持分証券の会計処理における検討の方向 : 「スト ック・オプション会計に係る論点の整理」を中心に
著者 上田 幸則
雑誌名 同志社商学
巻 65
号 6
ページ 801‑815
発行年 2014‑03‑15
権利 同志社大学商学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013462
持分証券の会計処理における検討の方向
──「ストック・オプション会計に係る論点の整理」を中心に──
上 田 幸 則
はじめに
Ⅰ 持分証券を利用した取引の会計
Ⅱ ストック・オプション会計における論点
Ⅲ ストック・オプション会計のもつ意味 おわりに
は じ め に
現在,会計は国際会計基準審議会(International Accounting Standards Board:以下,
IASB
と略称する)が公表する財務報告基準(International Financial Reporting Standards:以下,IFRSと略称する)に対し,各国がコンバージェンスに向けて対応するという方 向で動いている。そこでは,主として公正価値を基本的処理原則とする会計が規定され ている。
しかし,1990年代まで財務諸表本体の情報は,取得原価主義を基本的処理原則とし,
費用配分・期間対応を基礎としていた。財務諸表本体の情報として未実現利益を当期純 利益に含めることを規定した会計基準は,1993年
3
月に公表された,FASB 財務会計 基準ステイトメント第115
号「負債証券および持分証券に対する投資の会計処理」(以 下,SFAS第115
号と略称する)がおそらく最初であろ1
う。以降,アメリカ財務会計基 準審議会(Financial Accounting Standards Board:以下,FASBと略称する)が公表する 会計基準のうち,金融商品に関するものから,取得原価主義にとどまらない会計処理を 規定する基準書が公表されることとなった。
金融商品のうちでもとりわけ,持分証券の会計処理については,これまでに多々議論 がなされてきたことがある。持分証券保有者側の問題としては,たとえば
SFAS
第115
号にみられる時価評価による未実現損益の扱いの問題だけでなく,自己株式を保有する 場合,その性質は資産であるのか,それとも資本からのマイナス勘定であるのかといっ た問題があ2
る。一方,発行者側の問題としては,諸々の条件付で発行される場合や,現
────────────
1 Financial Accounting Standards Board, Statement of Financial Accounting Standards No.115,Accounting for Certain Investments in Debt and Equity Securities,May 1993, Summary.
2 自己株式の会計上の性質については,以下の論文において詳しく検討がなされている。
鵜飼哲夫「自己株式の資産性について(1)」『同志社商学』第25巻 第2号,1973年10月,およ!
(801)1
金以外の対価による払い込みの場合について,その価値をいかにして測定すべきかとい った問題などがある。
本稿は,上述のような多様な持分証券の会計処理の論点について,とくに発行者側に おける会計処理の論点を整理し,それらの論点についての検討結果がどのような方向性 を持っているのかを考察するものである。本稿はとくに,日本におけるストック・オプ ション会計基準の設定に至るまでの検討内容を主としてとりあげている。日本では近年 まで商法の規定により事実上,持分証券が報酬として利用できない状態であり,いわば ストック・オプションについては後発の会計基準設定となっていた。したがって,その 基準設定プロセスにおいてどのような検討がなされ,基準として設定されることになっ たのかを見ることによって,会計基準の設定における検討の方向がより浮き彫りになる のではないかと考えたからである。
Ⅰ 持分証券を利用した取引の会計
1.株式配当
まず,本稿で扱う持分証券(equity instrument)とはどのようなものかを確認してお く。持分証券について,IFRS第
2
号の用語の定義では,「企業のすべての負債を控除し た後の資産に対する残余持分を証する契3
約」と説明されている。より具体的には,持分 証券の代表的なものとして,普通株があげられる。しかし,一般に株式と呼ばれるもの には,配当優先株や強制償還優先株などといったものも含まれる。
企業は現金の代わりに,自社の株式を用いて他者との取引を行うことがある。それ は,たとえば現金の代わりに株式によって利益配当を行うために利用されたこともあれ ば,役員や従業員への報酬として用いられることもある。このうち前者は,株式配当と 呼ばれたものである。
それらはそれぞれ,違った点で会計上の論点となってきた。まず,株式配当について は,その本質は利益配当であるのか,それとも単なる資本構成要素間の振替であり,株 式分割の一形態であるのか,ということであ
4
る。
この問題については,とくに
1950
年代から1960
年代にかけて,会計だけではなく,────────────
! び「自己株式の資産性について(2)」『同志社商学』第25巻 第3号,1973年12月。
3 IASB International Financial Reporting Standard No.2,Share-based Payment,February 2004, Appendix A.な お,訳語はIASC財団編,企業会計基準委員会・財務会計基準機構監訳『IFRS国際財 務 報 告 基 準
2010』を参考にさせていただいている。なお,equity instrumentの訳語について,本稿では主として
「持分証券」としているが,同訳書では「資本性金融商品」とされている。
4 鵜飼哲夫「株式配当と株式分割−とくに株式配当の利益配当姓を中心として−」『同志社商学』第28巻 第1号,1976年7月,95−97ページ。
同志社商学 第65巻 第6号(2014年3月)
2(802)
日本においてはむしろ,税法や商法の分野においても論争が繰り広げられてき
5
た。商法 において
1990
年の商法改正によって株式配当の条文が整理され,商法上は利益の資本 組み入れと株式分割が同時になされたものとされた。その後,2006年の会社法におい ては,利益の資本組み入れが禁止されることとなったが,2009年には認められること となっ6
た。
ここであらためて,会計の問題として考えてみる。会計上,利益配当を現金の代わり に持分証券によって行った場合には,基本的には利益配当とはみなされてきていない。
この基本的な仕組みについては,株式分割と同様のものと考えられている。その論拠 は,この取引によって会社の自己資本は増加も減少せず,また,株主の持分も増加しな いとするものである。とくに日本においては,上述の商法改正によって,この取引は会 計においても同様の位置づけとなっている。
アメリカにおいても会計における支配的な見解は,利益配当とはみなされていないも のである。しかし,実務における対応方針には,以下のものがある。
ARB(Accounting Research Bulletins)第 43
号7 B
章では,株主に発行された株式が 配当として扱われるか,または株式分割として扱われるかは,発行済株式20%〜25%
を基準として,この基準以下の場合には配当として処理し,この基準以上の場合には株 式分割として処理すべきとしてい
7
る。
株式配当として扱う場合,公正価額による会計処理がなされる。ここでの公正価額と は,次の①,②のいずれかとされる。
①決議日における該当株式の市場価格に発行予定の株式数を乗ずる。
②現在の市場価格総額を発行済株式数と発行予定株式数の合計数で割り,1株当たり の市場価格を求め,それに発行予定株式数を乗じる。
仕訳については,次の通りである:
(借方) 利益剰余金 ××× (貸方) 普通株 ×××
株式払込剰余金 ×××
このように,普通株の表示価額を超過する部分については,払込剰余金として処理さ れ
8
る。
────────────
5 山田純平『資本会計の基礎概念−負債持分の識別と企業再編会計−』中央経済社,29−32ページ。株式 配当の本質を利益配当とする見解については,久保欣哉『株式配當論』千倉書房,1960年に,株式分 割の一形態とする見解については,竹内昭夫『剰余金の資本組入−株式配当の本質について−』東京大 学出版会,1962年,において,それぞれ詳述されている。
6 大日方 隆「配当所得と留保利益の資本組み入れ」『横浜経営研究』第XIII巻第4号,1992年3月,25 ページ。なお,商法・会社法の改正にともない,税法ではみなし課税についての見直しがなされること となった。
7 鵜飼哲夫,前掲論文,102−106ページ。監査法人トーマツ監訳『アメリカ金融機関・会計実務ハンドブ ック』中央経済社,1993年3月,549−550ページ。
8 同書,550ページ。
持分証券の会計処理における検討の方向(上田) (803)3
つぎに,他の持分証券を用いた取引を見てみよう。
2.株式報酬
持分証券を報酬として用いる場合,その手段として自社の株式そのものを交付すると いうよりはむしろ,対象となる役職員や従業員等に購入させるプランについて,会計上 取り上げられる。たとえば,ファントム・ストック・オプション・プラン(Phantom
Stock Option Plans)と呼ばれる,その価値が特定の証券の市場価格の変動に基づいて決
定されるものもあれば,ストック・オプションのように,株式を購入できる権利となる 持分金融商品を付与するものもある。また,ファントム・ストック・オプション・プラ ンには,株式増価受益権(Stock Appreciation Rights)と呼ばれる,株価の上昇にもとづ いて報酬が決定されるもののうち,その報酬部分を現金で決済するようなプラン等もあ9
る。
これらのプランは,会計上,論点として取り上げられ検討される場合には,広く株式 報酬,もしくはストック・オプションの会計基準に含めて検討されてきている。以下,
日本においてストック・オプション等の制度が導入され,またそれにともなって,どの ような会計上の論点が検討されてきたかを確認してみよう。
Ⅱ ストック・オプション会計における論点
1.日本における持分証券を用いた報酬制度の導入
日本において,持分証券を用いた報酬制度については,2001年の商法改正において 新株予約権制度が導入されたことから,自社株式による報酬制度が利用されやすくなっ た。自社の株式を原資産とするコール・オプション(一定の金額の支払いにより,権利 取得者が原資産である自社の株式を取得できるもの)を「自社株式オプション」とい い,新株予約権がこれにあた
10
る。
この商法改正を契機に,新株予約権のストック・オプションとしての利用が活発化し てきたことから,企業会計基準委員会は
2002
年5
月にストック・オプション等専門委 員会を設置し,主としてストック・オプション取引の会計処理及び開示を明らかにする ことを目的として検討を行ってきた。その検討の経緯はまず,委員会による「わが国に おけるストック・オプション制度に関する実態調査」の実施とともに,この分野におけ る国際的な動向に関する基礎調査の結果を踏まえ,会計基準を開発する上で考慮すべき────────────
9 同書,563−565ページ。
10 企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」企業会計基準委員会,2005年12 月,第1−2項。
同志社商学 第65巻 第6号(2014年3月)
4(804)
基本的な論点を整理することから始められた。その結果,2002年
12
月には「ストッ ク・オプション会計に係る論点の整理」(以下,「論点整理」と略称する)が公表され,この内容に関して意見聴取が行われた。これらの聴取された意見や実態調査の結果を踏 まえ審議が重ねられ,2004年
12
月に会計処理の枠組みとして企業会計基準公開草案第3
号「ストック・オプション等に関する会計基準(案)」,2005年10
月には企業会計基 準公開草案第11
号「ストック・オプション等に関する会計基準(案)」及び企業会計基 準適用指針公開草案第14
号「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針(案)」が公表され,さらに検討が加えられた。それらの結果としてまとめられ,2005 年末に公表されたのが,企業会計基準第
8
号「ストック・オプション等に関する会計基 準」(以下,「基準第8
号」と略称する)であ11
る。
ここではまず,「基準第
8
号」としてまとめられるにあたり,整理された論点を検討 するため,「論点整理」を扱う。まず,ここで示されている基本的な論点は,次の通り である。論点
1:費用認識の要否
論点
2:費用認識の相手勘定
論点
3:測定の基準日
論点
4:失効の取扱い
論点
5:測定の基礎
また,その他の論点については,以下のようにまとめられている。
(1)業績条件が付与されたストック・オプションの費用認識時期。
(2)株式増価受益権等の取り扱い。
(3)現金決済選択権付オプションの取り扱い。
(4)行使価格変更等の条件変更の取り扱い。
(5)会計基準の適用範囲。
(6)開示情報の内容。
以下,個々の論点について,主要なものを中心に具体的な内容を検討す
12
る。
2.「論点整理」の特徴
「論点整理」はすでに欧米において利用されている持分証券による報酬制度について,
日本においてこの制度が普及されるにあたって,まずどのような会計上の問題が存在す るのかを広くとりあげ,その論点を整理したものである。したがって,ここではまず,
典型的なストック・オプションについての論点だけではなく,より広い持分証券を用い
────────────
11 同基準,第21項。
12 「ストック・オプション会計に係る論点の整理」企業会計基準委員会,2002年12月,5−18ページ。
持分証券の会計処理における検討の方向(上田) (805)5
た取引について触れられている。しかし,まず取り組むべき課題を中心に検討するた め,基本的な論点とその他の論点とに大別している。たとえば,その他の論点の中には 株式増価受益権や現金決済選択権付オプションの取り扱いといったものが挙げられてい る。これらは報酬を受ける側の従業員等にとっては一般のストック・オプションと類似 の経済効果を受けるものであるが,会社側としては一般のストック・オプションとは性 格の異なるものと考えられる。これらは現金のような会社財産を流出させるため,その 性格は単なる持分証券の会計とは異なり,会社が債務を負っているものと考えられるか らであ
13
る。
その他,ストック・オプション制度には業績等の条件が付されたものなど,自社の株 価に連動する報酬制度には無数のバリエーションが考えられ,また,当初の設定から条 件を変更する場合なども考えられる。また,従業員に付与する新株予約権の中にも,報 酬制度と異質なものが存在するのであれば,異なる扱いをすべきであり,自社の従業員 等を対象とする場合に限らず外部の第三者に対する役務提供の対価として使用する場合 についても検討する必要があるとしている。さらに,従業員持株会制度についても適用 範囲に含めるかが問題になると指摘されている。これらの問題については,実地調査を 踏まえた整理が必要であるとされている。「論点整理」ではこのような問題について,
その他の論点として,二次的な問題として位置づけてい
14
る。
「論点整理」においてこうした種々の論点を挙げているのは,持分証券を報酬制度と して利用することに対し,これまで制度が整備されていなかったことから,どのような 会計上の問題が存在するのかを広く捉えておくことが必要という視点からであろう。ま た,IFRS第
2
号が同様に,「株式報酬」として,持分証券を利用した報酬制度について 広く扱っていることから,今後のコンバージェンス等に向けての動きに対応しやすくす ることも視野に入れられていると考えられる。したがって,「論点整理」を概観することによって,現状の日本における持分証券の 会計上の論点を把握することができるだけではなく,今後検討されるであろう持分証券 を利用した報酬制度の会計についての方向性を見ることができると考える。
また,「論点整理」において基本的論点とされたものは,会計上の性質として重要か 否か,あるいは判断が容易か困難かという整理というよりはむしろ,「基準
8
号」公表 のために,まず典型的なストック・オプションについての会計基準を,日本においてIFRS 2
号の基準と比較して同様の会計を行うことに問題がないか否かを検討したものであると考えられる。したがって,持分証券についてある条件が付された場合にはその 性質をどう見るかといった視点からの整理ではない。たとえば,償還条件,業績条件,
────────────
13 「論点整理」,17ページ。
14 「論点整理」,17−18ページ。
同志社商学 第65巻 第6号(2014年3月)
6(806)
現金決済選択条件といった条件付発行の場合,その証券の性質をどうみるかというアプ ローチによって整理されているわけではない。
以下,「論点整理」に挙げられている具体的論点を検討しよう。
3.「論点整理」における論点
「論点整理」における論点を,大きく認識と測定とに整理してみよう。
(1)オプションの認識
(ⅰ)借方「費用」の認識
「論点整理」における基本的論点は,一般的なストック・オプションに存在する論点 を扱っている。一般的なストック・オプションとは,企業が役員や従業員への報酬とし て,あらかじめ決められた期間に所定の価格で自社の株式を購入することができる権利 を,無償で付与するものである。
ストック・オプションは会計において,労働役務の提供に対する対価とみなされてい る。しかし,オプションを企業が付与する時にも,また,付与されたオプションが保有 者に行使された時にも,行使されず失効した時にも,会社財産の流出は生じない。この ことから「論点整理」は論点
1
において,企業がストック・オプションを付与した場 合,現金を支払う場合と同様の費用認識が必要か否かを,まず論点としてとりあげてい る。費用認識は不要とする見解においても,その論拠はオプションに価値がないというも のではない。オプションには価値があるということは認めた上で,それでもその価値を
「費用」として財務諸表上で認識することに異議を唱えるものである。まず,オプショ ンに対応する会社財産の流出がないことをあげる。またこれについては,利益処分とみ なせるという説もある。さらに,オプションの価値というのは付与された従業員と既存 株主との富の移転に過ぎないともいう。したがって,注記による開示で十分とされる。
費用認識は必要と考える見解は,オプションには価値があり,経済的価値のある取引 を行っている以上,それは財務諸表上で認識すべき取引であるとする。すなわち,スト ック・オプションを役員や従業員が付与されたということは,彼らはそれと引き替えに 労働役務を企業に提供しており,企業はそれを費消しているとする。したがって,経済 的に価値のある労働役務を費消している以上,実際に発生した経済取引として費用認識 すべきであるとしている。さらに,従業員等は会社に労働役務を提供する対価としてス トック・オプションを付与されるのであり,単なる新旧株主間の取引ではなく,会社と 従業員等との間の取引であると考えられる,というものであ
15
る。
この論点
1
については,すでに米国基準や国際財務報告基準同様,「基準第8
号」に────────────
15 「論点整理」,3−5ページ。
持分証券の会計処理における検討の方向(上田) (807)7
おいても財務諸表上で費用計上するものとして定着してい
16
る。しかし,この費用認識に ついては,「論点整理」とは別の視点から検討を促す意見もある。それは次のような問 題を指摘するものである。
①ストック・オプションがはたして労働サービスに対する報酬として付与されている のかどうかという対価性を巡る問題。
②付与されたストック・オプションの価値と従業員等から提供される労働サービスの 価値がはたして等価であるのかという等価性の問
17
題。
そのほか,アメリカにおいて
SFAS
第123
号が公表される前段階の公開草案におい ては,報酬費用総額を測定し,それを付与時にいったん「前払費用」として資産計上 し,各期間に費用配分する処理も検討されてい18
た。
このように「論点整理」は,まず論点
1
において,労働役務の提供に対する対価とし てのストック・オプション費用認識について,疑問視される意見があることを扱った上 で,続く論点2
から5
は,費用認識を行う会計処理を前提として,論点が展開されてい る。(ⅱ)貸方「資本」の認識
「論点整理」においてこの論点が検討されるにあたり,まず,一般的なストック・オ プションについては,借方はオプション報酬費用の認識が前提とされていることに加え て,貸方の相手勘定は「資本の増加」であることが基本的な処理とされている。しか し,現金による報酬を含むオプションについては,その性格は異なるものと考えられて いる。たとえば,株式増価受益権や現金決済選択権付オプションについては,「論点整 理」ではその他の論点において,報酬を付与される立場から見れば同様の経済効果を有 するが,付与する側の会計処理としては,現金等の資産を犠牲にする義務を負っている ことになるため,全く異なる処理をすることも視野に入れた検討が必要になるとしてい
19
る。
「論点整理」は上述の前提をふまえた上で,論点
2
として,まずその資本勘定につい ては付与時点から「確定的」なものであるか,あるいは「暫定的」なもので,確定した 時点で会計処理を修正すべきか,を扱っている。また,オプション付与時点で「暫定 的」なものであるとした場合に,その暫定的なものはやはり「資本」であるのか,それ とも「負債」として扱うのが適当か,という論点を挙げている。また,「暫定的」なものとした場合には,どの時点で確定すると考えるかということ
────────────
16 「基準第8号」第4項。
17 田中建二「ストック・オプション会計再考」『会計』第180巻第4号,451−459ページ。
18 FASB, Exposure Draft, Proposed Statement of Financial Accounting Standards, Accounting for Stock-based Compensation,June 1993, pars.200−206.
19 「論点整理」17−18ページ。
同志社商学 第65巻 第6号(2014年3月)
8(808)
も重要と考えている。当初から資本としての性格が確定的であると考えている見解
(「確定的資本説」)によれば,オプション付与日以降のオプション価値の変動は財務諸 表に反映させる必要はない。また,オプションが失効した場合でも,利益に戻し入れる 必要もない。しかし,オプションの性格を「負債」とみなす場合には,付与日以後のオ プションの価値変動を財務諸表上に反映させることになり,また,オプションが失効し た場合にも,利益に戻し入れる必要があると考えられる。
このように,どのタイミングで資本としての性格が確定するかによって,計上すべき 費用額は影響を受ける。すなわち,財務諸表上に表示される利益の額にも影響を及ぼす ことにな
20
る。
(2)オプションの測定
オプション価額はオプション
1
単位の価格×数量として計算される。「論点整理」に おいて,オプションの価格の変動が論点3
で,数量の変動が論点4
で扱われている。(ⅰ)オプション価格の変動
ストック・オプションは株式を用いる報酬制度であるため,株価の変動に応じて,そ の経済的な価値は常に変動する。たとえば,オプション行使価格よりも株式の市場価格 が著しく高く,さらに株式の市場価格の上昇が大いに期待される状況においては,その オプションの価値は高いと考えられるが,他方,オプション行使価格よりも市場価格が 低い状況において失効が見込まれるような場合には,そのオプションはオプションとし ての価値を殆どもたないといえる。したがって,現金で労働役務の対価を支払った場合 と異なり,どの時点で費用を測定するか,すなわち,測定の基準日が問題となる。
測定の基準日としては,付与日,勤務日,権利確定日,行使期間開始日,権利行使日 などが考えられ,「論点整理」ではそのそれぞれの場合について,論拠が示されている。
しかし,「論点整理」はその中でも,付与日とするのが整合的であるとしている。
その論拠として,論点
2
において費用認識の相手勘定としてのオプションの性格につ いて「確定的資本説」をとる場合には,付与日は会社と従業員との間で,双方が条件等 について合意をし,労働役務とストック・オプションとの交換取引契約が締結された日 と考えられるため,オプションはこの時点での価格をもとに決定されていると考えられ るとしている。さらに,「暫定説」をとる場合でも,付与日以降のオプションの価格変 動は,労働役務の価値とは直接的な関係を有しないため,労働役務の価値が確定する時 点と資本としての性格が確定する時点を切り離して考える場合には,付与日が整合的で あるとしてい21
る。
一方,「論点整理」は権利確定日説,行使期間開始日説,権利行使日説については,
────────────
20 「論点整理」7−9ページ。
21 「論点整理」7−10ページ。
持分証券の会計処理における検討の方向(上田) (809)9
ストック・オプションにはインセンティブ報酬としての性格が維持されており,その性 格が資本として確定した時点をもって測定するものという考え方の例として扱ってい
22
る。
(ⅱ)オプション数量の変動
「論点整理」はストック・オプションが付与されても,失効し権利行使がなされない ケースとして,次の
2
つの場合を挙げている。・権利確定条件の未達成による失効:従業員等が権利確定条件を達成できないために,
ストック・オプションの権利が確定しない場合。
・権利不行使による失効:ストック・オプションの権利が確定しても,その権利が行使 されないまま行使期間を経過した場合。
このような場合に,ストック・オプションの数量は失効というかたちで当初予定より も減少することがある。これに関して,報酬の対象となる労働役務の費消分について は,当初オプション価額の測定の見積に含めて算定されているが,事後的に生じたスト ック・オプションの数量の変動を労働役務との対応という視点からどの時点まで反映さ せるべきかという問題が生じる。この問題について,「論点整理」は以下の①から④の ような見解を挙げてい
23
る。
①付与日以降の数量変動は反映しない
②権利確定日までの数量変動は反映するが,それ以降の数量変動は反映しない
③行使期間開始日までの数量変動を反映する
④権利行使日までの数量変動を反映する
この論点については,役務との対応をどのように反映させるかという説明がなされて いる。しかし,論点
3
で扱われている測定の基準日について,「付与日」を選択した場 合には,数量についても,以降の変動を反映すべきではないとの見解があるということ を挙げている。また,③,④については,論点2
において扱われている見解と整合性が あるものがあるとされてい24
る。
(ⅲ)オプション価値測定の基礎
「論点整理」は,ストック・オプションについて費用認識が必要という見解をとった 場合,現金による支払とは異なり,どのような価値をもってストック・オプションの価 値とすべきかが問題となるとして,論点
5
として扱っている。会計だけでなく金融・財務といった分野等においても,ストック・オプションの価値 は,「本源的価値」と「時間的価値」から構成されるとされている。「本源的価値」と
────────────
22 「論点整理」10−11ページ。
23 「論点整理」5−16ページ。
24 「論点整理」12−14ページ。
同志社商学 第65巻 第6号(2014年3月)
10(810)
は,測定時点での株価と行使価格の差額にストック・オプションの数量を乗じたもので ある。すなわち,測定時点においてオプションが行使されると仮定した場合に得られる 経済的価値である。「時間的価値」とは,実際に権利行使される時点が測定時点から見 て将来であるため,この時間差に起因して生じる価値を指す。この時間的価値について
「論点整理」は,ストック・オプションの価値の本質的な要素であるとしてい
25
る。
「論点整理」は,次の①から③の見解をあげ,その論拠を示している。
①時価を使用すべきであるとの見解
この見解について,会計情報としての有用性の観点から,オプション価値の構成要素 をすべて反映する評価額を用いる必要があるという考え方に基づくとしているが,通 常,観察可能な市場価格は存在しないため,理論モデルを用いて市場価格に代わる評価 額を算定せざるを得ないとしている。ただし,その評価額については,信頼性や客観性 に限界があるとしている。
②最小価値を使用すべきであるとの見解
「最小価値」とは,将来株価の予想ボラティリティをゼロとして計算した価値である。
すなわち,本源的価値に,金利相当分の時間的価値のみを加味した価値をいう。この論 拠として,特に非上場会社等では将来株価の予想ボラティリティの把握が困難であるこ とを挙げている。
③本源的価値を使用すべきであるとの見解
「論点整理」は,「本源的価値」測定の論拠として,測定基準日の株価さえ把握できれ ば,信頼性のある測定が可能であるからとしている。しかしながら,オプション価値の 本質的な要素である時間的価値を全く無視していること,特に,付与日を測定の基準日 とする見解と結びついた場合,付与日時点で本源的価値を有しない多くのストック・オ プションについて,費用が認識されないことが問題点として指摘されてい
26
る。
オプション価値測定の基礎については,SFAS第
123
号が公表されて以来,オプショ ン価格算定モデルを用いて算出する公正価値による会計が欧米では定着しているといえ る。「論点整理」において測定の基礎の論点として扱われたのは,まずSFAS
第123
号 と同様のオプション価格算定モデルを用いた会計処理を日本の会計処理に導入する場 合,一見その価格算定が難解なため,なぜそうなるのかをあらかじめ説明するために扱 われたと考えられる。また,それが必ずしもすべての企業において適用可能ではない場 合に,代替的方法の存在を示しておくことも意図されていたとも考えられ27
る。
────────────
25 「論点整理」15ページ。
26 「論点整理」5−16ページ。
27 Financial Accounting Standards Board, Statement of Financial Accounting Standards No.123,Accounting for Stock-based Compensation,October 1995, par.19.
持分証券の会計処理における検討の方向(上田) (811)11
Ⅲ ストック・オプション会計のもつ意味
1.日本におけるストック・オプションの会計処理
以上,ストック・オプションについての会計基準を設定するさいには,様々な論点が 存在したことが確認できた。そのうち,主たる論点はまず,ストック・オプションにつ いて費用認識すべきか否かということと,合わせてその貸方勘定の性質が資本とすべき か否かということであろう。同様に,オプション価値測定の基礎的な考え方について,
オプション価値は本源的価値と時間的価値により構成されており,オプション価値の測 定において本来はその両方の価値を認識することにより公正価値となるものであるとい うことであろう。
これらの問題には共通点が存在する。それは,報告利益に大きく影響を与える可能性 があることである。ストック・オプション会計において,報酬費用の認識は対価である 付与される持分証券によって測定される。その持分証券の価値を測定するさいに,オプ ションの価値測定に従来,SFAS第
123
号が公表される以前に用いられていた本源的価 値を用いるか公正価値を用いるかで,オプション価値測定の基礎が変わる。公正価値に よる測定は本源的価値に時間的価値を加えたものであるから,必然的に本源的価値より も公正価値による価値評価のほうが金額は大きくなる。たとえば,本源的価値がゼロに なるように行使価格が設定されたプランでは,従来は報酬費用が計上されなかったもの が,時間的価値として算定された報酬費用が計上されることになる。オプションを「負債」か「持分」か,いずれとみなすかによっても測定される金額は 影響を受ける。ストック・オプションを持分金融商品とみなせば,持分について,資産 から負債を引いた「残余」とする定義からは,付与日以降のオプションの価値の変動は 認識されないものと考えられる。一方,負債性金融商品とみなせば,付与日以降の価値 について再評価がなされることとなる。また,オプションが失効した場合についても,
その会計処理が必要となる。
これらの論点が討議されたことにより,日本におけるストック・オプションの会計と して「基準第
8
号」が2005
年12
月に公表されるに至った。そこでは権利確定日以前の 会計処理と権利確定日後の会計処理が示されている。まず権利確定日以前については,付与日に公正な評価額によって借方にオプション費用として,貸方に貸借対照表の純資 産の部に新株予約権として計上することとしている。続いて権利確定日後の会計処理と して,オプションが権利行使され,これに対して新株を発行した場合には,新株予約権 として計上した額のうち,当該権利行使に対応する部分を払込資本に振り替えることと している。また,権利不行使による失効が生じた場合には,新株予約権として計上した
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額のうち,当該失効に対応する部分を失効が確定した期に利益として計上することとし てい
28
る。
ストック・オプション会計について,一応現行の基準による会計処理がほぼ定着し,
当面は大きな会計処理の変更はなされないであろうという様相を呈しているようであ る。しかし,最近の意見としては付与日以降のオプション価値評価を可能とするよう提 案するものが見られるようになってき
29
た。そうなると,今後の検討方向として,現在,
純資産の中の独立した項目として計上される新株予約権について,その性格をどう見る かという検討がなされるようになるかもしれない。
2.持分証券の会計の動向
近代会計においては,会計において貸方側の主要な問題の一つに,資本と利益の区別 があった。わが国の「企業会計原則」一般原則の三は,以下のとおりである。
「資本取引と損益取引とを明瞭に区別し,特に資本剰余金と利益剰余金とを混同して はならない。」
このように,近代会計では,資本の部の会計については,資本と利益の区別が重要な 課題であったと考えられる。すなわち,株式配当においては,その性質が利益配当か,
単なる資本構成要素の組み替えかということが争点となっていた。結果として現在は,
現金その他の資産の流出がないということで,基本的には資本の構成要素の組み替えと 考えられている。このことは,ある意味では資本概念を大きく捉えたものと考えられ る。
戦後日本の会計に大きな影響を与えた近代会計の論理については,近代会計学の経典 的存在といわれるペイトン・リトルトン共著『会社会計基準序説』に見ることができ る。そこでは価格総計が会計の基本的な対象を構成するものとして,価格総計としての 原価によって,会計上の項目が説明されてい
30
る。
ところが,1966年にアメリカ会計学会が公表し た『基 礎 的 会 計 理 論 の 表 明』(A
Statement of Basic Accounting Theory)において提唱された会計についてのこれまでの収
益力計算を主目的とは大きく異なる定義を反映させた,FASBによる一連の『財務会計 概念ステイトメント』シリーズが公表されるに至った。その第1
号『企業の財務報告の 目的』において,企業の財務報告の目的は,投資者・与信者等財務諸表の一般的利用者 への経済的意思決定に有用な情報を提供することとされている。さらにその有用な情報 とは,企業への将来キャッシュ・フローについての情報であるとしているが,その情報────────────
28 「基準第8号」第4−9項。
29 田中建二,前掲論文458−463ページ。
30 ペイトン・リトルトン著,中島省吾訳『会社会計基準序説』森山書店,1958年,41ページ。
持分証券の会計処理における検討の方向(上田) (813)13
は,企業の経済的資源,その資源への請求権,資源および資源への請求権を変化させる 取引・事象・環境の影響についての情報である,と展開されている。すなわち,資産・
負債・資本・収益・費用という財務諸表の諸要素そのものが,上述のような情報を提供 するものであるとしてい
31
る。
このように,FASBによって公表される会計は,近代会計における取得原価主義会計 から離れたことにより,見積や予測に基づく要素を大きく含む会計がなされるようにな っていった。結果として,公正価値としての価値評価を含む会計処理が主流となった。
このようにして,取得原価を測定の基礎とする近代会計から,現代会計は公正価値によ る認識を導入したことで,金額的,項目的にも飛躍的に認識領域を増大させ
32
た。
こうして測定の基礎は,借方資産は公正価値,貸方負債も公正価値,となると,持分 も必然的に公正価値となる。しかし,持分の価値については,その後の期間の価値変動 は認識されない。ここに,負債か持分かについて,大きな意味があると考える。
このように,持分証券における会計は,近代会計においては論点の主眼が資本か利益 かというところにあったのが,現代会計においてはその性格が負債か持分かということ が中心となった。それは,近代会計においてはその会計目的として,適正な期間損益計 算を行うこととして損益計算書を中心に論理が展開され,取得原価主義と費用配分を基 本的な処理原則としていることから,持分証券の会計についてもその取引が資本取引か 損益取引かの区別が重要な課題となっていた。
しかし,現代会計において,その論理の中心が貸借対照表に移行し,そこで公正価値 による会計がなされることになると,ある項目について負債として処理するか持分とし て処理するかは,報告利益に大きな影響を与えることになる。ストック・オプションの 会計について,1990年
8
月に発行されたFASB
討議資料『負債証券と持分証券の区別 と,その双方の特徴を有する証券についての会計にかかわる諸問題の分析』(以下,『討 議資料』と略称する)において,そのオプションの性格を負債とみるか持分とみるかと いう検討がなされている。そこでは報告利益に与える影響についても,負債とみた場合 と持分とみた場合とで比較検討がなされてい33
る。
ストック・オプションの会計処理については,『討議資料』の段階では検討されてい なかったオプション価値の測定の基礎について,SFAS第
123
号では時間的価値に着目 し,それをオプション価格算定モデルで測定し,これまで使用されてきた本源的価値に 加えることで,それを公正価値として測定することにより金額的にはるかに大きく計上 されることになった。また,ここでは一般的なストック・オプションの性格は持分とし────────────
31 加藤盛弘『現代の会計学 第3版』森山書店,2004年,186−188ページ。
32 加藤盛弘『現代の会計原則[改訂増補版]』森山書店,1987年,7−8, 22−27ページ。
33 FASB Discussion Memorandum,An Analysis of Issues Related to Distinguish Between Liability and Equity Instruments and Accounting for Instruments with Characteristics of Both,August 1990, pars.118−141.
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て処理することとされた。
このように見てみると,持分は近代会計においては「資本と利益を区別」することが 論点であり,現代会計においては「負債か持分か」の区別が論点となってきたが,それ らの検討を通じて,一見その範囲は限定されたものと受け取れるが,持分としての会計 上の領域は拡大してきているものと考えられる。ここに,ストック・オプション会計の もつ意味があると考える。
お わ り に
これまで見てきたように,持分証券の会計処理には多様な論点が含まれている。本稿 では主として,ストック・オプション会計に内在することが把握されている,会計上の 論点をとりあげた。そしてその会計は,取得原価主義に基づく近代会計の論理によって は説明がなされないものが,現代会計の論理によって認識・測定の両面から論理づけら れ,結果としてその計上額は飛躍的に拡大した。
現代会計はまた,法的な形式よりも経済的実質を重視した考え方をとってい
34
る。持分 証券には多種多様なものがあり,様々な条件付で発行されるものや,様々な特徴を有す るものが存在する。とくに様々な条件が付されている持分証券については,形式的には 持分証券であったとしても,その実質は負債か持分かの検討は,今後もなされてゆくこ とと思われる。
FASB
やIFRS
においても,持分金融商品の会計について,その商品を対象とした会 計処理だけではなく,負債や持分の定義の検討といった側面からのアプローチもなされ てい35
る。今後引き続き持分証券の会計について,着目して行きたい。
────────────
34 加藤盛弘,前掲書,24−25ページ。
35 FASBによる持分金融商品の会計については,志賀理『会計認識領域拡大の論理』森山書店,2011年1 月,第8, 9章を参照されたい。
持分証券の会計処理における検討の方向(上田) (815)15