はじめに
本稿では、2015年度から2016年度にかけて利用者支援課が中央図書館・
戸山図書館・W Space で実施した、館内利用量調査の結果を報告すると ともに、図書館評価指標としての館内利用量の有効性について論じる。館 内利用量測定手法の開発や、調査設計および調査結果の分析は筆者が行っ たため、利用者支援課を代表し本稿にて報告する。
Ⅰ . 調査の背景
A.中央図書館における利用者調査の試み
Waseda Vision 150 に掲げられる「対話型、問題発見・解決型教育への 移行」を支える施設として、2020年を目指して中央図書館にラーニング・
コモンズの機能を強化するための改修が予定されている。ラーニング・コ モンズと呼ばれる施設の整備が既に学内で進む中、図書館に新たにラーニ ング・コモンズを整備する意義を明確にするため、図書館ならではのラー ニング・コモンズの機能を見出す必要が生じた。
このような背景から、利用者支援課では、入館者数や貸出冊数といった 従来の統計指標では測ることができない、利用者の館内利用実態および利 用者ニーズを把握するために、次の3つの利用者調査を進めている。
大学図書館評価指標としての館内利用量の有効性
─中央図書館・戸山図書館・W Spaceの館内利用量比較─
稲 葉 直 也
『早稲田大学図書館紀要』第65号(2018年3月)
1)中央図書館内の利用量を測定するための館内利用量調査(2015年~
2017年)⑴
2)他の学習施設ではなくあえて中央図書館を利用する決め手となる要素 や環境を明らかにするための利用者アンケート調査(2016年)⑵
3)具体的な空間や什器への選好を明らかにするための利用者に対する半 構造化インタビュー調査(2017年)⑶
本稿は、このうち1つ目の中央図書館内の利用量を測定するための館内 利用量調査について詳細を報告するものである。
B.館内利用量を測定する試み
中央図書館内の利用実態を量的に評価することを目的として、公共図書 館で実績のある資料の館内閲覧量を測る手法⑷を応用し、2015年度に中央 図書館における館内利用量を時間単位で測定する調査(以下、2015年調査)
を実施した。筆者は2015年調査の成果を公表し、館内利用量の調査手法お よび図書館評価指標としての有効性について、既に研究論文として発表し ている⑸。
2015年調査では、観察調査を通じた推量によって大学図書館の館内利用 量を時間単位で測定ができること、館内利用量から単純な統計指標には表 れない図書館サービスの特徴や性質を分析することができる可能性を示し た。館内利用量は、今後ラーニング・コモンズとしての機能を中央図書館 内で強化した際の効果の検証や、図書館がラーニング・コモンズを備える 意義の明確化と他施設との差異化を図るための手掛かりとなりうる。しか し、2015年調査は単年かつ中央図書館に限定した調査であったため、複数 年実施した際に利用傾向を経年で比較できるほど精度の高いデータを得る ことができるのか、またサービス方針が異なると想定される図書館を比較 した際にその利用傾向の差が館内利用量としてどう現れるのか、といった
検討を行うには至らず課題点として残っていた。
Ⅱ . 調査目的と調査方法
A.調査目的
2016年度の調査(以下、本調査)では、2015年調査と同じ条件の館内利 用量調査を中央図書館、および中央図書館と類似の複数の学習施設で行い、
利用動向を比較する。これによって次の3点を明らかにし、館内利用量調 査そのものの有効性と、大学図書館の館内利用実態を評価する指標として の館内利用量の有効性を改めて検証する。
1)同一図書館の複数年調査によって、経年変化を見るに足る精度の高い 調査結果が得られるか。
2)同じ大学内の中央館と分館で、館内利用量という指標を用いることに より、館ごとの特徴や性質の違いがどのように見出だせるか。
3)図書館と、図書館外の他の学習施設でラーニング・コモンズとしての 利用動向の差が見出せるか。
B.調査方法 1 調査対象館
2015年調査に引き続き中央図書館は調査対象とした。中央図書館は、早 稲田キャンパスに所在する各学部・研究科の学生・教職員を主たるサービ ス対象とし、施設や蔵書構成において、学部学生の日々の学習のための学 習図書館と、大学院生や教職員の調査や研究のための研究図書館という、
両方の性質を併せ持つ総合図書館である。電子機器類の使用を禁止し静謐 な環境を保つブルーゾーン、電子機器類の使用は認めたグリーンゾーン、
会話や議論も可能なオレンジゾーンが設けられ、多様な利用者層と多彩な 利用形態が見られる点が特徴である。第1図で中央図書館フロア図と調査
第1図 中央図書館フロア図と調査エリア
第2図 戸山図書館フロア図と調査エリア
第3図 W Space フロア図と調査エリア
エリアを示した。
中央図書館の比較対象とする分館としては、戸山図書館を選ぶことにし た。戸山図書館は戸山キャンパスに所在する文化構想学部・文学部、およ び文学研究科の学生・教職員を主たる対象とした図書館である。過去に学 生読書室の機能を統合した経緯もあり、より学習図書館としての傾向が見 られる図書館である。持ち込み PC が利用可能な場所は1階閲覧席、2階 閲覧席、3階グループ閲覧室1・2、会話や議論が可能な場所は3階グルー プ閲覧室1・2に限られている。ほぼ単一の学部・研究科を主なサービス 対象とする点なども含め、中央図書館とは対照的な性質の違いを持ち、異 なる利用傾向が見られることが期待できるため比較対象とした。第2図で 戸山図書館フロア図と調査エリアを示した。
類似の学習施設としては、3号館および7号館の W Space を調査対象 とした。W Space はラーニング・コモンズの機能を重視した学習環境の 拡充のため、2014年度から大学により整備が進められている施設である。
図書館と、他の学習施設でラーニング・コモンズとしての利用動向の差が 見出させるか比較するための対象として、最も妥当と考えられた。
図書館と異なり、もとからグループ学習やグループワークのために活用 されることを前提とした施設となっていること、一部で食事が可能なフロ アも設けられていること、図書館のように学術情報がコンテンツとして施 設には設置されていないことが特徴である。W Space 内も、特に7号館 は8つにフロアが分かれており、それぞれに予約が必要な個室が集まった フロア、予約不要でオープン利用できるフロアなど細かく設定されている。
第3図で W Space フロア図と調査エリアを示した。なお、W Space 内の 利用量を計測するに当たっても、図書館に合わせ便宜的に「館内」利用量 の言葉を用いる。
2 調査日
調査日は、2015年調査に倣い、授業期間中の通常開館日(通常期)、授業 期間の試験期間中(繁忙期)、授業休止期間(長期休業)中の開館日(閑散期)
とパターンを3つに分け、標準的な利用傾向が観察できる平日・晴天の日 を選ぶことにした。本調査は、調査の条件が合った2016年12月15・16日(通 常期)、2017年1月25・26日(繁忙期)、2017年3月7日(閑散期)を調査日 とした。調査日は、館内掲示等で観察調査の実施と調査目的を利用者に通 知し、調査データの利用や公表についても理解を求めるよう配慮した。な お、戸山図書館では大規模な天井改修工事が行われた影響で、2017年2月 5日から3月31日まで3階と4階が利用できず、閑散期は限られたフロア のみの調査となった。そのため、戸山図書館の閑散期の結果については、
本調査では参考値として扱う。
3 利用者観察法の詳細
調査は、2015年調査と同様に巡回調査による利用者観察法により行った。
調査員が館内を一巡する順路にもとづいて館内を巡回し、目にしたすべて の利用者をカウントし、かつ観察により利用者の行動を記録する方式を 採った。調査員は調査中と記された腕章を身に着けて巡回し、遠目による 目視の判断で観察を行った。予備調査を経て、調査範囲とかかる労力のバ ランスを勘案し、中央図書館には3名、戸山図書館および W Space には それぞれ1名の調査員を配置して、巡回することにした。
記録する利用者の行動は、まず、図書館資料を利用する「閲覧」、館内 設置または自身が所有する情報機器を利用する「機器利用」、利用者同士 で議論や対話をする「発話」とした。「機器利用」と「発話」は旧来の図 書館では発生し得ない行動だが、近年の大学図書館や、特にラーニング・
コモンズには典型的な行動と考えられ、その活用を測るために設定した。
次に図書館資料以外の資料やプリント等を利用する「持込資料」、ノート 等への「書き物」を、勉強をしている行動として記録した。これに加えて
「居眠り」と、W Space に関しては「食事」も記録する行動とした。1名 の利用者が複数の行動をとった場合は重複してすべて記録した。資料を利 用している場合、図書館資料の「閲覧」なのか「持込資料」の利用なのか の区別は、目視により可能な範囲で判断した。調査員間でこれらの行動の
カウント方法や判断基準は明文化して共有し、調査結果にばらつきが生じ ないよう一貫性を保つことが重要となる。何度か事前の予備調査を行うこ とで調査員間の平準化を試み、調査結果の精度を高めることを意識した。
各行動の詳細な定義や記録の際の特筆すべき注意点についても記載する。
「閲覧」は、「書架から取り出されたと思われる図書館資料を利用している、
または利用する意思がある状態」と定義し、閲覧席で資料を積んだ状態に しているなど、その時点では厳密には「閲覧」とは言えない状態でも、明 らかに資料を閲覧利用する意思がある状態の場合は「閲覧」とみなすこと にした。「機器利用」について、館内設置 PC は電子ジャーナル閲覧やデー タベース検索のために利用されることもあるが、持込 PC やタブレット等 の利用も含め、すべて「機器利用」として記録することとした。同じ館内 設置 PC であっても、OPAC 専用端末や電子ジャーナル閲覧端末など、明 らかに図書館資料を利用するための端末利用は「閲覧」として記録した。
「発話」については、議論や対話を促すために設置しているホワイトボー ドを利用している場合も「発話」とみなして記録した。巡回による利用者 の観察が難しい研究書庫閲覧個室、古書資料庫、貴重書閲覧室については、
巡回時点で個室の鍵の貸出数や入庫・入室者数を確認し、これらの施設の 性質に鑑みて全員「閲覧」をしているとみなすことにした。他の行動につ いての観察はできないが、この点はやむを得ないものとした。その他の注 意点については2015年調査⑸を参照されたい。
また、本調査の独自の記録方法として、グループ利用を前提としたエリ アの調査の際には、観察した利用者がグループで利用をしていた場合はそ のことが分かるように記録し、グループ学習エリアを単独で利用している 学生も記録上判別できるようにした。
4 巡回間隔と館内利用量の推定方法
巡回間隔は、先行研究⑷および2015年調査から、おおよそ信頼性の高い 推定値が得られることが分かっている3時間おきとし、各施設の開館時間 内、10:30、13:30、16:30、19:30の4回とした。
館内利用量は、それぞれの調査回の調査結果を、該当する時間帯の時間 数を乗じて算出する。また、時間数の単位には「分」を用いる。つまり、
10:30調査では9:00‑12:00の180分、13:30調査では12:00‑15:00の 180分、16:30調 査 で は15:00‑18:00の180分、19:30調 査 で は18:00‑
閉館時間までの時間数分、それぞれの時間帯の利用量を推定するための データを収集する形となる⑹。特に閑散期は、閉館時間がそれぞれの施設 で異なり、中央図書館は20:00、戸山図書館は19:20、W Space は19:
00となるため、最終枠の調査は時間数に調整を加え、中央図書館は18:00‑
20:00の120分、戸山図書館は15:00‑19:20の260分、W Space は15:00‑
19:00の240分とした。
各調査回で観察できた利用者数から当該時間の「館内利用者数」、その 中で各行動を行っていた人数、すなわち「閲覧者数」、「機器利用者数」、「発 話者数」等のデータが得られる。これらの人数に当該時間帯の時間数を乗 ずることで、各行動の利用量が推定できる。閉館時間により推定する時間 数が変動する最終枠以外の時間帯であれば、「各行動の人数 *180分」で当 該行動の利用量が算出できる。それぞれ、「閲覧者数 *180分 = 閲覧量」、「機 器利用者数 *180分 = 機器利用量」、「発話者数 *180分 = 発話量」となり、
単位は「分」となる。また、「館内利用者数」に時間数を乗ずると、利用 者の当該時間帯の「滞在時間」が推定できる(館内利用者数 *180分 = 滞在時 間(分))。各行動の利用量をこの「滞在時間」で除することで、利用者の「滞 在時間」に占める各行動の割合となる「閲覧率」、「機器利用率」、「発話率」
が算出できる。また、全日の「滞在時間」および各利用量を入退館ゲート で取得できる当日の入館者数で除することで、当日の「利用者1人あたり の滞在時間と各利用量」が算出でき、利用者の館内利用傾向の特徴を示す 大きな手掛かりとなる。
Ⅲ . 調査結果
A.中央図書館の経年比較
1 時期ごとの館内利用者数および各行動者数
まず、中央図書館における2015年調査と本調査結果から、中央図書館の 経年比較を行った。第1表から第3表は、各期の調査で観察できた時間帯 別の館内利用者数と各行動者数(カッコ内はその行動者数の館内利用者数にお ける割合)および入退館ゲートのデータより算出した当日の入館者数を示 した。これらのデータは「人数」を単位とした統計値であり、館内利用量 を示すものではないが、ここからも館内の利用傾向をうかがい知ることが できる。
通常期の2015年と2016年の各行動者数と館内利用者数の割合に統計的な 有意差があるか検定を行ったところ、機器利用者数を除き有意な差は認め られなかった(カイ二乗検定、p >0.01)。また、2015年調査で中央図書館の 特徴的な利用傾向とされた以下の点は本調査でも確認することができ、似 た傾向にあることを示す結果が得られた。
・館内利用者数は、各時期とも16:30調査の時間帯をピークとした山なり の分布を示す。
・館内利用傾向は、通常期・閑散期は比較的似た傾向を示したが、繁忙期 はやや異なる傾向にある。
・通常期・閑散期は、4割ほどの利用者は図書館資料を利用しており、か つ、持込資料の利用、ノート等への書き物などを行っている。基本的に
「勉強をするために利用する者」が多数を占めていることがうかがえる。
・繁忙期は、通常期・閑散期よりも閲覧者数の割合は下がり、代わりに持 込資料者数や書き物者数が高い値となった。また、調査時に観察できた 特徴として、これらの層は発話者とは重ならない層であった。すなわち、
自ら資料を持ち込み、試験勉強やレポート課題に取り組むなど、静かに
第1表 中央図書館 2015・2016年度通常期 時間帯別の利用者数(単位:人) 調査時間館内利用者数 うち閲覧者数うち機器利用者数うち発話者数うち持込資料者数うち書き物者数うち居眠り者数 20152016201520162015201620152016201520162015201620152016 10:308113538(46.9%)61(45.2%)24(29.6%)42(31.1%)7(8.6%)2(1.5%)31(38.3%)39(28.9%)21(25.9%)22(16.3%)4(4.9%)8(5.9%) 13:30362356132(36.5%)126(35.4%)162(44.8%)180(50.6%)0(0.0%)9(2.5%)111(30.7%)70(19.7%)88(24.3%)42(11.8%)24(6.6%)34(9.6%) 16:30454391250(55.1%)197(50.4%)163(35.9%)180(46.0%)5(1.1%)7(1.8%)132(29.1%)102(26.1%)96(21.1%)116(29.7%)31(6.8%)21(5.4%) 19:3021721492(42.4%)78(36.4%)90(41.5%)114(53.3%)4(1.8%)2(0.9%)63(29.0%)76(35.5%)37(17.1%)69(32.2%)5(2.3%)9(4.2%) 合計11141096512(46.0%)462(42.2%)439(39.4%)516(47.1%)16(1.4%)20(1.8%)337(30.3%)287(26.2%)242(21.7%)249(22.7%)64(5.7%)72(6.6%) ※当日入館者数23772341 第2表 中央図書館 2015・2016年度繁忙期 時間帯別の利用者数(単位:人) 調査時間館内利用者数 うち閲覧者数うち機器利用者数うち発話者数うち持込資料者数うち書き物者数うち居眠り者数 20152016201520162015201620152016201520162015201620152016 10:3023130450(21.6%)65(21.4%)68(29.4%)106(34.9%)8(3.5%)4(1.3%)138(59.7%)125(41.1%)65(28.1%)86(28.2%)9(3.9%)8(2.6%) 13:30777846229(29.5%)261(30.9%)300(38.6%)323(38.2%)16(2.1%)18(2.1%)413(53.2%)413(48.8%)185(23.8%)229(27.1%)50(6.4%)59(7.0%) 16:30824930193(23.4%)197(21.2%)363(44.1%)369(39.7%)32(3.9%)32(3.4%)424(51.5%)341(36.7%)316(38.3%)195(21.0%)39(4.7%)29(3.1%) 19:30547539184(33.6%)87(16.1%)215(39.3%)243(45.1%)25(4.6%)22(4.1%)287(52.5%)182(33.8%)214(39.1%)155(28.8%)19(3.5%)18(3.3%) 合計23792619656(27.6%)610(23.3%)946(39.8%)1041(39.7%)81(3.4%)76(2.9%)1262(53.0%)1061(40.5%)780(32.8%)665(25.4%)117(4.9%)114(4.4%) ※当日入館者数45194298 第3表 中央図書館 2015・2016年度閑散期 時間帯別の利用者数(単位:人) 調査時間館内利用者数 うち閲覧者数うち機器利用者数うち発話者数うち持込資料者数うち書き物者数うち居眠り者数 20152016201520162015201620152016201520162015201620152016 10:30928143(46.7%)41(50.6%)27(29.3%)22(27.2%)14(15.2%)0(0.0%)23(25.0%)29(35.8%)7(7.6%)14(17.3%)3(3.3%)2(2.5%) 13:30227239120(52.9%)89(37.2%)61(26.9%)81(33.9%)18(7.9%)3(1.3%)60(26.4%)87(36.4%)37(16.3%)64(26.8%)13(5.7%)10(4.2%) 16:30313261110(35.1%)62(23.8%)92(29.4%)98(37.5%)19(6.1%)2(0.8%)110(35.1%)146(55.9%)68(21.7%)88(33.7%)18(5.8%)5(1.9%) 19:3016020284(45.1%)81(40.1%)52(32.5%)79(39.1%)2(1.3%)10(5.0%)70(43.8%)86(42.6%)43(26.9%)61(30.2%)3(1.9%)5(2.5%) 合計792783357(45.1%)273(34.9%)232(29.3%)280(35.8%)53(6.7%)15(1.9%)263(33.2%)348(44.4%)155(19.6%)227(29.0%)37(4.7%)22(2.8%) ※当日入館者数11321122
集中するための学習場所として利用する層が特に多いことがうかがえる。
・機器利用者は各時期とも多く、3人に1人ほどの割合で何らかの機器を 利用している。通常期・繁忙期と閑散期では、機器利用者の割合には開 きが出ており、これは、通常期・繁忙期に比べ、閑散期には学生が少な くなることに起因すると考えられる。
・図書館をラーニング・コモンズとみなして利用する層はオレンジゾーン を利用する。発話者は一定数オレンジゾーンにて観察できたものの、全 エリア・全利用者数の割合で見ると、非常に少ない割合である。
このように、2015年と2016年の中央図書館の館内利用傾向にはおおよそ の類似点が確認できた一方で、前述の通り通常期では機器利用者数に、繁 忙期・閑散期ではともに閲覧者数や持込資料者数、書き物者数の割合に、
2015年と2016年の間で統計的有意差(カイ二乗検定、p <0.01)が認められた。
全体的に閲覧者は減少傾向であり、特に閑散期における閲覧者の減少幅が 大きい。閑散期は他の項目についても2015年からの変化が多いことから、
何らかの影響を受けていることが推測できる。加えて、2015年と2016年で 明確に異なる点は、通常期・閑散期の機器利用者が増加したことであろう。
繁忙期はもともと機器を持ち込んだ利用が他の時期に比べ多く、2016年も その傾向に変わりはないが、2016年は通常期・閑散期においても機器が手 元に置かれ、よく利用されていることが数値から見て取れた。
2 時期ごとの館内利用量の分析
第1表から第3表で得られた各利用者数より、延べ滞在時間数と各行動 の利用量を算出し、各期時間帯別に示したものが第4表から第6表である。
利用量として比較すると、単純な館内利用者数による比較では分かり難 かった各期の利用傾向がより明確になる。例えば、入館者1人あたりの滞 在時間を見ると、通常期に比べ繁忙期は1人あたりの滞在時間が長く、
はっきりと滞在型の利用がされている(2016年通常期89.8分に対して繁忙期 117.2分)。また、1人あたりの閲覧量は通常期より少なく(2016年通常期36.8
第4表 中央図書館 2015・2016年度通常期 時間帯別の滞在時間および館内利用量 調査時間帯延べ滞在時間 (単位:分)延べ閲覧量 (単位:分)閲覧率延べ機器利用量 (単位:分)機器利用率延べ発話量 (オレンジゾーン) (単位:分)発話率 (オレンジゾーン) 20152016201520162015201620152016201520162015201620152016 9:00‑12:00145802430068401098046.9%45.2%4320756029.6%31.1%108036054.5%20.0% 12:00‑15:006516064080237602268036.5%35.4%291603240044.8%50.6%016200.0%19.6% 15:00‑18:008172070380450003546055.1%50.4%293403240035.9%46.0%900126016.1%16.7% 18:00‑22:005208051360220801872042.4%36.4%216002736041.5%53.3%96048026.7%9.1% 全日213540210120976808784045.7%41.8%844209972039.5%47.5%2940372026.3%16.2% ※入館者1人ごとの滞在時間・閲覧量89.8 89.8 41.1 36.8 第5表 中央図書館 2015・2016年度繁忙期 時間帯別の滞在時間および館内利用量 調査時間帯延べ滞在時間 (単位:分)延べ閲覧量 (単位:分)閲覧率延べ機器利用量 (単位:分)機器利用率延べ発話量 (オレンジゾーン) (単位:分)発話率 (オレンジゾーン) 20152016201520162015201620152016201520162015201620152016 9:00‑12:00415805472090001170021.6%21.4%122401908029.4%34.9%126072038.9%13.3% 12:00‑15:00139860152280412204698029.5%30.9%540005814038.6%38.2%2880324020.0%23.4% 15:00‑18:00148320167400347403546023.4%21.2%653406642044.1%39.7%5220576040.8%35.2% 18:00‑22:00131280129360441602088033.6%16.1%516005832039.3%45.1%6000528038.5%32.8% 全日46104050376012912011502028.0%22.8%18318020196039.7%40.1%153601500033.4%29.0% ※入館者1人ごとの滞在時間・閲覧量102.0 117.2 28.6 26.8 第6表 中央図書館 2015・2016年度閑散期 時間帯別の滞在時間および館内利用量 調査時間帯延べ滞在時間 (単位:分)延べ閲覧量 (単位:分)閲覧率延べ機器利用量 (単位:分)機器利用率延べ発話量 (オレンジゾーン) (単位:分)発話率 (オレンジゾーン) 20152016201520162015201620152016201520162015201620152016 9:00‑12:0016560145807740738046.7%50.6%4860396029.3%27.2%2520070.0%0.0% 12:00‑15:004086043020216001602052.9%37.2%109801458026.9%33.9%324054056.3%20.0% 15:00‑18:005634046980198001116035.1%23.8%165601764029.4%37.5%342036055.9%11.8% 18:00‑20:00192002424010080972052.5%40.1%6240948032.5%39.1%240120025.0%50.0% 全日132960128820592204428044.5%34.4%386404566029.1%35.4%9420210057.3%25.2% ※入館者1人ごとの滞在時間・閲覧量117.5 114.8 52.3 39.5
分に対して繁忙期26.8分)、図書館資料を利用せず、学習のために場所のみが 利用される傾向にある。閑散期は利用者数が少なく各行動の利用量も少な いが、1人あたりの滞在時間が長く(2016年通常期89.8分に対して閑散期114.8 分)、閲覧量も通常期並かそれ以上に多いことから(2016年通常期36.8分に対 して閑散期39.5分。2015年は通常期41.1分に対して閑散期52.3分)、図書館資料を 活用する利用者が繁忙期よりも多いことが分かる。授業休止期間中に、図 書館で資料を用いた調査や研究を行う利用者が多くなることは、利用者対 応を行う図書館職員としての実感とも合致する。
一方で、絶対的な利用量で比較すると、繁忙期は他の時期を圧倒するほ どの利用が館内でなされている。繁忙期は他の時期に比べ入館者1人あた りの閲覧量が少ないが、館内閲覧量の絶対量は他の時期より多く、閲覧率 が低いからと言って一概に館内閲覧が少ないとは言い切れない。むしろ、
図書館資料そのものが最も館内で活用されている時期という分析もできる。
3 フロア別の館内利用量の分析
各調査フロア別に利用者の延べ滞在時間と閲覧量を算出し、各期に分け て示したものが第7表から第9表である。
フロア別の館内利用量について、2015年調査では以下の点を特徴と分析 したが、本調査でもおおよそ同じ傾向が確認できた。
・中央図書館の館内利用の中心は2階・3階であり、特に繁忙期の2階・
3階の館内利用量は他の時期よりも圧倒的に多い。
・研究書庫やバックナンバー書庫は閲覧率が他のフロアよりも高く、基本 的には図書館資料を利用する場所として利用される傾向にある。
・2階・3階の閲覧率は研究書庫やバックナンバー書庫よりも低いが、閲 覧量自体は研究書庫やバックナンバー書庫よりも多い。すなわち、2 階・3階は閲覧だけに限定されない、より多様な利用がされるフロアで あると言える。
・オレンジゾーンは、スペースの広さや席数が他と比べ少ない中、滞在時
第7表 中央図書館 2015・2016年度通常期 フロア別の滞在時間・閲覧量および各行動率 延べ滞在時間 (単位:分)延べ閲覧量 (単位:分)閲覧率機器利用率発話率 (オレンジゾーン) 2015201620152016201520162015201620152016 2階(オレンジゾーン除く)7620079680213602622028.0%32.9%41.6%47.6% 3階(オレンジゾーン除く)7836081120398403540050.8%43.6%38.4%46.5% オレンジゾーン20160229202460252012.2%11.0%82.7%80.6%26.3%16.2% 研究書庫2316018600190801590082.4%85.5%23.1%28.1% バックナンバー書庫342038403240384094.7%100.0%12.3%9.4% 4階(AV・特資・マイクロ)12240396011700396095.6%100.0%1.5%0.0% 全館213540210120976808784045.7%41.8%39.5%47.5%26.3%16.2% 第8表 中央図書館 2015・2016年度繁忙期 フロア別の滞在時間・閲覧量および各行動率 延べ滞在時間 (単位:分)延べ閲覧量 (単位:分)閲覧率機器利用率発話率 (オレンジゾーン) 2015201620152016201520162015201620152016 2階(オレンジゾーン除く)183240182580498603162027.2%17.3%39.5%37.0% 3階(オレンジゾーン除く)180060221220312603654017.4%16.5%39.9%42.2% オレンジゾーン46020517209600804020.9%15.5%58.4%60.4%33.4%28.3% 研究書庫4404041100309003186070.2%77.5%26.8%21.0% バックナンバー書庫2640228026402100100.0%92.1%0.0%39.5% 4階(AV・特資・マイクロ)504048604860486096.4%100.0%3.6%3.7% 全館46104050376012912011502028.0%22.8%39.7%40.1%33.4%28.3% 第9表 中央図書館 2015・2016年度閑散期 フロア別の滞在時間・閲覧量および各行動率 延べ滞在時間 (単位:分)延べ閲覧量 (単位:分)閲覧率機器利用率発話率 (オレンジゾーン) 2015201620152016201520162015201620152016 2階(オレンジゾーン除く)3888045900204001038052.5%22.6%31.3%32.9% 3階(オレンジゾーン除く)5322055260171601722032.2%31.2%26.7%40.2% オレンジゾーン1644083402820150017.2%18.0%57.7%71.2%57.3%23.0% 研究書庫1824016500128401290070.4%78.2%15.1%13.5% バックナンバー書庫29401380276084093.9%60.9%0.0%13.0% 4階(AV・特資・マイクロ)3240144032401440100.0%100.0%0.0%0.0% 全館132960128820592204428044.5%34.4%29.1%35.4%57.3%23.0%
間としては研究書庫並の数値であり、それなりの利用量がある。
このように、館内利用量をフロア別に見ていくと館内利用の傾向がさら に詳細に分析でき、経年の変化についても読み取ることができる。例えば、
通常期の閲覧量・閲覧率の減少は、4階における減少に拠るところが大き く、2階・3階ではそれほど大きな減少は見られない。ところが、繁忙期 と閑散期では、2015年と2016年で3階は利用傾向が変わらないことに対し、
2階では大幅に閲覧量が減少している。オレンジゾーンは、スペースの広 さや席数の割に利用量が多いものの、発話率はそれほど高くない。閲覧率 は他のフロアよりも低く、機器利用率は他のフロアよりも高いといった特 徴があるが、現在のオレンジゾーンは、ラーニング・コモンズとして、多 数の利用者が発話と閲覧、ないし発話と機器利用を同時に行うような活用 がされている状況とは言い難い。
B.戸山図書館と中央図書館の比較
1 時期ごとの館内利用者数および各行動者数
次に、本調査結果から戸山図書館と中央図書館の比較を行った。第10表 から第12表で、2016年各期の戸山図書館と中央図書館の時間帯別館内利用 者数および各行動者数を示した。なお戸山図書館の閑散期の値は前述した 通り参考値として扱い、詳細な分析対象とはしない。
通常期の戸山図書館と中央図書館の各行動者数と館内利用者数の割合の 差を検証すると、いずれの行動においても統計的に有意な差は認められな かった(カイ二乗検定、p >0.01)。すなわち、通常期においては、戸山図書 館と中央図書館は比較的似たような利用がされている。これが繁忙期にな ると、戸山図書館と中央図書館の閲覧者数および機器利用者数の割合で統 計的有意差が認められ(カイ二乗検定、p <0.01)、通常期とは異なり、戸山 図書館と中央図書館の利用傾向に差があることがうかがえる。特に、繁忙 期の戸山図書館では、通常期から入館者数がそれほど大きく増加しない一