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ランダム性の経年変化を考慮した確率降水量の非定常頻度解析論文

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全文

(1)

1.はじめに

近年,異常気象に伴う深刻な気象災害が数多く 発生しており,異常気象と気候変動に対する関心

が高くなってきている。一方,精度の高い水工計 画を策定するうえでは,計画に用いる確率水文量 の精度を向上させることが必要となる。しかし,

自然災害科学J.JSNDS26-4379-389(2008

379

ランダム性の経年変化を考慮し た確率降水量の非定常頻度解析

論文

寒川 典昭・草刈 智一**・根津 隆大***・山崎 基弘

Est i mat i onmet hodf orT- yearr et ur nper i odpr eci pi t at i on wi t hconsi der at i onofl ong- t er m t r endofr andomness

Nor i akiS

OGAWA

, TomokazuK

USAKARI**

, Takahi r oN

ETSU***

andMot ohi r oY

AMASAKI

Abstract

A lot of meteorological disasters associated with abnormal weather occurred frequently in recentyears.Consequently they caused highly concern aboutclimatic abnormalchanges.Onthebasisofsuchbackground,thispapersuggeststheestimation method for T-year return period precipitation in which the time-sequence-related randomnesswastaken into consideration.In orderto measure thisrandomness,the entropyasanindexforrandomnesswasused.Andthenthisestimationmethodwas applied to annualmaximum daily precipitation,which isgenerally considered to be following theGumbeldistribution.Asaresultfrom observed datain Japan during about100years,the25mm/dayincreaseof100-yearreturnperiodprecipitationduring next30yearsatsomeobservatorystationsisshown.

キーワード:ランダム性,エントロピー,年最大日降水量,確率降水量,非定常頻度解析

Keywordsrandomness,entropy,annualmaximum dailyprecipitation,estimationmethodforT-yearreturn periodprecipitation,unsteadyfrequencyanalysis

*** 長野都市ガス株式会社 NaganoToshiGasInc.

本論文に対する討論は平成20年8月末日まで受け付ける。

信州大学工学部社会開発工学科

DepartmentofArchitectureandCivilEngineering,Faculty ofEngineering,ShinshuUniversity

** 中央復建コンサルタンツ株式会社 ChuoFukkenConsultantsCo.,Ltd.

(2)

寒川・草刈・根津・山崎:ランダム性の経年変化を考慮した確率降水量の非定常頻度解析

頻度分析を通じて確率水文量を求める統計解析に おいては,得られる確率水文量に不確定さが内在 する。その主な要因として,

1)確率水文量の算定手法に起因する不確定さ 2)水文データの量的不十分さに起因する不確

定さ

3)水文データの非等質性に起因する不確定さ 4)水文データの非定常性に起因する不確定さ である。

1)にはa)確率分布の算定に用いるための確 率分布の選択に起因するもの,b)用いる確率分布 の母数推定法に起因するものがある。

2)については,著者等1,2)は,降水観測がもた らす情報量を確率分布の母数のエントロピーから 測定する方法に基づき,定常性,等質性を前提と したうえで,推定母数の信頼性とデータ数との関 係についてエントロピーを用いて評価することを 試みてきた。さらにその実践的応用として,著者 3)は,「データが与える情報量の増分」と「母数 の超過(あるいは非超過)確率で定義した確率水 文量の上限確率」の2つの評価値を,算定される 確率水文量に付記した「情報量と上限確率を付与 した確率水文量」を提案した。ここで,“上限確率”

とは,“確率水文量を算定する際に用いる確率分布 の母数を確率変数として,データを得た後の母数 の事後確率分布において非超過あるいは超過確率 tが小さいほど大きい確率水文量を与えるように tを設定し,設定されたtに対応する母数を用いて 推定される確率水文量に対して定義する確率で,

R=100(1-t(%)をその確率水文量の上限確率 とする”ものである。

3)については,これは,例えば,年最大1・

2・3日降水量時系列が,台風が原因,低気圧が 原因,及び前線が原因の異なった気象原因から得 られている場合である。この場合,著者等-6)は,

年最大1・2・3日降水量を質的に分離して,そ れぞれの原因による年最大1・2・3日降水量時 系列を作成し,個々に頻度分析をするという方法 を提案しているが,本論文ではこのことには触れ ないで,データは等質とみなすことにする。

4)については,地球温暖化や都市化に伴う

ヒートアイランド現象など,人間活動の発展と高 度化が一つの原因でもあるが,水文データの非定 常性といった場合,それは未観測の水文データを 含めた長い水文データの時系列を考えるとき,観 測データは周期の一部分と見なされるかも知れな い。しかし,近未来の確率水文量を予測する場合 には,観測された水文量時系列は非定常性を有す ると考えるのが実用的な立場であろう。そこで著 者等5-7)は,移動部分標本を利用する非定常頻度 分析手法を提案してきた。本研究はこの水文量時 系列に存在するデータの非定常性に関する問題 に,水文データの不確定さを付与するという一歩 進んだ立場から,水文量の非定常頻度分析に取り 組んだものである。言い換えると,本稿は治水計 画に多く用いられる年最大日降水量について,そ れに対する適合性が良いとされるグンベル分布を 対象として,グンベル分布のエントロピー8)を導 出するとともに,そのエントロピーを不確定さの 尺度として取り上げ,エントロピーの将来予測か ら,将来の確率水文量を予測したものである。散 らばり(不確定さ)を評価するには,平均値1点 のまわりの分散(あるいは変動係数)もあるが,

ここでは,確率密度関数全体の散らばりを評価 し,かつ一般分布にも適用可能なエントロピーを 指標として用いた。なお,上述の1)から4)の 見解については,寶9)による講演のなかで,特に 質疑・応答の際に一部紹介されていることに触れ ておきたい。

2.「ランダム性の経年変化を考慮した確 率降水量」の算定手順

本稿では,対象とする水文量を年最大日降水量 とするため,確率水文量は確率降水量になるので,

以下では確率水文量のことを具体的に確率降水量 と呼ぶことにする。さらに,エントロピーの将来 予測から算定される確率降水量を「ランダム性の経 年変化を考慮した確率降水量」と呼ぶことにする。

「ランダム性の経年変化を考慮した確率降水量」

の算定は,過去におけるランダム性の変化の分析 をもとに将来時点における確率降水量を算定する という考え方にたち,まず,過去におけるランダ 380

(3)

自然災害科学J.JSNDS26-4(2008

ム性の変化をエントロピーを用いて定量的に評価 し,次に将来時点におけるランダム性がどの程度 になるかを予測評価し,最後に,得られたランダ ム性を反映させた確率降水量を算定する方法とし た。図-1にはその具体的な算定手順を示すとと もに,以下に主な内容を述べる。

本稿では年最大日降水量を対象とするので,扱 う確率分布はそれらが従うとされるグンベル分布 とする。そこで,まずグンベル分布のエントロ ピーについて理論式を導出することが必要となる

(図-1中①)。このため,本稿ではグンベル分布 のエントロピーの理論式について,導出の基本的 なところを示しておく。

次に,得られたエントロピーの理論式に過去の 観測データを適用して,エントロピーの経年変化 を分析する(図-1中②)。エントロピーは確率分 布関数に対しての定量的評価値なので,エントロ ピーを算出するためには,分布形を決定するため の一群の標本データが必要になる。そのため,本 研究では観測データについて移動部分標本を抽出 し,その各々の部分標本ごとにエントロピーを算 出することにした。

さらに,将来時点における分布形を決定するた

めに,過去におけるエントロピーの経年変化を反 映させたモデル関数を用いて将来時点のエントロ ピーを算出し(図-1中③),その得られたエントロ ピー値に対応した分布形を決定する(図-1中④)。

つまり,ここで決定された分布形が将来時点にお けるグンベル分布の分布形ということになる。

最後に,決定された将来時点の分布形を用いて 確率降水量を算出する。

以上の手順により,エントロピーを指標とした

「ランダム性の経年変化を考慮した確率降水量」を 得ることができる。

3.年最大日降水量のエントロピー

3.1 グンベル分布のエントロピーの理論式 年最大日降水量を対象とした場合,この水文量が 従う母集団の分布関数であるグンベル分布に関し て,エントロピーを理論的に算出することが必要と なる。以下にその導出の基本的なところを示す。

グンベル分布の確率密度関数(xp)は(1)式で 与えられる10)。さらに,確率密度関数(xp)のエン トロピーHは(2)式により得られる8)ことから,

グンベル分布のエントロピーの理論式は,(1)式 および(2)式より(3)式のように導くことが できる。

<グンベル分布の確率密度関数(xp)>

(xp)=aexp-a(x-b)-exp-a(x-b)}](1)

(-∞<x<∞,a<0)

(a:尺度母数,b:位置母数)

<グンベル分布p(x)のエントロピーH>

H=-p(x・ln(xp))dx (2)

=- aexp[-a(x-b)-exp{-a(x-b)}] ln[aexp[-a(-a(x-b)-exp{-a(x-b)}]]

lna[exp(-et)]-∞

+γ-[exp(t-et)+exp(-et)]-∞

(ここで,t=-a(x-b))

=1-lna+γ (3)

(γ=0.57721・・・Eulerの定数,単位:nit

-∞

381

- ランダム性を考慮した確率降水量の算 定手順

(4)

寒川・草刈・根津・山崎:ランダム性の経年変化を考慮した確率降水量の非定常頻度解析

(3)式からもわかるように,グンベル分布の場 合,標本によって一度分布形が決定すれば母数a が定まり,エントロピーは定数として算出される。

3.2 観測データのモデリング方法

観測地点における年最大日降水量のエントロ ピーの経年変化を捉えるために,次に示すモデリ ング方法を採用した。

まず,ある1箇所の観測地点においてn個の降 水量データが過去に観測されているとしよう。こ の観測データについて,図-2に示されるように 観測1年目から31年目の31年間のデータを1番目 の部分標本(t=1),2年目から32年目のデータ を2番目の部分標本(t=2)として,データ数 31個からなる部分標本を順次抽出し,n個データ に対して合計(n-30)組の移動部分標本を抽出す る。次に,得られた(n-30)組それぞれの部分標 本に対して3.1で導出したエントロピーの理論式 を適用して部分標本ごとのエントロピーを算出す る。

以上により,観測データ数n個に対して(n 30)個の時系列に従ったエントロピーが算出でき

る。

ここで,1つの部分標本におけるデータの個数 を31個とするのは,各部分標本のエントロピーの 算出に用いる分布形の安定性という点から採用し た標本数である。これは,確率分布の母数の推定 に用いる分布形の決定に際して,標本の資料数が 30個程度を超えると,比較的安定した分布形が得 られるという著者等11)の研究によるものである。

エントロピーの経年変化を把握するうえで,安

定した分布形を得るということは信頼性の高いエ ントロピー値を得ることに寄与し,本稿で用いた 標本数はそのために必要な最小の標本数として,

量的に限られた標本から可能な限り詳細なエント ロピーの変化を把握しようとするものである。

3.3 エントロピーの予測モデル

エントロピーの予測モデルを設定するにあたっ て,長期的にみた場合にエントロピーが一定の値 に収束するか周期的に変動するかは今のデータか らでは分からない。しかし,長期的な周期の一部 であったとしても,水文事象の変動が数千年のス パンで変化しているとすれば,数百年単位での中 期未来には極大(もしくは極小)値があるかもし れない。したがって,近未来を予測する場合にお いては,中期未来の極大(もしくは極小)値を漸 近値と捉えれば,一定の値に収束するとして予測 することが可能だろう。このような考え方に基づ いて,エントロピーの予測モデルの設定について 展開していく。

現在を基準として将来のある時点における「ラ ンダム性の経年変化を考慮した確率降水量」を算 定するうえでは,算定しようとする時点における ランダム性を得る必要がある。将来時点における エントロピーを算出する方法として,本稿では,

現時点までのエントロピーの経年変化をもとにし たモデル関数を取り入れて算出することにした。

もとより,用いるモデルの如何がエントロピーの 予測精度を左右することから,その手法について は議論の余地を残すところであり,さらなる研究 を必要とするが,本稿ではその一解法として次に 掲げるモデルを採用することにした。

(1)予測モデルにおける基本関数

エントロピーの予測モデルの基本となる関数を 設定する場合,過去におけるエントロピーの経年 変化を反映するモデルとして直線モデルが考えら れる。しかし,直線モデルを用いた場合,予測値 は時間の経過に伴って単調増加あるいは単調減少 し,結果として,比較的に遠くない将来のエント ロピーを予測した場合においても,予測値が正ま 382

- 観測データのモデリング方法

(5)

自然災害科学J.JSNDS26-4(2008

たは負に極めて大きくなる可能性を残してしまう ことになる。極論を言えば,時間t→∞のとき,

エントロピーは+∞あるいは-∞となることにな り,エントロピーが正の無限大のときには確率密 度関数の分布形は一様分布,逆に,エントロピー が負の無限大のとき確率密度関数はパルス形のよ うになり,確率降水量の算定に用いる確率密度関 数という面では不適切な分布となる。

この問題を解決するために,本稿では漸近値を もつ関数として一般的な指数関数をベースに,時 間変量tとエントロピーHの関係において任意の 定数Aが漸近値(上限値あるいは下限値でt→∞

のときH→A)となるような(4)式の指数関数 を設定することにした。

H=AαB exp(-mt (4)

ここで,

α:エントロピーの回帰係数が 正のときα=1

負のときα=-1 A:エントロピーが

増加傾向(α=1)のときCH

減少傾向(α=-1)のときCL

m,B:指数関数の形状を決定するパラメー タで,(10)式を用いて最小自乗法に よって求められる

である。

(4)式のモデル関数は,エントロピーの経年変 化が増加傾向にあるとき-(a)に示される A(=CH)を上限値とする指数関数,また,減少傾 向にあるときは図-(b)のA(=CL)を下限値と する指数関数になる。

(2)予測モデルのパラメータ設定

(aα

αはエントロピーの経年変化のトレンドを示す 定数で,エントロピーが増加傾向のときはα=1

(図-(a),減少傾向のときはα=-1(図-(b とする。

(b)上限値CH,下限値CL

本モデルは指数関数による予測モデルのため,

これに近似するための条件を縛るためのひとつの パラメータとして,以下に述べる上限値CH,下 限値CLを設定する。

(ア)上限値CH

対象地点におけるエントロピーの上限値CHは,

そ の 地 点 に お け る 最 大 可 能 降 水 量(PMP ProbableMaximum Precipitation12)をもとに設定 することにする。

最大可能降水量は,対象地点における降水量の 最大値として得られる降水量であり,統計学的立 場から,実績降雨資料を解析処理することにより 生起可能な降水量を簡便手法として推定する方法 である。算出方法の梗概は以下のとおりである。

リターンピリオドTの降水量xTが年最大降水量 n年間平均値- とその標準偏差σxn nとによって

xT- +κσxn n κ:統計的変数 (5)

383

- 予測モデルの基本関数

(a)Aが上限値となる場合

(b)Aが下限値となる場合

(6)

寒川・草刈・根津・山崎:ランダム性の経年変化を考慮した確率降水量の非定常頻度解析

と表すことができるとすれば,同様に最大観測降 水量xm

xm- +κxn mσn (6)

で表される。

κmの値は約2,600の観測所の降雨記録をもと に,各降雨継続時間をパラメータとして- の値xn

に対応するκm(5 κm 20)値を用いる手法であ る。

この考え方にもとづいた場合,平均値は不変と したうえで生起する最大可能降水量を求めている ため,結果的にはその統計量を支配する分布形の 裾が広がったことを意味している。

エントロピーの上限値の設定に際して,このよ うな降水量を与えるときの確率分布のエントロ ピーを,対象地点における実用的な最大のエント ロピー値と考える。つまり,現実的に十分大きい

と考えられる任意のT年確率降水量と上述の最大 可能降水量が相応するとものと考え,それらが等 しくなるときの確率密度関数のエントロピー値 を,対象地点におけるエントロピーの最大値とし た。

上述の方法により算出されたエントロピーを,

本稿では最大可能エントロピーHmaxと呼ぶこと にする。

以下には最大可能降水量から最大可能エントロ ピーを算出する手順について記述する。

はじめに,グンベル分布の尺度母数aと位置母 bは(7)式,(8)式に示すモーメント法に よって得ることができることを記しておく10)

b=μ-γ/a (7)

a=1.285/σ (8)

σ:標準偏差,μ:平均,

γ:オイラー定数=0.5772

手順について,まず,観測地点におけるすべて の観測データを用いて(7)式,(8)式により得 たときの尺度母数,位置母数をそれぞれaP,bP する。

一方,T年確率降水量XTは母数a,bをパラ メータとして,グンベル分布の超過確率を与える

(9)式より得ることができる。

そこで,(9)式をaについて解いた(10)式の XTに最大可能降水量,位置母数bbPを与え,尺 度母数aTを算出する。このとき,このaT,bP 母数にもつグンベル分布のT年確率降水量は最大 可能降水量に等しくなる。

さらに,このときのグンベル分布のエントロ ピーは(3)式を用いて算出することができ,こ のときのエントロピーの値を対象地点における最 大可能エントロピーHmaxとする。

Xb-ln(ln(T/(T-1))/a (9)

aT=ln(l(T/n(T-1))(b/-XT (10)

ここで,

XT:確率降水量,T:リターンピリオド 本稿では,最大可能降水量を与える現実的に十 分大きな確率年としてT=10000(年)を設定し 384

- αの考え方

(aαが正になる場合

(bαが負になる場合

(7)

自然災害科学J.JSNDS26-4(2008

て最大可能エントロピーHmaxを算出し(図-),

(11)式によりモデル関数における上限値CHを設 定した。

CH=1-lnaT+γ (11)

確率年の設定については,リターンピリオド

(T)が10000年を超えると,得られる最大可能エ ントロピーの値が安定するため,本稿ではT=

10000(年)を採用した。

(イ)下限値CL

エントロピーの理論上の最小値は-∞である が,(3)式より尺度母数aは無限大となる。この とき,確率密度関数はパルス型のようになり,確 率降水量を得るための確率密度関数としては適切 でなくなる。そこで,本稿ではモデル関数におけ る下限値CLに既往最小エントロピーを設定する ことにした。

既往最小エントロピーは,各観測地点における 移動部分標本ごとに算出されたすべてのエントロ ピーのうちの最小値を抽出して設定した。

(c)m,B

モデル関数の基本式である(4)式の右辺のA 左辺に移項し,

ln(A-H)=-mt+lnB (12)

としたうえで,最小自乗法によりmおよびBを求 めた。

4.実データへの適用

本章では,2章の手順によって得られる“エン トロピーの経年変化”,及び3章の方法で設定さ れる“予測モデル”を適用して,実際に得られた 観測データを用いて将来時点における確率降水量 の算定を行う。

観測データは,日本全国の主な観測地点48箇所 で1901~2003年に観測された103年間の年最大日 降水量データを用いた。

欠測データの扱いについては,本来の部分標本 数31個から欠測データの個数だけ少ない標本数を 用いて適用することにした。欠測データによって 標本数が30個程度を下回ることは,いずれの観測 地点においてもなかったため,欠測による影響は ないものとした。

4.1 エントロピーの経年変化

実データの適用事例として,長野県下の観測地 点である長野,松本,飯田における観測データを 適用した結果について,図-6に“年最大日降水量 の経年変化”,および図-7に“年最大日降水量の エントロピーの経年変化”を示す。

ここで観測データは103個であるが,エントロ ピーの算出に用いる部分標本数は(n-30)組とな るので,図-7におけるエントロピーのプロット 点数は73点となる。図中に表示してある“西暦

(年)”は31年間の部分標本のうち,観測期間の中 央の年(標本中16番目の観測年)を代表年として 表示している。

(1)エントロピーの経年変化

-(a)~(cは“年最大日降水量におけるエン トロピーの経年変化”を示したものである。各観 測地点とも個々の値は小さく不規則な増減を伴い ながら変動しながらも,図中の回帰直線に示され るように各地点とも増加傾向を示していることが 分かる。このように全国を対象とした48観測地点 のうち,エントロピーが増加傾向なのは34地点で あり,増加の程度が長野,松本と同程度の“やや 増加”にある地点が19地点,飯田と同程度で“強 い増加”を示す地点が11地点,“かなり強い増加”を 385

- 最大可能降水量とT年確率降水量の関係

(8)

寒川・草刈・根津・山崎:ランダム性の経年変化を考慮した確率降水量の非定常頻度解析

示している地点は寿都,熊谷,岐阜,浜田の4地 点であった。

また,ある程度連続した期間の動きに着目すれ ば,10~30年の比較的安定した期間に挟まれるよ うに数年間の大きな変動を伴いながら変化してい ることがわかる。なかでも長野で1966年,松本で

1965年を中心に大きな減少と増加が連続するV 型変動や,飯田のように大きく増加(1946年)し た後再び大きく減少(1977年)して,最終的には 増加する前の値程度に戻るといった凸型変動が見 られる。

386

- 年最大日降水量のエントロピーの経年変化

(長野,松本,飯田)

(a) 長野

(b) 松本

(c) 飯田 - 年最大日降水量の経年変化

(長野,松本,飯田)

(a) 長野

(b) 松本

(c) 飯田

(9)

自然災害科学J.JSNDS26-4(2008

このような急激な変動の原因は,異常に大きい データが移動部分標本の中に入ったり,出たりす るときに起こるものである。飯田の凸型変動は,

-(cにあるように1961年(観測年)の325. mm/dayという稀に大きな降水が発生し,この データが移動部分標本に入ったときにエントロ ピーが急増し(表示年:1946年),移動部分標本か ら外れたときにエントロピーが急減(表示年:1977 年)したものである。またV字型変動については,

比較的大きな値のデータが移動部分標本から外れ た直後に,新たに大きな値のデータが入ってきた ような場合に見られる現象である。たとえば,長 野 の 場 合1950年 の113.9mm/dayと1982年,1983 年の114.5mm/day,112.0mm/dayの組み合わせ などである。

またこのような急激な変化は,分布形の変化に 対してエントロピーがその変化を敏感に捉えてい ること示すものである。

(2)モデル関数の適合性

-7中には3.3の考え方を適用した場合の予 測モデル関数についても示してある。

これらに示されるように,モデル関数式(4)

式で十分捉えられない部分もあるが,一応モデル 関数式(4)式はエントロピーの経年変化を概略 的に捉えているものと判断する。他の45観測地点 については,エントロピーの経年変化をモデル関 数式(4)式が比較的よく捉えている観測地点も あれば,一概にそのように言えない観測地点も あった。そのように言えない観測地点は,移動部 分標本中に,異常に大きいデータ,あるいは異常 に小さいデータが混入するときであった。

4.2 ランダム性の経年変化を考慮した確率降 水量の算定

前節で得られたモデル関数(4)式を用いて,

現時点(2005年)を基準として10年後(2015年),20 年後(2025年),30年後(2035年)における10年確 率降水量,30年確率降水量,50年確率降水量,

100年確率降水量を算定した。

確率降水量の算定にあたっては,グンベル分布

の超過確率降水量を与える(9)式に,エントロ ピーと尺度母数aの関係を示す(3)式を代入し て得られる(13)式を用いた。

(13)式のなかで,Hには(4)式のモデル関 数により算出された将来時点でのエントロピーの 値を適用する。また,将来の位置母数bは既往の すべての標本から計算したbの経年変化(回帰直 線)を外挿した値を適用した。

ln[ln{T/(T-1)}]

xTb-――――――――

a

ln[ln{T/(T-1)}]

b-―――――――― (13)

exp(1+γ-H ここで,

xT:T年確率降水量(mm/day T:リターンピリオド(年)

b:グンベル分布の位置母数 H:エントロピー(nit γ:オイラー定数(0.57721)

である。

-(a)~(dは上述の確率降水量の算出結果 を長野,松本,飯田について示したものである。

これらの図より,10年後,20年後,30年後と年 数を経るに従って10年確率降水量,30年確率降水 量,50年確率降水量,100年確率降水量はいずれ も増加する傾向にあり,長野,松本ではやや増 加,飯田ではそれらより大きく増加していること がわかる。

基準年(2005年)に対する30年後の10年確率降 水量は長野,松本で2~5mm/day,飯田で13 mm/day程度増加している。30年確率降水量と50 年確率降水量についてはほぼ同程度の増加量と なっており長野,松本で4~8mm/day,飯田で 20~22mm/day増加している。また,100年確率 降水量は長野,松本で約6~10mm/day,飯田で 25mm/day程度増加していることが示されてい

る。

全国の48観測地点における将来の確率降水量の 算定結果は,表-1に示すように長野,松本,飯 田を含む31観測地点で増加傾向にあり,17観測地 点で減少傾向にあった。増加傾向にある観測地点 387

(10)

寒川・草刈・根津・山崎:ランダム性の経年変化を考慮した確率降水量の非定常頻度解析

のうち,特に100年確率降水量が2005年から2035 年の間に30mm/day以上増加する結果となった観 測地点は熊谷,岐阜,奈良,浜田,高知,長崎,

熊本の7地点であった。

なお,確率降水量の算定は尺度母数aと位置母 bが関係するが,長野,松本,飯田については 位置母数bは将来的にもほとんど変化していない ので,これらの観測地点の確率降水量の増加は確 率密度関数がよりフラットになったことに起因す るもので,エントロピーの増加傾向を反映したも のと考える。

5.あとがき

本研究は,降水の非定常問題に対して,不確定 性の指標であるエントロピーがランダム性の定量 的評価値をあらわすことに着目し,年最大日降水 量について過去におけるランダム性の経年変化を エントロピーの視点から分析した。さらに,得ら れた結果をもとに,将来時点における「ランダム 性の経年変化を考慮した確率降水量」を算定する ことを試みた。

その中では,年最大日降水量が従うとするグン ベル分布のエントロピーの理論式を導出するとと もに,将来予測のためのモデル関数を提案した。

また,全国48地点で観測された実データを適用 して,そこから算出される「ランダム性の経年変 化を考慮した確率降水量」を評価した。

その結果,長野県下の観測地点における100年 確 率 降 水 量 は,30年 後 は 現 在 に 比 べ て 6 ~ 25mm/day程度増加することなどが示された。

388

(a) 10年確率降水量の変化

(b) 30年確率降水量の変化

(c) 50年確率降水量の変化

- ランダム性の経年変化を考慮した確率 降水量の変化(長野,松本,飯田)

(d) 100年確率降水量の変化

- 各観測地点における将来降水量の傾向 観測地点名

札 幌,旭 川,帯 広,根 室,寿 都,宮 古,

水戸,宇都宮,前橋,熊谷,東京,横浜,

長 野,松 本,飯 田,名 古 屋,岐 阜,津,

伏 木,敦 賀,大 阪,神 戸,京 都,彦 根,

奈良,和歌山,浜田,高知,福岡,長崎,

熊本

(31地点)

増加傾向を示す 観測地点

網走,石巻,秋田,山形,福島,甲府,

浜松,高山,福井,境,下関,徳島,多 度津,松山,大分,宮崎,鹿児島

(17地点)

減少傾向を示す 観測地点

(11)

自然災害科学J.JSNDS26-4(2008

今後は,将来時点の予測に用いるモデル関数,

あるいはその設定方法などについて研究を進め,

より精度の高い水工計画の策定に向けた手法の開 発を行いたいと考えている。

なお,本研究を行うに当たり,信州大学大学院 博士前期課程1年生の吉平誠司氏の御協力を得た ことを記し,感謝の意を表する。

参考文献

1)寒川典昭・荒木正夫・上原 剛・草刈智一:2 母数対数正規分布の信頼性評価,水工学論文 集,第34巻,pp-6,1990.

2)寒川典昭・荒木正夫・上原 剛・草刈智一:グ ンベル分布の推定母数の信頼性評価,天気,第 38巻,第8号,pp-9,1991.

3)寒川典昭,荒木正夫,草刈智一:情報量の増分 と上限確率を付与した確率水文量について,天 気,第39巻,第12号,pp41-49,1992.

4)寒川典昭・河上岳史,福本 徹:年最大1・2・

3日降水量の等質化とその頻度分析,京都大学 防災研究所附属水資源研究センター研究報告,

第15号,pp43-50,1995.

5)寒川典昭・河上岳史・吉永幹太:等質化した年 最大1・2・3日降水量の非定常頻度分析,信州 大学工学部紀要,第78号,pp-14,1997.

6)寒川典昭・吉永幹太:ロジスチック曲線を用い た年最大1・2・3日降水量の非定常頻度分析,

信州大学工学部紀要,pp-11,1997.

7)寒川典昭・中村 哲・山田広樹:年最大1・2・

3日降水量時系列に存在する非定常性と非定常 確率水文量の推定,日本統計学会誌,第23巻,

第2号,pp249-262,1993.

8)例えば,笠原芳郎:情報理論と通信方式,共立 出版,p13,1965.

9)寶 馨:実務者向け:極値水文データの頻度 解析-大標本時代の水文頻度解析-,21世紀 COE拠点形成プロジェクト,フォーラムin東京 第52回防災講座.

10)例えば,神田徹・藤田睦博:新体系土木工学26 水文学-確率論的手法とその応用-,技報堂 p44,1982.

11)寒川典昭・荒木正夫・渡辺輝彦:確率分布の推 定母数の不確定評価法,土木学会論文集,第 375号,Ⅱ-6,pp133-141,1986.

12)吉岡和徳:最大可能降水量の一推定法,土木技 術資料17-8(1975),pp47-48.

(投 稿 受 理:平成19年7月9日 訂正稿受理:平成19年11月26日)

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参照

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