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(1)

中国における重大交通事故罪について : 最高人民 法院の関連司法解釈を中心に

著者 黎 宏

雑誌名 同志社法學

巻 70

号 5

ページ 1697‑1715

発行年 2019‑01‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000359

(2)

中国における重大交通事故罪について

――最高人民法院の関連司法解釈を中心に――

黎     宏 

 中国の刑法においては、4つの交通犯罪が定められている。これらの犯罪 の構成要件行為は、以下のとおりである。

 第131条(重大飛行事故罪):航空関係の従業員が、規章制度に違反し、よ って、重大な飛行事故を引き起こし、重大な結果を生じさせる行為。

 第132条(鉄道運営安全事故罪):鉄道関係の従業員が、規章制度に違反し、

よって鉄道運営に関する安全事故を引き起こし、重大な結果を生じさせる行 為。

 第133条(重大交通事故罪):交通運輸管理法規に違反し、よって重大な事 故を引き起こし、重大な結果を生じさせる行為。

 第133条の1(危険運転罪):自動車を道路で運転し、情状の悪質な追いか け又は競い合いをする行為、或は、酒酔い運転をする行為など。

 上記犯罪のうち、刑法第133条の重大交通事故罪の結果が最も悪く、また、

それに関する認定も最も難しい。これを受けて、重大交通事故罪の適用につ いての一般的な問題を回答し、統一的な標準を法曹関係者に示すために、中 国の最高司法機関である最高人民法院は、2000年11月10日に、「重大交通事 故関係の刑事事件の審理における法律の具体的な適用の若干の問題に関する 解釈」(以下は「解釈」という)を公表した。ところが、この解釈は、現行 刑法第133条の重大交通事故罪の構成要件や処罰規定を大幅に修正したので、

この犯罪を巡る論争もさらに多くなっている。

 そこで、本稿では、筆者は、上記の「解釈」に基づき、中国刑法第133条

(3)

の規定に従い、現行刑法における重大交通事故罪に関する3つの問題を分析 する。

1 重大交通事故罪の「事故責任」

 中国刑法第133条の規定によって、交通運輸管理法規に違反し、よって重 大な事故を起こし、他人の重傷・死亡又は団体・個人財産の重大な損失を生 じさせた場合、重大交通事故罪が成立する。そして、「解釈」第1条によって、

交通運輸に従事する者又はそうでない者は、交通運輸管理法規に違反して、

重大な事故を起こした場合、事故責任を明らかにしたうえで、重大交通事故 罪を認定すると定められている。

 「解釈」第2条の第1項によれば、以下の各号のいずれかに該当した場合、

重大交通事故罪が成立するとされている。即ち、(1)1人が死亡、或は、

3人以上が重傷を負い、事故に関する全部又は主要な責任を負う場合。(2)

3人以上が死亡、事故に関する同等の責任を負う場合。(3)公的財産又は 他人の財産の直接的な損失を引き起こし、事故に関する全部又は主要な責任 を負い、賠償不可能な金額が30万元以上となる場合。また、同条第2項によ れば、交通事故のため、1人以上が重傷を負い、事故に関する全部又は主要 な責任を負い、かつ以下の各号のいずれかに該当した場合、重大交通事故罪 で処罰するとされている。即ち、(1)飲酒後、麻薬摂取後に、自動車を運 転した場合。(2)運転資格がなく自動車を運転した場合。(3)安全装置が 機能不全であり、又は安全部品が効かないことを知りながら、自動車を運転 した場合。(4)自動車にナンバープレートがなく、又は自動車が既に廃棄 されたことを知りながら、当該自動車を運転した場合。(5)著しい過積載 の状態で自動車を運転した場合。(6)法的責任を逃れるため、事故現場か ら逃走した場合。

 刑法第133条の規定によれば、重大交通事故罪が成立するか否かを判断す るためには、「他人の重傷や死亡を引き起こし、団体又は個人の財産の重大

(4)

な損失を生じさせた」という情状が存在するか否かを考慮すれば十分である が、上記の「解釈」によれば、他人の重傷や死亡又は財産損失だけではまだ 十分でなく、交通事故に関する行為者の「事故責任」を考慮しなければなら ない。これは、実に刑法第133条に定める重大交通事故罪の成立条件を修正 したものである。即ち、重大交通事故罪が成立するためには、「他人の重傷 や死亡を引き起こし、団体又は個人の財産の重大な損失を生じさせた」「重 大な事故」が発生するだけでは十分でなく、加害者は、当該事故の発生に対 し、全部の責任、主要な責任、少なくとも同等の責任を負わなければならな いことになっている。このような規定が設けられている目的としては、以下 のとおりであると思われる。即ち、現実に発生した交通事故のうち、多くの 場合は、加害者と被害者は共に過ちがあり、加害者のみに事故に関する責任 を負わせるべきでないので、双方の責任を合理的に分配し、重大交通事故罪 の成立範囲を限定し、処罰範囲の拡大化を防ぐ必要がある。

 中国では、道路交通事故に関する責任は、往々にして、公安機関が、「道 路交通安全法」及び「道路交通事故の処理プロセスに関する規定」等の行政 法規に従い、「交通事故認定書」でこれを認定する。「交通事故認定書」とは、

公安機関が、交通事故に対する現場検証・検査・調査の状況、及び関連する 検査・鑑定の結論によって作成されたものを指し、同認定書は、交通事故の 基本的事実、原因及び当事者の責任を明確に記入したうえで、当事者に送達 される。公安機関が交通運輸管理に関する行政法規に従って作成した、交通 行政責任を記載する「交通事故認定書」は、裁判の実務において、常に、直 接に、行為者の重大交通事故罪が成立する根拠とされている。1)ところが、

1) AとBはそれぞれ土を運ぶダンプカーを運転していた。ある町における道路のカーブですれ 違う場合、Cは運転免許を保有せずにナンバープレートが表示されないオートバイを運転し、

両車はCのオートバイと衝突し、オートバイが転覆し、オートバイに乗っていたCの妻である DはAの自動車の左車輪の下敷きになり、即時に轢死した。交通事故発生後、両車はそれぞれ 事故現場から逃げた。交通事故発生後、公安機関は現場で調査、鑑定、証拠認定等の作業を行 い、交通事故認定書で以下のような認定を行った。(1)Aは自動車を運転し、危険に対し、

適当な措置を取らず、自動車の左後輪におけるフェンダーはオートバイのツールボックスに当 たって、Dが左後輪の下敷きになり、轢死してから、Aは自動車を運転し、事故現場から逃げ、

(5)

これは、学界では強く批判されている。その理由は下記の通りである。

 まずは、行政責任認定と刑事責任認定の目的が違うので、両者を区別しな ければならない。行政法の執行には、効率性が求められ、刑事司法には、主 に人権保障が求められる。これによって行政責任を認定するに当たっては、

規則の有効的な実施を重要視し、推定を広く適用する傾向にある。例えば、

2018年5月1日より施行された、新たな「道路交通事故の処理プロセスに関 する規定」の第61条は、以下の各号のいずれかに該当した場合、当事者は全 部の責任を負うと定めている。(一)道路交通事故が発生した後、事故現場 から逃走する場合。(二)事故現場を故意的に破壊したり、偽ったりし、証 拠を隠滅する場合。これは、人権よりも効率を重視する典型的な現れである。

交通事故が発生した後、行為者が逃走し、或は、事故現場を故意的に偽った り、破壊したりする場合、事故の真相の発見が困難になるため、できる限り 早期に事故の真相を究明するため、行為者が交通事故を引き起こした後、事 故現場から逃走し、或は、事故現場を偽ったり、偽造したりする場合、当該 事故が、完全に行為者の過ちに起因したものでなくとも、行為者をして事故

それは事故を引き起こす主要な原因となり、Aは事故の主要な責任を負うものとする。(2)

Bは運転免許を保有せずに自動車を運転し、左前輪がオートバイに当たって、自動車を運転し 事故現場から逃げ、それは事故を引き起こす副次的な原因となり、Bは副次的な責任を負うも のとする。(3)CとDは責任を負わない。ところが、案件資料によれば、Cは交通規則に違 反し、カーブにおける追い越しによって、事故を直接に引き起こし、さらに、Cは運転免許を 保有せずにナンバープレートが表示されないオートバイを運転していた。そのため、Aは不服 を申し立て、公安機関に対して再認定を要請した。公安機関は元の責任認定結果を再認定した。

審理後、裁判所は、この事故認定書に明らかな錯誤があるものの、その法的効力を否定するこ とができないので、Aに対して、重大交通事故罪が成立するという判決を下した(劉品新「交 通事故認定書に明らかな錯誤がある場合、その法的効力をどう認定するか」中国審判2008年第 3期68-69頁を参照)。一方、2012年12月21日より施行された「道路交通事故についての損害賠 償案件における法律適用の関連問題に関する最高人民法院の解釈」の第27条の規定によって、

裁判所は関連法令に従い、公安機関によって発行される交通事故認定書を審査する上、その相 応な証明力を確定するものとし、相違の証拠によって、上記結論を覆すことができる場合、こ の限りでないとされている。この規定は、交通事故認定書の法的効力が、裁判所による認定を 経て初めて確定されるとのことを明らかにしているが、当該認定書の証明効力を覆すため、「相 違の証拠」を有しなければならないとも要求している。これは、裁判所や被告に対する過度な 要求である。なぜならば、事故責任の認定の面において、裁判所や被告と比べると、公安機関 は優位性を持つからである。

(6)

に関する全ての責任を負わせるとされている。これに対して、刑事責任を追 及する場合、行為者は交通事故を引き起こした後逃走しても、それによって、

加害者の行為が重大交通事故罪を構成し、その刑事責任を追及すべきでなく、

刑法第133条の規定に従い、重大交通事故罪が成立するために必要な実行行 為、結果、因果関係及びその他の帰責要件を考慮しなければならない。

 次に、「交通事故認定書」は、交通事故処理の証拠に止まり、中国の刑事 訴訟法第48条の規定によって、証拠は、その真実性を確認してはじめて裁判 の根拠とすることができる。「交通事故認定書」の性質について、現在、ほ とんどの場合、司法機関や関連の立法機関は「証拠説」を採っている。例え ば、公安部による「地方政府の法制機関が交通事故責任認定に対する不服申 立を受理することができるかに対する返答」によれば、交通事故責任の認定 は、公安機関が交通事故の真相を究明した後、当事者の法規違反行為と交通 事故の因果関係、及び法規違反行為の交通事故に対する影響に基づき行った 鑑定結論である。公安機関は交通事故を処理する場合、交通事故責任の認定 が証拠という役割を果たす。2005年、全国人民代表大会常務委員会法制工作 委員会が公表した「交通事故責任を認定する行為が具体的な行政行為である か、それを行政訴訟受理範囲に入れることできるかについての意見」によっ ても、「『道路交通安全法』第73条の規定に従って、公安機関の交通管理部門 が発行する交通事故認定書は、交通事故を処理する証拠とすることができる」

とされている。証拠である以上、裁判の場において、裁判所はその真実性を 究明しなければならない。当事者が、交通事故認定書における責任判断を覆 す別の証拠を有するなら、裁判所は、証明書の証明力を確認しないことがで きる。

 最後に、「交通事故認定書」を、直接、重大交通事故罪の成立する根拠と する場合、過失犯としての重大交通事故罪の成立要件の異様な変化が引き起 こされる。即ち、裁判官は交通事故の案件を審判する場合、ただ責任配分に 重点を置き、過失犯罪に必要な構成要件該当行為、結果、因果関係その他の 責任追及要件を見落としてしまう。その場合、公安機関の交通事故責任を認

(7)

2) 黎宏『刑法学総論』(法律出版社、2版、2016年)196頁。

3) 阮斉林『中国刑法各罪論』(中国政法大学出版社、2016年)52-53頁。蔡仙「重大交通事故罪 の結果責任に対する認定の反省」政治と法律2016年第11期154頁。

定する権力は、重大交通事故罪を認定する司法審査に大きな影響を与え、裁 判官の独立的な審判権は、公安機関の責任認定に依存しなければならない。

 ところが、公安機関の事故責任認定を、直接、重大交通事故罪の認定標準 とすることができないなら、「解釈」における「事故責任」をどのようにし て認定すべきであろうか。

 この点について、現在、中国の学界には主に以下のような2つの意見が存 在する。

 一つ目は、伝統的な見解である。それは、重大交通事故罪が過失の犯罪で あり、加害者が交通事故の結果を予測できるかとの観点から「事故責任」を 究明することを主張する。但し、加害者が交通事故を予測できる程度に対し、

理論的な論争があり、ひとつの見解によれば、加害者は、自分の行為が違法 行為又は規則違反行為であることを認識するだけで十分であるが、もうひと つの見解によれば、加害者は自分の行為が違法行為であることを認識するこ とだけでは十分でなく、発生し得る違法な結果も予測しなければならない2)。  二つ目は、新しい学説である。それは、客観的帰属論の観点から重大交通 事故罪の「事故責任」を検討することを主張する。この見解によれば、重大 交通事故罪の認定において、自然的因果論から責任を認定せずに、規範論と いう考え方を提唱する。具体的に言えば、規範の保護目的及び「信頼原則」

に対する考察により、重大交通事故罪の構成要件該当行為を認定する。広義 の因果関係に対する判断の上、結果回避可能性という理論に基づき、義務的 な行為と結果の間の規範関連性を考察するものとする3)

2 重大交通事故罪の共犯者

 今日の社会生活において、交通事故発生後、「関連業者の責任者、自動車

(8)

の保有者、自動車の請負者又は乗客」は、加害者のひき逃げを示唆し、被害 者の死亡を引き起こすことがよく見られ、さらに、交通事故発生後、加害者 が、救護などの義務を負うべきであることを知りながら、事故現場から逃走 することを故意的に示唆し、被害者が緊急な救護を受けないため、死亡する 場合、示唆行為と他人の死亡について、刑法的因果関係がある。よって、交 通事故発生後、加害者のひき逃げを示唆し、重大な結果を招く場合、それを 処罰する必要がある。ところが、現行刑法において、当該行為に対する処罰 の条項がないし、加害者のひき逃げを示唆するだけでは、刑法に定める隠匿 や庇護などの行為ではないため、実務においては、この行為を処罰する方法 が基本的に存在しない。そのことに対し、「解釈」第5条第2号は、「交通事 故後、関連業者の責任者、自動車の保有者、自動車の請負者又は乗客は加害 者のひき逃げを示唆し、被害者の死亡を引き起こす場合、重大交通事故罪の 共犯者と認定される」と定めている。この規定によって、交通事故発生後、

「関連業者のリーダー、自動車の保有者、自動車の請負者又は乗客」は加害 者のひき逃げを示唆し、被害者の死亡を引き起こす場合、加害者の共犯者と して、関連の処罰を受けなければならない。

 この解釈が出されてから、学界には大きな論争が生じた。重大交通事故罪 は過失犯罪であるので、現行中国刑法第25条の規定や刑法学の通説によって、

過失犯罪についての共同正犯は否定されている。したがって、学界は上記の 解釈に賛成しない。一部の学者の見解によって、「解釈」という規定のロジ ックは混乱し、刑法における共同正犯の基本的理論と一致しないため、それ に賛成しない4)

 確かに、現行刑法の規定や現在の刑法理論からは、最高人民法院による「解 釈」の規定は不思議であるといえる。ところが、現行刑法の規定の如何は別 として、「解釈」の内容のみを分析すれば、上記規定に合理性がある。「解釈」

4) 林亜剛「『交通事故後のひき逃げ』と『ひき逃げによる他人の死亡』」法学家2001年第3期87頁。

また、上記規定が「不思議」であると思う学者もいる(趙秉志『刑事法実務に関する難題の研 究』(人民法院出版社、2002年)158頁)。

(9)

の規定によって、「交通事故発生後のひき逃げ」という行為は量刑の情状だ けでなく、特定な状況では、それは犯罪認定の情状にもなり得る。例えば、

「解釈」第2条第2項第6号の規定によって、「交通事故で1人以上の重傷を 引き起こす場合、全部又は主要な責任を負うものとし、法的責任を逃れるた め、事故現場から逃げる場合」、重大交通事故罪を構成する。この場合、交 通規則違反行為が引き起こした結果(1人重傷)のみでは、重大交通事故罪 を認定することができないものの、「1人以上重傷」及び「法的責任を逃れ るため、事故現場から逃げる」という情状がある場合、重大交通事故罪を認 定することができる。言い換えれば、重大交通事故罪の成否を判断する際に、

完全に交通規則違反行為による重大な結果によって、認定を行うというわけ でなく、交通事故を引き起こした後の態度も犯罪の認定に大きな影響を与え る。事故発生後の加害者の態度を犯罪認定の要件とすることは、実に、重大 交通事故罪の罪状を修正するものである。中国刑法第133条の規定によって、

行為者の行為が重大交通事故罪であるかを判断する際に、行為者の行為が、

「他人の重傷、死亡又は団体・個人の重大な財産損失」を引き起こすかどう かのみが考慮される。「交通事故発生後のひき逃げ」は1つの量刑情状に過 ぎない。これに対して、最高人民法院の上記「解釈」によって、「交通事故 発生後のひき逃げ」には量刑だけではなく、罪名認定という機能も求められ る。

 最高人民法院による「解釈」によれば、重大交通事故罪は完全な過失犯罪 でなく、特定な場合、それを故意の犯罪行為と看做すこともできる。即ち、

過失によって一定の結果を引き起こし(過失によって、1人以上の重傷を引 き起こし、事故の全部又は主要な責任を負う)、かつ事故現場から故意的に 逃げる場合(法的責任を逃れるため)、重大交通事故罪が成立することとなる。

この場合、重大交通事故罪は純粋な過失犯罪であるとは言えない。その場合、

法的責任を逃れるため、事故現場から故意的に逃げる不正行為が重要視され るため、それを故意の犯罪行為とするものとし、この状況は、中国刑法第 129条に定める「銃器紛失不申告罪」と類似する。このように重大交通事故

(10)

罪を理解すれば、交通事故発生後、「関連組織の責任者、自動車の保有者、

自動車の請負者又は乗客」は加害者のひき逃げを示唆し、被害者が救護を受 けないため、死亡した場合、これらの者を重大交通事故罪の共犯者とするこ とができないわけではない。この場合、運転者の行為によって、他人の重傷 を引き起こしたものの、その時点では、まだ重大交通事故罪を認定すること ができないが、ひき逃げにより、被害者の死亡を引き起こした場合だけは犯 罪となる。言い換えれば、この場合、行為者に重大交通事故罪が成立する主 な理由は、故意的にひき逃げ行為をしたことにある。したがって、「関連組 織の責任者、自動車の保有者、自動車の請負者又は乗客」は加害者のひき逃 げを示唆し、被害者の死亡を引き起こす場合、共同的なひき逃げ行為やひき 逃げに関する共同故意があり、中国刑法第25条に定める共同犯罪の条件を満 たすため、共同犯罪が成立する。

 但し、注意する必要があるのは、交通事故発生後、関連組織の責任者、自 動車の保有者、自動車の請負者又は乗客は、行為者のひき逃げを示唆し、被 害者が救護を受けられないため、死亡したとき、重大交通事故罪の共同犯罪 と認定されるのは、交通事故によって、1人以上の重傷を引き起こし、行為 者が全部又は主要な責任を負い、かつ、法的責任を逃れるため、事故現場か ら逃げ、重大交通事故罪が成立する場合に限る。これに対して、完全に事故 の結果によって、罪名を認定する他の場合、重大交通事故罪は過失犯罪であ るため、現行刑法の規定によって、それを共同犯罪と理解することができな い。もちろん、上記のひき逃げがあることによって、運転致死傷が認定され ることについては、司法機関が司法解釈を行うに当たって、刑法の規定を超 えて解釈を行うことができるかという問題がある。但し、それは本文の射程 外である。

3 「ひき逃げによる他人の死亡」

 中国刑法第133条は、重大交通事故罪が成立する場合、「3年以下の有期懲

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役又は拘役に処す。交通事故が発生してから逃げ、或いは、その他の特に悪 質な情状がある場合、3年以上7年以下の有期懲役に処す。ひき逃げによっ て、他人が死亡した場合、7年以上の有期懲役に処す」と定めている。その うち、「ひき逃げによる他人の死亡」は現行刑法の新しい内容である。現行 刑法の当該規定を、どのように解し評価すべきかを巡り、見解が分かれる。

問題は主に2つの方面に関わり、それは下記の通りである。(1)ひき逃げ の定義。(2)ひき逃げによる他人の死亡に対し、行為者に過失がある場合 に限るか、それとも、故意がある場合もカバーできるか。以下では、それぞ れを論じる。

(1) 「ひき逃げ」とは

 交通事故発生後のひき逃げに対し、学界においては、以下のような2つの 見解がある。ひとつの見解によれば、「ひき逃げ」とは、交通事故発生後、

法的責任を逃れるため、事故現場から逃げる行為を指している5)。行為者が 法的責任の追及を避けるための主観的な目的を強調しており、この見解によ って、ひき逃げは事故現場から逃げる場合に限らず、法的責任の追及を避け るためのひき逃げが確認できれば、行為者は被害者を病院に運んでから、法 的責任の追及を避けるため、病院から逃げ、或いは、交通事故発生後、警察 を呼び、交通警察による現場での調査を待ち、立保証の期間中、交通事故が 発生した都市から逃げることも、「ひき逃げ」となる。もうひとつの見解に よれば、ひき逃げ行為とは、主に、行為者が、交通事故発生後、事故現場か ら、又は現場と緊密な関係がある時空(時空の延長を含む)から逃げ、よっ て、被害者を救護する貴重な時間を無駄にさせる行為を指している6)。  現行刑法第133条における「ひき逃げによって、他人が死亡した場合、7 年以上の有期懲役に処す」という規定によって、交通事故発生後のひき逃げ を処罰加重情状としているのは、主に被害者の生命安全を考慮し、即ち、行

5) 「解釈」第3条。

6) 侯国雲「重大交通事故罪の法的解釈に関する欠陥の分析」法学2002年第7期43頁。

(12)

為者のひき逃げによって被害者治療が遅延するということを避けるため、交 通事故発生後のひき逃げを厳しく処罰するためである。即ち、その目的は、

加害者が積極的に被害者を救護することを促進させることにあり、行為者が 自主的に法的責任の追及を受けることを促進させることに止まらない。一方、

犯罪発生後、法的責任の追及を避けることは、世間ではよく見られるもので あり、それを、犯罪者に対する刑罰を加重する理由とするわけにはいかない、

よって、「交通事故発生後のひき逃げ」を「法的責任の追及を避けるための ひき逃げ行為」と理解することは正しくない。「道路交通安全法」第70条の 規定によって、道路で交通事故が発生した後、運転者は直ちに停車したうえ で、現場を保護するものとし、他人の傷害・死亡を引き起こした場合、運転 者は負傷者を直ちに救護するとともに、関連状況を当番の交通警察又は公安 機関の交通管理部門に報告するものとされている。交通事故発生後、行為者 が事故現場から逃げる場合、怪我をした被害者は救護を受けられないし、事 故現場を有効的に保護することができないため、責任を区別することができ ない。こういう意味では、「ひき逃げ」を、被害者を救護しないことだけと 理解することは正しくない。正しい理解は「交通事故発生後、被害者救護を 中心とする各義務を積極的に履行しない行為」となる。主観的な動機となる

「法的責任の追及を避ける」とは、法的処罰を避けることを指すのではなく、

各種の法的義務の履行を避けることを指す。上記内容によって、交通事故発 生後、行為者は被害者を病院に運び、被害者が救護を受けてから、行為者が 病院から離れる場合、法的責任の追及を避ける目的が認定されても、被害者 の救護が遅延しないため、それを交通事故発生後の「ひき逃げ」と認定すべ きではない。交通事故発生後、関連状況を自主的に警察に報告したうえで、

交通警察の現場調査を待ち、立保証の期間中、交通事故が発生した都市から 逃げる場合、それは交通事故発生後の「ひき逃げ」に該当しない。交通事故 発生後、交通現場から逃げずに、負傷者を救護したものの、自分の交通違反 の事実を隠し、他人に交通違反の責任を負わさせる場合も、「ひき逃げ」に 該当しない。但し、「他人に交通違反の責任を負わせる」という行為には、

(13)

偽証罪が成立する可能性がある。その反面、交通事故発生後、行為者は自動 車で逃げなかったものの、事故現場から遠くない場所に隠れて事故現場を観 察する場合、行為者は逃げなかったとしても、被害者救護の義務を負わなか ったため、なお、「交通事故発生後のひき逃げ」に該当する。

(2) ひき逃げ者の主観面

 「ひき逃げによる他人の死亡」とは、交通事故発生後、法的責任の追及を 避けるため、行為者は事故現場から逃げ、被害者が救護をうけないため、死 亡することを指す以上、行為者が事故現場から逃げる場合、被害者の死亡可 能性に認識がある場合もあれば、認識がない可能性もある。認識があるか否 かを問わず、「ひき逃げによる他人の死亡」という重大交通事故罪のみが成 立し、それを故意殺人罪と認定することはできない。

 通説によれば、「ひき逃げによる他人の死亡」ということは、行為者が「致 死」という結果について過失がある場合にのみ存在し得る。交通事故発生後、

行為者が、負傷者を放置すれば、死亡結果が生じる可能性を知りながら、事 故現場から逃げる場合、それを故意殺人罪と認定するものとする7)。たしか に、交通事故発生後、行為者が事故現場から逃げ、被害者が救護を受けない ため、死亡した場合、不作為犯の理論によれば、特定な状況下、不作為の故 意殺人罪を認定することができる8)。ところが、それは刑法理論の見解であ り、どのような場合に適用するかは、各法条の規定に従い、判定しなければ ならない。中国刑法第133条に定める「ひき逃げによる他人の死亡があるとき、

7年以上の有期懲役に処す」という内容について、それには、行為者が被害 者の死亡可能性を知りながら事故現場から逃げ、被害者が救護を受けないた め死亡するという不作為の故意殺人の状況が含まれる。その理由は下記の通

7) 高銘暄=馬克昌編集『刑法学』(北京大学出版社=高等教育出版社、7版、2016年)357頁。

8) 例えば、被害者が重傷を負い、かつ、行為者だけは被害者を救護することができ、他人から の救護が無理であり、或いは、他人に被害者への救護を期待することができない場合、救護義 務を負う人間が義務を履行できるにもかかわらず、それを履行しないとき、不作為の故意殺人 と認定することができる。

(14)

りである。

 まず、罪刑均衡原則の観点から分析すると、交通事故発生後のひき逃げ行 為について、それを別途に故意殺人罪と認定するわけにはいかない。不特定 又は多数の人の死傷を引き起こすという面から見れば、重大交通事故罪には、

公共安全危害という特性が見られるが、同罪の本体は、やはり過失致死罪又 は過失致重傷罪の一種であり、中国刑法は、重大交通事故罪と過失致死傷罪 をことなる犯罪と定めているが、中国刑法理論の通説によれば、重大交通事 故罪は過失致死傷罪の特殊なタイプである9)。中国刑法第233条の規定によっ て、過失致死罪に対し、3年以上7年以下の有期懲役に処す。情状が比較的 軽いとき、3年以下の有期懲役に処す。また、刑法第235条の規定によって、

過失によって他人の重傷を引き起こす場合、3年以下の有期懲役又は拘役に 処す。これに対して、中国刑法第133条の規定によって、過失致死罪又は過 失致重傷罪の特別類型としての重大交通事故罪に対し、最長で15年の有期懲 役に処す。犯罪の特徴として、重大交通事故罪と過失致死傷罪が同じである ものの、法定刑に大きな違いがあるという点について、重大交通事故罪の刑 罰規定は、交通事故で発生することが多く、重大交通事故罪で評価できるす べての要素を考慮に入れたものであるといえる。交通事故の場合、交通事故 発生後のひき逃げによる被害者の死亡がよく発生し、よって、交通事故発生 後のひき逃げによる他人の死亡という不作為殺人の状況を重大交通事故罪と 認定することができないわけではない10)

 一方、交通事故発生後のひき逃げによって、被害者の死亡を引き起こす行

9) 高銘暄=馬克昌編集『刑法学』(北京大学出版社=高等教育出版社、7版、2016年)459頁。

10) 中国刑法の規定には、このような状況がよく見られる。例えば、中国刑法第239条の規定に よって、財物強取を目的とし他人を拉致し、或は、他人を人質とする拉致を行い、拉致される 人質を殺すことについて、拉致罪が成立し、無期懲役又は死刑に処す。理論的に言うと、上記 の状況について、拉致罪と故意殺人罪が成立するものの、刑法はそれを拉致罪一罪と定めてい る(但し、普通の殺人罪又は拉致罪と比べると、その処罰は遥かに厳しい。また、中国刑法第 358条の規定によって、強姦後、他人の売春を強要する場合、売春強要罪が成立し、10年以上 の有期懲役又は無期懲役に処し、罰金又は財産の没収を併科する。この場合、行為者には強姦 行為や売春強要行為があり、本来は、2つの犯罪が成立するものの、中国刑法はそれを一罪と している(但し、より重い法定刑を定めている)。

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為は、不作為の故意殺人行為の特徴を有するものの、この行為に対し、どの ように、犯罪を認定し処罰を確定するかは、とても複雑な問題である。従来 は、交通事故発生後のひき逃げによって、被害者の死亡を引き起こす場合、

どのように処罰するかについて、学界において見解は分かれていた。「解釈」

の規定によれば、この行為は独立した犯罪を構成せず、重大交通事故罪の加 重処罰情状である。ところが、理論上の有力説によれば、当該行為は独立し た故意殺人罪を構成する11)。この行為によって、故意殺人罪が成立する場合、

同犯罪と先行行為に成立する重大交通事故罪について、どのように併合関係 を認定するか。この点について、学者間の意見が分かれる。当該不作為によ る故意殺人罪と先行の重大交通事故罪は、牽連犯となり、行為者に対して、

不作為の故意殺人罪として、罪名を認定し処罰するとする学者もいれば12)、 行為者に対し、故意殺人罪や重大交通事故罪を認定し、併合罪として処罰す るとする学者もいる13)

 たしかに、理論的に言えば、交通事故発生後、行為者のひき逃げにより、

被害者が死亡する場合、ひき逃げ行為と先行の交通違反行為の間は、牽連犯 の成立に必要な手段としての行為と目的としての行為の間、或いは、目的と しての行為と結果としての行為の間のような牽連関係が存在しないので、牽 連犯が成立すると言えず、実質的にはそれぞれ独立した数罪とし、併合罪と して処罰すべきである。ところが、この状況について、併合罪として処罰す る際に、どのように処罰すべきかが、問題となる。「解釈」によれば、交通 事故によって、一定人数の死傷者が出て初めて犯罪が成立する。交通事故に よって、1人が死亡する場合、ひき逃げの可能性があるが、「ひき逃げによ る他人の死亡」という結果がありえないため、この状況は、除外される。3 人以上が重傷となる場合、行為者の「ひき逃げによる他人の死亡」になる可 能性がある。この場合、行為者のひき逃げ行為があるため、「3年以上7年

11) 龔培華=肖中華『刑法の難題・争議に関する問題や司法対策』(中国検察出版社、2002年)

258頁。

12) 陳興良『刑法哲学』(中国政法大学出版社、1992年)233頁。

13) 趙秉志編集『刑事法実務に関する難題の研究』(人民法院出版社2002年)163-164頁。

(16)

以下の有期懲役」という範囲で適正妥当な量刑をすべきである。さらには、

行為者の「ひき逃げによる他人の死亡」という行為によって、故意殺人罪が 成立する。この場合、2つの可能性がある。1つは「情状が軽い」故意殺人 罪となり、3年以上10年以下の有期懲役という範囲で適正妥当な量刑をすべ きである。この場合、行為者に対し、各犯罪の法定刑範囲内の上限を選択し ても、多くとも10年~17年の有期懲役の範囲で宣告刑を判断する。それは、

重大交通事故罪で罪名を認定し、「7年以上の有期懲役」という範囲で刑罰 を選択することと、実質的な違いがない。もうひとつは、交通事故発生後、

行為者のひき逃げによって、他人の死亡を引き起こす行為は通常の故意殺人 罪となり、それに対し、「10年以上の有期懲役、無期懲役又は死刑」という 範囲で量刑を行い、その上、ひき逃げという情状のある重大交通事故罪と、

併合罪として処罰する。この場合、行為者に対する処罰が厳しく、死刑又は 無期懲役に処すことは別として、有期懲役に処す場合、最長20年となる。と ころが、総体的に見れば、実質的には過失致死罪である交通規則違反行為が、

行為者のひき逃げ行為によって、このような厳しい処罰を課せられることに は、やはり抵抗がある。

 「ひき逃げ」の本旨から見れば、死亡事故を引き起こすことに気付く状況 を含むといえる。刑法第133条に定める「ひき逃げ」とは、行為者が交通事 故の発生に気付いてから、事故現場から逃げる行為を指し、仮に行為者が交 通事故の発生に気付かないなら、「予見すべきであるのに不注意で予見しな かった」場合でも、事故現場から離れる行為を「ひき逃げ」と見なすことは できない。他人と衝突する交通事故に対し、正常な人は、自動車が人間の肢 体と衝突した後に発生し得る重大な結果を認識することができる。この場合、

行為者は事故現場から逃げれば、他人の死亡を期待するとまでは言えないが、

少なくとも他人の死亡を容認する(故意)といえる。他人の死亡の可能性を 予見すべきであるものの、予測できなかったこと、或いは、予見していたも のの、結果を避けられると軽信したため、当該結果が発生する場合(過失)

には、故意はありえない。したがって、「ひき逃げによる他人の死亡」の場合、

(17)

行為者が、他人の死亡に対し、過失だけがあり、故意がありえないという見 解は、実際の状況に相応しくない。また、行為者の主観的な認識のみを根拠 とし、客観的にまったく同じひき逃げ行為を2つの犯罪(故意殺人罪と重大 交通事故罪)とすることは、刑法的理論から言うと、主観によって罪名を認 定するというおそれがある。

 「解釈」第5条は、刑法第133条における「ひき逃げによる他人の死亡」の 意味を解釈し、「交通事故発生後、法的責任の追及を避けるため、交通現場 から逃げ、被害者が救護を受けないため、死亡する状況」を指す、としてい る。この解釈も、行為者がひき逃げをする時の心理や態度を特別に強調して おらず、これによって、交通事故発生後、行為者のひき逃げによる他人の死 亡という客観的な事実があれば、行為者が、被害者の死亡を希望したとして も、それを重大交通事故罪と認定し、「7年以上の有期懲役」という範囲で 処罰すべきである。

 一方、本条項を適用する場合、「ひき逃げ」と「他人の死亡」との因果関 係に注意を払わなければならない。両者の間に因果関係がない場合、本条項 を適用することはできない。具体的に言うと、十分な証拠によって、交通事 故発生時、被害者は生きられないほどの重傷を負い、行為者がその時に事故 現場から逃げずに、直ちに被害者を救護しても、救命できない場合、当該死 亡結果がひき逃げ行為によって、生じたものではないため、「ひき逃げによ る他人の死亡」という条項を適用できず、「事後のひき逃げ」という条項の みによって、行為者を処罰することができる。また、行為者が事故現場から 逃亡した後に、他人の行為によって被害者が死亡し、或いは、行為者のひき 逃げと認められない行為(例えば、事故現場から逃亡した後に、被害者が発 見されることによって、自分の罪が知られることを避けるため、事故現場に 戻って、被害者を殺す行為)がある場合、その前の交通規則違反行為による 重傷と他人の死亡の因果関係が切断されるので、この場合も、本条項を適用 することができない。

(18)

4 ひき逃げや故意殺人

 「解釈」第6条の規定によって、「行為者が交通事故発生後、法的責任の追 及を避けるため、被害者を現場から移転し、被害者を隠したり、遺棄したり し、被害者が救護を受けないため、被害者の死亡又は重大な身体障害を引き 起こす」という状況が発生した場合、それぞれを故意殺人罪又は故意傷害罪 を認定するものとする。この条項の適用について、2つの問題に注意する必 要がある。

(1) 本条に定めるのは、作為犯かそれとも不作為犯か

 ある学者の立場によれば、「解釈」は、「重大交通事故罪後のひき逃げにつ いて、不作為の故意殺人罪又は故意傷害罪が成立することができることを明 らかにしており、原則として、司法実務に対し、交通違反後のひき逃げを不 作為犯と認定できる根拠や認定方式についての根拠を提供している」。14)と ころが、この理解は正しくない。「解釈」に列挙される状況は、作為犯に関 する規定であり、不作為犯に関する規定ではない。理論的に言うと、作為犯 とは、人の積極的挙動によって刑法的規範に違反する行為を行うことを指す。

不作為犯とは、消極的挙動によって、刑法的規範に違反する行為を行うこと を指す。交通事故発生後、行為者が、重傷者を交通現場から移転し、被害者 を隠したり、遺棄したりすること、実は、それは、自己生存・自己保護の能 力がない被害者に重大な傷害を負わせ、それは被害者を殺し、或は、被害者 の健康を損なう行為であるに違いない、よって、それを、積極的挙動によっ て刑法的規範に違反する作為犯と見なすべきである。交通違反後のひき逃げ 行為に不作為犯が成立するのは、2つの場合にのみ存在する。ひとつは、交 通事故発生後、事故現場から逃亡し、「道路交通事故処理規則」に定める「事 故現場を保護し、負傷者や財産に関する救援活動を行い(負傷者や財産を移

14) 趙秉志編集『刑事法実務に関する難題の研究』(人民法院出版社、2002年版)163頁。

(19)

動する必要がある場合、関連位置を注記するものとする)、かつ、関連状況 を公安機関又は当番の交通警察に報告し、関連処分を待つ」という義務を履 行しない行為であり、この状況は真正の不作為行為であるが、中国刑法は、

この状況を独立した犯罪とせずに、それを重大交通事故罪の加重処罰情状と している。もうひとつは、交通事故発生後、事故現場から逃げ、特定の救助 義務を履行せず、作為犯として処罰されるべき行為である。例えば、交通事 故発生後、被害者が死亡の可能性がある重傷を負い、行為者以外の人間は、

他人からの救護が無理であり、或いは、他人に被害者への救護を期待するこ とができず、行為者が関連義務を負わなかったことにより、被害者が死亡す る場合、当該行為者に対して、故意殺人罪を認定することができる。行為者 は不作為という方法で、通常、作為の方法で実行される故意殺人罪の行為を 実行するため、不真正不作為犯に該当する。ところが、現行刑法は、この状 況に対しても、独立した故意殺人罪とせずに、重大交通事故罪の加重処罰情 状としている(即ち、「ひき逃げによる他人の死亡」という状況)。その理由 としては、中国刑法においては、不作為犯に関する明確な規定がないことに あると推測される。刑法理論上、不作為犯が大きな論争がある概念であるた め、罪刑法定原則のもとで、司法実務において、それを犯罪認定や量刑の根 拠とすることは困難である。

(2) 本条項が限定列挙かそれとも例示列挙か

 「解釈」第6条の規定によって、交通事故発生後、行為者が法的責任の追 及を避けるため、被害者を隠したり、遺棄したりし、他人の死亡又は重傷を 引き起こす場合、それを故意殺人罪又は故意傷害罪として処罰しなければな らない。この場合、下記の問題がある。即ち、交通事故発生後、故意殺人罪 又は故意傷害罪として処罰するものは、上記の2つの状況のみに限るか。言 い換えれば、「解釈」第6条の規定は、限定列挙かそれとも例示列挙か。私 見としては、それは、例示列挙であり、即ち、交通事故発生後、故意殺人罪 又は故意傷害罪として処罰できるものは、上記行為と類似の状況に限ること

(20)

を明らかにした。実は、交通事故発生後、被害者が重傷を負った後、行為者 が被害者を死なせる方法が多く存在し、上記の2つの方法に限らない。「解釈」

は、司法実務によく見られる2つの状況を列挙するだけで、必ずしもこの2 つの状況だけに限られるということを意味しない。したがって、今後の司法 実務において、上記の2つの状況と類似し、被害者の死亡又は負傷を引き起 こす行為が発生した場合、それを故意殺人罪又は故意傷害罪として処罰する ことができる。例えば、行為者が交通規則に違反し、自転車道を制限超過の 速度で運転し、自転車に乗る甲と衝突し、甲と甲の自転車が自動車の前のバ ンパーに引っ掛けられたが、行為者は、交通事故の発生を知りながら、法的 責任の追及を避けるため、周りの人間の叫びや阻止を無視し、運転を強引に 行い、被害者が自動車に挟まれて500メートルほど移動し、その結果、被害 者が重傷を負った。この場合、行為者は、被害者を遺棄したり、隠したりし、

窮地に陥らせる行為を行わなかったが、危害の程度から見れば、被害者の生 命や健康を無視し、自動車で他人を引き摺る行為は、故意傷害の行為と異な らないため、それを故意傷害罪と認定すべきである。

 ※本稿は、2018年7月19日に同志社大学で開催されたシンポジウム「東ア ジアの交通犯罪」において行った報告に加筆したものである。

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