Toward the Realization of Large‑Scale and Highly‑Efficient Information‑Centric
Networking
著者 中村 遼
URL http://hdl.handle.net/10236/00029118
本論文は、次世代のインターネットアーキテクチャとして注目を浴びている情報指向ネットワークの大規 模化・高効率化を実現するための研究に取り組んでいる。論文の前半部分では、情報指向ネットワークを実 現する代表的なネットワークアーキテクチャである CCN(Content-Centric Networking)を対象とし、情 報指向ネットワークの、ネットワーク規模に対するスケーラビリティを実機実験および数学的解析により明 らかにしている。まず、実機を用いて、複数の CCN ルータおよび複数のリポジトリ(コンテンツサーバ)
から構成される、仮想 CCN ネットワークを構築している。規模の異なる仮想 CCN ネットワークに対して コンテンツ取得要求を繰り返し発行した時の、CCN の通信性能を計測している。また、数学的解析により、
従来の性能解析で対象とされていた規則的なネットワークトポロジ(例 : 二分木)ではなく、任意のネット ワークトポロジを対象とした CCN の性能解析を行っている。さらに、大規模な情報指向ネットワークの特 性分析を行うための近似解析手法を構築し、ネットワーク規模が非常に大きい時の、情報指向ネットワーク の漸近的な特性分析を可能としている。論文の後半部では、情報指向ネットワークの高効率化を目指し、情 報指向ネットワークにおけるコンテンツルーティングおよびトランスポートプロトコルの高度化に取り組ん でいる。情報指向ネットワークにおけるコンテンツルーティング手法として、最短経路ルーティングやキャッ シュを考慮したルーティングなどが提案されているが、最短経路ルーティングの有用性がこれまで十分に明 らかにされていなかった。そこで本論文では、さまざまな条件下において、最短経路ルーティングの最適性 をシミュレーション実験により明らかにしている。さらに本論文では、情報指向ネットワークのためのトラ ンスポートプロトコル高性能化のための、ネットワーク中でのパケット損失発生箇所を検出する手法を考案 し、その有効性を示している。
論 文 内 容 の 要 旨 本論文は全7章から構成されており、各章の内容は以下の通りである。
まず、第1章では、大規模・高効率な情報指向ネットワークの実現における研究課題と、本論文における 取り組みを述べている。
氏 名
学 位 の 専 攻 分 野 の 名 称 学 位 記 番 号 学位授与の要件 学位授与年月日 学 位 論 文 題 目
論 文 審 査 委 員 (主査)
(副査)
中 村 遼
Toward the Realization of Large-Scale and Highly-Efficient Information -Centric Networking
(大規模・高効率な情報指向ネットワークの実現に向けて)
博 士(工 学)
甲理第192号(文部科学省への報告番号甲第716号)
学位規則第4条第1項該当 2020年3月16日
大 﨑 博 之 巳 波 弘 佳
教 授 教 授
准教授 作 元 雄 輔
論文の前半部(第2章から第4章)では、ネットワークの大規模化に対する情報指向ネットワークのスケー ラビリティを、実機実験および数学的解析により明らかにしている。
第2章では、CCN(Content-Centric Networking)のオープンソースソフトウェア実装である CCNx を 利用し、CCNx のネットワーク規模に対するスケーラビリティを明らかにしている。単一の物理計算機上に 仮想 CCN ネットワークを構築し、コンテンツ取得要求を繰り返し発行した時の CCNx の通信性能を計測 している。ネットワークの規模を変化させながら、スループット・パケット棄却率・平均コンテンツ配送遅 延を計測することで、CCNx のスケーラビリティを分析している。さらに、CCNx の性能ボトルネックとなっ ている処理を特定し、その処理をハードウェアオフローディングした場合の有効性を調査している。具体的 には、CCN ルータが応答パケットを受信した時に発生する署名計算処理を擬似オフローディングすること で、スループットが大幅に改善できることなどを示している。
第3章では、任意のネットワークトポロジにおける CCN の通信性能を数学的に解析する手法を述べてい る。具体的には、複数のエンティティ、複数のルータ、複数のリポジトリから構成される CCN ネットワー クにおいて、多段キャッシュネットワークにおけるキャッシュヒット率を求める近似アルゴリズムを利用す ることで、コンテンツ配送遅延・可用性・スループットをそれぞれ導出している。また数値例を通して、ネッ トワークトポロジが CCN の通信性能に与える影響を議論するとともに、CCN におけるコンテンツキャッ シングによる恩恵を詳解している。さらに、パケットレベルシミュレータを利用したシミュレーション実験 の結果と解析結果を比較することにより、本解析の妥当性を示している。
第4章では、大規模情報指向ネットワークの性能解析に取り組み、情報指向ネットワークのスケーリング 特性を詳細に分析している。具体的には、複数のエンティティ、複数のルータ、単一のリポジトリから構成 されるコンテンツ配信木におけるネットワーク全体の平均コンテンツ配送遅延を導出している。ネットワー ク規模が十分に大きい場合の、情報指向ネットワークの漸近的な挙動を分析しており、ルータにおける各コ ンテンツに対するキャッシュヒット率が一定値に収束することを数理的に示している。数値例では、さま ざまなコンテンツ配信木を対象とし、情報指向ネットワークのスケーリング特性を分析している。その結果、
ネットワークが大規模化したとしても、ネットワーク中のルータがある程度のキャッシュを有していれば、
平均コンテンツ配送遅延の増加が抑えられることなどを示している。
論文の後半部(第5章から第6章)では、情報指向ネットワークの高効率化のための研究に取り組んでいる。
第5章では、情報指向ネットワークにおける最短経路ルーティングの最適性を明らかにする研究に取り組 んでいる。さまざまな条件下において、最短経路ルーティングを用いた場合の平均コンテンツ配送遅延と、
ルータにおけるキャッシングを考慮した最適迂回ルーティングの平均コンテンツ配送遅延を比較することで、
どのような条件下で最短経路ルーティングが適しているかを定量的に明らかにしている。さらに、ネットワー ク中のルータにおけるキャッシュヒット率の誤差に対して、最短経路ルーティングと最適迂回ルーティング がどの程度ロバストであるかを明らかにしている。
第6章では、CCN のためのパケット損失発生箇所推定手法を提案し、その有効性を述べている。従来手 法では、エンティティにおいて、要求パケットおよび応答パケットの損失の有無のみを推定していた。一方、
本論文の提案手法では、要求パケットおよび応答パケットの損失の有無だけではなく、パケット損失が発生
したリンクの推定も可能である。提案手法の主要なアイデアは、エンティティおよびリポジトリだけでなく、
経路中のルータが協調して動作することにより、エンティティにおけるパケット損失が発生したリンクを推 定するというものである。ネットワーク中のリンクにおいてランダムなパケット損失と経路中のルータにお けるキャッシュヒットが発生する状況下において、提案手法により、パケット損失が発生したリンクを正確 に推定できることを示している。
最後に、第7章では、各章で得られた研究成果を踏まえた結論と、今後の展望を述べている。
論 文 審 査 結 果 の 要 旨
情報指向ネットワークを、将来のインターネットアーキテクチャとして実現するためには、情報指向ネッ トワークのネットワーク規模に対するスケーラビリティを明らかにする必要がある。まず、本論文では、情 報指向ネットワークのネットワーク規模に対するスケーラビリティを明らかにしている。従来研究では、特 定の小規模なネットワークを対象とした性能評価が行われていたが、本論文では、仮想 CCN ネットワーク を構築することにより、さまざまなネットワーク規模に対する CCNx の性能評価を行っている。その結果、
CCNx の通信性能がどの程度のネットワーク規模で頭打ちになるかを明らかにしている。さらに、CCNx に おける負荷となっている処理のハードウェアオフローディング効果を定量的に示している。
次に、情報指向ネットワークの性能解析では、CCN のモデル化手法を提案するとともに、任意の CCN ネッ トワークトポロジにおける平均コンテンツ配送遅延・スループット・可用性を導出している。これにより、小・
中規模の情報指向ネットワークの特性分析や、コンテンツルーティング・コンテンツキャッシングに対する 性能評価の簡単化・高速化を可能としている。ただし、ネットワークの規模およびコンテンツ数に応じて解 析に要する計算量が増大するため、この解析手法は大規模な情報指向ネットワークの特性分析には適してい ない。そこで本論文では、上述の解析手法を基礎とした、大規模な情報指向ネットワークのための解析手法 を構築している。構築した解析手法により、キャッシュネットワークとしての情報指向ネットワークのスケー リング特性を数理的に明らかにしている。
情報指向ネットワークは、従来のホスト指向ネットワークとは本質的に異なるネットワークアーキテク チャを採用しているため、情報指向ネットワークにおけるルーティングをどのように設計すべきかは未解決 の問題であった。ネットワーク中のキャッシュを利用した、情報指向ネットワークのためルーティングが複 数提案されているが、それらの有効性は主にリンクレベルの性能指標の観点で分析されていた。本論文では、
アプリケーションレベルの性能指標である平均コンテンツ配送遅延の観点で、最短経路ルーティングと迂 回ルーティングのどちらがどのような条件下で適しているかを定量的に分析している。本論文の成果により、
ネットワーク環境(例 : ネットワークトポロジや各ルータに対するキャッシュ容量の割当)が与えられた場 合に、最短経路ルーティングを用いるべきかどうかの判断が可能となっている。
また、ホスト指向ネットワークのためのトランスポート層プロトコルをそのまま適用することは困難であ るため、情報指向ネットワークの特性に対応したトランスポート層プロトコルを設計する必要がある。トラ ンスポート層プロトコルが効率的な制御を行うためには、ネットワーク中の輻輳検出は不可欠である。本論 文は、エンティティにおいてパケット損失が発生したリンクを推定する手法を提案し、提案手法によってパ ケット損失が発生しているリンクを正確に推定できることを示している。提案手法を応用することで、エン
ティティにおけるトランスポート層プロトコルの設計だけでなく、ネットワーク中の輻輳を考慮したルー タにおける効率的なルーティングの実現が期待できる。
本論文の一部から、申請者を筆頭著者として、電子情報通信学会の英文論文誌に3本の論文が掲載され ており、情報処理学会の英文論文誌に1本の論文が条件付き採録となっている。また、IEEE コンピュー タソサエティのシグネチャカンファレンスである COMPSAC(Computers, Software, and Applications Conference)や、IEEE CQR(Communications Quality and Reliability)ワークショップなどの国際会議の 予稿集に、申請者を筆頭著者として 4 本の論文が掲載されている。以上のことから、審査委員会は申請者が、
十分な発信能力と英語を利用した文書執筆能力を有していると判断した。
審査委員会は本論文の内容を中心に審査会を開き、また公開の論文発表会を行い、申請者が論文内容お よび関連する分野において十分な理解と学識を有していること、さらに、将来の研究遂行について十分な 能力を有していることを確認した。よって審査委員会は、本論文提出者である中村遼氏が博士(工学)の 学位を授与されるに足る十分な資格を有するものと判定する。