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不動産物権変動における公示の原則の動揺・補遺 (1)-(10・完)

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

不動産物権変動における公示の原則の動揺・補遺 (1)-(10・完)

七戸, 克彦

九州大学大学院法学研究院 : 教授

http://hdl.handle.net/2324/12542

出版情報:民事研修. 604, pp.2-28, 2007-08-01. 民事研修編集室 バージョン:

権利関係:

(2)

論説 ・解説 604(19.8)

論説 ・解説

不動産物権変動 における公示 の原則の動揺 ・補遺 ( 1 )

七 戸 克 彦

Ⅰ 序論‑ 我妻論文 ・補遺

Ⅱ 登記の要件の緩和

A 登記 の実質的要件の緩和

1 物権変動 の過程 に合致 し い登記 (1) 中間省略登記

(2) 中間省略相続登記 (3) 冒頭省略登記 (4) 中間過剰登記

(5) 抹消登記 に代えて行 う 転登記 2 物権変動の態様 に合致 し い登記 B 登記 の形式的要件 の緩和

Ⅲ 不正登記 の申請 と刑罰法規の適用

Ⅳ 平成期の裁判例の動向

Ⅴ 結語‑ 新不動産登記法 と公示 原則

(以上本号 )

Ⅰ 序論‑ 我妻論文 ・補遺

本稿 の表題 にい う 「不動産物権変動 にお ける公示 の原則 の動揺」 とは, 我妻栄 が昭和14年 に発表 した同名論 文(1)の言辞 で あ るが, しか し, 同論 文 にお ける我妻 の関心 の対象 は,種 々認 め られ る公示 の原則 の 「動揺」現 象 の中で も, ご く一部 の もの‑ す なわ ち,不動産利 用権 につ き, その利 用 の事実 を もって公示方法 とす る一連 の立 法 (明治42年建物保護法 ・大正 10年借家法 ・昭和13年農地調整法) にあ った。

その結 果, 同論 文 にお いて我妻 が導 いた最終 的 な結論 は, 「不動産 を収 益財 と して取 引す る者 のためには公示 の原則 は更 に徹底 すべ く,更 に進展 すべ きで あ る 不動産 を利用す る者 のためには公示 の原則 は退去すべ きで あ る そ して,利用権能 は合理 的内容 を保障せ られ ることによ って公示 な き欠 陥 を補 充 せ らるべ きで あ る」 とい うもので あ ったが(2), しか しなが

1 2 ‑

(3)

604(19.8)論説 ・解説 ら,論文全般 に通底す る公示 の原則 に対す るす こぶ る悲観 的 な現状認識 が,上記結論 の前半部分 の主張 を, いか に も脆弱 な もの と して いる 日 く,「一方で は不動産利用者 は甚 だ しく登記 にな じまない結果,登記 を要 件 として これを保護せん とす ることは到底充分の保護 とはな りえない。 ま た反対 に,不動産の取引者 も登記簿の記載 を もって満足せず,実地 を検分 す ることを甚だ しき苦痛 とは しない」(3)

「私 が不動産物権変動 にお ける 公示の原則の動揺 と呼んだ ものは,要す るに,わが国における不動産物権 の変動 はもはや如実 に登記簿 に反映せ られ るものではな く, したが って, 不動産取引の安全を期す る者 は不動産 の実地 について調査す ることを必要

とす るに至 った, とい うことである」(4)

そ して, このよ うなペ シ ミステ ィックな現状認識が,我妻 の本来の意図 に反 して歪曲 した形で (不動産利用権保護 の領域 にとどま らず)不動産取 引全般 にわた って実地検分をむ しろ正当化す る見解 の通説化へ と連 な って ゆ くのであるが, この点 に関す る考察 は,別の機会 に譲 ることと して,以 下では,登記制度の 目的の 「矯小化」 とで もい うべ き制度観の変化の側 に 注 目 したい。

我妻 は,次のようにい う

「これ らの

‑民法177条の 「第三者」 の範囲

に関 して判例 ・通説の採用す る〕制限説の理 由の根底 に横 たわ る思想 は, 登記 を もって個 々の物権取 引 にお ける安全 を保持せん とす る制度 と観念 し, したが って,互 いに衝突す る物権変動の優劣を決定す る標準 たるに過 ぎざるもの となさん とす るものである これ らの全国の不動産物権変動 を 登記簿 に反映せ しめん とす る理想 はほとん ど過去の夢 と化 していることを 見出 さざるをえないで はないか」(5)

「以上 われわれ は, わが法制 の不 動産物権変動 における公示の原則 は立法上既 にその一角か ら崩れつつある ことを見 た。 また学説 ・判例 において も不動産物権変動 を ことごと く公簿 の上 に反映せ しめん とす る理想か ら遠 ざか りつつあることを知 った。全国 の不動産を公簿 に登録 し, その記載の基礎 の上 に安全且つ迅速 に不動産取 引を決済 してゆ こうとす る近代法の公示 の原則 は到底企及 しえない もの と な った ことを理解 した」(6) 「公示 の原則 の解釈 に関 して判例 ・学説 の描 かん としている大 きなカーブを前 に して,われわれ は次の心構えを必要 と す る 第 1,わが国の登記制度 について,近代法の最高水準 を理想 と して これに近づか しめん とす る態度で解釈論 を構成す ることは今や断念す るの 他 はない。登記 にな じまない実際取引の実情 を基礎 と して立論す るとき, 登記を もって個 々的取引の保護 と考え ることが,恐 らくはもっとも至当な のであろう。」(7)。

‑ 3 ‑

(4)

論説 ・解説 604(19.8)

そ して, この よ うな登記制 度 に関す る制 度観 の 「填小化」‑ す なわ ち, 登記制度 を, 不動 産 に関す る権利 関係 を正確 に記録 した特別 の公文 書 (8)と捉 え る理解 か ら,単 な る個別的取 引 にお ける優先関係決定 のため の制度, もっぱ ら私人 の個別具体的取 引保護 のための情報 サー ビス提供制 度 にす ぎない とす る理解 へ の制度観 へ の変化‑ が, 公示 の原則 の 「動 揺」 ない し公示 の原則 の解釈 に関す る 「大 きなカーブ」 に, さらに拍車 を か けることとな る

1 「動揺」 の全容

公示 の原則の 「動揺」現象 は,我妻論文が問題 と した不動産利用権 の保 護立法 の成立 に尽 きるもので はない。

そ もそ も何 を もって して公示 の原則 の 「動揺」 と呼ぶか も,「公示 の原 則」 それ 自体 の意味 をどのよ うに捉 え るか によ って異 なる

(1) 「公示 の原則」 との関係

周知のように

,

「公示の原則」には,広狭二義がある (【図表1】参照)(9)。 この うち,「広義 の公示 の原則」 とは,以下 の論理①〜⑤ の全体を指す。

すなわち,①物権が人 の物 に対す る直接支配権 であ って,絶対性 ない し排 他性 を有す る権利 で あ り (物権 の性質論),②第三者 との関係 において物 権的請求権 ・優先的効力 とい う強力 な効力を有す ることか ら (物権 の効力 請),③物権 の現状 ない し変動 をあ らか じめ外部 か ら認識可能 な状態 に置 くこと (これを 「公示」 とい う) を しなければ,第三者が不測の損害を蒙 る (公示 の要請)。 そ こで, この要請 に応 え るため,④公示制度 のそれ 自 体 の整備 (適切 な制度設置 と厳格 な運用) によ り登記 の精度 を向上 させ る とともに,⑤公示 に種 々の効力を付与 し, 当事者 に対 して直接 ・間接 の公 示強制 を行 う なお,⑤ の公示強制 には, (a)公法的な強制 (登記 の慨意 に 対 して罰則 を課す方法。 た とえば不登法164条 は,表示 に関す る登記 の申 請 を怠 った者 を10万 円以下 の過料 に処す もの と している) と, (b)私法的な 強制 (立法例 と して は,権利移転効力

(

‑成立要件主義) ・対抗力 ・推定 力 ・公信力が ある)が存在す る

一方,「狭義 の公示 の原則」 とは,上記 「広義 の公示 の原則」 の中で も

⑤公示 の効力 なかんず く当事者 に対す る(b)私法上 の公示強制 を意味す る

その結果,登記 に公信力 とい う強力 な効力 を付与す る ドイツにおいて は, 公示 の中心 的効力 で あ る公信力 を指 して 「公示 の原則 (狭義)」と呼ぶの に対 して,対抗要件主義 を とるわが国 において は,対抗力を指 して 「公示

‑ 4‑

(5)

604(19.8) 論説・解説 の原則」と呼び,これを「公信の原則」と対置させる。

 ここで,公示の原則を広義で捉えた場合には,その「動揺」を論ずるに あたっては,③公示の要請の促進・貫徹のための2つの側面  すなわ ち,④公示制度の充実・運用と,⑤当事者に対する公示強制  の全般を 問題としなければならない。この点において,「公示の原則」を広義で捉 える我妻・前掲論文が(!0),不動産利用権保護立法の成立のみを指して

「公示の原則の動揺」と述べるのは,いささか片寄った印象を受ける。な お,我妻論文は,その他の「動揺」現象として,すでに触れたように,対 抗力に関する明治41年「第三者」制限連合部判決を挙げているのである が(11),このことと,不動産利用権の保護・実地検分主義への叙述の集中 とをあわせ推測するに,我妻の考える公示の原則の「動揺」とは,公示の 効力の中でも,⑤当事者に対する(b)私法上の強制力の低下を,もっぱら念 頭に置くもののようである。

【図表1】 広義の公示の原則・狭義の公示の原則 公示の原則(広義)

公示の根拠・目的

①物権の性質

②物権の効力

③公示の要請

④公示の整備 ⑤公示の強制

公示の効力

(a)公法的強制 (b)私法的強制

制度の充実 厳格な運用 刑事罰 行政罰 設権的効力 対抗力 推定力 公信力

(日) ↑  (蓉虫) ↑

公示の原則(狭義)

5

(6)

論説 ・解説 604(19.8)

(2)公示 の運用面 における後退 ・公法的強制 における後退

だが,我妻 が上記論文 を公表 した昭和14年 当時, すでに他 の側面 におけ る公示 の原則 の 「動揺」現象 も顕在化 して いた。

その1は,大正期以降の判例 にお ける中間省略登記 や抹消登記 に代えて 行 う移転登記 の容認 とい った,登記 の申請要件 ない し有効要件 の緩和傾向 であ り, これ は,上記 の うち,④登記 の真実性確保 のための厳格 な制度運 用 の側面 にお ける,公示の原則 の大幅 な退歩 であ る

その2は,‑ この点 は従来 の民法 ・不登法学説 においてはあま り論 じ られて こなか ったが‑ ,⑤(a)公法上 の公示強制 なかんず く刑罰法規 に よる不実登記 の抑止機能 の後退 であ る なお,今 日の学説 においては,登 記 申請 の可否や登記 の効力問題 と,刑法 ・租税法上 の処罰問題 とは峻別 さ れ るべ きであ るとす る見解が一般的であ るが, しか しなが ら, このよ うな 峻別論 もまた,④公示制度 の運用 に関す る緩和措置や,我妻論文の取 り上 げ る⑤(b)私法上 の強制 の後退 と同様,大正期以 降 に生 じた登記制度 の 目 的の 「矯小化」現象 の1つ にはか な らない。

そ こで,以下 で は,我妻論文が積 み残 した上記2点‑ ④公示制度の厳 格 な運用 の要請 に対す る, 中間省略登記 に代表 され る登記 の申請要件 ない し有効要件 の緩和 の問題, な らびに,⑤ 当事者 に対す る強制 中(a)公法的強 制 とりわ け刑罰法規 による登記 の真実性確保 の後退‑ を検討対象 とす る ことを もって,我妻 「公示 の原則 の動揺」論 文 の, いわば補遺 を試みた い。

2 「動揺」 の原因

ところで,我妻 にい う公示 の原則 の 「動揺」 を生ぜ しめた ところの不動 産利用権保護 のための法制度 は, いずれ も当時の 日本 の資本主義経済の高 度化 か ら生 じた歪 み‑ 建物保護法 に関 して は 日露戦争後の地価 ・地代の 暴騰,借家法 に関 して は第1次世界大戦後 の好景気 による住宅難,農地調 整法 は小作争議‑ を手 当てす るための社会立法であ った(12)0

一万,177条 に関す る明治41年12月15日の2つの連合部判決の うち,「相 続登記」要求連合部判決 (民録14輯1301頁) の意義 は,直接 には生前相続 制度 か ら生 ず る不都 合 (隠居者 によ る財産処分 問題) の解消 にあ り(13), 他方, 「第三者」制 限連合部判決 (民録14輯1276貢) の背後 には,上記建 物保護法 と同様, 日露戟争後 の不動産取 引の活発化 による紛争増加 か ら所 有者 を保護す る意図が控 えて いた といわれ る(14)。

‑ 6 ‑

(7)

604(19.8)論説 ・解説 しか し,建物保護法の保護対象である土地賃借人 と異 な り,所有権者 そ の他の物権者 にあ って は,登記 を しよ うとすれば容 易 にで きるはずであ る に もかかわ らず,「第三者」制限連合部判決 のよ うな譲歩 を行わ ざる を得 なか った理 由は,取得不動産 につ き登記 を具備す る慣行が根付か な か った ことによる

では, なぜわが国において登記慣行が根付 くことがなか ったのか。 その 原因 につ いて,我妻 は,「登記 と徴税制度 の無関係 な こと,登記料 の不合 理 に多額 な こと等 の原因が与 って力あ る」 とす る(15)。 この うちの登録免 許税額の問題 は,中間省略登記が行われ る原因 として, しば しば指摘 され るところであるが,果た して原因 は, それに尽 きるものなのか。 また, こ の ことは,公示の原則の 「動揺」現象のすべてについて共通 していえ るこ となのか。 それ とも,個 々の論点 ごとに,問題の生ず る素地 は異 な ってい るのだろうか。

かか る基本的問題意識 に立脚 して,以下では,公示 の原則の 「動揺」現 象のそれぞれについて, その発生 の経緯 と素地 を探 ることに したい。

Ⅱ 登記 の要件 の緩和

まず,登記制度の厳格 な運用の側面 における 「動揺」現象であるところ の,登記の要件の緩和の問題 を取 り上 げよ う

この問題 は,一方 において,(Ⅰ)なされて しま った登記 の有効性 に関 して問題 とな り (登記の有効要件),他方 において, (Ⅱ)登記 の申請段階 において問題 となる (登記の申請要件)。 そ して, そのそれぞれが,(A) 実質的要件 (実体法的要件) と(B)形式的要件 (手続法的要件) とに分 かれ る

さ らに,(Ⅰ)登記 の有効要件 の問題 は,(Il)対抗力の有無 の問題 と, (Ⅰ2)抹消登記 の可否の問題 に分かれ,他方,(Ⅱ)登記 申請 に関 して は, 共同申請主義 (不登法60条) に服す るところの権利 に関す る登記 について

は,(Ⅱ1)相手方 に対 して登記 申請手続の協力 を求 める請求権 (登記請求 権)が, (Ⅲ2)登記官 に対 して登記処分 を求 め る権利 (登記 申請権) とは 別個 に問題 となる

そ して,公示 の原則 の 「動揺」現象 の一環 と しての登記 の要件 の緩和 は,周知 の ごと く,(A)実質的要件 (物権 の現状 な らびに物権変動 の過 程および態様が正確 に公示 され ること)の うち,物権変動 の過程 および態 様 に合致 しない登記 につ いて, また, (B)形式的要件 (不登法 の定 め る

‑ 7 ‑

(8)

論説・解説 604(19.8)

申請却下事由一現行法でいえば25条1号から13号まで  に該当しない こと)のうち,4号から12号までの却下事由に該当する場合(1号〜3 号,13号については,職権抹消の対象となることとの関係で(71条),な されてしまった登記に関しても効力を認めることができない)について生 じているのであるが(【図表2】の網掛け部分),しかし,それらの要件 を欠く場合に,(11)対抗力,(12)抹消請求,(H1)登記請求,(H2)登 記申請のどこまでが認められるかは,千差万別である。

 しかも,学説におけるこれらの概念区分の強調にもかかわらず,現実に は,ある側面において生じた要件緩和措置は,他の側面における要件の緩 和へと波及する。その発端となるのは,多くの場合(Il)対抗力の肯定 であって,これを肯定した場合には,(1、)抹消登記の否定を導かざるを 得なくなり(その場合の訂正は更正登記の方法による),さらにそれが

(II 2)登記申請の許容を導く,という具合の雪崩現象を起こして,登記の 要件の厳格性は次第に崩壊してゆくことになる。

 このような連鎖的な制度崩壊もまた,先に触れた登記制度の目的の「綾 小化」  公の帳簿・公文書としての高度な真実性確保というマクロ的な 視点を捨てて,登記を単なる個々の取引関係における優先関係決定基準に すぎないと捉える制度観へと移行したこと  の反映といえる。というの も,このような制度観を前提とした場合には,要するに登記は個々の権利 者との関係で対抗力を確保できる程度の制度でありさえずればそれでよい のであるから,対抗力を有する旨の結論が承認されたならば,あとはそれ に合わせて制度全体を修正すれば足りる,という話になるからである。

【図表2】 登記の有効要件・申請要件,実質的要件・形式的要件

1 H

登記の有効要件 登記の申請要件

1 2 1 2

対抗力の

L無

抹消登記 フ可否

登記請求

フ可否

登記申請 フ可否

物権iの現状に合致

A

実質的要件 過程・態様 過程に合致 {1弘 二、・瀞 遍舞霧佑

ノ合致 態様に合致 一リa「 町〜性「  〃r・̲ 。 廿  多ゼボう

歩二

B 不登法25条1〜3,13号 形式的要件

不登法25条4〜12号

8

(9)

604(19.8) 論説・解説

A 登記の実質的要件の緩和

 登記の実質的要件の緩和ないし動揺から,検討を開始しよう。

 わが国の登記制度の建前ないし理想は,①物権の現状のみならず,物権 変動の②過程および③態様をも正確に公示する,というものである。

 なお,ここで,物権変動の②過程および③態様の正確性が要求される趣 旨にっき,一般には,公信力を認めないわが国の法制においては,当該不 動産に関してこれから取引関係に入ろうとする者のために,取得時効期間 までさかのぼった権限調査の手がかりを与える必要があるから,と説か れ,これに対して,実際には,そのような権限調査など行われない,との 反論が唱えられている。だが,こうした議論もまた,登記制度の目的の

「綾小化」の反映であって,登記申請に際して②過程および③態様に関す る正確な資料を提出させることが,登記が①物権の現状を反映する蓋然性 の向上にもつながる,というマクロ的な視点を,反対論者のみならず,権 限調査主張論者の側もまた見失っていることが知られる(登記に公信力を 認めるドイツにおいて,登記申請の際に提出が要求される書面が,日本よ

りはるかに厳格であることを想起されたい)。

1 物権変動の過程に合致しない登記

 物権変動の②過程・③態様のうち,まず,②過程に合致しない登記に関す る法理論の生成過程から見てみよう。これには,(1)中間省略登記,(2)中間省 略相続登記,(3眉頭省略登記のほか,(4)中間過剰登記も存在する。さらに,

(5)抹消登記に代えて行う移転登記も,物権変動の過程に合致していない。

 (1)中間省略登記

 参照の便宜のため,関連する判例および登記先例をあらかじめ列挙する ならば, 【図表3】のようになる(図表中1,・12・H1・H2の略語は,前 言【図表2】において示した争点を示す。また,公示の原則に適合的な判 例・先例については網掛けを施した。その他の略語の意味に関しては,本 文当該個所参照)。

【図表3】 中間省略登記に関する判例・先例

【1】 大判明治43年7月6軍民録16輯537頁(16) Hl 1(杏〉・

【2】 大判明治44年4月!2日民録!7輯208頁 11

【3】 大判明治44年5月4日写録17輯:260頁 12

9

(10)

論説。解説 604(19.8)

【4】 大判明治44年12月22Ei二三17輯877頁 H且

【5】 大判大iE 5年9月12日二三22輯17◎2頁(エ7) (H[) (肯)

【6】 大判大正7年4月4日二三24輯7巻465頁 (Il)

【7】 大判大正8年5月16日三三25輯776頁 H[

【8】 大判大正8年10月20日二三25輯1828頁 Hl

【9】 大判大正9年7月23日二三26輯1171頁 12

【10】 大判大正10年4月12日二三27輯703頁(18) (H1) (肯)

【11】 大判大正11年3月25日二三1巻130頁(19) Hl (同)

【12】 大判昭和2年7月27日新聞2744号9頁・評論16巻民法1327頁 12

【13】 大判昭和8年3月15日二三12巻366頁(20) 12 (同)

【14】 大判昭和12年2月15日大審院判決全集4輯4巻4号・法学6巻764頁 12

【15】 大判昭和15年6月1日二三19巻944頁(21) 12

【16】 昭和34年9月9日民三807号民三課長心得回答先例集追H530頁 H2

【17】 最(1小)判昭和35年4月21日民望14巻6号46頁(22) 12

【18】 昭和35年7月12日民甲1580号民事局長回答先例集三野248頁 H2 ゐ擁即

【19】 昭和35年7月12日民甲1581号民事局長回答先例三三皿249頁 12 鯛1,

【20】 最(1小)判昭和38年3月28日民集17巻2号398頁(23) Il 1欄ケ

【21】 最(2小)判昭和38年6月14日裁判集民事66号499頁 H1 (同)

【22】 昭和39年8月27日民甲2885号民事局長通達先例三三IV 180頁(24) H2

【23】 最(3小)判昭和40年9月21日置集19巻6号1560頁(25) HI (同)

【24】 最(1小)判昭和41年1月13日二三20巻1号1頁(26) II

【25】 最(3小)判昭和42年6月6日三時489号48頁・半llタ209号134頁(27) 12

【26】 最(3小)判昭和43年1月30日民集22巻1号44頁(28) Hl 「響

【27】 最(2小)判昭和44年5月2日置集23巻6号951頁(29) 12 (利)

【28】 最(1小)判昭和45年3月26日判時591号57頁(30) (同)

【29】 最(3小)判昭和46年4月6日三時630号60頁(31) H1 (同)

【30】 最(1小)判昭和46年4月8日判時631号50頁・金法614号28頁 12

【31】 最(2小)判昭和46年11月5日雲集25巻8号1087頁(32) (11) (肯)

【32】 最(3小)判昭和46年11月30日二三25巻8号1422頁(33) (H1) (善}

【33】 最(1小)判昭和47年9月7日三三26巻7号1327頁(34) (12) (肯)

【34】 最(2小)判昭和48年10月5日雲集27巻9号1110頁(35) (Il) (肯)

【35】 最(1小)判昭和53年6月15日民集34巻2号729頁(36) (Il) (肯)

【36】 最(1小)判昭和54年2月15日判時923号78頁・半ll夕899号41頁 (同)

【37】 最(2小)判昭和60年11月29日民集39巻7号1719頁(37) (12)

一10一

(11)

604(19.8)論説 ・解説 中間省略登記 の論点 に関 して は,すで に膨大 な量 の業績が存在 している ので(38),以下で は,判例 の変遷 のみ, か いっ まんで概観 す るに とどめ よ う (なお,以下では,転 々譲渡 の当事者 をA‑B‑Cに統一す る)。

ア 対抗力

まず, なされて しま った中間省略登記 の対抗力 に関 して,比較的早期 の 判例 (【2】) が肯定説 に立 って い るが, しか し,事案 はす こぶ る特殊 であ り,判 旨 も,後 の判例 におけるよ うな,登記 は現在 の権利状態 さえ公示 さ れていればそれでよい との一般論 まで は展開 して いない。

しか も, その後 の判例 【9】 は,通謀虚偽表示 によ りA名義 とな って い る不動産 をBがCに売却 した場合 の 「登記手続 ヲ右三人共 二合意 ノ上 ニテ 省略 シ直接 ニAヨ リCニ対 シ売買名義 ヲ以 テ所有権移転登記 ヲ為 シタルモ ノナ リ故 二右登記‑結局Cカ実質上本件土地 ノ前主 〔B

ヨ リ其所有権移 転 ヲ受 ケ之 ヲ取得 シタル‑事実 二符合 スルモノニ帰着 スル ヲ以 テ其効力 ヲ 有 スルモノ ト謂 ‑サル可 ラス従 テC‑其所有権取得 ヲ以 テ第三者 二対抗 ス ル コ トヲ得 ルモノ トス」 と した。 同判決 の立場 は,全員 の合意 を要件 と し ているかのよ うに も読 め る

だが,以後の判例 において は, なされて しま った中間省略登記 に関 して は,対抗力を肯定す るのが通常 であ り, その際 には,全員 の合意 ない し中 間者 の同意 の存在 につ き説示 しない もの も多 い。戦後 の判例 において も,

【31】【33】【34】【37】等 で は, 中間省略登記 の有効性 それ 自体 につ いて は, まった く問題 とされていない。

イ 抹消登記請求

では, なされて しま った中間省略登記 の抹消 につ いて はど うか。

(a)肯定説

判例 は,当初,登記制度 の 目的を厳格 に解す る古典的理解 に立 って,抹 消登記請求 を肯定 して いた (【3】「不動産登記 ‑不動産 二関 スル権利 ノ得 喪,変更,保存若 ク‑其処分 ノ制限等 二付 キ不動産登記法 ノ定 ムル所 二依 り其事項 ヲ公示 シ第三者 ノ利益 ヲ保護 シ一般取 引 ノ安国 ヲ期 スルモノナ レ

‑登記事項‑同法 二従 ヒ登記 スル ヲ得 ルモノナル コ トヲ要 スル ノ ミナ ラス 登記関係 モ亦事実 二適合 スル コ トヲ要 ス」)。

だが, その後,後述す る中間省略登記請求 に関 して無条件肯定説 に立 っ と覚 しき 【10】判決, 中間者 の同意 を要求す る 【11】判決が登場す るに至 り,抹消登記請求の領域 に関す る判例 に も変化が生 じた。

(b)無条件否定説

まず現 れたのは,【10】判決 を引用 しつつ,ACの中間省略登記 を行 う

‑ 1iI一

(12)

論説 ・解説 604(19.8)

旨の契約 の有効性 を承認 した うえで, その結果行われた中間省略登記 は有 効であるか ら,抹消登記請求 は認 め られないとす る 【12】である

(C) 「同意」説

だが, これに対 して,【13】判決 は,【11】判決を引用 しつつ,中間者の 同意がない ことを理 由に,抹消登記 を肯定 した。

一方,【

1 4

】 は,中間者 の同意があると して抹消登記請求を否定 したが, 判 旨は, 中間省略登記請求 に関す る 【5】以 降 の判例 によ り形成 され た

「矯小化」 した登記制度観 に立脚 して,登記 は現在 の権利状態 さえ公示 し ていれば, それで十分であ るとす る (「若 シ夫 レ所謂中間省略登記 ノ効カ ニ至 リテ‑其 ノ登記原因 ノ点‑之 ヲ問‑ス其 ノ登記 力現実 ナル権利関係 二 符合 シ之 ヲ公示 スル二足ルモノナルニ於 テ‑其 ノ権利変動 ノ過程 二関与 セ ル利害関係人 ノ承認 アル限 り之 ヲ無効 卜為 スへカラス ト為 ス‑夙 二当院 ノ 判例 トスル トコロニ シテ・‑‑」)。

なお,【15】 は,A死亡 によ り不動産 を相続 したBが,相続登記 を経 由 す ることな く, Cに転売 し,Aか らCへの直接移転登記 を行 った事案 で あ って,当然 に中間者 (B) の同意が存在す るが,判 旨は,ただ単純 に上 記 「矯小化」 した登記制度観 に依拠 して,抹消登記請求 を否定 している (「蓋 シ如上 ノ登記‑結局現所有者Cヲ所有権取得者 トシテ公示 セルモノニ 外 ナ ラス シテ素 ヨ リ事実 二符合 シ重 モ登記 ノ目的二背馳 スル トコロナケ レ

‑ナ リ」)。 (d) 「利益」説

ところが,戦後,昭和

3 5

年 にな って,中間者 の同意がな くて も,彼 に抹 消登記 を求 め る 「法律上 の利益」がない場合 には,請求 は認め られないと した 【17】判決が登場 す る 同判決 の理解 につ き,評価 は分 かれている が,基本的 には中間者Bの同意 を要求す る従前の判例理論を維持 しつつ,

きわめて例外的な条件の下 に (そ して, その内容 は同時履行の抗弁権の確 保 に限 られ ない), 同意がない場合の中間者 の抹消登記請求 を否定 した判 例 と解すべ きであろ う(39)。

(e) 「意思」説

だが, その後,【25】が, 中間者BがAか ら交付 された登記 申請の委任 状 をCに交付 したため中間省略登記が なされた事案 につ き,「登記簿上の 記載 における権利移転 の過程 は真実 と異 なるが,結局 は,現在 の実体の権 利関係 に合致 し,Bか ら他への移転登記がなされ るにつ きBに全 く登記申 請の意思が なか ったとい うをえないか ら,Bは右登記の抹消を求めること はで きない」 旨を判示 した結果,抹消登記請求 をめ ぐる判例の立場 は,①

1 12‑‑

(13)

604(19.8) 論説 ・解説

「同意」説 (戦前の判例),② 「法律上の利益」説 (【17】),③ 「登記申請 の意思」説 (【25】)の鼎立状態を呈す ることとなる

この点 に関 して,【27】 は,【17】判決 を引用 しつつ,② 「利益」説 に 立 った (ただ し,本件 は,Aか らの建物所有 目的の土地賃借人が抹消登記 を請求 した事案であ り, 旨は,中間取得者 でない者 は,抹消登記 を求 め る正当な利益を有 しないと した)。

その後 に登場 した 【30】判決 は,原所有者Aか らの抹消登記請求の事案 であ るが,判 旨は,

Cのために経 由 された右所有権移転登記 は,権利移 転の経過 においては真実 と異 なるものであるが,結局,現在の実体上の権 利関係 に合致す るものであ り,原判決のよ うに,

A

が右登記 をなす ことに なかなか同意 しよ うとしなか ったとして も,Aか ら他へ所有権移転登記が なされ るにつ き,Aに全 く登記 申請 の意思がなか ったとい うことはで きな いか ら,Aは,右登記 を無効 として,その抹消を求め ることは許 されない と解すべ きである」 と して,【25】判決 の述べ る 「登記 申請 の意思」 を, Aについて問題 とした。

ウ 中間省略登記請求

次に,中間省略登記請求 に関す る判例の流れを見てみよ う

(a)否定説

まず,最初期 の判例 【1】 は, 直接 の移転登記請求 に対 して,債権者代 位 による請求を許容 したが, これは実質的には否定説 と見てよかろ う そ の後の判例である 【4】 は,否定説 に立っ旨を明示 している

(b)無条件肯定説

だが, これに対 して,【5】 (当事者が中間省略登記 の特約 に応 じなか っ たために売買代金の返還を請求 した事案) は,中間省略登記 を行 う旨の特 約の有効性 を承認す るに至 る

同判決 は,登記 は現在の権利状態 さえ公示 されていれば十分であるとの

「矯小化」 された制度観 を提示 した最初の判例であ り

(

所有者乙 ヨ リ丙 二 不動産 ヲ譲渡 シタルモ其登記名義者‑旧所有者 甲ナル場合 二於 テ当事者間 ノ特約 二基 キ甲 ヨリ直接 二丙二不動産 ヲ譲渡 シタル旨ノ所有権移転 ノ登記 ヲ為 スモ其登記‑真実 ノ事実 二適合 セサル登記 ナ リトシテ之 ヲ無効 ナ リト 云 フコ トヲ得 ス蓋 シ斯 ル登記 卜難 モ不動産 二関 スル現在 ノ真実 ナル権利状 態 ヲ公示 シ登記 ノ立法上 ノ目的 ヲ達 スル二足ル ヲ以 テ法律 ノ許 ス所 ナル コ ト明瞭ナ レ‑ナ リ」),そ して, この制度観 は,端的に中間省略登記請求を 求めた 【7】【8】【10】 に承継 され, また,すでに見たよ うに,抹消登記請 求 に関す る判例 に も影響 を及ぼ した。 なお,【10】 は特許権 に関す る事案

‑ 13‑

(14)

論説 ・解説 604(19.8)

であるが,登録税 の免脱問題 や, 中間省略登記 は公正証書原本不実記載罪 とな る旨を判示 した大判大正8年12月23日刑録25韓1491頁 との関係 も論 じ られてお り,【5】【7】【8】判決以降の登記制度 の 目的の 「矯小化」傾向を 端 的 に示す例 と して興味深 い(40)

ところで,【5】判決 は,中間省略登記請求 につ き無条件肯定説 に立っ判 例 と評価す る向 きもあるが, しか し,上記の ごと く, 同判決の事案 は,中 間省略登記 を行 う合意 の不履行 を理 由 とす る売買代金返還請求であ り, こ の場合 には, 中間省略登記請求 を認 め ると中間者 の利益が害 され るといっ た問題 が顕在化 して こないため,中間者Bの同意 とい う観点が入 って こな いの は,やむを得 ない ことであ った。

だが, この 【5】判決 の説示 は,後続す る 【7】【8】【10】 に影響 を与 え て しま う た とえば 【7】 は

,

「若 シ夫 レ中間登記 ノ省客 二付 キ利害関係 ヲ 有 スル者例 へハ中間所有者 ヨ リ物上権 ヲ取得 シタル者 力登記 ノ効力 ヲ争 フ コ トヲ得 ルヤ否 ヤ‑事 自ラ別問題 二属 シ 〔中間省略登記 を行 う〕契約 ノ効 カ ニ消長 スル所 ナ シ」 と して い るが, 「別問題」 とされ る中間者か らの取 得者 との問の優先関係 につ いて,判 旨は触れ るところがない。

(C) 「同意」説

以上 の経緯 によ り生 じた単純肯定説 に対 して,【11】 は, 中間者Bの同 意 を要求す ることで,一定 の歯止 めをか けるに至 る す なわ ち,「所有者 甲 ヨ リ乙二不動産 ヲ譲渡 シタルモ其 ノ登記名義‑依然 甲ナル場合 二於 テ乙 力更 二其 ノ不動産 ヲ丙 二譲渡 シタル トキ‑甲乙丙 ノ三名合意 ノ上 甲 ヨリ直 接 二丙 二不動産 ヲ譲渡 シタル旨ノ所有権移転登記 ヲ為 スモ其 ノ登記‑不動 産 二関 スル現在 ノ真実 ナル権利状態 ヲ公示 シ登記 ノ目的 ヲ達 スル二足 ル ヲ 以 テ無効 二非 サル コ ト‑当院判例 ノ認 ムル所 ナ リ (大正9年 (オ)第127 号 同年7月23日 〔‑【9】〕 同年 (オ)第481号大正10年4月12日 〔‑ 【10】〕 大正8年 (オ)第659号 同年10月20日 〔‑ 【8】〕大正5年 (オ)第492号同 年9月12日当院判決 〔‑ 【5】〕参照)右 甲丙間 ノ直接登記 ヲ為 ス場合 二於 テ乙 ノ同意 ヲ必要 トスル所以‑如何他 ナ シ乙‑其 ノ取得 シタル不動産 ヲ転 売 シテ其 ノ所有権 ヲ失 フモ先 ツ自己ノ所有権 ノ取得登記 ヲ為 シテ其 ノ取得 ヲ完全 ナ ラシメタル後転得者丙 二対 シテ転売 二因 ル所有権移転登記 ノ義務 ヲ尽 スへキモノナ レ‑転売 二困 リテ自己ノ登記請求権 ヲ喪失 セサルモノ ト 謂 フへ ク是 当院判例 ノ認 ムル所 ナル ヲ以 テ (大正4年 (オ)第879号大正

5年4月1日当院判決参照)若 シ乙 ノ承諾 ヲ得 ス シテ直接登記 ヲ為 シ得 ル モノ トセ‑此 ノ乙 ノ有 スル権利 ヲ害 スルニ至 ルへ ク殊 二乙力丙 ヨ リ売買代 金 ヲ受領 セサ リシ為丙 トノ売買契約 ヲ解除 シタル場合 ノ如 キ‑乙‑不動産

‑ 14‑

(15)

604(19.8)論説 ・解説 ノ所有権 ヲ回復 シタルニ拘 ラス直 二甲二対 シテ所有権移転登記手続 ヲ請求 スル コ トヲ得 サル ノ不利益 ヲ被 ムルニ至 ルへキカ故 ナ リ従 テ乙 ノ同意 ヲ得 ス シテ為 シタル甲丙問 ノ所有権移転登記 ノ契約‑無効 ナ リト謂 ‑サル ヲ得 ス」。

(d)戦後 の判例‑ 「同意」説 の維持

戦後,前記抹消登記請求 につ き昭和35年 【17】判決が 「利益

説 を採用 したのに対 して, 中間省略登記請求 に関す る昭和40年 【23】判決 は,大審 院以来 の 「同意」説 を維持 した。 しか も, 同判決 は, 「矯小化」 す る前 の 古典的な登記制度観 に立脚 して いる す なわ ち, 「実体 的 な権利変動 の過 程 と異 なる移転登記 を請求す る権利 は, 当然 には発生 しないと解すべ きで あるか ら, 甲乙丙 と順次 に所有権が移転 したのに登記名義 は依然 と して甲 にあるよ うな場合 に,現 に所有権 を有す る丙 は, 甲に対 し直接 自己に移転 登記すべ き旨を請求す ることは許 されない とい うべ きである。 ただ し, 中 間省略登記 をす るにつ いて登記名義人および中間者 の同意 ある場合 は別で ある。 (論 旨引用の当裁判所判決

‑ 【17】〕 は,すで に中間省略登記 が経 由された後 の問題 に関す るものであ って,事案 を異 に し本件 には適切でな い。)本件 において は,登記名義人 の同意 につ いて主張,立証 が ない とい うのであるか ら,上告人 の中間省略登記請求 を棄却 した原判決 の判断 は正 当であ って,不動産登記法 に違反す るとの論 旨は理 由が ない。 また,登記 名義人や中間者 の同意がない以上,債権者代位権 によ って先ず中間者への 移転登記 を訴求 し, その後中間者 か ら現所有者への移転登記 を履践 しなけ ればな らないのは,物権変動 の経過 をそのまま登記簿 に反映 させ よ うとす る不動産登記法 の建前 に照 らし当然 の ことであ って,中間省略登記 こそが 例外的な便法である」。

さらに,【29】 (農地 の転 々売買 の事案) は,中間者 の同意 は不要 であ る とす る上告理 由を,次 のよ うに述 べて排斥 して いる

「不動産が‑‑・転売 された場合に,転買入 は, 当初 の売主 の ほか 自己に至 るまでのすべての権 利移転 の当事者 の同意 を得 ないか ぎり, 当初 の売主 に対 し直接 自己に所有 権登記 を請求す ることが許 されない ことも,当裁判所 の判例 とす るところ であ って (最高裁判所昭和39年 (オ)第985号 同40年9月21日第3小法廷 判決,民集19巻6号1560貢

‑ 【23】〕), いま, これ を変更す る必要 をみ ない」。

(e)中間者 の移転登記請求権 の消長

上述 したよ うに, 中間省 略登記請求肯定説 の発端 は, 【5】判決 にお け る,中間省略登記 の合意 は有効か, とい う問題設定 に始 まるものであ った

1 5

(16)

論説 ・解説 604(19.8)

が, この合意 が有効 で あ ると解 した場 合 には, 今度 は, 当該合意 によ っ て, 中間者Bの原所有者Aに対 して有 して いた移転登記請求権 の側が消滅 す るのかが問題 とな って くる この問題 に関 して,【20】 は,「中間省略登 記 の合意が有効 に成立 した事実が ない」場 合には,BのAに対す る移転登 記請求権 は消滅 しないと したが,【32】 は,「三者間 において中間省略登記 の合意 が成立 した と して も,中間者

B

A

に対す る所有権移転登記請求権 が当然 に失 われ る ものでない」 と した。

(千) 買主た る地位 の譲渡 との関係

なお,実際 には物権 がA‑B‑Cと移転 しているに もかかわ らず,Bの Aに対す る買主 たる地位 の移転 の方法 を用 いて,BのAに対す る所有権移 転請求権保全仮登記 (2号仮登記) にCが付記登記 を し, これに基づ く本 登記 を経 由す ることは認 め られない。 この点 に関す る判例 【

2 6

】 は,次の よ うにい う

「このよ うな仮登記 に基 づ く本登記手続 は,物権変動 の過程 をそのまま登記簿 に反映 させ よ うとす る不動産登記法の建前 に照 らし許 さ れない もの と解す るを相 当 とす る もし, このよ うな登記の効力を認める ときは,実質的 にはいわゆる中間省略登記である所有権移転登記が,仮登 記 の制度 を利用す ることによ り,所有名義人 および中間者 の同意 な くして これを行 な うことがで きる結果 とな り, 中間省略登記手続 を請求で きるの は登記名義人 および中間者 の同意 のあ る場合 にか ぎられ るとす る法理 に反 す ることともな る」。

その他,買主 の地位 の移転 の合意か中間省略登記の合意かが問題 となっ た事案 と して,【37】がある (買主 の地位 の移転 と認定 された)。

中間省略登記 の申請

で は, 中間省略登記 の申請 につ いて はど うか。結論的にいえば,中間省 略登記 の申請 が認 め られ るの は,【図表4】掲記 の2つの場合①② のみで あ り(41), そ して, その うちの②判決 によ る登記 によ る処理 を承認 した回 答 ・通達 が,【16】【18】【19】【22】であ る

(a)調停調書

この うち,【16】 は

,

「被 申立人 (買主)が転売 その他 の事 由によ り,特 に第三者 に対 し所有権移転登記 をなすべ きことを求 めたるときは, 申立人 (売主) は之 に応ず ること」 との調停調書 に基づ く中間省略登記の申請 は, 直接被 申立人 に対 し移転登記手続 をなすべ き旨の調停調書の更正決定 を得 ない限 り受理 しない, とい うものであ る

上記 のよ うな約定 は, 中間者Bが,第三者への転売 目的でAか ら不動産 を取得す る際 に用 い られ る 上述 した判例理論 の帰結 と して, このよ うな

‑ 16‑

(17)

604(19.8) 論説・解説

AB間の合意もまた有効ということになるが,ただし,ここにいう「有 効」とは,登記実務が判決による登記以外の方法での中間省略登記の申請 を認めない以上,判決(あるいは判決と同様の効力を有する文書)獲得へ の協力義務の発生を意味すると解するほかはない(登記官が中間省略登記 であることを見抜けないことを前提に,実体関係と異なる登記原因証明情 報を作成して登記申請を行うことに協力する義務が発生するわけではある

まい)。

 【16】は,このうちの和解調書に関して,まだ転売先(第三者C)が決 まっていない段階で作成された和解調書に関しては,第三者の補充がなさ れなければ,これに基づく登記申請は受理しないとするものであるが,こ の構造は,新不動産登記法制定後の中間省略登記問題との関連で発出され た,平成18年12月22日法務省民二第2878号民事第二課長回答「第三者のた めにする売買契約の売主から当該第三者への直接の所有権の移転の登記の

【図表4】中間省略登記の申請が認められる場合

中間省略登記の申請を認める旨の特別の法令の規定がある場合

2

「農地法による不動産登記に関する政令」(昭和28年8月8日政令第173号)

1

2

2条(買収による所有権の移転の登記)3項「第1項の登記の嘱託を する場合において,買収当時の所有者が登記義務者と同一人でない  ときに登記所に提供しなければならない嘱託情報の内容は,不動産

登記令(平成16年政令第379号)第3条各号に掲げる事項のほか,

当該所有者の氏名又は名称及び住所とする。」

3条(同上)3項「前条第3項に規定する場合において,第1項目登 記の嘱託をするときは,登記義務者の同意を証する当該登記義務者 が作成した情報又は当該登記義務者に対抗することができる裁判が あったことを証する情報をその嘱託情報と併せて登記所に提供しな  ければならない。」

「入会林野等に係る権利関係の近代化の助長に関する法律による不動産 登記に関する政令」(昭和42年3月7日政令第27号)

4条(法第14条第2項の規定による登記等の嘱託)1項「法第14条第  2項(法第23条第2項において準用する場合を含む。)の規定によ  る登記の嘱託をする場合には,不動産登記令(平成16年政令第379

号)第3条各号に掲げる事項のほか,法第14条第2項又は法第23条 第2項の規定により登記の嘱託をする旨並びに所有者が登記名義人  と同一人でないときは,当該所有者の氏名又は名称及び住所を嘱託

情報の内容とする。」

判決による登記(不登法63条)の場合

一17一

(18)

論説 ・解説 604(19.8)

申請又 は買主 の地位 を譲渡 した場合 における売主か ら買主の地位の譲受人 への直接 の所有権 の移転 の登記の申請の可否 について (回答)」の うちの,

「第三者 のためにす る契約」 による登記 申請 と類似す る

(b)判決

一方,判決 による登記 の場合 に中間省略登記の申請 を認 める処理 は,昭 和35年 に同 日付 にて発 出された 【18】【19】 に基づ く なお, この2っの 民事局長回答 は,照会か ら回答 まで,前者 については2年以上,後者 につ いて も1年以上の時間を費や してお り,その間に, この論点 に関す る戦後 は じめての最高裁判決が登場 していることか ら (【17】),同判決 との間の 整合性 を とることに腐心 した もの と推測 され る

一方,【21】 は,判決主文 において登記原因およびその 日付が記載 され て いることを要求す る上記 【18】【19】 を緩和 し,判決主文 に登記原因 に 関す る記載がない場合 に も,判決理 由中か ら,①所有権がAか らB, Bか らCにいずれ も売買によ り移転 した ものであ り,②中間省略につ き中間者 Bの同意が存在 し,③登記原因 日付が,B‑Cの権利移転の日と認 め られ る場合 には,判決 による登記の申請 を受理すべ きもの とした ものである。

だが,A‑ Cの移転登記 を命ず る判決主文のみに従い,その背景事情 に は立 ち入 らない 【18】【19】 の処理 と異 な り,①A‑B‑Cの転 々移転 と

②Bの同意 が明 らか な ことを判断 した うえで登記 を認 め る 【21】 の処理 は, 中間省略登記 な る ものの存在 を, 申請手続上認知 した ことを意味す る 公示の原則 に照 らし,公式見解 と して は存在 しないことにされて きた ものの存在 を認 めた, とい う点 において,【21】 それ 自体 もまた,公示の 原則 の後退現象 の1つ として理解す ることが可能であろう

オ 理論 の登場時期および素地

以上 よ り知 られ るよ うに,中間省略登記 に関す る判例 ・先例の ターニ ン グ ・ポイ ン トは,戦前 にあ って は 【5】判決以降の一連 の判決 の登場す る 大正5‑ 8年,戦後 においては 【17】判決 と先例 【18】【19】の登場 した 昭和35年 に求 めることがで きる そ して, この点 は,抹消登記 に代えての 移転登記請求その他 の登記 の有効要件 をめ ぐる判例の動 きと, ほぼ軌 を一 にす るのであるが, しか し, この転換 を基礎づ ける時代的背景 は, ここま でに考察 した判例の内容か らは,必ず しも明 らかにはな って こない。

他方,当事者が中間省略登記 を行 う意図に関 していえば, この論点 をめ ぐる議論の発端 は,AC間の中間省略登記を行 う旨の特約の有効性 に存 し た ところ, そ もそ もなぜACが中間省略登記 に関す る特約を結んだのかの 背景事情 もまた,判 旨の限 りで は必ず しも明 らか にな らない。 た とえば

1 18‑

(19)

604(19.8)論説 ・解説

【2】の当事者が中間省略登記 を行 った理 由は,判 旨によれば 「費用節約 ノ為 メ」 とされているが,その具体的内容 に関 しては不明 とい うほか はな

い 。

ここでは,中間省略登記 につ きイニ シアテ ィブを とっている者が,①中 間者Bか,②転得者Cか, とい う分類の仕方 も考え られよ う この うち,

①中間者がイニ シアティヴをとって行 うタイプの ものは,典型的には 【16】 の調停調書 の背後 に控え る,転売 目的の不動産取得 のケースであ って, こ の類型が,中間省略登記の名の下 に通常論 じられ るところの ものである

これに対 して,②転得者Cのイニ シアテ ィヴにかか る中間省略登記 は, た とえば 【8】 (組合財産 につ きAB2名の共有登記が されていたが,組合解 散に際 して組合員の協議の結果Aの単独所有 とす ることと し, Bか らAへ の持分の直接移転登記をすべ き旨の契約がなされた事案)のよ うな場合で あり, この類型 における当事者 の意図 は,経済行為ではな くして, もっぱ ら単純 なる手間の節減 にあると解 され る もっとも,【9】 (真 の権利者B か らの譲受人Cのために,虚偽表示 による登記名義人Aの登記 を抹消す る のではな く,直接Aか らCへの移転登記がなされた事案)のよ うに, イニ シアテ ィブをとる者が中間者ではあるけれ ども,上記② と同様 の登記手続 の簡略化の意図 に基づ く場合 も存在す るか ら,分類 の仕方 と しては,やは り当事者の意図を標準 と して,①経済行為型 と,②簡略登記型 に区別す る のがよいのであろう

だが, 問題 の本質部分 は, こう した分類 を行 った後 の事柄‑ す なわ ち,類型 ごとに登記の効力その他 に関す る処理 を異 にすべ きか否か, ある いは,別個 の処理 をす ると して, どのよ うな処理 を行 うのが妥 当で あ る か, という点である ここまでの考察か ら理解 され るよ うに,少 な くとも 判例の処理 は,上記①経済行為型 ・②簡略登記型の別 な く,一律的な処理 を行 っているよ うに見受 け られ る。

では,中間省略登記以外 の登記 についてはどうだろうか。 あるいは,中 間省略登記以外の登記 に関す る処理が,中間省略登記 に関す る判例理論 に 影響を与えてはいないだろ うか。

かか る問題意識を念頭 に置 きなが ら,以下,他 の 「動揺」事例の検討を 続 けることに しよ う

‑ 19‑

(20)

論説 ・解説 604(19.8)

(1)我妻栄 「不動産物権変動 にお ける公示の原則の動揺‑ 物権法開講 に際 し て」法協571号 (昭和14年)18頁‑‑ 〔所収

『民法研究 Ⅲ物権』 (有斐閣, 昭和41年)51頁 (以下,引用 は後者 による)。 なお,本論文の学界的意義 に関

して は, 山野 目章夫 「(本論文批評)」加藤雅信 (編集代表)『民法学説百年 』 (三省堂,平成11年)195貢参照。

(2)我妻 ・前掲注(1)75頁。 なお, この主張 は,我妻栄 『物権法 (民法講義Ⅲ)』

(岩波書店, 昭和27年)42頁,我妻栄 ‑有泉亨 『新訂物権法 (民法講義Ⅱ)』

(岩波書店,昭和58年)48頁 において も繰 り返 され る。 「公示の原則, とりわ け登記制度が,一方 において制限 され,他方 において拡張 され ることは, あ たか も,現代 の物権法が,用益物権 の強化 と担保物権の拡張 との2つの理想 を遣 わねばな らないことと相応ず るものである」。

(3)我妻 ・前掲注(1)67頁。

(4)我妻 ・前掲注(1)68頁。

(5)我妻 ・前掲注(1)71‑72頁。

(6)我妻 ・前掲注(1)72‑73頁。

(7)我妻 ・前掲注(1)76頁。

(8)周知 のよ うに, 日本の登記制度 は ドイツ法 に由来 し, そ して, ドイツの登 記制度 は,裁判証書か ら発展 した。 そ こで,以下,不動産譲渡法の歴史的展 開過程 につ いて, ご く手短 に述べ るな らば, 当初,不動産譲渡 は,現実の引 渡 しを もってなされ, 引渡 しの場 に多 くの人 を集 め ることによ って,公示な らびに証拠資料 (証人) を整えた。 しか し,現場での取引 は不便であるため, やがて, 当事者 は, 国王 ・封建領主 の裁判所 において,仮想訴訟 を行 う方法 で,所有権 を移転す るよ うにな る すなわち,買主が原告 とな って所有権確 認 (ない し引渡 し) を請求 し,被告 たる売主 は直 ちに請求 を認諾 し,裁判官 は買主勝訴 の判決を言 い渡す。 そ して, その判決証書の有す る不可争性 (絶 対的証拠力) によ り,買主 の取得 した所有権 の保護が図 られ る。裁判上 のア ウ フ ラ ッス ング(Auflassung)(フ ラ ンス語 で は裁判上 の ア ンヴェステ ィ テユール (investiture))と呼ばれ るこの制度 は, その後,不動産取引の増加 に対応 して,仮想訴訟専門の裁判所 と,仮想訴訟専門の裁判官へ と分化 ・発 展す る それが現在 の登記所 ・登記官であ り, 日本の登記所が第2次世界大 戟前 まで裁判所 の管轄 で,現在 もなお,登記官 の登記処分 につ き,一般の行 政処分 と異 な る手続 が認 め られているのは, そのためである 一方,仮想訴 訟 における裁判官 の面前での原告買主 の請求 と被告売主の請求の認諾 は, 出 頭主義 ・共同申請主義へ と発展 し, そ して, ドイツでは,共同申請主義 の中 か ら, その実体法的側面 を抽 出す る形で 「物権契約」概念が分化 し, また, 判決証書 の不可争性 が,公信力へ と発展す る 一方, フランスでは, 当事者 は,裁判官 の面前 での物権変動 か ら, 同 じく不可争性 を有す る公正証書 を求 めて,公証人の面前での物権変動 を行 うよ うにな り, それが, フランスの民 事訴訟制度 の採用す る書証優越 の法定証拠主義 を前提 に,実体法の側面 にお ける意思主義の宣明へ と発展す る

以上 の歴史的経緯 よ りすれば,登記簿 は,単なる一般公文書ではな くして, 判決証書か ら分化 した制度 と して, よ り高 い精度 の蓋然性 ・真実性が要求 さ れ ることとなる。 わが国の登記法学説 にお けるかつての制度観 にい う 「登記 は公の帳簿である」「登記 は国家 によ って公認 された帳簿である」 といった言 い回 しは,上記 の文脈 において理解 され るべ きものであるが, しか し,登記

‑ 20‑

(21)

604(19.8)論説 ・解説

制度観が 「矯小化」 した今 日においては, もはやその言葉の意味 して いた と ころを正確 に理解す る者 も少 な

い 。

なお, この点 は,登記官 の地位 に関 して も同様 で, 明治19年 旧登記法の下 で原則 と して治安裁判所判事 が取 り扱 うもの とされて いた登記事務 が (3 条),明治21年 の治安裁判所出張所設置の際に,治安裁判所判事が いないとき は,判事 の代理 と して裁判所書記が登記事務 を取 り扱 うことが認 め られた。

その後, この例外的措置 は,明治23年 の裁判所構成法, 明治32年不動産登記 法の下 で も維持 されたが (登記事務 は区裁判所で取 り扱 う非訟事件 とされ, 原則 と して区裁判所判事が登記事務を取 り扱 うもの とされた),大正2年 の裁 判所構成法改正 により,従来例外的な取扱 いであ った裁判所書記が登記事務 を取 り扱 うことがで きる旨が正規 に認 め られた (15条 2項)。 そ して, この取 扱 いが,第2次世界大戦後,「法務局及 び地方法務局設置 に伴 う関係法律の整 理等 に関す る法律」 (昭和24年法律第137号) による不動産登記法の一部改正 によ り,法務府事務官 (現在の法務事務官) へ と受 け継がれ ることとな った のである だが, このような登記官 の非訟事件 の専門裁判官 たる地位 は,辛 成17年新不動産登記法改正 による筆界特定制度 の導入 に もかかわ らず, ほと ん ど意識 されて いないよ うに見え る この点 は, 司法書士職が,明治5年司 法職務定制 による代訴人 (フランス法のアブェ (avoub)‑控言斥院訴訟代理資 格職 の制度 を輸入 した もの)の地位か ら, 司法代書人へ と 「格下 げ」 され, さらに戟後の登記業務 の行政部への移管 によ り,行政書士 との区別 もつかな くなる中で, 明治初期のアブェたる地位 の復権 を 目指 し,つ いに簡易裁判所 訴訟関係代理業務を獲得す るに至 った経緯 と比較 して,大 いに興味深 い。

(9) この点 に関 して は, さ しあた り,星野英一 「物権変動論 にお ける 『対抗』

問題 と 『公信』問題

『民法論集 (第6巻)』 (有斐閣,昭和61年)123貢 (と りわけ134頁以下),七戸① 「(紹介 と批評) カ トリーヌ‑テ レーズ ・バ ローーサ リュー著 『法定公示‑ 公の情報 と行為の証明‑ 』」法学研究 (慶応大)65 巻10号 (平成4年)163頁, 同② 「公示 の原則 と登記 の効力 (民法施行100周 年 シンポ ジウム 「物権変動理論 と公示制度の現実」パ ネル討論会)」司法書士 論叢THINK95号 (平成11年)27貢参照。

(10)我妻 ・前掲注(1)53貢。 「物権 の変動 は常 に外界か ら認識 しうる何 らかの表 象,例えば登記 ・登録 ・占有等 を伴 うことを要す る, とい う法則を物権変動 における公示の原則 (Publizitatsprinzip)とい う」。

(ll)我妻 ・前掲注(1)53貢。

(12)我妻 ・前掲注(1)66貢以下。

(13) もっとも,隠居者 による財産処分 に関 しては,生前相続 は意思表示 に基づ く物権変動 に等 しいとの理 由に基づ き,「意思表示」制限説 を,生前相続 とい う特殊事例 に限 って拡張 (類推)適用すれば足 りた。 に もかかわ らず,大審 院は, およそすべての物権変動 は登記を しなければ対抗す ることがで きない,

とい う一般命題 を定立す ることによ って, この問題 に対処 した結果, この命 題 は,生前相続 とい う事案 の特殊性 を離れて独 り歩 きをは じめ ることとなる。

七戸 ・本件評釈 『民法判例百選 Ⅰ総則 ・物権 (第5版 ・新法対応版)』別 ジュ リ175号 (平成17年)112貢参照。

(14) この点 に関す る詳細 は,池 田恒男 「明治41年大審院 『第三者』制限連合部 判決の意義‑ 不動産物権変動 の歴史的理解のために」社会科学研究 (東大) 282号 (昭和41年)163頁,川井健 「民法177条第三者制限連合部判決

『民

‑ 些1‑

(22)

論説 ・解説 604(19.8)

法判例 と時代思潮』 (日本評論社,昭和56年)31頁。

個 我妻 ・前掲注(1)70頁以下。

(16) 〔本件評釈〕 甲斐道太郎① 『不動産取引判例百選』ジュ リ10号 (昭和41 年)84頁, 同②

(2版)』 別 ジュ リ112号 (平成3年)94頁,生熊長幸①

『民法判例百選 Ⅱ債権』別 ジュ リ47号 (昭和50年)42頁,同② 『(第2版)』別 ジュ リ78号 (昭和57年)38頁,同③

(第3版)』別 ジュ リ105号 (平成元年) 30頁,同④ 『(第4版)』別 ジュ リ137号 (平成8年)34貢,同⑤

(5版)

別 ジュ リ160号 (平成13年)32貢,遠藤浩 ・民事研修525号 (平成13年)23頁。

(17) 〔本件評釈〕甲斐道太郎(

『続判例百選』 ジュ リ臨増211‑2号 (昭和36年) 18貢,同② 『続判例百選』別 ジュ リ3号 (昭和40年)54頁。

(18) 〔本件評釈〕松尾和子 『特許判例百選』別 ジュ リ8号 (昭和41年)132頁。

(19) 〔本件評釈〕牛山積① 『昭和46年度重要判例解説』 ジュ リ臨増509号 (昭和 47年)40頁, 同② 『不動産取引判例百選 (第2版)』別 ジュ リ112号 (平成3 年)94頁。

CO)〔本件評釈〕中川一郎 ・法 と経済 (立命館大)1巻2号 (昭和9年)440貢, 山田居 『判例民事法 (昭和8年度)』 (有斐閣,昭和12年)〔30事件〕100頁, 浦野雄幸 『判例不動産登記法 ノー ト (第1巻)』 (ティ‑ ン, 昭和63年)169 頁。

但1)〔本件評釈〕川島武宣 ・法協58巻11号 (昭和15年)159貢,柚木馨 ・民商12巻 6号 (昭和15年)97頁,高梨公之 ・日本法学6巻11号 (昭和15年)56貢,岩 田新 ・法学新報51巻3号 (昭和16年)147貢。

CZ2)〔本件評釈〕右 田尭雄 ・金法245号 (昭和35年)13貢, 山崎賢一 ・法律論叢 (明治大)34巻3号 (昭和35年)157貢,幾代通 ・民商43巻5号 (昭和36年) 83頁,香川保一 ・登記研究180号 (昭和37年)7頁,山本進一① 『不動産取引 判例百選』別 ジュ リ10号 (昭和41年)80頁,同② 『(増補版)』(昭和52年)80 貢,同③ 『(第2版)』別 ジュ リ112号 (平成3年)‑‑ 〔所収〕『民法の基本 問題 (総則 ・物権) (民法研究2)』 (信山社,平成7年)277頁,長利正 己

『最高裁判所判例解説民事篇 (昭和35年度)』 (法曹会,昭和36年)〔47事件〕

142頁,大野秀夫 『現代判例民法学の課題 (森泉章教授還暦記念論集)』(法学 書院,昭和63年)221頁,滝沢幸代 『判例講義 ・民法 Ⅰ総則 ・物権 (補訂版)』 (悠 々社,平成7年)133頁,遠藤浩 「民法基本判例解説(37)J民事研修461号 (平成7年)51頁‑‑ 〔所収〕『民法基本判例2物権総論 ・用益物権』(信山 社,平成11年)101

e3) 〔本件評釈〕高津環(彰 ・金法341号 (昭和38年)12頁,同② 『最高裁判所判 例解説民事篇 (昭和38年度)』 (法曹会,昭和39年)〔22事件〕78貢,香川保 一 ・登記研究194号 (昭和39年)25貢,谷 口知平 ・民商49巻5号 (昭和39年) 146頁,伊東乾 ・法学研究 (慶応大)37巻10号 (昭和39年)104頁,玉 田弘 毅 ・明治大学法制研究所紀要9号 (昭和40年)157頁,星野英一 ・法協82巻2 号 (昭和41年)159頁,天野弘 『民法判例百選 Ⅰ総則 ・物権』別 ジュ リ46号 (昭和49年)108頁。

倒) 〔本件解説〕山本進一 『不動産登記先例百選 (第2版)』別 ジュ リ75号 (昭 和57年)44貢。

e5) 〔本件評釈〕瀬戸正二① ・金法427号 (昭和40年)17東,同② 『高裁判所判 例解説民事篇 (昭和40年度)』 (法曹会, 昭和45年)〔71事件〕372頁,幾代 通 ・民商54巻4号 (昭和41年)133頁,平井宜雄 ・法協83巻4号 (昭和41年)

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