2012 年度 修士論文
暗黙的学習における座標学習について
早稲田大学 大学院スポーツ科学研究科
スポーツ認知神経科学専攻 身体運動科学研究領域
5011A065-9
原田 恵
研究指導教員: 正木 宏明 准教授
目次
1.序論
1-1.はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
1-2.暗黙的な刺激規則性学習 ・・・・・・・・・・・・・・2
1-3.暗黙的学習と明示的学習 ・・・・・・・・・・・・・・4
1-4.刺激 ―反 応 学 習説 ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・・ ・ 5
1-5.刺激 ―刺 激 学 習説 ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・・ ・ 6
1-6 反応 ―反 応 学習 説 ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・・ 7
1-7.事 象関 連電 位 (ERP) ・・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・・ 7
1-8.提 言 : 外部 座標 学習 説と 内部 座 標学 習説 ・・ ・ ・・ ・・ 9
1-9.仮 説 ・ ・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・・ 10
2.方法
2-1.実験参加者 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12
2-2.実験 場所 ・ 実 験器 材 ・ ・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・・ ・ 12
2-3.記録 した 指 標 ・・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・・ ・ 12
2-4.実験手続
2-4-1.練習ブロック ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12
2-4-2.テストブロック ・・・・・・・・・・・・・・・・ 13
2-4-3.質 問紙 ・ ・・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・・ ・ 14
3.結果
3-1.質問紙 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15
3-2.反応時間 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16
3-3.エラー率 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17
3-4.P300・N2 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18
3-5.LRP ・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・・ 20
4.考察
4-1.学習 自覚 度 と 学習 程度 の群 間 差 ・ ・・ ・・ ・ ・・ ・・ ・ 23
4-2.暗黙的学習の成立―エラー率と反応時間より― ・・・・23
4-3.注意 容量 配 分 の変 化― P300 と N2 より ― ・ ・ ・・ ・・ ・ 25
4-4.暗黙 的学 習 に よる 反応 準備 ― LRP より ― ・・ ・ ・・ ・・ ・ 26
4-5.総合 考察 ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・・ ・ 27
参考文献表
謝辞
付 録 1.質問紙
1.序論
1-1.はじめに
学習とは「繰 り返し経 験することで 行動が変 容していくと いう過程 」である が(葛西, 2000),学習 が意図的に行 われな か ったり,学 習者自身 が 学習の進行を 自覚しない場 合もある .そのような学 習は implicit learning と呼ば れており,W -illingham et al.の 研 究 が 草 分 け と な っ て い る (Willingham et al., 1989). な お , Tolman & Honzic (1930)が 提 唱 し た 潜在 学 習 (latent learning)は , 報 酬 が な く て も経験によっ て進む学 習 を指してお り ,意識 の有無に注目 した implicit learnin-g と は 別 物 で あ る .本 稿 で は 両 者 の 違 い を 明 確 に す る た め ,久 保 田 他 (2007)の表 現に則り,implicit learning を暗黙 的学習と 呼ぶ.暗黙 的学習は ,主に反応時間 や 正 答 率 (あ る い は エ ラ ー 率)な ど の 行 動 指 標 に よ っ て そ の 存 在 が 示 さ れ て き た . 暗黙的学習 は,3 つ に大別される .1 つ目 は単語のカテ ゴリー分 けの学習,2 つ目は複雑な ル ール の 学習,3 つ目は刺激の 規則性の学習 である. 特に,刺激 規則性学習に は ,スキ ル動作学習の 要素が含 まれている . スキル学 習時は小脳 の活動が漸減 していく 代わり に大脳 基底核 を 構成する 被殻 の活動が 活発になり , 学習過程が脳 電位でと らえやすい . そのため ,暗黙的学習 を起こ す 3 種類の 課 題の中でも, 刺激規則 性学習課題を 用いれば ,従来の行動 指標に頼 った研究と は異なり,生 理指標 か らの検証 が可 能となる . 刺激規則性 学習 にお ける争点は , 何を学習 したのかとい う点であ る .従来提 唱されてきた 仮 説 は 3 種類ある.刺 激が反応 にどれだけ関 連してい るかを学習 したとする「 刺激― 反 応学習説 」と ,刺激の 呈示位置を学 習した と する「刺激 ―刺激学習説 」と, 反 応動作を学習 した とす る 「反応―反 応学習説 」である. それぞれの説 を裏付け る先行研究は 後述 する . しかしなが ら,こ の 3 つの仮 説だけでは 学習の可能性 を網羅で きていない . 運動には,「どこ に動 かすか」と「どこ を動 かすか」という 選択が 必要である . 反応―反応学 習説では ,それらのど ちらを学 習したのか ま では言及 されていな い. そこで本研 究では , 外部座標学習 説と内部 座標学習説を 提案する .外部座標 学習説とは自 分の身体 の外にある事 物の位置 を学習すると 考える仮 説であり,
内部座標学習 説とは動 かす べき効果 器を学習 すると考える 仮 説であ る .ピアノ の演奏を例に 挙げると ,演奏者は長 い曲を弾 くために ,鍵 盤のシー クエンス を 学習したとす るのが外 部座標学習説 であり , 指のシークエ ンス を学 習したと す るのが内部座 標学習説 である .本研 究では , 座標概念を取 り入れ , 外部座標学 習説と内部座 標学習説 の それぞれの 妥当性を 考察する . 先述したよう に , 刺激 規則性学習 を 捉えるの に適した生理 指標は脳 電位であ る.脳電位に は ,持続 的な電気活動 である 脳 波と,ある事 象に対応 した一過性 の変化を表す 事象関連 電位 (event-related potential: ERP )がある.刺激規則性学 習は時系列的 に進行す るため ,一過性の 変化 を表す ERP で捉 えら れると考えら れ る . ERP に は , 反 応 肢 の 選 択 終 了 と 同 時 に 出 る 偏 側 性 準 備 電 位 (lateralized readiness potential: LRP )や ,定位反応 や 注意の 大きさ と振幅 が比例す る N2,P300 という電位が ある. 暗 黙的な刺激規 則性学習 は ,これらの 電位に影 響すると考 えられる. 本研究では, 刺激規則 性学習 におい て,外部 座標学習説と 内部座標 学習説 が 適用可能かを 反応時間 ,エラー率,ERP を用 いて考察する.また,従来の刺激 ―反応学習説 ・刺激 ― 刺激学習説・ 反応 ―反 応学習説の妥 当性も併 せて考察す る. 1-2.暗黙的 な 刺 激 規 則 性 学 習 暗黙的な刺激 規則性学 習を初めて示 したの は Willingham et al.の研究である (Willingham et al., 1989). 彼らの研究では , 着 色 さ れ た X 刺激が 4 つの位置に 呈示され,刺 激の色を ボタン 押しで 答えるこ とが課題であ った . 刺 激の位置や 色の呈示順序 には連続 性があった が ,実験参 加者には知ら されなか った .この 課題は連続的 反応 ( serial reaction time: SRT )課題と呼ば れ,後に 多数の研究 で用いられた . Willingham et al.は , 刺 激 の 位 置 に 連 続 性 を 持 た せ た 認 知 シ ー ク エ ン ス 群 と , 刺激の色に連 続 性を持 たせた運動シ ークエン ス群と ,連続 性を持た せなかった コントロール 群の 3 群 を設定し,反 応時間と 正答率の変化 を群間お よび 群内で 比較した.そ の結果 , 連続性を持た せた 2 群 は,試行数を 重ねるご とに反応時 間が短縮した .しかし ,行動指標が 変化した にも関わらず ,実験参 加者は連続
性に気づくこ とはなか ったという . この自覚 を伴わない学 習は 暗黙 的学習 と呼 ばれた.現在で は 暗黙 的学習 は前述 した 3 つ に大別されて いるが ,Willingham et al.の 研 究 は そ の 中 の 刺 激 規 則 性 学 習 に 相 当 す る . しかしながら ,Willingham et al.の知見を精 査すると,運 動シーク エンス群 とコントロー ル群との 間には反応時 間の 差が あったのに対 し ,認知 シ ークエン ス群とコント ロ ール群 との間には差 はなかっ た .このこと は,運動 シ ークエン ス群でのみ刺 激規則性 学習が起こっ たことを 示唆しており ,運動シ ークエンス 群と認知シー クエンス 群の両群 で刺 激規則性 学習が生じる とす る Willingham e -t al.の解釈に矛盾す る . この矛盾を解 決するに は ,試行に伴 う反応時 間の短縮 は一 般的学習 (general learning)であり , シ ー ク エ ン ス が 存 在 す る ブ ロ ッ ク の 後 に シ ー ク エ ン ス の な い ブロックを挿 入すると 生じる 反応時 間 の遅延 で確認できる 連続 性学 習
(sequence learning)と 区 別 す べ き で あ る (Deroost, 2006). こ の 考 え 方 に 基 づ く と , 一般的学習と は「刺激 の位置に対応 するボタ ンを押す」と いう行動 を学習した 運動学習にす ぎず , 連 続性学習こそ 刺激規則 性学習を表す というこ とになる . Willingham et al.の研究当時はこの概 念 が な か っ た た め ,一 般 的 学 習 を 刺 激 規 則 性学習として 捉えてし まっていたと 推測され る. このように, 刺激規則 性学習の成立 を示す方 法は研究 間で 異なって いるのが 現状である.そ のため ,Willingham et al.の解 釈は間違って いるとも 断言できな い.最も主流 な方法 は ,シークエン スの有る ブロックと無 いブロッ クで反応時 間を比較し, 前者の 反 応時間が 後者 よりも短 縮していれば 暗黙的 学 習を認める とする,Deroost (2006)の方法論であ る.類 似 した方法とし て,シ ー クエンスの 有る練習期の 終了 後に 行うテストと して ,シ ークエンスの 有るテス トブロック と,刺激をラ ンダム呈 示するシーク エンスの 無い テストブ ロック を 1 ブロッ ク ずつ設定する 方法があ る .シークエ ンスブロ ックの 反応時 間 の方 が ランダムブ ロ ッ ク よ り も 短 縮 し て い れ ば 刺 激 規 則 性 学 習 を 認 め る こ と と な る (DeCoster & O’Mally, 2011). 刺激規則性学 習では 一 般に,反応選択 は 4 種 類あり,1 シーク エン スは 8~12 試行から構成 されてい る .例えば, 縦に並ん だ 4 つの四 角い枠内の いずれかに 刺激が呈示さ れ ,その 刺激に対応す るボタン 押しで 反応す る SRT 課題が用いら
れる.さらに ,多くの 研究 で共通し て用いら れてきたシ ー クエンス がある .一 番上の枠から 下の枠ま で番号を順に 付した場 合 ,124313214234 というシークエ ンスを用いる ことがパ ラダイムとな っている (DeCoster, & O’Mally, 2011).
1-3.暗黙的学習 と 明 示 的 学習
暗黙的学習 の存在が 認知されてい る現在 , 気付きは学習 の成立に 不可欠では な い と す る 意 見 が 多 い (Rüsseler, & Rösler, 2000; Dienes & Berry, 1997; 水 原 , 1994).気 付 き が あ れ ば 学 習 は 促 進 さ れ る が ,無 く と も 学 習 は 生 じ る と い う の で あ る . 暗 黙 的 学 習 に 対 し て , 気 づ き を 伴 う 学 習 は 明 示 的 学 習 (explicit learning) と呼ばれてい る . 明示的学習は ,暗黙的 学習 と対照的 な学習 で あり,学習者 が自身の 学習の進 行や課題に隠 されたル ールに気づく ことを伴 う .例えば,学習 者が SRT 課題に おいてシーク エンスの 存在に気づ い た場合は ,明示的な刺 激規則性 学習が起こ ったことにな る . 暗黙的学習 を扱う研 究では ,明示 的な学習 が 生じなかっ たことを 確証する必 要がある.BaldWin & Kutas(1997) は,シークエンスの存 在した練 習ブロック終 了後,実験参 加者 に 1 つの刺激を呈 示し,そ の次に呈示さ れる刺激 を 8 つの選 択肢の中から 回答 させ た .回答結果 と実際の シークエンス との一致 率 が 25%以 上になった場 合には 明 示的学習が生 じたと 見 なした .また ,強制的 に選択させ る方法以外に 自由記述 を課す方法 も ある(Dienes & Berry, 1997).
その他には,再 現 課題 を用い る場合 も多い (Willingham et al., 1989; Cohen et al., 1990; Howard et al., 1992; 水原 , 1994).再 現 課 題 は ,シ ー クエンス の 有 る 練 習 ブ ロック終了後 に実施 さ れ,キューが 出たらシ ークエンスに 関 する知 識を活かし て,次に出る であろう 刺激の位置を ボタン押 しで回答す る ものであ る .しかし ながら,再現 課題の成 績によって学 習を 暗黙 的 か明示的か に分類す る場合は少 ない.再現課 題は , 明 示的学習の成 立を確認 するためでは なく , 学 習の程度 を 量的に測定す るため の ものである . 暗黙的学習研 究で重要 な実験工夫は ,明示的 学習を抑制す る ことで ある .水 原 (1994)は シ ー ク エ ン ス の 有 る ブ ロ ッ ク の 中 に , ラ ン ダ ム で シ ー ク エ ン ス を 構 成しない試行 を 50%挿 入することで ,明示的 学習の抑制に 成功して いる.
ただし,明示 的学習を 過度に抑制す ることで ,暗黙的学習 が阻害 さ れてしま うのも避ける べきであ る .そのため ,両学習 の境界を理解 すること は重要であ る.明示 的学習と 暗黙 的学習 に境界 を設定す ること は Dienes & Berry (1997) が 提言している .彼らは ,知識の閾値 として , 客観域と主観 域の存在 を挙げた . 客観域とは, それを 超 えると 暗黙的 学習 が生 じる閾値を指 し ,再現 課題の成績 がチャンスレ ベル 以下 であれば 知識 は客観域 より下 である とみなさ れる .一 方, 主観域とは, それを 超 えると 明示的 学習が生 じる閾値を指 し ,知識 に 関するメ タ認知がない 場合や , 自由記述の正 答率が低 い場合には , 知識は主 観域より下 であるとみな される . つまり,明示 的学習と 暗黙的学習の 境界は , 知識が主観 域に達するレ ベル にあ ることにな る .再現課 題ではチャン スレベル を超え てい るものの,知 識に関す るメタ認知 が 生まれな い学習こそが 暗黙的学 習 というこ とになる. ただし,暗黙 的学習 の 成立において ,再現課 題でチャンス レベルを 超える事 だけ で は 必要 十 分 で は ない .1-2 で 述 べ たと おり , シ ーク エ ンス の 有る ブ ロッ クとシークエ ンスの無 いブロックで 反応時間 を比較し ,暗 黙的な刺 激規則性学 習の成立を確 認する必 要 もある. 1-4.刺激 ― 反 応 学 習 説 暗黙的な刺激 規則性学 習 では,何を学 習した のかという点 で説 が 3 つに分かれ ている.その うちの一 つが ,刺激と 反応 との 関連性の学習 を強調し た 刺激―反 応学習説であ る . 関連刺激が与 えられた 場合 にのみ学 習が成立 すると考え, 先述した
Willingham et al. (1989)の 研 究 は こ の 説 を 支 持 する .Willingham et al.の 用いた 刺 激は位置と色 の情報 を 内包していた が ,実験 参加者は色 に 対して 反 応する こと を求められた .刺激の 呈示位置に連 続性を持 たせた群と , 刺激の色 に連続性を 持たせた群を 設定した 結果 ,色とい う関連刺 激に連続性を 持たせた 群でのみ刺 激規則性学習 が生じた .すなわち, 関連刺激 が与えられた 場合 にの み学習が生 じたのである . 刺激―反応学 習説では ,学習におけ る注意の 有無を重視し ている . 呈示され た刺激が関連 刺激か無 関連刺激かを 見分ける には注意が必 要なため である .注
意を強調した 立場 とし て ,気づきが なくても 注意が 暗黙的 学習 に必 要だとする 見解や(BaldWin & Kutas, 1997),二重課題 な どの注意の結 びつきが 曖昧なシ ーク エンスでは刺 激規則性 学習は起こら ないとす る 主張がある(Howard et al., 1992). また,French & Miner (1994)は, 反応から 次の刺激呈示 までのイ ンタ ーバル (response-stimulus interval: RSI) が 1500 ミ リ 秒 (ms)と 長 く な る と ,刺激規則性学 習は生じない ことを報 告した .しか しながら この 結果は,RSI が長 かったため に注意が持続 しなかっ たことに起因 したとも 解釈できる. 1-5.刺激 ― 刺 激 学 習 説 暗黙的な刺激 規則性学 習 では刺激の 呈示位置 を学んだとす る説を , 刺激―刺 激学習説とい う .この 説を裏付ける 最大の 研 究結果は,刺 激に対し て運動反応 を行わなくて も 暗黙的 な刺激規則性 学習が起 こったという ものであ る (Kinder et al., 2008; DeCoster & O’Mally, 2011; Howard et al., 1992 ).
ここでいう 運動反応 とは ,ボタン 押しのこ とである .Kinder et al. (2008) は実験参加者 に ,ボタ ン押しの代わ りにサッ カ ード(急速眼球運 動)で刺激の位 置を答えさせ た .その 結果 ,シーク エンスの 有るブロック の方が無 い ブロック よりもサッカ ードの準 備 過程が顕著 であり , 刺激規則性学 習はボタ ン押しを課 さなくても生 じること を見出した . さらに, 実験参加者に 反応を一 切求めず , 呈示刺激を単 に観察す る条件でも刺 激規則性 学習は生じた(Howard et al., 199 2). ちなみに ,このサ ッカ ードを用いた 研究結果 は ,刺激 ―反応学 習説 と同じく , 学習と注意と の強い相 関 関係を示唆 している .眼球運動の 準備 (プ ログラム)に よって注意が 次の目標 位置まで 移動 し,その 結果 ,次のサ ッカ ― ド の目標位置 が決定される という . これは眼球運 動の前注 意理論 と呼ば れ (Rizzolatti et al., 1987), サッカ ー ド 準 備 の 学習は , 注意移動 の 学習 に つ な が る こ と を 指 す . また,Deroost (2006) は刺激規則性 学習のモ デルの特徴は ,受動的 かつシー クエンス構成 アイテム を合体させて いく結合 性であると主 張 してい る .「受動 的」という記 述 は, 積 極的な運動反 応は不要 だと 読み取れ る .
1-6.反応 ― 反 応 学 習 説
反応―反応学 習説では 暗黙的な刺激 規則性学 習 で学習した のは反応 運動だと 考える.この 仮説の支 持者は ,刺激 規則性は 受動的に学習 される こ とはなく , 運動反応の随 伴によっ てはじめて 学 習が生じ る と主張し, 刺激― 刺 激学習説と 対立している(BaldWin & Kutas, 1997).
Cohen et al. (1990) は ,各 効 果 器 が 独 立 し て 刺 激 の 規 則 性 を 学 習 す る と 主 張 し,その学習は転 移可 能であるとし ている .Cohen et al.が行った 実験では,練 習ブロックで は 3 つの 各ボタン に 1 本ずつ指 を割り当て, 刺激に対 応したボタ ン押し反応を させた . 一方,練習ブ ロック後 に行う転移テ ストでは ,ボタン反 応は 1 本の反 応指に限 定して行わせ た.これ は,指という 効果器か ら,腕とい う効果器への 転移をみ るための手続 きであっ た .結果は, 転移テス トでも 刺激 の規則性に関 する知識 が残っており ,指が暗 黙的に学習し たシ ー ク エンスは腕 にも転移した .各効果 器間で学習の 転移を起 こすには運動 反応が不 可欠である ため,Cohen et al.は 反応―反応学 習説の立 場にある . さらに,Howard et al. (1992) も,シー クエ ンスに関する 知識は特 定の運動 システム毎に 独立して いるとし ,Cohen et al.と同意見である . 1-7.事 象 関 連 電 位 (ERP) 頭皮上で記録 される脳 波のうち ,あ る事象に 対応した一過 性の変化 を表す 電 位変化を ERP と いう .その中で も,反応 選 択の終了に伴 って生起 する LRP,注 意を反映して 増大す る P300 と N2 は心的 時 間研究(mental-chronometry)で応用さ れてきた ERP である .暗黙的な刺 激規則性 学習を検討す るうえ で LRP,P300, N2 は 有 効 な ツ ー ル で あ る と 考 え ら れ る . セルフペース で行う 運 動の 1~2 秒前から陰 性方向に立ち あがる 緩 電位変動 は 準 備 電 位 と し て 知 ら れ て い る (Kornhuber & Deecke, 1964). 準 備 電 位 は 動 作 開始の約 400ms 前から 反応肢と反対 側の感覚 運動野で大き くなる (Shibasaki et al., 1980). こ の 左 右 半 球 間 の 電 位 差 を 差 波 形 と し て 求 め た も の が LRP で あ る .
LRP は時間軸 上 の ト リ ガ の 選 択 に よ っ て 2 種 類 を 算 出 す る こ と が で き る .刺 激呈示 時点 を基 準に 加 算平均 して 得た もの が 刺激同 期 LRP(stimulus-locked LR
P: S-locked LRP)で あ り , 反 応 開 始 時 間 を 基 準 に 加 算 平 均 し て 得 た も の が 反 応 同期 LRP(response-locked LRP: R-locked LRP)である.LRP は脳内情 報処理にお いて反応選択 段階が終 了した時点か ら 立ち上 がる (Masaki et al., 2004).このこ とから,刺激呈 示時点 から 計測し た S-locked LRP の出現潜 時が刺 激関連処理に 要した時間を 表し,R-locked LRP 出現時点か ら反応開始時 点までの 時間 が反応 関連処理に要 した時間 を表す.(図 1 参照). 図 1.LRP 脳が示す受動 的な定位 反応成分のう ち ,刺激 呈示後約 200ms に 頂 点をとる陰 性電位を総称 して ,N2 と呼ぶ(沖田他, 1998).N2 には,先 行刺激 と現刺激のミ スマッチと関 連してい るミスマッチ 陰性電位 (MMN)や,予期しない 刺激に対す る注意の焦点 化を反映 する N2b,刺激分類に 関わる N2c,空間的な 注意選択を 反映する N2pc などが 含まれている(沖田 他, 1998; Kiss et al., 2008 ).これら の成分の振幅 は ,トッ プダウンの注 意が発生 する前の ,前 注意過程 と呼ばれる 脳内情報処理 ステ ― ジ における自動 処理を反 映している .N2 の発 生場所は,国 際 10-20 法の表 記に基 づくと,Pz や Fz であ る. P300 は 刺激 呈示 の 約 300~ 800ms 後に , 頭 頂 部 優 勢 に 出 現 す る 陽 性 成 分 で あ る.P300 振幅は,刺激 や課題遂行に 対して配 分された注意 資源量を 反映する(沖 田他, 1997).つまり ,N2 がボトムアップ の定位反応を 示すのに 対し ,P300 は トップダウン の注意を 示す . 暗黙的な学習 の特徴は ,学習につい ての自覚 はないがパフ ォ ー マン スは向上 する点である .パ フォ ーマンスの向 上とは反 応時間の短縮 であるた め ,LRP 潜 時の短縮でも ある .LRP 潜時の変化を 追え ば,暗黙 的な学習 が進 行する様子を
追うことがで きる . また,学習が 進行して 次に動かす手 の準備が できれば ,刺 激が持つ 「どの手 を動かすか」 という情 報は不要とな り ,「い つ押すか」と いう情報 に対しての み注意を払う ことにな る .そのた め ,学 習の 進行ととも に N2 と P300 の振幅は 共に小さくな ると考え られる . 1-8.提言 : 外部座標 学 習 説 と 内 部 座 標 学習 説 久 保 田 他 (2007)は 運 動 学 習 を , 適 応 的 運 動 学 習 と 連 続 的 運 動 学 習 の 二 種 類 に 大別している .適応的 運動学習は「 感覚情報 に基づいて行 う」運動 学習とし , 連続的運動学 習は「連 続的に繰り返 される動 作や行動の中 から, 動 作順序に関 する知識の獲 得を行う 」運動学習 である (Pp.66-69).本稿 で刺激規 則 性学習と呼 んでいる学習 は,運動 を伴えば連続 的運動学 習であるため ,ほぼ同 義として扱 う. しかしながら ,本研究 では ,適応的 運動学習 の解析に関与 する内部 座標と外 部座標の観点 を強調す る .内部座標 とは ,関 節角度や筋肉 が生成す る力などの 身体内部の関 係を指す .一方,外部 座標とは ,ターゲット の位置や それまでの 運動軌跡と定 義され る .適応的運動 学習では ,これら二つ の座標を 感覚情報か ら運動情報に 変換して ,それに適応 する こと を 学習する. 一方, 連 続的運動学 習では,運動 順序や動 作のグル ープ 化のみが 注目されてお り ,外部 座標 と内部 座標は考慮さ れていな い . しかし,外部座標 と 内部座標はお 互いに変 換 し合い,運動を生 む .そのため , 運動学習の一 つである 連続的運動学 習におい ても外部座標 と内部座 標は考慮 し なければなら ない . こ の意見を裏付 ける ,暗 黙的な 刺激規 則性学習 についての 先行研 究が ある .Deroost (2006) は, 実験 的 に操作 はし てい ない も のの , 反応 を効果器と 反応位置 の 概念に分離 している . さらに,Wallace (1971) はボディ ーコード(body code) とスペースコ ード(space code) の存在を提 唱している .ボ ディーコード とは運動 出力がつなが っている 各効果器のセ ット であ り ,スペー スコードとは 効果器の 位置を変える 度に更新 される .ボデ ィーコ ー ドは内部座 標,スペース コードは 外部座標とも いえる .
外部座標と内 部座標の どちらが学習 に必要な のだろうか . 外部座標 と内部座標 はお互いに変 換し合い 運動を生むと 述べたが ,暗黙的学習 の成立に は ,片方の 座標情報だけ でも十分 ではないだ ろ うか .こ の疑問に答え るモデル を作るには , 先述した反応 ―反応学 習説 を改良す る必要が ある . 反応―反応 学習説で は反応運動の 必要性の みを主張し て おり, 外 部座標と内 部座標につい ては言及 していない . そこで本 研究では ,外 部座標学 習 説と内部 座標学習説を 提案する .外部座標学 習説とは 刺激規則性を 学習する に当たり , 外部座標を学 習したと する説であり ,内部座 標学習説とは 内部座標 を学習した と考える説で ある . 暗 黙的学習 で何 を学んだ かについての 既存 の 3 つの説と, 外部・内部座 標学習説 のモデル図を 以下に示 す . 図 2.諸説のモデル 図 本研究では,既 存の SRT 課題に操作を 加え ,外部座標のみ の学習 を強化する 群と内部座標 のみの学 習を強化する 群を設定 した .前者は ボタンシ ークエンス (button sequence: 以下 BNT)群 と呼び ,後 者 は フ ィ ン ガ ー シ ー ク エ ン ス (finger-s -equence: 以下 FNG)群 と 呼 ぶ こ と と す る . そ し て , 両 群 の 学 習 の 発 達 を 反応時 間,エラー 率,ERP を 用いて比較し ,外部 座 標と内部座標 はそれぞ れ 暗黙的学 習を成立させ たか を考 察する .
刺激規則性学 習 におけ る学習内容に は ,3 つの仮説があっ た.学習 するのは 刺激と反応と の関連度 であると考え る「 刺激 ―反応学習説 」,学習 するのは 刺 激の呈示位置 であると する「刺激―刺 激学習 説 」,反応運動の 学習 だとする「 反 応―反応学習 説 」であ る .その一方 で ,反応 運動には外部 座標と内 部座標が必 要であるため ,外部座 標の学習を支 持する「 外部座標学習 説 」と , 内部座標の 学習を支持す る「 内部 座標学習説 」 を新たに 提唱する .本 研究では ,この外部 座標学習説と 内部座標 学習説の妥当 性を確か めるため ,各 座標系を 操作した条 件 に お い て , 暗 黙 的 学 習 の 成 立 を , 反 応 時 間 , エ ラ ー 率 , ERP か ら 検 証 す る . 規則性のある 外部・内 部座標を共に 使用する と 暗黙的学習 が起こる ことは , 反応―反応学 習説で既 に証明されて いる .し かし,規則性 を持たせ た 座標を単 独で使用した ときでも 暗黙的学習が 生じるか については研 究されて いない .刺 激―反応学習 説によれ ば ,刺激に対 する注意 が 暗黙的学習 では必要 とされた . 本研究では全 ての刺激 が関連刺激で あるため ,課題遂行中 に注意は 喚起される ものと推測さ れる . そ のため ,規則 性のある 座標を単独で 使用して も 暗黙的学 習は生じると 予測され る . また,パフォ ーマンス をより向上さ せる ,つ まり,より学 習を促進 させる座 標系は,外部 座標だと 予測する .従 来の知見 がこの予測の 根拠にな っている . 例えば,動物 は運動学 習の際に ,各 筋肉より も空間情報に 依拠する ことが示さ れて きた(Cohen et al., 1990).この 研 究で は ,ど の指 の 筋肉 が動 い たか とい う 情報ではなく ,指をど こに置いてい るかとい う情報をコ ー ド化して 学習が生起 すると考えて いる . さ らに,刺激と 反応の連 合は ,刺激と 反応キ ー との間で形 成されるもの であり ,刺激と指との 間では生 じないことが 示されて いる (Cohen et al., 1990). 本研究で検討 する BTN 群と FNG 群は両群 ともに,シー クエンス の存在する ブロックでは 反応時間 は 短縮し ,N2 と P300 振幅は減少し ,S-locked LRP と R -locked LRP の 両 潜 時 に 短 縮 が 見 ら れ る と 予 測 さ れ る . なお , こ の よ う な 指 標 の変化は,外 部座標に 規則性を持た せた BTN 群の方が,FNG 群 よりも顕著で あると予測さ れる .
2.方法 2-1.実験参加者 心身ともに 健康な大 学生・大学院生 20 名(女性 8 名)が 実験に 参加した .平 均年齢は 24.4±7.02 歳であった.実 験参加者 は BTN 群(10 名,女性 3 名)と FNG 群( 10 名 ,女 性 5 名 )に 無 作 為 に 分 け ら れ た .全 員 正 常 視 野 を 有 し て お り , 課題の遂行に 問題はな かった . 2-2.実 験 場 所 ・ 実 験 器 材 早稲田大学 所沢キャ ンパス 100 号館 570 実験室の防音室 内で実験 を行った . 高さ 74cm のテ ーブル にモニタを置 き ,モ ニ タと実験参加 者の間隔 は 1.2m とし た.実験参加 者の前方 にマイクロホ ン ,後方 にスピーカと モニタを 設置し ,実 験中は実験参 加者を観 察でき ,かつ 連絡が取 れる状態にし た . 2-3.記 録 し た 指 標 刺激呈示か ら反応ま での時間を反 応時間と し ,タキストス コープ (岩通アイセ ック社 製)で記 録し た .また ,脳 波は デジ タ ル脳波 計(Biosemi 社 製 Active-two) で頭皮上の 128 部位か ら DC 記録し た.サン プリング周波 数は 1024Hz とした. 2-4.実験手続 2-4-1.練 習 ブ ロ ッ ク 両群とも,刺激 の位置 に対応したボ タンを押 す SRT 課題を実 施し た.内部座 標と外部座標 の暗黙的 学習への効果 を比べる ためには ,両 群とも同 じ課題をし つつ,シーク エンスを 外部座標の反 応ボタン に設定するか ,内部座 標の指に設 定するかを分 けなけれ ばならなかっ た .その ため ,SRT 課題で 1 ブ ロックごと に手を入れ替 えるとい う操作を行い ,同じ課 題でシークエ ンスが設 定された座 標を群ごとに 分けた . BTN 群の課題は ,手 を 入 れ 替 え て も ボ タ ン に 割 り 当 て ら れ た シ ー ク エ ン ス は 変わらないよ うに , シ ークエンスを 設定した .そのため, 奇数ブロ ックでも偶 数ブロックで も ,124313214234 というシ ー クエンスが繰 り返され た .
一方,FNG 群の課 題は ,手を入れ替え ても指 に割り振られ たシーク エンスは 変 わ ら な い よ う に , シ ー ク エ ン ス を 設 定 し た . そ の た め , 奇 数 ブ ロ ッ ク で は 124313214234 と い う シ ー ク エ ン ス が , 偶 数 ブ ロ ッ ク で は 342131432412 という シークエンス が繰り返 された . SRT 課題では , 始 め に 黒 い 背 景 の モ ニ タ に 白 い 四 角 の 枠 (視角 3°)が縦に 4 つ並んで(視角 6°)600ms 呈示 された .その 後,4 つの いずれか の 枠の中に白い X が呈示された .実 験 参 加 者 は X の 位 置 に 対 応 し た ボ タ ン を ,で き る だ け 速 く 正 確 に 押 す こ と を 求 め ら れ た . X は ボ タ ン が 押 さ れ る ま で 呈 示 さ れ , RSI は 1200ms であった . 実験参加者は 左手と右 手の中指と人 差し指で ,縦に並ん だ 4 つのボ タンを押 した.右手と 左手は各 ブロックが終 わるごと に入れ替えた .奇数ブ ロックでど ちらの手を手 前に置く かは実験参加 者ごとに カウンタバラ ンスを取 った . 一つのシーク エンス は 12 試行で形成 され ,10 個のシークエ ン スを 1 ブロ ッ クとした(1 ブ ロック あたり 120 試行).1 ブロックを構 成してい る 10 個のシ ークエンス中 ,2 個のシークエンス は規則性 を持たないラ ンダムシ ークエンス とした.ラン ダムシー クエンスをブ ロック内 の何番目のシ ークエン スに設定す るかは,各ブ ロックで 不規則に変え た . 全 11 ブロックあ る練 習ブロックの うち ,9 ブロック目 は 10 シー クエンス全 てをランダム シークエ ンスにするラ ンダムブ ロックであっ た .9 ブロック目以 外はシークエ ンスブロ ックと呼ぶ . 2-4-2.テ ス ト ブ ロ ッ ク 練習ブロッ クが終わ ったら 5 分間 の休憩を はさみ,テス トブロッ クを 2 ブロ ック行った.テ ストブ ロックでは練 習ブロッ クと同様 の SRT 課題 を行った.テ ストブロック の 1 ブロ ック目の手の 配置は , 練習ブロック の奇数ブ ロックと同 じにし,2 ブロ ック目 の手の配置は ,偶数ブ ロックと同じ にした . 全 2 ブロック あるテス トブロックの うち ,一 方はシークエ ンスブロ ックで , もう一方はラ ンダムブ ロックであっ た .どち らのブロック を先に実 行するかは 実験参加者ご とにカウ ンタバランス を取った .
2-4-3.質問紙
SRT 課題後,実験参 加者は学習の 気付きに 関する質問紙 に答えた .質問紙 は 付録 1 の通り であった .
3.結果 3-1.質問紙 明示学習が起 こってい ないかを確か めるため に ,質問紙を 用いた . 明示学習 は,Wilingham et al. (1989) に基づき ,1 シ ークエンスの うち 40%(5 アイテム) 以上を正しく 回答でき た場合に限り ,成立 し たものとみな した .そ のため ,Q3 の自由記述に おいて , 各群に設定し たシーク エンス内の連 続 5 アイ テム以上を 正しく答えら れた参加 者については ,明示学 習があったと みなし , 分析対象か ら除外するこ ととした .しかし,除 外対象者 はいなかった . Q4~ Q6 の項目は ,両 群 に お け る 学 習 差 を 量 的 に 評 価 す る た め に 設 定 し た .R -usseler et al. (2000) を参考に , 実 際 に シ ー ク エ ン ス 内 に あ っ た 並 び に 関 し て は,「絶対あ った」 を 2 点,「お そらくあ った」を 1 点 ,「分か らない」 を 0 点,「おそらくなか っ た」を- 1 点,「絶対 なかった」を-2 点 と して得点化し た.実際にな かった並 びに関しては ,「絶対 あった」を- 2 点,「 おそらくあ った」を-1 点 のよう に逆転させた . 各参加者の回 答結果は 表 1 の通りで ある. 表 1. 質問紙結果
Q4~ Q6 の 得 点 に つ い て 群 間 比 較 し た 結 果 ,得 点 に 群 間 差 は な か っ た (t(18) = .65, n.s.).気付き が あった人は,BTN 群 で 5 人,FNG 群 で 4 人であった. 3-2.反応時間 図 3 は各群 の反応時 間の平均値の グラフで ある . 図 3. 平均反応時間 群 気付き有無(Q1) 明示学習(Q3) 得点 (60点満点) (Q4-Q6) ボタン 有 なし(4個正答) 7 ボタン 有(間違い) なし 13 ボタン 有 なし(4個正答) 26 ボタン 無 なし 13 ボタン 有 なし(4個正答) 15 ボタン 有 なし(4個正答) 16 ボタン 無 なし 16 ボタン 無 なし 10 ボタン 無 なし 0 ボタン 有 なし(4個正答) 10 指 有 なし 20 指 無 なし 0 指 無 なし 17 指 無 なし(4個正答) -2 指 無 なし 3 指 有 なし 31 指 有 なし(4個正答) 23 指 無 なし 32 指 無 なし 8 指 有 なし(4個正答) 23
ブロックと群 を変数と し ,4 種類の分 散分析 を行った .な お,間違 ったボタ ンで反応した り ,反応 時間が 700ms を超 え た試行はエラ ー試行と みなし ,除外 した. まず,練習ブロ ック中 からランダム ブロック (ブロック 9)を除外し た全ブロッ クを対象にし て ,ブロ ック (10)×群(2)の 2 要 因分散分析を 実施した .この分析 の目的は,一 般的な学 習効果 (1-2.暗黙的な 刺 激規則性学習 参 照)としての反応 時間減少を群 間で比較 するためであ った .そ の結果 ,ブロ ックを重 ねるほど反 応時間が短縮 する傾向 にあった (F(9,162)=1.893, p< .10 ).群間差(F(1,18)=1.12 2, n. s..)と交互作用 (F(9,162)=0.804, n.s.)は 見 ら れ な か っ た . 次に,テスト ブロック (2)×群(2) の 2 要因分 散分析を実施 した .こ の分析の 目的は,テストブ ロッ クにおける暗 黙学習効 果の群間差を 調べるこ とであった . 結果は,シー クエンス ブロックの方 がランダ ムブロックよ りも反応 時間が有意 に短かった(F(1,18)=15.551, p< .05 ).しか し,群間 に差はな く(F(1,18)=0.086, n.s.), 交 互 作 用 も な か っ た (F(1,18)=0.978, n.s.). 練習ブロック における 暗黙学習効果 の群間差 を調べるため に , ラン ダムブロ ックとその前 後のシー クエンスブロ ックを比 較した .練習 ブロック のうち ,ブ ロック 8,ブロ ック 9(ランダムブロ ック), ブロック 10 の比 較に 限定し,ブロ ック(3)×群(2) の 2 要 因分散分析を 実施した .その結 果,テスト(2)×群(2) の 2 要因分散分析 と類似し た結果が得ら れ ,ブロ ックの主効果 が有意だ った (F(2,36) =10.351, p< .05 ). 下 位 検 定 の 結 果 , ブ ロ ッ ク 8 の 反 応 時 間 は ブ ロ ッ ク 9 およ び 10 よりも有意 に短 かった (い ず れ も p< .05). 群 間 差 (F(1,18)=2.007, n.s.)も , 交互作用(F(2,36)=0.180, n.s.)もなかった. さらに ERP 分析 と対 応付けるため に ,練習 ブロックの前 半/後半(2)×群(2)の 2 要 因 分 散 分 析 を 実 施 し た . そ の 結 果 は , 前 半 と 後 半 間 に 差 は な く (F(1,18)=0.5 82, n.s.),群 間 差 (F(1,18)=1.722, n.s.)も ,交 互 作 用 も な か っ た (F(1,18)=0.888, n. s.). 3-3.エラー率 図 4 は各群の エラー率 の平均値のグ ラフであ る .
図 4. 平均エラー率 エラー試行の 割合 (エ ラー率)を群間で比 較 するため,反 応時間と 同様に 4 種 類の分散分析 を行った . 一般学習効果 を見るた めのブロック (10)×群(2)の 2 要因分散 分析で は,ブロ ックの主効果 が有意で あった (F(2.73,49.12)=3.31, p< .05).下位検 定 の結果,ブ ロック 8 以降 のエラー 率は,ブロッ ク 1 より も増加の傾向 にあり (p< .10),特 にブロッ ク 11 のエラ ー率はブロッ ク 1 より も有意に増加 していた (p< .05).群 間に差はなく(F(1,18)=1.23, n.s.),ブロック ×群の交互作用もな か った (F(2.73,4 9.12)=0.70, n.s.). テストブロッ ク (2)×群(2) の 2 要因分 散分 析では,FNG 群 の方 が BTN 群よ りもエラー率 は低い傾 向であった (F(1,18) = 3.02, p= .10).テスト の主効果(F (1,18)=0.21, n.s.)も , 交互作用 (F(1,18)=0.34, n.s.)も 有 意 で は な か っ た . 練習ブロック のうち ,ブロック 8,ブロッ ク 9(ランダムブロ ック),ブロッ ク 10 のみを用いて ,練 習 ブ ロ ッ ク に お け る 暗 黙 学 習 効 果 の 群 間 差 を 調 べ る た め に ブロック(3)×群(2) の 2 要因分散分析 を実施 した .その結 果,ブロ ック間(F(2, 36)=0.26, n.s.)にも , 群間 (F(1,18)=.001, n.s.)にも差はなかった . 交互作用もな かった(F(2,36)=0.13, n.s.). 練習ブロック の前半 /後半(2)×群(2)の 2 要因分散分析を 実施した ところ ,後
半の方が前半 よりもエ ラー率は低く なる 傾 向 が 見 ら れ た (F(1,18)=3.79,p< .10). 群間に差はな かった (F(1,18)=1.23, n.s. ).交 互作用はなか った(F(1,18)=.06, n.s. ). 3-4.P300・ N2 図 5 は各群 の P300 と N2 の加算平 均波形 を,練習ブロック の前 半と後半に分 けて表した図 である .ノイズ混入の 多かった 実験参加者 (4 名)の波 形は除外して おり,BTN 群は 8 名 ,FNG 群も 8 名の 波形 となっている .ベ ース ラインは刺激 呈示前 100ms~刺激呈 示時点でそろ えており ,0.01Hz‐30Hz のバン ドパスフィ ルタをかけた . 図 5. P300 と N2 時間軸の 0 時 点は刺激 提示時点であ る .青線 が BTN 群の練 習ブロ ッ ク 前 半 , 赤線が FNG 群 の練習 ブロック前半 ,緑線 が BTN 群の練 習ブロ ック後半 ,橙 線 が FNG 群の練 習ブロ ック後半の波 形である .波形は国 際 10-20 法 における Pz 部位から求め た . P300 振幅は,刺 激 呈示後 340~380ms 間 の平均電位を 求めた. ブロック経過 に伴って学習 が進み , 刺激に配分さ れる注意 は減少すると 考えられ る .注意減
少は P300 振幅を低下 させると予測 したが , これを調べる ため,練 習ブロック の前半/後半(2)×群(2)の 2 要因分散 分析を実 施した.その 結果,前 半と後半間 に差はなく(F(1,13)=0.48, n.s.),群間差(F(1,13)=1.77, n.s.)も,交互 作用もなかっ た(F(1,13)=2.21, n.s.). N2 振幅は , 刺 激 呈 示 後 150~ 190ms 間 の 平 均 振 幅 値 を 求 め た . P300 同 様 に , N2 振幅 も ブ ロ ッ ク 経 過 と と も に 減 少 す る も の と 予 測 し た .練 習 ブ ロ ッ ク の 前 半 /後半(2)×群 (2)の 2 要 因 分 散 分 析 で 検 証 し た 結果 , 前 半 と 後 半 間 に 差 は な く (F(1,13)=0.51, n.s.),群 間 差 も な か っ た (F(1,13)=1.65, n.s.).交 互 作 用 は 有 意 傾 向 だった(F(1,13)=2.23, p< .10 ). 3-5.LRP 図 6 は各群 の S-locked LRP の加算平 均波 形を,練習ブ ロックの 前半(ブロッ ク 1~5)と後半(ブロッ ク 6~11,ただしブロ ック 9 は除く)に分 け て表した図で ある.ノイズ 混入の 多 かった実験参 加者 (3 名)は除外して加算平 均 したため,B TN 群は 8 名 ,FNG 群 は 9 名 の 波 形 と な っ て い る .刺 激 呈 示 前 500~ 100ms でベ ースラインを そろえて おり ,0.01Hz‐30Hz のバンドパス フィルタ をかけた . 図 6. S-locked LRP 時間軸の 0 時 点は刺激 提示時点であ る .青線 が BTN 群の練 習ブロ ッ ク 前 半 , 赤線が FNG 群 の練習 ブロック前半 ,緑線 が BTN 群の練 習ブロ ック後半 ,橙 線 が FNG 群の練 習ブロ ック後半の波 形である .LRP 波形は国 際 10-20 法における
C3 と C4 部 位 の 差 波 形 を 表 し て い る . S-locked LRP 潜時は ,正木(2004)が紹介し ている,最大 振幅値 の 1/2 時点を立 ち上がり時点 とする方 法によって定 めた .ジ ャックナイフ 法によっ て算出した 波形から潜時 を求めた ため ,分散分 析におけ る F 値は{(N1-1)+(N2-1)}²で除し た(N1: BTN 群の参加 者数,N2: FNG 群の参 加者数). 本研究では ,暗黙的 学習に伴う反 応 準備の 早期化 によっ て ,S-locked LRP 潜 時がブロック を重ねる ごとに短縮さ れる もの と予測した . これを確 かめるため に,練習ブロ ックの前 半 /後半(2)×群(2)の 2 要因分散分析 を実施し た .その結 果,前半と後 半 との 間 に差はなく (F(1,15)=1.68, n.s.),群間差(F(1,15)=0.00202, n.s.)も , 交 互 作 用 も な か っ た (F(1,15)=0.00224, n.s.). しかしなが ら ,S-locked LRP 波形には,刺 激呈示直前に 緩徐な陰 性電位が BTN 群の後半ブロ ックでみ られる .明確な LRP の 陰性スロープ が観察で きるのは刺 激呈示後 100ms 以 降 であるが,それ に先行 して生じた緩 徐な陰性 電位も何らか の反応準備を 反映した ものと考えら れる .暗 黙的学習に伴 う反応準 備プロセス の早期化は, 実験参加 者間および個 人内での 変動が大きい ため , 加 算平均波形 には同期性の 悪い緩徐 な陰性変動と して現れ る可能性が高 い .この 監察結果を 確認するため に ,刺激 呈示前 20ms 区 間の平 均電位を各群 の前半・ 後半で計測 した.こ の LRP 振幅 値に対して, 練習ブロ ックの前半/後半(2)×群(2)の 2 要因 分散分析実施 し た.そ の結果 ,前半/後半に 差はなく(F(1,15)=0, n.s.),群の主効 果もなかった(F(1,15)=2.90, n.s.).しかしな がら,交互作 用は有意 であった (F(1,15)=8.02, p< .05). 下 位 検 定 の 結 果 , BTN 群 で は 後 半 の LRP 振幅値が増加 する傾向だっ たが , FNG 群では後 半でむし ろ減少する傾 向だった (いずれも p< .10).また ,後 半 で は BTN 群 の 方 が FNG 群 よりも LRP 振 幅 値 は 有 意 に 大き かった(p< .05). 図 7 は各群 の R-locked LRP の加算平 均波 形を,練 習ブロッ クの 前半と後半に 分けて表した 図である .除外した実 験参加者 ,潜時の同定 方法 , F 値の算出方 法,導出部位 は S-locked LRP と同様で ある が,横軸の 0 時点が反 応開始時点を 示している. 刺激呈示 前 700~500ms でベー スラインをそ ろえてお り ,0.01Hz ‐30Hz のバンドパ ス フィルタを適 用し た.
図 7. R-locked LRP R-locked LRP の立ち上がり潜時 について も S-locked LRP と同様に,練習ブロ ックの前半/後半(2)×群(2)の 2 要因 分散分 析を実施した .その結 果,前半と後 半間に差はな かった (F(1,15)=0.25, n.s.).また ,群間差(F(1,15)=0.00057, n.s.)も, 交互作用もな かった (F(1,15)=0.00058, n.s.).
4.考察 4-1.学 習 自 覚 度 と 学 習 程 度 の 群 間 差 本研究では, 学習の自 覚度を質問紙 によって 調べた .明示 学習者を 除外する ための手続き で あった が ,実際に明 示学習を 示した参加者 はいなか った .本研 究では学習自 覚度の他 に ,学習程度 を量的に 測る質問項目 も設定し た .ここで はそれらの質 問への両 群の回答を検 討する . Q1 では「 X の 位 置 に 規 則 性 は あ り ま し た か ? 」 と い う 問 い に 対 し , 「 は い 」 か「いいえ」 の回答を 求めた .「は い」と回 答した参加者 の中で , 規則とは繰 り返しを指す ことを正 答した参加者 は「気づ き有り」とみ なした . 両群(各 10 名)における気づき 有 りの人数は ,BTN 群 で 5 名,FNG 群 で 4 名であり,ほ ぼ 同程度であっ た . Q4~ Q6 では , 実 際 の シ ー ク エ ン ス と 虚 偽 の シ ー ク エ ン ス を 参 加 者 に 示 し , それぞれ実際 に呈示さ れたものかに ついて確 信度を 5 件法 で回答を 求め,数量 化した.この 得点にも 群間に差はな かった . これら 2 つの 結果から ,明示学習と 暗黙的学 習の程度に群 間差はな かったこ とが分かる. 暗黙的学習は 反応動作 の影響を受け る一方で ,明示学習は 反応動作 の有無に かかわらず生 じること が報告されて いる (Jascha et al., 2000).しかし ながら,外 部座標と内部 座標のい ずれの学習の 方が ,学 習の自覚度を より高め て明示学習
に導くのかを 調べた研 究はない .本 実験の結 果は ,学習の 自覚度は ,外部座標 を学習した場 合と内部 座標を学習し た場合で 差はないこと を示唆す るものであ った. なお,内部座 標学習説 と外部座標学 習説の妥 当性は ,暗黙 的学習が 各群で成 立したかによ って検証 される .その ため ,明 示学習者を除 外するた めの質問紙 の結果からは ,暗黙的 学習の成立は 確認 でき ない .そのた め ,エラ ー率 ,反応 時間,ERP を指 標とし て,内部 座標と外 部座 標による暗黙 的学習の 成立の有無 を検討する必 要があり ,次節で検証 したい . 4-2.暗 黙 的 学 習 の 成 立 ― エ ラ ー 率 と 反 応 時 間 よ り ― 本研究では ,暗黙的 学習成立の判 断基準を 二つ設定した .一つ目 は ,シーク エンスのある ブロック とランダムブ ロック (ブロック 9)の反応時間 を比較し,シ ークエンスの あるブロ ックの反応時 間がラン ダムブロック よりも短 く なった場 合である.二 つ目は , 練習ブロック 後のテス トブロックに おいて , シークエン スブロックと ランダム ブロックを比 較し ,前 者の方が後者 よりも反 応時間が短 くなった場合 である . ただし,反 応時間に 有意差がみら れても , エラー率に有 意差があ った場合に は,速さと正 確性のト レードオフを 疑うこと になる .トレ ードオフ の存在は , 反応時間の短 縮が学習 に起因したも のではな く ,刺激評価 や反応選 択を十分に 行わず,速度 重視で反 応していたこ とを示す ものである . そのため ,エラー率 の検討は重要 である . 刺激をラン ダム呈示 したブロッ ク 9 と,そ の前後のシー クエンス ブロック (ブ ロック 8・10)の比較で は,両群とも ランダム ブロックにお ける反応 時間の遅延 が有意であっ た .同様 の比較をエラ ー率に対 しても行った ところ , 有意差はな かった.した がって , 練習ブロック で両群と も暗黙的学習 が成立し たものと考 えられる. 練習後のテ ストでも 同様の結果が みられた .シークエン スブロッ クとランダ ムブロックの 反応時間 には両群とも 有意差が あり ,エラー 率には有 意差はなか った.この結 果も練習 ブロックにお ける暗黙 的学習の成立 を支持し ている . 刺激規則性 学習にお いては速さと 正確性の ト レードオフ は認めら れなかった
が,一般学習 ではトレ ードオフがみ られた . 一般学習とは ,「刺激 の位置に対 応するボタン を押す」 行動の学習を 指す .試 行を重ねるに つれ , 反 応時間に短 縮傾向が見ら れたもの の ,エラー率 は有意に 増加した .加 えて, エ ラー率は練 習ブロック後 半の方が 前半よりも高 い傾向に あった .この 結果は , 試行に伴う 反応時間の短 縮は , 学 習によるもの とは限ら ないことを示 唆してお り ,一般学 習は成立して いなかっ たことを表し ている . 反応時間とエ ラー率の 結果より ,内 部座標学 習説と外部座 標学習説 の妥当性 は支持された .シーク エン スをボタ ンの位置 に割り当てて も ,動か す指に割り 当てても,暗 黙的学習 は起こるので ある .規 則性のある座 標を単独 で使用して も暗黙的学習 は起こる という本研究 の仮説は 支持された . しかしながら ,外部座 標の方が内部 座標より も学習を進行 させると いう仮説 は支持されな かった . 反応時間の変 化に群間 差が見られな かったか らである . これは,刺激 の呈示順 序についての 学習が関 わっていると 推察され る . 「刺激に対応 するボタ ンを押す」と いう反応 出力側のシー クエンス は ,両群 で 1 種類ず つであった .しかしなが ら,呈示 刺激のシーク エンスに ついては , BTN 群では 1 種 類 で あ っ た 一 方 で ,FNG 群 で は 2 種 類 で あ っ た .FNG 群では , 全ブロックを 通して指 に割り当てら れるシー クエンスを維 持したう えで ,反応 肢をブロック 毎に入れ 替えたため , 奇数ブロ ックと偶数ブ ロックで のシークエ ンスは異なっ た .その ため ,2 種類のシ ーク エンスを実行 した FNG 群では課 題 難易度が上が り ,学習 が阻害される 可能性を 考慮すべきか もしれな い .しかし ながら,外部 座標の方 が学習は促進 するとい う仮説をむし ろ棄却す る結果であ り,本研究の FNG 群 では学習の阻 害は起こ らなかったも のと結論 づ けられる . このような現 象の理由 は ,入力シー クエンス の種類は複数 の方が飽 きずに集中 して各シーク エンスを 学習できたか らかもし れない .しか し,集中 度を本研究 では計測して いなかっ たため ,さら なる研究 が必要である . 4-3.注 意 容 量 配 分 の 変 化 ― P300 と N2 よ り ― N2 振 幅 は ボ ト ム ア ッ プ の 定 位 反 応 の 程 度 を 表 し , P300 振 幅 は ト ッ プ ダ ウ ン の注意の程度 を表す . 暗黙的学習が 進めば動 かす手を準備 でき , 刺 激に割く注 意容量は少な くなるた め ,両電位の 振幅は小 さくなるとい う仮説を 立てた .し
か し , ブ ロ ッ ク の 前 半 と 後 半 で 両 電 位 の 振 幅 を 比 較 し た と こ ろ , BTN 群 で も FNG 群 で も 有 意 差 は 見 ら れ な か っ た . この結果の解 釈は 2 通りある.1 つは暗 黙 的学習が起こ らなかっ たという解 釈である.も う 1 つは ,暗黙的学習 は起こっ たものの学習 に伴う注 意容量の減 少は生じなか ったとい う解釈である .反応時 間の結果は , 暗黙的学 習が両群で 起こったこと を示して いた .したが って ,N2 と P3 の結果の解 釈 は後者が妥当 であろう. 暗黙的学習の 進行に伴 い注意容量の 配分 は減 少するという 仮説は支 持されな かった.一方 ,外部座 標の方が内部 座標より も学習を進行 させると いう仮説は どうであろう か .この 仮説は反応時 間におい ては支持され なかった が ,BTN 群 の N2 と P300 の振幅 が FNG 群より も有意 に小さくな れ ば,脳活 動の点では仮 説が支持され るという ことになる . しかしな がら,上記の 比較にお いては両群 に差はなかっ た .その ため ,N2 と P300 振幅 についての仮 説は,二 つとも支持 されなかった . 学習に伴う注 意容量の 配分減少が 起 こらなか った理由とし ては ,学 習した内 容を確認する ために , 学習前と同程 度の注意 を刺激に払っ ていた 可 能性が 考え られる.早期 に刺激規 則性を学習す る と,そ の規則性の確 認を行う せいで ,実 験 参 加者 の 中 で SRT 課 題 が選 択 反 応 か つ ル ー ル 発見 課 題 と い う 二 重 課 題に な ってしまう(Rüsseler & Rösler, 2000).二重課 題は注意容量 を多く使 う .規則性 の学習が進行 すると ,「動かす指 は何か 」と いう情報を刺 激に求め る代わりに , 「この規則性 は正しい のか」という 確認を行 うようになり ,結局刺 激に配分す る注意容量は 変化しな いのである . 外部座標を学 習した時 と内部座標を 学習した 時とで注意容 量動員に 差がなか った理由も ,同じよ う に説明できる .もし 外 部座標を習得 した BTN 群で学習の 進行が早かっ たとして も ,彼らは「 確認」に 注 意資源を割 き ,結果 的に両群の 振幅差はなく なったと 考えられる . しかし,有意 差は出な かったものの ,内部座 標を学んだ FNG 群の 方が P300 振幅は大きく 見える (図 5 参照).これは, 外部座標の方 が内部座 標よりも学習 を進行させる という仮 説が的外れで はないこ とを意味して いるかも しれない . しかし,刺激の呈 示順 序という入力 に設定さ れたシークエ ンス が FNG 群では 2
種類あったた め ,1 種 類の BTN 群よりも注 意を維持しな ければい けなかったか らだとも考え られる . もしそうだと しても , 「入力される シークエ ンスの種類 は複数の方が ,飽きず に集中して各 シークエ ンスを学習で き ,反応 時間を早め た」という先 述の推測 を裏付けると い える. 4-4.暗 黙 的 学 習 に よ る 反 応 準 備 ― LRP よ り ― 刺激規則性を 暗黙的学 習すれば ,刺 激が呈示 される前に動 かすべき 反応肢を 準備できる. 準備がで きるというこ とは ,脳 内情報処理過 程の反応 選択ステー ジが短縮され るという ことである .それ に伴 い ,LRP 潜時 も短縮す る.つま り, 暗黙的学習が 起これば ,LRP 潜時は短縮 する ことになる. しかしなが ら結果 は ,ブロックの 後半で の LRP 潜時短縮 は,S-locked LRP に も R-locked LRP にも認められなか った .こ れは,刺 激関連処 理と 反応関連処理 のどちらも早 まらなか った ,あ るいは ,ERP で捉えられる だけの大 きな変化は なかったこと を示した もの と考えら れる .ま た,両 LRP 潜 時共に群 間差はなく , 外部座標の方 が内部座 標よりも学習 を進行さ せるという仮 説も支持 されなかっ た.これは反 応時間の 結果と同様に ,入力さ れるシークエ ンスの種 類が複数で あった方が飽 きずに集 中して各シー クエンス を学習できた ことに起 因したもの と考えられる .仮説に おいて予想し ていた以 上に ,内部座 標による 学習は進ん でいたと言え る . しかしなが ら,規則 性を暗黙的に 学習した 可能性が S-locked LRP 振幅から示 唆された.刺 激呈示 前 20ms 区間で は,反 応準備を反映 した陰性 変動がみられ たからである .特 に BTN 群では後半 ブロッ クで陰性変動 が顕著で あり ,FNG 群よりも有意 に大きか った.この 結果は ,外 部座標を学習 した BTN 群では刺 激 呈示前から反 応準備 が 行われていた ことを示 唆している . やはり , 外部座標の 方が内部座標 よりも学 習を進行させ るという 仮説は更なる 検証の余 地がある . 4-5.総合考察 本研究では ,外部座 標を学んだと する外部 座標学習 説と 内部座標 を学んだと する内部座標 学習説を 新たに提唱し ,単一の 座標だけに規 則性を持 たせても暗 黙的学習が成 立するか を調べた .さ らに,暗 黙的学習が 成 立した場 合 ,外部座
標のみを習得 した 方が 学習効果は高 いだろう という仮説を 検証した .反応時間 の結果から, 単一の座 標だけに規則 性を持た せても暗黙的 学習は成 立するとい うことが示さ れ,外部 座標学習説と 内部座標 学習説の妥当 性は支持 された .一 方,外部座標 のみを学 んだ方が学習 効果は高 いだろうとい う仮説は ,反応準備 においては支 持 された が ,課題実行 中の指標 からは支持 さ れなかっ た . これらの結 果と先行 研究をもとに ,刺激規 則性学習にお ける学習 の発達過程 のモデルを考 案する .Karmiloff-Smith (1994) は図 8 のような 発達 モデルを提唱 している(図は久保 田 他(2007)より). 図 8. Karmiloff-Smith の学習モデル しかし,先行 研究の見 解は Karmiloff-Smith とは異なる. 先行研究 によると , 刺激の規則性 と反応の 規則性の知識 はそれぞ れ独立して発 達する (Howard et al., 1992).また ,明 確 学 習 と 暗 黙 的 学 習 は 独 立・並 行 し て 発 達 し ,お 互 い に 不 可欠 であることは ないとい う (Dienes & Berry, 1997; Willingham et al., 1989).この点 において,暗黙的学 習 が進むと明示 学習にな るとしてい る Karmiloff-Smith の連 続的なモデル は異なっ ている .さら に,本研 究では外部座 標と内部 座標の学習 は独立して起 こること が示された .6 種類の 学習がそれぞ れ独立し て進行して いるのである .
的記憶と非宣 言的記憶 という分類も なされる (Willingham et al., 1989; Howard et al., 1992). 宣 言 的 記 憶 と は 言 葉 で 表 現 で き る 記 憶 で あ り , 非 宣 言 的 記 憶 と は 技 能の習得 など言 葉で表 現できな い記憶 である (前野,2010).刺激の規 則性と反 応 の規則性の知 識は宣言 記憶を確立さ せる (Howard et al, 1992).非宣 言的記憶を確 立させるとは 明記され ていないが , 試行数に 伴いパフォー マンスが 向上してい るので,非宣 言的記憶 も確立させる であろう . 明示学習は 自由記述 で測り ,暗黙 的学習は 再現課題で測 ると序論 で述べた . よって,明示 学習は宣 言的記憶 ,暗 黙的学習 は非宣言的記 憶と関係 していると いうことにな る .明示 学習が進めば 宣言的記 憶だけでなく ,非宣言 的記憶も確 立されるとい う主張も あるかもしれ ない .し かし,言葉で 規則性を 説明できた からといって ,再現課 題の反応時間 などのパ フォーマンス が向上さ れるとは限 らない.明示 学習は言 葉で表現され ,暗黙的 学習は体で表 現される のである . 刺激規則性 学習にお ける学習の発 達過程の モデルを考え る際には ,注意の影 響は無視でき ない .刺 激 -反応学 習説で言 わ れているよう に ,注意 の有無によっ て学習が成立 するかが 決まる .明示 ・暗黙・ 刺激・反 応の 学習はそ れぞれ独立 に進行するが ,そもそ も 学習が発生 するかを 決定するのは 注意なの である . 以上のこと を踏まえ ると ,図 9 の ようなモ デルが作られ る . 図 9. 本研究による学 習モデル まず,注意資 源が使わ れているかを 判断する フィルタを通 過した後 に学習は 発生する.明 示学習・ 暗黙的学習は 独立して 進み ,それぞ れの学習 の中でも , 独立した刺激 学習と反 応学習が起こ る .さら に反応学習は 外部刺激 学習と内部
刺激学習が独 立して進 む .そして, 学習が進 むと ,明示学 習は 自覚 を生み 宣言 的記憶を確立 させ , 暗 黙的学習は非 宣言的記 憶を確立させ る . 外部座標学習 ・内部座 標学習・ 反応 学習・ 刺 激学習・ 明示 的学習・ 暗黙的学 習といっ た 6 つの学習 に包含関係は あるが , それぞれの学 習は独立 して進むの である.その ため , 図 9 のモデル では,そ れぞれの学習 を表 す 6 つの棒の長さ が異なってい る .この 学習の独立性 が ,明示 学習と暗黙的 学習を連 続的なモデ ルで描いてい る Karmiloff-Smith のモデルと の大きな相違 点である . ただし, 図 9 のモデ ルに集中とい う要素を どのように組 み込むか は解明でき ていない.入 力される シークエンス が多いと 集中度が上が り反応時 間の遅延を 阻止したと推 測したが ,その推測の 正当性を 検証し ,集中 がどのよ うに学習に かかわってく るのかを 明らかにする 必要があ る .集中度を 測る瞬目 などの指標 を取り入れた ,さらな る実験が望ま れる .