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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

熊野直樹著『麻薬の世紀 : ドイツと東アジア一八九 八ー一九五〇』(東京大学出版会、二〇二〇年)

北村, 厚

神戸学院大学人文学部人文学科 : 准教授

https://doi.org/10.15017/4377854

出版情報:政治研究. 68, pp.77-84, 2021-03-31. 九州大学法学部政治研究室 バージョン:

権利関係:

(2)

書 評

熊野 直樹 著﹃ 麻薬 の世 紀︱

︱ド イツ と東 アジ ア一 八 九八

︱一 九五

〇︱

︱﹄

︵東 京大 学出 版会

︑二

〇二

〇年

︶ 北 村 厚 一 本書 は︑ 一九 世紀 末か ら二

〇世 紀前 半に 至る ドイ ツと 東ア ジア

︵主 に日 本と

﹁満 洲国

﹂︶ との 通商 関係 を︑ 阿片 を中 心に 総体 的に 描き 出し た画 期的 な研 究で ある

︒阿 片と いえ ば︑ 一 九世 紀半 ばに はイ ンド 産の 阿片 がイ ギリ スの 貿易 商に よっ て 中国 に密 輸さ れ︑ 二度 にわ たる 阿片 戦争 をひ き起 こし たこ と が︑ 世界 史上 の重 大事 件と して あま りに も有 名で ある

︒し か し︑ ナチ ス時 代の ドイ ツと

﹁満 洲国

﹂と の間 に阿 片の 取引 が あっ たこ とは ほと んど 知ら れて いな い︒ そし てナ チス

・ド イ ツと 大日 本帝 国が 崩壊 した のち

︑そ れら の阿 片は どう なっ た のだ ろう か︒ 本書 は新 発見 され たも のを 含む 一次 史料 を駆 使 して これ らの 全貌 を明 らか にし た重 厚な 実証 研究 であ る︒

阿片 は医 療に も用 いら れる が︑ 中毒 性の 強い 麻薬 であ る︒ グラ ッド スト ンは 阿片 によ って 引き 起こ され た戦 争を 不名 誉 だと 断じ

︑二

〇世 紀に は国 際阿 片条 約に よっ て禁 制品 扱い に なっ た︒ 砂糖 や紅 茶な どと 違い

︑阿 片は いわ ば闇 の国 際商 品 なの であ る︒ その 阿片 が︑ 第二 次世 界大 戦を 引き 起こ した ナ チス

・ド イツ と日 本を 結び つけ る商 品だ った とい うの は︑ 衝 撃的 であ る︒ 阿片 はど のよ うに 独亜 間を 結び つけ るこ とに なっ たの か︑ 何の ため にナ チス

・ド イツ は阿 片を 必要 とし た のか

︒こ れは いわ ば世 界史 の裏 面を 覗き 見る よう な︑ 極め て 魅力 的な テー マで ある

︒ 本研 究の 研究 領域 は︑

﹁独 亜関 係史

﹂に 当た る︒ ドイ ツと 東 アジ アと の関 係史 は︑ かつ ては 日独 関係 史や 独中 関係 史と いっ た二 国間 関係 の外 交史 研究 にと どま って いた が︑ 東ア ジ ア全 体を も含 めて ドイ ツと の関 係を 探究 する 独亜 関係 史は

︑ ここ 最近 にな って 注目 を集 める よう にな った

︒独 亜関 係史 の 最も 重要 な研 究成 果と して

︑長 年に わた って 日本 での 日独 関 係史 研究 を牽 引し てき た工 藤章 と田 嶋信 雄の 編集 によ る﹃ ド イツ と東 アジ ア︱

︱一 八九

〇︱ 一九 四(

)

﹄が ある が︑ 著者 は この 論文 集に 二本 の論 文を 寄稿 して いる

︒本 書の サブ タイ ト ルが

﹁ド イツ と東 アジ ア 一八 九八

︱一 九五

〇﹂ とな って い るの は︑ 工藤

・田 嶋編 の論 文集 の主 旨を 継承 し︑ かつ 同じ 時

(3)

系列 にお いて

﹁麻 薬の 世紀

﹂と いう 裏面 の独 亜関 係史 が展 開 され てき たこ とを 印象 付け るも ので ある

︒ 二 まず 本書 の概 要を 紹介 する

︒本 書は 序章 と本 論七 章︑ およ び補 論と 終章 から なる

︒ 第一 章﹁ 二〇 世紀 初期 にお ける 阿片 と独 亜関 係﹂ では

︑阿 片と いう 国際 商品 の概 要と

︑一 八九 八年 に膠 州湾 を租 借し た ドイ ツが 当地 で阿 片政 策に 着手 して 以来

︑阿 片を めぐ る独 亜 関係 が発 生し たこ と︑ そし て戦 間期 の一 九三

〇年 に関 東州 で ベン ゾイ リン 不正 事件 が発 生し たこ とを 紹介 して いる

︒す で にこ の段 階で

︑ド イツ と東 アジ アの 間に は麻 薬の 密輸 ネッ ト ワー クが 形成 され てい たの であ る︒ ただ

︑ヴ ァイ マル 共和 国期 には 阿片 法が 制定 され てお り︑ ナチ ス期 にも 継承 され たた め︑ 第二 次世 界大 戦が 勃発 する ま で︑ 大規 模な 阿片 貿易 は行 われ なか った

︒そ の代 わり にド イ ツと 東ア ジア を結 びつ けて いた 商品 が︑ 満洲 大豆 であ る︒ 第 二章

﹁ド イツ 通商 政策 の史 的展 開︱

︱バ ター

・マ ーガ リン

・ 満洲 大豆

︱︱

﹂で は︑ 世界 恐慌 下で ドイ ツの 穀物 関税 が引 き 上げ られ る中 で︑ 飼料 用穀 物と して 輸入 が急 増し た満 洲大 豆

をめ ぐる 農業 界と 工業 界と の対 立が 描か れる

︒大 豆油 はマ ー ガリ ンの 原料 にも なり

︑安 価な マー ガリ ンは 高価 なバ ター に 代わ り労 働者 が消 費し てい た︒ 農業 恐慌 下で バタ ー価 格の 下 落と 消費 の低 迷に 苦し んで いた 農業 界は

︑政 府に 大豆 の輸 入 制限 とバ ター のマ ーガ リン への 強制 混合 を要 求し

︑ヒ トラ ー 内閣 にお いて 成立 した 油脂 法に よっ て実 現し た︒ これ はヒ ト ラー が目 指す アウ タル キー

︵自 給自 足︶ 経済 の理 念に も合 致 する もの だっ た︒ しか し油 脂法 によ って 満洲 大豆 の輸 入が 減少 した 結果

︑ド イツ 国内 で油 脂と 飼料 が不 足す るこ とに なっ た︒ そこ でド イ ツは 満洲 大豆 を安 定的 に輸 入す るた めに

︑﹁ 満洲 国﹂ との 貿易 協定 の締 結に 乗り 出す

︒第 三章

﹁第 二次 世界 大戦 期の 独﹁ 満﹂ 関係

﹂で は︑ 一九 三六 年四 月に 独﹁ 満﹂ 貿易 協定 が東 京で 調 印さ れる 経緯 と︑ それ 以降 の展 開を 追う

︒協 定締 結以 降︑ ド イツ の満 洲大 豆の 輸入 は着 実に 増加 した が︑ 第二 次世 界大 戦 の勃 発に よっ て海 上輸 送に よる 満洲 大豆 輸入 は困 難に なっ た︒ それ に代 わっ て注 目さ れた のが

︑シ ベリ ア鉄 道を 利用 し た陸 上輸 送で あり

︑独 ソ不 可侵 条約 と一 九四

〇年 二月 の独 ソ 経済 協定 によ って それ が可 能と なっ たの であ る︒ しか し﹁ 満洲 国﹂ から はド イツ 側が 期待 する 量の 大豆 を十 分に 供給 する こと がで きず

︑ヴ ォー ルタ ート を団 長と する ド

(4)

イツ 経済 使節 団が

︑一 九四 一年 四月 に﹁ 満洲 国﹂ と日 本を 訪 問し た︒ 第四 章﹁ 独ソ 戦勃 発と 独﹁ 満﹂ 関係

﹂で は︑ ヴォ ー ルタ ート が﹁ 満洲 国﹂ を訪 問し てい る間 に独 ソ戦 が勃 発し た こと によ って

︑シ ベリ ア鉄 道に よる 満洲 大豆 の輸 送が つい に 不可 能に なっ たこ とに より

︑独

﹁満

﹂貿 易の 主要 商品 が満 洲 大豆 から 阿片 に移 行す る経 緯が 明ら かに され る︒ 阿片 であ れ ば大 豆よ りも かさ ばら ない ので

︑封 鎖突 破船 で海 上輸 送を 行 うこ とが 可能 であ った

︒著 者は

︑こ こで ドイ ツが 満洲 の阿 片 を必 要と した のは

︑イ ギリ スの 貿易 封鎖 措置 によ りイ ンド や イラ ンか らの 阿片 の供 給が 滞っ たか ら︑ ある いは 東南 アジ ア で戦 争に 必要 な原 材料 を調 達す るた めの 交換 商品 とし て阿 片 が用 いら れた から では ない かと

︑デ ータ や傍 証を 示し つつ 推 定し てい る︒ そし て︑ 独﹁ 満﹂ 経済 関係 存続 のた めの 第三 協定 が締 結さ れた 一九 四二 年一 二月 には

︑す でに 独﹁ 満﹂ 通商 関係 は阿 片 を中 心と した 貿易 に移 行し

︑そ の要 求量 は年 々増 大し た︒ し かし

︑一 九四 四年 にな ると もは や封 鎖突 破船 すら ドイ ツに た どり 着け なく なり

︑潜 水艦 によ る輸 送に 切り 替わ るこ とに な る︒ この 背景 には ドイ ツと トル コと の関 係悪 化に よる

︑ト ル コか らの 阿片 輸入 の途 絶が あっ た︒ 一九 四二 年か ら四 五年 まで の間 に﹁ 満洲 国﹂ から ドイ ツに

輸出 され た阿 片は 二四 万ト ンに 達し

︑そ のう ち半 分が 実際 に ドイ ツに 到着 した とい う︒ しか しナ チス

・ド イツ はな ぜそ れ ほど まで にア ヘン を必 要と した ので あろ うか

︒第 五章

﹁﹁ 満 洲国

﹂の 阿片 政策 とナ チス

・ド イツ の阿 片・ モル ヒネ 政策

﹂ では

︑﹁ 満洲 国﹂ にお ける 阿片 専売 制や 罌粟 栽培 の実 態︑ そし てナ チス

・ド イツ にお ける 阿片

・モ ルヒ ネの 利用 が明 らか に され る︒ それ によ れば

︑阿 片・ モル ヒネ は︑ 前線 で戦 う兵 士 を﹁ 覚醒 し︑ 疲れ 知ら ず﹂ にさ せる ため に使 用さ れ︑ アウ シュ ヴィ ッツ にお ける 人体 実験 や︑ 精神 病患 者・ 障が い者 に対 す る﹁ 安楽 死﹂ 殺人 の道 具と して も使 用さ れた

︒ナ チス が遠 く 東ア ジア まで 求め た阿 片は

︑ホ ロコ ース トの 実行 に関 係し て いた ので ある

︒ 第六 章﹁ ナチ 阿片 のゆ くえ

﹂で は︑ 第二 次世 界大 戦の 終戦 前後 の阿 片を めぐ る動 きが 追跡 され てい る︒ 大戦 末期

︑戦 局 の悪 化に より 阿片 をは じめ とす るア ジア の物 資は ドイ ツに 運 ばれ るこ とな く︑ 一九 四五 年五 月に ナチ ス・ ドイ ツは 降伏 し︑ それ らは 日本 や満 洲に 残さ れた

︒神 戸の 倉庫 に保 管さ れた

﹁ナ チ阿 片﹂ は︑ 空襲 を避 ける ため に﹁ 疎開

﹂さ れ︑ 日本 の降 伏後

︑一 二月 にG HQ によ り押 収さ れた

︒押 収さ れた ナチ 阿 片は 日本 の通 産省 が買 い取 るこ とと なり

︑そ の代 金約 四九 万 八〇

〇〇 ドル は連 合国 軍総 司令 官︑ すな わち マッ カー サー の

(5)

手に 渡っ たと いう

︒ 一方

︑奉 天に 残さ れた ナチ 阿片 のゆ くえ は︑ 第七 章﹁ 阿片 と日 華賠 償問 題﹂ で取 り扱 われ る︒ ナチ ス・ ドイ ツ降 伏後

︑ 奉天 に残 され たナ チ阿 片は 日本 側に 引き 渡さ れ︑

﹁満 洲国

﹂の 関東 軍が 引き 受け るこ とに なっ た︒ しか しソ 連が 対日 宣戦 し︑ 満洲 に侵 攻す ると

︑こ れら の関 東軍 阿片 は一 部が 埋め ら れ︑ 一部 が日 本に

﹁密 輸﹂ され た︒ 唐津

︵呼 子港

︶に 密輸 さ れた 阿片 は︑ その 後神 戸か ら徳 島県 に渡 る途 中で 新聞 によ っ てス クー プさ れ︑ 米軍 によ って 捕捉 され た︒ 押収 され た阿 片 は大 日本 製薬 大阪 工場 に保 管さ れた が︑ 中華 民国 国民 政府 は この 阿片 を︑ 日本 によ って 略奪 され た中 国資 産で ある とし て︑ 返還 要求 した

︒そ うし た中 で︑ 冷戦 の深 刻化 によ って 日本 の 早期 復興 を目 指す よう にな った アメ リカ によ り︑ 対日 賠償 の 緩和 が連 合国 に持 ちか けら れる

︒中 華民 国側 はこ れを 拒否 し よう とし たが 押し 切ら れ︑ 賠償 請求 を断 念す るこ とに なっ た︒ しか し実 は日 本が 阿片 の買 い取 りに 応じ たこ とで

︑中 国は 事 実上 の賠 償金 を日 本か ら獲 得し たの であ った

︒こ の関 東軍 阿 片の ゆく えに つい ては

︑先 行研 究で もま った く謎 とさ れて い たが

︑著 者は 新発 見の 一次 史料 など を用 いて 詳細 に追 跡し

︑ その 実態 をほ とん ど明 らか にし てい る︒ 実証 研究 とし ての 本 書の 白眉 であ り︑ 圧巻 であ る︒

補論

﹁コ カと 独日 関係

﹂で は︑ 阿片 を中 心と する 本論 を補 完す るべ く︑ コカ イン の原 料で ある コカ 葉を めぐ る独 日関 係 を明 らか にし てい る︒ 本書 が﹁ 阿片 の世 紀﹂ では なく

﹁麻 薬 の世 紀﹂ とい うタ イト ルに なっ てい るの は︑ 独亜 関係 にお い ては 阿片 に加 えて コカ も重 要な 商品 とな って いた とい う発 見 を強 調す るた めで あろ う︒ 阿片 は満 洲や 蒙彊 をそ の生 産地 と して いた が︑ コカ 葉の 生産 地は 台湾

︑硫 黄島

︑沖 縄で あっ た︒ 日本 はこ れら の地 で膨 大な コカ 葉を 計画 的に 生産 し︑ アメ リ カや イギ リス に輸 出し てい た︒ しか しア ジア 太平 洋戦 争が 勃 発す ると これ らの 諸国 には 輸出 でき ない

︒実 は日 本は

︑阿 片 など とと もに ドイ ツに コカ 葉を 輸出 し︑ ナチ ス・ ドイ ツは 日 本か ら得 たコ カ葉 によ って 製造 した コカ イン を外 貨獲 得の た めの 手段 とし てい たの であ った

︒そ して 大戦 末期 に輸 送が 不 可能 にな ると

︑阿 片と 同じ くド イツ 滞貨 とな り︑ 日本 に売 却 され たの であ る︒ いわ ば︑ 独﹁ 満﹂ 関係 は阿 片が 結び

︑独 日 関係 はコ カが 結ん でい たの であ る︒ 三 本書 はか つて ない スケ ール と実 証の 緻密 さを 兼ね 備え た大 著で あり

︑い くつ もの 特長 を持 つが

︑ま ず強 調し たい のは

(6)

本書 が全 く新 しい 歴史 的事 実を いく つも 発掘 した 現代 史研 究 であ ると いう 点で ある

︒戦 前・ 戦中 日本 の阿 片政 策に つい て はい くつ かの 先行 研究 が存 在す るが

︑そ れと ナチ ス・ ドイ ツ との 関係 を掘 り起 こし たの は︑ ドイ ツ通 商政 策を 長年 にわ たっ て研 究し てき た著 者独 自の 視点 であ る︒ それ だけ でな く︑ 著者 はま だ誰 も参 照し たこ との ない 新史 料を いく つも 発 掘し

︑ナ チ阿 片の ゆく えに 関す る新 事実 を次 々と 発見 した

︒ 現代 史研 究に かか わる 史料 は膨 大で ある が︑ 戦時 中の ドイ ツ や日 本に つい ては 研究 者の 質量 とも に高 く︑ 史料 も出 尽く し た感 があ り︑ 新し い史 料や 事実 を発 掘す るの はき わめ て困 難 であ る︒ そう した 中で

︑独 亜関 係に 関す る重 要な 事実 を自 ら が発 見し た新 史料 によ って 明ら かに する こと 自体

︑実 証史 家 の面 目躍 如で あり

︑驚 くべ き成 果で ある と言 える

︒ もち ろん こう した 新事 実が 発見 され たの は︑ 独亜 関係 史と いう 新し い視 点に よっ て得 られ た側 面も 大き い︒ そも そも 一 国の 外務 省を 中心 的ア クタ ーと した 外交 政策 を取 り上 げる

﹁外 交史

﹂と 異な り︑

﹁関 係史

﹂は

︑ど ちら かの 側に 中心 軸を 置く ので はな く︑ 相互 関係 性に よる 双方 への 政治

・経 済的 影 響や その 歴史 的帰 結を 多面 的に 分析 する とい う特 色を 持つ

︒ 外交 史は いわ ば一 国史 であ り︑ 関係 史は 複数 の国 家や 地域 に 対象 が広 がる ので ある

︒本 書で はド イツ

︑日 本︑

﹁満 洲国

﹂︑

アメ リカ

︑中 華民 国を

︑阿 片を 媒介 とし て縦 横無 尽に 結び つ けて いる

︒こ うし た分 析視 角に おい ては マル チア ーカ イヴ ァ ルな 研究 が不 可欠 であ るが

︑著 者は 中国 語を 含む 複数 の言 語 の史 料を 読み 込み

︑多 地域

・多 言語 の史 料を 関係 史の 文脈 で 辿る こと によ って

︑新 しい 史料 群と 事実 発見 に至 った ので は ない だろ うか

︒ それ では

︑な ぜ本 書は これ ほど まで に広 範囲 にわ たる 関係 史を 叙述 する こと がで きた のだ ろう か︒ それ は国 家で はな く 大豆 や麻 薬を 中心 的な 分析 対象 に置 いた から であ ろう

︒著 者 は川 北稔 の﹃ 砂糖 の世 界史

﹄や 鶴見 良行 の﹃ ナマ コの 眼﹄ を 例に 挙げ て︑

﹁モ ノを 素材 に一 国史 の枠 組み を超 えて

︑横 断的 に世 界史 を叙 述す るこ とが 試み られ てき た﹂

︵本 書2 頁︶ とし て︑ 世界 中で 取引 され る国 際商 品と して の大 豆と 麻薬 の動 き を追 いな がら

︑そ れら にか かわ る国 家の 通商

・外 交政 策を 配 置し てい くの であ る︒ その 結果

︑本 書は 極め て多 様な 国を 舞 台と しな がら

︑ま った く一 貫し た分 析と なっ てい るの であ る︒ こう した 手法 は︑

﹁モ ノの グロ ーバ ル・ ヒス トリ ー﹂ に該 当 する

︒グ ロー バル

・ヒ スト リー は西 洋中 心主 義と 一国 史観 を 批判 する ため に関 係性 や比 較を 手段 とし て用 いる が︑ 国境 を 越え る関 係性 を描 くた めの 手段 とし てし ばし ば﹁ モノ

﹂に 着 目す る︒ 例え ば香 辛料

︑綿 花︑ 紅茶

︑コ ーヒ ーと いっ た国 際

(7)

商品 であ る︒ キャ ロル

・グ ラッ グに よれ ば︑ それ は﹁ おお よ そ経 済的 価値 のあ る物 質を とり あげ

︑そ の動 きを 追う こと で︑ 分析 的な 意味 でグ ロー バル なマ クロ

・ヒ スト リー の物 語を 作っ たり

︑批 判し たり する も(

)

﹂で ある

︒本 書は 大豆 と麻 薬 とい う国 際商 品の トラ ンス ナシ ョナ ルな 交換 と移 動を 中心 と して

︑ド イツ や日 本と いっ た国 家の 役割 を脱 中心 化し

︑さ ら にそ の分 析の 結果

︑第 二次 世界 大戦 の独 亜関 係史 にお ける 暗 部︱

︱例 えば

﹁安 楽死

﹂作 戦や アウ シュ ヴィ ッツ の人 体実 験 とい った 歴史 にま で切 り込 み︑ さら には 賠償 金を 断念 した は ずの 中華 民国 が事 実上 の賠 償金 を阿 片売 却に よっ て獲 得し て いた とい うよ うな

︑一 国史 では まず 発見 する こと ので きな い 新た な歴 史を 浮き 彫り にす る射 程を 獲得 して いる

︒ま さに

﹁モ ノの グロ ーバ ル・ ヒス トリ ー﹂ の成 功例 であ る︒ ドイ ツ現 代史 にお ける グロ ーバ ル・ ヒス トリ ー研 究は 多く ない が︑ 例え ば代 表的 なグ ロー バル

・ヒ スト リー 専門 雑誌 で ある Jo ur na lo fG lo ba lH is to ry の第 一二 号︵ 二〇 一七 年︶ では

﹁枢 軸の 帝国

︱︱ ファ シズ ム帝 国主 義の グロ ーバ ル・ ヒス ト リー に向 けて

﹂と 題す る特 集が 組ま れて いる

︒そ こに 掲載 さ れた カウ ナー の研 究で は︑ 第二 次世 界大 戦期 のド イツ と日 本 との 軍需 物資 調達 関係 が研 究さ れ︑ 東南 アジ アで の軍 需物 資 の調 達と 移送 や︑ 封鎖 突破 船か ら潜 水艦 への 移行 につ いて も

書か れて いる

︒し かし 麻薬 には 全く 言及 がな いし

︑独

・伊

・ 日の 国家 間関 係に 重点 が置 かれ た﹁ 枢軸 国中 心﹂ の叙 述に なっ てい る上 に︑ 主に 二次 文献 に依 拠し てお り︑ 実証 的な 成果 で はな

(

)

︒こ れに 対し て本 書は あく まで 麻薬 を中 心と する こと によ って

︑枢 軸国 だけ でな く中 華民 国や アメ リカ をも 射程 に 収め

︑ま さに 縦横 無尽 に麻 薬を めぐ るグ ロー バル

・ヒ スト リー を実 証的 に描 いて おり

︑カ ウナ ーの 研究 より もは るか に優 れ てい る︒ この 分野 にお ける 新た な地 平を 拓い た研 究と いえ る ので はな いだ ろう か︒ 四 この よう に本 書は

︑独 亜関 係史 とい う新 しい 分野 とし ても

︑ グロ ーバ ル・ ヒス トリ ーと して も︑ 現時 点で 最も 重要 な研 究 であ るこ とは 間違 いな い︒ ほと んど 欠点 の無 い本 書に 対し て 問題 点を 指摘 する こと は困 難で ある が︑ 全く の的 外れ とな る こと を覚 悟の 上で

︑い くつ か疑 問点 や﹁ ない もの ねだ り﹂ 的 な要 望を

︑以 下で 述べ てお きた い︒ まず 気に なっ たの は︑ 素朴 な疑 問で はあ るが

﹁麻 薬の 世紀

﹂ とい うタ イト ルの 意味 であ る︒ 本書 の射 程は サブ タイ トル に ある 通り

︑膠 州湾 がド イツ に租 借さ れた 一八 九八 年か ら関 東

(8)

軍阿 片を 日本 が買 い取 った 一九 五〇 年ま で︑ ほぼ 二〇 世紀 の 前半 に該 当す る︒ それ では

﹁麻 薬の 世紀

﹂は 二〇 世紀 を指 す ので あろ うか

︒そ うで あれ ば︑ どの よう な意 味で 二〇 世紀

︵の 前半

︶が

﹁麻 薬の 世紀

﹂で あっ たと 言え るの であ ろう か︒ 本 書で はそ の点 につ いて の詳 細な 説明 がな く︑ タイ トル から 想 起さ れる よう な二

〇世 紀論 とし ての 議論 がな され なか った

︒ 少な くと もタ イト ルの 意味 する とこ ろに つい て︑ 何ら かの 定 義が 示さ れる べき では なか った だろ うか

︒ 次に

︑阿 片を めぐ る関 係史 を辿 るう ちに 浮か び上 がっ てく る︑ ドイ ツと 東ア ジア 以外 の地 域に 関す る分 析が 弱い ので は ない かと いう 疑問 を持 った

︒本 書の 分析 にお いて は︑ 特に

﹁満 洲国

﹂か らド イツ への 阿片 の輸 送に おい て封 鎖突 破船 や潜 水 艦が 用い られ

︑そ のル ート は昭 南︵ シン ガポ ール

︶を 重要 な 経路 とし てい るこ と︑

﹁大 東亜 共栄 圏﹂ の諸 国で 阿片 の専 売制 が敷 かれ

︑そ こで の阿 片の 売買 のた めに ドイ ツ向 けの 阿片 供 給が 滞り がち であ った こと

︑そ れが イン ドや イラ ンか らの 阿 片供 給の 途絶 によ るも ので ある こと が説 明さ れて いる が︑ こ れら の断 片的 な情 報か ら︑ 阿片 をめ ぐる 独亜 関係 にお いて 東 南ア ジア が重 要で ある こと は明 らか であ る︒ しか し︑ 本書 で は詳 細な 分析 がな され ず︑

﹁あ とが き﹂ で紹 介さ れた よう に︑ 別稿 で論 じら れる こと にな っ(

)

もし この 別稿 が本 書に 組み 込ま れて いれ ば︑ 本書 の射 程は 東南 アジ アや イン ド洋 に及 び︑ さら に広 域に おい て﹁ 麻薬 の 世紀

﹂の 全貌 が示 され るこ とに なっ たの では なか った だろ う か︒ 別稿 が用 意さ れて いる とは いえ

︑で きれ ば本 書一 冊に 収 めら れて いた ほう が研 究上 の価 値は さら に高 まっ たと 思わ れ る︒ 他方 で︑ ナチ ス・ ドイ ツに おけ る阿 片政 策に つい ては

︑第 五章 の第 二節 で分 析さ れて いる が︑ ここ では ホル ツァ ーや ク レー の著 作に 多く を依 拠し てお り︑ 他の 章に おけ る史 料的 な 密度 に比 べる とや や薄 いよ うに 感じ られ る︒ その こと もあ っ てか

︑本 節に おけ る阿 片・ モル ヒネ 政策 がど のよ うに

﹁満 洲 国﹂ の阿 片と 結び つい てい るの か︑ いな いの かが 曖昧 であ る よう に思 われ る︒ 第四 章で 詳述 され てい るよ うに

︑ナ チス

・ ドイ ツが

﹁満 洲国

﹂の 阿片 を特 に必 要と する よう にな った の は︑ トル コと の関 係が 途絶 する 一九 四四 年後 半か らで あり

︑ その 期間 はわ ずか であ った

︒し かも 別稿 にお いて

︑ド イツ が 購入 した 阿片 は東 南ア ジア での 重要 物資 と交 換す るた めに 用 いら れた 可能 性が あり

︑そ うす ると ドイ ツで 使用 する

﹁満 洲 国﹂ の阿 片は さら に少 なく なる

︒本 書に おい ては

︑﹁ 戦時 中に

﹃満 洲国

﹄か ら輸 入さ れた 大量 の阿 片の 一部 が︑ 実際 にこ れら の用 途に 利用 され てい た可 能性 は否 定で きな い﹂

︵本 書一 二

(9)

〇頁

︶と 述べ られ てい るが

︑時 期や 量を 考え ると

︑や はり ト ルコ から のも のが 比重 とし ては 多か った と考 えら れな いだ ろ うか

︒し かし

︑独

﹁満

﹂阿 片貿 易の 期間 以外 にお ける ナチ ス・ ドイ ツ阿 片調 達の 分析 には

︑独 土関 係の 史料 を必 要と する こ とに なろ う︒ これ は本 書の 分析 範囲 を大 きく 超え てお り︑

﹁な いも のね だり

﹂の 疑問 点で ある

︒ 五 以上

︑非 常に 雑駁 では ある が︑ 本書 の特 長と 疑問 点を 述べ させ てい ただ いた

︒著 者の 圧倒 的な 研究 の蓄 積に 対し て︑ 自 分の 能力 が及 ばず

︑全 く的 外れ な指 摘ば かり にな って いる こ とと 思わ れる が︑ 御寛 恕を 願う ばか りで ある

︒い ずれ にせ よ 本書 は︑ 独亜 関係 史研 究の 金字 塔と して 後年 にわ たっ て参 照 され 続け る重 要な 研究 であ るこ とは 疑い ない

︒ま た︑ 評者 と して は︑ 日本 の現 代史 研究 にお いて は数 少な い︑ 実証 的な グ ロー バル

・ヒ スト リー 研究 とし て積 極的 に評 価し たい

︒こ れ まで 日本 のグ ロー バル

・ヒ スト リー 研究 は一 九世 紀ま での イ ギリ ス帝 国や 海域 アジ アに 偏っ てい た印 象が ある が︑ 本書 は 現代 史に おけ るグ ロー バル

・ヒ スト リー 研究 の一 つの 方向 性 を示 すも のと して

︑こ れを 模範 とす る研 究の 登場 が期 待さ れ

よう 注 ︒

︵1

︶田 嶋信 雄・ 工藤 章編

﹃ド イツ と東 アジ ア︱

︱一 八九

︱一 九四 五﹄ 東京 大学 出版 会︑ 二〇 一七 年︒

︵2

︶キ ャロ ル・ グラ ッグ

︵梅 崎透 訳︶

﹁転 回す るグ ロー バル

・ ター ン﹂ 成田 龍一

・長 谷川 貴彦 編﹃

︿世 界史

﹀を いか に語 るか

︱︱ グロ ーバ ル時 代の 歴史 像﹄ 岩波 書店

︑二

〇二

〇 年︑ 六七

︱六 八頁

︵3

︶R ot em Ko wn er ,“ Wh en ec on om ic s, st ra te gy ,a nd ra ci al id eo lo gy me et :i nt er -A xi sc on ne ct io ns in th ew ar ti me In di an Oc ea n” ,i n: Jo ur na lo fG lo ba lH is to ry ,1 2- 3( 20 17 ), pp .2 28 -2 50 .

︵4

︶熊 野直 樹﹁ ナチ 阿片 と﹃ 大東 亜共 栄圏

﹄﹂

﹃法 政研 究﹄ 第 八六 巻第 三号

︵二

〇一 九年

︶︑ 六三 一︱ 六五 九頁

参照

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