論文内容要旨
論文題名
Quantitative/qualitative analysis of adhesive-dentin interface in the presence of 10-methacryloyloxydecyl dihydrogen phosphate
(10-methacryloyloxydecyl dihydrogen phosphate を用いた象牙質接 着界面の定性/定量分析)
掲載雑誌名 Journal of the Mechanical Behavior of Biomedical Materials(92・71-78・2019)
歯科理工学 周 君
内容要旨 目的:
接着性レジン修復の長期的維持には,象牙質-ボンディングレジン層(ハ イブリッド層)の力学的特性が重要と考えられる.近年の歯科臨床では,
歯質の酸処理とプライミング処理を同時に行う 10-methacryloyloxydecyl dihydrogen phosphate(MDP)含有のセルフエッチングプライマーが広く用 いられている.しかし MDP プライマーは,歯質との接着性を有する反面,
ハイブリッド層の質的重合率と接着界面の力学的特性を劣化させる可能 性がある.本研究では,象牙質-ボンディング層界面における重合率と力 学的特性を評価した.
方法:
第三大臼歯に窩洞形成を行い,水洗後に MDP プライマーで処理し,その後 ボンディング+レジン充填を行った. MDP プライマー処理を行わない窩洞 をコントロールとした.充填後の小臼歯は断面サンプルを作製し,アルミ ナペーストで研磨した.象牙質-ボンディング界面の重合率は顕微ラマン 分光分析により未重合のボンディングレジンをコントロールとして算出し た.断面試料のレジン,ボンディング層,樹脂含浸層および象牙質の力学 的 特 性 は ナ ノ イ ン デ ン テ ー シ ョ ン 法 を 用 い て 評 価 し た . 測 定 に は Berkovich の三角錐ダイアモンド圧子を用い,最大深さは 200 nm とした.
パーシャルアンローディング法による測定では深さ方向への硬さ・弾性係 数を測定した.また,最大応力値におけるホールディング中に超微振動に よる動的試験(Nano-DMAⅢ, Hysitron)を行った.動的試験では 0.1 から 10 Hz の微振動をサンプル表面に与え,変位とその依存ずれから損失係数
(tanδ)を求めた.さらに損失係数と接触剛性(contact stiffness)の関係 から,貯蔵弾性係数を求めた.
結果:
ボンディングレジンの重合率は,コントロールおよび MDP 処理サンプルと もに 70 %程度であり,差は見られなかった.ハイブリッド層では MDP 処理 サンプルで未処理の者より高い重合率を示した.ボンディング材の浸透度 は MDP 処理サンプルで最も高い.パーシャルアンローディング法による深 さ方向への準動的試験では,MDP サンプルでボンディングレジンおよびハ イブリッド層の弾性係数が低下した.樹脂含浸層の tanδ は MDP 処理した サンプルで大きく,特に低周波数域で大きな値を示した.
考察:
MDP 処理サンプルのボンディングレジンおよびハイブリッド層における損 失率の増加は,線状架橋部分による粘弾性の上昇を示していると考えられ る.MDP 処理により修復用レジンの浸透性が向上する一方,象牙質との接 着界面における力学的特性を低下させる可能性がある.線状架橋構造は MDP の長いカルボキシル鎖の分子構造に由来する.カルボキシル鎖の影響 は HEMA の存在下で最も大きくなることが報告されており,今後は HEMA フ リーあるいは低用量 HEMA のプライマー開発を検討する必要がある.