平成 17 年度
東アジア諸国の FTA 締結が
日本経済・産業に与える影響 報告書
平成 18 年3月
この調査研究は、競輪の補助金を受けて実施したものです。
はじめに
アジアにおいては、中国が世界の工場と称され、日本などの先進工業諸国が生産財、部品 を中国に輸出し、中国から製品がこれらの諸国および米国・EUなどに還流・輸出されるとい う動きが顕在化している。80年代半ばまで、日本が製品をこれらの地域に一方的に供給する という貿易構造であったが、現在では、東アジア諸国、中国の工業化の進展もあり、域内分 業が進展し、日本もこの域内分業に組み込まれつつある。
この環境下、東アジア地域においてASEAN諸国、中国などを中心にFTA締結が進んでいる。
一方、日本のFTA締結はアジアにおいてはシンガポールのみで、他国とは交渉中の段階で、出 遅れた感がある。
本報告書は、東アジアにおけるFTA締結の動きを整理し、これらが日本経済・産業にどのよ うな影響を与えるか、そして日本が採るべき方策について考察することを目的としている。
第1章では、東アジアにおけるFTA締結の現状および条約の内容について整理した。第2章 では、特に東アジア域内で中国とASEANとのFTA締結に焦点を当てて、FTAを促進する政治的・
経済的な意図を分析し、今後の方向性を探った。第3,4章では、東アジア諸国の中で、日 本との貿易規模が大きく、多数財で相互に貿易がみられる台湾に焦点を当てて、関税を撤廃 した際に、貿易が相互にどの程度拡大し、経済にどの程度の影響を与えるのかについて試算 した。試算に使用した貿易指数データの作成については、永田雅啓客員研究員(埼玉大学教 養学部教授)にお世話になった。
本報告書が、FTAに関心を持つ方々の参考になれば、幸いである。
なお、執筆分担は以下のとおりである。
第1章 石川幸一 国際貿易投資研究所 客員研究員、亜細亜大学アジア研究所教授 第2章 青木 健 国際貿易投資研究所 客員研究員、杏林大学
社会科学部・総合政策学部教授 第3章 小野充人 国際貿易投資研究所 研究主幹
第4章 小野充人 国際貿易投資研究所 研究主幹
平成 18 年3月 財団法人 国際貿易投資研究所
目 次
第1章 東アジアの地域統合の現状と東アジアFTAの課題
─FTAを中核として進む東アジアの地域統合─ ··· 1 1.始動したACFTA··· 2
(1)政治的目的が大きなFTA···2
(2)2010年にFTA実現···3
(3)国別にみた例外品目の特徴···5
2.日本はマレーシアとのFTAに調印··· 10
3.着実に進展するAFTA··· 12
4.東アジアFTAの課題··· 14
(1)質への懸念が浮上··· 14
(2)格差拡大の可能性··· 15
第2章 東アジアにおけるFTAを巡る動き
─対ASEAN・FTA締結にみる中国の戦略─ ··· 18第1節 ASEANの魅力··· 19
第2節 中国経済の課題と戦略··· 20
第3節 対アジア地域戦略··· 24
第4節 中国の対外貿易にみる「集中」と「分散」の構造変化 ··· 33
第5節 中国の機会··· 44
第3章 台湾との関税撤廃による経済効果の計測(方法論)
···57
1.方法論 ··· 57
2.日本の対台湾輸入関数の推計··· 57
(1)関数型··· 57
(2)分析品目の選定··· 57
3.日本の対台湾輸出関数の推計··· 58
(1)関数型··· 58
(2)分析品目の選定··· 59
4.今後の課題··· 60
第4章 台湾との関税撤廃による経済効果の計測(結果) ··· 63
(1)日本の輸入関数推定··· 63
(2)台湾の輸入関数推定(日本の輸出関数)··· 66
(3)関税撤廃による貿易拡大効果··· 70
(4)経済効果··· 73
付表
1.日本の関税率(対台湾)(2004年)··· 75 2.台湾の関税率(対日本)(2004年)··· 100
1章 東アジアの地域統合の現状と東アジアFTAの課題
─FTAを中核として進む東アジアの地域統合─
2005年12月にクアラルンプールでASEAN+3(日中韓)会議と東アジアサミットが開催され た。東アジアサミットには、ASEAN+3にインド、豪州、ニュージーランドの16ヵ国が参加し た。これら2つの会議では東アジア共同体が議論されたが、具体的な内容は全く決まらず、
2007年に発表される宣言まで持ち越された。
バラッサによれば、地域統合は、①自由貿易地域(FTA)、②関税同盟、③共同市場、④経 済同盟、⑤完全な統合と段階的に形成される。FTAは、参加国間の貿易障壁を撤廃し、自由な 貿易を実現するものであり、関税同盟はさらに参加国の関税を共通化するものである。次の 段階の共同市場は、生産要素の自由移動を実現するものであり、具体的にはモノ、カネ、ヒ トの自由な移動を認める。経済同盟は、経済政策の共通化まで進むものであり、たとえば、
金融政策を共通化し、共通通貨を発行する。欧州の地域統合は、1958年の欧州経済共同体創 設によりFTA形成を進め、1968年には関税同盟を実現、1993年の共同市場、1999年の共通通貨 導入に象徴される経済同盟完成とこの順序で発展(深化)している。
東アジアでは、ASEANが2020年に経済共同体形成を目標としているが、その内容は共同市場 である。また、日本や中国の進めるFTAは、物品の貿易に加え、サービス、投資、人の移動の 自由化、協力を含む広範な内容を含み、共同市場を一部実現するものである。
FTAとは別にチェンマイ・イニシアチブやアジア債券市場構想などの金融・通貨協力が東ア ジアでは進展している。東アジア共同体については、構成メンバー、イニシアチブをとる国 などを巡ってサミット参加国間で様々な思惑があり玉虫色の合意となった。共同体のベース となるのはFTAであり、FTAと金融・通貨協力のような機能的協力を着実に進めることが最も 現実的である。
2005年は、ASEANを中心としてFTAが進展した。7月には中国とASEANのFTAが関税引下げを 開始した。日本は、12月にマレーシアとのFTAに調印し、タイと実質合意し、インドネシアお よびASEAN(タイを除く)と交渉を開始した。韓国とASEANは、12月に基本協定に調印した。
このように、日本とASEAN、中国とASEAN、韓国とASEANという3つのASEAN+1のFTAが動き始 めており、ASEAN中国FTA(ACFTA)が最も先行している。ACFTAは、ASEAN自由貿易地域(AFTA)
の共通効果特恵関税(CEPT)をベースにしており、関税引下げ方式、原産地規則、互恵主義、
FTA完成時期など共通点が多い(注1)。FTAはWTOの基本ルールである最恵国待遇の例外であり、
GATT24条の要件を満たすことが求められている。最も重要な条件は、実質的にすべての貿易 の自由であり、一般に90%の貿易を自由化(関税撤廃)することと解釈されている。ACFTA はGATT24条に整合的なFTAであると協定で強調しているが、重要な品目を例外としており、質 が高いとはいい難い。
東アジアのFTAを中国からみると、ASEANとのFTAをスピーディに立ち上げ、香港・マカオと はCEPAを締結、韓国とは政府間の研究を開始するなど、日本を除いたFTAネットワークを作り つつある。ASEANとのFTAでは、アーリーハーベストの実施、AFTAをベースとするなどASEAN の意向を尊重しつつ、多くの競争力の弱い産業を例外として中国に不利にならないFTAを実現 している。AFTAとACFTAは共通点が多く、東アジア13ヵ国中11ヵ国がメンバーとなっている
ACFTAが最も先行しており、東アジアFTAがACFTAの影響を受ける可能性が大きい。
1.始動したACFTA
(1)政治的目的が大きなFTA
2005年に関税引下げが始まったACFTAは、2001年のASEANと中国の首脳会議で合意されたも ので合意から3年で調印、4年で関税引下げを開始という迅速な交渉が行われた。ACFTAは、
大きな特徴を持っている。まず、アーリーハーベストと呼ばれる特定品目の早期自由化を行 ったことである。アーリーハーベストは、HS01からHS08までの農産品(動物、魚、野菜、果 物が中心)の関税撤廃を2004年から2006年までの2年間で行うものである。アーリーハーベ ストは、熱帯農産品の対中輸出を望むASEANの要望に応えた措置である。次に、中国とASEAN は開発途上国であるため、WTOルール上では開発途上国に緩やかな条件でFTA形成を認める授 権条項によりFTAを締結できるが、先進国なみのGATT24条に整合的なFTAとしていることであ る。ただし、後述するとおり必ずしも質の高い(自由化度が高い)FTAとはいえない。第3に、
サービス、投資、経済協力を含む包括的なFTAである。日本のFTAは極めて包括的であり、経 済連携協定と呼ばれているが、ACFTAも経済連携協定と等しい内容である。第4にASEANのFTA であるAFTAと多くの共通点を持っている。関税引下げ方式、原産地規則、互恵主義、FTA完成 時期など重要事項が共通である。これは、ASEANがFTA提案に応じやすくするためだったと考 えられる。
第5に、ACFTAは中国の視点からは政治的な意味合いを強く持ったFTAである。中国は、1990 年代以降、ASEANとの関係の改善と緊密化を進めてきた。ACFTAは、1990年代以降の対ASEAN 政策の展開の中で位置づけを行うべきである。外交面では、南シナ海での領域問題での対決 から対話への転換、アジア通貨経済危機時のASEANへの支援を経て、2002年には南シナ海行動 宣言、非伝統的安全保障分野での協力宣言に署名、2003年にはASEANの基本条約である東南ア ジア平和友好条約(TAC)にASEAN域外国として初めて署名を行った。
ACFTAの枠組み協定(包括的な経済協力に関する枠組み協定)は2002年に南シナ海行動宣言 などと同時に署名されており、2003年には政治、経済、社会、安全保障面での協力をカバー する平和と繁栄のための戦略的パートナーシップについての共同宣言に中国とASEANは署名 している。
中国がASEANとの政治経済関係緊密化を進める背景には、中国の政治的台頭と影響力強化を 平和的に進めるという「平和的台頭(Peaceful Ascendancy)」戦略がある。ASEANとの関係で は、中国脅威論の解消、政治的影響力強化、安全保障、台湾への牽制、メコン河流域開発に よるインドシナ諸国との関係強化、インド洋へのルート開拓や資源確保など経済安全保障が 目的となっている。ACFTAは、そのための有力なカードとして使われている。経済面のアプロ ーチはFTAに限定されない。経済面では、①FTA、②海外投資、③経済協力、の3つの柱によ り、ASEANとの関係強化が進められている。これら3つの動きは、1990年代後半から強化され ており、FTAと海外投資(走出去戦略)、経済協力は2000年前後から加速されている。
ACFTAは、もちろん経済的な目的を持つFTAである。その中で最も大きいのはASEAN市場への アクセス改善である。ASEANは、人口が5億5,000万人、多様な発展レベルの国々からなる大 きな市場であり、華人も多く、シンガポールを除く各国は、廉価な中国製品の市場である。
また、日本、韓国、インドがASEANとのFTAを交渉しており、貿易転換効果による影響を避け るためにもASEANとのFTAは不可欠である。
ASEANは、天然資源が豊かな国が多く、食料やエネルギー・鉱物資源の確保もFTAの目的で ある。電子部品は、情報技術協定(ITA)により無税となっているが、FTAによりASEANが生産 している部材や中間財を安く調達することも可能になる。投資とサービス貿易の自由化は交 渉が始まったところだが、中国は自国企業の海外投資を促進しており、ASEANは市場の発展レ ベル、地理および文化的な距離の近さなどから中国企業の格好の投資先であり、自国企業の 投資促進もあげられる。
ASEANによる中国の市場経済国として認定も目的となっている。WTO加盟に際し中国だけを 対象とした経過措置として、①2013年末までの12年間の経過的セーフガード、②2008年末ま での繊維セーフガード、③15年間はダンピング価格比較の際に中国国内価格ではなく他の市 場経済国の価格を用いる代替国措置、が認められている。これは、中国がWTO協定を十分の実 施できる市場経済国ではないという認識によるものである。中国からみれば、こうした措置 は明らかな差別であり、その是正をFTA交渉で行っている。ACFTAでは、協定の中でASEANが中 国を市場経済国と認定することを規定している。中国は、アイスランド、豪州、ニュージー ランドとのFTA交渉の開始にあたり、中国を市場経済国と認定させており、WTO加盟時の対中 差別是正は中国のFTA政策の目的の一つとなっている。
(2)2010年にFTA実現
ACFTAの物品の貿易に関する協定(ASEANと中国の包括的経済協力枠組み協定の物品の貿易 に関する協定、以下物品貿易協定)は、2004年11月に調印され、2005年1月1日から施行の 予定だった。物品貿易協定は、関税引下げ、例外品目、数量制限と非関税障壁の撤廃、セー フガード、原産地規則などを規定している。
関税引き下げは、AFTA(ASEAN自由貿易地域)のCEPT(共通効果特恵関税)スキームを踏襲 している。中国およびASEAN6(ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガ ポール、タイ)とASEAN新規加盟4ヵ国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム:CLMV)
に2分し別のスケジュールで行い、品目はノーマル・トラックとセンシティブ・トラックに 分けている。貿易額で90%(2001年時点)を占めるノーマル・トラック品目は2003年7月時 点の関税率により5グループ(CLMVは11グループ)に分け、段階的に引下げ、2010年(CLMV は2015年)に関税が撤廃される。
原産地規則は、累積原産比率40%以上であり、AFTAと同じである。累積原産規則は、他の ACFTA参加国の域内で生産された部材は、ACFTAコンテントが40%以上であれば、輸出国の原 産比率に含まれるというものである。
ノーマル・トラックは、2005年7月に関税引き下げが開始され、中国とASEAN6は2010年、
新規加盟国は2015年に関税が撤廃される。ノーマル・トラックは、AFTA同様に互恵主義によ り特恵税率が適用される。すなわち、輸入に際しACFTAの特恵税率を適用するのは、輸出国が その品目をノーマル・トラックに入れているのが条件となる。相手国が自由化していない(ノ ーマル・トラックに入れていない)品目は、自国がノーマル・トラックに入れていても自由 化しなくてもよいのである。
中国とASEAN6の関税引き下げは、2003年7月の関税率により5グループに分け、4段階の
スケジュールにより実施される(表1)。また、ノーマル・トラックの40%以上の品目の関税 率を2005年7月1日までに0−5%に引き下げ、60%以上の品目の関税率を2007年7月1日 までに0−5%に引き下げねばならない。
表1 ASEAN6と中国の関税引き下げスケジュール
(単位:%)
遅くとも2005年
7月1日まで
遅くとも2007年 1月1日まで
遅くとも2009年 1月1日まで
遅くとも2010年 1月1日まで
20%以上 20 12 5 0
15%以上 20%未満 15 8 5 0
10%以上 15%未満 10 8 5 0
5%超 10%未満 5 5 0 0
5%以下 現行レートのまま 0 0
(出所)Agreement on Trade in Goods of the Framework Agreement on Comprehensive Economic Co-operation between the Association of Southeast Asian Nations and the Peopleʼs Republic of China(ACFTA物品貿易協定)
CLMVの関税引き下げは、11グループに分け、8段階で引き下げ、2015年1月1日までに撤 廃する(表2)。ベトナムは2009年1月1日、ラオスとミャンマーは2010年1月1日、カンボ ジアは2012年1月までに、ノーマル・トラックの50%以上の品目の関税率を0−5%に引き 下げねばならない。また、カンボジア、ラオス、ミャンマーは2013年1月1日までにノーマ ル・トラックの40%の品目の関税を撤廃しなければならない。ベトナムのノーマル・トラッ ク対象品目は2004年12月31日までに発表されることになっていたが、2005年7月20日時点で 発表されていない。
表2 CLMVの対中国関税引き下げスケジュール
(単位:%)
遅 く と も 2005 年7月1日まで
遅 く と も 2006 年1月1日まで
遅 く と も 2007 年1月1日まで
遅 く と も 2008 年1月1日まで
遅 く と も 2009 年1月1日まで
遅 く と も 2011 年1月1日まで
遅 く と も 2013 年1月1日まで
遅 く と も 2015 年1月1日まで
ベトナム CLM ベトナム CLM ベトナム CLM ベトナム CLM ベトナム CLM ベトナム CLM ベトナム CLM ベトナム CLM
60%以上 60 50 40 30 25 15 10 0
45 % 以 上
60%未満 40 35 35 30 25 15 10 0
35 % 以 上
45%未満 35 30 35 30 25 30 20 15 5 0
30 % 以 上
35%未満 30 25 25 20 17 20 10 5 0
25 % 以 上
30%未満 25 20 25 20 25 15 20 15 20 10 5 0
20 % 以 上
25%未満 20 20 15 15 15 10 0-5 0
15 % 以 上
20%未満 15 15 10 15 10 15 10 15 5 0-5 0
10 % 以 上
15%未満 10 10 10 10 8 5 0-5 0
7 % 以 上
10%未満 7 7* 7 7* 7 7* 7 7* 5 7* 5 0-5 0
5 % 以 上
7%未満 5 5 5 5 5 5 0-5 0
5%未満 現行レートのまま 0
*ミャンマーは2010年末まで7.5%
(出所)ACFTA物品貿易協定
(3)国別にみた例外品目の特徴
例外品目であるセンシティブ・トラックは、HS6桁で400品目かつ2001年の輸入の10%以下
(CLMVは500品目)で2012年年初(以下同様)(CLMVは2015年)までに20%、2018年(CLMVは 2020年)までに0−5%に引き下げればよい。センシティブ・トラックは、センシティブ・
リストと高度センシティブ・リストに分けられている(表3、4)。
高度センシティブ・リストはセンシティブ・トラックの40%あるいは100品目(CLMVは150 品目)を上限とし、2015年(CLMVは2018年)までに関税率を50%以下に引き下げればよい。
例外品目は、輸入総額の10%以内であり、GATT24条に整合的なFTAである。
1)中国
2004年のASEANからの輸入額629億5,400万ドルに対しセンシティブ・トラック品目の輸入額 は51億3,500万ドルで8.2%となる(表7)。最も品目数が多いのは、紙・紙製品で113品目を センシティブ・トラックに指定している。センシティブ品目には73品目で同品目の45%、高 度センシティブ品目には40品目で同じく40%を占めている。紙・紙製品の関税率は7.5%の品 目が多く、非常に高いわけではない。次に多いのは農産品で42品目あり、関税割当品目が多 い。紙・紙製品以外の製造業品では、輸送機械(22品目)、化学製品(21品目)などである。
高関税品目は、農産品、たばこ(25−57%)、乗用車(30%)などである。主要品目では、乗 用車、バス、トラックをセンシティブ・トラックに指定しているが、オートバイはノーマル・
トラックである。家電製品ではカラーテレビを高度センシティブ品目としているが、その他 の製品はノーマル・トラックに入れている。
2)インドネシア
インドネシアは、ノーマル・トラックの2012年自由化リストに397品目、センシティブ品目 に349品目、高度センシティブ品目に50品目と中国、ASEAN6では最も多くの品目を除外して いる。センシティブ・トラックの指定の仕方は、多くの品目がHS6桁であり、中国などのHS 8桁にまでおりての指定に比べ、HS8桁でみると多くの品目が指定されている。2004年の中 国からの輸入額41億100万ドルに対し、センシティブ・トラック品目は7億560万ドルで17.2%
となる(表7)。産業別にみると、プラスチック・ゴムが96品目(センシティブ品目が91品目)
で最も多い。ゴム製品は全てタイヤである。衣類はセンシティブ品目に67品目指定されてい る。オーバーコート、女性用下着などを除いたほぼ全品目が対象となっている。関税率は15
−20%が多い。輸送機械はセンシティブ品目がオートバイ部品などを中心に32、高度センシ ティブ品目がなど23となっている。鉄鋼・鉄鋼製品と化学製品は41品目であり、ガラスを含 め素材が数多くセンシティブ・トラックに指定されている。主要製品では、自動車、オート バイが高度センシティブ品目、テレビ、ラジカセ、冷蔵庫がセンシティブ品目に指定されて いる。高関税品目は、乗用車(25−60%)、トラック(5−45%)、オートバイ(25−60%)、 オートバイ部品(60%)などですべて高度センシティブ品目である。
3)マレーシア
マレーシアの2004年の中国からの輸入額103億4,000万ドルに対し、センシティブ・トラッ ク品目の輸入額は4億7,600万ドルで4.6%となる(表7)。センシティブ・トラックの比率は シンガポールについで低いが、自由化率が高いとそのまま解釈は出来ない。センシティブ・
トラックに指定された品目の関税率が高いため、現在の輸入額が小さいためである。鉄鋼・
鉄鋼製品を78品目(センシティブ品目35、高度センシティブ品目43)センシティブ・トラッ クに指定している。鉄鋼・鉄鋼製品の関税率は50%と高い品目が多く、それらは高度センシ ティブ品目となっている。繊維が49品目、プラスチック・ゴム製品が47品目、輸送機械が41 品目、化学製品が26品目、センシティブ・トラックに指定されている。ゴム製品は管・ホー ス、ベルト、タイヤである。合成繊維、化学製品、鉄鋼・鉄鋼製品など素材の指定が多い。
自動車は、完成車を高度センシティブ品目、CKD(ノックダウン車)をセンシティブ品目に指 定している。建設機械をセンシティブ品目に指定している唯一の国でもある。主要製品では、
乗用車、カラーテレビが高度センシティブ品目、オートバイ、バスなどがセンシティブ品目 に指定されている。高関税品目はガラス(30−60%)、一部の鉄鋼製品(50%)、乗用車(50%)、 オートバイ(40%)などだが、その他の品目も全般に関税率が高い。
4)フィリピン
フィリピンの2004年の中国からの輸入額25億3,300万ドルに対し、センシティブ・トラック 品目の輸入は2億2,700万ドルで8.9%となる(表7)。フィリピンは、衣類81品目(センシテ ィブ品目77、高度センシティブ品目4)をセンシティブ・トラックに指定している。スーツ、
ジャージ、毛皮付き衣類を除くほぼ全品目が対象となっており、関税率は15%か20%である。
農産品・食品は61品目(センシティブ品目20、高度センシティブ品目41)である。プラスチ ック・ゴム製品が63品目(センシティブ品目48、高度センシティブ品目15)、輸送機械が49 品目(センシティブ品目42、高度センシティブ品目7)、鉄鋼・鉄鋼製品が31品目(全てセン シティブ品目)となっている。主要製品では、乗用車、バスがセンシティブ品目、オートバ イが高度センシティブ品目、家電製品ではエアコン、冷蔵庫、洗濯機がセンシティブ品目に 指定されているがテレビは自由化品目である。高関税品目は農産品が多い。
5)シンガポール
シンガポールは、MFN関税が賦課されているアルコール類2品目がセンシティブ・トラック に指定されているのみである。2004年の対中輸入額162億1,300万ドルに対し、センシティブ・
トラックの輸入額は240万ドルに過ぎない。
6)タイ
2004年の中国からの輸入額81億7,300万ドルに対し、センシティブ・トラック品目の輸入額 は9億3,390万ドルで11.4%を占める(表7)。タイの特徴は、59品目と中国、ASEAN6では最 も多くの農産品をセンシティブ・トラックに指定していることである。高度センシティブ品 目には、米、食用油、コーヒー・茶、砂糖、乳製品など51品目を指定している。既述のよう に、アーリーハーベスト対象品目を高度センシティブ品目に指定している。関税率は従価税 の場合、30%から60%と高い品目が多く、一部は従量税である。製造業品では、鉄鋼・鉄鋼 製品79品目(センシティブ品目78、高度センシティブ品目1)が最も多いが、関税率は5−
10%である。家電製品では、テレビ、冷蔵庫などに加えて、多くの家電製品をセンシティブ 品目(49品目)に指定しているのが特徴である。輸送機械では、トラックを自由化している。
主要製品では、乗用車、オートバイを高度センシティブ品目、カラーテレビ、冷蔵庫などに 加え、アイロンや炊飯器など小物家電製品をセンシティブ品目に指定している。高関税品目
は農産品、乗用車(80%)、オートバイ(60%)などである。
7)新規加盟国
カンボジアは農産品、繊維、鉄鋼、プラスチック・ゴム製品、衣類、機械類などほぼ全産 業からセンシティブ品目150、高度センシティブ品目150と多くの品目を指定している。対照 的にラオスはセンシティブ品目が88、高度センシティブ品目が30と少なく、農産品が合計で 91と8割を占めている。ミャンマーはセンシティブ品目のみ271品目を指定しており、農産品 が127、プラスチック・ゴム製品が61、輸送機械が32となっている(表5、6)。
表3 中国とASEAN6のセンシティブ・リスト品目(HS6桁品目数)
中国 インドネシア マレーシア フィリピン シンガポール タイ ブルネイ ASEAN6
農産品・食品 16 12 20 1 8 41
セメントなど 1 5 9 15
鉱物性燃料 1 1 1
化学製品 17 40 25 11 76
プラスチック・ゴム製品 2 91 47 48 7 1 194
皮革・同製品 4 1 5
木材・同製品 8 9 1 10
紙・紙製品 73 1 5 6
繊維 19 3 49 8 4 2 66
衣類 67 28 77 4 176
履物 7 2 17 22 9 57
石・陶磁器・ガラス 16 4 1 9 30
貴石 4 1 5
鉄鋼・鉄鋼製品 41 35 31 78 185
その他金属 1 5 5
一般機械 3 9 35 11 19 7 81
電気機械 5 12 8 9 49 28 106
輸送機械 14 32 24 42 98
光学機器・時計など 2 1 3
家具・寝具 2 13 13
玩具 9 14 23
その他雑品 1 1
計 161 349 272 267 1 242 66 1,197
(資料)ACFTA物品貿易協定により作成
表4 中国、ASEAN6の高度センシティブ・リスト品目(HS6桁品目数)
中国 インドネシア マレーシア フィリピン シンガポール タイ ブルネイ ASEAN6
農産品・食品 26 13 22 41 1 51 128
セメントなど
鉱物性燃料 1 1
化学製品 4 1 1 2
プラスチック・ゴム製品 5 15 20
皮革・同製品 6
木材・同製品 11
紙・紙製品 40
繊維 4 1 3 4
衣類 4 4
履物 1 1
石・陶磁器・ガラス 3 12 9 16 40
貴石
鉄鋼・鉄鋼製品 43 1 44
その他金属
一般機械 7 7
電気機械 1 1 1
輸送機械 8 23 17 7 22 34 103
光学機器・時計など 1 1
家具・寝具 2 2
玩具
その他雑品
計 100 50 96 77 1 100 34 358
(資料)ACFTA物品貿易協定により作成
表5 カンボジア、ラオス、ミャンマーの
センシティブ・リスト(HS6桁品目数)
カンボジア ラオス ミャンマー 合計
農産品・食品 8 75 127 210
セメントなど 3 2 5
鉱物性燃料
化学製品 24 2 4 30
プラスチック・ゴム製品 13 1 61 75
皮革・同製品 4 4
木材・同製品 3 30 33
紙・紙製品 13 13
繊維 34 6 40
衣類 19 19
履物 5 5
石・陶磁器・ガラス 23 1 24
貴石
鉄鋼・鉄鋼製品 19 1 20
その他金属 23 1 3 27
一般機械 85 2 87
電気機械 45 1 2 48
輸送機械 13 2 32 47
光学機器・時計など 2 2
家具・寝具 9 9
玩具 5 5 10
その他雑品 1 1
計 350 88 271 709
(資料)ACFTA 物品貿易協定により作成
表6 カンボジア、ラオスの
高度センシティブ・リスト(HS6桁品目数)
カンボジア ラオス 合計
農産品・食品 18 16 34
セメントなど 3 3
鉱物性燃料
化学製品 24 24
プラスチック・ゴム製品 29 29
皮革・同製品 5 5
木材・同製品 1 1
紙・紙製品 17 17
繊維 9 9
衣類 11 11
履物 4 4
石・陶磁器・ガラス 6 6
貴石
鉄鋼・鉄鋼製品 5 5
その他金属
一般機械 1 1
電気機械
輸送機械 2 14 16
光学機器・時計など
家具・寝具 12 12
玩具
その他雑品 3 3
計 150 30 180
(資料)ACFTA物品貿易協定により作成
表7 中国、ASEANのセンシティブ・トラック 輸入額の総輸入額に占める比率(2004年)
(単位:%)
中国 8.2
インドネシア 17.2
マレーシア 4.6
フィリピン 8.9
シンガポール 0.0
タイ 11.4
(資料)ACFTA 物品貿易協定および各国通関統計により作成
2.日本はマレーシアとのFTAに調印
日本は、2002年1月にシンガポールと初のFTAを締結した。その後、メキシコとのFTAを2004 年9月に調印した。メキシコとのFTAは、農業分野を実質的に含む初のFTAである。その間、
韓国とタイ、マレーシア、フィリピンと政府間の研究を行い、2003年12月に韓国と2004年1
月、2月にタイ、フィリピン、マレーシアとのFTA交渉を開始した。韓国とのFTAは交渉が中 断しているが、ASEANとのFTAは2004年11月にフィリピン、2005年5月にタイ、9月にマレー シアと実質合意し、日本のFTA政策の中で優先順位が高いASEAN各国とのFTAは前進した。この 中では、マレーシアとは最も早く2005年12月に調印した。ただし、フィリピン、タイとは調 整が遅れている。
日本のASEANとのFTAは、サービス貿易、投資、知的財産権、基準認証、経済協力などを含 む包括的な経済連携協定(EPA)であり、シンガポールとのFTAがモデルとなっている。しか し、農産品を含むセンシティブ品目の取扱いについては、メキシコとのFTAでの方式が踏襲さ れている。
メキシコとのFTAでは、鉱工業品については10年以内にほぼ全品目の関税が撤廃されるが、
自動車と鉄鋼がメキシコ側のセンシティブ品目となっている。これら品目については、メキ シコは段階的に関税を撤廃する。鉄鋼は、鉄鋼輸入の8割を占める特定業種(電子、家庭用 電気製品、資本財、自動車)向けを発効と同時に撤廃し、その他は10年以内に撤廃する。自 動車は、発効時に乗用車およびバス・トラック(大型を除く)について、前年のメキシコ国 内販売台数の5%の新規無税枠を設定し、7年目から完全に自由化する。メキシコの自動車 市場は100万台規模なので、従来の無税枠3万台から8万台に無税枠が拡大する。
日本側のセンシティブ品目は、農水産品である。特に焦点となった5品目は段階的に特恵 関税枠を拡大することになった(表8)。その他の品目は、関税撤廃(カボチャなどの野菜、
アボガドなど果実、豆類、丸太、エビなど)、3−5年で段階的に関税撤廃(冷凍野菜、グレ ープフルーツ、レモンなどの果汁、ウニなど)、7−10年で関税撤廃(調整野菜、ゴマ柚など)、 無税を設定(ハチミツなど)、関税削減(イワシなど)、再協議または除外(コメ、ムギ、砂 糖、ミカン、乳製品など)
表8 日本メキシコFTAにおける農水産品の段階的自由化措置
豚肉 低関税輸入枠は 3.8 万トンから5年目に8万トン
関税は半減(4.3%から 2.2%)
オレンジ果汁 低関税輸入枠は 4,000 トンから5年目に 6,500 トン 牛肉 関税は半減(25.5%から 12.8%)
低関税輸入枠は当初2年間の市場開拓枠(10 トン、無税)、3年目 3,000 トンから5年目 6,000 トン
鶏肉 関税水準は市場開拓期間満了までに再協議
当初1年間の市場開拓枠(10 トン、無税)2年目 2,500 トンから5年目 8,500 トン オレンジ生果 関税水準は市場開拓枠満了までに再協議
当初2年間の市場開拓枠(10 トン、無税)、3年目 2,000 トンから5年目 4,000 トン 関税水準は市場開拓期間満了までに再協議
(出所)日本政府プレス発表により作成
フィリピン、マレーシア、タイとのFTAでは、このメキシコ方式が使われている。日本側は 農産品を例外品目とし、ASEAN側は共通して自動車と鉄鋼を例外品目としている。日本の農産 品の取扱いは、除外、再協議、低関税枠による輸入枠拡大、段階的自由化などで米は除外品 目である(表9)。ASEAN側は、自動車、鉄鋼を再協議、段階的自由化としている。
フィリピンとのFTAは、看護師、福祉介護士の日本での就労を条件付で認め、人の移動に踏 み込んだ最初のFTAとなった。人の移動については、フィリピン側が強く要望していた看護師 と介護福祉士の日本での就労を条件付きで認めた。一定の要件をみたすフィリピン人の看護
師、介護福祉士候補者の入国を認め、日本語などの研修後、日本の国家資格を取得するため の準備活動の一環として就労することを認める(滞在期間の上限は看護師3年、介護福祉士 4年)在留期間中に国家資格を取得すれば看護師、介護福祉士として引き続き就労が認めら れ、3年ごとに在留期間の更新が可能である。受け入れ人数は今後相談して決定する。フィ リピンは、出入国管理、フィリピン在住の日本人の出国証明書料の負担軽減のための提案を ふくむ、人の移動の円滑化に必要な措置をとる。
マレーシアとのFTAでは、国産車プロジェクトにより育成を進めている自動車産業に日本が 協力を行う。タイとのFTAでは、人の移動に加え、投資とサービス貿易で日本企業への最恵国 待遇が認められ、米タイ修好経済関係条約により内国民待遇を受けていた米国企業との差別 待遇が是正されることになった。
表9 フィリピン、マレーシア、タイとのFTAにおける例外品目の取扱い
農林水産品 工業製品
フ ィ リ ピ ン と の FTA
除外:米、麦、乳製品
再協議:牛肉・豚肉、でんぷん、パイナップル缶詰、
輸入割当水産品目、黒マグロ・メバチ類、合板 粗糖
関税割当・低関税枠拡大:糖蜜、マスコバド糖、鶏肉 関税割当・無税枠拡大:生鮮パイナップル バナナ:小さい種類は 10 年で撤廃、その他は関税引 下げ
キハダマグロ・カツオ:5年で関税撤廃
鉄鋼:高級鋼板など輸入量の6割は即時撤廃・3割相当は 上限設定・3年後再協議
自動車・自動車部品:2010 年までに撤廃
マ レ ー シ ア と の FTA
除外あるいは再協議:米、小麦、大麦、乳製品、牛肉・
豚肉、でんぷん、輸入割当水産品目 再協議:合板
関税引下げ後再協議:マーガリン
関税割当・その後再協議:生鮮バナナ、マンゴー、マ ンゴスチン、ドリアンなど熱帯果実とオクラ、合板以 外の林産品、水産品・エビ・クラゲは即時関税撤廃
鉄鋼:10 年以内に関税撤廃 自動車
現地組立(CKD)車用部品:即時撤廃
現地組立(CKD)車用以外の部品:2008 年までに0−5%
に引下げ・2010 年までに撤廃
2,000cc 超 3,000cc 以下の乗用車、3,000cc 超の多目的車、
20 トン超のトラック、バス:2010 年までに段階的に撤廃 3,000cc 超の乗用車:2008 年までに0−5%に引下げ・2010 年までに撤廃
上記以外の全ての完成車:2015 年までに段階的に撤廃 タ イ と
の FTA
除外:米、小麦、大麦、指定乳製品
再協議:砂糖、パイナップル缶詰、タピオカ粉(未加 工)
低関税枠設定:バナナ、パイナップル、タピオカ粉(加 工、工業用)
段階的引下げ:鶏肉、魚、野菜、果実、水産加工品、
ペットフード、調味料、米由
エビ、熱帯果実、野菜・果実加工品、果実缶詰は即時 関税撤廃
鉄鋼
熱延鋼板:タイで生産していない熱延鉄板は即時撤廃・自 動車用に輸入は無税輸入枠・その他は 11 年目に関税撤廃 その他の鉄鋼製品:即時撤廃・7年目に撤廃・10 年目に撤 廃
自動車:3,000cc 未満は5年後に再協議、3,000cc 超は即 時 75%に引下げ6年維持・2013 年に撤廃
自動車部品:関税率 20%以上は即時 20%に引下げ・4年 維持後 2011 年中に撤廃、関税率 20%以上は現行税率を4 年間維持・2011 年中に撤廃、エンジン・同部品のセンシテ ィブ品目は6年間現行税率維持・2013 年に撤廃
(出所)日本政府プレス発表より作成
3.着実に進展するAFTA
ASEAN6では、2005年6月時点で自由化品目であるCEPT適用品目(IL:Inclusion List)が
全関税品目の98.4%となっている(表10)。ILに占める関税率が5%以下に引き下げられた品 目のシェアは99.0%、全品目に占めるシェアは97.5%である。自由化の対象外である一時的 除外品目(TEL: Tentative Exclusion List)はゼロとなった。マレーシアが自動車関連218 品目を残存させていたが、2005年にILに移行したためである。インドネシア、フィリピンに 残存しているセンシティブ品目は未加工農産物、高度センシティブ品目は米である。センシ ティブ品目は2010年までに0−5%以下の引下げ、高度センシティブ品目は2010年までにイ ンドネシアとマレーシアが20%に引下げ、フィリピンは未定である。シンガポールとタイは 全品目をILに移行させており、インドネシアとシンガポールは全IL品目を0−5%に引き下 げている。
新規加盟国は0−5%への関税引き下げが、ベトナム2006年1月、ラオスとミャンマー2008 年1月、カンボジアが2010年1月と別スケジュールになっている。2005年6月時点で、86.9%
をILに移行させており、関税率5%以下の品目のILに占めるシェアは81.4%である。カンボ ジアは、IL移行品目が45.6%、5%以下品目がILの51.8%、TELが3,523品目と引下げが最も 遅れている。
表10 AFTAの関税引き下げ進展状況(2005年6月)
適用品目(IL)
関税率5%以下 5%超 その他
総品目数
IL に 占 め
るシェア
一時的除外 品目(TEL)
一般的除 外 品 目
(GEL)
センシティブ /高度センシ テ ィ ブ 品 目
(SL/HSL)
ブルネイ 10,702 9,924 9,748 98.2% 161 15 0 778 0
インドネシア 11,153 11,028 11,028 100.0% 0 0 0 100 25
マレーシア 12,123 12,037 11,672 97.0% 334 31 0 86 0
フィリピン 11,059 11,013 10,901 99.0% 112 0 0 27 19
シンガポール 10,705 10,705 10,705 100.0% 0 0 0 0 0
タイ 11,030 11,030 11,020 99.9% 10 0 0 0 0
原加盟6ヵ国合計 66,772 65,737 65,074 99.0% 617 46 0 991 44
カンボジア 6,822 3,115 1,615 51.8% 1,500 0 3,523 134 50
ラオス 10,690 10,023 8,240 82.2% 1,783 0 0 464 203
ミャンマー 10,689 10,385 9,146 88.1% 1,239 0 211 59 34
ベトナム 10,689 10,277 8,496 82.7% 1,781 0 14 371 27
新規加盟4ヵ国合計 38,890 33,800 27,497 81.4% 6,303 0 3,748 1,028 314 ASEAN10 合計 105,662 99,537 92,571 93.0% 6,920 46 3,748 2,019 358
(注)適用品目=関税引き下げ対象品目。一時的除外品目=引き下げの準備が整っていない品目。
一般的除外品目=関税率の削減対象としない品目(防衛、学術的価値のあるもの等)。
センシティブ品目=適用品目への移行を弾力的に扱う(未加工農産物)。
高度センシティブ品目=コメ関連品目。
その他は、従量税を有する品目
(出所)ジェトロアジア大洋州課(原データは ASEAN 事務局)
ASEANは、東アジアの地域統合では最も先に進んでいる。AFTAは様々な問題が指摘されてい たが、CEPTを使った域内貿易は着実に増加しており、特に自動車と家電分野の多国籍企業が ASEAN域内の生産拠点の再編と拠点間の貿易に利用している。例えば、個別企業のASEAN域内 の貿易に0−5%の特恵関税を適用するスキームであるAICO(ASEAN産業協力スキーム)は、
9割弱が自動車産業により利用されている。認可件数114件を企業別にみると、2003年2月時 点でトヨタが27件、ホンダが26件となっており、日本の自動車会社が活用している。フォー
ドは2002年3月にタイとフィリピン間でAICOを使って初めて完成車の相互輸出を開始し、ホ ンダも2002年8月にタイとインドネシア間でAICOを使った完成車の相互輸出を開始している。
その結果、タイがピックアップトラックの生産基地となり、自動車部品産業がタイに集積す るなどの動きが起きている。
関税撤廃は、ASEAN6が2010年、新規加盟4ヵ国が2015年であるが、一部優先品目について 関税撤廃を2007年に前倒しすることを2004年に決定した。優先分野(木製品、自動車、ゴム 製品、繊維、農産物加工、漁業、エレクトロニクス、IT、ヘルスケア)の関税は、2007年1 月(新規加盟4ヵ国は2012年1月)までに撤廃される。優先分野の品目数は4,275であり、ASEAN 事務局によると、品目数で40%、2003年の域内貿易額の50%超を占める。ただし、品目数で 15%までをネガティブ・リストとして適用対象外とすることが可能であり、これら品目の関 税撤廃は2010年である。
ASEANは、2003年にASEAN安全保障共同体、ASEAN経済共同体、ASEAN社会・文化共同体とい う3つの柱からなるASEAN共同体を目指すことに合意した。このうち、ASEAN経済共同体(AEC)
は、2020年に財、サービス、資本の自由な流れを実現し、安定、繁栄、競争的なASEAN地域を 実現することを目指している。
4.東アジアFTAの課題
(1)質への懸念が浮上
東アジアFTAは、首脳間で目標として合意され、現在、研究の段階である。日本の立場から は、質の高い包括的なFTAをめざすべきであろう。
東アジアFTAの対象分野は、物品の貿易、サービス貿易、投資ルール、政府調達、知的財産 権、人の移動、税関手続き、基準認証、衛生植物検疫、貿易救済措置、紛争解決に協力を加 えた広範なものにする。協力は、中小企業、貿易投資、ビジネス環境改善、人材育成、科学 技術、メコン開発、環境など多様なものとし、特にASEAN新規加盟国への協力が重要である。
物品の貿易は、GATT24条整合性が最低の条件である。各国で残る非関税障壁の撤廃や通関・
貿易手続きの円滑化や透明化がFTAの実効性を高める上で必要である。原産地規則は累積原産 を認める。サービス貿易は、GATS(サービス貿易協定)5条の「相当な分野の自由化」とい うFTAの要件であるに整合的な協定とすべきである。投資ルールは、最恵国待遇、内国民待遇
(設立前を含む)、国産化義務などのパフォーマンス要求の禁止、投資保護、透明性確保など を内容とする。
東アジアの地域協力は、ASEAN+3(日中韓)の枠組みで進められており、この13ヵ国が中 心となるが、香港・マカオと台湾も経済的な重要性から含めるべきである。香港とマカオは、
中国と経済緊密化協定(CEPA)を結んでおり、東アジアFTAに加わる上で障害はないが、台湾 の参加は中国が反対するであろう。WTOとAPECには中国と台湾が参加しており、独立関税地域 としての参加などを検討すべきであろう。東アジアFTAは、開かれたFTAとして拡大すべきで ある。現在、東アジア各国は、インド、豪州、ニュージーランドとFTAを締結あるいは交渉し ており、これら3ヵ国を加え、東アジアFTAをアジアFTAあるいはアジア太平洋FTAに拡大する べきである。
実現に向け動き出している3つのASEAN+1(日中韓)をベースに他の国が参加するのが現
実的である。ASEAN+1は、この1−2年で交渉がまとまる見通しであり、その実現時期は2010 年から2012年(新規加盟国は2015年から2017年)である。ASEANは、2020年に経済共同体を実 現することを計画しており、東アジアFTAは、2015年から2020年の間の実現を目標に2007年頃 から交渉を始めるのが現実的である。
東アジア各国間の極めて大きな経済格差、政治体制の相違、歴史問題など障害は多く、長 い時間がかかるが、様々な具体的な東アジア域内協力を積み重ね、信頼を醸成しつつ、統合 の深化の具体化を研究すべきである。
現在、作られつつある3つのASEANとのFTA(日中韓)が東アジアFTAの基盤となると考える のが現実的であるが、質の高さという観点では懸念される動きが出てきた。ACFTAは、例外品 目は貿易額の10%以内のGATT24条に整合的なFTAである。しかし、前節でみたようにセンシテ ィブ・トラックには、中国、ASEANとも自動車、オートバイ、家電製品、化学品、鉄鋼、繊維 など重要工業製品を指定している(表11)。ACFTAの特徴は、多くの農産品を例外としたこと である。米は全加盟国が例外としており、屈指の農産品輸出国であるタイは、センシティブ 品目59、高度センシティブ品目51と中国とASEAN6では、最も多くの農産品を例外としている。
次に互恵主義により、自由化対象品目(ノーマル・トラック)が実行上減少する可能性が ある。たとえば、タイはカラーテレビをはじめ多くの家電製品をセンシティブ・トラックに 指定しており、中国はカラーテレビ以外の家電製品をノーマル・トラックに入れているが、
タイに対しては自由化する必要はないのである。
表11 ACFTAにおける主な例外品目の例
中国 乗用車、バス、トラック、カラーテレビ、紙製品など
インドネシア 乗用車、トラック、オートバイ、ラジオ、ラジカセ、タイヤ、冷蔵庫、鉄鋼、衣類など
マレーシア 乗用車、バス、オートバイ、カラーテレビ、建設機械、鉄鋼など
フィリピン 乗用車、バス、オートバイ、エアコン、冷蔵庫、洗濯機、衣類など
シンガポール ビール、
タイ 乗用車、オートバイ、カラーテレビ、冷蔵庫、アイロン、炊飯器など小物家電製品、鉄鋼など
(出所)ACFTA 物品の貿易協定により作成
質の高いFTAを作るという点では、イニシアチブをとるべき国は日本である。しかし、日本 がASEANと実質合意したFTAも、質の点で懸念が残る内容となっている。日本は米、乳製品な どを除外、野菜や熱帯果実、砂糖、木製品などを再協議、低関税枠設定、段階的輸入拡大な どとし、関税撤廃の例外としている。ASEAN側は、鉄鋼、自動車を段階的自由化としており、
特にタイは自動車(3,000cc以下)を再協議としており、フィリピン、マレーシアに比べ、後 退した内容である。
(2)格差拡大の可能性
東アジア各国は、経済規模と発展段階の格差が極めて大きい。特に、ASEANの新規加盟国は、
経済規模が小さく、一人当り所得は300ドル前後であり、農業のシェアが高く、製造業の輸出 は衣料品が中心であり、初期の段階である。これらの国は労働コストが低いため、FTAにより 労働集約型製品の輸出の拡大が期待できるが、一方で中国や他のASEANからの輸入品により幼 稚産業の段階の製造業が打撃を受ける懸念がある。質の高いFTAを追求しつつ、これらの国々 およびに対しては関税撤廃の時期に差を設けるなどの柔軟な措置とインフラ整備、人材育成