公民館と地域の関係に関する研究
−公民館使用許可を中心として−
田中弘*
はじめに
筆者はこれまで猪山勝利氏・富永耕造氏等とともに,地域公民館を中心とした社会教育施設の 経営に関する研究を続けてきた(1)。
本稿では,これまでの地域社会づくりに対応する公民館の経営的対応に関する研究に立脚し,
公民館の使用許可をめぐる考察を,事例をまじえて試みることを目的としている。
I.公民館使用の実態 1 使用主体の区分
社会教育法(以下,「法」と略記する。)第22条(公民館の事業)の七は,「その施設を住民の集 含その他の公共的利用に供すること。」と規定している。使用の実態から,使用主体を次のように 区分する。
a公民館の主催共催事業による使用。
b教育行政及び公民館以外の社会教育機関による使用。
C社会教育関係団体による使用。
規模の小さい同好的グループ,地域に限らず職場や職域を母体として組織される学習・文化・
スポーツ団体も含むものとする。
d自主的主体的な住民集団による使用。
Cよりも自らの学習の成果を社会的または政治的に運動として高め,さらにまた学習を深める という循環作用を強く内包している集団である。実例として,消費者運動集団,女性の自立や社 会的地位の向上を追求する集団,生活協同運動集団,医療協同運動集団,自然保護運動集団,原 発を考える集団,公害をなくす運動集団,在日外国人集団,新しい教育創造をめざす運動集団,
平和運動集団,文化的イベント創造集団,地域おこし運動集団など多彩である。
e一般行政による使用。
fJ行政協力・援助団体による使用。
納税組合,消防団,交通安全協会,防犯組合,偉生組合,保護司会,遺族会など数が多い。
* 佐世保市大野地区公民館主事
−8−
g学校教育機関による使用。
校長会,教頭会,学校体育連盟,各種教科研究部会,学校給食会,栄養士会など近年とくに公 民館を使用することが多い。
h社会福祉団体による使用。
民生児童委員協議会,障害者の会,ボランティアの会,母子会,社会福祉協議会などがあるo
i産業団体による使用。
農協,魚協,商庖会,食堂組合,森林組合,建設業組合など多彩である。
j労働者集団や労働者組織による使用。
保健婦・公民館主事等の自治体職員研究集団,教員の自主的研究集団の使用が多く見られ,ま た労働組合さらに地域の勤労者協議会・教職員協議会の使用も見受けられるo
k企業・商社による使用。
企業・商社による使用は,のちに示すとおり近年多彩さを増している。
i教育産業や塾による使用。
おけいこごとの塾や学習塾での使用がある。
m政党や政治団体による使用。
n宗教上の組織もしくは団体による使用。
O地域の個人による使用。
2 使用目的の類別
各団体等の使用の目的により,次のような類別を試みるo
a社会教育を目的とした使用。
「社会教育」性が認められるもので,次の三つに分けられる。
第 1に,
r
交流・親睦」を目的とした使用。公民館主催事業の中にも社会教育関係団体,自主的 主体的住民集団等が実施する事業にも,交流・親睦を目的とした事業が多い。「交流・親睦」の事 業は,公民館活動や団体活動の「導入」さらには活動途上での「発展」への、活性化という意義を 持ち,極力使用許可するように心がけねばならない。第2に,
r
学習」を目的とした使用。使用主体のうち社会教育における「学習」性が認められる ものとして, 1‑1のaからdおよびhがあるが,r
労働者集団・労働者組織」とくに労働組合に よる学習は憲法学習から趣味教養を高める学習まで,国民の自己教育・相互教育という社会教育 の学習の基本理念を苧んだ学習を幅広く展開していることに着目しなければならない。次に「企業・商社」では,近年とくに社員を対象とした「父親学級
J r
同和学習J r
定年後の生活設計学習」などが行われており,またこれからは,営利事業としてではない一般住民を対象と した「講演会
J
なども多彩になることが予測される。なお社会教育関係団体と自主的主体的住民集団の社会教育における「学習」性の比較において,
現代公民館の学習が生活実践化・社会的実践化を問われている点から,前者よりも後者にこそ強
い「学習」性が認められる点も,公民館使用許可にあたっては充分考慮、しなければならない。
第3に, I地域社会形成」を目的とした使用である。我々研究集団においても「公民館の地域社 会形成援助J機能の現代的意義仰を主張してきたところであるが,地域社会にとっても,人々の生 活や文化を充足していくに足る新しい地域社会へと,住民自らの力で協同・連帯を深めつつどの
ように形成していけるかが間われている。
1 ‑1に区分した団体等では,それぞれが掲げる目標や活動領域にしたがって, I地域課題の把 握
J I
地域情報づくりJ I
先導的リーダーの組織化や育成J I
集団・組織の組織化や育成J I
地域づ くり相談対応J I
地域環境づくり事業J I
地域健康づくりJ I
地域レクリエーション・スポーツづく りJ I
地域生活づくりJ I
地域福祉づくりJ I
地域教育づくりJ I
地域文化づくりJ I
地域産業づくり」「平和づくり
J I
人権づくりJ I
地域総合活動づくりJ<3)等と相互に連関しあい,その活動の拠点を 公民館に置き,また置こうとしている。会議の開催,自らのまた他との交流会・親睦会の実施,学習会の実施,資料の作成,各種の行事の実施等の使用の形態を見ることができる。
「社会教育関係団体」の中の,とくに趣味や教養の向上を目的とする小規模集団では,集団自体 が内包する閉鎖性や活動の停滞性からの脱皮の方策として「地域化J<4)を選択するようになり,地 域社会形成の重要な役割を担いつつある。
「自主的主体的住民集団」では,そのもの自体が苧んでいる社会性・政治性の故に,地域社会形 成へもっとも強いアプローチを描いているo
「社会福祉団体」では,その目標とするところが「地域福祉づくり」である故に,地域社会形成 の中核的存在として,環境,健康,教育,文化,産業,平和,人権の分野との連関した動きが顕 著である。
「産業団体」では,商店会を筆頭に地域でのイベントに取り組んでいるし, I労働者組織」の中 でも,地域の勤労者協議会は地域の環境問題に,地域の教職員協議会は子どもの教育問題に地域 の父母と連帯しつつ取り組んでいる事例も多い。
「企業・商社」でも,展示会等の形態を取りつつ「地域健康JI地域生活JI地域文化」の領域 で,住民の地域社会形成援助を図ることもあるD
b学校教育を目的とした使用。
学校教育行政,学校教育機関による使用がこれにあたるO
C行政の目標達成を目的とした使用。
一般行政,行政協力・援助団体による使用がこれにあたる。一般行政の各部門では近年とくに,
住民を対象とした「講演会
J
等の学習機会を設けている。一般行政による学習は,行政目的の遂 行の域を脱するものではなく,教育基本法に裏打ちされた「学問の自由」や「学習の自由」は含 んでいない傾向が強い。したがって社会教育における「学習」とは区別する。d営利を目的とした使用。
「企業・商社」は展示即売会や利潤追求活動の一環としての営業会議や社員の研修会,社員の福 利厚生のための会社側主催のレクリエーション大会等, I教育産業・塾」では,説明会や合同学習
会,発表会等の使用が見られるo
e政治活動を目的とした使用。
「政党・政治団体」での使用であり,報告会,囲む会,後援会,励ます会等,使用の形態は多様 である。
f宗教的活動を目的とした使用。
「宗教上の組織・団体」による使用である。
g私事を目的とした使用。
個人的な各種祝賀会や,冠婚葬祭での使用が見られる。
II.公民館使用許可の実態
各自治体では, I条例Jにより使用許可の規定を設けているo その中で a原則有料とし減免規 定を設けている。 b原則無料とし料金規定を設けている。 C使用料についての規定を持たない。
の3つのタプがある。 aタイプがもっとも多く,次いでb,Cは僅かである(5)。
社会教育を目的とした使用,行政目標達成を目的とした使用がaタイプでは減免対象となり,
bタイプでは無料となるケースが多い。なお減免率も同じ社会教育関係団体でありながら,公民 館使用が長期化するほど,低いという自治体もあり一様ではない。
使用料に関する規定や運用は,自治体の財政基盤,社会教育環境醸成姿勢,公民館の施設規模 の大小等により相違するところである。
使用主体及び使用目的から見る使用許可の実態はII‑l表のように多様である。
使用許可に際しての問題点を次のとおり指摘するo
第1に,社会教育を目的とした使用に際し減免措置が適用されたとしても,有料であることは,
社会教育行政が住民の社会教育環境醸成の役割を担っている点から問題であるo
第2に,企業・政党・宗教関係を除く住民の組織に対し,行政に批判的見解を持っているが故 に使用を許可しないということは,憲法が定める「思想、・良心の自由JI集会・結社の自由JI学 問の自由」に照らしても再考を要する点である。
第3に, I社会教育とは何か」の判断次第で「社会教育を目的とした使用
J
であるにも拘らず,政治的活動や営利事業として解釈されている問題があるo
I
自主的主体的住民集団J I
労働者集団・労働者組織」による使用の際に散見され,自治体の社会教育環境醸成姿勢に起因するところであ る。
第4に, I学校教育を目的とした使用
J
について,社会教育ではないという理由から使用許可に ついての判断が適正さを若干欠いているのではないかという問題である。少なくとも「行政の目 標達成を目的とした使用」と同様に「公共的利用」と解釈すべきであるo第5に, I政治的活動を目的とした使用
J
I宗教的活動を目的とした使用J
については消極的見 解に基づき使用許可しない判断(6)もあるが,積極的な判断が待たれる。公 民 館 使 用 許 可 の 実 態
孟日里 1 T
社会教育 学校教育 行 政 の目標達成 営利事業 政治活動 宗 教 的活 動 私 事公 民 館
。
( 主 催 共 催 事 業 )
教 育 行 政
。 。
社 会 教 育 施 設
社 会 教 育 関 係 団 体
。 。 。 。 ム
自 主 的 主 体 的
。 。 ム × 。 ム × 。 ム × × ム
住 民 集 団
一 般 行 政
。
行政協力・援助団体
。 。 。 。 。 ム
学 校 教 育 機 関
。 。 。 。 ム
社 会 福 祉 団 体
。 。 ム 。 。 ム 。 。 ム 。 。 ム
産 業 団 体
。 。 ム 。 。 ム 。 ム . 。 。 ム
労 働 者 集 団
。 。 ム × 。 。 ム × 。 。 ム × 。 ム ×
労 働 者 組 織
企 業
.
商 社。 。 ム ×
0ム 企 ×
教 育 産 業 ・ 塾
× ム × ム
政 党 ・ 政 治 団 体
× ム
宗教上の組織・団体
× ム
地 域 の 個 人
× ム
11‑1表
無料使用許可 使用料減免使用許可 有料使用許可 使用料割増使用許可 使用不許可
︒
︒ ム 企
×
III.新たなる公民館の創造 望まれる使用許可のあり方
全国公民館連合会「公民館のあるべき姿と今日的指標」は,公民館の基本的役割を「集会と活 用j,中核的な役割を「学習と創造j,究極的な役割を「総合と調整
J
とし,基本理念を「人間尊 重 の 精 神jr
国民の生涯教育体制の確立j,そして「住民の自治能力の向上」を究極のねらいとし1
た(7)。
公民館をあまねく地域の人々に開放するということは,
r
公民館のあるべき姿と今日的指標」が 提唱する公民館の役割・理念からも,自治体の社会教育環境醸成という見地からも,必要にして 最少限度の条件である。ここでは,公民館の使用許可に際して望まれる今日的視点を次のとおり明確にする。
第1に,
r
社会教育」性の積極的解釈の視点である。憲法・教育基本法・社会教育法・文部省設 置法等の法概念から a憲法の理念の実現, b実際生活に即した教育 c国民の自発的精神に基 づく教育, d文化の創造と発展に貢献する教育" eあらゆる機会・場所において行われる教育,f学校の教育課程外の組織的教育活動 g教養の向上・健康の増進・生活文化の向上・社会福祉 の増進を目的とする教育, h公 民 教 育 青 少 年 教 育 ・ 婦 人 教 育 労 働 者 教 育 等 の 社 会 人 に 対 する教育 k生活向上のための職業教育・科学教育・運動競技・レクリエーション 1図書館・
博物館・公民館等の施設における活動,が社会教育であり,住民の自主的主体的社会教育を奨励 する国や自治体は,環境を醸成し条件を整備するものとしているo
aについては,生存権・生活権問をはじめとする基本的人権や国民の義務,戦争の放棄や平和の 希求等の理念を国民一人一人が誠実に守っていくための普段からの学習と実践を意味するもので
ある。
jについては,これまでとくに労働者教育という視点が欠落していたきらいがあるo
故にこれからの公民館使用許可に際しては,憲法学習での使用や「労働者集団・労働者組織」
による使用をはじめ,さらに公民館の「地域社会形成」援助の視点からも「社会教育
J
性を広く 捉えた使用許可の判断が必要である。第2に,
r
素朴な大衆運動」性の積極的容認の視点であ石。「素朴な大衆運動」とは a住民の 中から自主的に生まれた組織, b民主的な組織運営の原則を貫いている組織 c主体性を確立し ている組織, d生活課題や現代的社会的課題解決のための学習を深める組織 e課題解決のため に地域変革等の実践力を自ら備えている組織 f課題解決のために行政・政治・社会に働きかけ ようとする組織である。 11‑1表の使用主体のうち「自主的主体的住民集団」の中にもっとも多 くの「素朴な大衆運動」性を見ることができるo公的社会教育における学習成果の生活実践化・地域実践化・社会実践化が関われている今日,
「素朴な大衆運動j性を内包する集団の存在は,地域社会形成の上でも期待されるものであり,
公民館使用許可にあたっては積極的に対応する必要がある。
第3に,
r
排除をしない原則jの視点である。現行政に批判的見解を持っているから等で使用不 許可にすることは認められない。地方自治法第244条(公の施設)からも明らかであり,不当な差別的取扱も禁じられている。
しかし教育基本法第10条(教育行政)の概念とはかけ離れた使用許可も散見され,今日こそ教 育行政の「行政的中立性J<
しかも地域社会形成の上カか亙らも,
r
排除をしない原則」が守られることこそ肝要である(1ヘ 第4に,公民館の使用料は無料とする「無料の原則J(ll)の視点である。教育の機会均等の原則や地域社会形成援助という現代公民館の役割達成上からも一部「目的外」使用は別としても,この 原則が生かされなければならない。
第5に,法第23条の積極的解釈の視点であるo
「営利事業
J
に関しては,公民館が主催することを禁じているのであって,公民館使用を禁じて いるものではなく,有料での許可であれば正当な対価を徴しての許可であって援助したことには ならない。次に「特定の政党・特定の候補者」に関しては,選挙の期間中における公職選挙法による取り 扱いは別として,特定の政党・党派に偏ることなく,使用の申請があれば,すべてに対し平等に 使用許可すべきであるo
ただし本来の公民館活動に支障をきたさない限りにおいてであり,使用料を徴収するのであれ ば,公民館として特定の政党・候補者を支持することにはならなし」
最後に「宗教」に関し,憲法第89条は,宗教組織団体及び公の支配に属しない慈善・教育・博 愛の事業に対し公金・公の財産を支出または利用に供してはならないと規定している。この中か ら宗教関係のみ読み取ると,憲法の立法趣旨たる「信教の自由
J
と「政教分離の原則J
を具体化 したものでもある。1949年,法務調査意見長官回答としての「憲法第89条の解釈について」によると,公の財産の 中でも一般私人に利用を広く認めている「公共用財産」となる公民館については利用に供しても 構わないと解釈している。さらに1959年,自治省行政課長回答「宗教団体に対する財産の貸付」
によると,普通財産である地方公共団体の財産を公正な対価を徴して貸しつけるものであるかぎ り法には抵触しないと回答している。
以上からも公民館使用を使用料を徴して許可することは,支援することにはあたらない。
2 新たなる公民館創造の条件
4次にわたる臨時教育審議会答申は, I生涯学習体系への移行」を打ち出したものの,地域にお ける生涯学習推進の中心的役割を果す「公民館
J
については,まったくと言っていいほど,その 奨励策には言及していない。さらに国の生涯学習政策に迎合するかの如く,公的社会教育の終意論・解体論(12)を説く論者さ えもいる。
草創期の公民館には,戦後の荒廃した状況の中での郷土づくりの必要という時代的背景はあっ たにしても,
I
民主主義の普及J I
新憲法の精神の浸透J I
封建制や迷信の打破J I
人権の尊重J I
男 女平等J I
生活改善J I
冠婚葬祭の簡素化J I
婦人の地位の向上J I
人間関係の改善J I
公明選挙の推 進」などの地域づくりや人づくりをすすめる上での課題解決が期待され,公民館関係者の必死な 努力が続けられてきたのである。しかし今日,これらの課題は決して解決しておらず,むしろ以前にも増して課題性が高まって いるものすら存在するo しかも戦後45年間ひたすら経済優先政策をとり続け,経済大国と言われ
るまでにはなったものの,国内的な歪みや矛盾は質量ともに増大の一途をたどり,さらに諸外国 との比較においての文化水準の低さや,一人一人の国民の主体性欠如は憂うべき状況にあるo
これらの課題すべてに公民館が拘れるわけではないにしても,公民館の果すべき役割は肥大化 する一方である。
国の奨励策を待つまでもなく,社会教育の本旨(市町村中心主義)に戻れば,市町村自治体自 体の努力によって公民館を充実していかなければならないのであるが,脆弱な財政基盤,社会教 育に対する認識や理解も弱い現状で,公民館振興を図るには,どのような具体策があるのか,理 論的にも実践的にも今からという感が強い。
「社会教育を住民の権利として踏まえた上で,住民参加を前提とし,公民館が住民の自由で自主 的な学習・文化・スポーツ活動を保障し,公民館が住民とともに地域づくりに取り組むこと
J
を 提唱する論者(1へこれからの公民館が「社会的に不利益を受けている人・忘れられた人々へのサ ービス・援助J r
切実な生活権・生存権課題による内容編成J r
地域づくりと住民自治の拠点とし ての復活」この3点を重点的に絞っての挑戦を主張する論者(1ぺ無論,我々研究集団も「地域社 会形成援助を中心に据えた公民館経営」を主張してきたのであるが,以上3つの主張には,r
職員 の自覚と専門的力量の発揮Jr
住民参画Jr
職員と住民の協同と連帯Jの原則が前提となっているo新たなる公民館創造の視点、からの公民館使用許可をめぐる問題は,とくに公民館危機の時代に あっては,
r
職員論」と「住民参画論」を抜きにしては論じられない。(1) 職員集団の形成
これまで言われ続けているように,
r
公民館主事の専門職化J
(15)が制度として確立していない以 上,住民本意の公民館経営が困難なことではあるが,それでもさまざまな精神的葛藤と対崎しつ つ,民主的な公民館経営に全力を傾けている職員も多い。とくに近年,専門制を無視した人事移動が頻繁に行われるに及び,左遷意識の発生,公民館主 事としての身分保障の不安定化,昇格問題,仕事に対する不安などを惹起し,公民館本来の役割
を担えないでいるところも見受けられるD
だからこそ,もちろん本来的にも職員相互の交流・意見交換・共同実践・共同研究などをすす める職員集団の形成が大きくは次の2点から必要であるo
第1‑に「公民館主事としての姿勢の確立jにある。公民館の使用許可をめぐっても,法解釈を はじめ社会教育とは何かという認識もこの職員集団の中で育っていくものである。
公民館職員の基本姿勢は,
r
公民館は住民中心の運営が貫かれ,住民の自由で自主的な学習・文 化・スポーツ活動を住民の権利として保障し,住民とともに歩みつつ地域づくりをすすめる。J
そ の担い手が公民館職員であり,このことを自覚し日々実践するということである。決して自分本 位や行政サイドの発想に陥ってはならないということであるo第2に「教育専門職員としての専門的力量の磨きあい高めあい」である。専門的力量とは基本 的に,住民の自由で自主的な学習・文化・スポーツ活動を住民の権利として保障していける力量 であるo
住民の諸種の活動の中に「社会教育」性を科学的に立証し援助できる力,不当な支配や権力を 科学的にはねのけることができうる力,社会や地域や生活の中にある課題を解決していくための 学習や運動を組織できうる力,住民の主体性を確立するための援助ができる力,地域の自治能力
を高めるための援助ができる力である。
片野親義氏は,
r
地域の実態や動向を科学的にとらえ,住民の要求を的確に把握できる力量J r
住 民の生活課題を,住民の自主活動としての学習・文化・スポーツ、活動へと展開させていく援助の できる力量J r
地域の未来を住民とともに構想し具体的に設計できる力量J
と主張している(1ヘ当 然のことであるが,地域主義に立脚している点で評価できるo以上の2点を職員集団形成の必要性として捉えてきたが,この他にも「公民館主事の専門職制 度の確立
J r
公民館主事の昇格格付けの改善J r
教育委員会としての公民館主事の独自採用」等,新たなる公民館の諸制度を確立するための布石ともなるのである。
(2) 住民の組織化
住民本位の公民館経営という原則を貫くために,社会教育委員や公民館運営審議会が設けられ ているが,民主的な社会教育行政や公民館経営が達成されているかというと決してそうでないと ころもあるo
社会教育委員や公民館運営審議会には社会教育関係団体の代表が入ってはいるものの,委員の 選定にあたって例えば行政に批判的な人等は公選制ででもない限り排除される傾向にあるであろ
つ。
このことから,社会教育委員制度,公民館運営審議会制度のみをもって真に民意を反映するこ とができるかどうか,疑問も残るo
公民館使用許可に関しても,その判断は教育委員から専決事項として館長に委任されているの であるから,住民の意見を充分に尊重する姿勢次第で,民意を正しく反映できるのである。
さらに民意の反映は,公民館使用許可に関するものだけでは勿論ないが,社会教育委員や公民 館運営審議会だけでなく,公民館経営に参画できる住民の組織がいくつも組織されていることが 肝要であるo
住民の組織としては,誰もが加入できるようにしておくことが前提であり,今日,現代的な課 題別に, (切実な生活権・生存権的課題別に)組織されなければならない。
つまり,
r
地域の文化を創造する組織J r
健康を守る組織J r
地域の教育を創造する組織J r
地域 福祉を創造する組織J r
地域生活を創造する組織J r
地域スポーツ・レクリエーションを創造する 組織J r
地域産業を育てる組織J r
人権を高める組織J r
平和を推進する組織J r
自然を守る組織J
などが想定されるo
これらの組織には,地域に住む人の中からその課題に対する日常活動をしている人もまた単に 興味関心を持っているだけという人も加入することを前提に,調査・研究・地域課題の発見・広 報・計画の策定・事業実施・他組織交流などを実施する組織である。
そしてこれらの組織は,公民館使用許可のあり方も含めての新たなる公民館の創造と社会教育
‑16‑
行政のさらなる民主化のために,次の視点、を持ちつつ,あらゆる角度から公民館の経営に参画し ていかなければならない。
第1に,社会教育を住民の権利として捉える視点である。今日,社会教育を権利として捉える 住民はまだ少ない。
このような捉え方が高まらない限り,住民自身のさらには集団自体の主体性は確立しにくいし,
住民同志の,集団関の協同や連帯も育ちにくし=。
第2に,住民の要求を組織化する視点である。住民の多種多様な要求を把握し,整理検討し,
自らの組織による計画を策定し,必要に応じて事業実施に移す。さらに公民館へ(17L社会教育行 政へ,行政へ,関係機関へ,要求を自分たちの責任において提出することも多い筈であるo
第3に,社会教育委員・公民館運営審議会と関連する視点であるo これらの組織の活動が公的 社会教育に絶えず影響を与えるように意図しなければならない。
できれば組織の中から委員に選ばれることが望ましいが,繋がりがもてる委員を探しだし,情 報を提供したり,要求を提出したりもしなければならない。
上記外での公的委員会とのつながりを模索することも重要である。
第4に,公民館主事と連携・協同する視点であるo公民館主事は,これら組織を援助・支援す る基本的役割を担っている。他組織・各種集団・各種機関との連携・協同のために,また住民本 位の公民館経営をすすめるためにも公民館主事との連携・協同は重要である。
IV.公民館使用許可基準の現状
ここでは, 17の公立公民館を有するS市の事例をもとに分析をすすめる。
1 使用許可基準の現状
S市の「公民館条例jでは,
r
法の規定に基づき,公民館を設置」するとし,したがって条例に 明文の「使用許可基準jが規定されているわけではないが,法の定めるところによることが読み 取れる。のちに見る内規「貸与の基準」により「使用許可基準」の明文化が試みられている。ただし「法令に違反する使用の恐れがあると認めたとき・公民館の管理運営上,支障があると 認めたとき・条例または規則に違反したときjは使用許可の取消・制限・停止ができる規定も設 けられている。
さらに使用料については,
r
公民館の使用料は,徴収しない。ただし,社会教育を目的としない もの(市が主催して行うものを除く)については,別表により使用料を徴収するJ
となっているoつまり,
r
社会教育」性が認められる使用及び市が主催する使用については無料なのである。「公民館条例」に基づき「施行規則」を教育委員会規則として定めているが,これは単に使用上 のルールを定めたものに過ぎない。
さて使用許可基準として明文化されたものに,教育委員会の内規となる「公民館の貸与基準」
カまあるo
この「貸与基準」は,
r
貸与の根拠Jr
社会教育の定義Jr
社会教育関係団体の定義」を示してい‑17‑
る。
まず「貸与の根拠」であるが,法的根拠として法第22条第7号「その施設を住民の集会その他 の公共的利用に供すること。」であることを明らかにしている。
次に,
r
社会教育の定義Jでは,法第2条(社会教育の定義)のみをあげている。最後に,
r
社会教育関係団体の定義J
については,法第10条(社会教育関係団体の定義)をあ げ,具体的にその団体・グループ名を記しているo さらに「社会教育関係団体に準ずるもの」と して,r
公共のためまたは行政機関の援助協力のために主たる活動を行う組織団体,社会福祉のた めの活動を行う団体」を列挙しているDまた「公民館長の判断で,無料としていいもの」として,
r
地域産業団体の事業で地域産業の振 興に寄与するもの・企業が社会教育を目的とする活動を行う場合・全市的な職域集団または学習 集団が社会教育を目的とする活動を行う場合」を挙げている。なお使用料を徴収するもの(条例でいう社会教育を目的にしないもの)として,
r
学校教育に関するもの
J r
宗教活動のために使用する場合J r
企業商社等が使用する場合J r
興業のために使用する場合J
r
塾的な目的で使用する場合」があり,使用を制限するものとして,r
違法行為特に法第23条に抵触する場合,目的外使用での酒類飲食を伴う会合の場合」を挙げている。
2 使用許可基準についての考察
条例・規則・内規を概観してきたが,ここではこれらを包括して考察する。
まず「使用料は徴収しない」とした無料の原則は評価できるo全国的に原則有料にし減免規定 を設ける事例が多い今日にあって,法の精神を忠実に活かしている。
次に,
r
社会教育の定義」は,社会教育法だけでなく,教育基本法第7条,文部省設置法第2条 の7をも示すべきで,勿論立法論のみに留まることなく例えば1971年の「社会教育審議会答申」からも引用すべきではなかったろうか。また「社会教育行政のさらなる民主化や新たなる公民館 の創造Jという視点にたち,枚方テーゼ以下,先駆的・先進的自治体などの提言(18)類を積極的に 活かすべきである。
ただし「貸与基準」の中の団体名などの具体的列挙を見ると,団体名など記載なきものについ ては有料での許可という傾向を苧みつつも,地域主義の視点よりの積極性が部分的なものは除い て窺われ評価に値する。
なお,筆者が主張してきた「素朴な大衆運動
J
性への積極評価の視点からの対応が明らかでな く,今後の理論的・実証的研究がまたれるo最後に,本稿では「公民館使用許可基準」としておいたが,
s
市の場合は「貸与基準」となっ ている。「使用」と「貸与J
とでは主体性が住民側にあるのか行政側にあるのかという疑問が残 る。「住民本位の公民館経営J
の視点、を貫き「使用基準J
とすべきである。以上のほかにも,これまで述べてきたように,
r
住民本位の公民館経営Jr
地域社会形成援助を めざす公民館経営」という基本理念・基本方針に則った「公民館使用許可基準」が積極的に研究‑18‑
されなければならない。
註
1 )長崎県社会教育研究会「学習社会時代の公民館」長崎県公民館連絡協議会, 1983年 田中弘「地域社会づくりと公民館まつりJ月刊社会教育312号,国土社, 1983年
猪山勝利・田中弘・富永耕造「社会教育施設経営に関する研究」長崎大学教育実践研究指導 センタ一年報1号, 1986年
猪山勝利・田中弘「地域形成と公民館一公民館行事を中心として
‑J
日本社会教育学会九州 6月集会(鹿児島大学)発表草稿 1986年猪山勝利・田中弘「地域社会の形成と公民館経営」長崎大学教育実践研究指導センタ一年報 2号, 1987年
2 )猪山勝利・田中弘・富永耕造「社会教育施設経営に関する研究」前掲書 3 )猪山勝利・田中弘・富永耕造「社会教育施設経営に関する研究」前掲書 27頁 4 )猪山勝利・田中弘「地域社会の形成と公民館経営
J
前掲書 32頁5 )社会教育推進全国協議会編「社会教育・生涯学習ノ¥ンドブックjエイデル研究所1989年, 172 頁
6 )西ヶ谷悟「実践的公民館経営術」教友社, 1981年, 86頁
7 )全国公民館連合会編「公民館のあるべき姿と今日的指標J1967年, 49頁'"'‑'76頁
8 )小林文入氏は,これからの公民館が「切実な生存権的課題」による,学習の内容編成に力を 注ぐべきと述べている。
小林文人「公民館の再発見」国土社, 1988年, 46頁
9 )猪山勝利「教育演習双書社会教育」学文社, 1973年, 227頁
10)松崎頼行「学習主体の形成と鶴ケ島町の生涯教育
J
月刊社会教育 No.386, 1988年, 84頁 島田修一「社会教育の自由と自治」青木書庖, 1985年11)猪山勝利「学習社会時代の公民館」長崎県公民館連絡協議会, 1983年, 20頁 12)松下圭一「社会教育の終罵
J
筑摩書房, 1986年高梨昌「臨教審と生涯学習」エイデル研究所, 1987年 13)島田修一編「地域にくらしと文化をひらく
J
国土社, 1987年 14)小林文人編「公民館の再発見」前掲書15)反論を試みたいところであるが,
I
専門職J
はいらないという論もある。渡辺義彦「公民館を 遊ぶJ
径書房, 1988年, 151頁専門職として制度化した事例:松本市教育委員会組織規則,貝塚市の専門職に関する要項「社 会教育・生涯学習ハンドブック」エイデル研究所, 1989年, 320頁
16)片野親義・島田修一編「地域にくらしと文化をひらくJ国土社, 1987年, 183頁
17)松本市では,公立公民館が町内・住民・集団から提出された要望を実現していく役割を担っ
ていくことを明文化している。松本市「町内公民館活動のてびき
J
(1988年)I
社会教育・生涯 学習ハンドブック」エイデル研究所, 1989年, 164頁18)枚方テーゼ・枚方市社会教育委員の会答申「社会教育をすべての市民に
J
1963年 下伊那テーゼ・長野県・飯田・下伊那主事会提案「公民館主事の性格と役割J1965年 三多摩テーゼ・東京都社会教育部「新しい公民館像をめざしてJ
1974年上記はいづ、れも社全協発行「社会教育4つのテーゼ