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日本臨床麻酔学会 vol.31

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はじめに  近年,集中治療室(ICU)における適正な鎮静につ いて多くの知見が蓄積され,プロトコールを用いて できるだけ浅く維持するスタイルが主流となりつつ ある.実際,現代集中治療の英知の集積と言える Surviving Sepsis Campaign guideline 2008 1)におい ても,プロトコールを用いて客観的に評価し,1 日 1 回の鎮静の中断または間欠的鎮静を行うことが推 奨されている.この理論的背景として,1 日 1 回の 鎮静の中断により,人工呼吸時間や ICU 滞在日数 が減少するばかりでなく,長期予後も改善する可能 性も示された2)(表 1).鎮静を行うべきかどうか判 断する前提として,痛み,不安,せん妄などを鑑別 し,それに対し適切な対応を行うことは ICU にお ける鎮静の基本である.中でも適切な鎮痛は常にク リアすべき前提条件と言ってもよい.本稿では an-algesia based sedation の概念,近年強調されるよ うになった背景,妥当性,実際の方法,弊害につい て文献的に考察する.

Ⅰ Analgesia based sedation とはいったい何か  まず,analgesia based sedation という多くの読者 にとっておそらく耳慣れないであろう用語を定義し て お く 必 要 が あ る.PubMed 3)で analgesia based sedation と入力して検索を行うと 289 件ヒットし, そのうち表題にこの用語が使用されているものは 2 件しかない.2000 年以降の集中治療界を大激論の 渦に巻き込んだ intensive insulin therapy の 3,341 件 に比べると桁違いに少ない.しかしながら,その概 念は現代 ICU 鎮静の目的に合致しており,このレ ビューを読み進んでいただければ, まったく同様 のことを毎日の臨床で実践しているのに,わざわざ analgesia based sedation という用語を使わなくて 日本臨床麻酔学会第 29 回大会パネルディスカッション

これからの ICU 鎮静─ hypnotic based sedation から analgesia based sedation へ─

現代 ICU 鎮静には鎮痛が欠かせない:analgesia based sedation とは

讃井將満

[要旨]鎮静薬の長期連用の弊害から,現代 ICU における鎮静は,スケールを用いて客観的に評価 しプロトコールに従ってできるだけ浅く維持するのが原則である.近年,この原則に沿う鎮静法と して,1 日 1 回の鎮静中断により,人工呼吸時間や ICU 滞在時間が減少するばかりでなく,長期 予後も改善する可能性が示された.その前提として,疼痛,不安,せん妄などを鑑別し,適切な対 応を行い,深い鎮静を必要とすることがないようにしておかなければならない.中でも適切な鎮痛 は不可欠である.本稿では analgesia based sedation の概念,登場した背景,妥当性,実際の 方法,弊害について文献的に考察する. キーワード: 鎮痛薬ベースの鎮静,1 日 1 回鎮静の中断,鎮痛,鎮静,ICU 著者連絡先 讃井將満 〒 105-8461 東京都港区西新橋 3-25-8 東京慈恵会医科大学麻酔科・集中治療部 * 東京慈恵会医科大学麻酔科・集中治療部

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423 現代 ICU 鎮静には鎮痛が欠かせない:analgesia based sedation とは 423 も と落胆する読者もいるかもしれない.  Muellejans は 2004 年に雑誌 Critical Care の中で, 「analgesia based sedation すなわち鎮痛薬ベースの 鎮静とは,患者の鎮痛薬への要求を満たし,鎮静薬 は必要なときにのみ追加することによって,患者の 鎮静よりも快適性に焦点を当てる方法で,ICU にお いて徐々に確立されつつある」と定義した4).さら にまとめれば, 十分な鎮痛を行い鎮静を最小限に すること であると言うことができよう.ここが, 鎮静薬の投与量をできるだけ減らそうとする近年の 潮流に完全に合致しているため,用語はともかく概 念自体はさらに普及していくものと思われる. Ⅱ ICU で鎮痛薬が必要とされる背景  そもそも適切な鎮痛を行うことは医療者に課せら れた倫理的使命と言ってもよいはずである.なぜ analgesia based sedation と新たに命名してまで, 鎮痛の重要性を強調しなければならないのか.この 背景因子の一つとして,ICU 患者の鎮痛が適切に行 われてこなかった歴史に対する反省がある,と推測 する.  ICU 患者はさまざまな疼痛源を持つ.手術創,外 傷,気管チューブ,ドレーンなどの管類,吸引,リ ハビリテーション,など多様である.しかし,ICU 患者,特に人工呼吸中の患者では痛みがあったとし てもそれを訴える手段が少ない5).一方,医療者に とっては,主観的な感覚である疼痛を評価するのが 難しく,ICU における鎮痛薬の主流であるオピオイ ド鎮痛薬による呼吸抑制や依存性などの副作用に加 えて効果遷延に対する過剰な恐れがあり,鎮痛が適 切に行われてこなかった6).極論すれば,その分の 不十分な鎮痛は鎮静で補われ,眠らせればよい,動 かなければよい,という医療者の都合優先の人工呼 吸患者管理であったのかもしれない.  一方,疼痛を放置しておくことによる弊害も報告 された.例えば, 疼痛は ICU 滞在時間を決める一 つの因子 7)であり, ICU 患者において痛みは不快 な記憶として残る 8)ばかりでなく, 長期の生活の 質を左右する 9),などである.  このような背景を考えると,鎮痛軽視の管理に対 する反省が提出されるのは至極当然の帰結かもしれ ない.実際,米国集中治療学会(Society of Critical Care Medicine:SCCM)が中心となって 2002 年に まとめたガイドライン10)を見ると,患者の不快ある いは不穏を発見したら,まず十分な鎮痛を図ること が推奨されている.  すなわち, 鎮痛は前提である ,という厳然た る事実をあらためて認識し,実践する必要がある, と言えよう.われわれ麻酔科医は,麻酔中の鎮痛と 表 1 現代 ICU 鎮静の原則と効果 原則 1 プロトコールに従った鎮静

2  daily sedation interruption(1 日 1 回の鎮静の中 断)または間欠投与を行う 3 筋弛緩薬はできるだけ投与しない 効果 1 人工呼吸時間を短縮 2 ICU 滞在日数を短縮 3 入院期間を短縮 4 費用を軽減 5 長期予後を改善する可能性 〔文献 1), 2), 10), 12), 13)を参照〕 表 2 鎮静の理論的・生理学的利点 1 患者の快適性・安全の確保  ・不安を和らげる  ・気管チューブ留置の不快感の減少  ・動揺・興奮を抑え安静を促進する  ・睡眠の促進  ・自己抜去の防止  ・気管内吸引の苦痛を緩和  ・処置・治療の際の意識消失(麻酔)  ・筋弛緩薬投与中の記憶消失 2 酸素消費量・基礎代謝量の減少 3 換気の改善と圧外傷の減少  ・人工呼吸器との同調性の改善  ・呼吸ドライブの抑制 〔文献 11)より引用・改変〕

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鎮静は別々にコントロールするものであるが,両者 は補完的でもあるという事実を知っている.ICU 患 者にも同じ原理,すなわち十分な鎮痛が行われてい れば,鎮静は最小限にできるという原理が通用する. Ⅲ 現代 ICU 鎮静の傾向  鎮痛が強調される背景因子のもう一つは,近年強 調されるようになった人工呼吸患者に対する鎮静薬 の弊害であると考えられる.ここには,ICU の一般 的な鎮静薬であるベンゾジアゼピンまたはプロポフ ォール自身に起因するものも含まれる.  近年の ICU における鎮静の特徴について整理し ておく(表 1).鎮静には,表 2 にあげるような理論 的・生理学的利益がある一方で11),近年,深い鎮静 が 人 工 呼 吸 遷 延 の 一 つ の 要 因 に な っ て い る こ と2), 12), 13),長時間の人工呼吸時間が人工呼吸器関連 肺炎(ventilator associated pneumonia:VAP)や人 工呼吸器誘発性肺傷害のリスクを上昇させるこ と14),鎮静薬の使用がせん妄と関連があること15) せん妄が長期の予後不良と関連があること16),ICU での出来事が思い出せずに妄想的記憶が残ることが 外傷後ストレス障害(PTSD)と関連があり17),鎮静 薬の使用量の増大が PTSD と関連すること18)などが 判明し,その弊害が強調されるようになった(図 1).  そのような背景から,1999 年に Brook らは,321 人の内科的 ICU 患者による単施設の無作為化対照 試験(RCT)で,鎮静スケールのゴールを設定し, プロトコールを用いて鎮静レベルを調節すると,人 工呼吸時間,ICU 滞在日数,入院日数が短縮し,気 管切開の割合が下がることを示した12).そのときの 鎮静スケールは Ramsay sedation scale が使用され, レベルが 3 ∼ 4,すなわち「開眼していて呼びかけ に応答する」から「軽い刺激ですぐに目を開ける状 態」が目標とされた.  また,2000 年には,1 日 1 回の鎮静の中断(daily sedation interruption)の有効性が Kress らによって 示された13).これは,128 人の内科的 ICU 患者によ る単施設 RCT で,結果として,1 日 1 回の鎮静の中 断により人工呼吸時間が 7.3 日から 4.9 日へ短縮し, ICU 滞在日数が 9.9 日から 6.4 日へ短縮した(すべて 図 1 過度の鎮静による弊害 VAP:人工呼吸器関連肺炎(ventilator associated pneumonia),VILI:人工呼 吸器誘発性肺傷害(ventilator induced lung injury),PTSD:外傷後ストレス障 害(post-traumatic stress disorder) 〔文献 2), 12)∼ 18)を参照〕

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425 現代 ICU 鎮静には鎮痛が欠かせない:analgesia based sedation とは 425 年本邦でも広く普及しつつある Richmond Agita-tion-Sedation Scale(RASS)が採用された.結果は, 介入群は対照群に比べて,人工呼吸時間,ICU 滞在 日数,入院期間が短く,介入群の方が対照群に比べ 1 年後の生存率が高かった(ハザード比:0.68,95% 信頼区間 0.50­0.92;p=0.01).介入群で事故抜管は 増加したが(16 人対 6 人:p < 0.03),そのうちで再 挿管を要した人数には差がなかった(5 人対 3 人: p < 0.47).1 年生存率はこの RCT の主要アウトカ ムではなかったが,1 日 1 回の鎮静の中断が長期予 後に影響を及ぼす可能性が示されたことの意義は 深い.  このように ICU における鎮静の近年史を振り返 ってみると, 隙があれば浅く という鎮静が主流 になったと言える.このように 浅く維持して , うまく醒ます ためには, 鎮痛は前提 であり, 特に 1 日 1 回鎮静の中断には欠かせない要素である ことがわかるであろう.また,これこそが,anal-gesia based sedation という概念を生む原動力にな ったことは間違いない. 中央値).また,神経学的な評価のための診断学的 検査の必要度が減少したが(9%対 27%),事故抜管 などの有害作用は増加しなかった.ここでも鎮静レ ベルは Ramsay scale の 3 ∼ 4 に維持された.前述の 2002 年のガイドライン10)にはこの研究結果も反映 された.  ここ数年に発表された注目すべき研究も見逃がせ ない.その一つが 2008 年に発表された ABC(Awak-ening and Breathing Controlled)trialである2).これ は,1 日 1 回の鎮静の中断(この研究では spontane-ous awakening trial[SAT]と呼ばれた)に,標準 的人工呼吸ウィーニング法である SBT(spontane-ous breathing trial)を組み合わせることの効果を調 べ た 4 施 設 RCT で あ る.168 人 が 介 入 群 と し て SAT に引き続いて SBT を行うプロトコールに従 い,168 人が対照群として通常の各施設のプラクテ ィス(SAT は約 30%に行われていた)に加え,臨床 判断で SBT を行った(図 2).鎮静レベルの評価は, Ramsay や上記のガイドラインで薦められていた Sedation-Agitation Scale(SAS)ではなく,ここ数 図 2 1 日 1 回鎮静の中断と自発呼吸トライアルを組み合わせた人工呼吸離脱プロトコール SAT:自発覚醒トライアル(spontaneous awakening trial)= 1 日 1 回鎮静の中断(daily sedation interruption), SBT:自発呼吸トライアル(spontaneous breathing trial) 〔文献 2)より引用・改変〕

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Ⅳ Analgesia based sedation の実際  前節で振り返ったいくつかの研究は,いわば鎮静 の弊害を減らすべきという動機から,鎮静スケール およびそれをガイドに鎮静量を調節するプロトコー ルにより鎮静薬を減量した方が利益が大きいことを 示したものである.しかし,十分な鎮痛を行い鎮静 を最小限にする analgesia based sedation の有効性 自体を仮説として研究されたものではなかった.実 際に Kress らの研究では,介入群(1 日 1 回鎮静中断 群)でも,鎮静中はミダゾラム 1.0 ∼ 2.5mg/hr また はプロポフォール 0.9 ∼ 2.6mg/kg/hr が用いられ, そこまで低用量ではない印象を持つ13)  ではあらためて analgesia based sedation とは具 体的に何であるのか.以下の 4 つの疑問に答えるこ とで analgesia based sedation の実態を明らかにし たい.4 つの疑問とは,第 1 に analgesia based se-dation ではどの程度まで鎮静薬を減らすことができ るのか,第 2 に現在の標準治療と考えられる 1 日 1 回の鎮静の中断に比べて臨床的な利益があるのか, 第 3 にどの鎮痛薬をどのようなプロトコールで使用 すべきか,第 4 に有害事象が増加しないか,である. ここでは,実際に analgesia based sedation の範疇 に入ると考えられる研究をいくつか概観する.  2005 年に発表された Breen らの欧州の 15 施設の 内科および外科 ICU 患者を対象とした RCT では19) レミフェンタニルによる analgesia based sedation (介入群:57 人)が従来のミダゾラム+(フェンタニ ルまたはモルヒネ)による鎮静薬ベースの鎮静(対照 群:48 人.鎮静プロトコールは施設に任された)に 比べて人工呼吸時間を 2 日減らすことが示された. また,介入群におけるミダゾラムの平均総使用量は 著明に減少した(図 3).ただし,ミダゾラムの使用 量はおそらく 20mg/ 日前後と推測され(図 3 および 介入群の平均鎮静日数を 6 日として推定),完全に ミダゾラムの投与を排除したわけではなく,実際に まったく使用しなかった患者は 26%のみであった. 事故抜管,再挿管や薬剤に起因する有害作用も両群 で差がなかった.  この研究のプロトコールでは,レミフェンタニル の初期投与量は 0.1 ∼ 0.15μg/kg/min で,鎮痛レベ ルが不十分と考えられた場合には 5 ∼ 10 分おきに 0.025μg/kg/min ずつ増量した.0.2μg/kg/min に 達した場合には,レミフェンタニルをさらに 0.3μg/ kg/min まで増量させていくか,ミダゾラム 2mg を ボーラス投与する,というプロトコールであった 図 3  レミフェンタニルを使用した analgesia based sedation によるミダゾ

ラムの減量効果

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427 現代 ICU 鎮静には鎮痛が欠かせない:analgesia based sedation とは 427 (図 4).結果的に,レミフェンタニルの平均投与速 度は 0.3μg/kg/min,投与時間は平均 147 時間であ った.  同様な結果が,2006 年に心臓手術後の短期の鎮 静を要する患者 80 人を対象としたドイツの単施設 RCT で確認された20).介入群は,レミフェンタニ ルを 0.1 ∼ 0.2μg/kg/min で開始し 1μg/kg/min に 到達した場合,プロポフォールを 0.5 ∼ 1.0mg/kg/ hr で開始するプロトコールが採用された.一方対 照群は,フェンタニルを 1 ∼ 7μg/kg/hr,ミダゾ ラムを 0.02 ∼ 0.2mg/kg/hr の範囲で調節投与した. 結果は,抜管までの時間と ICU 退室までの時間が 短縮し,有害作用と費用に差を認めなかった.  この 2 つの研究を見ると,読者はレミフェンタニ ルの投与量が本邦における麻酔時の使用量に匹敵す るのではないか,このような大量の鎮痛薬が ICU で必要になるのか,害はないのか,などの疑問を持 つかもしれない.また,上記の第 2 の疑問に答えて いない,すなわち,対照群に 1 日 1 回の鎮静の中断 という標準的な鎮静法が採用されておらず,その点 に関しては解答不能であるという制約がある.しか し な が ら, レ ミ フ ェ ン タ ニ ル に よ る analgesia based sedation が安全に施行できることを明らかに した点は評価できる.  究極の analgesia based sedation と呼んでもよい 研究が,2010 年にデンマークの Strøm らによって Lancet 誌に発表され21),関係者を驚かせた.それは, 単施設の多目的 ICU に入室し人工呼吸が 24 時間以 上必要になった 140 人の患者を対象とした RCT で, 介入群はモルヒネの 2.5 ∼ 5mg の間欠投与のみで原 則鎮静薬を使用せず,対照群はモルヒネの間欠投与 に加え 48 時間以内はプロポフォール,それ以降は ミダゾラムを用いて Ramsay scale 3 ∼ 4 を目標に 投与量を調節しながら鎮静を行い,1 日 1 回の鎮静 の中断を行った.結果は,人工呼吸時間,ICU 滞在 日数,病院滞在日数が短縮した.事故抜管の発生率, 脳 CT や MRI の必要度,VAP の発生率は変わらな かったものの,介入群にせん妄が多く発生した(20% 対 4.7%).  介入群において,モルヒネの間欠投与により効果 が認められない場合,低酸素,気管チューブの閉塞, 疼痛などの不穏の原因検索が再度行われた後,言語 コミュニケーションによって不穏の除去を図り,せ ん妄と診断された場合にはハロペリドールを使用し 図 4 レミフェンタニルを使用した analgesia based sedation プロトコールの 1 例

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た.それでも落ちつかない場合には,プロポフォー ルを 6 時間持続投与しその後に投与を中止して再 評価した.この間,両群とも患者を身体的に拘束せ ず,できるだけ患者を動かして椅子に座らせた.ま た,この施設における患者:看護師の比は 1 対 1 で あった.  表 3 にあるように介入群における実際の鎮静薬の 投与量はほぼゼロといってよい.かといってモルヒ ネ投与量も 50kg 換算で 1 日当たり 6mg であり,む しろ少ない範疇に入る.にわかには信じ難い結果で あるが,この施設がこのような鎮静薬を使用しない プロトコールを 10 年以上前に採用した実績のもと にこの研究を実施したという事実は見逃がせない. したがって一概にこの結果を他の施設に適用できな い(外的妥当性がない)という批判は当然であろう. しかし,鎮静をさらに減らせば,臨床的効果がそれ だけ高まる可能性が示されたことは疑いない.  このように,以上の analgesia based sedation に 関する 4 つの疑問のうち,第 1 の鎮静薬はどの程度 減量可能か,という疑問に対しては, まったく使 用しないことも可能である ,第 2 の臨床的な有効 性はあるかに対しては, 可能性は十分高い ,と いう解答を得ることができた.  では,第 3 のどのような鎮痛薬をどのようなプロ トコールで使用すべきかについては解答が得られた であろうか.Muellejans は analgesia based sedation プロトコールを適用し,レミフェンタニルとフェン タニルを比較した研究において,両群の臨床効果に 差がないという結果を報告した4).その結果から彼 は, どの鎮痛薬を用いるかということよりも明確 な analgesia based sedation のプロトコールに従う こと自体が重要である ,と述べた4).これは,ど のプロトコールが特別優れているわけではなく,鎮 痛・鎮静度を評価しそれに従って薬剤の投与量を調 節するプロトコールを作成し,それに従うことの重 要性を言い換えただけにすぎない.ここで紹介した 表 3 Analgesia based sedation プロトコールによる臨床的アウトカムと薬剤使用量の 1 例

鎮静なし(n=55)a 1 日 1 回鎮静中断(n=58)b p 値 挿管後 28 日間の非人工呼吸日数 18.0(0︲24.1) 6.9(0︲20.5) 0.0191 滞在日数(日数)   ICU 13.1(5.7︲··)c 22.8(11.7︲··)c 0.0316   病院 34(17︲65) 58(33︲85) 0.0039 死亡率   ICU 12(22%) 22(38%) 0.06   病院 20(36%) 27(47%) 0.27 薬剤使用量   プロポフォール(mg/kg/hr) 0(0︲0.515) 0.773(0.154︲1.648) 0.0001   ミダゾラム(mg/kg/hr) 0(0︲0) 0.0034(0︲0.0240) < 0.0001   モルヒネ(mg/kg/hr) 0.0048(0.0014︲0.0111) 0.0045(0.0020︲0.0064) 0.39   ハロペリドール(mg/kg/hr) 0(0︲0.0145) 0(0︲0) 0.0140 気管切開 16(29%) 17(29%) 0.98 VAP 6(11%) 7(12%) 0.85 せん妄 11(20%) 4(7%) 0.0400 データは中央値(四分位範囲),または人(%). a:鎮静なし:モルヒネ+必要時最小限のプロポフォールのみ(介入群) b:1 日 1 回鎮静中断:モルヒネ+プロポフォールまたはミダゾラム+ 1 日 1 回鎮静中断(対照群) c:28 日の時点で 25%以上の患者が ICU に滞在 VAP:人工呼吸器関連肺炎(ventilator associated pneumonia) 〔文献 21)より引用・改変〕

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現代 ICU 鎮静には鎮痛が欠かせない:analgesia based sedation とは 429

いくつかのプロトコールを参考に,施設の事情に合 わせて作成すればよいのではないか.

Ⅴ Analgesia based sedation の弊害  最後に,第 4 の有害事象に対しての解答は, 総 じて安全であるが,せん妄やそれに伴う事故抜管は 増加する可能性がある ,とするのが妥当であろう か.確かに 2010 年の Strøm らの研究のように,完 全に鎮静を行わないことによりせん妄が増加する可 能性がある21).本研究では長期の追跡調査が行われ ておらず,前述のようにせん妄は長期の患者予後と 関連すると言われるので17), 鎮静なし群 対 1 日 1 回の鎮静の中断群 の長期予後を比較した前向き 試験が行われるのが理想である.  これに関連して,analgesia based sedation が長 期の精神的な予後に悪影響を与えないことを示唆す る 2009 年の単施設混合 ICU 患者の RCT(n=137)を 紹介しておく22).結果は,Ramsay scale 3 ∼ 4 の相 対的に深い鎮静を行った群は,Ramsay scale 1 ∼ 2 に維持した(自発開眼あり)群に比べて,退室 4 週間 後の時点で,ICU におけるストレスの多い出来事に 対する記憶の障害があり(p < 0.05),PTSD の発生 が高い傾向にあった(p=0.07).一方,浅い鎮静によ り人工呼吸時間と ICU 滞在日数が短縮した.浅い 鎮 静 群 で は ミ ダ ゾ ラ ム の 使 用 量 が 1 日 平 均 3 ∼ 11mg 程度で,深い鎮静群の 5 分の 1 から 10 分の 1 であった.彼らは,浅い鎮静でも ICU 退室後の患 者の精神状態に悪影響が出ないと結論した.今後, 精神的な予後ばかりでなく,さらに長期の生命予後 や生活機能予後の検討が必要である.  また,analgesia based sedation の考えうるその 他の弊害として,心筋虚血などの心血管イベントが 増加する可能性が容易に想起できよう.しかし現時 点では,1 日 1 回の鎮静の中断や浅い鎮静によって 心血管イベントは増加しないとされ,否定的であ る23), 24)  さらに弊害として考慮に値することは,オピオイ ド鎮痛薬による消化管運動抑制であろう.われわれ 麻酔科医は,オピオイドによる呼吸抑制や血行動態 に対する影響には習熟しており,特に ICU という 環境においては対処は困難ではない.しかし,全身 を管理する集中治療医として忘れてはならないもの に消化管運動機能低下があり,時に治療に難渋する. 過去には,オピオイド原性の消化管運動抑制に対し, 一般的薬物療法の効果が認められない場合,ナロキ ソンの経口投与が行われてきた25).しかし,主作用 を減弱させるとともに消化管に対する効果は確実で はなかった.この状況を打破すべく近年,methyln-altrexone や alvimopan などの末梢性μ受容体拮抗 薬が開発され,すでに欧米では術後イレウスなどに 対する臨床試験も終了し,使用可能な状況であ る26).本邦にもこれらの薬剤が早期に導入されるこ とを願う. まとめ  ここまで通読した読者は,必要十分な鎮痛を行う ことの重要性,深い鎮静や無配慮な鎮静薬の投与が 及ぼす臨床的な悪影響について理解を深めたと思 う.実際,筆者の施設では,すでに RASS を使用し できるだけ浅く(0 ∼­2)維持し,十分な鎮痛のもと に うまく醒まし (1 日 1 回鎮静を中断し),必要 なときのみ鎮静薬を投与する,というプロトコール を採用している.しかし,どの程度まで鎮静薬を制 限すべきなのか,またそれがどの程度長期の精神・ 高次機能や生命予後に影響するかに関して,まだま だ未解決である.さらに研究が進むことを願う. 参考文献 1) Dellinger RP, Levy MM, Carlet JM, et al.:Surviving Sepsis Campaign:international guidelines for manage-ment of severe sepsis and septic shock:2008. Crit Care Med 36:296-327, 2008

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