複式簿記理論の位相幾何学的考察
(
その3)
−勘定ノードグループ間の複式簿記行列−
日大生産工 ○篠原 正明 情報システム研究所 篠原 健
1.はじめに
文献[1]において、複式簿記行列理論の分野に節点解析を拡張 する枠組において、カットセット解析を提案したが、一方で、
文献[2]にも示したが、その記号に従えば、以下の等式が成立 する。
St 1 T T − ) =
( T (1)
ここで、 は勘定ノード間取引行列、
S
は節点‐枝接続行列(あるいは、節点接続行列)、
t
は取引額枝列ベクトルである。T
本論文では、(1)式の右辺に節点解析のかわりにカットセッ ト解析を用いた時の、(1)式の左辺(特に、複式簿記行列
K =
)の形状について考察する。
T T
T −
2.節点接続行列 S
とカットセット行列C
節点‐枝接続行列
S = { } s ij
は、枝j
が点i
を始点としてい る時 、終点としているときs
、その他の時と定義され、カットセット‐枝接続行列
1
s ij = ij = − 1 s ij
= 0 C = { } c ij
は、枝j
がカットセット
i
を正方向(カットセットの方向と同方向)に含
む時 、負方向(カットセットの方向と逆方向)に含む時、その他の時 で定義される。節点接続行列は 点から外向きをカットセットの方向とする節点カットセット からなるカットセット行列と考えることもでき、一般論では、
あるカットセット間接続行列 の特殊ケースとして、各節点 が各カットセットにどの方向に接続するかを表示するカット セット‐節点接続行列を
Q
を導入することにより、次式で関 係づけることができる。1 c ij =
1
c ij = − c ij = 0
P
QS
C = (2) 3.勘定ノードグループ間の複式簿記行列
Topological Consideration on Double-entry Bookkeeping System
− Part Ⅲ : Spreadsheet Matrix for Cutset Analysis − Masaaki SHINOHARA and Ken SHINOHARA
カットセット解析を用いることにより、勘定ノードのグルー プ別収支残高変動分 を計算することが可能となる
(行列表示
で
(3)式 )。
f C
f C = Ct (3)
ところで、節点解析での勘定ノード別変動分 は(4)式で与え
られる。f s
St
f S = (4) (4)
式の両辺に左から節点‐カットセット接続行列Q
を乗じる と、(5)式を得、これを整理すれば(3)となる。QSt
Qf S = (5)
すなわち、f C = Ct (6)
節点解析(4)式は、複式簿記行列K = T − T T
を使用して、次式の表現も可能である。
St
K1 = (7)
St 1 T T − ) =
( T (8)
ここで、
T
は勘定ノード間取引行列である。(7),(8)式の両辺に
左からQ
を乗じると、(9),(10)
式を得る。f C
QSt
QK1 = = (9)
C T )
( QT − QT 1 = f (10)
すなわち、カットセット解析における複式簿記行列に相当する のはR = QK
であり、 となり、もはや歪対 称ではない。QT T
QT R = −
4.例題
文献[1]の
[例 4]カットセット解析 (その 2)のカットセット
2,4,5に対応したカットセット解析を行う。節点接続行列 S
、カットセット接続行列
C
は(11),(12)
式で与えられる。又、カッ トセット2は節点カットセット1,2を正方向で、カットセット4
は節点カットセット3,4を正方向で、カットセット5は節点カッ
トセット5
と同じなので、カットセット‐節点接続行列Q
は(13)式で与えられる。
⎟ ⎟
⎟ ⎟
⎟ ⎟
⎠
⎞
⎜ ⎜
⎜ ⎜
⎜ ⎜
⎝
⎛
−
−
−
−
−
−
=
1 1 0 1 0 0
0 0 1 0 1 0
0 0 0 0 1 1
1 0 0 0 0 0
0 1 1 1 0 1
S (11)
⎟ ⎟
⎟
⎠
⎞
⎜ ⎜
⎜
⎝
⎛
−
−
−
−
−
=
1 1 0 1 0 0
0 0 1 0 0 1
1 1 1 1 0 1
C (12)
⎟ ⎟
⎟
⎠
⎞
⎜ ⎜
⎜
⎝
⎛
=
1 0 0 0 0
0 1 1 0 0
0 0 0 1 1
Q (13)
ここで、 が成立している。次に取引行列 とその転 置 を以下に示す。
QS
C = T
T T
⎟ ⎟
⎟ ⎟
⎟ ⎟
⎠
⎞
⎜ ⎜
⎜ ⎜
⎜ ⎜
⎝
⎛
=
0 0 0 5 7
0 0 0 0 12
0 8 0 0 0
0 0 0 0 0
11 0 10 0 0
T (14)
⎟ ⎟
⎟ ⎟
⎟ ⎟
⎠
⎞
⎜ ⎜
⎜ ⎜
⎜ ⎜
⎝
⎛
=
0 0 0 0 11
0 0 8 0 0
0 0 0 0 10
5 0 0 0 0
7 12 0 0 0
T T (15)
カットセット解析での複式簿記行列 の構成 要素
QT
と を計算し、QT T
QT R = −
QT T R
を計算すると以下の通りであ る。⎟ ⎟
⎟
⎠
⎞
⎜ ⎜
⎜
⎝
⎛
=
0 0 0 5 7
0 8 0 0 12
11 0 10 0 0
QT (16)
⎟ ⎟
⎟
⎠
⎞
⎜ ⎜
⎜
⎝
⎛
=
0 0 0 0 11
0 0 8 0 10
12 12 0 0 0
QT T (17)
QT T
QT
R = −
⎟ ⎟
⎟
⎠
⎞
⎜ ⎜
⎜
⎝
⎛
−
−
−
−
=
0 0 0 5 4
0 8 8 0 2
1 12 10 0 0
(18)
複式簿記行列
R
の各行和を計算すると、(19)となり、これは 文献[1]の(12)に一致することがわかる。
⎟ ⎟
⎟
⎠
⎞
⎜ ⎜
⎜
⎝
⎛−
= 1 2 3
R1 (19)
の第1行はカットセット
2から出る取引(と言うよりは、
カットセット2内の節点1,2からの実取引
)を表わし、第1
行3列
要素=10はQT
13 = 10
t
、第1行5列要素=11は
、第2行は
カットセット4内の節点
3,4からの実取引を表わし、第 2行 1
列要 素=12は
15 = 11 t
41 = 12
t
、第2行 4
列要素=8は
、第3行は節点
5から出る実取引を表わし、第3
行1列要素 =7は
、第3行
2列要素=5は
34 = 8 t
51 = 7 t
52 = 5
t
である。の第
1行はカットセット 2内の節点 1,2への実取引を表
わし、第1行
4列要素=12
はQT T
41 = 12
t
、第1行 5列要素 =12は
12 5
52 7
51 + t = + =
t
、第2行はカットセット4内の節点3,4 への実取引を表わし、第2行1
列要素=10は 、第2行3
列要素=8は13 = 10 t
34 = 8
t
、第3行は節点 5
へ入る実取引を表わし、第3行 1列要素 =11は t 15 = 11
である。従って、 は、各カットセット毎の節点対 応の実取引の収支を表現している。
QT T
QT R = −
5.おわりに
複式簿記システムにカットセット解析を適用すると、それは 勘定ノードグループ別の計算を行うことになる。その際に、複 式簿記行列がどのような形状になるかを考察し、歪対称性は失 われることを示した。例題により、カットセット解析の複式簿 記行列 を計算し、その会計上の意味付けを 与えた。ところで
DEAにおける入出力項目は、本来的には広
義の意味で複式簿記システムにおける何らかの取引に対応す ると考えられる。ならば、DEAの入出力項目データは、ある 種の複式簿記・取引ネットワーク上の部分データと見なせるた め、本論文ならびに文献[1,2]で考察したネットワーク構造に もとづくネットワークDEAが今後の研究課題である。QT T
QT R = −
参考文献
[1] 篠原正明、篠原健:複式簿記理論の位相幾何学的考察(そ の1)―カットセット解析―、平成20年度日本大学生産工学 部第41回学術講演会・数理情報部会講演論文集(2008.12).
[2] 篠原正明、篠原健:複式簿記理論の位相幾何学的考察(そ の2)―AHPとの同型性―、平成20年度日本大学生産工学部 第41回学術講演会・数理情報部会講演論文集(2008.12).