早稲田大学審査学位論文 博士(スポーツ科学)
概要書
競技テニス選手の下肢外傷・障害の実態と その予防策
Substance of lower extremity injuries in tennis players and strategy of prevention
2011年1月
早稲田大学大学院 スポーツ科学研究科
岩本 紗由美 Iwamoto, Sayumi
研究指導教員 福林 徹 教授
【緒言】
本研究はスポーツ外傷・障害予防の4段階の概念に則った研究である.競技 テニス選手の外傷・障害の実態を明らかにし,その予防策を提案する一連の研 究である.
【研究1:テニス選手の外傷・障害発生および練習状況】
大学生,高校生の競技テニス選手を対象に,テニス外傷・障害の現状と練習 状況を明らかにし,その関係を検討した.
<方法>
大学生 160 名,高校生 243 名を対象とし,基本属性,過去1年間の外傷・障害 発生の有無と部位,練習状況について自記式質問調査を行った.
<結果>
33.3%の選手で外傷があり,足関節(44.7%)が好発部位であった.障害は 37.7%の選手に発生しており, 腰部(24.4%),手関節(18.5%), 膝関節 (14.8%)であった.外傷・障害とも競技としてのテニスレベル初中級者に少な かった.
<考察>
大学生,高校生テニス選手において,下肢の外傷・障害が多いという結果は 先行研究を支持する結果であり,その予防策は必要あると考える.
【研究2:テニス選手のバックハンドストローク時の並進運動, 回転運動と
下肢挙動について−足関節内反捻挫発生場面の検討‒】
足関節内反捻挫の発生頻度が高いといわれているバックハンドストローク について並進運動と回転運動,下肢挙動の検討をおこなった.
<方法>
テニス選手 20 名を対象にし,最大スピードで行うバックハンドストローク の模擬動作を試技とした.2方向の VTR 画像から,上肢8点(両手先,両手関節 中心,両肘関節中心,両肩峰)下肢 14 点(両大転子,両膝関節中心,両足関節中 心と両つま先,両踵,両母趾側,両小趾側(全て靴底とした)),頭部および体幹の 3点(頭頂,耳珠点中心,胸骨上縁)とラケット先端の計 26 点について DKH 社製 FrameDiasⅣを用い,DLT 法により三次元座標に算出した.
<結果>
踏み込み脚接地後期〔インパクト(ラケットがネットと平行になる)後〕
に骨盤回転速度は増しており, 踏み込み脚の下肢挙動は,コートに対し相対 的に足関節底屈位,前足部回外位であった.
踏み込み脚接地の足向き(靴上からのつま先)がネットと平行な群(以下 平行群)は,踏み込み脚接地後期に骨盤回転速度, 骨盤回転角加速度は最大に 達していた.下肢挙動は踏む込み脚接地期 25-80%時に平行群の前足部が有意 な回外位であった.
<考察>
バックハンドストロークにおける足関節内反捻挫は踏み込み脚接地後期に 起きる可能性が高いと考える.踏み込み脚接地時の足部向きはつま先をネッ ト方向に向けたほうが,足関節内反捻挫発生リスクを減じると考える.
【研究3:テニス選手のための下肢外傷・障害予防プログラムの提案】
テニス選手に起きている下肢外傷・障害に対して根拠あるプログラムの提 案を目的とした.
<方法>
外傷・障害別に実施されている予防研究(実施内容,エクササイズの科学的 根拠,介入結果)について文献調査をおこなった.
<提言>
文献調査と研究2の結果を反映させて,①下肢外傷・障害発生予防に有効と 思われる要素②テニスに必要な体力要素③テニスでのフットワーク要素④上記①
~③を盛り込んだ構成⑤漸増的負荷設定の5点を考慮し,テニス選手のための 下肢外傷・障害予防プログラムを提案し,DVD を作成して普及を行った.
【研究4:テニス選手のための下肢外傷・障害予防プログラムの介入研究】
提案した下肢外傷・障害予防プログラムを6ヶ月間実施し,その効果について検 証をすることを目的とした.
<方法>
高校生テニス選手 21 名を対象にし,6 ヶ月間のコントロール期後,6ヶ月間
(週5回)下肢外傷・障害予防プログラムを実施した.介入前後の2回に外 傷・障害調査を,コントロール期前と介入前後の3回に体力テストを行った.
<結果>
下肢の外傷,障害とも発生件数の減少傾向はみられたが,今回の調査では外 傷・障害発生件数が少なく,予防的側面のからプログラムの有効性は不明とす る.体力的側面からは敏捷性(5方向走)について向上がみられた.
<考察>
体力面の向上について期待できるプログラムと考えられるが,外傷・障害発 生率の低下を導けるかについては,研究1と同等規模の調査を再度行うなど,
さらなる研究が必要と考える.
【総括】
本研究より,競技テニス選手に下肢外傷,特に足関節内反捻挫が多くおきて いることが明らかとなった.バックハンドストロークでの足関節内反捻挫は, 踏み込み脚接地後期におきる可能性が高いこと,接地向きはネット方向に向 けたほうが,足関節内反捻挫発生リスクを減じることが示唆された.
足関節捻挫のみならず,テニスで起きている下肢外傷・障害に対して運動強 度を段階的に分けた包括的な予防プログラムを提案し,その結果を検証した.