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千葉大学大学院 准教授

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Academic year: 2021

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― 76 ―

植 物 防 疫  第

71

巻 第

5

号 (2017年)

368

千葉大学大学院 准教授

野村 昌史

(のむら まさし)

エッセイ やじ馬昆虫撮影記

 (その 9 アメリカの鳴く虫)

日本人と西洋人では鳴く虫の音を聞くときに,聞く脳 が反対だという話がある。つまり「西洋人は機械音や雑 音と同様に虫の音を右脳で捉えるのに対し,日本人は左 脳で受け止め,虫の声として聞いている」というのであ る。真偽はともかく私はこの話を聞いたときに,西洋人 は虫の声を聞く機会が少ないのだろうと思っていた。

本欄その 5 でも紹介した 17 年ゼミは,膨大な数でそ の鳴き声も本当に大きかったが,その後,夏に出現した セミは単独で鳴いており,その声も地味で日本の「セミ の声は夏の風物詩」という状況には程遠かった。だから 秋の鳴く虫も数が少ないため,その声は脳に届かないの だという思いを強くした。

しかしそれは違ったのだ。暖かくなってくると草むら から鳴き声が聞こえてくるし,7 月中旬以降は草原でも 樹上からも,家の周りでも,実に様々な鳴き声が,それ こそうるさいくらい聞こえてくるのだ。

その中で私が撮影したいと思ったのは,樹の高いとこ ろで大きな声で鳴くキリギリスであった。しかし彼らは 本当に高いところで鳴いており,結局その姿を見ること はなく,残念ながら写真を撮ることもできなかった。

そこで,もう少し低いところで鳴いている虫にターゲ ットを絞り,声を頼りにあちらこちら探し回った。する と葉に孔を開け,そこに首を突っ込み隠れながらも鳴い

ているカンタンの仲間(図―1)や,茂みに潜んで鳴いて いるマツムシの仲間,そして地面でひっそり鳴く翅の短 いコオロギ(図― 2 )などを撮影することができた。

もっとたくさん写真に残したかったが,毎晩夜遅くま で観察する時間もなく,平和な町とは言っても夜間に出 歩くのは心配でもあったので, たくさんの鳴く虫のごく一 部を撮影したのに過ぎない。それでも様々な声が四方八 方から聞こえたあの夏の夜を忘れることはないだろう。

こんなにたくさんの鳴く虫がいるのに,西洋人はどう してこの声を雑音として捉えているのだろうか。日本に もたくさんの鳴く虫がいるが,自然の中で生活していた 私たちは,自然の声にも本気で耳を傾けていたのではな いか,西洋人がとっくに捨ててしまった機能を私たちは 今も持ち続けているのだと思いたい。

でも右脳で聞こうが左脳で聞こうが,結局は興味があ るかどうかだと思う。ペンシルベニアでは多くの鳴き声 に囲まれてカメラを片手に茂みを覗き込む私に質問して くる人は多いが,虫というと「え?なんで?」という顔 をされることが多い。これは日本で質問されても,そう 大きく変わらない反応である。

だんだんと自然に接することが少なくなり, いつの日か 日本人も虫の声を雑音とするような時代になったら…そ んなことが起こらないでほしいと願わずにはいられない。

図−1 Two-spotted tree cricket 図−2 Carolina ground cricket

参照

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