2016 年度博士学位申請論文
「集住」による高齢期の住まい方の研究
―JKA 補助グループリビングにおける住人の「参加」に焦点を当てて―
立教大学大学院コミュニティ福祉学研究科
星 野 友 里
目次
序章 ··· 1
第1節 研究の背景 ··· 1
第2節 研究目的 ··· 6
第3節 全体の構成 ··· 10
第4節 用語の整理 ··· 11
第1章 高齢者の住まいに関する政策の変遷と課題の明確化 ――先行研究を通して(1) ··· 16
第1節 戦後の住宅政策および高齢者福祉政策 (居住を中心)の歩みとそれをめぐる主要な論点 ··· 16
第2節 北欧における「エイジング・イン・プレイス」の取り組み ··· 24
第3節 日本における「エイジング・イン・プレイス」の試行··· 29
第2章 血縁関係のない人たちの互助的な集住の実践と課題 ――先行研究を通して(2) ··· 34
第1節 日本における先進事例 ··· 37
第2節 民間の「グループリビング」の取り組み ··· 43
第3節 「グループリビング」と制度化された住まい(方)の比較 ··· 48
第3章 グループリビングに関わる調査と結果概要(1) ··· 53
第1節 分析枠組みの提示 ··· 53
第2節 調査の全体像とそれぞれの調査の位置づけ ··· 55
第3節 分析枠組み①「一定の理念の共有」に関して ··· 60
第4章 グループリビングに関わる調査と結果概要(2) ··· 110
第1節 分析枠組み②「運営管理への参加」に関して ··· 110
第2節 「参加」の視点からみたミーティングの必要性 ··· 111
第3節 ミーティングの実態 ··· 113
第4節 ミーティングを軸にした分析を通して見えてきた
「運営管理への参加」に関わる課題 ··· 129
第5章 グループリビングに関わる調査と結果概要(3) ··· 131
第1節 分析枠組み①・②の再検討 ――グループリビング
R開設検討委員会の活動を通して ··· 132
第2節 分析枠組み③「住人同士でかかわり合う」に関して ··· 159
終章 高齢者の地域居住の在り方 ··· 166
第1節 グループリビングの要素・形態 ··· 166
第2節 高齢者の地域居住の在り方――今後の超高齢社会を視野に ··· 173
第3節 おわりに――本研究の限界と今後の課題 ··· 176
文献一覧 ··· 177
謝辞 ··· 189
1
序章
第
1節 研究の背景
1. 研究の背景介護が必要になったとき、誰と、どこで、どのように暮らしたいか、多くの人が一度は考 えたことがあるだろう。高齢者のいる世帯の持ち家率は
82.7%と全世帯の平均61.7%に比べると極めて高く(総務省統計局
2016a)、多くが自分の「家」を持っている。ところが、心身の虚弱化にともない、その「家」から離れざるを得ない人が少なからず存在している。
そこで、 「団塊の世代」が
75歳以上となる
2025年を目途に、重度な要介護状態となっても 住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医 療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築が急がれてい る。
近年、高齢者数に対して介護施設の数が不足しているとメディア等で取り上げられてい るが、実態をどこまで正確に表しているかは定かではない。例えば、特別養護老人ホーム(以 下、特養)の待機者問題は多くの人に知られているが、その一方で、入所申込者のうち、施 設側が「優先して入所させるべき」と考える人の割合は全体の
10.8%という報告がある(医療経済研究・社会保険福祉協会
2011:Ⅷ-ⅸ)。あるいは、在宅の申込者家族が、施設等(特 養やそれ以外の施設等)に申し込んだ理由を見てみると、 「本人の状態が変化し、自宅での 生活が困難になった」 (70.5%) 、 「家族が介護を続けることが困難になった」 (67.0%)に次 いで、 「今は自宅で生活できるが、将来に対する不安を感じた」が
46.2%と高くなっており(医療経済研究・社会保険福祉協会
2012:ⅵ)、在宅介護の条件が整えば、介護施設に入ら ずとも地域で暮らしていける高齢者が一定数いると推察される。本来、特養とは常時介護を 必要とする人を対象とした施設で、要介護度に関わらず、希望者を全員受け入れるだけのベ ッド数はない。財政面でみても、とりわけ多くの費用を必要とする特養などの施設系サービ スを、大幅に増やしていくことは困難である。
多くの人々が「自宅」で住み続けることを望んでおり、全国の
55歳以上の男女を対象に した内閣府(2013)の調査では、介護が必要になったとき「自宅で介護してほしい」を挙げ
た割合が
34.9%と最も高くなっている。また、20歳以上の男女を対象に行った別の調査で
も、同様に「現在の住まいで介護を受けたい」と答えた人の割合が
37.3%と最も多かった。その理由として、大多数が「現在の住まいで生活を続けたいから」 (82.8%)を挙げ、以下
「施設では自由な生活ができないから」 (32.7%)、 「他人との共同生活はしたくないから」
(29.0%) 、 「施設で他人の世話になるのはいやだから」 (28.6%) 、 「施設に入るだけの経済 的余裕がないから」 (27.5%) (複数回答・上位
5項目) (内閣府
2010a)と続き、自由な生活を望む人は少なくない。2002 年の新型特養(ユニット型特養)の創設など、施設介護を めぐる状況は徐々に改善されつつある。しかし、特養への入所にともない、入所者は大なり 小なり集団生活を余儀なくされ、全ての時間・空間を自分の思い通りに使うことができなく なる。
例えば、鈴木晃は「家庭的な雰囲気」や「少人数のケアユニット」といった形で高齢者施
設を住宅的な環境に近づけようとすることに対し、住宅の本質的な要件とは「排他的空間使
用」と「自由な時間使用」の二点にあると述べている(鈴木晃
2009:110)。逆にいえば、2
外見上は家庭らしい居住環境にあるとしても、誰かが突然部屋の中に入ってきたり、いつ何 をするかを自由に決められなかったりする場所は、少なくとも現代においては「住宅」ある いは「住居」 、 「住まい」とは言いがたい。また、それは介護サービスの場合も同様で、充実 した介護サービスが受けられることと「自宅」らしく暮らせることは必ずしも一致しない。
図 序- 1 各国の高齢者の居住状況(社会保障国民会議
2008)※1 シルバーハウジング、高齢者向け優良賃貸住宅、有料老人ホーム及び軽費老人ホーム(軽費老人ホームは 2004年)。
※2 介護保険3施設及びグループホーム
※3 Sweden Socialstyrelsen(スウェーデン社会省)聞き取り調査時の配布資料(2006)
※4 Denmark Socialministeriet(デンマーク社会省)聞き取り調査時の配布資料(2006)
※5 Elderly Accommodation Counsel (2004)“the older population”
※6 医療経済研究機構「米国医療関連データ集」(2005)
【出典】社会保障国民会議(2008) “社会保障国民会議における検討に資するために行う 医療・介護費用のシミュレーション(参考資料)” 、配布資料‐資料2-3、サービス保障(医 療 ・ 介 護 ・ 福 祉 ) 分 科 会 、 第
8回 会 合 、
2008年
10月
23日 、
p.27、
(
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/syakaihosyoukokuminkaigi/kaisai/service/dai08/siryo u2_3.pdf)(2016/8/28 アクセス)
図 序-1 は全高齢者における介護施設(左) ・高齢者住宅等(右)の定員数の割合を示した ものである。ここにある通り、諸外国に比べて、日本では高齢者向けの住宅の整備が大幅に 遅れていることから、
2011年に新たに始まったのが「サービス付き高齢者向け住宅」 (以下、
サ高住)の制度である。サ高住とは、住宅としての居室の広さや設備、バリアフリーといっ
たハード面の充実に加え、ケアの専門家による安否確認や生活相談サービスの提供などの
ソフト面の支援を兼ね備えた高齢者向け住宅を指す。先述の地域包括ケアシステムにおい
ては、このサ高住が「住まい」の部分を担うことが期待されている。国は、 「サービス付き
高齢者向け住宅整備事業」をもって費用を一部補助し、その増設を促してきた。民間事業者
の新規参入も相まって、サ高住はその数を増やし続け、すまいづくりまちづくりセンター連
3
合会(2016)の調べでは、2016 年
7月末時点で
6,248件、203,783 戸がサ高住として登録 されている。
その一方で、サ高住の在り方について、早くも疑問の声が上がっている。国によると、単 身者の最低居住面積水準、すなわち、健康で文化的な住生活を営む基礎として必要不可欠な 住宅の面積は
25㎡である。これに対して、サ高住は前身の高齢者専用賃貸住宅と比較して 居室面積が
25㎡を下回るものが多く、浴室やキッチンの整備率も極めて低いことから、 「住 宅」というよりも「施設」化している(貞清栄子
2013:28)。詳しくは本章第4節で述べる が、自由に使える専用のキッチンやトイレがないものは国の定義上「住宅」ではない。この ように、サ高住は「住宅」としての価値が問われるばかりか、自分にできることをして暮ら そうとしても、並み以上の費用を負担しなければ居室内にその設備がなく、高齢者の「自立」
を阻害し残存能力を失わせている面がある。
また、見守りに関しても、その効果を疑問視する声が上がっている。阪東美智子によれば、
見守りや安否確認などの「安心」は従来、インフォーマルなサービスが機能補完してきたも ので、マーケット任せで供給できるか疑わしい(阪東美智子
2011:18-19)。 「安心」が機能 するのは、住まい手自身がサポートしてくれる人やコミュニティに対して心を開き、信頼関 係を構築しているためである(阪東美智子
2014:8)。近年、家族機能の低下や地域の紐帯の弱体化により、「安心」をサービスとして購入せざるを得ない状況にあるのは事実だが、
サ高住のように専門職を配置し、その者が業務的に見守れば、高齢者は「安心」できるのだ ろうか。これは、生活リズムセンサー等で機械的に見守る場合も同じであり、さらにいえば、
サ高住では医療・介護ニーズに対応し切れない恐れがある。全国有料老人ホーム協会(2013)
の調べでは、サ高住の入居者の退去後の生活場所(または退去理由) は「医療機関」 (19.9%) 、
「医療機関での逝去」 (17.2%) 、 「介護保険施設」 (14.9%)の順で多くなっている。
そして、サ高住を初めとした既存の高齢者の「住まい」を地域包括ケアシステムの基盤を 担うものと捉えた場合、課題は他にもある。地域包括ケア研究会によれば、地域包括ケアと は自助を基本としながら、互助・共助・公助の順で取り組んでいくものであるという。この うちの自助と互助をめぐっては、次のような見解が示されている(地域包括ケア研究会
2009:7)。
自助は、自らの選択に基づいて自らが自分らしく生きるための最大の前提であり、互 助は、家族・親族等、地域の人々、友人たち等との間の助け合いにより行われるもので ある。したがって、自助や互助は、単に、介護保険サービス(共助)等を補完するもの ではなく、むしろ人生と生活の質を豊かにするものであり、 「自助・互助」の重要性を 改めて認識することが必要である。
すなわち、自分らしさというと自助がイメージされるが、その源は互助にもあるという考 え方である。ところが、日本では、自助が難しくなれば途端に公助へ転じるという、公的サ ービスへの依存傾向が今なお続いている。デンマークの高齢者福祉に詳しい松岡洋子は、サ 高住を「ミニ施設」と表現し、地域包括ケアの推進にあたっては、地域における互助の醸成 や新資源の開発、多様な主体の協働こそが必要だと述べている(松岡洋子
2015:443)。
とはいえ、先に述べたように、現代は都市化および核家族化が進み、地域とのつながりは
4
希薄化している。その不足分を全て、有償の「サービス」で補える人もいるだろう。ただし、
全員にそうした経済的ゆとりもなければ、サービスの総量も限られている。よって、加齢に ともない行動範囲や人付き合いの幅がおのずと狭まっていく中で、住み慣れた地域で安心 して暮らし続けるためには、身の周りに互助を築いておくことが要件の一つに成り得るだ ろう。
2. 問題の所在
そうした中で、当事者を中心とした自主的な取り組みは既にいくつも存在している。本研 究が取り扱う「グループリビング」もその一つであり、少なくとも
1970年代にはそれらし い事例が確認されている。ただし、その頃は「グループリビング」という呼び方はしておら ず、入居者も長年の友人や同僚など、過去に何らかの関係にあった人たちが中心だった。
ところが、1990 年代に入って、ひとり暮らしの高齢者を集め、同じようなことを事業と して行おうとする事業者が登場してきた頃から状況が変わっていった。高齢者が「グループ リビング」を一から始めるのは容易ではなく、土地探しや建築物の設計、開設後の運営業務 などを代行する第三者の登場は「グループリビング」の新設に一定の効果をもたらすだろう。
しかし、近年、社会福祉法人や
NPO法人が間に入ってつくった「グループリビング」では、
その成り立ちに反して、大本にあるべき住人同士の自発的な助け合い、すなわち「互助」の 視点が薄らいでいっている。
詳しくは後述するが、例えば、グループリビング
COCO湘南台
1(1999 年・神奈川県藤 沢市)を参考に別法人が設立したグループリビング(グループリビング
Xと記す)の理事 長は、青柳育子のインタビューに対し、グループリビング
Xの課題の一つとして、次のよ うに回答している(青柳育子
2011:138)。
一つは、入居希望者に対し、 『グループリビング
X』の理念や暮らしを十分説明し、同意した人が入居しているが、入居後に自分に合わないとか、介護施設と違い、世話が 足りないと訴える人がいる。お互いの為に、グループリビングの暮らしについて、より 理解を得てから入居してもらうことが必要である。
このように、運営法人(NPO 法人)側はきちんと説明したつもりでいても、介護施設に 近い認識で入居している人がおり、 「自分が『グループリビング
X』で何ができるか」よりも「 『グループリビング
X』が自分に何をしてくれるか」といった思いの方が先行し、「グル ープリビング」の実現を難しくしている。
公助や共助、自助に比べると互助は抽象的で、具体的な姿はイメージしがたい。とはいえ、
高齢化と人口減少が同時に進んでいく日本社会においては、全てをフォーマルサポートで 補うゆとりはなく、地域包括ケアシステムに代表される今後の方向性として日々の声掛け 等の比較的専門性の低い事柄は自分たちで行っていく方が望ましいとされている。
そうした意味では、10 名前後の高齢者が意図的に集まって住み、その中で「互助」を育
1 COCO
湘南台に関しては、既にさまざまな学術論文および雑誌記事、ならびにテレビ番
組において実名が記されていることから、本研究もそれに倣うものとする。
5
んでいこうとする「グループリビング」の取り組みは可視化が容易であり、且つ、「互助」
を地域に広げていく過程の第一段階としても位置付けられよう。というのも、基本的には住 人が中廊下を挟んで隣同士に住んでいる「グループリビング」は、従来の近所づき合いより も「互助」を生み出しやすいつくりになっており、見守り合うメンバーも明らかである。つ まり、 「グループリビング」の住人たちは一人ひとりが「見守られる人」であると同時に「見 守る人」でもあり、日常的な交流を通して、臨時的な手助けや緊急対応などのインフォーマ ルサポートの役割を担い合っていくことが期待されている。
ところが、 「グループリビング」のように「互助」の重要性を意識した高齢者の小規模な
「住まい」の中でさえも、 「互助」が十分に活きていない実態がある。
6
第
2節 研究目的
本研究では、公益財団法人
JKA(旧・日本自転車振興会)が「高齢者生き活きグループリビング支援事業」 (2005~2010 年度)を通して建設補助を行った高齢者生活共同運営住 宅(高齢者生き活きグループリビング)を対象に調査を行った。6 年間につくられた「グ ループリビング」は
15都道府県
16ヶ所である。
その概要と選定理由を以下に記す(高齢者生活共同運営住宅(高齢者生き活きグループ リビング)に関する研究会
2007:72)。
1.
定義
一人暮らしで生活に不安や不便を抱える高齢者が、比較的低廉な料金で、地域 でお互いの自主性を尊重した共同生活を営むことにより、生涯自己実現を図りつ つ健やかに老いることを目的とする、小規模在宅型共同住宅
2.
運営理念
(1)
入居者のプライバシーを守り、その精神的、身体的な健康を維持することに 留意しつつ、家族に近い少人数の共同生活を通じ自己実現を求め、個人の尊 厳をはかる運営を行うこと。
(2)
入居者は地域住民として、グループリビングは地域に開かれた共同住宅とし て、地域との交流を深め、地域の活性化への寄与等その社会的役割を積極的 に果たしていく運営を行うこと。
(3)
年金のみで生活する層が負担できる程度の利用料金で、比較的上質の居住水 準を保てる非営利の運営を旨とし、その収支や活動の透明性が確保されるこ と。
3.
施設の所有形態からみたタイプ
(1) A
型(自主建設型)運営法人が建物を建築し、所有する形式
(2) B
型(既存建物貸借型)既存の建物を運営法人が貸借し、グループリビング に回収して運営する方式
4.
標準的規模
入居定員
10名以下(内コーディネーター1 名)
5.
標準的仕様(ハード)
(1)
入居者の個室面積
25㎡(トイレ、洗面台、ミニキッチン、クローゼット)
(2)
共用部分は、1 人平均
20㎡(食堂、キッチン、浴室、共通トイレ、アトリ エ、ゲストルーム等)
(3)
バリアフリー仕様
(4)
防火構造。防火機器(社会福祉施設に要求される安全設備をクリアする構
造、機器類)
7 6.
標準的機能(ソフト)
(1)
日常生活支援機能(食、住)
(2)
病気時医療確保機能(ホームドクター等地域医療機関との連携)
(3)
必要時介護サービス確保機能(ホームヘルプ等地域介護組織との連携)
(4)
ターミナルケア確保機能
(5)社会学習機能
(6)
地域交流機能
(7)
介護保険、医療保険支援機能
(8)
ソーシャル・キャピタル(地域社会における信頼関係)蓄積機能
(9)コミュニティビジネス育成機能
7.
標準的経営収支
(1)
建築費(標準
1億円)は、日自振
2(4/5)と入居一時金(300 万円以下×
10)で賄う。
(2)
運営費は、入居者の月別利用料で賄う。この内、建物維持管理・修繕費と借 地料を入居者家賃で賄う。
8.
入居者の標準的負担
(1)
入居一時金
300万円以下
(2)
月別利用料
15万円以下(家賃
7万円以下、共益費
2万円、食材費
3万、
家政委託費
3万円)
上記
5.および7.(1)にあるように、高齢者生活共同運営住宅(以下、JKA補助グルー
プリビング)は大部分の補助を受けた結果、外見上はしっかりとした建物が出来上がって いる。一方、6.の標準的機能(ソフト)はいずれも「ホーム入居者または入居者」主体と されており(高齢者生活共同運営住宅(高齢者生き活きグループリビング)に関する研究
会
2007:154-157)、JKA 補助グループリビングの住人はサービスを一方的に受けるだけの
存在ではなく、グループリビングさらには近隣住民と交流を持つなどして周辺地域の中の 一人として暮らし続けることを目指している。
住宅や住環境は、機能的側面と帰属的側面の両面をもつと考えられるが、これまで住宅 の質として考えられてきたものは前者の「機能的側面」としての住宅概念に基づくものが ほとんどであった(大原一與
1996:23-24)。
2
「日本自転車振興会」の略。財団法人日本自転車振興会は
2007年に財団法人
JKAに名
称を変更し、さらに
2013年には公益財団法人
JKAに変わった。
8
表 序- 1 住宅・住環境がもつ
2つの機能
性能 要素 意味づけ
機能的側面 物的拠点
住宅の果たすさまざ まな利便機能や、空 間の広さなど基本的 性能、設備、安全性、
衛生条件、快適性な ど
・一部には居住者個 人に属する機能も発 揮するが、基本的性 能については交換可 能な価値をもつ
・客観的な評価を行 いやすい
帰属的側面 心的拠点
所有・自由な関与・
参加・支配が可能な 対 象 と し て の 住 環 境、安定した継続居 住の保障、住環境に 対する愛着性など
・住環境の価値は居 住者個人に属するも のであって、他人に とっては全く別の価 値が生じ得る
・個人にとって唯一 絶対な存在
・原則的に交換価値 はない
【出典】大原一與(1996) 「高齢者住宅政策の視点」『都市問題』第
87巻第
5号・1996 年
5月号、pp.23-24 の内容を元に筆者作成
対して、 「グループリビング」は前掲の住宅の機能的側面に加え、 「共同住宅」でありな がら帰属的側面、具体的には「自由な関与・参加・支配が可能な対象」 (表 序
1-1)の要素を含む。ただし、運営法人側がこの点をどう受け取っていたのかを含めて、その実態は よく分かっていない。JKA 補助グループリビングに関しては、高齢者生活共同運営住宅
(高齢者生き活きグループリビング)に関する研究会(2008,2007)が報告書を発行し、
その後も
NPO法人
COCO湘南がフォローを行っていたが、どのように「グループリビン グ」を運営していくかの話が中心で、住人の声はほとんど聞かれなかった。 「グループリ ビング」全般をみても、住人に直接インタビュー調査を行った先行研究は極めて少なく
(土井原奈津江
2016,近兼路子2015,星野友里2011)、住人たちがどう「グループリビ ング」を受け取り、生活しているのかも明らかとなっていない。
そこで、本研究では、ひとり暮らし高齢者の急増への対応策の一つとして考えられる、高
齢者同士が意図的に集まって住むこと、すなわち「集住」について、実践事例の考察と調査
に基づき、住居の提供者と住人のそれぞれの立場と視点から検討を行う。そして、住まい方
の現状と課題を明らかにし、もって、住人の「参加」に重点を置いた高齢者の地域居住の在
り方について考察することを主たる目的とする。
9
具体的には、以下の
5つを研究課題として設定する。
研究課題
1:戦後日本の住宅政策および高齢者福祉政策(居住関連)、ならびに、その評価をめ ぐる先行研究を概観し、北欧においてのエイジング・イン・プレイスの取り組みを一 部参照しながら、高齢者の地域居住に関する今日的な論点を明らかにする。
研究課題
2:ひとり暮らし高齢者の地域居住の継続性の視点から、コレクティブハウジングや グループリビングなどの制度化されていない「住まい」も含めた複数の事例を取り上 げ、それぞれの現状と課題を明らかにする。また、「多義的」に用いられている「グ ループリビング」という用語を現状に合わせて再定義し、グループリビング
3の在る べき姿を提示する。
研究課題
3:グループリビングのうち、筆者の再定義に合致している
JKA補助グループリビン グに着目し、運営者側と住人側、双方の立場から見たその現状と課題を明らかにする。
研究課題
4:先進事例や類似事例などから前述の課題(研究課題
2~3)の解決策を探る。研究課題
5:以上を踏まえ、高齢者の地域居住の在り方について考察する。
3
再定義後は「」なしのグループリビングを用いる。
10
第
3節 全体の構成
1. 各章の概要
本研究は序章を含め、全
7章で構成されている。
まず、序章で研究の背景や目的、意義などに加え、本研究における主要な用語の整理を行 う。
第
1章では、高齢者の居住について考える以前に、早川和男を初めとした居住福祉の立 場からは日本の「居住の貧困」が問題視されていることを論じる。そして、戦後の住宅政策 と、本研究が対象とする高齢者の居住に関連する福祉政策を概観し、 「居住」という点で何 が問題なのかを整理する。
第
2章では、その解決策に成り得る可能性を持つ、血縁関係にない人同士の集住に着目 し、先行研究をもとに、その現状と課題を明らかにする。
第
3章~第
5章は調査研究結果について報告する。まず、第
3章では、グループリビン グの一形態、前述の「高齢者生き活きグループリビング支援事業」によって作られた
JKA補助グループリビングに着目し、その現状と課題について、運営者側と住人側、双方の立場 から論じる。第
4章では、第
3章で挙げられた課題の一つ、住人のミーティングを取り上 げ、それがうまく機能している
2ヶ所の
JKA補助グループリビングでの調査研究から、ミ ーティングの効能と改善・向上策を述べる。第
5章は、JKA 補助グループリビングの計画 段階から開設後までの数年間の様子を追跡調査したものである。
終章では、筆者の再定義に沿って、高齢者が継続的に「居住」できるグループリビングの 要素と形態を再検討したのち、第
1章から第
5章までの内容を踏まえて、高齢者の「互助」
と「参加」を取り入れた高齢者の地域居住の在り方について改めて考えていく。
2. 研究方法
各章の主たる研究方法は以下の通りである。
第
1章・第
2章 文献研究
第
3章 インタビュー調査(2 本) 、アンケート調査 第
4章 計量テキスト分析、参与観察
第
5章 参与観察
終章 第
1章から第
5章までの内容の総括
なお、調査方法の詳細については第
3章第
1節を参照されたい。
3. 倫理的配慮
本研究は、 「立教大学コミュニティ福祉学部・研究科倫理指針」に基づいて実施した。
このうち、第
3章のグループリビングの運営者および住人を対象とした調査にあたって
は、2013 年
8月
31日付および
2014年
7月
23日付で立教大学コミュニティ福祉学部・研
究科倫理委員会から実施計画をめぐる倫理指針準拠の承認を得ている。
11
第
4節 用語の整理
住む・住まう
「住む」とは、 「生活の居所ときめて、その場所にとどまる。そこに居ついて暮らす」
ことを指す(日本国語大辞典
2001a)。「住まう」は「住む」の未然形に反復、継続を表 わす助動詞「ふ」が付いた言葉で、 「ひき続いてすむ。すみ続ける」という意味を含ん でいる(日本国語大辞典
2001b)。すなわち、「住まい方」とは「住み続けるための方法」
ということになる。
住人
実際の現場では、グループリビングにいる人たちは「入居(はいってそこに住むこと)
者」 (大辞泉
2012a)や「入所(養護老人ホーム、児童養護施設、知的障害児施設、授産施設などの社会福祉施設に入って生活すること)者」 (大辞泉
2012b)、「生活者」、 「居 住者」など、場所によって様々な呼ばれ方をされている。詳しくは次項で述べるが、 「居 住」は周囲と関係性が築けていることが前提にあり、グループリビングにいる全員を表 現しているとは言いがたい。先述したように、グループリビングの意図を共有すること なく住んでいる人も見かけられるためである。よって、本研究では「住人」 、すなわち、
「その家、またはその土地に住んでいる人」 (大辞泉
2012c)を採用する。「ある一定の 地域内 ...
に居住 ..
している人」 (大辞泉
2012d・傍点筆者)の意の「住民」とは異なり、範囲や生活の状態は問わない。
住宅・住居・居住
まず、 「住宅」の定義について述べる。総務省統計局が
5年ごとに行っている「住宅・
土地統計調査」の中で「住宅」は次のように定義されている(総務省統計局
2016b)。一戸建の住宅やアパートのように完全に区画された建物の一部で、一つの世帯が 独立して家庭生活を営むことができるように建築又は改造されたものをいう。
ここで、 「完全に区画された」とは、コンクリート壁や板壁などの固定的な仕切り で、同じ建物の他の部分と完全に遮断されている状態をいう。
また、 「一つの世帯が独立して家庭生活を営むことができる」とは、次の四つの設 備要件を満たしていることをいう。
①一つ以上の居住室
②専用の炊事用流し(台所)
③専用のトイレ
④専用の出入口
なお、②~④に関しては、共用であっても,他の世帯の居住部分を通らずに,いつ
でも使用できる状態のものを含む。
12
つまり、 「住宅」とは、他の世帯および空間と画然と区切られ、且つ、自由に台所や トイレ、出入口が利用できる状態を指し、例えば、多床室型の特養は「住宅」に当たら ない。それは、一部のサービス付き高齢者向け住宅 ..
においても同様である。
「住宅」と似た言葉に「住居」があるが、両者の意味もいくらか異なっている。「住 宅とは、家族がその中で生活するための器である」 (平井聖)のに対して、 「住居という ことばは単に建築物のみを指し示すわけではない。建築物の中で人間の生活が営まれ て初めてそれは住居とよびうる存在となる」 (栗田博之)。 「住宅がどちらかといえば物 としての建物に即して用いられるのに対し、住居はむしろ住生活の場としての意味で 用いられることが多」 (建築大辞典
1993:746)く、住まいはそこで生活が営まれている場所、空間、居所としてのイメージが強い(古川孝順
2011:9)。加えて、国勢調査 の分類においては、人間が住む場所を「住居」とし、そのうち、1 つの世帯が独立して 生活を営むことができる建物を「住宅」と位置付けていることから、 「住居」は「住宅」
の上位概念だといえる(野口定久
2011:10)。つまり、建物としての「住宅」に、広く 生活の要素を加味したものが「住居」である。
他方、 「居住」といえば、 「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業 選択の自由を有する」とした日本国憲法第
22条が想起される。ただし、 「居住」はこう した権利的な一面に加え、 「それが位置している地域社会のもつ環境条件や人々のネッ トワークを含む公共的な空間、それらとの相互作用など」 (古川孝順
2011:9)の意味合いも有している。居住は、 「場」や「空間」といったハード面と「社会関係」 、 「意識」 、
「時間(継続性) 」といったソフト面の双方が整備されて成立する(右田紀久恵
1994:10)
。詳述すると、居住とは「個人的な住まいではなく、まちを形成する一要素として の『公共財』の概念、まわりの環境を含む地域(コミュニティ)を包摂するほか、住み 続けることによって成り立つ関係性の継続(人とのネットワーク) 、そのことによる自 分自身のアイデンティティの保持など」 (山本美香
2001:74)も含んでいる。よって、個人が住んでいるだけでは「居住」と呼べないことになる。
近年いわれている「地域包括ケアシステム」の考え方は、こうした「居住」の考え方 と重なるところが多く、いずれも人々が継続して住みやすい地域づくりを目指してい る点は同じである。早川和男を中心とした「居住福祉」と「地域福祉」の連関性をめぐ っては、次の
3つの考え方が示されている。
一つ目は、 「居住福祉学は、建築学から社会福祉への接近の結果として生まれた学問 であり、また社会福祉学の中の地域福祉の考え方をさらに徹底的に進めようとしたと ころから生まれた学問だ」 (野口定久
2011:9)とする立場である。二つ目は、居住福祉という概念には、広義の福祉を住まいから追求していく側面に加えて、福祉と住宅の 連携という側面があるという見方である(山本美香
2008:5)。そして、三つ目は、 「居 住福祉」も「地域福祉」も個別的意味での生活権保障をその基礎におくべきものだが、
前者の方がより広く、人間の共同生活原理をふまえた共同生活空間=居住空間という 広い意味、すなわち、生活圏の保障を範域としているというものである(右田紀久惠
2013:28)また、
1996年にトルコ・イスタンブールで開かれた第
2回国際連合人間居住会議(ハ
13
ビタットⅡ)で採択された「ハビタット・アジェンダ―人間居住に関するイスタンブー ル宣言(人間居住宣言)」では、人間居住に関して、適切な住居の確保にとどまらず、
発展途上国の問題や地球環境の悪化等、全地球的な経済上、社会上および環境上の事項 にも言及がなされている(松井芳郎ら
2005:703-705)。
それと比較すると、本研究はグローバルな守備範囲を必ずしも想定せず、日本におけ る住環境問題を視野に入れたコミュニティを射程にしている。本研究はグループリビ ングという高齢期の住まい方の一形態に着目し、住人一人ひとりの草の根的な活動(=
参加)に重きを置いたものである。本研究ではグループリビングを“小さなコミュニテ ィ” (あるいは、“基礎的なコミュニティ”)と捉え、そこでの高齢者の「互助」と「参 加」 、 「生活」について考えていく。
参加・役割
ここで、本研究における重要な要素である「参加」について考えてみたい。誰もが安 心して暮らしやすい地域をつくるには、構成員一人ひとりの「参加」が欠かせない。
例えば、 「参加」をめぐっては、アメリカの社会学者
Arnstein, Sherry R.の住民参加のはしごが知られている。
Arnstein
は住民参加を以下のとおり
8段階・3 分類している(Arnstein, Sherry R.
1969)
。
Degrees of Citizen Power 8 Citizen Control 7 Delegate Power 6 Partnership Degrees of Tokenism
5 Placation 4 Consultation 3 Informing Non Participation
2 Therapy 1 Manipulation
上記は計画決定のプロセスに対する住民の参加の度合いを表したもので、市民参加 論等で取り上げられることが多い。
参加の考えは
1950年代から
1960年代に広まった公民権運動をルーツとするが、日
本の場合は自他ともにその意味を理解しないままの形だけの参加が少なくない。例え
ば、1990 年の福祉八法の一部改正による福祉各法への在宅福祉サービスの法定化に始
まる、1992 年の「国民の社会福祉に関する活動への参加の促進を図るための措置に関
する基本的な指針」では、ボランティア活動の幅を広げ、地域社会の様々な構成員が互
いに助け合い交流するという広い意味での福祉マインドに基づくコミュニティづくり
が示された。そして、阪神・淡路大震災が発生した
1995年はボランティア元年といわ
14
れ、その後の
NPO法(1998 年制定・同年施行)、介護保険法(1997 年制定・2000 年 施行)へとつながっていったが、背景にはフォーマルサービスの不足を住民のボランテ ィアで補おうとする意図がうかがわれ、一人ひとりが権利意識をもって自分(たち)と 関連する諸活動に参加していくという視点が抜け落ちている。
加えて、その最も一般的な意味合いにさかのぼれば、 「参加」とは「自己と他者との かかわりあいにおいて成立する人間の社会的行為の一形態」 (井出嘉憲
1972:159)であり、参加する行為主体の自由な意思による自発的な選択と共同の意思決定を前提と する。社会学者の内田義彦は、オリンピック会場の電光板に「ノット トゥ ウイン、
バット トゥ テイク パート」と表示されていたことから「テイク パート」の翻訳 が参加であると気づいたという。 「テイク パート イン……」というのは、ある人が ある部署を責任をもって受け持つことを指し、それぞれが異種の、各人各様に具体的な、
特定の仕事をになうことで、参加という共通の仕事ができるようになる(内田義彦
1961:22-23)。
社会政策における参加の最後の領域は社会参加である。近年「参加型福祉」と呼ばれ ている形態の社会サービスがこれに該当するが、社会参加といった場合、サービスの供 給や提供そのものよりも、そうした行為を通じて人々がコミュニティの諸活動へコミ ュニティの構成員としてのかかわりを持っている点に力点が置かれる(武川正吾
1996:
27-28)。
同様に、早川和男も前掲のハビタット・アジェンダから次のような事柄を読み取って いる(早川和男
2014:179)。
「住みやすい居住空間の形成には、 『住む主体』である居住者の『住む能力の発展』
が必要である」 「住む能力の発展は、住む主体である居住者が居住政策の策定に参 加することによって可能になる」……そして、 「住む能力を発展させること、居住 者の居住政策策定への参加」も、「居住の権利である」と宣言文には書かれた。
これらを総括すると、参加とは個々人がコミュニティの中で自覚と責任をもって、主 体的に行うものだと位置づけられる。逆に、何らかの活動に加わっているとしても、自 覚も責任も持たず、周りとも接点のない状態で受け身的に行うものを参加とは言わな い。
筆者が複数のグループリビングを訪問した際には(第
3章) 、住人から「○○は私の
『仕事』なの」という言葉が自発的に発せられていた。その「仕事」を担うようになっ た経緯は定かではないが、ここからは彼らがサービスを一方的に受けるだけの存在で はなく、周りの住人と何らかのかかわりを持って暮らしている様子が読み取れる。した がって、本研究においても“何らかの「役割」を持つこと”を「参加」として捉える。
「役割」は、本人がグループリビングの集まりの中で自分の「役割」と認識している事 柄を指し、その内容によっては区別しない。
以上のことから、本研究では、グループリビングを器、あるいは、ハコ(=住宅)ではな
く、一種の生活様式(=住居)として捉え、そこで暮らす「住人」の生活を軸に考察を行う。
15
その際、グループリビングの中で「コーディネーター」等の明確な役割を持ち、グループリ
ビングの運営管理に関わることと同じように、グループリビングをより良くしたいという
思いで行われる諸活動にも積極的な価値を見出していく。それゆえ、本研究は、グループリ
ビングを一例に、高齢期の住まいにおける住人の参加の在り方の一端について検討したも
のということになる。
16
第
1章 高齢者の住まいに関する政策の変遷と課題の明確化――先行研究を通して(1)
第
1節 戦後の住宅政策および高齢者福祉政策(居住を中心)の歩みとそれをめぐる 主要な論点
日本の高齢者の持ち家率は
8割を超えている。これは、戦後日本の持ち家政策の結果だ といえよう。しかし、物理的には「家」を持っているとして、私たちはその先の「生活」あ るいは「住む」ということについて、どれだけ考えてきただろうか。
わが国の持ち家中心の住宅政策の最大の問題は、住居の問題を家を持つことに矮小化し てしまったことにある(早川和男
1997:197)。劣悪な住宅のもとでも、住宅をネグラとす る壮年期人口の多い社会では耐えられたが、高齢社会は福祉と住宅の両輪がなければ支え られない(早川和男
1997:108)。「居住の貧困」 (本間義人
2009)ないしは「ハウジング・プア」 (稲葉剛
2009)といわれる昨今の、具体的な課題を整理してみたい。1. 高齢期までに家が持てなかった人の住宅問題
日本社会に持ち家が広まったのは第二次世界大戦後のことで、大正時代の中頃から戦前 までは、公益住宅の建設(1919 年~)や住宅組合法の制定(1921 年) 、財団法人同潤会の 設立(1924 年)など、内務省のもとで福祉的な住宅政策が一部とられていた。例えば、同
潤会は
1923年の関東大震災の住宅の復興を目的に内務省の外郭団体としてつくられ、 「同
潤会アパート」として知られる都市型集合住宅の建設など、先進的な提案・実践を行って いた。住宅の所有率も現在とは逆で、1941 年の東京市の持ち家は
25.2%に過ぎず、借家73.3%、給与住宅1.5%と借家に住んでいる人の割合の方が多かった(厚生省1941:14-
15)
。
ところが、第二次世界大戦を境に、日本の住宅政策は大きく方向転換することになる。
当時、同潤会内「住宅制度調査委員会」 (1939 年)では住居法案の制定へ向けた動きがあ った。住居に関する基本法として、同委員会の検討内容は今日にも通じるほどの先見性と 意義を有し評価に値するものだったが(本間義人
2003:41-42)、戦時体制に突入したこ とにより打ち切られたという経緯がある。以降、住宅は生活保障の対象から除外され、同 潤会も
1941年には住宅営団に吸収された。住宅営団は戦時経済政策の一環として、大都 市の軍需生産労働者の住宅建設を一手に請け負ったが、国民生活統制のために住宅の規模 や建築資材、労力は切り詰められた。1946 年、住宅営団は戦後間もなく解体されることに なるが、徹底した戸数主義という点では後の住宅政策にも多くが引き継がれている。
戦後日本の住宅政策は戦争による
420万戸の住宅不足の解消から始まった。1945 年に 閣議決定された「罹災都市応急簡易住宅建設要綱」では、敗戦直後の応急住宅政策の中核 として
6.25坪(20.6 平方メートル)の「越冬簡易住宅」30 万戸の建設が掲げられた。こ の越冬簡易住宅は「公営住宅の端緒」(本城和彦
1951;本間義人1983,2004ら)であ り、また、公的支援を受けた罹災者の自助努力に依存した住宅供給方式は戦後住宅政策史 の原点といえる(小野浩
2010:93)。
日本の住宅政策は主に、公営住宅(1951 年・公営住宅法) 、日本住宅公団(1955 年・日
本住宅公団法) 、住宅金融公庫(1950 年・住宅金融公庫法)の三本柱(三公体制) 、ないし
は地方住宅供給公社(1965 年・地方住宅供給公社法)を加えた四本柱で構成されていた。
17
前三者では公的機関が所得に応じた住宅を直接建設・供給し、後者は建設資金の融資によ って持ち家の自力建設を間接的に援助した。これら三本柱のスタート当時は、まだ戸数主 義、持ち家主義は顕著ではなかった。しかし、1966 年に住宅建設計画法が制定されると、
「日本の高度経済成長をより確かなものにするための経済政策の一環として住宅政策が展 開」 (本間義人
2009:109-111)されるようになった。本来、住宅政策とは、社会のなかで避けて通れない所得の格差とそれによる住宅格差を 緩和する役目(所得再分配の効果)をもつものである。ところが、日本の場合は、持家取 得に対する低利融資や民間ディベロッパーの建設費に対する低利融資はさかんに行う一方 で、低所得層などへの公営住宅の新規建設は極僅かとなっており、国民すべてが安心して 人間らしい生活をおくるための権利の保障とはほど遠い状態にある(児玉善郎
1995a:207-209)
。よって、宮﨑陽子が戦後日本の住宅政策の特徴を、①所得階層対応型、②戸数
主義、③持ち家至上主義、④自助主義、⑤景気調整政策の
5点にまとめているように(宮
﨑陽子
2005:58-59)、経済政策に傾斜した持ち家の取得支援のかたわら、低所得層の扱いは残余的に留まってきた(全泓奎
2011:63)。日本では、夫婦と子供の核家族世帯がノ ーマルで、それ以外のより社会的にも経済的にも弱い立場にある人たちに対してはきわめ て冷たい「居住差別」社会のシステムができあがっている(児玉善郎
1995b:213)。 平山洋介は、こうした持家中心の住宅システムが、メインストリームの内側のグループ に支援を集中し、 「有利/不利」の差を使うことによって、人びとに有利な位置を求めさ せ、社会の「流れ」に合流することを奨励したと指摘する。人々が持家を求めたのは、物 的安定と経済保障に加えて、住宅所有がメインストリームのメンバーシップを意味したた めである(平山洋介
2009:24-30)。その結果、ホームレスやネットカフェ難民等、家が なくて困っている人がいる一方で、親から家を相続したものの「家が多すぎて使いようが ないという世帯」は増加し、空き家化が進んでいる(平山洋介・山本理顕
2012:108)。 さらには、新自由主義・市場原理の下で居住格差は拡大を続け、日本では所得上位
1%の富裕層が住宅資産額の
50%を所有している(平山洋介2015:208-210)。
住まいを建て、壊し、ふたたび建て、という「スクラップ・アンド・ビルド」のサイク ルが日本の経済成長を支えてきたのは確かである。ただし、往年の持ち家至上主義の政策 は、国民の住まいへの欲求を見かけ上の資産価値の増大にすりかえ、生活の質の向上に結 びつく政策への世論を形成しなかった(早川和男
2009:227)。2013 年
10月
1日時点の 日本の総住宅数は
6063万戸、総世帯数は
5245万世帯となっており(総務省統計局
2016c)
、数値上は一世帯につき
1戸以上の家を持てることになっているが、その質が十分
担保されているとは言いがたい。
例えば、図
1-1は各国の一戸当たり住宅床面積を比較したものである。
18
図
1-1 戸当り住宅床面積の国際比較(壁芯換算値)(国土交通省住宅局)【出典】国土交通省住宅局“1. 住宅水準の国際比較(1)戸当たり住宅床面積の国際比較
(壁芯換算値) ” 、平成
27年度住宅経済関連データ、国土交通省ホームページ、 [n.d.]
(http://www.mlit.go.jp/common/001138849.xls)より転載
【元資料】日本: 総務省「平成
25年住宅・土地統計調査」 (データは
2013年)
アメリカ: U.S.Census Bureau 「American Housing Survey 2013」
(データは
2011年)
イギリス: Department for Communities and Local Government
「English Housing Survey Housing Stock Summary
Statistics Tables 2013」(データは
2013年)
ドイツ: Statistisches Bundesamt「Statistisches Jahrbuch
Deutschland und Internationales 2014」
(データは
2011年)
フランス: Insee「enquête logement 2013」
(注1)床面積は、補正可能なものは壁芯換算で補正を行った。 (米×0.94、独仏×
1.10)
(注2)アメリカの値は中央値(median)であり、戸建て及びモービルホームを対象 とする。
他国と比べて、日本の持ち家の広さはそう変わらない。反面、借家については、日本は
5カ国中で最も狭く、また、持ち家と借家のあいだの差が大きいと分かる。日本の住宅市 場は、持ち家は中高所得者向け、借家は若年層や単身者を中心とする仮住まい、あるい は、持ち家に手が届かない低所得者向け住宅としての階層的特徴を当初から持ち、両者が 並列的・競合的に発展してきた。つまり、借家が小さいのではなく、小さい住宅が借家と
94.42
130.99
95.84 100.54 99.99
122.32
157.19
108.51
129.25 123.42
45.95
85.06
72.12 77.88
69.30
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180
日本('13) アメリカ('13) イギリス('13) ドイツ('11) フランス('13) (㎡)
全体 持家 借家
19
して提供されている(山田良治
2000:51-52)。
そのうえ、借家の中でも、公営賃貸住宅と民営賃貸住宅のあいだでは家賃に大きな開き がある。次の図
1-2は、借家の種類別に
1㎡当たりの家賃を表したものである。
図
1-2 借家の種類別、延べ面積1㎡当たり家賃の比較【出典】総務省統計局(2015) 「平成
25年度 住宅・土地統計調査」 “第
109表 住宅の 建て方(4 区分),構造(2 区分),住宅の所有の関係(4 区分)別借家(専用住宅)数及び延べ面積 1㎡当たり家賃―全国”をもとに著者作成。
図
1-2にある通り、同一面積の場合、公営の借家の家賃と民営借家の家賃では約
4倍の 開きがある。したがって、公営住宅への入居の可否によって月々の家賃負担率が大きく増 減する。現在、公営住宅の空き家の募集にあたってはポイント方式がとられており、母子 家庭、高齢者、障がい者の入居が優先されるようになってきている。その一方で、特定の 人たちを一つの住宅群に集中させることは、ソーシャルミックス
4の考え方に反している。
都営住宅を例に挙げると、2014 年度末時点で、全世帯の
63.2%を65歳以上の高齢者世帯 が占めている。さらには、単身世帯に限定するとその割合は
78.0%に達し(東京都都市整備局
2015)、近年はこうした「限界団地」における孤独死も問題視されている。
民営の借家を利用せざるを得ないとき、高い家賃負担率の他にも課題がある。高齢者世 帯に関しては、居室内で亡くなり発見されないことや認知症によるトラブルを恐れ、民間 の賃貸住宅からも入居を断られる傾向がある。例えば、2015 年
12月に公益財団法人日本 賃貸住宅管理協会が管理会社
308社を通じて家主約
27万人に実施したアンケート調査で も、次の通り高齢者に対してはとりわけ厳しい結果が出ている(国土交通省
2016a)。
4
年齢や職業、所得水準などが異なる人々が混在していること。
250
1,111
980
447 422
1,335
1,575
656
0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800
公営の借家 都市再生機構 (UR)・公社の
借家
民営借家 給与住宅 延
べ 面 積 1
㎡ 当 た り 家 賃
( 円
)
木造 非木造
20
(1)入居を拒否している賃貸人の割合
単身の高齢者
8.7%、高齢者のみの世帯4.7%、障害者のいる世帯2.8%、小さい子供のいる世帯
5.2%、母子(父子)世帯4.1%(2)入居に拒否感がある賃貸人の割合
高齢者世帯
70.2%、障害者のいる世帯74.2%、小さい子供のいる世帯16.1%(3)入居を拒否する主な理由としては、家賃の支払いに対する不安
61.5%、住戸内での死亡事故等に関する不安
56.9%、他の入居者・近隣住民との協調性に関する不安
56.9%、習慣・言葉が異なることへの不安46.2%こうした事態に対し、国土交通省は高齢者や障がい者など住宅確保が困難な人々(住宅 確保要配慮者)の入居を円滑にするため、自治体と不動産関連団体、NPO 法人などでつ くる居住支援協議会の設立を各地の自治体などに呼び掛けている。2007 年に住宅確保要配 慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティーネット法)に基づき 制定された居住支援協議会は、2016 年
11月末時点で全都道府県につくられはしたが、市 町村単位では
17区市町とカバー率はいまだ低い(国土交通省
2016b)。持ち家率の高さか らいえば全体のうちの一部ではあるが、賃貸住宅で暮らす高齢者は住む場所の確保が難し い状態にある。
2. 持ち家があっても住み続けられない現実
家があるとすれば、今の家に変わらず住み続けることを希望する高齢者は多い。全国の
60歳以上の男女を対象とした内閣府の調査によると、自分の身体が虚弱化したときに住まい をどのようにしたいと思うかについては、 「現在の住居に、とくに改造などはせずそのまま 住み続けたい」 が
37.1%と最も高く、次いで、 「現在の住居を改造し住みやすくする」 が
26.7%、「介護を受けられる特別養護老人ホームなどの施設に入居する」が
19.0%の順となっている(内閣府
2010c)。
ところが、高齢者にとっては住み慣れたはずの自宅が必ずしも安全とは言いがたい。図
1- 3は、昨年一年間で家庭内で不慮の事故で亡くなった人の数を表したものである。
21
図
1-3 家庭における主な不慮の事故の種類別にみた年齢別死亡数(2015年)
【出典】厚生労働省(2016) 「人口動態調査」 “5-35 家庭における主な不慮の事故の種類 別にみた年齢別死亡数及び百分率” (http://www.e-
stat.go.jp/SG1/estat/Csvdl.do?sinfid=000031450302)を元に著者作成。
図
1-3のとおり、家庭内で亡くなっている人の圧倒的多数は
65歳以上の高齢者であ り、このうち「転倒・転落」および「不慮の溺死及び溺水」は住居のつくりが一因だと思 われる。これらの予防策としては住宅改修がまず考えられよう。介護保険制度を利用すれ ば、手すりの取り付けや段差の解消、引き戸への扉の取替え等、住宅改修にかかる費用を
1割負担(最大
20万円)に抑えられる。しかし、現在住んでいる住宅に対する困りごとで の中で最も多いのが「住まいが古くなりいたんでいる」 (14.3%)であり(厚生労働省
2011)
、住宅改修では対応しきれない恐れがある。
さらに、 「住まい」は、要介護状態になったときに自宅での生活の継続を困難にする要 因の一つにもなっている。具体的には、家屋の構造が要介護者の生活に適さず、自宅に住 み続けることが物理的に困難である場合や、一人暮らしである等の理由から日常生活の面 などで自宅での生活に困難や不安を感じている場合などである(高齢者介護研究会
2003:118)
。よって、要介護状態になる前の「早めの住み替え」が勧奨されているが、井上由起 子によれば、それを想定してつくられたサ高住(後述)は自宅および施設系サービスと比 較してサービス費用・住宅費用ともに最も高額で、経済的に相当余裕がある層しか早めの 住み替えを行わず、厚生年金層であっても多くは自宅でぎりぎりまで過ごすという(井上
0 0 14
95 30 14
266 5
226 464 387 376
107 76
582
3279 4743 2244
0 1000 2000 3000 4000 5000
有害物質による不慮の中毒 及び有害物質への曝露
熱及び高温物質との接触 煙,火及び火炎への曝露 その他の不慮の窒息 不慮の溺死及び溺水 転倒・転落
65歳以上 15~64歳 0~14歳 (人)
22
由起子
2016:29)。
そして、要介護状態になったとき、在宅では「365 日・24 時間の介護の安心を得ること が極めて困難」 (高齢者介護研究会
2003:116)だとして、多くが介護施設へ入所する。こうした実態を受けて、ここ十年のあいだに、小規模多機能型居宅介護(2006 年)や看護 小規模多機能型居宅介護(2012 年)、定期巡回・随時対応型訪問介護(同年)といった自 宅をベースとしたケアサービスが新設された。しかし、60 歳以上の男女のうち、デイサー ビスやホームヘルプサービスが約
9割に知られているのに対し、小規模多機能型居宅介護 の認知度は
26.9%と極めて低い(内閣府2010b)。そのうえ、定期巡回・随時対応型訪問 介護に至っては、自治体内に事業所が
1ヶ所しかないケースも珍しくない(厚生労働省老 健局振興課
2016)。よって、仮にこうしたサービスを利用しながら自宅で暮らし続けよう としても、周りに事業所が存在しない場合は介護施設へ入居せざるを得ない。
3. 「居住」が意識されていない介護施設
介護施設と聞いて、一番に想起されるのが特養だろう。1963 年の老人福祉法の制定によ り、特養は自宅で介護を受けることが困難になった高齢者を受け入れる施設としてつくら れた。しかし、当時は今のような個人と事業者の契約ではなく、措置制度がとられてい た。個人が入所先の特養を自由に選ぶことができないばかりか、その立地は郊外や町外れ が中心だったため、必然的に入居者は一般居住地域と隔絶された環境の中で暮らすことを 余儀なくされていた。また、1973 年には老人医療費の無料化が行われたことにより、特養 への入所に比べて手続きが簡易で、無料で入院できる「老人病院」に利用者が流れ込み、
社会的入院が広く蔓延することになる。ただし、特養も「老人病院」も多床室における効 率的・画一的ケアの提供という点では同じであり、そこが個人の住まいであるとの見方は ほとんどなされてこなかった。
特養を「収容の場」から「生活の場」とする方針が初めて明記されたのは
1972年の
「 『老人ホームのあり方』に関する中間意見」 (中央社会福祉審議会老人福祉専門分科会
1972)と、そのとりまとめを行った「今後の老人ホームのあり方について(答申)
」 (同
1977)であり、老人福祉法の制定から10
年以上が経過してからである。しかしながら、
社会福祉サービスの給付は地方公共団体への行政委任に「行政権限」の行使を通じて行わ れるが、財源の許す限り「利益をうけうる」ものであり(佐藤進
1985:155-156)、スロ ーガンを掲げられても実態は変わらなかった。また、ハードウェアとしての施設は、建設 後数十年用いられるものであり、 「最低基準」に沿ってつくった住居をすぐに個室に変え ることは難しく、緩やかな改善にならざるを得なかったのも事実である(早坂聡久
2008:118-119)
。
一方で、施設に対する批判は国外でも高まっていた。例えば、アメリカの社会学者
Goffman, Ervingは「全制的施設 a total institution とは、多数の類似の境遇にある個々 人が一緒に相当期間にわたって包括的に社会から遮断されて、閉鎖的で形式的に管理され た日常生活をおくる居住と仕事の場所」を指し(Goffman, Erving1961=1984:ⅴ) 、個 人の自己が無力化される過程は一般に、どの全制的施設においてもかなり標準化している と指摘した(Goffman, Erving1961=1984:16) 。あるいは、イギリスの社会学者
Townsend, Peter