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大学生活における充実感と母子関係の関連性

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Academic year: 2021

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全文

(1)

1) 富山県高岡児童相談所

2)本研究の調査対象者と調査手続きは、小林・宮原(2012)

と同一である。

大学生活における充実感と母子関係の関連性

小林  真・宮原 千佳

1)

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キーワード:充実感、母子関係、精神保健

Key words  :  IXOILOOPHQWPRWKHUFKLOGUHODWLRQVKLSPHQWDOKHDOWK

問題と目的

 小林・宮原(2012)は、大学生活における充実感 の3つの因子得点に基づいて、大学生を7つのクラス ターに分類した。クラスター間の自己開示動機を比較 したところ、充実感は高いが他者との関わりを求めな いタイプの学生や、孤独感が高く友人に対して受容的 なサポートを求めるタイプの学生などがいることを明 らかにした。

 しかし小林・宮原(2012)は、なぜこのようなタ イプの違いが生じたのかについて、生育歴との関連性 や発達障害との類同性を指摘するにとどまっている。

したがって、それぞれのクラスターの生育歴を検討す ることは、学生個々の精神的健康を理解するために役 立つと考えられる。

 大学生の生育歴については、久保田(1995)が、

幼児期と中学校時代の母親に対する愛着と、現在の内 的ワーキングモデルの調査を行った。現在の内的ワー キングモデルに関する安定・両価・回避の3つの尺度 得点と、過去の母子の愛着との相関を求めたところ、

安定傾向は幼児期の愛着と中程度の相関を示した。し たがって、幼児期の愛着関係が現在の内的ワーキング モデルとある程度の関連を有していることがわかる。

 しかし久保田(1995)の報告では、内的ワーキン グモデルの安定傾向と現在の愛着の相関係数は有意で はあるが、幼児期の得点との相関よりも低かった。回 想法による調査では、測定値が実際の愛着関係を正し く反映しているかどうか不明である。特に、幼児期に 関する記憶の正確さも十分に保証されていない。そこ で、もう少し記憶が鮮明である小学校時代を想起し

て、母親との愛着関係を調べてみる価値があると思わ れる。

 そこで本研究では、小林・宮原(2012)が分析に 使用しなかったデータを用いて、それぞれのクラス ターの生育歴の特徴を明らかにすることを目的とす る。本研究では、7つのクラスター間で、児童期の母 親に対する愛着と現在(青年期)の母親との関係性を 比較する。

 本研究における仮説は次の通りである。

①充実感・責任感が低く、孤独感が高かったクラス ター3とクラスター6の学生は、児童期・青年期共 に母子関係がよくないであろう。

②充実感・責任感が高く自己開示動機が全体に低かっ たクラスター5の学生は、自己愛的なパーソナリ ティ傾向を有するとすれば、母子関係がよくないで あろう。もし母子関係が良好であった場合には、パー ソナリティ障害の可能性は低く、むしろ高機能広汎 性発達障害の可能性が高くなるであろう。

方 法

2)

対象者 富山県内の大学生203名(男性76名、女性 127名)。平均年齢は21.3歳(SD=2.63)。

手続き 質問紙調査を実施した。245部配布し、有効 回答は203部であった。

調査内容 4つの尺度を調査に用いたが、本研究では そのうちの3つの尺度を使用する。

(1)充実感に関する尺度 大野(1984)の20項目か らなる尺度を用いた。よくあてはまる(5点)〜全く あてはまらない(1点)の5件法で回答を求めた。な おこの尺度は、小林・宮原(2012)により3因子構 造であることが明らかになっている。

(2)

(2)児童期の母親への愛着尺度 佐藤(1993)の「回 想された親への愛着尺度」の項目を、母親に関する表 現に変えて使用した。小学生だった頃の母親への愛着 を回想させる20項目からなる。あてはまる(5点)〜

全くあてはまらない(1点)の5件法で回答を求めた。

(3)現在の母子関係尺度 落合・佐藤(1996)が作 成した「親子関係に関する尺度」から、各因子の負荷 量が0.4以上である項目を選定した。さらに複数の因 子にまたがって0.3以上の負荷量を示す項目を削除し た。そして、項目の表現を母子関係について尋ねる表 記に変更した。本研究では、現在の母親との関係を測 定する45項目を作成した。よくあてはまる(5点)〜

全くあてはまらない(1点)の5件法で回答を求めた。

調査時期 2007年12月に実施した。

結 果

 本研究では、小林・宮原(2012)が大学生活の充 実感尺度に基づいて分類した学生のタイプ(クラス ター1〜クラスター7)をそのまま使用する。そして、

クラスター間で児童期と現在の母子関係に違いが見ら れるかを比較する。

1.各尺度の因子分析結果

 児童期の母親への愛着尺度と、現在の母子関係尺度 がどのような因子構造からなっているのかを検討する ため、因子分析を実施した。因子分析はいずれも固有 値の減衰状況に基づいて因子数を決定し、主因子法に よる因子抽出とプロマックス回転を実施した。なお、

1項目だけで因子を構成した項目と、負荷量が0.35未

満だった項目を削除した上で因子分析を繰り返し、最 終的な解を決定した。

(1)児童期の母親への愛着 因子分析の結果、3因 子が抽出された。因子分析の結果(因子パターン行列)

をTable 1 に示す。

 第1因子には「母親のことを、嫌いだと思うことが あった。」、「母親からあまり好かれていないように感 じることがあった。」などの項目が負荷したため、「母 親への不信感」と命名した。第2因子には「心配事や 悩みがあるとき、それを母親に話した。」「母親のこと が好きだった。」などの項目が正に負荷し、「母親に何 か相談したり、親の意見を聞いたりすることは少な かった。」という項目が負に負荷したため、「母親への 信頼感」と命名した。第3因子には「母親がそばにつ いていてくれないと不安だった。」「母親から一人で離 れて行動するのは不安だった。」などの項目が負荷し たため、「分離不安」と命名した。

(2)現在の母子関係   因子分析の結果、4因子が抽 出された。因子分析の結果(因子パターン行列)を Table 2 に示す。

 第1因子には「母親は、子どものことを信じている のであまり口うるさくない」「母親は、私が自分の考 えで行動しても認めてくれる」「母親とは、お互いに 個人として尊敬しあう仲である」などの項目が負荷し たため、「母親との相互信頼関係」と命名した。第2 因子には「母親は、私に愚痴を聞いてもらうことがあ る」「母親は、私に相談を持ちかけてくることがある」

「母親は、私に精神的な面で頼ることがある」などの 項目が負荷したため、「母親の子どもへの依存」と命

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(3)

名した。第3因子には「母親は「勝手に生きればよい」

と言って私の世話をしてくれない」「母親は、私をほっ たらかしにしている」「母親は、子どものことについ て責任をとる必要はないと言っている」などの項目が 負荷したため、「養育責任の放棄」と命名した。

 第4因子には「母親は、私に夜一人で外出させない ようにしている」「母親は、私の交友関係を全部知っ ていたいと思っている」などの項目が負荷したため、

「過保護・過干渉」と命名した。

2.クラスター間の母子関係の比較

 クラスター間で、児童期の母親への愛着と現在の母 子関係に違いがあるかを検討するため、各尺度の因子 得点を従属変数とし、7つのクラスターを独立変数と する多変量分散分析を実施した。多変量分散分析を実

施したのは、それぞれの従属変数が独立した尺度とは 見なせないためである。

 Table 1に見られるように、児童期の母親への愛着 尺度の第1因子と第2因子の間には r=−.557の相関 があり、第2因子と第3因子の間にも r=.379の相関 が存在する。またTable 2  に見られるように、第1因

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(4)

子と第2因子の間には.456の正の相関があり、第1因 子と第3因子の間と第2因子と第3因子の間にはそれ ぞれ−.331、−.385という中程度の負の相関が見ら れた。

 さらに、児童期から青年期にかけての母親との関係 は連続しているため、2つの尺度の間にもある程度の 関連性が想定される。そこで2つの尺度の相関係数を 求めた。尺度間の相関係数をTable 3 に示す。

 Table 3に見られるように、2つの尺度の間には相 関係数が.40を超える関係が5つ存在する。したがっ て2つの尺度は独立した尺度ではなく、一貫性を持っ た尺度と考えられる。そこで、児童期の母親への愛着 尺度の3つの因子得点と、現在の母子関係尺度の4つ の因子得点を一括して従属変数に投入し、多変量分散 分析を実施した。各クラスターの平均値をFigure 1に 示す。

 その結果、Λ=.602, F(42,758)=2.067(p<.001)

となり、有意な多変量主効果が得られた。個別変量に 関しては、母親への不信感でF(6,167)=2.946(p<.01)、 母親との相互信頼関係でF(6,167)=4.568(p<.001)、 母親から子どもへの依存でF(6,167)=5.070(p<.001)

となり、有意な主効果が得られた。また母親への信頼 感ではF(6,167)=1.825となり、主効果が有意傾向 となった。そこで、この4つの従属変数に関しては修 正Tukey法による多重比較を実施した。

 多重比較の結果、母親への不信感についてはCL5・

CL4・CL2・CL7・CL1<CL3という有意差が得られた。

また母親との相互信頼関係については、CL3<CL2・

CL6・CL7・CL4・CL1・CL5となり、CL3が全てのク ラスターより有意に低かった。すなわち、CL3は児童 期における母親への不信感が高く、現在も母親との信 頼関係を築いていないといえる。

  ま た 母 親 か ら の 子 ど も へ の 依 存 に つ い て は、

CL3<CL4・CL7・CL1・CL5、およびCL6・CL2・CL4・

CL7<CL5という有意差が得られた。すなわち、この 因子についてはCL3が最も低いこととCL5が最も高い ことが示された。

 さらに主効果が有意傾向だった母親への信頼感に つ い て は、 多 重 比 較 の 結 果CL3<CL6・CL2・CL1・

CL7・CL4・CL5となり、CL3が他のクラスター全て よりも低いことが示された。

考 察

1.クラスターの特徴について

 本研究では、小林・宮原(2012)が分類した学生 の7つのクラスターが、どのような母子関係を築いて きたかを検討した。その結果、クラスター3が他のク ラスターに比べて明らかに母子関係の不全を有してい ることが示された。しかし先行研究でクラスター3と 似た傾向を示すとされたクラスター6については、母 子関係に顕著な特徴は見られなかった。したがって仮 説①はクラスター3にのみあてはまるといえる。

 このクラスターは、児童期に母親に対する不信感が 高く、安心感を感じることができないでいた。そして 現在でも、母親との間に相互的な信頼関係が構築され ていない。したがってこのタイプの学生は、内的ワー キングモデル(Bowlby 1969,  黒田他訳 1991)が否 定的な状態にあると考えられる。

 また仮説②に関して、クラスター5には母子関係の 不全は見られなかった。このクラスターの母子関係は 良好で、むしろ母親から頼られる存在であった。した がってクラスター5が「機能不全家族の中で育った自 己愛傾向の強い学生」である可能性は否定された。他 者への自己開示動機が低いことは、他者への不信感に 由来するものではなく、他者に理解してもらおうとい う欲求が低いためであるといえる。

 このクラスターの学生は、小林・宮原(2012)に よれば充実感が他群よりも有意に高かった。したがっ て、仮にこのクラスターの学生が広汎性発達障害の傾 向を有していたとしても、家族関係に特段の問題がな いので、パーソナリティ形成に顕著な歪みは生じてい ないと考えられる。他者に対する自己開示動機が低く ても、大学生活に大きな支障を来さないのではないか と想定される。

2.学生支援に対する提言

 本研究では、クラスター3にのみ家族関係の問題が 顕著に表れていた。小林・宮原(2012)によればク ラスター3は充実感と責任感が低く、孤独感が高いグ

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(5)

ループである。したがって、入学直後にある程度本人 の生育歴を把握することができれば、早い段階から大 学における目標設定や卒業後の将来設計に対するきめ 細かい支援を開始することができる。早期の支援に よって、大学生活に対する挫折感や将来に対する不安 を予防することができ、大学生活を充実させることが できると思われる。

 入学後間もない時点で詳細な家族関係を学生に尋ね ることは難しいが、日々の何気ない会話の中から、母 親に対する不信感などを把握することができれば、早 期発見も可能になるであろう。助言教員や先輩学生に よるメンターが、本人が自然に語る範囲で学生の生育 歴を把握することが可能になれば、早期発見・早期支 援につなげることができる。したがって、学生支援に 関わるスタッフの資質向上が必要であるといえよう。

3.今後の課題

 本研究では、クラスター5の学生の生育歴の問題は 見いだされなかった。しかしこのタイプの学生に発達 障害の兆候があるのかどうかはまだ不明である。今後 は、充実感によるタイプ分けを行った上で、自記式の 質問紙による自閉症スペクトラム指数(若林・東條・

Baron-Cohen・Wheelwright, 2004) な ど を 用 い て、

広汎性発達障害の傾向がこのクラスターに顕著に見ら れるかを検討する必要がある。

 もしクラスター5の学生の自閉症スペクトラム指数 が高いにもかかわらず、生育環境が良好であったとす れば、生育環境の良好さが充実感の高さに影響してい る可能性が示唆される。このように、充実感を高める 要因が明らかになれば、発達障害児の家族に対する支 援の必要性が明らかになろう。すなわち、母親を中心 とした家族が発達障害児を受容し、信頼することで、

2次障害を予防し、充実感を高めることができるから である。したがって、クラスター5の学生の発達障害 の傾向を調査することが、今後の発達支援の有効性を

解明してくれるものと思われる。

引用文献

Bowkby, J. B. 1969 Attachment and Ross.(Vol.1) 

New York:Basic Books.(ボウルビィ, J. B. 黒田実郎・

大羽蓁・岡田洋子・黒田聖一(訳) 1991.  母子関係 の理論Ⅰ 愛着行動 岩崎学術出版社)

小林真・宮原千佳 2012 大学生の精神的健康と自 己開示動機−大学生活の充実感を指標として− 富 山大学人間発達科学部紀要, 6(2), 89-98.

久保田まり 1995 アタッチメントの研究−内的 ワーキングモデルの形成と発達− 川島書店 落合良行・佐藤有耕 1996 親子関係の変化から見

た心理的離乳への過程の分析教育心理学研究, 44,  11-22.

大野久 1984 現代青年の充実感に関する一研究−

現代日本青年の心情モデルについての検討−教育心 理学研究, 32, 100-104.

佐藤朗子 1993 青年の対人的構えと親および親以 外の対象への愛着の関連 名古屋大学教育学部紀要 教育心理学科, 40, 215-226.

若林明雄・東條吉邦・Baron-Cohen, S. ・Wheelwright,  S. 2004 自閉症スペクトラム指数(AQ)日本版の 標準化―高機能臨床群と健常成人による検討―

 心理学研究,75,78-84.

付記

 本研究は、第二著者(宮原)が富山大学教育学部に 提出した特別研究論文のデータを、第一著者(小林)

が分析しなおしたものである。

 本研究における統計処理は、SPSS 10を用いた。

参照

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