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結婚差別問題と家族

―部落問題研究と家族社会学の視点から―

齋藤直子

 大阪市立大学人権問題研究センター特任准教授

1 部落問題研究と家族

 2017 年 5 月に『結婚差別の社会学』という本を勁草書房から出し、 その少し前に『入門 家族社会学』という本に「結婚差別問題と家族」 という論文を書きました。今日はその内容を発表したいと思います。  じつは、家族社会学的な部落問題研究や結婚差別の先行研究はす ごく少ないのです。ルポやインタビューや「解放新聞」の記事はた くさんあり、そのなかには質の高いものが多いのですが、整理され たものがないのです。同和対策審議会答申にも、「結婚に際しての 差別は、部落差別の最後の越え難い壁」と書いてあり、山本登さん の論文「被差別部落の人口現象の基本的傾向」(1984)にも、婚姻の 研究は差別解消の指標になると強調されていたり、重要であるとは いうものの、そのものの研究は少ないのです。  部落問題研究と家族を考えるとき、2 つのアプローチがあって、1 つは「部落の家族の研究」、もう 1 つは「部落を排除する配偶者選択(結 婚差別)の研究」です。前者はライフヒストリー研究や 80、90 年代 にいろいろな地域で行われた聞き取り調査などがありますが、後者はほとんどありません。また「部落問題 研究の社会学」と「家族社会学」が断絶していて、家族社会学のなかで部落問題をやっているのは、今は神 原文子さんぐらいです。  過去の論文や雑誌をさかのぼってみると、ユネスコの国際研究事業としておこなわれた日本人文科学会編 『社会的緊張の研究』に、少数同胞の問題として部落問題が取り上げられているのですが、1953 年の雑誌『部落』 に「緊張派」批判が掲載されています。部落の実態調査については、家族社会学の小山隆さんが担当してい ました。小山隆さんは、当時かなり有名な家族社会学の研究者でした。その後、部落問題の研究をしなくなっ ていくのですが、緊張研究批判が原因のひとつだったのではないかと思います。ただ、この本では、小山隆 さんは山本登さんと同じ調査票をつかって、大阪の生江部落の研究をしていて、山本さんは批判されていな いのに、小山さんは批判されていることから、「緊張派」としてひとくくりに批判されてしまったのではな いかと思える節もあります。  また、50、60 年代に部落問題研究の主流を占めていた大藪寿一さんや大橋薫さんといった方々の著作が、 次第にみられなくなります。部落問題を社会病理学的アプローチでおこなうことへの批判が背景にあったの だと聞いています。  その後、山本登さんや中川喜代子さんらの実態調査、戸籍簿調査があり、聞き取りなどもしているようで すが、聞き取りを分析した論文はありません。わたしの師匠の野口道彦さんは、当時の最新の研究技法であ る因子分析をやっていて、先行研究として非常に参考になるのですが、野口さんは市民意識調査の研究なの で、結婚差別などの質問項目は仮想の想定なので、結婚差別の実態とは少し違います。神原文子さん、熊本 理抄さんは部落のひとり親研究、ジェンダー論的な研究からは、木村涼子さん、玉井真理子さん、服部あさ さいとう なおこ さん

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こさんなどが行っていますが、結婚差別のことを直接やっているのではなく、間接的、断片的に扱っている ので、参考にはなりますが、結婚差別そのものをテーマにしている先行研究はやはり、ありません。  レジュメに「家族社会学の配偶者選択論」と「人権意識調査における忌避される要因」の非接合と書きま したが、配偶者がどのように選ばれるのかは、家族社会学では中心的な研究テーマです。統計調査から、た とえば、同じ階層の人同士が結婚しているといった研究がなされているのですが、基本的にはマジョリティ の研究です。統計調査は「日本社会の…」という論じ方をするので、マイノリティは外れ値としか見ないので、 マイノリティの結婚差別を視野に入れてきませんでした。一方で、人権意識調査ではマイノリティが忌避さ れる要因をかなりやってきました。配偶者選択の同じ議論なのに、接合されてこなかったので、併せて考え るとなにが見えるのかということが、わたしの一つの問題関心でした。  部落解放・人権研究所はこの点に 2000 年頃から目をつけていて、「通婚カップル調査」として部落出身・ 部落外出身のカップルの聞き取りをしていました。大阪府の被差別体験調査(2000 年調査)はわたしもメンバー として、たくさんの聞き取りを行いました。このあたりから、結婚差別を実証的に見ていこうという流れが 生まれ、2005 年には結婚差別の研究会が作られました。  同世代の社会学者では、内田龍史さん、妻木進吾さん、堤圭史郎さんが、量的な調査と質的な調査を分担 してきましたが、内田さんは部落の若者のアイデンティティ、妻木さんや堤さんは都市社会学的な部落の実 態を統計的にやることに焦点をあて、わたしは家族社会学をやってきました。

2 『入門 家族社会学』

 『入門 家族社会学』の本のなかの「家族社会学の幅の広さに触れる」では、いわゆるマジョリティのこ と以外も見ていこうというアプローチをとっているので、そこで部落問題のことを書かせてもらいました。  学生向けの教科書ということでしたので、ディズニー映画『アラジン』を例として取りあげました。アラ ジンとジャスミン姫が身分を乗り越えた恋愛をしたときに、親である王様の反対があります。この身分違い の恋を成就させる物語に感動できるのは、わたしたちが近代的な恋愛観を内面化しているからです。ロマン ティック・ラブ・イデオロギーと呼ばれ、恋愛・性・結婚の三位一体論で、それを内面化していないとこの 映画は「感動」できません。この王様はなぜ反対するのか? とは思わないですよね。思うならあの映画は 面白くないわけで、親の障壁を乗り越えて恋愛を成就するという話に共感できるのは、親の反対はあると理 解できているからです。  この物語を導入部にして、結婚差別を通じて家族のあり方を見るとき、とくに結婚における親の子に対す る影響力を考えなければならないという話に入っていきます。  憲法第 24 条には「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し……」とあるので、字義どうりにとらえると、 親の承認はいらないわけです。しかし実際はどうかというと、親を無視して結婚していいのか? となりま す。結婚差別の聞き取りで、何が問題になっているのかというと、親の許可と祝福です。法的には意味はな いものの、親にあいさつに行ったり、結納や顔合わせといった慣習があります。たとえば『ゼクシィ』とい う結婚雑誌のサイトを見ても、Q&A で親へのあいさつ、承認を得るという項目がかなりあります。憲法上 どうかという話ではなく、親の影響力を無視して結婚できる人はどれくらいいるでしょうか。結婚式のイベ ントで、最後に親への手紙を読む場面で親が不在だと目立ちます。あれは家族的なものを強化する機能を果 たしていて、母子家庭や父子家庭だと非常に目立ちます。  わたしは大賀喜子さんと「結婚差別の kakekomi 寺」をやっているのですが、「親に結婚式に来てほしいけど、 反対されている」という相談が少なくありません。その相談に「親を無視して勝手に結婚したらいいやん」 と言うのは解決したことになりません。  そこでデータで見たのが 1.3「なおも強い親の影響」です。国立社会保障人口研究所という厚労省の外郭 団体が行った「出生動向基本調査」において、独身者に対して結婚しない・できない理由を質問しています。 18 歳から 24 歳の女性の場合、「親や周囲が同意しない」が 5%くらいあり、じつに 20 人に 1 人が、結婚し たいにもかかわらず、親や周囲の同意が取れず結婚できていないのです。質問はそこで終わっているので、 どういう理由で反対しているのかはわかりません。

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 次に EASS(東アジア社会調査)を見ます。このデータを分析した立命館大学の筒井淳也さんは、「この調 査で一番年齢の若い層である 1970 年代生まれでは、8 割近くが「近代的な恋愛婚」であるが、「親の影響あり」 18.1%、「親が紹介」2.3%、「伝統的アレンジ婚」1.1%を合わせると、何らかのかたちで親の介入があった人 は 2 割にのぼる」と言います。  家族社会学的に家制度の再検討をしている米村千代さんの知見によると、家制度の重圧に悩んでいるとい うよりは、親や祖父母に対する愛情のためである場合が少なくないということです。したがって、近代化す れば家意識が薄まるのではなく、家の継承と近代家族意識は相互補完的な場合もあるのです。  わたしの学生のコミュニケーションカードを見ても、ものすごく家族関係がよい子が多く、ただ「親子関 係の良さ」はともすれば自分ひとりで決められないことにもつながっていて、差別の強化にもつながってい るような気もしています。

3 結婚差別問題

 今の日本に身分制度はありませんが、結婚のときに家柄(家格)を気にする人がいます。比較家族史学会 の辞書をひくと、家柄とは、「歴史の古さ、近世における身分の高さ、財力、政治的威信など、家の来歴に もとづく評価である。近世の身分を誇る場合もあれば、村長や議員を輩出するなど、近代以降の社会的地位 の高さに由来する場合もある」とあります。近世のものや近代的な要素も含む複合的な概念ということです。  結婚差別がおこなわれるとき、近世の被差別身分にルーツがあると “ 見なされた ” 部落出身者のみだけで はなく、それ以外の要因でも差別がおこります。では、結婚のときに何にこだわるのか、2015 年の大阪府「人 権意識調査」の数字を見ていきます。  結婚において重視する(した)事柄で、もっとも高いのは「人柄や性格」93.6%、ついで「仕事に対する 理解と協力」44.3%、「家事や育児に対する理解と協力」40.7%、「経済力」38.9%、「職業」20%と続きます。 そのあと人権にかかわるような項目として、「離婚歴」14.6%、「相手やその家族の宗教」14.1%、「国籍・民族」 13%が続き、家柄や部落問題に関する項目では、「家柄」8.9%、「本籍地・出生地」6.5%でした。2015 年の 大阪府の調査では、「同和地区出身者」の項目が削除され、「本籍地・出生地」に差し替えられました。前回 の 2010 年の調査では、「同和地区出身かどうか」が 20.6%でしたので、調査のワーディングによって数字は 変わってくるので、今回の「本籍地・出生地」の数字も注意して読まないといけないだろうと思います。こ の大阪府の調査を見ても、家柄やルーツを気にしている人が、一定数いることがわかります。  次にヒアリングの事例です。「彼女が部落外出身で、彼が被差別部落出身で、彼女の家族から出身での反 対があり、そのことを被差別部落出身の彼に彼女の口から伝えるのはつらかったと思う。何度も話をした結 果、最終的には最後まで反対していたおばあちゃんも賛成してくれたが、それ以外の親しん戚せきなどには話してい ないだろう。今では結婚に反対されたのが嘘うそのように仲良くしています」といった事例を、本で紹介しました。  なぜこの事例を入れたのかというと、差別があっても乗り越えられるということを伝えたかったからです。  では、相手の家柄や身分はどうやって調べるのか。そのひとつが「直接本人に聞く」ことです。それは、 釣書・身上書というものです。まだこんなに古いことをやっているのかと思われますが、学生のなかにも「兄・ 姉の結婚のときにやっていた」なんて話も出てきます。家族のことでとても重要な事項なのに、比較家族史 学会の辞書には「釣書」の項目はありません。『部落解放・人権事典』には「本人の現住所、学歴、勤務先、 身体的事項、家族の名前と学歴、勤務地などを求める」とありますし、インターネットで調べると「釣書」 の事例が出てきます。  ほかには「本人に無断で調べる」というやり方があり、これを身元調べ・身元調査と言います。2011 年 には探偵社によって違法な身元調査が行われ、たくさんの逮捕者が出た「プライム事件」が発覚しました。 ただ、探偵業法という法律があり、本来、探偵社は部落差別につながる調査はできません。そして登録型本 人通知制度もできました。  しかし、近年の問題としてインターネットを使った身元調査(鳥取ループ問題)や、つきあったり別れたり が比較的自由にできるような恋愛のあり方などで、恋愛や結婚差別の状況はおそらく変わってきているだろ うと思われます。

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 ヒアリングの事例です。「部落出身 20 代男性 B さんは、出身を打ち明けたところ恋人が少しずつ距離を取 り始め、自然消滅した経験を持っている。彼は結婚を意識する前の段階で部落差別であると直感でわかるが、 証拠のないもので恋愛差別とネーミングした」。  このように結婚を意識しないなかでインターネットを介してカジュアル化された身元調査で、恋愛のうち にフェードアウトしていく見えない差別がかなりあるのではと推測されます。  次の話題に移ります。「親の影響力」と「部落に対する忌避」が結びついたとき、結婚差別が作動します。  東京都 2013 年「人権に関する世論調査」には、「かりに、あなたのお子さんの結婚しようとする相手が、 同和地区出身者であることがわかった場合、あなたはどうしますか」(子どもの場合)と、「かりに、あなた が同和地区の人と結婚しようとしたとき、親や親戚から強い反対を受けたら、あなたはどうしますか」とい う質問があります。子どもの場合では、「子どもの意志を尊重する。親が口出しすべきことではない」47%、 「親としては反対するが、子どもの意志が強ければしかたない」19%、「家族の者や親戚の反対があれば、結 婚しない」11%、「絶対に結婚しない」5%、「わからない」27%でした。近年、この「わからない」の数が すごくあがっていて、これは無関心なのか、実際のときの行動が読めません。  本人の場合では、「自分の意志を貫いて結婚する」26%、「親の説得に全力を傾けたのちに、自分の意志を 貫いて結婚する」30%、「家族の者や親戚の反対があれば、結婚しない」11%、「絶対に結婚しない」5%、「わ からない」28%で、ここでも「わからない」の数字が高いのですが、「家族の者や親戚の反対があれば、結 婚しない」が 11%もあり、親の影響力が実際に結婚を避けるという行為に結びつくことがわかります。結 婚には祝福という要素があることが、影響しているのだろうと思います。  大学のなかで結婚差別の問題を取り上げたとき、コミュニケーションカードで印象的だったのは、「ぼく の親は、何か物を買うとき、時間をかけて考えないと言って、やんわり反対してきます。そしてそれを買うと、 よく考えろと言っただろ! と叱責されます。結婚のときもこうくるだろう」と書いてきた学生です。だから、 結婚差別を考えるとき、差別の要素だけでなく、家族の要素という問題をもっと突っ込んで考えないといけ ません。また、「これまでは僕の意見を尊重してくれているけれど、結婚に関してはすごく介入してきそう」 というものもありました。近代家族は子どもの数が減り、ひとりの子どもに対して多額の投資をしています。 また、親も会社員が多く、子どもに継がせるものは土地や田畑ではなく、教育投資をして学歴をあげ、いい 職に就けるように手塩にかけて育てています。そうすると、子どもに対する愛情が集中し、就職や結婚の期 待値が高くなります。だから、親の「アドバイス」として子どもの管理をし、「変な虫がついたら困る」「望 んだ相手と結婚してくれ」と言うのだと思います。  そういうことを見ると、部落差別のなかには近代的な家族要素もあって、近代化すれば差別はなくなると いう言説は幻想で、近代家族のなかに差別を強化する要因があるような気がします。

4 家族主義と結婚差別

 ここでいう「家族主義」とは、エスピン・アンデルセンの「福祉レジーム」のうち、「保守的レジーム」 が志向するものです。つまり、介護や育児は社会ではなく、家族でするものだという考え方です。今、憲法 第 24 条が変えられようとしていたり、「家族の強化」へと社会が向かっている風潮があります。一方、むし ろ逆に、子育て支援を社会的にするほうが、結婚や出産の率もあがるという主張もあります。社会学や経済 学の分野から、いくら子育て支援には効果があると言っても政府は逆行している部分があって、保育所を増 やすと言う一方で、憲法第 24 条の改悪や家庭教育支援法など「家族の絆きずな」の強化をもくろんでいます。  戦後、法律や社会構造の変化によって、「イエ」や家族の影響力は相対的に弱まったはずなのに、結婚に おける親や家族の影響力は一定の維持がなされています。それは残っているのではなくて、戦後社会のなか で再編されていると考えられます。  「子育て・介護は社会に頼らずに家族でしなさい。家族の絆を大切にしなさい」という言説は、家族形成 への圧力になります。なぜなら、家族がうまくいかないと福祉も子育ても機能しないということで、だから 配偶者選択も慎重になります。そうなると、若者も結婚すること自体に躊ちゅう躇ちょしてしまいます。「家族の責任 を解除するほうが、結婚しやすくなる」と筒井淳也さんは統計的に言っているのですが、部落差別も同じで、

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家族内の「リスク」が高まるような状況を排除しようとするとき、結婚差別が正当化されます。おそらく、 家族主義が強化されれば、結婚差別も正当化されると推測できます。  今後のわたしの課題ですが、家族社会学学会は、標準的な家族の統計調査を 10 年ごとにしてきたわけで すが、今、標準的な家族の割合が減ってきています。調査自体が成り立たなくなってきたのです。30 年前 は標準的な家族のあり方が信じられてきたのですが、今は同じ調査票では調査がむずかしくなっていること がわかってきました。  家族社会学では、これまで非標準だとされてきた家族形態に関心が高まっています。今「NFRJ18」で質 的調査のプロジェクトが立ち上がったので、そのなかにわたしも部落問題か、結婚における親の影響の調査 をやるということでメンバーに入りました。だから、いろいろな家族に聞き取りに行けるという機会に恵ま れるようなので、結婚のときに、どんなふうに親の影響があったのかを実証していこうと思っています。最近、 結婚に反対された友人からの相談を受けたのですが、相手の男性はマイノリティ性をもっていたわけではな く、「ひょろっとしているからダメ」というものでした。ようは親が気に入らないだけで反対が起こるのです。 それを聞いたとき、わたしは部落問題による結婚差別のことだけを書いたわけではなかったことに気づいて きました。親の影響力を結婚に行使するときに、それがどういう結果になっていて、部落問題とどう共通し、 何が違うのかを今後見ていきたいと思います。

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