ミュニティ創出に関する実践的研究
著者 原 有佳里
雑誌名 同志社政策科学研究
巻 21
号 1
ページ 93‑106
発行年 2019‑08‑01
権利 同志社大学政策学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000230
概 要
2017年度のマンションストック数は約
644
万 戸、居住人口約1,553
万人といまや「マンション 住まい」ないし「マンション暮らし」という居住 形態は都市部においてはごく一般的になってい る。子どもの育成問題、高齢化による独居問題 およびコミュニケーション問題など、社会と同様 にマンション内部にも同様の現象が生じており、問題の解決策としてマンション内でのコミュニ ティ形成が有効ではないかとも言われている。
本論の目的は、都市型マンションでのコミュ ニティの形成と活性化を図るにあたり、都市型 マンションでの現状や課題を提示し、理論研究 的アプローチや社会実験を通じて、機能的かつ 持続可能なマンション・コミュニティ実現のた めの方途や課題を考察することである。
本論では、まず、都市における居住形態の変 化を整理し、居住形態に着目したマンションの 定義を行った。そして、マンション・コミュニ ティの現状を調べ、その結果を述べた。一方で、
マンションにおけるコミュニティ形成問題を考察 するための引照枠組を構築するべく、コミュニタ リアニズムとソーシャル・キャピタル(社会関係 資本)の理論を援用した。また、他方で、機能 的かつ持続可能であると目されるマンション・コ ミュニティの事例を調査し、紹介した。さらに、
マンション・コミュニティを創造していくための 具体的な手法として農作業(=さつま芋作り)を 考案し、これを社会実験として実施して、その 経緯を報告し、結果を分析した。最後に、機能 的かつ持続可能なコミュニティが醸成されていく ための課題を提示し、結論とした。
1.はじめに
ひと昔前までの都市近郊に住む人々は、自然 豊かな郊外に住宅を持ち、ゆとりのある空間の なかでの生活を選択する傾向にあった。しかし、
1985
年に男女雇用均等法が制定され女性の社 会進出が進み、男女それぞれの役割が大きく変 化し、多様性に富む家族形態ができる中で、交 通アクセスがよく、必要なものがすぐ手に入る 都市部にあるマンションは、高度成長期におい て利便性に優れた住まいとなった。2017年度におけるマンション戸数は約
644
万戸、マンション居住人口約1,553
万人、全国 の世帯数に占める分譲マンション戸数の割合 を示すマンション化率は12.31%と、8.1
世帯 に1
世帯がマンション住まいである。東京都 のマンション化率は27%、東京都千代田区で
は
83.12%、中央区では 81.91%となっており
(URL1)、
いまや「マンション住まい」
ないし「マ
ンション暮らし」という居住形態は都市部にお いてごく一般的になっている。育児問題、高齢化による独居問題および住民間 のコミュニケーション不在問題など社会と同様に マンション内部にも同様の現象が生じており
、特
に都市部のマンションでは2011
年の東日本大震災 の経験や、昨今頻繁に起こりうる震災や天災など で、家族間のコミュニケーションのみならず、近 隣とのコミュニケーションの再生が課題視され、その解決策としてコミュニティ形成が挙げられて いる。マンションの自治会や管理組合の中にはコ ミュニティの育成強化に取り組んでいるところもあ るが、寡聞にして成功例を耳にすることは少ない。
本論の目的は、都市型マンション1における
1 都市部にあって子育て世代も多く、マンション住人が多世代にわたっているマンションを指す。
都市型マンションにおける機能的かつ持続可能な コミュニティ創出に関する実践的研究
原 有 佳 里
村社会が生まれ、人口が増加した。その時代の 都市における一般的な居住形態が
「長屋」
であっ た。長屋は、家と家の間の壁は薄く、近隣の声 は筒抜けで、家族との居住スペースも狭い空間 であり、いやおうなしに近隣の家族問題などが 筒抜けになっていた。長屋を経営する大屋の役 割としては、家賃を集めたり、長屋の管理を任 されたり、時には家族のもめごとにまでも世話 を焼いたりすることが多かった(西山 1975:57)。
2. 1. 2 「長屋」から「アパート」へ
1896年の民法制定により、大きく家族の中 の形態が変わり住まいも変化していく。その特 徴として、①他の親族からの独立、②ムラなど の外部の共同体からの独立、および③戸主権の 明確化などが挙げられる。民法制定により、集 合住宅の呼称が「長屋」から「アパート」に変 化し、集合住宅の居住形態にも変化が起こった。「アパート」を西山は「二戸以上の住戸(一世
帯の居住者が独立してすむ住居単位)が同一の 建物の中にある集合住宅建築をさしている」 (西
山 1975:105)と述べ、その特徴として、寝る 場所と食べる場所が違う部屋「寝食分離」が存 在し、それに加え水道やガスが引かれ、水洗便 所が設置されるなど、現代の集合住宅「マンショ
ン」により近いものとなった。長屋では見られ ない「独立」という言葉がみられ、家族形態や 住まいへの価値観が大きく変わった時期とも言 える。2. 1. 3 「マンション」の誕生
1945年に第二次世界大戦で日本はポツダム 宣言を受諾することで連合国軍に無条件全面降 伏し戦争に終止符を打った。戦争後の日本の住 宅不足は
420
万戸と推定され、日本の復興が進 む過程で、経済成長を支える働き手を都市に集 中させる必要もあり、都市での狭い土地でも沢 山の家族が住める場所、災害にも強い不燃住宅 として鉄筋コンクリートで造られた「団地」が 機能的2かつ持続可能なコミュニティの形成と活性化を図る手法を仮説として提示し、その実 効性を社会実験を通じて実証することである。
つまり、本論は、人間関係が希薄で、住人間の コミュニケーションも質量ともに少なく、まし てや互恵関係が成立する余地がきわめて少ない 都市型マンションでも、住人が時間と空間を共 有し、かつ共同作業を行い体験を共有するよう な機会を提供することで、相互の認知が始ま り、その認知関係が持続することでコミュニ ケーションが発生し、そのコミュニケーション の累積の中から互恵や信頼の規範が醸成されて いわゆるソーシャル・キャピタルの蓄積への途 を開くことができるのではないかという仮説を 措定する。その仮説を実証するために、同作業 を行い体験を共有するような具体的な機会とし て農作業を提供するという社会実験を行い、そ の効果をエスノグラフィーやアンケート等を用 いて分析し考察するのが本論が採る研究方法で ある。
2.都市における居住形態の現状と課題
本章では、都市部におけるいわゆるマンショ ンがどのような経緯を経て、現在の形態の「マ ンション」に発展していったのか、マンション の歴史と現状、そしてマンション内のコミュニ ティの現状について明らかにする。2. 1 農村から都市へ――居住形態の変化 2. 1. 1 「長屋」の形態と住まい
「マンション」=「集合住宅」を住居として
考えた場合、江戸時代の「長屋」が原型と言わ れている。かつて川の上流の扇状地を住居地と していた農民は、戦国武将によって領土の生産 性を高めるために盛んに治水工事を行ったこと により、大河川の下流の平地に農業の拠点を移 した。平行して兵農分離が進み、純粋な職業集 団として農民が形成され、生活空間としての惣2 本論では、機能的コミュニティとは、生活のニーズ(需要や欲求)の少なくとも一部がコミュニティ内の相互扶助や協力関係によって 充足されるような機能性を実装した共同空間を指す。
建設された。
1964年の東京オリンピック開催を皮切りに、
日本は高度成長期を迎える。集合住宅開発も進 み、国家の持ち家政策として住宅都市整備公団
(現:住宅・都市開発機構)により、「団地型マ
ンション」が多く建設された。ここで初めて「マ
ンション」という名が世間に広まることとなる。1990
年以降はバブルの崩壊と共に、地価の下 落により都心回帰現象が発生し、1997年を皮 切りに都市部への人口増加が急激に増加し、そ れに伴いマンションも多く建築された(URL2)。
2000年には、マンションの管理の適正化の 推進に関する法律(平成十二年十二月八日法 律第百四十九号)(略称「マンション管理適正 化法」)が成立し、日本の法文に初めて「マン ション」という言葉が登場した(鎌野・山野目
2003:9)。
以上のように、集合住宅は時代と共に、
「長屋」
から「マンション」へ移行し、食寝分離、核家 族化、プライバシーの保護、生活様式・間取り の多様化などで、地域でのコミュニティの範囲 は、広いものから極めて狭いものへ変化した。
2. 2 居住形態の特徴に着目したマンショ ンの定義
Longman Dictionary of Contemporary English 3 は、「マンション(mansion)」を「a very large
house(大邸宅)」と定義している。1955
年代より日本では、集合住宅の名称として、高級な イメージで、マンション、ハイツ、およびレジ デンス等に使用されていたが、最終的に高級な イメージを持たせるため中高層住宅に「マン ション」という名称をつけ始めた。
『広辞苑』によると 「マンション (mansion)
4」
とは、「中高層の集合住宅。1960年代後半から 急速に普及」となっており、マンション管理適 正化法5では、「二以上の区分所有者6が存す る建物で人の居住の用に供する専有部分のある もの並びにその敷地及び附属施設」(二条一号イ)および「一団地内の土地又は附属施設(こ れらに関する権利を含む)が当核団地内にある イを含む数棟の建物の所有者(専有部分のある 建物にあっては、区分所有者)の共有に属する 場合における当核土地及び附属施設」(二条一 号ロ)とされており、マンションの建物のみな らず建物と共に一体的に管理されるべき付属施 設(建物、敷地、附属施設)も併せてマンショ ンと定義されている(丸山 1984:412-3)。
それを踏まえ、筆者はマンションの定義を、
「高層集合住宅であり、各居室の独立性が高く、
住人のプライバシーが高度に確保される反面、
住人の日常的な接触ないし交流による自然発生 的コミュニティの形成を期待しにくい居住形 態」としたい。なお、本論において「マンショ ン」を「都市型集合住宅」と定義し、呼称を「マ ンション」に統一する。
2. 3 マンションにおけるコミュニティの 現状
2. 3. 1 管理組合と自治会
全国各地から都市に集まってマンションに入 居する様々な価値観を持つ住人とって、一から コミュニティを築くことは大変な作業を伴うた め、コミュニティの必要性自体に消極的なマン ション住人も少なくない。
マンションに入居した際、所有者である住人 はマンションの管理組合とその土地の自治会に 入会を余儀なくされる(しかし、当該物件の所 有者は管理組合に加入の義務があるが、賃貸で 入居した者に管理組合加入の義務はない)。
管理組合については、建物の区分所有等に関 する法律(公布・施行:昭和三十七年四月四日 法律第六十九号)(略称「区分所有法」)第
3
条 では、「区分所有者は全員で建物並びにその敷 地及び附属施設の管理を行うための団体を構成 し、その法律に定めるところにより、集会を開 き、規約を定め、管理者をおくことができる。」3 「Longman Dictionary of Contemporary English」ウエブサイト(2019年1月5日取得、http://www.ldoceonline.com/)
4 新村出(2012)『広辞苑 第六版“マンション”』2673、岩波書店。
5 2000年制定、国で初めての、マンションの適正な管理の主体となる管理組合を支援し、管理組合とマンション管理業者との関係を規律
する法律(丸山 1984:411)。
6 マンションのように独立した各部分から構成されている建物を「区分所有建物」といい、この区分所有建物において、建物の独立した 部分を「専有部分」という。この専有部分を所有する者のことである。建物の区分所有に関する法律が「区分所有法」という。
(丸山 1984:413)と定められており、管理組
合の役割としては、マンションの維持管理、管 理規約の改定、大規模修繕の実地計画や、管理 会社選定などがある。マンション管理組合に 関して「コミュニティ」の語句が入ったのは、2004
年国土交通省がマンション標準管理規約(改定:第 32
条・業務)を定めてからのことで ある。同規約には「地域コミュニティにも配慮 した住人者間のコミュニティ形成」が加わり、管理組合は本来の業務に加え、催事などコミュ ニティ活動まで担うようになった。マンション
・
コミュニティに関するアンケート調査(URL3)で、管理組合が「マンション内のコミュニティ 形成についてどのような対応をしているか」に は、63%が「とくに活動をしていない」とし、
管理組合のみでのコミュニティ形成の活動は難 しいことが明らかになっている。
一方、自治会は、その地域で住み暮らす人々 の準強制加入の会である。自治会の役割には、
防犯・防災活動など安心・安全な地域づくりを めざす活動や、お祭りや運動会などのレクリ エーション活動などがあり
「コミュニティ形成」
を基盤としている。
日本では古来、農業を営む村落は、村の運営 や生活での話し合い(用水の配分、道路の管理 など)、祭礼などを行う相互扶助機能を担う
“組”、
“衆”
などの高い自治機能を備えたサブ組織があ り、明治期になり行政の意図の下につくられた 町内有志団体が総合的な地方行政機能も果たす ようになっていった。第2
次世界大戦後、連合 国総司令部(GHQ)により、地方行政の末端組 織としての役割を担っていた町内会は廃止7さ れたが、1952年に公布されたポツダム宣言の受 諾に伴い発する命令に関する件の廃止に関する 法律(公布・施行:昭和二十七年四月二十八日 法律第八十一号)(略称「ポツダム勅令廃止法」)
により、相互扶助を担う何らかの団体が必要と されたこともあり、全国各地で町内会が復活を 遂げた(江上 2002:19-29)。1969年、高度経済 成長とともに人口の都市集中が拡大しコミュニ ティの不在や機能不全が問題視される中、自治 会が大きな役割を果たしていた。しかし、全戸 の自動的ないし強制的加入が前提の自治会だっ
たが、最高裁平成
17(2005)年 4
月26
日判決 で県営住宅自治会からの退会の自由を認め(一 審と二審は認めず)、東京都総務局(URL4)に よると、自治会の加入率は時代と共に減少の一 途をたどっている(横道 2009:2-10)。2. 4 マンションにおけるコミュニティの 必要性
1970年代の高度成長期において全国各地の 市民生活が受けた影響について、角は「高度経 済成長下において産業基盤投資が最優先された 結果、生産関連の機能は高度に発達したが、そ の反面、生活基盤投資は遅れ、人々の日常生活 の場ではさまざまな問題が生じることとなっ
た」(角
2008:3)と述べている。そのような
問題を解決する一種のプラットホームとして、
地域コミュニティの存在と機能がより不可欠な ものとなっていった。そこで本章では、マンショ ンにおけるコミュニティの必要性を福祉、防災、
および児童育成の側面から述べていくこととし たい。
2. 4. 1 福祉面から見たマンション・
コミュニティ
総務省が報告する「日本の男女年齢各歳別人 口に基づく人口の推移」において、高齢者世帯 は
1985
年には23
%だったのが、2005年には28.5%、2025
年には35.4%と推定され日本は超
高齢化社会に突入していることがわかる(総 務省統計局編集2016:15)。
内閣府(URL5)の「都内における高齢単身世帯数」において、
1980
年の約10
万世帯から2005
年では約50
万 世帯に増加し、「都内マンションでの高齢者人 口(60-70代)に占める高齢単身世帯の割合」においても
1980
年は男性6.3%女性 15.1%から 2005
年では男性9.7%女性 26.1%と増加傾向に
ある。高齢者のマンション・コミュニティにつ いて廣田は、「高齢者になってから住み慣れた 地域を離れマンションに移り住んだ高齢者が若 い家族と接点が持てず孤立する事例も少なくな い」(廣田 2010:2)としている。7 政府は1947年1月、行政措置として内務省訓令第4号を発し1940年の「部落会町内会等整備要項」(内務省訓令第17号)を廃止した。
2. 4. 2 防災面から見たマンション・
コミュニティ
日本は世界でも有数の地震大国と言われ、世 界で発生する地震の
10 〜 15%が日本で発生し
ている(URL6)。 1995
年の阪神淡路大震災では、死者
6,434
名、住家全壊104,906
棟の被害をも たらした。今まで経験したことのない災害を目 の前にし、頼れる行政までもが被災者になり皆 が呆然とするなか、市民同士が助け支え合い復 興への道を歩んだ。その時の様子を町村・西澤 は「都市という社会を人間が作り出していくこ と。それは、複雑な社会の実現によって裏切ら れることを知りつつも、自らの信ずる夢や理想 を互いに語り合いぶつけ合い、都市の未来をそ れらに近づけていく努力をひたすら積み重ねて いく共同作業以外にはありえない。」(町村・西 澤 2000: 299)
と述べている。つまり、町村らは、人は人によって支え合い共同作業によって希望 を見出すことが可能であると主張しているので ある。マンション内においても災害時の救援や 相互扶助に機能するコミュニティの必要性や重 要性を問いたい。
2. 4. 3 児童育成面から見たマンション・
コミュニティ
安垣は、子どもにとって「遊び」は身体的・
精神的・社会的な発達上、重要な役割を担って いるが、時代と共に子供の遊びが変化している ことを指摘する(安垣 2006:167)。都市にお いての「子どものあそび環境について」に関 するアンケートでは、「事件に巻き込まれない か心配(49.2%)」、「近所の適当な公園がない
(30.3%)」など、子どもを外に遊びに出したい
が、社会情勢や、コミュニティの変化による母 親の心配もうかがえる。加えて、「子どもと一 緒に遊ぶ相手」として、「きょうだい(68.2%)」
が最も多く、次に母親と続いており遊び相手が 家族中心の狭い範囲になるとともに異年齢での コミュニティも希薄化されていることがわかる
(安垣 2006:166-77)。「子育ての援助について」
についても、母親が子育てに困った時に相談す る相手が「配偶者」や「自分の親」と回答して いるが(安垣 2006:166-77)、一世帯人数の変 化をみると減少傾向(1960年
4.14
人から2010
年
2.42
人)にあり、とくに都市部に関しては2.03
人(2010年)と低く(総務省統計局集 2016:19)、相談相手や子どもを少しの時間みてもら
うことができた三世代同居などの大家族から時 代の変化と共に核家族化したため、母親は子育 てに関して孤独感に陥りやすい現状をみてとる ことができる。同じマンションでの高齢者たちが子どもを見 守る仕組み、高齢者を親世代が見守る仕組み、
時には経験豊かな高齢者が親世代の相談役に なったりと、人と人とが繋がる手段があれば、
近年の様々な社会問題、児童虐待や、育児放棄、
高齢化による孤独死などが減少する可能性があ るのではないかと期待できよう。
3. マンションとコミュニティ――理論 研究的アプローチ
本章では、マンションにおいての理想のコ ミュニティとは何かを言及するためコミュニ ティ概念を明らかにするとともに、見ず知らず の人々がどのような過程を経てコミュニティを 醸成していくのかを、信頼と互酬性の規範に基 づくソーシャル・キャピタル概念、そして一定 の共通の道徳的価値観すなわち共通善を共有す るコミュニティの中でこそ、人々はその人生の 目的を全うできるという考え方であるコミュニ タリアニズム概念の検討を通じて、マンション における機能的かつ持続可能なコミュニティ構 築の可能性を考察する。
3. 1 コミュニティとは
イギリスの社会学者マッキーヴァー(Robert
Morrison MacIver, 1882-1970)
は、「コ ミ ュ ニ ティ」を次の様に定義している。コミュニティという語を、村とか町、あるい は地方や国とかもっと広い範囲の、共同生活 のいずれかの領域を示すのに用いようと思う。
(略)人間が共に生活するところには常に、あ
る種のまたある程度の独自な共通の諸特徴―風習、伝統、言葉使いそのほか―が発達する。
これらは有効な共同生活の標識であり、また 結果である(MacIver 1917:22-3=2009:46)。
3. 3 ソーシャル・キャピタル(社会関係 資本)概念
ソーシャル・キャピタルは、国内外において 政治学、経済学および教育など幅広い分野でさ まざまな研究が行われている。ここでは引照で きなかったが、計量的にソーシャル・キャピタ ルを捉えようとする研究動向もある8
。
稲葉はソーシャル・キャピタルを、「人々が 他人に対して抱く『信頼』、それに『情けは人 のためならず』『お互い様』『持ちつ持たれつ』といった言葉に象徴される『互酬性の規範』、
人や組織の間の『ネットワーク(絆)』」(稲葉
2011:1)と定義し、これらのソーシャル・キャ
ピタルによって、「集団としての協調性など、市場では評価しにくい価値が生み出される」
(稲
葉 2011:1)としている。パットナム(RobertD. Patnam, 1941- )は、著書 Bowling Alone(日
本語訳『孤独なボウリング』)内で、ソーシャ ル・キャピタルを「個人間のつながり、すなわ ち社会的ネットワーク、およびそこから生じる 互酬性と信頼性の規範である」(Patnam 2000: 121=2006 : 14)と定義とし、小林は、「ソーシャ
ルネットワーク、互酬性規範、社会的信頼が、うまくかみ合うことで社会システムが円滑に運 営される」(小林
2007:182)と述べた。
以下、ソーシャル・キャピタルの形態につい て述べる。
ソーシャル・キャピタルの形態について、稲 葉は
「『結束型 (bonding)』
と『橋渡し型 (bridging)』
と二つの形態が存在する」(稲葉 2011:31)と述 べ、「結束型」と「橋渡し型」の二つの形態の 特徴を、田村は以下のようにまとめている。
1、「結束型」
家族や友人、クラスメイト、隣人など、同 質的な利害関係や背景をもつ者同士の結びつ きを指す。共通のアイデンティティを持ち、
集団内の信頼は厚く、集団への帰属意識や内 部指向性が強い。集団内での協力性や互助精 神は強いものの、ともすれば閉鎖的・排他的 な集団となる可能性があり、外部からの新し い情報が入りにくいという欠点を併せ持つ。
このマッキーヴァーの有名な定義において は、「地域性」と「共同性」がコミュニティの 主要な概念的要素となっていることが分かる。
アメリカの社会学者のアミタイ・エチオーニ
(Amitai Etzioni, 1929- )
が定義するコミュニティ は、「ある集団の個々のメンバー同士の間に存 在する、互いに交差し合い強化し合うような、情緒にもとづくネットワーク」や「共有価値の 文化」が主要な概念的要素となっている
(Etzioni 1997:127=2001:186)。
日本において「コミュニティに関する対策要 綱」を設置される際の発端となった、『国民生 活審議会調査部会コミュニティ問題小委員会報 告書』では(URL7)、コミュニティを「生活の 場において、市民として自主性と責任を自覚し た個人および家庭を構成主体として、地域性と 各種の共通目標をもった、開放的でしかも構成 員相互に信頼感のある集団」と定義した
(URL8 : 155)。
以上を踏まえ、筆者はあるべきコミュニティ の定義を「共通の地域に住む人々が、ある共同 の目標や意識をもって生活を営む場所であり、
そこに属する個人の間になんらかの相互の信頼 関係や、コミュニティの一体性を維持する責任 感が共有されている空間」とする。
3. 2 コミュニティ論からみたマンション
マンションの構造の側面からみて各居室の独 立性が高く住人のプライバシーが高度に確保さ れているため、マンション内に住む人々の共同 の目的や意識を育むことが難しい。その上、住 人の日常的な接触や交流も少ないため自然発生 的コミュニティの形成を期待しにくく、相互関 係やコミュニティの一体性を維持する責任感が 育まれにくいと考える。しかし、現代社会が抱 えている福祉や防災、および子育て等の課題に おいて、マンション内に住む人々が共同の目的 や知識を持つことで、エチオーニが定義した「互
いに交差し合い強化し合うような、情緒にもと づくネットワーク」が住人間に形成され、信頼 関係やコミュニティの一体性を維持する責任感 が生まれることが示唆される。8国際協力事業団国際協力総合研究所 2002:34-62。
2、「橋渡し型」
利害関係や背景が異なる者同士のゆるやか な結びつきを指す。橋渡し型の集団内の信頼 は広く浅く、開放的な外部指向性を持つ。様々 な人々が集まる集団なので新しい情報が入り やすく、他者の多様な価値観を理解しようと する傾向がある(田村
2014:6)。
以上をふまえ、筆者はソーシャル・キャピタ ルの定義を「個人間の交流から生まれる信頼と 互酬性の規範を基盤とした社会的ネットワーク
(絆)であり、それによって自他の幸福感が醸
成され、かつ社会システムの機能性や生産性が 向上するもの」とする。3. 4 ソーシャル・キャピタル(社会関係 資本)論からみたマンション
本論で行う社会実験での農作業は橋渡し型の ソーシャル・キャピタルを参加者間に醸成でき る可能性があるとの仮説を措定した。他者の多 様な価値観を理解しようとする橋渡し型が醸成 できれば、マンションでの持続可能なコミュニ ティが形成できる可能性を提示でき、ゆるやか なつながりの橋渡し型が持続できれば、そこか ら結束型への移行が可能になると推測する。賃 貸型のマンションのように住人の転出転入が頻 繁な場合でも、新しい住人がマンションに引っ 越してきた際には、ゆるやかな絆の橋渡し型が マンション内に存在していてコミュニティに参 入しやすくなるなど、どちらもバランスよく共 存するコミュニティの構築が望ましいと言える。3. 5 コミュニタリアニズム概念
コミュニタリアニズムを、倉坂は「リベラリ ズム9のように他人から自立した個人観ではな く、個人は他人と助け合うことによってはじめ て生活を営める存在であるという考え方を持つ 政治思想であり、自立せず他人の助けを必要と するアリストテレス的な個人観のもと、人々は コミュニティによって育まれ、コミュニティの 社会的関係の中でコミュニティの『共通善』を
実現していく考え方」(倉阪 2010:67)とし、
共通善を菊池は、「個人的な特定の利益ではな く、コミュニティメンバーすべてに関し、とも に実現する共通の利益でもあり『個人と個人の つながりや絆』をもたらす価値でもある」(菊 池 2010:100)と述べている。
菊池は、1970年代に発表された玉野井芳郎 の「地域主義」を、現代のコミュニタリアニズ ムに近い思想として捉え、日本のコミュニタリ アニズムの考えの一つとして紹介している。地 域主義を玉野井は、一定地域の住人がその地域 の風土的個性を背景に、その地域の共同体に対 して一体感を持つ考えと述べた(菊池 2010:
96)。現在のコミュニタリアニズムに対する日
本の誤解として、菊池はコミュニティという言 葉が共同体として訳され、伝統的なものである と同時に個人の自由や権利を抑圧する閉鎖的で 排出的で権威主義的な組織を指していたからで あると指摘した(菊池 2010:91)。一方、宇賀 は共同体を作るにあたっては、「人々は『条件――財産、地位、宗教的見解など』のさまざま
な境遇から集まってくるし、また大きく違った『性格、習慣およびマナー』の導入によって共
同体というものの快適さや調和がそこなわれる ことは決して考えていない」(宇賀1995:80)
と述べ、共同体をマイナスではなくプラスの要 素として捉えている。
以上をふまえ、筆者はコミュニタリアニズム の定義を「人間は孤立して単独で生きていくの は困難であり、一定の共通の道徳的価値観、す なわち共通善を共有するコミュニティの中でこ そ、その人生の目的を全うできるという考え方」
とした。
3. 6 コミュニタリアニズム論からみた マンション
都市型マンションでは、コミュニティが比較的 新しいため、昔ながらのしきたりや土地文化とい う点では共通の文化や伝統とは少し距離がある。
同様に玉野井の地域主義における「風土的個性」
に関しても長い年月を通して構築されていたとは 言い難い。しかし、マンション・コミュニティに
9 諸個人の諸自由(諸権利)を擁護し、それらを他の諸価値(効用や卓越など)に優先するものとして位置づける思想をさす(大澤・吉見・ 鷲田編 2012:1322)。
んかん森の暮らし方や、ルールなどを決定する 居住者組合「森の風」に加入することが義務付 けられている(URL10)。
【考察】
かんかん森は、係の作業や、コレクティブハ ウスの大きな特徴である食事を一緒にとる行為 など、住人の生活の中に共同作業が多く取り入 れられている事が特徴である。場や時間を共有 することで、信頼や互酬性の規範が住人間に芽 生え、ソーシャル・キャピタルが育まれると同 時に、住人間の一定の共通の道徳的価値観を確 立し、コミュニタリアニズム概念を醸成するこ とで、持続可能なコミュニティが構築できてい ると考えられる。
子育てに忙しい母親が子どもを居住者に預 かってもらい、美容院にいかせてもらったなど の事例では(コレクティブハウスかんかん森 居住者組合森の風編 2014)、ソーシャル・キャ ピタルの結束型の特徴がみられ、一人暮らし、
共働き世帯、および高齢者の独居など多様な家 族形態の各年齢のステージにおいての諸問題 を、コミュニティ内で解決する仕組み作りがで きていることがわかった。
一方、入居の際にはかんかん森の居住者組合 への加入が必須となっており、これはつまりコ ミュニティの維持や相互扶助活動への参加が半 ば強制的となっているとも言える。岡崎は、自 主運営について「さまざまな役割を担い時間的 に大変と思ったり、皆の意見をひとつにまとめ る大変さをあげている居住者も見られる。」(岡 崎 2014
:140)と述べている。つまり、岡崎は、
ソーシャル・キャピタルの負の部分として、コ ミュニティ内の同調圧力により個人の権利や選 択が尊重されにくい状況が指摘されるが、かん かん森においてもそうした状況が生まれる可能 性があることを示唆しているとも言えよう。
4. 2 幕張ベイタウン自治会連合会
携 帯 電 話 の 人 口 普 及 率 は1999
年 度 で は47.5
%に対して2017
年度には109
%に普及し、一人一台は携帯電話を所持しており、SNSの 普及が急速に進んでいる(URL11)。
SNSを使用しマンション・コミュニティを 促進しているのが「幕張ベイタウン自治会連合 会(千葉市第
47
地区町内自治会連絡協議会)」おいてコミュニタリアニズム概念が醸成できれ ば、個人の権利や選択を互いに尊重しつつ、お 互いを信頼し思いやり支える相互扶助作用が自 然に発生する可能性があると考えられる。
4. マンションとコミュニティ――事例 研究的アプローチ
本章では、都市部におけるマンションの中で、
どのようにコミュニティが育まれ人々が豊かに 暮らしているのかを事例をもとに分析を行い、
ソーシャル・キャピタルやコミュニタリアニズ ムの側面からもコミュニティの現状について明 らかにする。本章のリサーチクエスチョンを、
「マンション内において、コミュニティを醸成
するにあたりどのような手法があり、機能的か つ持続可能なコミュニティを形成するには何が 必要なのか」とした。4. 1 コレクティブハウス「かんかん森」
コレクティブハウスは、1960年代初めにス ウェーデンで始まった取り組みであり、公共住宅 に居住する働く女性たちが、子育てや食事の負 担を軽減し、豊かな暮らしを実現するための意 義の下で生まれた新しいライフスタイルである。
居住形態の特徴として、個々の独立した住居
(キッチンや浴室付き)に加えて住人全員で使
用するコモンスペース(キッチンやダイニング ルーム)があり、あらゆる世代の住人が共に暮 らすとともに、コレクティブハウスの管理や運 営も住人によって行われているという点も大き な特徴である。スウェーデンでは約50
ヶ所も のコレクティブハウスが存在する(URL9)。2003年に、日本で初めての居住者自主運営 型コレクティブハウス「かんかん森」が東京都 荒川区日暮里に設立された。共同施設のコモン ダイニングでは月
5-6
回程度、住人同士で一緒 に食事をすることになっており、料理担当も持 ち回りで行っている。施設を使用するにあたり 活動グループや担当の係などは約20
種類存在 し、住人一人一人が、自身の得意分野で2
つ程 の係を担当することで、本来マンションにおい て管理会社が担当する仕事を、自主運営という 形にて進められている。入居条件としては、かいえよう。加えて、SNSを使用しない個人や 世代にとってはコミュニティへの参入障壁が高 くなってしまうデメリットもあり、特に要援護 度の高い高齢者の孤立を防ぐという意味ではま だ課題も残されている。
4. 3 大山自治会
全国的に住みやすい団地として有名な、東京 都立川市にある都営アパート(通称
:
大山団地)は、世帯数約
1,470
世帯、人口約4,000
人、27 棟の集合住宅であり(2015年現在)、自治会加入率は
100%を達成している。65
歳以上の高齢者は約
900
人、高齢化率は29%と全国高齢化
率
27.7%(URL13)に比べると高く、高齢世帯
の約
4
分の1
が単身高齢者である。自治会は
10
年以上前から孤独死をなくすこ とをモットーとしており、住人一人一人も自主 的な声掛けを実施し、ご近所の見守りにつな がっている。自治会の仕組みづくりにおいては、緊急の対応や簡単な電球の交換など
24
時間体 制でスタッフが対応可能で、企業との連携(例 えば新聞がたまっていないかなど、安否確認な ども素早く対応できる仕組みづくり)も活発に 行っている。自治会費等は、振り込みにはせず、棟ごとの班長が班のメンバー宅を訪れて毎月回 収しており、班長は集めた会費を自治会に届け るだけでなく住人の様子も一緒に情報として伝 える。これは未払いの予防だけでなく、住人の 安否確認が重要な要素になっている。
そして、大山自治会では①清掃活動、②防災 訓練、および③サークル活動などがあり、さま ざまなイベントが行われている。①清掃活動に おいては、住人全員参加が必須であり、③サー クル活動においては囲碁や将棋、フラダンス、
およびヒップホップなど約
180
団体などが存在 し、高齢の人のみならず若い世代にも参加しや すい仕組みになっており、どれもご近所同士の コミュニケーションを図るために自治会が立案 したものである。大山団地は「自立している自 治組織10」を目指しマンション内でのコミュニ
ティの活性化を図っている。(URL14)。である。幕張ベイタウン自治会連合会は、各街 区の自治会との連携・交流を通じて、幕張ベイ タウン全体の発展に寄与する目的で運営されて いる住人による住人のための自治組織である。
約
9,400
戸、人口は約27,500
人(2016
年12
月末)であり、人口比率は
40-50
代の子育て世代が一 番多く居住する。自治会連合会の主な活動について、①防犯街 灯の設置・管理、②環境美化・生活を守る活動、
③自主防災
・
互助活動、④文化・
レクリエーショ ン活動、⑤福祉活動や募金への協力、および⑥ 広報活動があげられ、マンションでの普段管理 組合が取り組む環境の活動や、生活に欠かせな い情報を住人に周知し、行政やサービスがス ムーズに進められるよう協力している。連合会 の中では各種委員会が設置され、委員会から住 人へのお知らせや伝達事項、委員会内などの連 絡はSNS
を使用し活性化されている(URL12)。
【考察】
SNSを使用することで、時間帯を選ばずコ ミュニティに参加できることは、子育て世代が 多い幕張ベイタウンにおいて、有効的なコミュ ニティ構築の手法の一つであると考えられる。
SNS
を通じてコミュニティ参加のハードルを 下げることにより、ゆるやかなつながりである 橋渡し型のソーシャル・キャピタルが、こうし た大規模な都市型マンションにおいても醸成さ れやすくなることが示唆される。橋渡し型が醸 成できれば結束型への移行も考えられ、結束型 の特徴でもある集団内の信頼が厚くなること で、第2
章2.4.3児童育成面から見たマンション ・
コミュニティで問題視した、母親が子育ての際 に相談する相手が近くに存在しないため、孤立 してしまう「子育て問題」などを、近隣住人が 解決できる糸口になると考える。一方で、SNSを通して顔を合わせない利便 性に特化した反面、顔の見える関係性で生まれ る信頼や互酬性の規範が醸成されにくいとする ジレンマも同時に発生すると言える。自治会 は、夏祭りなどオフラインのイベントを多く企 画することにより、信頼と互酬性を発生させる 工夫も行っており、そうした実際に顔を合わせ る回数をいかに増やしていくかが今後の課題と
10 NHKエンタープライズ制作(2016)「困ったときはお互いさま――孤独死ゼロ・大山団地の挑戦」NHK教育テレビ(初回2016年11月放送:
2018年10月視聴)
【考察】
大山団地では、高齢化や高齢者の独居人数も 多いため福祉ニーズが顕在化しておりコミュニ ティを比較的形成しやすいと言える。清掃活動 においては強制的ではあるが月に一度必ず誰か と会うきっかけがあり、住人間での場の共有が 多いため、ソーシャル・キャピタルでの信頼や 互酬性の規範、およびネットワークが醸成され る可能性が高く、会う回数が増えると共に会話 を重ね知り合いが増えると住人間のコミュニ ティが橋渡し型へと醸成され、信頼性が担保さ れれば団地全体の安心感にもつながることが考 えられる。そして安心感が結束型に移行し、結 束型の特徴である共通のアイデンティティを持 ち、皆で助け合う防災や福祉での新しい取り組 みを実行することができるのではないかと考え られる。
イベントやサークルに関しては約
180
団体も あり、自身で選択できるメリットに加え気軽に 参加可能であるため、コミュニティへの参入障 壁が低い。同時に、サークル等のテーマ・
コミュ ニティの数も多いため、自身が合わないと思っ たテーマ・コミュニティからは気兼ねなく退出 も可能であり、個人の自由と尊重を重視できる コミュニティを全体として構築することが可能 であるとされる。今後の課題としては、マンションに転入して きた新規住人の情報を自治会がスムーズに得る ことの難しさを挙げられる。プライバシーの保
護の視点から、新規住人側が自身の情報を自治 会に提示することを拒否するケースもある一 方、個人保護法の縛りにより自治体からも新規 住人の個人情報を得ることも難しい。このこと により、結果として孤立化する高齢者が生まれ る可能性もあり、今後の課題となっている。
4. 4 小括
三つのマンション型コミュニティ事例の共通 していることとして、住人が何らかの共同作業 に参加して場や時間などを共有し、一定の道徳 的価値や共通善を共有することで、コミュニタ リアニズム的価値観をコミュニティ内で醸成し ていることが挙げられる。
図
1
が示すように、一般的なマンションに比 べコレクティブハウスの場合、入居条件として 居住者組合への加入が義務付けられており、一 般的な都市型マンションでは管理会社が担うこ とが多い清掃や施設管理といった役割を住人の 自主運営という形で生活が進められているた め、住人一人一人のコミュニティ意識が入居時 においてすでに高いことがわかる。大山団地においては、イベントやサークルな どが多数存在しコミュニティへの参入障壁が低 いため、ソーシャル・キャピタルも高く、同時 にコミュニティ内にコミュニタリアニズム概念 が醸成しやすいと示唆される。
幕張ベイタウンにおいては、SNSにより自
図 1 ソーシャル・キャピタルの強弱と居住者の公私志向性を座標軸としたマンション事例の配置図
(筆者作成)
1
コミュニティ重視型
ソーシャル・キャピタル 低
ソーシャル・キャピタル 高 イタウン 幕張ベ
一般的 なマン ション
大山 団地
【図1】㻌ソーシャル・キャピタルの強弱と居住者の公私志向性を座標軸としたマンション事例の配置図 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌筆者作成
プライバシー重視型 コレク ティブ ハウス
③ 第
3
回「蔓取りと芋掘り」 (2016年 10
月2日 : 35
組72
人・午前10
時-11
時30
分・気温17
度)作業内容は、第
1
回「苗付け」では苗付けを 実施し、その後に自身の苗を植えた場所に思い 思いの絵柄やマークを記入したネームプレート を立てた。第2
回「除草作業」は、畝と畝の間 の雑草除去を実施した。第3
回「蔓取りと芋掘 り」は、一面に覆う蔓をハサミで切り除去し、小休憩の後に一組
10
株の芋掘りを実施した。5. 1. 2 さつま芋作りの実施結果と考察
第1
回「苗付け」、第2
回「除草作業」、第3
回「蔓取り・
芋掘り」まで計3
回、同一メンバー による一連の流れの会話をエスノグラフィー12 形式で調査し、会話の内容やアンケート等で他 者とのコミュニケーションはどのように発展し ていったのかの分析を重ねた。なお、分析に用 いたデータにおいて、筆者が考察する上で重要 と判断した部分に下線を付した。第
1
回「苗付け」の際は、参加者には苗付け の他に、プレートにそれぞれ思い思いの絵柄や マークを記入してもらい、自身の苗を植えた場 所に目印になるように立ててもらった。第2
回 目に、畑に訪れた参加者の子どもは、「ぼくの 植えたさつま芋どうなっているのかな」と、自 身が植えた苗の目印になるプレートへ一目散に 走っていった。このことから、参加者自身が植 えた苗などがどのように変化していくのかが気 になるらしく、自身の植えた苗に愛着が湧いて いるように推察した13。
第
2
回「除草作業」において、朝のあいさつ では「おはようございます」の他にも「お久し ぶりです」など、2度目の顔合わせで、スタッ フや顔なじみの人達がいるためか、挨拶が活発 になされていた。子ども達は、スタッフや隣の 畝の除草作業をする大人に「すごい雑草がとれ た」や「虫がいるから見て」などと話しかけて いた。子どもが話しかけたことがきっかけに 由にコミュニティに参加するメリットがあるが、住人が普段の生活の中において顔を合わす 共同作業が少ない。しかし、夏祭りなどのオフ ラインのイベントを積極的に行う事により、住 人が顔を合わし共同作業を行うことができる 為、一般的なマンションに比べソーシャル
・
キャ ピタルでの橋渡し型から結束型へと段階を得て 移行することが可能である。以上のことから、機能的かつ持続可能なマン ション
・
コミュニティを形成するにあたっては、図
1
の矢印が示す左下から右上への移行が望ま しいと言えよう。5. 社 会 実 験 ―― マ ン シ ョ ン に お け る コミュニティ構築
5. 1 社会実験――さつま芋作りを通じて
コミュニティ形成を構築する手法として、本 章の社会実験の仮説を「マンションでそれまで 面識程度で深い交流がなかった住人が共同作業(農作業)をすることにより、住人間にコミュ
ニケーションが生まれ、ソーシャル・キャピタ ル(社会関係資本)の形成に通じる相互の信頼 や互恵関係が育まれ、当該マンションにおける 持続可能なコミュニティの構築に資する可能性 がある」と措定した。5. 1. 1 日時・実施場所・参加者・作業内容
東京都江戸川区「えどちゃんファーム」にお いて、㈱フルタイムシステム11が提供するフ ルタイムロッカー(宅配ロッカー)を使用する マンション住人対象で同一メンバーにて以下の 作業を実施した。① 第
1
回「苗付け」(2016年6
月4
日:40組120
人・午前10
時-11
時・気温27
度)② 第
2
回「除 草 作 業」(2016
年7
月17
日:35
組101
人・
午前10
時-11
時・気温29
度)11 マンションの住人が不在時に、宅配業者からの荷物を宅配ロッカーで預かり、届け先の住人が自由な時間に自身の荷物を受け取ること のできる24時間出し入れ可能なフルタイムロッカー(宅配ロッカー)を販売し管理する会社。お客様の声から生まれた宅配ロッカー に加え、クリーニングサービスや、自動車・自転車のシェアサービス、食材の配達サービスなども展開している。
12 人々が実際に生活したり活動したりしている現場を内側から理解するための調査・研究方法であり、小田は参与観察が調査の基本であ ると述べた(小田 2010:7)。
13 2016年6月4日観察記録より。
ソーシャル・キャピタルの基盤構築の要素が蓄 積され始めたのではないかと分析した。
5. 2 共同体験とコミュニティ意識の形成
今回の社会実験「さつま芋作り」の農作業に おいて、「コミュニケーション」
と「コミュニティ
形成」の二点についての参加者間の意識をアン ケートにより考察した。第一の
「コミュニケーション」
についてだが、アンケートにおいて「他の参加者とのコミュニ ケーションの場になったか」という問いに、
「①
非常に思う」と「②思う」での合計が65%と
比較的高い割合になっており、さつま芋作りの 第2回目の「除草作業」と第3
回目の「蔓取り」
においては多かれ少なかれ共同作業が行われた ため、コミュニケーションが活発になったと推 察する。
加えて、顔を合わす回数が多いほど、コミュ ニケーションが盛んになることも分かった。半 年の期間に、さつま芋作りは
3
回と顔を合わす こととなり現場の会話やエスノグラフィーにて もわかるように、日常的な挨拶だけではなく住 まいに関するプライベートな質問や再度会えた 喜びなどを会話で表現する参加者が多くみら れ、相互の信頼関係が徐々に強まっているので はないかと推測された。第二に、「コミュニティ形成」についてだが、
アンケートにおいて「イベントで初めて会った 人と後日に他の場所(マンションやスーパーな ど)で出会った場合、声をかけますか」の問い に、「②声をかける」が
65
%と、2人に1
人は 声をかけるといった結果となった(図2)。
以上のことから、①体験の共有、②場の共有、
および③時間の共有がコミュニケーションを活 発にさせる要因になり、ソーシャル・キャピタ ルの基盤構築を促進する可能性が高いと推察し た。そして社会実験の仮説での、面識程度で深 い交流がなかった住人が共同作業(農作業)を することにより、住人間にコミュニケーション が生まれ、ソーシャル・キャピタルの形成に通 じる相互の信頼や互恵関係が育まれることが明 らかになった。
なって、大人同士の間で「暑いけれど汗が気持 ちがいいですね」、
「雑草が、
すごいですね」、「無
理のないようにいきましょう」などと声掛けが 盛んになり、お互いが言葉を発することで、お 互いの体や心の状態を確認しているようにもう かがえた。あまりの暑さに休憩をとる年配者の 担当の畝を、隣の畝の参加者が助けているとい う光景も目にした14。
第
3
回「蔓取りと芋掘り」では、苗付け作業 から3
回目となるため参加者の表情は、苗付け での初めて出会った時とは違い緊張した面持ち はまったくなく、「おはようございます」、「お 久しぶりです」といった挨拶の他に、「子ども も楽しみにしていたのですよ」、「どちらにお住 まいですか」など、日常的な挨拶だけではな く、住まいに関するプライベートな質問や、再 度会えた喜びなどを会話で表現する参加者が多 くみられた。さつま芋の蔓は思ったより長く大 きく畑一面に覆われており参加者を驚かせ、「さ
つまいもの蔓はこんな長くなるのにびっくりし た」や「蔓がとれた状態での芋掘りには参加し たことがあるが、蔓取りから参加できるなんて とてもうれしかった」という声が多く上がった。アンケートの結果、参加動機が子ども達に自然 体験をさせたいと願う両親が
50
%と多く見ら れ、都会での自然体験の機会の少なさをうかが わせた。初めて芋掘りをする参加者も82%と
多く、「こんなに大きいのが掘れたよ」、 「あれ?
短いな」など親子間での会話も進んだ15
。
さつま芋作りにおいて、参加者は半年の間に 最多で計3
回は顔を合わせることになった。3 回目の朝の集合場所では子ども達は自然に集ま り一緒に走り、大人達もリラックスした表情で 立ち話をしていた。つまり、参加者が顔を合わ せる回数が増える度にコミュニケーションの頻 度や密度が高まる傾向があると推定できた。会 話が多くなれば、顔の表情も柔らかくなり笑 顔も自然と増える。加えて、2回目の除草作業 や3
回目の蔓取りなどは、農作業での共同作業 が増え、そのような共同作業を通じて自然と協 力しあいコミュニケーションが増えることがわ かった。共同作業のなかで会話が増え、お互い に信頼感が芽生え、そこから思いやりなどの14 2016年7月17日観察記録より。
15 2016年10月2日観察記録より。
また、さつま芋作り以外での農作業も検討し、
農作業の種類によってコミュニケーションとコ ミュニティ意識生成の態様に異同があるのかと いう点についても比較検討したい。
さらに、今回の社会実験の結果についてはア ンケートに加え会話やエスノグラフィー形式の 質的分析を行ったが、今後はソーシャル・キャ ピタルの蓄積を客観的に測定し数値化する分析 手法も考案し、マンション・コミュニティの事 例に適用できればと考えている。
最後の課題は国際的比較研究である。都市化 が進み人々の居住形態が高層集合住宅中心にな る傾向は日本に限らず諸外国でも同様である。
とりわけ、かつては農村中心の社会であり、農 村的コミュニティが社会に根付いていた韓国、
台湾、中国、ベトナム等の都市部でその傾向が 著しい。そこで、そうした国におけるマンショ ン・コミュニティの現状はどうなのか
、住民自
治によってマンション・コミュニティが創造さ れ運営されているスウェーデンの事例をひとつ の評価軸としながら、検討していきたい。参考文献
日本語文献
・稲葉陽二(2011)『ソーシャル・キャピタル入門』中央公論新社。
・宇賀博(1995)『コミュニタリアニズム――初期アメリカ主義 の研究』晃洋書房。
・江上渉(2002)「コミュニティ問題の背景」倉沢進(編)『改訂
版 コミュニティ論』19-29、放送大学教育振興会。
・大澤真幸・吉見俊哉・鷲田清一(編)(2012)『現代社会学事典』
1322、弘文堂。
・岡崎愛子(2014)「2.データで読み取るかんかん森」コレクティ ブハウスかんかん森 居住者組合森の風(編)『これが、コレ
6. お わ り に ―― マ ン シ ョ ン に お け る コミュニティの可能性
本論の目的は、都市型マンションでのコミュ ニティの形成と活性化を図るにあたり、都市型 マンションでの現状や課題を提示し、理論研究 的アプローチや社会実験を通じて、機能的かつ 持続可能なマンション・コミュニティ実現のた めの方途や課題を明らかにすることであった。
機能的かつ持続可能なマンション・コミュニ ティ実現のための方途として、住人が時間と空 間を共有し、かつ共同作業を行い、体験を共有 するような機会を提供することで、相互の認知 が始まり、その認知関係が持続することでコ ミュニケーションが発生し、そのコミュニケー ションの累積の中から互恵や信頼の規範が醸成 されていわゆるソーシャル・キャピタルの蓄積 への途を開くことができるということが明らか になった。
最後に、今後の課題と展望について述べる。
本論での社会実験では、事業のプロセスや成 果を分析し考察した結果、農作業であるさつま 芋作りが見ず知らずの人々の間でコミュニケー ションを促進する手法として有効だということ は分かった。しかし、同一マンション内での実 施ではないため、実験に参加した住人間のコ ミュニケーションが反復され、その後も持続し ていく可能性が低いという点で課題が残る。今 後は同一マンションでの社会実験の実施に加 え、社会実験に参加した人々の参加前後の心の 動きやコミュニティに対する考え方の変化も詳 細に検証しなければならないと考えている。
2
㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌【図2】㻌図 2 さつま芋作りアンケート結果さつま芋作りアンケート結果㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌筆者作成 (筆者作成)