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4 Japanese Journal of Biological Psychiatry Vol.28, No.1, 2017 特集 1 神経化学会会員のための精神疾患教育講座 1. 統合失調症の診断と病態 1, 2 抄録 : GWAS 108 / 日本生物学的精神医学会誌 28(1):4 10, 2

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(1)

1.統合失調症とは?

 統合失調症は,主に思春期から青年期に発症する 脳の病気であり,人口の約1%が罹患する頻度の高 い精神障害である。統合失調症の診断基準は表1 1)

のとおりであるが,その症状としては,陽性症状(実 際には存在しない声が聴こえる幻聴や,事実とは異 なることを確信する妄想)や陰性症状(活動性が低 下し,毎日を無為に過ごす意欲低下や,自らの殻に 閉じこもる自閉や感情的な反応が乏しくなる感情鈍 麻)などが認められる。また,特徴的な症状の存在 が必要なだけでなく,半年以上持続することや,社 会機能の低下を生ずること,そして他の精神疾患だ けでなく,身体疾患や物質の影響を除外する必要が ある。統合失調症の典型的な症例を表2に示す。一 見すると異なる病気のように思われるかもしれない が,どれも統合失調症の典型的な症例であり,多彩 な症状が認められる。

 統合失調症の病因は未だ不明であるが,多数の遺 伝子が関与する遺伝因子に環境因子が重なって起こ ると考えられている。統合失調症の経過は,非特異 的な症状が出現する「前駆期」,活発な幻覚妄想が 出現する「急性期」,陽性症状がおさまり社会復帰 の試みを行う「回復期」,病状が安定し陰性症状が 中心となる「慢性期」と経過するとよく説明される が,患者により様々であり,一様ではない。予後に ついても,多様性があり,半数が改善するが1/3 が治療に十分反応せず,最終的に510%が自殺 既遂に至ると考えられている。

 治療法としては大きく分けて生物学的治療法と心 理社会学的治療法がある。生物学的治療法の中心的 な役割を果たすのは抗精神病薬であり,修正型電気 けいれん療法が用いられる場合もある。心理社会学 的治療法で,特に重要であるのは,デイケアや作業 所と言われる場における精神科リハビリテーション である。抗精神病薬には多数あるがどの抗精神病薬

  

Diagnosis and pathology of schizophrenia

1)大阪大学大学院連合小児発達学研究科附属子どものこころの分子統御機構研究センター(〒5650871 大阪府吹田市山田丘2 2,D3)Ryota Hashimoto:Molecular Research Center for Childrenʼs Mental Development, United Graduate School of Child Development, Osaka University. 2─2, D3, Yamadaoka, Suita, Osaka 565─0871, Japan

2)大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室(〒565─0871 大阪府吹田市山田丘2─2,D3)Ryota Hashimoto:Department of Psychiatry, Osaka University Graduate School of Medicine. 2─2, D3, Yamadaoka, Suita, Osaka 565─0871, Japan

【橋本 亮太 Email[email protected]u.ac.jp

特集 1 神経化学会会員のための精神疾患教育講座

抄録:統合失調症は,主に思春期・青年期に発症し,幻覚・妄想などの陽性症状,意欲低下・感情鈍 麻などの陰性症状,認知機能障害などが認められ,多くは慢性・再発性の経過をたどり,社会的機能 の低下を生じる精神障害である。統合失調症は家族集積性が高く,その遺伝要因に着目したゲノム研 究がなされ,大規模サンプルによるGWASによって,108ものリスク座位の同定に成功し,これらの 遺伝子に基づいた創薬が期待されている。また,脳神経画像解析や神経生理研究の進歩も目覚ましく,

特に眼球運動は客観的補助診断法へ期待できる。さらに,認知機能障害については測定法が確立し,

その障害の有無によって,治療法も変わることから,すでに客観的な診断法として確立したともいえ る。このように診断法については中間表現型を中心に進んでいるが,治療法の開発については,分子 /遺伝子が必要であり,トランスレーショナルなアプローチが期待される。

日本生物学的精神医学会誌 28(1):4─10, 2017 Key words:schizophrenia,diagnosis,intermediate phenotype,cognitive decline,neuroimaging,

eye movement abnormality,genetics

1 .統合失調症の診断と病態

橋本 亮太1, 2)

(2)

においても,ドーパミンD2受容体の阻害作用が認 められることから,統合失調症の病態にはドーパミ ンがかかわっていると考えられてきた。抗精神病薬 は,大きく二つに分けられ,第一世代の抗精神病薬

(定型抗精神病薬とも言われる)と第二世代抗精神 病薬(非定型抗精神病薬とも言われる)がある。前 者よりも後者のほうが,症状改善度,治療反応率,

脱落率,再発率,副作用に関して優れていることが 知られており,日本の統合失調症の薬物治療ガイド ラインにおいては海外のガイドラインと同様に,第 二世代抗精神病薬をまず選択することが推奨されて いる9)。また,抗精神病薬以外の向精神薬である気 分安定薬,抗うつ薬,ベンゾジアゼピン,睡眠薬,

抗てんかん薬などについては,有効性と安全性を勘 案した有用性が示されておらず,日本のガイドライ ンにおいては使用しないことが勧められている9)

2.精神疾患は脳科学のフロンティア  さて,統合失調症をはじめとする「精神疾患とは 何か」ということについて,振り返ってみよう。基 本的には,「特徴的な精神症状・行動障害が認めら れる」「症状は臨床的に著しい苦痛または,社会的,

職業的,または他の重要な領域における機能の障害 を引き起こしている」「症状は,物質(例:乱用薬物,

医薬品),または他の医学的な疾患(例:甲状腺機 1 DSM─5による統合失調症の診断基準

A.以下のうち2つ(またはそれ以上),おのおのが1カ月間(または治療が成功した際はより短い期間)ほとんどいつも存在する。これ らのうちの少なくとも1つは(1)か(2)か(3)である。

(1)妄想(2)幻覚(3)まとまりのない発語(例:頻繁な脱線または滅裂)

(4)ひどくまとまりのない,または緊張病性の行動

(5)陰性症状(すなわち感情の平板化,意欲欠如)

B.障害の始まり以降の期間の大部分で,仕事,対人関係,自己管理などの面で1つ以上の機能のレベルが病前に獲得していた水準より 著しく低下している(または,小児期や青年期の発症の場合,期待される対人的,学業的,職業的水準にまで達しない)。

C.障害の持続的な徴候が少なくとも6カ月間存在する。この6カ月の期間には,基準Aを満たす各症状(すなわち,活動期の症状)は 少なくとも1カ月(または,治療が成功した場合はより短い期間)存在しなければならないが,前駆期または残遺期の症状の存在す る期間を含んでもよい。これらの前駆期または残遺期の期間では,障害の徴候は陰性症状のみか,もしくは基準Aにあげられた症 状の2つまたはそれ以上が弱められた形(例:奇妙な新年,異常な知覚体験)で表されることがある。

D.統合失調感情障害と「抑うつ障害または双極性障害,精神病性の特徴と伴う」が以下のいずれかの理由で除外されていること。

(1)活動期の症状と同時に,抑うつエピソード,躁病エピソードが発症していない。

(2)活動期の症状中に気分エピソードが発症していた場合,その持続期間の合計は,疾病の活動期および残遺期の持続期間の合計 の半分に満たない

E.その障害は,物質(例:乱用薬物,医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない

F.自閉スペクトラム症や小児期発症のコミュニケーション症の病歴があれば,統合失調症の追加診断は,顕著な幻覚や妄想が,その 他の統合失調症の診断の必須症状に加え,少なくとも1カ月(または,治療が成功した場合はより短い)存在する場合にのみ与えら れる。

(日本精神神経学会(日本語版用語監修),髙橋三郎・大野 裕(監訳)(2014)DSM─5精神疾患の診断・統計マニュアル. p.99─100, 医 学書院,東京 8)より引用)

2 統合失調症の多様な症例 幻覚・妄想などの陽性症状

意欲の低下や感情鈍麻など の陰性症状

陽性症状と陰性症状

緊張病状態 興奮 認知機能障害

神様が「先生の奥さんにこのレシピを届けなさい」というので受け取ってくださいと,料理本を買ってき て渡そうとする。受け取れないというと,神様から聞いていませんか?おかしいなとニコニコしながら神 様の話をし続ける

現在は幻覚や妄想はないが,表情は平板で話かけても会話は弾まない。外出もせず,家で一日中横になっ ており,何もせず無為に過ごしている。

部屋に閉じこもって,食事とトイレの時以外はほとんど出てこないで,一日中横になっている。日中もカ ーテンを閉めており,理由を聞くと,外から自分の悪口が聞こえてきて,ヤクザに見張られているので怖 いとのこと

左手をななめ前に上げて,視点が定まらず,不自然な姿勢をとり続けている。話かけても「はい」または

「いいえ」というような簡単な意思疎通ができるときもあるが,何も応答がない状態が持続することもある。

大声で「○○さんが殺しに来る」と叫んで,部屋から飛び出そうとする。制止しようとすると急に殴りか かってくるため,保護室に隔離した。

一時期重篤な幻覚妄想があったが今は消失しており,普通に通学している。発症前は成績優秀であったが,

今は下の中の成績である。

前景にたつ症状 症例

(3)

能低下症)の生理学的作用によるものではない」の 3つが大まかな定義と考えられる。この精神疾患患 者を実際に診断する際には,まず,脳腫瘍,脳炎,

神経梅毒等の「外因性精神疾患」を除外し,次に,

統合失調症,双極性障害,うつ病などの「内因性心 疾患」の診断を行い,これらが除外された場合に,

不安障害,身体症状症,解離症などのいわゆる「心 因性精神疾患」を考える。外因性精神疾患は,客観 的な検査等で確定診断ができる器質的な精神疾患で あり,内因性精神疾患は現時点では症状で診断して おり器質因が同定されていないが,同定されると信 じられているものである。一方,心因性精神疾患は 器質因はないと信じられているものであるが,診断 自体は症状で行うため,現時点では内因性精神疾患 と心因性精神疾患を科学的・客観的に区別すること はできない。

 内因性精神病である統合失調症の原因を生物学的 に解明すると解明した時点でそれは外因性となり,

統合失調症ではなくなるという一見パラドックス が,医学の進歩とともに起きている。図1に示し たように,脳腫瘍による幻覚・妄想状態は,脳腫瘍 が発見されない限り,症候的に統合失調症の診断基 準を満たせば統合失調症と診断される。脳腫瘍など の器質的な脳疾患の場合には,幻覚・妄想などの症 状だけでなく意識障害,神経症状,特徴的な臨床経 過も認められることが多い。これらを症候学的に鑑 別することからはじまり,この原因を科学的な技術

(脳CTMRIなどの画像診断技術)が進むことに より,客観的に診断できるようになる。今度は,脳 CTまたはMRIを用いることにより脳腫瘍を容易に 発見し,診断できるようになる。このようにして,

統合失調症の原因は,解明されると統合失調症では

なくなり,残った原因不明な症候群が統合失調症と して残されるという歴史が今まで繰り返されてき た。このように,精神疾患は,科学技術の進歩によ り,新たな精神疾患が見いだされる脳科学のフロン ティアであるといえる。

3.統合失調症の現在の課題

 統合失調症は,前述したように治療法は存在する が,人生早期に発症して一生治療が必要であり,病 前の社会機能に戻るのは12割程度で,多くは 部分的な改善にとどまる。また,医師によって診断 がばらつき,治療法選択における客観的な基準がな く,医師の経験と勘によって主観的に診断と治療が 行われる問題がある。例えば,精神疾患と身体疾患 の診断の違いは,精神疾患は主観的症状を経過で診 断することになるが,身体疾患は客観的諸見で現在 の状態で診断が可能である(図2)。よって,精神 疾患では,診断の根拠となる主観的症状について,

患者自身が「現在の症状を正確に伝えられるか?」

「過去の症状や社会機能についての情報が信頼でき るか?」というような問題があり,患者をその場で 診察しただけで,確定診断できないことも多い。そ れを補足するためには,家族などからの情報が必要 となるが,家族がいない場合もあり,診断に必要な 情報自体が十分に得られない場合もある。さらに,

異種性のある病態が未だ解明されていないため,客 観的・科学的診断法と治療法の開発が必要とされる。

4.統合失調症の課題を克服するための臨床研究  治療法の開発のためのセントラルドグマとして は,臨床研究にて病態を解明し分子ターゲットを同 定し,基礎研究にて細胞・動物モデルにて治療薬候 補を見いだし,臨床で治療薬候補の治験を行うとい

2 精神疾患診断の課題─客観的補助診断の方向性─

精神疾患    vs    身体疾患

主観的症状 客観的所見

経過で診断 現在のみでOK

脳MRIで脳腫瘍が見つかった

⇒OK 本人が幻覚妄想が1か月続いて 仕事やめたことを説明⇒OK

家族から独語 していることを 聴取⇒OK 本人が今幻覚妄想あるというが昔はわからない

本人が幻覚妄想否定・独居で家族もいない どうする?

1 統合失調症から外因性精神病の発見:脳腫瘍の例

(橋本亮太(2013)病因と病態モデル.日本統合失調症学 会監,福田正人,糸川昌成,村井俊哉,他:統合失調症.

医学書院,東京,pp 103─114 4) より引用)

統合失調症

A B

C D E

特徴的症状

臨床検査

統合失調症:生物学的な病態が想定される症候群 特徴的症状:神経症状,意識障害,臨床経過 臨床検査:脳MRI検査,脳CT検査等

臨床的観察

技術革新

疑い 確定診断

現在原因不明

(4)

う流れになる。この分子ターゲットを見いだすため に最も近い方法論としては,遺伝子解析となろう。

統合失調症は家族集積性があり,遺伝因子が病因に あると考えられている。2014年の大規模全ゲノム 関連解析により,108の領域が統合失調症と関連す ることが見いだされ,その中にはドーパミンD2 容体も含まれており,これらの領域にある遺伝子群 が分子ターゲットになると考えられる11)。ただし,

オッズ比は,1.1程度であるため,客観的診断法と しては役に立たず,他の方法論が必要とされる。

 客観的診断法の開発のためには,バイオマーカー の開発が必要である。方法論としては,脳神経画像 解析や神経生理学そして認知機能などがあげられ る。これらを用いた研究例を紹介する。

a.脳神経画像・神経生理学的研究

 統合失調症の脳画像研究においては,従来,実行 機能や意思決定などの高次の脳機能に関与すると考 えられてきた前頭前野を中心とする大脳皮質に関す る研究が主流であり,主に運動を制御していると考 えられてきた大脳皮質下領域に関する研究はあまり なされてこなかった。しかし,大脳皮質下領域も,

注意・感情などの機能のみならず,前頭前野と連携 して,抑制の制御や作動記憶といった高次の機能に も寄与する重要な脳部位であることが最近わかって きた。そこで,COCORO(図3)における11研究 機関が協力して,健常者1,680名と統合失調症患者 884名の脳MRI画像をFreeSurferという脳画像解 析ソフトウェアで解析して,大脳皮質下領域の体積 についての検討を行った10)(図4)。先行研究である 海外のEGNIMAプロジェクト2)と同じ手法を用い て解析したところ,統合失調症では,海馬,偏桃体,

側坐核,頭蓋内体積が小さく,側脳室と淡蒼球が大 きい結果が再現された。そのうえに,尾状核,被殻 が優位に体積が大きく,淡蒼球では左有意に体積が 大きいことが新しく見いだされた。統合失調症患者 の眼球運動異常は,古くから知られているが,客観 的診断法としての応用は十分になされてこなかっ た。我々は,Eyelink1000を用いた眼球運動検査に よって得られたデータを元に,追跡眼球運動・注視・

探索眼球運動の各課題の眼球運動特徴から作成され た眼球運動スコアによる統合失調症患者と健常者の 判別分析について報告してきた5)。更にサンプル数 を統合失調症患者85名と健常者252名に増やし,

3 COCORO 富山大学

京都大学

広島大学

大阪大学大阪医科大学 関西医科大学

名古屋大学 藤田保健衛生大学 生理研

目的

北海道大学

岡山大学

金沢医科大学

筑波大学

東京大学NCNP,昭和大学 慶應義塾大学 順天堂大学 聖マリアンナ大学 日本医科大学 東京都医学研 千葉大学放医研

神奈川県立精 神医療センター

群馬大学

精神疾患の病因・病態 解明研究と脳機能の 分子メカニズム解明

手法

中間表現型と

Geneticsを組み合わせ た解析

九州大学産業医科

大学肥前病院 奈良 医科大学 山口大学

神戸大学

愛媛大学

徳島大学 浜松医

科大学

東北大学

プロジェクト

・機関間の研究独立性と補完性 (大規模・再現性研究)の両立

・共同研究倫理体制の整備

・MRI撮像統一プロトコール作成

・統合失調症の認知機能障害の  簡便評価ツールの開発

・日本人大脳皮質体積の全ゲノム関連解析

・日本人大脳皮質下体積のメタアナリシス

・眼球運動による補助診断法の確立

・MMN/γオシレーションの多施設共同研究

・基礎神経分野との融合研究 鳥取大学

岩手医科大学

福島大学 理研脳センター

Cognitive Genetics Collaborative Research Organization

通称:COCORO:認知ゲノム共同研究機構(39研究機関)

代表 大阪大学・橋本亮太

4 統合失調症の大脳皮質下体積のメガアナリシス EGNIMA─SZ:ENIGMA Schizophrenia Group

─0.6 ─0.4 ─0.2 0 0.2 0.4 0.6

R L RL RL R L R L RL RL R 海馬L 扁桃体 視床 側坐核

尾状核

被殻 淡蒼球 側脳室 頭蓋内体積

統合失調症>健常者

【淡蒼球】

左右差を発見

健常者>統合失調症 統合失調症

884例健常者 1683例

■: COCORO(北大,岩手医 大,筑波大,東大,名大,

生理研,富山大,金沢医 大,阪大,京大,山口大,

九大,産業医大)

FreeSurferで解析

■: ENIGMA─SZ

【尾状核, 被殻】

COCOROで は有意差あり

(5)

眼球運動特徴を3つに絞り込んで82%の正診率を 得たため,今後客観的な補助診断法としての発展に 期待が持てるものである6)

b.認知機能研究

 20年以上前の精神医学の教科書には,統合失調 症では知能の障害はないとされていたが,今は,認 知機能障害があることが広く知られている。ただし,

統合失調症の認知機能は測定できるが,病前の認知 機能を測定することは臨床上できないため,臨床現 場では,認知機能障害を客観的に測定できない状態 が続いていた。そこで,我々は,「知能(WAIS─III で測定)−病前推定知能(JARTで測定)」=認知 機能障害として,認知機能障害を測定する方法を開 発した。知能をWAIS─IIIで測定するのには90 程度かかり,実臨床では施行が困難であるため,約 10分で測定できる簡略版を作成し,日常臨床で測 定できるようにした12)。この簡略版は,全検査IQ との高い相関だけでなく,UPSA─Bで測定した日 常生活技能やSFSで測定した社会機能とも中程度 の相関が認められた(図5)。そして,統合失調症 患者の認知機能障害の分布について,COCOROの 11施設のデータを用いて,「なし」(─10以上:約 30%),「境界」(─10未満─15以上:約15%),「軽度」

(─15未満─20以上:約15%),「中等度」(─20未満

─30以上:約25%),「重度」(─30未満:約15%)

に分類した3)

 このように認知機能障害を定量するだけでなく,

社会機能についても客観的に「働く」ことを定量す る社会活動評価を作成した。社会活動評価は,「賃 金雇用」「家事労働」「学業」の過去3か月の週当 たりの平均時間を示すものである。この認知機能障 害と社会活動を簡便に測定できるエクセルの評価 シートを作成しており(図6),各大学や希望する クリニックなどにも配布しており,学会等でトレー ニングコースを行っている。このような統合失調症

の認知社会機能評価を行うことにより,今後は,認 知機能障害がある患者に認知機能障害の治療を行う ことができ,認知機能障害のある患者を選択した認 知機能障害治療薬の臨床試験を行うことができると 考えられる。

5.統合失調症の課題を克服するための トランスレーショナル研究

 大阪大学では,基礎と臨床の融合研究を行うべく,

阪大病院の筆者と阪大薬学の橋本均教授及び中澤敬 信准教授とのトランスレーショナルな共同研究体制 Brain Phenotype HUB(BPHUB)を構築している(図 7)。これは,臨床のヒト脳表現型コンソーシアムと,

基礎のマウス脳表現型センターと精神神経疾患iPS センターからなっている。実際の研究の一例として は,脳に多く発現しているARHGAP33分子に関す る研究がある7)。神経細胞のゴルジ体に存在する ARHGAP33分子が神経栄養因子受容体TrkB分子 をシナプス部位への輸送に関与していることを見い 5 統合失調症患者の推定IQとの相関

(Sumiyoshi C, et al(2016)Psychiatry Res, 245:371─378 12)より引用)

0 20 40 60 80 100 120 140

0 20 40 60 80100120140

Full IQ

Estimated IQ

0 20 40 60 80 100

0 20 40 60 80100120140

UPSA-B

Estimated IQ

0 50 100 150

0 20 40 60 80100120140

SFS

Estimated IQ

高い相関:0.9 中程度の相関:0.7 中程度の相関:0.5

全IQ 日常生活技能 社会機能

6 認知社会機能 評価シート 実施日: 2016 / 01 / 06 カルテID:00000001 氏名   ハンダイ タロウ No.:   P0000

年齢 16 16─

89

10 WAIS 3

粗点─Ⅲ 類似

記号探し 19 25 10 0 10 20 0

/33

/60

/25

h/w

h/w

h/w JART25

(誤答数) WAIS

─Ⅲ 推定知能

(EIQ) 84.3 99.6

─15.3

軽度

30

(時間/週)賃金雇用 JART

25 病前予測 IQ 家庭での仕事

(時間/週) 認知機能障害

学業(時間/週) 認知機能障害

の程度

働いていない理由 全労働時間

(時間/週) h/w WAIS─Ⅲ

類似 記号探し

(6)

だした。このARHGAP33分子欠損マウスを作製し 解析を行うと,シナプス形成に異常が認められ,シ ナプスの大きさが小さく,その機能にも異常がある ことが見いだされた。この欠損マウスでは作業記憶 の障害や脳の情報処理と関連するプレパルス抑制7 の異常が見いだされた。さらに,統合失調症と ARHGAP33遺伝子との関連が認められ,Imaging geneticsの手法を用いて,ARHGAP33遺伝子のリ スク型を持つ患者では,左中側頭回,右内側前頭回,

および右下側頭回の脳体積が小さいことを見いだし た。このように,分子/遺伝子を介したImaging geneticsなどの手法を用いた基礎・臨床融合研究が,

精神疾患の分子病態の解明につながると考えられる。

6.神経化学研究者に期待する統合失調症研究  神経化学研究者には,まず,精神疾患の臨床研究 で得られた知見の神経化学的意義の同定についての 研究を期待したい。具体的には,統合失調症リスク 遺伝子,淡蒼球の左右差,眼球運動異常,そして認 知機能障害の意義についてである。次に,精神疾患 の臨床研究で得られた知見に基づくモデルの作成に ついて期待する。統合失調症リスク遺伝子に基づく モデル,淡蒼球の左右差のモデル,眼球運動異常の モデル,そして認知機能障害のモデルである。最後 に,これらの精神疾患モデルを用いた治療法の開発 についての期待がある。神経化学研究者には,統合 失調症をはじめとする精神疾患への理解を深めたう えで,このようなトランスレーショナル研究を行っ ていただけると,精神疾患の克服へとまた一歩近づ くと考えられる。

文  献

1 ) American Psychiatric Association(2013)Diagnosis and Statistical Manual of Mental Disorders, fifth

edition(DSM─5). American Psychiatric Association, Washington DC.

2 ) van Erp TG, Hibar DP, Rasmussen JM, et al(2016)

Subcortical brain volume abnormalities in 2028 individuals with schizophrenia and 2540 healthy controls via the ENIGMA consortium. Mol Psychiatry, 21(4):585.

3 Fujino H, Sumiyoshi C, Yasuda Y, et alin press Estimated cognitive decline in patients with schizophrenia:a multi─center study. Psychiatry Clin Neurosci.

4 ) 橋本亮太(2013)病因と病態モデル.日本統合失

調症学会監,福田正人,糸川昌成,村井俊哉,他:

統合失調症.医学書院,東京,pp 103114.

5 ) Miura K, Hashimoto R, Fujimoto M, et al(2014)An integrated eye movement score as a neurophysiological marker of schizophrenia. Schizophr Res, 16013):

228─229.

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7 Nakazawa T, Hashimoto R, Sakoori K, et al2016 Emerging Roles of ARHGAP33 in Intracellular Traf ficking of TrkB and Pathophysiology of Neuropsychiatric Disorders. Nat Commun, 7:

10594.

8 ) 日本精神神経学会(日本語版用語監修),髙橋三郎・

大野 裕(監訳)(2014)DSM─5精神疾患の診断・

統計マニュアル.pp 99100,医学書院,東京.

9 ) 日本神経精神薬理学会:統合失調症薬物治療ガイ

ドライン.http://www.asas.or.jp/jsnp/csrinfo/03.

html#20150924

10) Okada N, Fukunaga M, Yamashita F, et al(2016)

Abnormal asymmetries in subcortical brain volume in schizophrenia. Mol Psychiatry, 2110):14601466.

11) Schizophrenia Working Group of the Psychiatric Genomics Consortium(2014)Biological insights from 108 schizophreniaassociated genetic loci.

Nature, 511(7510):421─427.

12) Sumiyoshi C, Fujino H, Sumiyoshi T, et al(2016)

Usefulness of the Wechsler Intelligence Scale short form for assessing functional outcomes in patients with schizophrenia. Psychiatry Res, 245:371─378.

7 Brain Phenotype HUB(BPHUB)

ヒト脳表現型コンソーシアム

マウス脳表現型センター 精神神経疾患iPSセンター

・患者の不死化B細胞バンク

・iPS細胞から患者神経細胞の作製

・活動する患者神経細胞の解析

・網羅的精神行動バッテリー

・精神神経薬理機能解析

・全脳構造・機能マッピング

・バイオリソース

・認知・生理・画像データベース

・3000名以上の精神疾患患者・健常者

阪大薬学:橋本

阪大病院:橋本

Old object New object

阪大歯/薬学:中澤

(7)

■ABSTRACT

Diagnosis and pathology of schizophrenia

Ryota Hashimoto 1, 2 )

1Molecular Research Center for Childrenʼs Mental Development, United Graduate School of Child Development, Osaka University

2Department of Psychiatry, Osaka University Graduate School of Medicine

Schizophrenia mainly occurs in puberty and adolescence, positive symptoms such as hallucinations and delusions, negative symptoms such as desire to motivation and emotion obsessive, cognitive impairment, etc. are observed, and many are related to chronic and recurrent course with a decline in social function. Schizophrenia is highly integrated in families, genome research focusing on its genetic factors was conducted. 108 risk loci were successfully identified by GWAS with large scale samples, and drug discover y based on these genes is expected. Advances in neuroimaging and neurophysiological research have also been remarkable, especially eye movement can be expected from objective auxiliary diagnostic methods. Furthermore, Measurement of cognitive decline could be an objective diagnostic method, as a measurement method is established for cognitive decline and the treatment method also changes depending on the presence or absence of cognitive decline. Although diagnostic methods are focused on intermediate phenotypes in this way, molecules / genes are necessary for development of therapeutic methods, and a translational approach is further expected.

(Japanese Journal of Biological Psychiatry 28(1):4─10, 2017)

参照

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鈴木 則宏 慶應義塾大学医学部内科(神経) 教授 祖父江 元 名古屋大学大学院神経内科学 教授 高橋 良輔 京都大学大学院臨床神経学 教授 辻 省次 東京大学大学院神経内科学

東北大学大学院医学系研究科の運動学分野門間陽樹講師、早稲田大学の川上

1991 年 10 月  桃山学院大学経営学部専任講師 1997 年  4 月  桃山学院大学経営学部助教授 2003 年  4 月  桃山学院大学経営学部教授(〜現在) 2008 年  4

関谷 直也 東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター准教授 小宮山 庄一 危機管理室⻑. 岩田 直子

話題提供者: 河﨑佳子 神戸大学大学院 人間発達環境学研究科 話題提供者: 酒井邦嘉# 東京大学大学院 総合文化研究科 話題提供者: 武居渡 金沢大学

向井 康夫 : 東北大学大学院 生命科学研究科 助教 牧野 渡 : 東北大学大学院 生命科学研究科 助教 占部 城太郎 :