unwilling (or, at least, less likely) to take. (FLS, 100)
意図の伝達としてのコミュニケーション
意図の伝達 コミュニケーションとは,メッセージの伝達以上のものである.なぜなら,脅し を相手に伝えるためには,それに付随するコミットメントや約束と一緒に伝えな ければならないからである.そして,コミットメントを相手に伝えるためには, 言葉の伝達以上のものが必要となる.つまり,コミットメントが存在すること の ˙証 ˙拠を伝えなければならないのである.それゆえ,相手が直接何かを見るよう に仕向けたり,主張を裏付ける仕掛けを相手に見つけ出させたりしない限り,脅 しを相手に伝達することはできない・・・・・・拳銃に弾丸が装填されたことをただ口 でいっただけでは証明することはできない(シェリング 2008[1960]: 152)行動の「不自由」と交渉力
行動の不自由という逆説 自発的かつ不可逆的に行動の自由を捨て去ること,それがこの [交渉の] 戦術の 本質である.つまり,自らを拘束する力が敵を拘束する力となるというパラドッ クスがそれである.弱さは強さとなり,自由であることは敗北となり,退路の橋 を打ち燃やすことが敵の破滅を導く.それが交渉というものである (シェリン グ 2008[1960]: 22)私的情報の信憑性のある伝達:瀬戸際外交
瀬戸際外交 (brinkmanship diplomacy) ▶ 瀬戸際外交≡「認識できるものの完全にコントロールできない戦争のリス クを意図的に作り上げ」,「自分の手から状況のコントロールを意図的に切り 離す戦術」のこと (シェリング 2008[1960]: 208) ポイント ▶ 国際危機において,軍事的挑発行為によって自国と相手国を戦争の「瀬戸際 (brink)」に立たせることで,武力行使の決意を伝達する ▶ 獲得が期待できる「パイ」の価値が小さいほど (あるいは戦争コストが大き いほど),ある主体は瀬戸際に立つことをためらうはず ▶ 戦争のリスクを受け入れてみせることで,自らの決意を伝達する ▶ ただし,「戦争という奈落の底」飛び降りるか否かを,自分で決められる状 況では意味がない =⇒ 「自分ではコントロールできない状況にする」ことが肝要私的情報の信憑性のある伝達:瀬戸際外交
「瀬戸際」 瀬戸際とは,足を踏ん張りながら眼下に視線をおろし,そこから飛び込むかどう かを決定するような崖の先端のようなものではない.そうではなくそれは,滑り 落ちるリスクのある湾曲した板のようなものであり,前に進むほど傾斜が深くな り,滑っていくリスクは高くなる・・・・・・リスクがどれほどなのか,また坂を少し 下るとリスクがどれだけ増えるのかについてよくわからないのである.誰かが制 止する前に身投げできるほど崖の先端にたたずむ人がおり,その人がジャンプす ると ˙意 ˙を ˙決 ˙す ˙れ ˙ば,ロープで結ばれている相手を怖がらせることができるといっ たような状況は,瀬戸際ではない.どんなに努力したとしても落ちてしまう坂の 上に,相手とともに立つことこそが,瀬戸際外交なのである (シェリン グ 2008[1960]: 208).私的情報の信憑性のある伝達:瀬戸際外交
Does N ot Thr eaten Status Quo C oncedes Appeasement Backs Down Not EngageS1 Threatens S2 Resists S1 Engage
Follows Through Does N ot Thr eaten Status Quo C oncedes Concession Backs Down Not Engage
事例:キューバ危機
(1962)
事態の経過 日付 事項 (いずれも 1962 年) 10 月 14 日 アメリカの U-2 偵察機がキューバへのミサイル配備を確認. 10 月 22 日 アメリカのケネディ (John. F. Kennedy) 大統領は,TV 演説に おいてキューバ海上封鎖を命令,ミサイル撤去をソ連に要求. 10 月 24 日 アメリカ,キューバの海上封鎖開始 10 月 26 日 ソ連のフルシチョフ (Nikita Khrushchev) 首相は,ミサイル撤去は, アメリカによるキューバ不侵攻の約束次第であることを通告. 10 月 27 日 フルシチョフはソ連によるキューバからのミサイルの撤去と引き換えに, アメリカによるトルコからのミサイルの撤去を要求. 10 月 28 日 フルシチョフはキューバからのミサイル撤去を公表. 中西・石田・田所 (2013: 126) に追記.瀬戸際外交の事例としてのキューバ危機
(1962)
FLS/ https://www.jfklibrary.org ▶ 米国の動き ▶ 陸軍部隊を本土南東部に移動,空軍の警戒 レベル引き上げ.さらに,180隻の海軍艦 艇をカリブ海に展開させ海上封鎖準備 ▶ 10/22の大統領演説中にDEFense CONdition (DEFCON) 3へ警戒態勢を引 き上げ ▶ 10/24にはキューバに対する海上封鎖開始 ▶ ソ連による奇襲にも即座に対応でき,反撃 のための核戦力 (第二撃能力) も確実に生 存するように ▶ ソ連は米国側の動きに強く反発,キューバ も臨戦態勢へ ▶ いずれも偶発戦争のリスクを伴う対応だ が,それによって強い決意を公然と表明行動の「不自由」と交渉力:
Tying-hands
Send signal m Don’t challenge v1, 0 (現状維持) Challenge Don’t fight −m1, v2(撤回・宥和) Fight p1v1− c1, p2v2− c2(戦争) S1 S1 S2 最後の最後で「戦争回避を選びそう」だから信用されない! 「片方はコストが高過ぎて選べない」状況にしてしまえばいい!James D. Fearon. 1997. “Signaling Foreign Policy Interests: Tying Hands versus Sinking Costs.” Journal of Conflict Resolution 41(1): 68–90.
私的情報の信憑性のある伝達
: Tying hands/audience cost
Tying hands ▶ 「手を縛ることによる意図の伝達 (tying-hands signals)」≡ コミットメント を撤回した際に (事後) コストが生じる状況を作り出すことで,コミットメ ントの信憑性を確保すること ▶ 主要な手段は,国内外の観衆費用 (audience cost) ▶ 観衆費用≡コミットメントの撤回によって被る政治的コスト▶ 国内観衆費用(domestic audience cost): 有権者の支持,選挙結果,野党の批
判,軍部の信任
▶ 国際観衆費用(international audience cost): 国家・政府の国際的威信・評判, 政治家個人の威信,将来における信憑性の喪失 ポイント ▶ 事前のコスト (ex ante) はかからないが,コミットメントを撤回すれば事後 (ex post) コストが生じる ▶ コミットメントを撤回すれば事後 (ex post) コストが生じる状況に自らを追 いやり,撤回という選択肢を封じてしまう
私的情報の信憑性のある伝達:
Tying hands/audience cost
Send signal m Don’t challenge v1, 0 (現状維持) Challenge Don’t fight −m1, v2(撤回・宥和) Fight p1v1− c1, p2v2− c2(戦争) S1 S1 S2 観衆費用の論理 ▶ S1は,(威嚇の) コミットメントを撤回すれば−m1の利得を得る ▶ S1は,(威嚇の) コミットメントを実行すれば p1v1− c1の利得を得る ▶ p1v1− c1>−m1になるよう観衆費用 (m1) を掻き立てれば,信憑性のある 意図の伝達 (ここでは威嚇) ができるTying-hands signals
の事例としてのキューバ危機
(1962)
▶ テレビ演説,国連での問題化 ▶ 同盟国・友好国への特使・親書送達 ▶ 瀬戸際外交と同時に,事態を公然下させる ことで,国内的・国際的観衆費用を伴う状 況を作り出す▶ 類似の事例:“This will not stand. This will not stand, this aggression against Kuwait” (G. Bush, 1990)
▶ 好対照の事例:朝鮮戦争時における中国に よる米国への威嚇と抑止の失敗(前回講義,
FLS)
「抑止」力,
「防衛」力,威嚇の信憑性
Schelling の「仕掛け線 (trip-wire)」論:「抑止」力と「防衛」力 [トルーマン] 政権が,議会に対して米軍の欧州における平時駐留の承認を要請した際,以下のような 議論が明示的になされた.すなわち,米軍兵力は優位に立つソ連軍に対して [西欧を]防衛するため に配備されるのではなく,西欧に対するいかなる攻撃に対してもアメリカが自動的に関与すること を,ソ連に確信させるために配備される (Schelling 1966: 47, 訳文は中西・石田・田所: 150 修正) [戦略的な脅しの] 目的は,事 ˙˙前 ˙に抑止することであって,事 ˙˙後 ˙的 ˙に復讐することではない.脅しに信 憑性を付与するためには,脅しを実行しなければならないこと,またはそうするインセンティヴが自 分にあること [,] もしくは実行しなければ懲罰が自分に科せられるので,そうせざるをえないことを 証明しなければならない.ヨーロッパにアメリカが軍隊を「トリップ・ワイヤー (trip wire)」として 駐留させているのは,(中略) ヨーロッパで戦争が起こればアメリカが必ず参戦すること,つまり,コ ミットメントからの逃亡が物理的に不可能であることをソ連に確信させるためである (シェリング 2008[1960]: 195) ▶ 駐留米軍は,軍事的な力(防衛力)ではなく政治的な力(抑止力) ▶ 駐留米軍という「仕掛け線」の存在が,威嚇と約束に信憑性をもたせる ▶ 敵対国に対しては,共同防衛の威嚇に信憑性をもたせる ▶ 同盟国に対しては,共同防衛の約束に信憑性をもたせる行動の「不自由」と交渉力:埋没費用
Send signal m Don’t challenge v1− m1, 0 (現状維持) Challenge Don’t fight −m1, v2(撤回・宥和) Fight p1v1− c1− m1, p2v2− c2(戦争) S1 S1 S2 最後の最後で「戦争回避を選びそう」だから信用されない! 実際にコストを払ってみせればいい (狼だからこそ,羊には負担できないこれだ けのコストを既に負担すればいい)!私的情報の信憑性のある伝達:埋没費用
埋没費用 (sunk cost) ▶ 「埋没費用による意図の伝達 (sunk-cost signals)」≡ 武力行使に至る/至ら ないを問わず発生する費用 (事前コスト ex ante cost) を支払ってみせるこ とで,コミットメントの信憑性を確保すること ▶ 典型例:軍の動員・部隊の展開 ポイント ▶ 「事前コストは発生しないが,事後コストが発生する状況を作り出す」こと で意図を伝達する tying-hands signals とは対照的 ▶ 埋没費用によるシグナルでは,決意が高くなければ負担しないであろう「武 力行使をするか否かを問わず発生するコストを支払う」ことで,他者に意図 を伝達する ▶ 「事前コストの支払い」によって, ▶ 実際に武力を行使する際に追加的に払うコストを下げてしまう私的情報の信憑性のある伝達:埋没費用
Send signal m Don’t challenge v1− m1, 0 (現状維持) Challenge Don’t fight −m1, v2(撤回・宥和) Fight p1v1− c1− m1, p2v2− c2(戦争) S1 S1 S2 埋没費用の論理 ▶ S1は,(威嚇の) コミットメントを撤回しても実行しても,m1を負担しな ければならない ▶ S2が譲歩しても (挑戦してこなくても),S1はm1を負担しなければなら ない ▶ 危機の推移を問わず発生する埋没費用 (m1) を事前に支払ってみせること で,信憑性のある意図の伝達 (ここでは威嚇) ができる埋没費用の事例としてのキューバ危機
(1962)
▶ 米国は,陸海空軍の部隊を展開し,国内の 警戒体制も引き上げ ▶ さらに海軍による海上封鎖も展開 ▶ 類似の事例: ▶ 湾岸戦争に際するペルシャ湾への米艦隊派 遣(1991) ▶ 第三次台湾海峡危機における米艦隊派遣 (1995–1996) ▶ シリア内戦に際する地中海への米艦隊派遣 (2013)私的情報の信憑性のある伝達:
「処方箋」と「副作用」
3 つの「処方箋」 ▶ 瀬戸際外交・「手を縛る」・埋没費用 ▶ 実際の政策は異なるが,背後にある論理は同一 =⇒ 「他のタイプと峻別可能なコスト」を,「相手が観察可能な形で」負担して みせる (あるいは,負担せざるお得ない状況に自分自身を追い込む) ▶ モデルの「ありがたみ」 ▶ 3 つの「処方箋」はいずれも「理念型」 ▶ 現実の国際政治では,3 つの手法が混合されて用いられる (あるいは,1 つ の動きにいくつかの側面/働きがある) ▶ 例:ここまで触れたキューバ危機の側面・解釈私的情報の信憑性のある伝達:
「処方箋」と「副作用」
「副作用」 ▶ いずれの意図の伝達方法も,なんらかの「コスト」を用いて意図を伝達 (情 報の不確実性を払拭) する試み ▶ 同時に,「処方箋」自体が,緊張を高め戦争を誘発する恐れもある ▶ (コミットメントの信憑性を高める手段はすべて,)交渉の行き詰まりや破綻の 可能性を生み出してしまう危険性をもっている.なぜなら,相手が譲歩できる 限界以上のものを絶対に譲れない要求として出してしまうかもしれないからで ある(シェリング2008[1960]: 29) ▶ 例:瀬戸際外交による偶発的戦争,「相手が譲歩できない点」へのtying-hands によるロックイン 情報の不確実性の直接効果と間接効果 1 直接的には,交渉可能領域の範囲やリスクとリターンのトレードオフ,誤認 させる誘因を通して,戦争を惹起し得る 2 間接的には,不確実性を払拭しようとする主体の試み自体が,戦争を惹起し戦争の交渉モデル:コミットメント問題
交渉論における戦争原因は,3 つに分類できる 1 情報の問題 (information/informational problem) 2 コミットメント問題 (commitment problem) 3 争点の分割不可能性 (issue individuality) 問題 ▶ 情報の問題と不確実性:情報の不確実性が戦争につながり得る.いくつかの 方法によって,私的情報を伝達できる可能性もある ▶ 問い:では,情報の不確実性を払拭できれば (完全完備情報 perfect and complete information ならば),戦争は「必ず」回避されるのか? たとえば, 「将来の有利不利」を考えた場合は? ▶ 回答:交渉可能領域の範囲・位置について情報の不確実性が存在しなくて も,交渉は失敗し得る戦争の交渉モデル:コミットメント問題
コミットメントとコミットメント問題 ▶ 広義のコミットメント≡ 自らの将来行動の事前予告 ▶ 狭義のコミットメント≡その内,信憑性(credibility)のあるもの ▶ コミットメント ={ 威嚇型, 約束型} ▶ コミットメント問題≡ 何らかの要因で将来生じる自らの優位を背景に,「相 手に譲歩を迫らないという約束の信憑性」を確保することが困難なために, 戦争 (交渉の失敗) が生じる ▶ (多くの場合)情報の問題では威嚇の信憑性,コミットメント問題では約束 の信憑性が問題になる意図の伝達と同意の確保:強制と安心供与
(
再掲
)
強制外交 (coercive diplomacy) ▶ 相手にとって好ましくない事態をもたらす行動 (e.g., 武力行使) をとるとい う威嚇 (threats)によって,自らに好ましい帰結をもたらす行動 (e.g., 武力 行使の自制) の選択を相手に迫ること ▶ 抑止(deterrence):上記の意味での威嚇によって,他国に特定の行動をとるこ とを思いとどまらせること(現状の維持) ▶ 強要(compellence):上記の意味での威嚇によって,他国に特定の行動を強い ること(現状の変更) ▶ 成功した強制は,武力の「行使」を伴なわない! ▶ しばしば,強要は抑止よりも困難(R. Jervis, T.C. Schelling) 安心供与外交 (reassurance diplomacy) ▶ 相手にとって好ましくない事態をもたらす行動 (e.g., 防衛義務の反故) を自 制するという約束 (promises)によって,自らに好ましくない行動 (e.g., 寝 返り) の選択の再考・自制を,相手に求めること戦争の交渉モデル:コミットメント問題
2 つの「合意」の必要性 1 係争対象の財を,どのような水準で配分するかという合意 (e.g., (0.5, 0.5) なのか (1, 0) なのか) 2 一旦合意した財の配分水準を,将来において覆さないという合意 (約束型の コミットメント) 根本的な問題 ▶ 国際システムのアナーキー性故に,自動的な/強制的なコミットメントの履 行は期待できない ▶ 2 つの「合意」の問題:(1) ある主体がある時点 t1においてある財の配分水 準に合意する誘因をもっていたとしても,(2) 次の時点 t2では配分水準の合意・約束を反故にする誘因 (incentives to renege on prior agreements) をも つかも知れない
戦争の交渉モデル:コミットメント問題
コミットメント問題の類型
1 力の源泉を巡る交渉 (bargaining over a source of future power) 例 軍事的要衝,大量破壊兵器
2 勢力バランスの急激な変動と予防戦争 (preventive war)
▶ パワー・シフト
3 先制攻撃/攻撃の優位 (first-strike advantage/preemptive war) 例 奇襲攻撃の優位性
コミットメント問題:力の源泉を巡る交渉
問題の構図 ▶ 現在における係争解決の合意が,将来における S1と S2の間の勢力バラン スに影響を与える ▶ 「今日」交渉による係争解決に合意 (x, 1− x) が可能でも,勢力バランスが 変われば,将来その合意が反故にされるかも知れない =⇒ 「今日の合意」が「明日の (自らの) 不利」につながる可能性 ▶ 数式で表現すれば,t− 1 期の配分 (xt−1, 1− xt−1) が,w1t = p(xt−1)− c1 のように,t 期の戦争の期待利得を規定する状態コミットメント問題:力の源泉を巡る交渉
問題の構図 (承前・補足) ▶ 数式で表現すれば,t− 1 期の配分 (xt−1, 1− xt−1) が,w1t = p(xt−1)− c1 のように,t 期の戦争の期待利得を左右する状態 ▶ つまり,「パイ」の配分が x のとき,S1は p(x) の確率で勝利する ▶ 他方,S2の勝利確率は p2≡ 1 − p(x) ▶ ただし,今日の交渉によるパイの配分が,明日の勢力バランスを「急激に」変 動させる場合のみ戦争が生じ得る(Fearon, 1996; Powell, 2006) ▶ 「徐々に」変動させるにとどまるなら,「サラミ戦術(salami tactics)」による勢 力バランスの変動・「パイ」の逐次的な再配分が生じるのみ(Fearon, 1996) ▶ 厳密に言えば,xの変動について“continuous” (「徐々に」)と “discontinuous” (「急激に」)いずれを仮定するかということ ▶ 教科書のFLSでは,この点がやや不明瞭なので注意コミットメント問題:力の源泉を巡る交渉
t + 1 期における交渉可能領域 t 期における交渉可能領域 0 S2の理想点 1 S1の理想点 p(xt−1)− c1 p(xt−1) + c2 p(xt)− c1 p(xt) + c2 典型例 ▶ 軍事的な要衝地を巡る領土紛争 (e.g., 第三次中東戦争におけるゴラン高原) ▶ 地下資源・経済発展の基礎となる領土を巡る領土紛争 (e.g., ラインラント)▶ 大量破壊兵器 (weapons of mass destruction, WMD) 開発計画の継続・破棄 (e.g., 北朝鮮,イラン,リビア)
力の源泉を巡る交渉:軍事的要衝を巡る紛争
http://www.globalsecurity.org ▶ 第三次中東戦争 (六日戦争, 1967 年) にお けるゴラン高原の攻防 ▶ 軍事的な要衝としてのゴラン高原 ▶ 1967 年 5 月エジプトがシナイ半島に地上部 隊を展開,さらにエジプトの要求もあり第 一次国際連合緊急軍撤退 ▶ 1967 年 6 月,イスラエル軍の攻撃により開 戦.6 日間の戦闘でほぼ勝敗が決する ▶ ゴラン高原はイスラエルが占領.他方,ア ラブ側との戦闘継続 ▶ 国連 PKO (国連兵力引き離し監視軍 UNDOF) の展開と「安定」力の源泉を巡る交渉:大量破壊兵器開発を巡る交渉
▶ 朝鮮半島核危機 ▶ イランの核兵器開発問題 ▶ リビアの大量破壊兵器開発問題 ▶ 米国・西側との交渉:一部の国家について の交渉の失敗・戦争の生起と,一部の国家 についての交渉の継続 ▶ 争点としての「体制の保証」の約束力の源泉を巡る交渉:大量破壊兵器開発を巡る交渉
制裁措置を受けることを半ば織り込んで核実験やミサイル発射で危機を演出.時期を捉 えて米国との協議に応じ,従順ともいえる態度を示して見せ,ある時から一転,再び挑発 に出る——.瀬戸際戦術を繰り返す北朝鮮の狙いは一貫している. 朝鮮半島で1950年に始まった朝鮮戦争はなお国際法上は「終戦」に至っておらず,米 朝は今も53年に署名した休戦協定に基づく「敵国」の関係にある.北朝鮮が切望するの は,朝鮮戦争を終息させ,米国に不可侵を約束させて独裁体制への「保証」を得ることだ. だが,折から世界では,独裁体制への「保証」獲得が容易でないことを裏付ける動きが 続く.中東民主化の波「アラブの春」の後,エジプトやリビアの独裁政権は崩壊.シリア のアサド政権も今,米欧の圧力の前に瓦解寸前の状態になった. こうした国々と北朝鮮との決定的な差が核・ミサイル技術だ.米本土にも影を伸ばす北 朝鮮の脅威は,米国を直接交渉に誘う装置として機能しているのだ. 「北朝鮮、「核保有」で次は体制保証へ米と対話も」『日本経済新聞』2013 年 2 月 13 日力の源泉を巡る交渉:大量破壊兵器開発を巡る交渉
米国のマイク・ポンペオ(Mike Pompeo)国務長官は 11 日、北朝鮮が「完全 で検証可能かつ不可逆的な非核化」に着手するならば、同国に「他に類を見な い」安全を保証する用意があると言明した。 歴史的な米朝首脳会談を翌日に控え、ポンペオ国務長官は事前交渉が予想以上 に速やかに進展したと明かした。 その上でポンペオ氏は、「非核化は、北朝鮮にとって悪い結末をもたらすもの ではないどころか、その正反対で、北朝鮮の人々のため明るくより良い未来に導 くものであると北側が安心感を得られるよう、十分な確実性を提示するための行 動を起こすつもりだ」と述べた。 「米国務長官、北が非核化すれば安全保証の用意ありと言明」『AFP』2018 年 6 月 11 日コミットメント問題:勢力バランスの急激な変動と戦争
問題の構図 ▶ 現在における係争解決の合意が,将来における S1と S2の間の勢力バラン スに影響を与える ▶ 「今日」交渉による係争解決に合意 (x, 1− x) が可能でも,勢力バランスが 変われば,将来その合意が反故にされるかも知れない =⇒「今日の合意」が「明日の (自らの) 不利」につながる可能性 (ここまで は先ほどと同じ) ▶ 「今日の交渉結果」だけでなく,外生的要因によっても,勢力バランスの急 激な変動 (パワー・シフト power shift) が生じ得る 予防戦争の類型 ▶ 「強者の予防戦争」:現在優位に立つが,他主体の台頭・勢力バランス逆転 を予見する主体による予防戦争 (e.g., 普仏戦争,WWI) ▶ 「弱者の予防戦争」:現在劣位に立ち,かつ将来においてより大きな譲歩をコミットメント問題:勢力バランスの急激な変動と戦争
t + 1 期における交渉可能領域 t 期における交渉可能領域 0 S2の理想点 1 S1の理想点 p1− c1 p1+ c2 p1− ∆p − c1 p1− ∆p + c2 パワー・シフトに伴う選好の変容とその効果 ▶ シフト前 (t 期):S1, S2いずれにとっても「交渉による解決」⪰「戦争によ る解決」 ▶ シフト後 (t + 1 期):優位になった S2にとって「戦争による解決」≻「t 期 の合意の遵守」 ▶ 劣位になることを予見する S1は,(1)「t 期の交渉による解決の利得×1」+ 「t + 1 期の戦争の期待利得×1」と,(2)「t 期の戦争の期待利得」×2 を比 べ,(2) の方が大きければ,t 期での予防戦争に訴える誘因をもつコミットメント問題:ゲームの構造
Wait 2(p1− c1), 2(p2− c2) Attack 1 0 Propose x Reject 2q, 2(1− q) Accept q + x, 1− q + 1 − x Attack q + p1− ∆p − c1, 1−q +p2+ ∆p−c2 S1 S1 S2 パラメータ ▶ 外生的要因によるパワー・シフトを想定 (S2に有利な変動) ▶ ∆p∈ (0, p1] は「パワー・シフトの大きさ/急激さ」 ▶ p1は S1の t 期の勝利確率,p2≡ 1 − p1は S2の t 期の勝利確率, ciは Siの 戦争コスト, (q, q− 1) は現状の利得配分 ▶ q∈ [p1− c1, p1+ c2] と仮定 (「今日の合意」はできている) ▶ 上の例に照らすと,S の最初の手番が t 期,それ以降が t + 1 期信憑性の「ない」威嚇
(
再掲,これにパワー・シフトを
入れる
)
交渉可能領域 0 S2の理想点 1 S1の理想点 q p1 p1− c1 p1+ c2 S1の戦争 の期待利得 S2にとって交渉≻ 戦争の範囲 S2の戦争 の期待利得 S1にとって交渉≻ 戦争の範囲 Case 1 ▶ 状況:1− q ≥ p2− c2⇐⇒ q ≤ p1+ c2: S2にとって,現状⪰ 戦争 ▶ 均衡:S1は最適提案 x∗≡ q (あるいは x ∈ [q, 1]) を提案し,S2は x≤ q な らば受諾 (“Accept”), x > q ならば拒否 (“Reject”) ▶ 解釈:現状維持.S2の利得が現状よりも悪化する結果につながる武力によ次回の内容と課題文献
▶ コミットメント問題の続き,争点の分割不可能性 ▶ 課題文献(必須):FLS (教科書)の第3–4章 ▶ 副読本・論文(推奨)
▶ 砂原・稗田・多湖,第 10 章
▶ James D. Fearon. 1995. “Rationalist Explanations for War.” International Organization 49(3): 379–414.
▶ James D. Fearon. 1997. “Signaling Foreign Policy Interests: Tying Hands versus Sinking Costs.” Journal of Conflict Resolution 41(1): 68–90.
▶ 河野 勝.2001.「『逆第二イメージ論』から『第二イメージ論』への再逆転? 国際関係と 国内政治との間をめぐる研究の新展開」『国際政治』第 128 号: 12–29.
▶ Kydd. Chaps.4–6
▶ Robert Powell. 2002. “Bargaining Theory and International Conflict.” Annual Review of Political Science 5: 1–30.
▶ Robert Powell. 2006. “War as a Commitment Problem.” International Organization 60(1): 169–203.
▶ Robert Putnam. 1988. “Diplomacy and Domestic Politics: The Logic of Two-Level Games.” International Organization 42(3): 427–460.
▶ シェリング,第 2, 5, 8 章
▶ Kenneth A. Schultz. 1999. “Do Democratic Institutions Constrain or Inform? Contrasting Two Institutional Perspectives on Democracy and War.” International