【ダイジェスト版】
不整脈薬物治療に関するガイドライン (2009年改訂版)
Guidelines for Drug Treatment of Arrhythmias(JCS 2009)
目 次
合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本小児循環器学会,日本心臓病学会,日本心電学会,日本不整脈学会
班長 児 玉 逸 雄 名古屋大学環境医学研究所心・血管分野 班員 相 澤 義 房 新潟大学大学院医歯学総合研究科循
環器学分野
新 博 次 日本医科大学多摩永山病院内科・循 環器内科
井 上 博 富山大学第二内科 小 川 聡 国際医療福祉大学三田病院 奥 村 謙 弘前大学循環器内科 加 藤 貴 雄 日本医科大学内科学第一
神 谷 香一郎 名古屋大学環境医学研究所心・血管分野
班員 犀 川 哲 典 大分大学循環病態制御講座 杉 薫 東邦大学医療センター大橋病院循環器内科 住 友 直 方 日本大学小児科学系小児科学分野 中 谷 晴 昭 千葉大学大学院医学研究院薬理学 三田村 秀 雄 東京都済生会中央病院
山 下 武 志 心臓血管研究所付属病院循環器内科 協力員 小 原 俊 彦 日本医科大学付属病院内科
髙 橋 尚 彦 大分大学第一内科
外部評価委員
大 江 透 心臓病センター榊原病院
笠 貫 宏 早稲田大学理工学術院大学院 先進理 工学研究科生命理工学専攻 橋 本 敬太郎 横浜薬科大学臨床薬理学
平 岡 昌 和 厚生労働省労働保険審査会 堀 江 稔 滋賀医科大学呼吸循環器内科
(構成員の所属は2009年8月現在)
改訂にあたって……… 2
Ⅰ 序 文……… 2
Ⅱ 総 論……… 3
1.Sicilian Gambitの意義 ……… 3
2.我が国のエビデンス ……… 5
3.薬剤選択に影響を及ぼす病態 ―心機能,腎機能,肝機能,妊娠― ………7
Ⅲ 各 論……… 8
1.上室期外収縮 ……… 8
2.心房細動 ………8
3.心房粗動 ……… 11
4.発作性上室頻拍 ……… 13
5.心室期外収縮 ……… 13
6.持続性心室頻拍 ……… 16
7.多形性心室頻拍・心室細動・無脈性心室頻拍 ……… 17
8.徐脈性不整脈 ……… 19
9.小児の不整脈 ……… 20
Ⅳ おわりに……… 23
(無断転載を禁ずる)
Ⅰ 序 文
不整脈に対する薬物治療は,20世紀の終盤から大き な混乱期に突入した.その直接のきっかけはCASTであ る.それまで,治療の現場で最も広く用いられてきた Naチャネル遮断を主作用とする薬物(Vaughan Williams 分類のⅠ群薬)を心筋梗塞後の不整脈患者に使用すると,
予想に反して生命予後が悪化することが大規模臨床試験 の結果として報告された.これを契機として,不整脈の 薬物治療を根本から見直そうとする試みが欧州心臓病学 会と米国心臓病学会を中心に始まった.その中心となる 活動のひとつがSicilian Gambitであり,従来の経験的な 不整脈治療から,科学的な情報と知識に基づいた病態生 理学的なアプローチへの脱皮を目指している.1996年 からは,我が国でもSicilian Gambitの理念に基づいた新 しい不整脈治療のあり方を検討する試みが始まり,日本 心電学会と日本循環器学会が共同で作業を進め,2000
年3月にCD-ROM版「抗不整脈薬選択のガイドライン」
が発表された.日本循環器学会を中心とする合同研究班
「不整脈薬物治療に関するガイドライン」は,この流れ を受けついで発足したものであり,2004年に初版を発 日本循環器学会合同研究班の「不整脈薬物治療に関す るガイドライン」は,2004年に初版が発表された.こ のガイドラインは,科学的な情報と知識に基づいた病態 生理学的なアプローチを目指すSicilian Gambitの概念を 基盤としており,エビデンスを重視する欧米のガイドラ インとは異なっている.近年,我が国でも独自のエビデ ンスを求める活動が本格的に始まった.その嚆矢は,心 房 細 動 に 対 す る 薬 物 治 療 の 在 り 方 を 検 証 し た J-RHYTHM試験(2003〜2005年)であり,その成果を 活用して「心房細動治療(薬物)ガイドライン」の全面 改訂が行われた(2008年発表).今回の2009年版は,
部分改訂版であり,2004年版の基本骨格は変えずに,
その後に発表された重要な学術情報をできるだけ多く盛
り込むようにした.ただし,心房細動に関しては,「心 房細動治療(薬物)ガイドライン」最新版に合わせて,
大幅に書き改めた.日本循環器学会から2004〜2008年 度に新たに発表された他の不整脈関連ガイドラインとの 整合性にも留意した.
「不整脈薬物治療に関するガイドライン」は,今後,
論理的な思考の利点と,エビデンスに基づく治療指針を バランス良く組み合わせたガイドラインへと進化させる 必要がある.今回の改訂は,そのための第一歩であり,
エビデンスに関しては,限られた章での導入にとどまっ ている.この点については次回の改訂の重要な課題とし たい.
改訂にあたって
表した.今回の2009年版は,その部分改訂であり,初 版以降に発表された重要な学術情報を踏まえて改訂を行 った.
ガイドライン作成の基本方針
1. Sicilian Gambitの概念を基盤とした2004年版「不 整脈薬物治療に関するガイドライン」の基本骨格を 保ちつつ,それ以後に報告された臨床試験のエビデ ンスや,非薬物治療の進歩,基礎研究の進歩を踏ま えて,現時点における最善の指針を作ることを目指 した.
2. 本ガイドラインは科学的情報と知識に基づいた論理 的な薬剤選択を重視して作成したため,大部分の章 では手技・治療の有効性と有用性についての推奨ク ラス(クラスⅠ〜Ⅲ)とエビデンスレベルが記載さ れていない.
3. このガイドラインは,薬物療法を積極的に奨めるも のではなく,あくまで主治医が治療適応ありと判断 した場合に,安全かつ有効な薬剤を選ぶ情報を提供 することを企図したものである.
4. フローチャートに挙げた薬剤は,不整脈発生のメカ ニズムと薬物の薬理作用から,薬効が期待できるこ とを優先した.このため一部,保険適用が認められ ていない薬物も含まれている.それらの薬物に関し
ては,そのつど明示するようつとめたが,最終的に は添付文書を確認の上処方していただきたい.
5. はじめに,不整脈の種類ごとに成人を対象とした薬 物選択の実際を記載し,小児の不整脈薬物治療ガイ ドラインに関しては独立した章として記載した.フ ローチャートの同一枠内における薬剤は我が国にお ける発売順を重視して列挙した(優先順位ではな い).ただし,キニジンとプロカインアミド(経口)
については,我が国の使用実態を考慮し,下位に列 挙するか,あるいは省略した.大規模臨床試験
(J-RHYTHM)で我が国の使用実態が明らかになっ
ている心房細動については,使用実態を重視した配 列とした.
Ⅱ 総 論
1 Sicilian Gambit の意義
1 はじめに
欧米の心臓電気生理学領域の著名な研究者を集めて3 年ごとに過去4回開催されたSicilian Gambit会議からの 提言はCardiac Arrhythmia Suppression Trial(CAST)以 後の抗不整脈薬療法を大きく変えた.第1回Sicilian Gambit会議は1990年に開かれ,その基本概念として不 整脈診療における従来の経験的アプローチを改め,より 論理的かつ病態生理学的な抗不整脈薬療法を推奨した.
すなわち,①「不整脈の機序」の決定,②治療に最も反 応しうる電気生理学的指標である「受攻性因子」の同定,
③治療の「標的」としての細胞膜レベルのチャネルや受
容体の決定を行い,最終的に,④この標的に作用する「薬 剤」を抗不整脈薬一覧表から選択するという論理過程で ある.1996年の第3回Sicilian Gambit会議に,日本から も初めて委員(平岡昌和,小川聡)の参加が認められた ことを契機に,我が国でもSicilian Gambitに基づいた独 自のガイドライン作成を目的に財団法人日本心臓財団研 究 助 成 に よ る「 抗 不 整 脈 薬 ガ イ ド ラ イ ン 委 員 会・
Sicilian Gambit日本部会」が組織され1996年4月から活 動を開始した.この委員会は,我が国で使用可能なすべ ての薬剤について基礎的ならびに臨床電気生理学的作 用,薬物動態,心血管系への作用,副作用等について独 自に調査し,そのデータベースを基に適正な抗不整脈薬 の使用を進めるための実践的ガイドライン作成を意図 し,その研究成果として,2000年3月にCD-ROM版「抗 不整脈薬選択のガイドライン」が発表された.
Sicilian Gambitは不整脈の発生機序に基づく論理的薬 剤使用を推奨するもので,エビデンスに基づいたガイド ラインとは根本的に異なるが,不整脈診療における意義 と有用性は証明されつつあり,今回のガイドライン改訂 にあたっても,その根幹となる概念である.
2 Vaughan Williams分類とその問題点
Vaughan WilliamsとSinghが抗不整脈薬をその作用に 基づいて4群に分類したのは1970年代前半である(表1). 以来,Vaughan Williams分類として抗不整脈薬の分類法 の標準として用いられてきた.この分類法は各種薬剤の 薬理学的作用の特徴を簡潔に表現している点で優れてお り,多くの臨床家により利用されてきた.しかし,いく つかの問題点が指摘されている.第一には,各群の分類 基準に整合性がない点で,Ⅰ群とⅣ群がイオンチャネル 遮断作用,Ⅱ群がβ受容体遮断作用,Ⅲ群が活動電位に 対する電気生理学的作用(持続時間の延長)に基づいて いる.第二は,複数の作用を併せ持つ薬剤をどこに分類 表 1 Vaughan Williams による抗不整脈薬分類
Ⅰ 群 薬 Ⅱ 群 薬 Ⅲ 群 薬 Ⅳ 群 薬
Ia キニジン
プロカインアミド ジソピラミド アジマリン シベンゾリン ピルメノール
プロプラノロール
ナドロール アミオダロン ソタロール ニフェカラント
ベラパミル ジルチアゼム ベプリジル
Ib リドカイン メキシレチン アプリンジン フェニトイン Ic プロパフェノン
フレカイニド ピルジカイニド
したらよいかという問題である.便宜上その薬剤の主た る作用で分類することになるが,実際にどの作用が抗不 整脈的に働いているかを個々の例で立証することは難し い.
3 Sicilian Gambit による抗不整脈薬 の新しい分類枠組み
Sicilian Gambitでは,スプレッドシート方式ですべて の薬剤のチャネルや受容体への作用を詳細に記載してい る(表2).この表では,一番左の列に薬剤名が記載され,
次いでチャネル,受容体,ポンプに対する作用を示す欄 が並び,右半分には左室機能,洞調律への影響,心外性 の副作用の有無,さらにはPQ,QRS,QT等の心電図上 の指標に対する効果を示す欄が設けてある.Naチャネ ルに対する作用が一番左で,これをさらにNaチャネル への結合解離動態の差からfast,intermediate,slowに分 けている.この分類は薬効ならびに副作用(陰性変力作 用,催不整脈作用)の判断材料となる.一般的には,解 離の速い薬剤(fast kinetic drugs)は副作用が少ない代
わりに,切れ味が劣り,解離の遅い薬剤(slow kinetic
drugs)はその逆で,症例に応じた選択が可能となる.
次いでCaチャネル,Kチャネルへの作用と続き,さら にペースメーカ電流(If)への作用を挙げているのが特 徴である.受容体に対する作用では,Vaughan Williams 分類で挙げられていなかったα受容体,ムスカリン受容 体,プリン受容体への作用も含まれている.最後にNa/
Kポンプへの作用を載せることにより,ジゴキシンをこ の表に含めることができている.各作用の強弱は3段階 に表示されている.
このように,Sicilian Gambitが提案した薬剤一覧表に はVaughan Williams分類と比較して臨床的に有用な様々 な情報が含まれているが,Kチャネルへの作用に関して は最近10年間の研究の進歩から各種Kチャネルサブタ イプが明らかとなり,各々に対する選択性も考慮に入れ た薬剤選択が推奨されてきている.
4 おわりに
Sicilian Gambitの概念に基づく不整脈の論理的治療法
表 2 Sicilian Gambit が提唱する薬剤分類枠組(日本版)(文献 1 より一部改変して引用)
薬 剤
イオンチャンネル 受 容 体 ポンプ 臨床効果 心電図所見
Na Ca K If α β M2 A1 Na-K
ATPase 左室
機能 洞調律 心外性 PR QRS JT Fast Med Slow
リドカイン ◯ → → ● ↓
メキシレチン ◯ → → ● ↓
プロカインアミド Ⓐ ● ↓ → ● ↑ ↑ ↑
ジソピラミド Ⓐ ● ◯ ↓ → ● ↑↓ ↑ ↑
キニジン Ⓐ ● ◯ ◯ → ↑ ● ↑↓ ↑ ↑
プロパフェノン Ⓐ ● ↓ ↓ ◯ ↑ ↑
アプリンジン Ⓘ ◯ ◯ ◯ → → ● ↑ ↑ →
シベンゾリン Ⓐ ◯ ● ◯ ↓ → ◯ ↑ ↑ →
ピルメノール Ⓐ ● ◯ ↓ ↑ ◯ ↑ ↑ ↑→
フレカイニド Ⓐ ◯ ↓ → ◯ ↑ ↑
ピルジカイニド Ⓐ ↓ → ◯ ↑ ↑
ベプリジル ◯ ● ● → ↓ ◯ ↑
ベラパミル ◯ ● ● ↓ ↓ ◯ ↑
ジルチアゼム ● ↓ ↓ ◯ ↑
ソタロール ● ● ↓ ↓ ◯ ↑ ↑
アミオダロン ◯ ◯ ● ● ● → ↓ ● ↑ ↑
ニフェカラント ● → → ◯ ↑
ナドロール ● ↓ ↓ ◯ ↑
プロプラノロール ◯ ● ↓ ↓ ◯ ↑
アトロピン ● → ↑ ● ↓
ATP ■ ? ↓ ◯ ↑
ジゴキシン ■ ● ↑ ↓ ● ↑ ↓
遮断作用の相対的強さ:○低 ●中等 ●高 A=活性化チャネルブロッカー I=不活性化チャネルブロッカー
■=作動薬
は,基礎的な電気生理学の知識を要求されるなど難解な 点も多いが,これに基づいた我が国のガイドラインが広 く臨床家に利用されることが望まれる.そのためには,
このガイドラインを利用して治療した際の有効率や副作 用発生率の検討が必要である.心房細動を対象とした
J-RHYTHM試験は心房細動治療(薬物)ガイドライン
(2001年版)に準拠した薬物使用を推奨したが,結果的 に高い洞調律維持効果が証明された.この他,心房筋の リモデリングが進行しNaチャネル遮断薬が無効と考え られる持続性心房細動例を対象としたJ-BAF試験で,K チャネル遮断作用の強いベプリジルの高い除細動効果が 証明された点もSicilian Gambitの概念と一致している.
今後多くのエビデンスの集積によって,Sicilian Gambit の概念の臨床的意義が証明されることであろう.
2 我が国のエビデンス
我が国の不整脈診療では,日本人を対象としたクリニ カルエビデンスに乏しい点が問題とされてきたが,21 世紀になりようやく我が国においても科学的な方法に基 づいた臨床試験がなされるようになった.
1 J-RHYTHM 試験
2)①プロトコール
欧米からの大規模臨床試験発信を受けて企画された大 規模臨床試験であり,我が国の心房細動患者特性,我が 国で利用可能な抗不整脈薬を用いた場合に,欧米と同様 な結果が得られるかどうかを検証したものである.心房 細動を発作性・持続性心房細動の診断別に登録し,無作 為化により洞調律維持治療か心拍数調節治療に割り付 け,いずれの群においても抗血栓療法,抗不整脈薬療法 は,基本的に我が国のガイドラインに従うこととされた.
一次エンドポイントは,死亡,脳梗塞,全身性塞栓症,
入院を要する大出血,利尿剤静注を要する心不全,割り 付けられた治療方針に対する患者忍容性である.患者の 忍容性を一次エンドポイントに含めたこと,ならびに治 療が盲検化されていないことは,解析結果に医師・患者 間の情報バイアスがかかる可能性を否定できず,本試験 の限界とも言える.
②試験の主要結果
1,065例(発作性心房細動885例,持続性心房細動180 例)が登録され,発作性823例,持続性163例の計986 例が解析対象となった.ただし,持続性心房細動につい
ては,目標症例数を大幅に下回ったためその結果は参考 程度に留めるべきである.発作性心房細動の患者背景と しては,平均年齢約65歳,男性が約70%を占め,基礎 心疾患を持つものは20%以下,高血圧合併は約42%で あった.洞調律維持治療群では試験登録時に,発作性で 約90%,持続性で約80%の患者でⅠ群薬が用いられて いた.一方で,心拍数調節治療群では,発作性心房細動 でβ遮断薬が約50%用いられていた.
発作性心房細動における平均経過観察期間は578日 で,死亡,塞栓症,大出血,心不全入院,患者による忍 容性(割り付けられた治療方針でのQOL低下)という 複合エンドポイント評価では,洞調律維持治療群での event-free survivalが心拍数調節治療群に比べ有意に良好 であった(p=0.0073,図1A).しかし,死亡・塞栓症・
大出血・心不全入院の発生頻度に両群の差はなかった(図 1B左).唯一,患者の忍容性に基づく治療継続率が洞調 律維持治療群で心拍数調節治療群より良好であった(図 1B右).持続性心房細動の結果は,症例数が不十分であ るものの,欧米の試験結果と同様死亡・塞栓症・大出血・
心不全入院の発生率に関して心拍数調節治療群が良好な 傾向を示したばかりでなく,患者の忍容性においても心 拍数調節治療群が良好な治療継続率を示す傾向を示し た.
2 J-BAF 試験
3)①プロトコール
J-BAF試験は我が国で経験的に用いられているベプリ
ジルの効果を科学的に検証した臨床試験である.持続1 週間以上1年未満の持続性心房細動を有し,左房系が 50mm以内,左室駆出率が40%以上の患者を対象とし,
無作為二重盲検法により,プラセボ群,ベプリジル 100mg群,200mg群の3群に振り分け,12週間にわたる 継続投与および毎日および症状時の携帯型心電計による 記録が行われた.本試験の主要評価項目は持続性心房細 動の停止率であった.
②試験の主要結果
解析対象となった患者は90例であり(プラセボ群:
29例,100mg群:32例,200mg群:29例 ), 平 均 年 齢 は約63歳,男性が80%を占めた.本試験の主要評価項 目である持続性心房細動の停止率には明瞭な用量反応関 係を認めた.100mg投与により患者の約40%,200mg 投与により約70%で持続性心房細動が洞調律に復した.
心房細動停止に至る時間経過は,全例でほぼ6週間以内
であった.しかし,洞調律復帰後の心房細動再発率は比 較的高く,心房細動の再発を認めなかった症例は,
100mg群で8%,200mg群で21%に留まった.薬物投与 の中止は200mg群で29例中7例と多く,著明なQT延長
(4例)ならびに心室頻拍による突然死(1例)を含んで いる.このことから,本試験はベプリジルの臨床有用性 を十分に示したとは言えず,むしろその使用に慎重な態 度が必要であることを喚起している.
3 フレカイニドを用いた二重盲検試験
4)①プロトコール
本試験は欧米で心房細動治療に対して用いられている フレカイニドの日本人における効果ならびに用量反応関 係を検証した試験である.少なくとも心電図で確認され た発作性心房細動・粗動が2回以上ある患者を対象とし,
携帯型心電計による心房細動発作の記録後,無作為化二 重盲検法により,プラセボ群,フレカイニド50mg群,
100mg群,200mg群に振り分けられ,4週間の薬物投与 洞調律維持治療
心拍数調節治療
log-rank test p=0.0128
洞調律維持治療 心拍数調節治療
死亡・塞栓症・大出血・心不全 患者の忍容性
洞調律維持治療 心拍数調節治療
洞調律維持治療 心拍数調節治療
(日)
(日) (日)
log-rank test p=0.0142 log-rank test p=0.2568
Event-free Survival Event-free Survival
Event-free Survival
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
00 200 400 600 800 1,000 1,200
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
00 200 400 600 800 1,000 1,200 1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
00 200 400 600 800 1,000 1,200 419
404
341 310
205 182
92 79 No. at risk
B
A 図 1 J-RHYTHM 試験の主要結果
A:複合エンドポイントにおけるevent-free
survival curve.
B:左:死亡・塞栓症・大出血・心不全入院 におけるevent-free survival curve. 右:患者 の忍容性におけるevent-free survival curve.
を受けた.携帯型心電計は,毎日および症状発現時に継 続して記録された.主要評価項目は症候性心房細動・粗 動無再発率であった.
②試験の主要結果
解析対象となった患者は123例であり(プラセボ群:
32例,50mg群:26例,100mg群:32例,200mg群:
33例),その平均年齢は約59歳,男性が約80%を占めた.
本試験の主要評価項目である症候性心房細動・粗動無再 発率は明瞭な用量反応関係を認め,この結果は欧米にお いて報告された結果とほぼ同等であった.症候性心房細 動・粗動再発までの時間においても用量反応関係を認め,
100mgを超える投与群はプラセボ群に比べ有意に延長
していた.なお,治療期間中の死亡,催不整脈作用によ る心室性不整脈は全例で認められなかったが,試験の解 析症例数が少なく,本試験のみから安全性が十分確立さ れたとは言えない.
3 薬剤選択に影響を及ぼす病態
―心機能,腎機能,肝機能,妊娠―
心機能低下例や,肝あるいは腎機能低下例,または妊 娠中の症例に対して抗不整脈薬治療を行う際には,不整 脈の治療適応を厳しくすべきで,自覚症状が著しく強い か,血行動態に悪影響を及ぼす頻脈性不整脈が治療の対 象となる.
1 心機能低下例における抗不整脈薬 の選択
抗不整脈薬の種類により心機能への影響が異なり,一 般にslow kineticsのNaチャネル遮断作用をもつ抗不整 脈薬は心機能抑制が強い.心機能低下例に抗不整脈薬治 療を行う際には,fast kineticsのNaチャネル遮断薬かK チャネル遮断薬を選択する.心筋梗塞後で心機能が低下 している患者では,Naチャネル遮断薬は予後を悪化さ せ,Caチャネル遮断薬も有用性が認められず,β遮断 薬とKチャネル遮断薬は予後を改善する可能性が示唆 されている.このような観点から心機能低下例には心機 能抑制の少ないリドカイン,メキシレチン,アプリンジ ン,アミオダロン,ベプリジル,ニフェカラント,ある いはβ遮断作用をもつソタロールが選択できる.ただし,
ベプリジルはその催不整脈作用から,またソタロールは その陰性変力作用から,それぞれ「うっ血性心不全」,「重 篤なうっ血性心不全」への投与は禁忌とされている.
2 腎機能障害の指標と投与量の目安
腎障害のある例では肝代謝の抗不整脈薬を使用する.
しかし,腎排泄の抗不整脈薬しか有効でない症例では腎 機能障害の程度によって投与量と投与間隔を調節する.
クレアチニンクリアランス(Ccr)がおおよそ50mL/min 以上あるいは血清クレアチニン値(Scr)が1.3mg/dL以 下であれば常用量を投与してもよく,Ccrが50〜20mL/
minの間あるいはScrが1.3〜2.0mg/dLであれば中等度 腎機能障害として通常投与量の2/3〜1/2量を投与する か,投与間隔を少しあけて投与する.Ccrが20mL/min 以下あるいはScrが2.0mg/dL以上であれば高度腎機能障 害として常用量の1/3量以下を注意深く投与するか,隔 日に投与する.血液透析例では,透析で除去されない抗 不整脈薬であれば,少量にして投与間隔をあけて投与し,
透析である程度除去されてしまう抗不整脈薬では,透析 と不整脈の出現しやすい時間との兼ね合いで投与量と投 与間隔を調節する.血液透析では使用されるダイアライ ザーの種類により除去率は異なるので,随時抗不整脈薬 の血中濃度を測定して投与量を調節する.
3 肝機能障害の指標と投与量の目安
肝機能障害のある症例では腎排泄の抗不整脈薬を選択 する.肝代謝の抗不整脈薬を使用する場合の肝代謝能力 の指標として,血清アルブミン,ビリルビン値,プロト ロンビン値を参考にする.肝機能障害があるときにはア プリンジン,アミオダロンなどの肝機能障害が生じやす い抗不整脈薬は特別の配慮を要する.肝代謝の抗不整脈 薬を使用しなければならないときには血清ビリルビン値 を指標にして投与量を慎重に調節する.ビリルビン値が 1〜2mg/dLの軽度肝機能障害では,通常量の2/3量から 抗不整脈薬を投与する.ビリルビン値が2〜3mg/dLの 中等度肝機能障害では,通常投与量の1/2〜1/3にする.
ビリルビン値が3mg/dLより高値の高度肝機能障害では,
一般に抗不整脈薬の投与は禁忌で,生命の危険があるか,
血行動態を著しく障害する頻脈性不整脈があるときに は,カテーテルアブレーションなどの非薬物療法を選択 すべきである.
4 妊婦に対する不整脈治療
すべての抗不整脈薬は妊婦と胎児に対して毒性を持つ と考えられるので,可能ならば薬物治療を避けるべきで,
不整脈を助長する生活習慣の改善を優先させる.米国 FDAの薬剤安全性に関する分類で,妊婦へのリスクが 報告されていないのはリドカインと一部のβ遮断薬,ソ
タロールである.フレカイニド,ベプリジル,ベラパミ ル,ジルチアゼム,ニフェカラントは禁忌である.妊娠 後期には抗不整脈薬の使用も可能となる.
Ⅲ 各 論
1 上室期外収縮
1 定 義
心房(肺静脈,上大静脈および冠状静脈洞を含む),
および房室接合部を起源とし,リエントリー,トリガー ドアクティビティ,異常自動能等による早期収縮を上室 期外収縮と呼ぶ.
2 病態・臨床的意義
基礎疾患,誘因がある場合は,その治療および誘因の 除去が優先される.基礎心疾患のない単発性の上室期外 収縮は臨床的意義に乏しいが,自覚症状が非常に強い場 合や,血行動態や心機能に悪影響がある場合,発作性心房 細動/粗動のトリガーとなる場合は治療の対象となる.
3 薬物治療の実際
虚血が関与している可能性や心筋梗塞の既往がある場 合は,解離速度の遅いNaチャネル遮断薬(slow kinetic drug)の使用は避ける.基礎心疾患がなく自覚症状が強 い症例では,第一選択薬としてβ遮断薬が,第二選択薬 としてジソピラミド,シベンゾリン,ピルジカイニドなど のslow kinetic drugが,第三選択薬としてプロパフェノ ンやアプリンジンなどのintermediate kinetic drugが推奨 される.基礎心疾患のある場合は自覚症状の有無にかか わらず薬物治療を考慮する(特に発作性心房細動/粗動 を合併している場合).心機能が正常で,かつ虚血関与 の可能や心筋梗塞の既往が無い場合,第一選択はβ遮断 薬,第二選択はslow kinetic drug,第三選択がintermediate kinetic drugとなる.軽度の心機能低下がある場合もβ 遮断薬が第一選択となるが,第二選択はintermediate kinetic drugであり,slow kinetic drugは第三選択である.
心機能が正常〜軽度低下であっても,虚血関与の可能性 や心筋梗塞の既往がある場合は,第一選択薬はβ遮断薬 で,第二選択薬はintermediate kinetic drugとなる.心機 能が中等度以上低下している場合には,心不全および心
機能低下に対するアップストリーム治療を優先する.心 筋保護の観点からβ遮断薬,ACE阻害薬,アンジオテ ンシンⅡ受容体拮抗薬の使用を考慮する.
2 心房細動
1 定 義
心房細動は一過性で終わるものから慢性進行性疾患と 認識すべきものまで様々な臨床像を呈する.その自然歴 は加齢,基礎疾患の有無,医療行為の介入により修飾を 受ける.基礎疾患としては弁膜疾患,高血圧,冠動脈疾 患,心不全,心筋症,呼吸器疾患,甲状腺機能亢進症な ど多岐にわたる.治療対象となるのがどのようなタイプ の心房細動であるかを意識することは重要で,本稿では 以下のように定義する.
・ 非弁膜症性心房細動:リウマチ性僧帽弁疾患,
人工弁および僧帽弁修復術の既往を有さない心 房細動
・ 孤立性心房細動:60歳未満で臨床所見と心エ コー所見で高血圧を含めて心肺疾患の全くない 状態
・ 初発心房細動:はじめて心電図上心房細動が確 認されたもの.心房細動の持続時間を問わない.
・ 発作性心房細動:発症後7日以内に洞調律に復 したもの
・ 持続性心房細動:発症後7日を超えて心房細動 が持続しているもの
・ 永続性心房細動:電気的あるいは薬理学的に除 細動不能のもの
2 薬物治療の実際
①抗血栓療法
非弁膜症性心房細動では,それが発作性であるか持続 性,あるいは永続性であるかによってではなく,個々の 症例ごとの脳梗塞のリスク評価を行った上で適切な抗血 栓療法を選択することが奨励されている.その判断基準
にCHADS2スコアが提唱され,積極的に活用されている.
これはCongestive heart failure,Hypertension,Age≧75 歳,Diabetes Mellitus,Stroke/TIAの頭文字をとって命 名されたスコアで,前4つの項目には1点を,脳梗塞発 症リスクの高いStroke/TIAの既往には2点を付与し,合 算して算出する.点数が高いほど脳梗塞発症のリスクが 高くなる.本ガイドラインでも非弁膜症性心房細動にお
けるリスク評価にCHADS2スコアを取り入れ(図2),
TIAや脳梗塞の既往がある例ではそれだけでワルファリ ン療法の適応ありとしたほか,図2右から2番目の欄に 含まれる項目の中2つ以上のリスクに該当する場合は,
ワルファリン療法を勧め,1つの場合は,同療法を考慮 してよいとした.リスクの程度が十分検討されていない 図2右端の欄に示された5つの項目に関しては,該当す る場合は,同療法を考慮してもよい.
ワルファリン療法を行う場合は,従前通りINR2.0〜 3.0でのコントロールが推奨される(クラスⅠ,エビデ ンスレベルA).また70歳以上の症例ではINR1.6〜2.6 でのコントロールが勧められる(クラスⅡa,エビデン スレベルC).なお抜歯に際しては,至適治療域にINR をコントロールした上であれば,ワルファリン内服継続 下で行うことが勧められている(クラスⅡa,エビデン スレベルB).
抗 血 小 板 療 法 に つ い て は,Japan Atrial Fibrillation Stroke Trial(JAST研究)の結果,心房細動の抗血栓療 法としての意義が疑問視されるようになった.この試験 では,アスピリンを低リスク心房細動症例に投与しても 非投与群に優る脳梗塞予防効果を示すことができず,む しろ重篤な出血性合併症を増やす結果が示された.
一方,48時間以上続く,あるいは持続時間不明の心 房細動に対する除細動に伴う血栓塞栓合併の危険性が指
摘されている.このリスクはCHADS2スコアが低くて も存在すると考えられており,ワルファリン療法で最低 3週間,PT-INRを2.0〜3.0に保った後に除細動を試み るか(クラスⅠ,エビデンスレベルB),さもなければ 直前に経食道心エコー法によって左心耳内血栓の有無を 確認するアプローチが勧められている(クラスⅡa,エ ビデンスレベルB).除細動後にはさらに最低4週間の ワルファリンを継続するが(クラスⅠ,エビデンスレベ ルB),その後にも無症候性心房細動発作の再発を生じ ることがあり,安易に中止することは危険である.
②心拍数調節のための薬剤
我が国で行われた大規模試験J-RHYTHMは,安静時 心拍数60〜80/分を目標にした心拍数調節治療と,洞調 律維持を目指した洞調律維持治療の2つの治療法の優劣 を,発作性心房細動と持続性心房細動の2種類の患者群 別に,死亡,症候性脳梗塞,全身性塞栓症,大出血,心 不全による入院,被験者の基本的治療法に対する忍容性 の限界を複合エンドポイントとして比較したものであ る.その結果,持続性心房細動においては,両者のアプ ローチの間に有意差を認めなかったものの,心拍数調節 治療によってこれらイベントがより回避される傾向が示 された(p=0.08).
心房細動例における心拍数調節のための攻撃目標は房 室結節にあり,薬剤としてはCaチャネル遮断薬のほか,
β遮断薬やジギタリスなどが有効である.一般にジギタ リスは副交感神経系の活性時に効果を発揮するため,活 動時の徐拍作用は弱い.そのため心機能良好な例の心拍 数調節ではジギタリスよりもβ遮断薬やCaチャネル遮 断薬の投与を優先し(クラスⅠ,エビデンスレベルB),
ジギタリスはβ遮断薬やCaチャネル遮断薬だけでは不 十分な際に補強する形で併用する(クラスⅡa,エビデ ンスレベルB).急速に徐拍化させる必要がある場合に は静注薬が使用される.Caチャネル遮断薬のベラパミ ル5〜10mgを2分間かけて静注するか,ジルチアゼム 0.25mg/kgを2分間かけて静注する.β遮断薬の静注は 日本ではプロプラノロールが使用されることが多く,そ の場合には総量0.15mg/kgを2mgずつ,間欠的に静注す る.心不全を合併している例や心機能の低下した例には ジゴキシンの静注が用いられることが多いが,その場合
には0.25mgを2時間ごとに目標心拍数に達するか総量
1mgまで静注する.慢性期の心不全例でジゴキシンのみ では徐拍化が不十分な場合には,ジゴキシンに少量のβ 遮断薬を注意深く追加することにより,より良好な心拍 数調節が得られることも多い.
図 2 心房細動における抗凝固療法 僧帽弁狭窄症
もしくは 機械弁
TIAや脳梗塞 の既往
非弁膜性心房細動
ワルファリン
INR2.0〜3.0 ワルファリン
70歳未満 INR2.0〜3.0 70歳以上 INR1.6〜2.6
リスク≧2個 リスク=1個 年齢≧75歳
高血圧 心不全
%FS<25%
糖尿病
心筋症 65≦年齢≦74
女性 冠動脈疾患
もしくは 甲状腺中毒
実線は推奨,破線は考慮可を指す.心房粗動や発作性心房細動 例でも同様に治療する.単独の抗血小板療法はワルファリン禁 忌時に考慮しても良い.ワルファリン療法への抗血小板薬の追 加は以下の場合に考慮しても良い.①INR2.0〜3.0でのコント ロール中に血栓・塞栓症を発症した場合.②非塞栓性脳梗塞や TIA(一過性脳虚血発作)の既往があり抗血小板薬が必要な場 合.③虚血性心疾患を合併している場合.④ステント療法後.
特殊な場合としてWPW症候群では,Naチャネル遮 断薬やKチャネル遮断薬による副伝導路の伝導抑制が 心拍数調節につながる.静注薬としてはピルジカイニド,
シベンゾリン,ジソピラミド,フレカイニドなどに加え プロカインアミドも使用できるが,いずれも徐拍化にと どまらず除細動効果を発揮する可能性もある.最終的に は高周波カテーテルアブレーションにより副伝導路を遮 断することが望ましい.
③洞調律維持のための薬剤 1)孤立性心房細動の洞調律維持
①発作性心房細動
発作後短時間で自然停止する心房細動や,初発の発作 性心房細動に対しては必ずしも薬剤治療を施す必要はな い.しかし比較的強い症状を伴う心房細動発作を繰り返 す例に対しては,薬剤による洞調律維持が重要となる.
とくにJ-RHYTHMにおいて,発作性心房細動例に対し
ては洞調律維持治療の方が心拍数調節治療よりも有意に 優れていたが,その主たる原因は忍容性の改善であった.
孤立性発作性心房細動に対してはトリガーと基質の両 方に対して抗不整脈効果を発揮するNaチャネル遮断薬,
それもチャネルからの解離が遅いslow kinetic薬の効果 が高い(クラスⅠ).また迷走神経の活性化に伴う夜間 や食後の心房細動には,M2受容体拮抗作用のある薬剤 が奏功することもある.本ガイドラインでは孤立性の発 作性心房細動に対する第一選択薬として,ピルジカイニ ド,シベンゾリン,プロパフェノン,ジソピラミド,フ レカイニドを掲げた(図3).直ちに停止をもくろむ場 合には静注が相応しいが,単回経口投与法(pill-in-the-
pocket)が奏功することもある.後者の方法は自宅ある
いは外出先で発作が出現した際に,患者本人が通常1日 量の1/2〜2/3を単回で内服して発作を止めようとする ものである.この方法を採用する場合には,経口後6時 間以内に催不整脈作用などの副作用なしに停止すること を最初だけでも監視下で確認しておくことが望まれる.
再発予防には停止薬と同様の薬剤を経口で投与するやり 方が一般的であるが,患者の年齢,腎機能や肝機能など を考慮して薬剤やその投与量を加減する必要がある.ま たNaチャネル遮断薬の投与に際しては,それによって 心房細動を心房粗動に移行させたり,洞結節機能不全に よる洞停止を助長したり,Brugada症候群ではST上昇 を増強して,ときに致死性不整脈を誘発する危険性のあ ることを留意すべきである.
②持続性心房細動
心房細動が1週間以上持続した例で,リモデリングが 進行した心房筋では,抗不整脈薬による除細動が困難に なる.比較的早期では発作性心房細動に使用する薬剤を そのまま試すことができるが,より長期の持続例での効 果は期待できず,むしろ心拍数調節治療によってQOL が確保されることが多い(クラスⅠ).もし洞調律維持 を追求するのであれば電気ショックが必要となることが 多い.またベプリジル(アプリンジン併用可)や,保険 適用外ではあるがソタロール,アミオダロン(経口)な どによる薬理学的除細動の有効性も報告されている(ク ラスⅡa)(図3).ベプリジルは通常100mgから投与を 始め,QTに注意しながら可能ならば200mgまで増量す る.無効の際にはアプリンジンの追加が奏功することが ある(クラスⅡb).ソタロールも80mgから開始し,同 様に160mg〜320mgまで増量可能である.いずれの薬 剤も分2で投与するのが一般的である.アミオダロンを
ピルジカイニド シベンゾリン プロパフェノン ジソピラミド フレカイニド
肺静脈 隔離術
心拍数調節
洞調律維持を追求するのであれば
第一選択
持続が比較的短い場合 第二,第三選択
房室結節 アブレーション
+ 心室ペーシング 発作性
持続性
孤立性 電気的除細動
*保険適用外
ベプリジル ± アプリンジン ソタロール* アミオダロン(経口)* 図 3 孤立性心房細動に対する治療戦略
使 用 す る 場 合 に は400mgか ら 開 始 し,2週 間 後 か ら
200mgに減量するのが一般的であるが,有効な場合には
さらに100mgまで減量することもある.
2)器質的心疾患を有する心房細動の洞調律維持 肥大心,不全心,虚血心といった背景が存在する場合 には,一旦,心房細動が発生すると,たちまち病態が悪 化するため,緊急に停止を試みるには電気ショックが用 いられる(クラスⅠ).しかしながらその再発防止は困 難であるのみならず,これら基礎疾患の存在下には抗不 整脈薬による危険な心室性催不整脈作用や,陰性変力作 用を示しやすい点も問題となる.基礎疾患のある例では,
まずその原因を改善する治療(upstream approach)が施 されるべきであり,虚血心では虚血の改善が最優先され,
肥大心や不全心ではACE阻害薬やARB,あるいはβ遮 断薬などの使用がまず検討されなければならない(図 4).次には副作用の少ない薬剤を利用した心拍数調節 治療が勧められるが,特に発作性心房細動を呈し,症状 が強い場合には,抗不整脈薬による洞調律維持を追求せ ざるを得ない場面もあり,アプリンジン,ベプリジル,
ソタロール,アミオダロンなどが候補となりうる(図4).
ただし,ベプリジルはその催不整脈作用から,またソタ ロールはその陰性変力作用から,それぞれ「うっ血性心 不全」,「重篤なうっ血性心不全」への投与は禁忌とされ ている.ベプリジルにはQT延長からtorsade de pointes
(TdP)をもたらす副作用が少なからずあることが報告 されており,心電図上のQT間隔を頻回にモニターし,
慎重に投与する必要がある.
3 非薬物治療の適応
高周波カテーテルアブレーションによる肺静脈隔離術 は近年,その有効性や安全性が高まりつつあるが,現段 階ではクラスⅠの適応はなく,有症状かQOL低下を伴
う発作性心房細動で,薬物治療抵抗性(2剤以上)か,
あるいは副作用のため薬物が使用不能な例がクラスⅡa の適応となる.できれば左房径が45mm以下で,左房内 に血栓がない75歳以下の例が望ましい.また特殊な例 としてパイロットなど職業上制限となる場合もクラス
Ⅱaとする.一方,慢性心房細動に関する肺静脈隔離ア ブレーションについては十分なコンセンサスが得られて いるとはいえず,有症状かQOL低下を伴い,薬物治療 抵抗性または副作用のため薬物が使用不能な例がクラス
Ⅱbの適応となる.薬物治療が有効な心房細動や,QOL の著しい低下を伴わない心房細動はクラスⅢと位置づけ られる.このほか,心拍数調節が薬理学的に困難な例に 対して房室接合部アブレーションを加え,心室ペーシン グを行うアプローチも有効であるが,侵襲度が高いこと から,症状が顕著であるか心不全症状が増悪している場 合に一つの選択肢として考慮される.
3 心房粗動
1 定義
心房拍数が240〜440/分の規則正しい頻拍で,340/分 以下のType 1粗動と,340/分以上のType 2粗動に分類
される.Type 1粗動の多くは下大静脈と三尖弁輪間の解
剖学的峡部を含む三尖弁輪を興奮が周回する右房内リエ ントリーを機序とするため,峡部依存性心房粗動とも呼
ばれる.Type 1粗動は下壁誘導で陰性鋸歯状の粗動波を
呈する通常型粗動と,通常型以外の粗動波の非通常型粗 動に分類されるが,通常型では興奮は三尖弁輪を反時計 方向に旋回し,非通常型では時計方向に旋回することが 多い.非通常型粗動には右房自由壁や左房内リエントリ ーを機序とするものも認められる.Type 2粗動は心房細
*保険適用外
(ただし肥大型心筋症に 対する経口アミオダロン は適用あり)
第一選択 第二,第三選択
電気的除細動
心拍数調節
洞調律維持を追求するのであれば
アプリンジン ベプリジル
ソタロール*(不全心除く)
アミオダロン(経口)*
肺静脈 隔離術
房室結節 アブレーション
+ 心室ペーシング
±再同期療法 アップストリーム治療
肥大心・不全心・虚血心
図 4 器質的心疾患に伴う心房細動に対する治療戦略
動に近い頻拍で,機序は個々の例で異なる.開心術の既 往を有する患者に見られる心房粗動は,峡部依存性心房 粗動のこともあれば,右房壁の切開創,瘢痕組織を周回 するリエントリー性頻拍のこともある.
2 病態・臨床的意義
心房粗動の症候は房室伝導に依存する.2:1伝導を 示すと心室拍数は約150/分となり,動悸や呼吸困難な どを来たすが,1:1伝導を示すと心室拍数が300/分に も達し,失神など危険な状態に陥る.4:1伝導で心室 拍数が100/分以下になると無症候の場合が多い.発症 年齢は60歳以上に多く,基礎心疾患や開心術の既往を 有する例も多いが,孤立性の場合も少なくない.心房細 動に対するⅠ群抗不整脈薬,特にⅠc群薬投与後に粗動 が出現することもある.心房細動の約1/3の頻度で血栓 塞栓症を合併する(後述).
3 薬物治療の実際
頻脈かどうか,血行動態は安定しているか,合併する 疾患は何か,血栓塞栓症のリスクはどうか,を考慮して 治療方針を決定する(図5).
①血行動態が不安定な場合
心不全やショック,あるいは急性心筋梗塞に合併した 場合などではDCショックにより速やかに停止させる.
静脈麻酔後,心電図R波に同期させて50Jで通電する.
②血行動態が安定している場合
心室拍数が100/分以上の場合は,まず房室結節抑制 薬(β遮断薬,ジゴキシン,ベラパミル,ジルチアゼム)
を投与し,99/分以下の場合は,抗不整脈薬,DCショ ック,ペーシングにより洞調律に復帰させる.発症後 48時間以上経過している場合は心房細動と同様に抗凝 固療法を行う.
③洞調律復帰のための治療
不応期延長を目的とし,中等度以上のKチャネル遮断 作用を有する薬剤〔ニフェカラント(保険適用外),プ ロカインアミド〕を投与する.第二選択薬としては,緩 徐伝導の抑制を目的とし,解離速度の遅いNaチャネル 遮断薬(ジソピラミド,シベンゾリン,ピルジカイニド,
フレカイニド)を投与する.薬剤投与後に粗動周期の延 長などにより心室レートが増加する可能性があるため,
房室結節抑制薬を併用する.薬剤が無効な場合は,DC ショックかペーシングにより停止させる.ペーシング療 法においても,抗不整脈薬を前投与すると粗動が停止し やすくなる.
④再発予防のための治療
心機能に応じて薬剤を選択する.心機能正常例および 軽度低下例では,Kチャネル遮断作用が中等度以上で,
かつ房室結節伝導を抑制する薬剤〔ベプリジル,ソタロ ール(ともに保険適用外)〕を投与する.第二選択薬と しては,緩徐伝導を抑制し,期外収縮を抑制する目的で Naチャネル遮断薬(ジソピラミド,プロパフェノン,
シベンゾリン,アプリンジン,ピルジカイニド,フレカ イニド)を投与する.この場合も房室結節抑制薬との併 用が必要である.心機能が中等度以上低下している例に はジゴキシンを投与する.これと併用する形で心機能抑 制作用が弱いプロカインアミドやキニジンが第二選択と なる.峡部依存性心房粗動はカテーテルアブレーション により根治可能である.成功率は90%以上で,合併症 もほとんど認められないため,現在は第一選択の治療法 となっている.
⑤ WPW 症候群に伴う心房粗動
心室拍数が過度に速くなるため,緊急の治療を要する.
心室拍数調節目的でβ遮断薬を投与する.ジゴキシンや ベラパミルは禁忌である.WPW症候群も峡部依存性心 房粗動もカテーテルアブレーションにより根治可能であ る.
⑥抗凝固療法の適応
血栓塞栓症のリスクは1.7〜7.0%とされ(心房細動の 約1/3),特に48時間以上持続した粗動で高い.心房粗 血行動態
不安定 血行動態
安定
DCショック
心室拍数調節
(房室結節抑制薬)
再発予防治療が必要な場合
洞調律への復帰
・DCショック
・心房ペーシング
・抗不整脈薬
抗不整脈薬 カテーテルアブレーション
(心不全,ショック,急性心筋梗塞)
洞調律へ復帰させる場合は抗凝固療法の要否を考慮する 心房粗動
図 5 心房粗動治療の進め方(文献 5 より引用)
動に対するDCショック後の血栓塞栓症の発生頻度は,
十分な抗凝固療法を受けていない場合,2.2%と報告さ れている.血栓塞栓症のリスクに関しては,単変量解析 では高血圧,器質的心疾患,左室駆出率低下,糖尿病が 有意な危険因子で,多変量解析では高血圧が独立した危 険因子とされている.心房細動と同様のリスクを有する 持続性心房粗動,再発性心房粗動に対してはワルファリ ン療法を行う.心房粗動を停止させる場合,48時間以 上持続していればワルファリンを3週間以上投与し,停 止後も4週間継続する.
4 発作性上室頻拍
1 定 義
発作性上室頻拍は,頻拍発作の維持に心房が不可欠な ものの総称で,房室結節リエントリー,房室回帰,心房 内リエントリー,洞房結節リエントリー,異所性自動能 亢進が機序となる.
2 病態・臨床的意義
発作性上室頻拍では心拍数が150〜200/分となり,動 悸,胸部不快感などの症状を生じる.発作時,一般的に 血圧は低下するが,ときに血行動態の悪化(収縮期血圧
≦80 mmHg,肺水腫など)や狭心症発作などを引き起
こし,緊急的な対策が必要となる.
3 薬物治療の実際
ほとんどの発作性上室頻拍はカテーテルアブレーショ ンで根治できるので,薬物治療の意義は発作の停止にほ ぼ限られる.アブレーション不成功例やアブレーション を希望しない例では,抗不整脈薬で発作を予防する.
①発作の停止
1)緊急的な停止を要する場合
発作の停止を急ぐ場合には,DCショックや高頻度ペ ーシングを行う.
2)緊急的な停止を要しない場合
緊急的な発作停止が必要ない場合には,迷走神経反射 や抗不整脈薬による停止を試みる.
①迷走神経反射
反射性の迷走神経緊張[息こらえ(Valsalva手技),
顔面を冷水に浸す(顔面浸水),嘔吐反射,深呼吸など]
が有効なことがあるが,有効率は高くはない.
②抗不整脈薬静注
ATP(10 mgを1〜2秒で.ただし保険適用外)ある いはCaチャネル遮断薬(ベラパミル5 mg,ジルチアゼ ム10 mg,いずれも5分間前後で)静注により90%以上 の例で発作を停止できる.Naチャネル遮断薬の効果は それほど高くはない(40〜60%).
③抗不整脈薬単回経口投与(Pill in the pocket)
発作頻度が低く,発作時の血行動態は安定しているが 自覚症状の強い例では,発作時に患者自らがベラパミル,
β遮断薬などを頓服し,発作の停止を試みることが可能 である.あらかじめ有効性と安全性を確認しておく.
薬物治療にもかかわらず発作が停止しない場合には DCショックあるいは高頻度ペーシングにより停止す る.
②慢性期の治療(発作再発の予防)
発作頻度が低く,短時間で停止して自覚症状が軽微な 例では発作間欠期の治療は必要ない.積極的な再発予防 が必要でない例を除き,アブレーションを勧める.アブ レーションを希望しない例や不成功例では以下の方針で 抗不整脈薬を選択する.
1)心機能が中等度以上低下している場合
陰性変力作用の少ないNaチャネル遮断薬を第一選択 とする.房室結節リエントリー性頻拍ではジゴキシンを 第一選択とする.
2)心機能が正常~軽度低下の場合
房室結節リエントリー性頻拍にはβ遮断薬,Caチャ ネル遮断薬(ベラパミル,ジルチアゼム),ジゴキシン を第一選択薬とする.WPW症候群(顕在性)ではKチ ャネル遮断作用のある薬剤を第一選択薬とする.
5 心室期外収縮
1 定 義
心室に起源を有し,リエントリー,トリガードアクテ ィビティ,異所性自動能亢進などを機序とする早期収縮 を心室期外収縮と定義する.ここでは,心室期外収縮が 3連発以上6連発程度までの単形性心室頻拍で,頻拍中 の心拍数が極端に多くなくQRSの変形を伴わない場合 を単形性非持続性心室頻拍と定義し,心室期外収縮と同 じストラテジーで対処することとした.
2 病態・臨床的意義
自覚症状の強さ,基礎心疾患の有無,種類,重症度,
時期などによって治療適応,考えられる発生機序,それ に基づく治療法が異なる.重篤な基礎心疾患がなく,期 外収縮に伴う自覚症状が軽度で患者がそれを容認できる 場合には,敢えて抗不整脈薬による薬物治療を行わず,
生活習慣の改善や軽い精神安定剤のみで様子を見てよ い.一方,薬物治療に抵抗し自覚症状が強くQOLが著 しく低下する場合や,患者が非薬物治療による根治を強 く希望する場合には,カテーテルアブレーション治療も 有力な選択肢の一つである.
薬物治療に際して,Sicilian Gambitの概念を当てはめ て病態生理学的にかつ理論的に治療法を選択するには,
発生機序を明確にする必要がある.しかし,発生機序を 特定するのが困難で,経験的な治療法選択に頼らざるを 得ないことも多い.
3 薬物治療の実際
① 特発性心室期外収縮・特発性単形性非持続性心 室頻拍(図6)
基礎心疾患がない例における心室期外収縮・単形性非
持続性心室頻拍は,特発性で一般に予後はよいと考えら れている.したがって,自覚症状がないか軽度の場合は あえて薬物投与を行う必要はない.むしろ,睡眠不足や 喫煙など不整脈を悪化させる生活習慣の改善を指導すべ きである.動悸などの症状が中等度または高度の場合,
不整脈の存在によってQOLが低下し患者が薬物による 治療を望む場合には,以下の手順に従って用いる薬剤を 選択する.
1)右脚ブロック・左軸偏位(RBBB + LAD)型 QRS 波 形の場合
発生機序は左脚後枝領域のCa電流依存性組織におけ るリエントリーと考えられる.病態生理学的に考えれば,
受攻性因子はCa電流依存性組織における伝導性であり,
治療の標的分子はCaチャネルということになる.した がって,第一選択薬としてCaチャネル遮断を主作用と するベラパミル,ジルチアゼム,ベプリジルが挙げられ る.第二選択薬としてCa電流を抑制するβ遮断薬が用 いられる.これらが無効の場合には経験的にNaチャネ ル遮断薬が用いられるが,病態生理学的理論に基づく選 択ではない.
不整脈に伴う症状
なし〜軽度 あり
生活習慣の改善 期外収縮波形
RBBB + LAD型 LBBB + RAD型 その他の波形
交感神経緊張
(運動,活動,興奮)
関係なし
または不明 関係あり
*保険適用外
〈第一選択〉
Caチャネル遮断を 主作用とする薬剤
ベラパミル* ジルチアゼム*
ベプリジル
〈第二選択〉
β遮断薬
〈第三選択〉
Naチャネル遮断薬
(slow)
ジソピラミド シベンゾリン ピルジカイニド
フレカイニド ピルメノール Naチャネル遮断薬
(intermediate-fast)
メキシレチン アプリンジン プロパフェノン
〈第一選択〉
β遮断作用のある薬剤 β遮断薬 プロパフェノン
〈第二選択〉
Caチャネル遮断を 主作用とする薬剤
ベラパミル* ジルチアゼム*
ベプリジル
〈第三選択〉
Naチャネル遮断薬
(slow)
ジソピラミド シベンゾリン ピルジカイニド
フレカイニド ピルメノール Naチャネル遮断薬
(intermediate-fast)
メキシレチン アプリンジン 特発性心室期外収縮
特発性非持続性心室頻拍
Naチャネル遮断薬
(slow)
ジソピラミド シベンゾリン ピルジカイニド
フレカイニド ピルメノール Naチャネル遮断薬
(intermediate-fast)
メキシレチン アプリンジン プロパフェノン
β遮断薬 図 6 基礎心疾患を伴わない(特発性)心室期外収縮・単形性非持続性心室頻拍(文献 1 より改変)
2)左脚ブロック・右軸偏位(LBBB + RAD)型 QRS 波 形の場合
多くはカテコラミン依存性で,第一にβ遮断薬または β遮断作用を有するプロパフェノンを選択する.また遅 延後脱分極(DAD)によるトリガードアクティビティ を機序とすることも多いので,第二選択としてはDAD に関与するCa電流を抑制することを目的にベラパミル,
ジルチアゼム,ベプリジルが選ばれる.これらが無効の 場合にはNaチャネル遮断薬が用いられるが,やはり病 態生理学的理論に基づく選択ではない.
3)その他の QRS 波形の場合
発生機序を推定することが困難である.交感神経緊張 時に期外収縮が多く発生する例ではβ遮断薬を優先的に 用いるが,その他では幅広い抗不整脈効果を示すNaチ ャネル遮断薬を用いてよい.
②虚血性心疾患に伴う心室期外収縮
多くはリエントリーをその発生機序とすると考えられ るが,異常自動能やトリガードアクティビティによるも のも鑑別は困難である.心筋梗塞あるいは狭心症で,虚 血に伴って期外収縮が発生する場合には,まず虚血の改 善が先決である.
1)心筋梗塞急性期(発症 48 時間以内)
Lown分類の重症度を参考にして治療方針を決定す る.この時期には,重症度の高い心室期外収縮が心室頻 拍や心室細動の引き金になることがあるので,Grade 1 では経過観察,Grade 2〜5では心電図を注意深く連続 監視し,心室頻拍や心室細動の危険性が高いと判断した 場合に抗不整脈薬静脈内投与を考慮する.
薬物を選択するに際し明確なエビデンスはないが,虚 血心筋では膜電位が浅くNaチャネルが不活性化状態に ある心筋細胞が多いと考えられるので,これに親和性の 高いリドカインが用いられる.リドカインに関してはこ れまでに多数の使用実績があることに加え,陰性変力作 用が弱く,心機能抑制を来たす危険性が少ないことも選 択の理由である.また欧米を中心にプロカインアミドも 使用される.しかし,非持続性心室頻拍が多発し,持続 性心室頻拍・心室細動の発生が危惧される場合には,最 近の我が国での成績や欧米におけるエビデンスを考慮 し,ニフェカラント静注やアミオダロン静注も積極的に 考慮すべきである.
2)心筋梗塞亜急性期(発症 48 時間~ 1 か月)(図7)
この時期には,積極的に虚血の解除,心機能の改善を 図るのと並行して突然死のリスク評価を定期的に行い,
心機能評価
正常 軽度低下 中等度以上低下
心筋梗塞の既往 心筋梗塞の既往
なし あり なし あり
〈第一選択〉
Naチャネル遮断薬
(slow)
ジソピラミド シベンゾリン ピルジカイニド
フレカイニド ピルメノール
注) 注)
注)
〈第二選択〉
Naチャネル遮断薬
(fast-intermediate)
メキシレチン アプリンジン プロパフェノン
ベプリジルa)
〈第三選択〉
ソタロール
〈第二選択〉
ソタロール
〈第一選択〉
Naチャネル遮断薬
(fast-intermediate)
メキシレチン アプリンジン プロパフェノン
ベプリジルa)
〈第二選択〉
ソタロール
〈第二選択〉
ソタロール アミオダロン
〈第二選択〉
アミオダロン
〈第一選択〉
Naチャネル遮断薬
(fast)
メキシレチン
〈第一選択〉
β遮断薬 Naチャネル遮断薬
(fast-intermediate)
メキシレチン アプリンジン ベプリジルa)
〈第一選択〉
Naチャネル遮断薬
(fast)
メキシレチン
a) ベプリジルはCaチャネルおよび Kチャネル遮断作用も併せ持つ
図 7 基礎心疾患を有する心室期外収縮・単形性非持続性心室頻拍(心筋梗塞亜急性期を含む)(文献 1 より改変)
注)心筋梗塞の既往または中等度以上の心機能低下がある場合
①Naチャネル遮断薬で生命予後を改善するというエビデンスはない
ので,長期使用は控えるべきである.
②アップストリームアプローチとしてβ遮断薬,ACE阻害薬,A-Ⅱ 受容体拮抗薬の併用を積極的に考慮する.
③心臓電気生理学的検査で薬剤抵抗性持続性心室頻拍/心室細動が誘 発される例では,ICDの適用を考慮する.