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看護師・保健師からみた高齢者支援

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Academic year: 2021

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− 61 − 大阪体育学研究 第51巻

シンポジウム

看護師・保健師からみた高齢者支援

−高齢者の「できること」を支援する環境づくりー Nurse s environmental support for older persons

白井 みどり Midori Shirai

1.はじめに

老年看護は、「高齢者のもつ健康あるいは生 活上のリスクの最小化と、可能性の最大化をは かる手助けをすること(北川、2010)」であり、

ケアを通して高齢者の自立的な生き方の実現や QOLの向上を目指す。高齢者は加齢や疾患によ る心身の機能低下は避けられず、低下した機能 を回復させることも容易ではない。心身の機能 障害などによって高齢者のニードが十分に理解 できない場合には、可能性の最大化をはかるこ とはおろか、健康や生活上のリスクを回避する

手助けすら困難なこともある。そのため、看護 や介護など高齢者ケアに携わる者は、丁寧な観 察により高齢者の個別性を理解することが求め られる。その際には、機能低下が避けられない 高齢者だからこそ、「できないこと」を探すの ではなく、「できること」を探すように心がけ る必要がある。そして、図1のとおり、環境刺 激と高齢者の反応は関連することを理解した上 で同時に観察し、個人的要因を考慮した観察結 果を根拠に高齢者の肯定的な感情や行動を引き 出す環境支援を行うことが重要と考える。

大阪市立大学大学院看護学研究科

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図1 認知症高齢者の環境支援の進め方

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− 62 −

白井 みどり:看護師・保健師からみた高齢者支援

本報告では、著者がこれまで経験した高齢者 看護での一場面、およびこれまでの研究で得ら れた成果から、高齢者の「できること」を支援 する環境づくりについて紹介する。

2.高齢者看護での一場面の経験から

高齢者の中にはコミュニケーションが困難な 人がいる。例えば、認知症や運動機能障害によ り話せない、あるいは遠慮して話さない、病状 を訴えない方がいる。本シンポジウムで紹介す る最初の事例は、日常生活が全介助で、常に唸 り声をあげていた重度認知症高齢者の方であ る。看護師や介護職員によれば、この人は「昔 を思い出して泣いている」と思い、「童謡を聞 かせてあげると落ち着かれることがある」とし て音楽を聞かせていた。ところが、よく見ると、

童謡を聞かせても唸り声が小さくなるだけで声 は止まなかった。基調講演で田中喜代次先生が 述べられたように、看護師や介護職員は医療モ デルから生活モデルへ意識を変える必要があ る。この事例は、日中、臀部がずれた姿勢で車 椅子に座らされ、しかも不安そうな表情であっ たことから、本当に童謡を聞かせて状態がよく なるのか疑問に思った。そこで、職員の方に座 り直しをお願いしたところ、唸り声が止んだ。

この事例は、辛い状態であることを自分では訴 えることができず、姿勢を直すこともできない ような状況におかれていた高齢者だったのでは ないか。無理な座位による痛みに耐えながら、

「この人は昔を思って泣いている」という援助 者側の思い込みがあったのではないかと考え た。この事例の経験が著者の高齢者ケアの原点 になっている。高齢者の特徴というと心身の機 能低下は避けられない現実がある。それに加え て、認知症高齢者が増えていることから、個々 のニーズを把握することは容易ではない。前述 のように、可能性を引き出すことはおろか、健 康や生活上のリスクを回避することすら難しい というのが現実である。特に、重度の認知症高 齢者は痛みなどがあるにもかかわらず訴えられ ないこともあるため、身体の動きや表情の観察 を行い、その人のニーズに基づいて環境を支援

する必要がある。

3.研究成果の紹介

1)認知症高齢者の生活環境のアセスメント と支援

著者ら(2006)が認知症高齢者の感情反応と 行動に基づく個別的な生活環境評価とその効果 について検討した研究を紹介する。対象は、93 歳の重症認知症の女性高齢者である。日常生活 は全介助であり、援助者が言葉をかけても反応 のないことが多く、日中はほとんど車いすに座 り、姿勢が崩れるため車いす用拘束ベルトを使 用していた。連続3日間(1日5回、1回10分)

撮影した動画の行動分析等の結果(基礎水準測 定 期 ) を Professional  Environmental Assessment  Protocolに基づいて介護職員等とア セスメントし、「援助者の個別的な関与」「車椅 子用クッションの使用と座位姿勢の修正」「日 中の臥床休養時間の確保」をケアとして実施し た(操作導入期と追跡期)。図2は、感情と行 動の変化を示したものである。姿勢の傾きは軽 減し、「足踏み」や「体を前後に倒す行動」は 減少し、「援助者への発話」の増加が認められ た。また、食事行動が自立し、排泄も訴えるよ うになった。

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1.5 3.5

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39.7

21.6 22.5

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図2 事例Aの感情と行動の変化

(10秒1コマとする全観察コマ数における出現率)

(3)

− 63 − 大阪体育学研究 第51巻

2)車いすを使用する高齢者の座位姿勢への 支援

著者ら(2010)が普通型車いすからいすへの 変更による認知症高齢者の座位姿勢とその修正 に関連する行動の変化について検討した研究を 紹介する。対象は、86歳の重症認知症の女性高 齢者である。この対象は、脳血管障害の既往は あるが運動麻痺はなかった。日常生活では食事 を除き全介助が必要であり、食事は食べこぼし が多かった。支持により歩行することもあるが、

移動は普通型車いすで全介助が必要であった。

日中はほとんど車いすに座り、姿勢が崩れてい ることが多かった。連続2日間(1日6回、1 回10分)撮影した動画の行動分析等の結果(基 礎水準測定期)を理学療法士等と検討し、「車 いすから施設所有のいすと座面奥行きを調整す るクッションと足台に変更」するケアを実施し た(操作導入期と追跡期)。図3は、臀部を上 げる・ずらす行動の変化について示したもので ある。「臀部を上げる」「臀部をずらす」行動は 増加し、食事の食べこぼしがほとんどなくなっ た。

4.まとめ

本シンポジウムで紹介した事例は、いずれも 重度認知症を有する女性高齢者である。いずれ

の対象も、一旦、車いすに座らされると姿勢を 修正することができず、日常生活行動の「でき ること」がほとんどない高齢者と見なされてい た。しかし、生活環境のアセスメントと支援を 行った事例では対人行動や食事等の日常生活行 動が改善し、座位姿勢への支援を行った事例で は高齢者自身で座位姿勢を修正しようとする行 動ができるようになり、食事行動も改善した。

高齢者の機能は加齢や疾患によって低下するこ とは否めないが、「できないこと」ばかりとあ きらめず、「できること」を支援する環境づく りを行うことで生活行動を改善する可能性はあ ると考える。今回の事例は要介護度の高い認知 症高齢者であったが、介護職員、理学療法士や 作業療法士、健康運動指導士等と協力して、高 齢者一人一人の健康レベルに応じた生活行動や 運動を環境と合わせることが必要である。

文献

1.北川公子(2010)老年看護のなりたち. 系統 看護学講座老年看護学(北川公子代表),  医 学書院62-69.

2 . 白 井 み ど り 、 臼 井 キ ミ カ 、 今 川 真 治 他

(2006)認知症高齢者の感情反応と行動に基 づく個別的な生活環境評価とその効果.  日本 認知症ケア学会誌 5(3):457-470.

3.白井みどり、佐々木八千代、北村有香他

(2010)普通型車いすからいすへの変更によ る認知症高齢者の座位姿勢とその修正に関連 する行動の変化.  日本認知症ケア学会誌 9

(3):564-572.

プロフィール 白井みどり(Shirai Midori)

現在:大阪市立大学大学院看護学研究科教授 大阪府立看護大学大学院看護学研究科博士後期 課程修了 博士(看護学)

資格:看護師 保健師

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図3 事例Bの行動の変化

(1ブロック当たりの平均回数)

参照

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