九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
半導体ナノ結晶の精密合成と塗布型太陽電池への応 用
末廣, 智
https://doi.org/10.15017/1441285
出版情報:Kyushu University, 2013, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
1
半導体ナノ結晶の精密合成と塗布型太陽電池 への応用
平成
26
年2
月 九州大学大学院 総合理工学府 物質理工学専攻 末廣 智2
目次第
1
章 序論... 1
1.1
緒言... 2
1.2
ナノ結晶研究の歴史 ... 21.3
単分散ナノ結晶 の合成 ... 31.4
金属及び金属酸化物ナノ結晶 ... 41.4.1.
金属1.4.2.
合金1.4.3.
遷移金属酸化物1.4.4.
典型金属酸化物1.5.
カルコゲナイド半導体... 4
1.5.1. II-VI
族半導体1.5.2. I-III-VI
族半導体1.5.3. I-II-IV-VI
族半導体1.6.
化合物半導体ナノ結晶の応用例... 4
1.6.1.
太陽電池1.6.2.
発光ダイオード1.6.3.
その他1.7.
ナノ結晶表面の有機配位子... 16
1.8.
化合物薄膜太陽電池の展望... 17
1.9.
本研究の目的と概要... 19
第
2
章 酸化物ナノ結晶の合成とインク溶液を用いた成膜プロセスの検討 ... 362.1.
緒言... 37
2.2. V
2O
3 ナノ結晶... 37 2.2.1. V
2O
3ナノ結晶の合成2.2.2.
物性評価2.2.3. Cr
ドーピング2.2.4.
物性評価3
2.3. ZnO
ナノ結晶... 37
2.3.1. ZnO
ナノ結晶の合成2.3.2.
物性評価2.3.3. ZnO
薄膜作製2.3.4. ZnO
薄膜の物性評価2.4.
本章のまとめ... 49
第
3
章 酸化物ナノ結晶の合成とインク溶液を用いた成膜プロセスの検討 ... 523.1.
緒言 ... 533.2. CZTS
ナノ結晶... 53
3.2.1. CZTS
ナノ結晶の合成3.2.2.
粒子サイズ評価3.3.
アルキル化剤を用いた膜表面からの有機配位子の除去 ... 543.3.1. CZTS
膜作製3.3.2.
アルキル化剤の影響3.4 CZTS
ナノ結晶太陽電池... 59
3.4.1. ITO/ZnO/CdS/CZTS
積層膜の作製と評価3.4.2.
太陽電池特性3.5. CZTS
ナノ結晶太陽電池... 59
第
4
章多元系硫化物ナノ結晶組成制御 ...66
4.1
緒言 ... 674.2 Cu
2±xZn
1±xSnS
4ナノ結晶の組成制御 ... 684.2.1.
結晶構造4.2.2.
光学的特性4.3
太陽電池特性4.4
本章のまとめ... 77
第
5
章CuSbS
2の光吸収材料への適用... 82
5.1
緒言... 83
5.3 CuInS
2ナノ結晶太陽電池 ... 834 5.2.1 CuInS
2ナノ結晶の合成5.2.2
物性評価5.2.3
太陽電池特性5.3 CuSbS
2ナノ結晶太陽電池 ... 865.3.1 CuSbS
2ナノ結晶の合成5.3.2
物性評価5.3.3
太陽電池特性5.4
本章のまとめ ... 91第
6
章 総括 ...94
6.1
総括6.2
今後の展望付録 ...
・実験装置 ・使用薬品
5
第
1
章 序論6 1.1
緒言本論文で紹介するナノ結晶の合成法は、Brus らが量子ドットのサイズ効果を 研究するために開発したものである。この合成法の特徴は
300
℃近い高沸点有 機溶媒中で金属原料を熱分解することにより、高い結晶性を持つナノ結晶を合 成できることである。また、添加した有機配位子の効果により粒子成長を抑制し、単分散ナノ結晶を合成できる。これまでに本手法を用いて
Alivisatos, Bawendi,
Heyon
らの研究グループは様々な金属、酸化物、カルコゲナイド半導体の単分散ナノ結晶の合成に成功している。
また、近年では半導体ナノ結晶を用いた電子デバイスへの応用も勢力的に研 究されている。半導体ナノ結晶の表面には界面活性が配位していることから、合 成したナノ結晶はヘキサンといった有機溶媒によく分散する。このナノ結晶分 散溶液を用いれば高価な真空プロセスを用いなくてもスピンキャストといった 簡易な塗布法だけで無機結晶膜を作製できる。2001年、IBMの
S. H. Sun
ら1がFePt
ナノ粒子2を合成し、自己組織化平面上できれいに並べた電子顕微鏡写真を 示し、これを熱処理することで磁性を得たことを報告した。同年に当時のアメリ カのクリントン大統領がナノテク宣言を発表した。2005
年にはAlivisatos
らは2
種類の半導体ナノ結晶の分散溶液を塗布して積層することで薄膜太陽電池を作 製した。当時、同じ塗布法により作製できる低コスト有機太陽電池が注目されて いたが、耐久性の低さが問題となっていた。そうした中で光耐性のある無機ナノ 結晶を用いた塗布型太陽電池は有機太陽電池に変わる新しい太陽電池として話 題を呼んだ。今日までにCdSe, CuInSe
2といった半導体ナノ結晶を用いた太陽電 池が報告されている。しかし、これらの化合物には希少、有毒な構成元素を用い ていることが問題となっている。そのため環境に優しい太陽電池材料が求めら れる。そこで、本研究では希少・有毒元素を含まない半導体ナノ結晶の合成とそ れを用いた完全塗布型太陽電池の実現を目指して、その要素技術開発を行った。本章の次節からはナノ結晶の研究の背景とこれまでに合成報告された金属、金 属酸化物及びカルコゲナイド半導体ナノ結晶の合成法とそれを用いた太陽電池 への応用について述べる。次に近年の太陽電池の動向について紹介する。そして、
最後に各章の構成と本研究の目的について述べる。
1.2
ナノ結晶研究の歴史1982
年、Brus
ら2 ,3は粒径4 nm
の CdSナノ結晶と粒径が遥かに大きなバルク 粒子ではエネルギーギャップ(Eg)が異なることに気が付いた。この類似の現象は
彼らが発見する数年前にGaAs/AlGaAs
に埋め込んだ1
次元ナノ結晶で観測され ていた。この量子サイズ効果によるエネルギーギャップの変化は式(1.1)で表 される。ここで、Eg(bulk)はバルクの禁制帯幅の値、m*は有効質量、h
はプラン7
ク定数、
は比誘電率、
は真空の誘電率、d
は量子ドットの直径である。この近 似式には第二項にサイズに依存する項が入っている。第三項は1/d
に変化するク ーロンエネルギーである。量子ドットにおけるエネルギーでは1/d
2 のサイズに 依存した項が顕著となる。2
∗1.8 /2 (1.1)
4彼らはそのナノ結晶を量子ドットと定義し、粒子サイズに依存したエネルギー ギャップの変化を量子サイズ効果と名付けた。
この量子サイズ効果に魅了された
Brus
は当時、行っていた光化学と低パルス レーザーの研究を止めて、量子ドットの研究に力を注いだ。この量子ドットを深 く研究するためには、より優れたサンプルが必要だった。しかし、当時の合成技 術で合成できる試料の結晶性、分散性は乏しく研究が進展しなかった。サイズ均 一性のよいナノ結晶が合成できるようになったのは20
世紀初期のころであり、当時の彼は無機化学についてほとんど知識をもっていなかった。そんな時に、彼 は溶液をもちいた化学合成によりデバイスに用いられているような高品質な半 導体が合成できることを知った。そこで、
1986
年に当時ポスドクであったAlivisatos
と一緒に有機金属学者であるSteigerwald
指導のもとで新しいナノ結晶合成法の研究開発に取り組んだ。彼らがこの研究で得た成果はナノ結晶表面に 有機配位子を吸着させることであった。有機配位子の効果により、結晶サイズを 抑制させ、サイズの分散性を可能にする。そして、ナノ結晶の合成や、ナノ結晶 の構造解析、レーザー分光法を用いたナノ結晶励起状態の研究はポスドクであ った
Bawendi
と一緒に続けられた。この時の経験がAlivisatos
とBawendi
をナノ 結晶の研究を大学で研究する道へと進めた。その後、彼らは様々な半導体ナノ結 晶を合成し、そのナノ結晶を用いてデバイス応用に関する研究で多くの成果を 上げている。そこで、以降の節では彼らがこれまで研究してきた有機溶媒を用い た合成法(
ホットソープ法)
とその研究成果について述べていく。1.3
単分散ナノ結晶の合成単分散ナノ結晶の合成するための重要な概念として核生成理論がある。この 核生成理論を解釈するために図
1.1
にLaMer
プロット 3を示す。これは微粒子 生成過程におけるモノマーの濃度変化を示している。モノマーとは結晶核にな るもとのようなものである。このモノマー濃度が過飽和限界を超えると、モノマ8
ーが集合し核となる。核生成により、このモノマー濃度は減少し粒 子成長とともに物質濃度は減少 するため、核発生は抑えられ、粒 子成長のみが進行する。単分散ナ ノ結晶の合成するためには核生 成の起きる回数を
1
回に限定し、その後の粒子成長段階での核生 成を抑える必要がある。
LaMer
は 核発生と核成長の調製課程を独 立して合成することを提案して いる。この具体的な合成条件に関 しては以降に記述する。ホットソープ法は有機金属化合物や有機金属錯体を原料に高沸点有機溶媒中 で加熱することでナノ結晶を合成できる手法である。高沸点有機溶媒を用いる ことで室温において
300
℃近い温度領域でのナノ結晶の合成が可能になり、結 晶性の高いナノ結晶が得られる。また、有機溶媒中でナノ結晶を合成することの 大きなメリットは界面活性剤の効果により単分散ナノ結晶を比較的合成しやす いことである。そして、合成したナノ結晶は界面活性剤が表面に吸着しているた め有機溶媒中に分散する。有機溶媒を用いて単分散ナノ結晶を合成する手法として
hot-injection
法とheating-up
法の2
つがよく用いられている。hot-injection
法はBawendi
6らによっ て単分散Cd
系カルコゲナイドナノ結晶を合成するために考案された。この手法 はあらかじめ加熱しておいた有機溶媒中で、金属前駆体溶液をインジェクショ ンすることによりナノ結晶を合成する手法である。ある温度で反応溶液をイン ジェクションすることにより核生成の期間を短くできる。この後、モノマー濃度 は急激に減少し、核成長段階に移行する。一方、heating-up
法は加熱前に溶媒と 金属前駆体を混ぜ合わせて、成長段階まで加熱する手法である。heating-up
法はhot-injection
法に比べ合成手法が単純であることから、一度に多くのナノ結晶を合成できることが利点である。これらの手法を用いてこれまでに半導体、金属、
金属酸化物といった様々なナノ結晶が合成されるようになった。以降の節では これまでに本手法により合成されたナノ結晶について紹介する。
1.4
金属及び金属酸化物ナノ結晶遷移金属や遷移金属酸化物は強相関物質であることから、磁性や誘電特性と いった様々物性を持ち、デバイスに応用されている。遷移金属も触媒として工業
図
1.1 モノマー濃度と時間依存性
の
LaMer
プロット39
用材料によく用いられている。そこで、これまでに報告された単分散遷移金属ナ ノ結晶及び遷移金属酸化物ナノ結晶の合成につて述べていく。
1.4.1
金属単分散磁性体ナノ結晶の合成手法は
Murray
ら 7が先駆的に取り組んだ。彼ら は塩化コバルトをオレイン酸、トリアルキルフォスフィンを含むジオクチルエ ーテル中で200
℃で反応させることによりCo
ナノ結晶を合成した。また、トリ ブチルフォスフィン(TBP)
などのアルキルホスフィンを用いることで粒子サイズを
7-11 nm
に制御した。更に、彼らはトリオクチルフォスフィン(TOP)
を用いてより小さな粒子
(2-6 nm)
の合成にも成功した。溶媒選択の他にサイズの均一性 を向上させるため、洗浄時にエタノールやヘキサンの配分量比を段階的に変え て行うサイズ分配法も考案された。Alivisatos
ら 8もCo
ナノ結晶を合成してお り、彼らはCo
2(CO)
8を前駆体原料としてオレイン酸、ラウリン酸やTOP
溶液中 で反応させることにより単分散Co
ナノ結晶を合成した。更に、彼らは金属前駆 体と溶媒の混合割合や反応温度を変えることにより3-17 nm
の範囲で粒子のサ イズが制御できることを示した。一方で
Heyon
ら9は同じ手法を用いて単分散Fe
ナノ結晶の合成に成功した。彼らは最初にオレイン酸と
Fe(CO)
5を100
℃で反応させてFe-
オレイン酸の混合 物を調製し、それを更に加熱して熱分解することでFe
ナノ結晶を合成した。彼 らはオレイン酸とFe(CO)
5の混合比を変えることで粒子サイズを4-20 nm
範囲で サイズを制御できることを見出した。しかし、合成したFe
ナノ結晶はすぐに酸 化してしまったが、この後彼らはFe
の酸化しやすい特性を利用してフェライト ナノ結晶(γ-Fe
2O
3)の合成法を見出した。フェライトナノ結晶の合成法の詳細に ついては(1.4.3)
で述べる。1.4.2
合金Sun
とMurray
1らは1,2-
ヘキサデカンジオールを用いてオレイン酸とオレイルアミンの混合溶媒中で
Pt
アセチルアセトナート(Pt(acac)
2)の還元とFe(CO)
5を熱分解させることにより単分散
FePt
ナノ結晶を合成した。この時のサイズ制 御は合成した3 nm
のFePt
ナノ結晶を種として溶媒中で原料と一緒に再加熱することで
3-10 nm
の範囲で行っている。また、彼らは基板上にFePt
ナノ結晶を自己組織的にきれいに配列させ、
560
℃で30
分間、熱処理することで磁性を 得たことを報告した。Weller
10らはSun
らの手法を参考にPt(acac)
2とCo
2(CO)
8を1,2-
ヘキサデカンジ オールを用いて還元、熱分解することによりCoPt
3ナノ結晶を合成した。彼らは インジェクション温度と反応温度、そして反応時間時間を変えることでサイズ10
制御した。また、
FePt
ナノ結晶の手法を参考にChen
とNikles
11もFePd
やCoPt
ナノ結晶を合成した。更に彼らはこの手法を応用しオレイン酸とオレイルアミ ン中のFe(CO)
5をCo(acac)
2とPt(acac)
2加えて熱分解させることでFe
xCo
yPt
100-x-yを合成した。
Park
とChen
12はCo/Pt
溶液を混合して加熱することによりCo-Pt
コア-
シェルのナノ結晶を合成した。金属溶液はCo
2(CO)
8をPt(hfac)
2をトルエン 中で加熱することで調製した。また、彼らはこの手法を用いてCo-Au, Co-Pd, Co- Cu
のコア-
シェルのナノ結晶の合成法を見出した。1.4.3
遷移金属酸化物磁気記憶媒体や磁性流体の観点においてフェライトを含む磁性体酸化物のナ ノ結晶の研究は長い間行われてきた。しかしながら、単分散磁性体ナノ結晶が合 成できるようになったのはここ最近のことである。
Alivisatos
ら 13 はFe
とC
6H
5N(NO)O
-の混合物を熱分解することにより単分散Fe
ナノ結晶の合成に成功した。彼らは様々なエーテルの使い分けや、反応温度さらには混合物の分量比を 変えることにより粒子サイズの制御できることを見出した。
一方で、
Heyon
らはサイズ分配法を用いずに単分散γ-Fe
2O
3ナノ結晶を合成した。彼らは
Fe(CO)
5とオレイン酸の化合物をトリメチルアミンN-
オキシドの酸 化剤9で酸化させることによりγ-Fe
2O
3ナノ結晶を合成した。その後も彼らは研 究を重ねFe-
オレイン酸化合物をオクチルエーテルなどの高沸点有機溶媒中で 熱分解させることでγ-Fe
2O
3ナノ結晶の大量合成14に成功した。Sun
とZeng
15は オレイン酸、オレイルアミンの混合溶媒中で1,2-
ヘキサデカンジオールとFe(acac)
2を高温で反応させることにより単分散γ-Fe
2O
3ナノ結晶を合成した。その結果、彼らは
1,2-
ヘキサデカンジオールを用いた同様の方法で、CoFe
2O
4 やMnFe
2O
416ナノ結晶の合成手法を見出した。また、Bao
らは塩化物金属前駆体と オ レ イ ン 酸 、 オ ク タ デ セ ン と 単 純 に 反 応 さ せ る こ と で 単 分 散CoFe
2O
4 やMnFe
2O
417,18ナノ結晶を合成した。Heyon
ら19はγ-Fe
2O
3ナノ結晶をナノメートルオーダーでのサイズコントロールに成功した。調製した
6 nm
の単分散ナノ結 晶をシード粒子として用い、原料を含む溶液中で反応させることにより6, 7, 9,
10, 12, 13 nm
の異なるサイズの粒子を作り分けに成功した。Yin
とO’Brien
20はMn
アセテートをオレイン酸中において320
℃で熱分解することで
7 nm
の単分散MnO
ナノ結晶の合成できることを見出した。そして、彼らは
MnO
ナノ結晶を320
℃で1
時間加熱した後に、100
℃で5, 10, 30, 60
分 間、保持することで12-20 nm
の範囲で粒子サイズを制御した。Heyon
ら 21はMn
とオレイルアミンの混合物を調製し、TOP
中300
℃で加熱することによりMnO
ナノ結晶を合成した。彼らは界面活性剤を変えることで粒子サイズを5-40
nm
の比較的広い範囲で制御できることを見出した。彼らはTOP
中でナノ結晶11
を
100
℃で2
日間加熱することで40 nm
の大きな粒子を合成できることも報告 している。Heyon
ら22はNi(acac)
2とオレイルアミンを加熱した混合物を調製し、225
℃のTPP
中で加熱することにより単分散Ni
ナノ結晶を合成した。ホスフィン系は溶媒 と界面活性剤の2
つの働きを有する。さらに彼らはTPP
をTOP
に変えることで2 nm
のナノ結晶の合成に成功した。また、彼らはCr-TOP
混合物を300
℃熱分解さ せることで単分散Cr
ナノ結晶23の合成に成功した。しかし、合成したナノ結晶は 空気に触れることで酸化され、Cr
2O
3へと変化した。V
2O
3は金属絶縁体転移(MIT)
24 を示す物質であり、またV
2O
3はCr
やTi
とい った異元素をドーピングすることに物性を変化させることができる25このV
2O
3を用いて温度サーミスタ、電流制限器、温度センサー、光学スイッチ等への応用
26-28 などのアプリケーションへの応用研究も勢力的に研究されている。近年、
Bergerud
ら29はコロイド法を用いたV
2O
3ナノ結晶の合成法を報告した。彼らはV(III)(acac)
2を金属原料にオレイン酸とオレイルアミンを溶媒として320-380
℃で加熱することで
Bixbyite
構造を有するV
2O
3ナノ結晶の合成に成功した。1.4.4
典型金属酸化物ZnO
は低毒性、安価の元素で構成されるワイドバンドギャップ半導体であり、紫外光領域を活用する光デバイスを研究する上で重要な材料の一つである。
ZnO
は
60 mV
の大きな励起子結合エネルギーを持ち、そしてE
g= 3.7 eV
を持ったn
型半導体である。また、様々な元素をドープすることが可能であり、透明導電性 導酸化物として透明電極材料に期待されている。この物性を有することから、発 光ダイオード、太陽電池、光デバイスの電極そして薄膜ガスセンサーなどへの素
子応用30-35への研究が盛んに行われている。有機溶媒を用いた単分散
ZnO
ナノ結晶の合成は比較的新しく、最初に
Cozzoli
ら36が合成法を見出した。その後、ZnO
ナノ結晶にAl
37, Ga
38, Eu
39といった不純物元素のドーピングの研究が行わ れた。この結果、ZnO
ナノ結晶のインク溶液を用いれば、高価な真空プロセスを 用いなくても透明導電性膜が成膜できることが期待された。近年、ナノ結晶の分散溶液を用いた透明導電性膜作製に関する研究が報告さ れている。インジウム
-
錫-
酸化物(ITO)
は光透過性と良好な電気伝導性をもつこ とから発光ダイオードや太陽電池の電極に応用されている。Sun
ら40はIn(acac)
2と
Sn(acac)
2Cl
2をオレイルアミンと1-
オクタデセン中で250
℃、10
分間加熱す ることで単分散ITO
ナノ結晶を合成した。彼らはITO
ナノ結晶インク溶液をス ピンコート法により基板に成膜し、Ar-H
2雰囲気下、300
℃で焼成することによ り透明導電性薄膜を作製した。ITO
ナノ結晶を用いた成膜手法は焼成温度が低 いことからフレキシブル基板や軽量基板への製膜応用が期待された。また、この12
他にも
In
2O
3, SnO
2ナノ結晶41, 42も合成され、ガスセンサーとしてのデバイス応 用が検討された。Caruntu
ら 42はIn(acac)
3とオレイルアルコールをフラスコ中320
℃で加熱することにより単分散In
2O
3ナノ結晶の合成に成功した。1.5
カルコゲナイド半導体ナノ結晶1.5.1 II-VI
族半導体金属カルコゲナイドナノ結晶は量子サイズ効果やサイズに依存した発光特性
43を示すことから大きな注目を集めている。半導体ナノ結晶は発光ダイオード、
太陽電池、レーザー、単一電子伝導などの様々分野でのデバイス応用が期待され ている。半導体ナノ結晶もまた、上節で述べた同様な高沸点有機溶媒中で金属前 駆体を加熱する手法により、サイズコントロールやサイズ均一性の高い半導体 ナノ結晶の合成が行われた。Bawendiらは単分散
CdSe
ナノ結晶合成を先駆的に 研究してきた。1993年、彼らはCd
を含むTOP
溶液を加熱して、カルコゲナイ ド溶液を反応温度でインジェックションすることによりCdE ( E = S, Se, Te)ナノ
結晶の合成 6 に成功した。彼らの合成法ではCdE
のサイズ均一性は標準偏差(であったが、サイズ分配法を用いるとまで下げることに成功し
ている。単分散ナノ結晶を合成するための条件として、成長時間、温度、モノマー濃度 だけでなく、界面活性剤の選択も重要な条件となる。Weller ら 44は
TOP-TOPO
の混合溶液にヘキサデシルアミンを加えることにより、以下の単分散CdSe
ナノ結晶の合成に成功した。この結果は単分散CdSe
ナノ結晶を合成する ためにヘキサデシルアミンの投入量が重要であることを示している。Peng ら 45 はCdO
をヘキシルホスフィン酸 (HPA)、テトラデシルホスフィン酸 (TDPA)と 反応させてCd(CH
3)
2を調製し、TOPO中300
℃で加熱することにより標準偏差 の小さいナノ結晶を合成した。一方で、グローブボックスでの扱いを必要とする ホスフィンを用いない手法も研究され、Mulvaney ら46はSe
を1-オクタデセン
と200
℃で反応させSe
溶液を調製し、あらかじめ調製しておいたCd-オクタデ
セン溶液と反応させることでCdSe
ナノ結晶を合成できることを見出した。この 結果はホスフィン系の金属化合物を必要としないCdSe
ナノ結晶の合成条件と 重要な報告となった。Caoら47はinjection
法を用いず、heating-up法を用いて単 分散CdSe
ナノ結晶の合成法を見出した。彼らはミリスチ酸カドミウムとSe
の 溶解温度を考慮して、熱分解温度より少し反応温度を上げて240
℃までゆっく り加熱した。その結果、彼らの合成したCdSe
ナノ結晶の標準偏差は5 %以下で
あった。この金属カルコゲナイドナノ結晶の合成法は他のII-IV
化合物にも適用 され、この後にPbSe, PbTe, ZnS, ZnSe
ナノ結晶の合成に応用された。13
Colvin
ら48はPbO
とTOPSe
をオレイン酸、1-
オクタデセン中で加熱することにより
3-13 nm
のPbSe
ナノ結晶を合成した。Heyon
ら49はPbCl
2と硫黄をオレ イルアミン中で加熱すことでPbS
ナノ結晶の合成に成功した。彼らはPbCl
2と 硫黄の混合比を変化させることで6, 8, 9, 13 nm
のサイズ制御に成功した。更に、Cademartiri
とOzin
ら50は単分散PbS
ナノ結晶を用いてフレキシブル基板に緻密膜を製膜できることを示した。
1.5.2 I-III-VI
族半導体カルコゲナイド半導体は長波長領域
(
禁制帯幅1.0~1.5 eV)
の光を必要とする生 体撮像や太陽電池といったアプリケーションへの応用に適している、また2
元 系カルコゲナイド半導体はCd
やPb
等の毒性の強い元素を含んでいる。そのた め、半導体の中でこれらの系に物性が近い3
元系または4
元系化合物半導体が 注目されるようになっていった。特にCuInS
2, CuInSe
2, Cu(In,Ga)Se
2はp
型半導 体であり、20
年以上前から太陽電池光吸収層としての研究が進められてきた。多元系化合物は元素の組成比や別元素への置換などにより禁制帯幅やエネル ギー準位を変化せることができる。近年では希少元素である
In
を使用しないた めにCuInS(Se)
2のIn
を汎用元素Zn, Sn
で置き換えたCu
2ZnSnS
4,Cu
2ZnSnSe
4が 次世代の太陽電池材料として注目されている。CuInS(Se)
2ナノ結晶も2
種類の金属前駆体と溶媒をある温度での熱分解と硫化
(
セレン化)
により合成が可能である。表1.2
にこれまでに報告されたCuInS(Se)
2ナノ結晶の合成条件を示す。Cu
前駆体の反応によって生じたCu
+は弱いルイス酸であり、弱いルイス塩基を求める。
CuInS
2ナノ結晶を合成する場 合、弱いルイス塩基は1-
ドデカンチオール(DDT)
51-57がよく用いられる。DDT
は界面活性剤と溶媒の種類の役割をはたす。更に、硫黄源としても働き、加熱 することにより様々金属塩と反応して金属硫化物を形成する。ヨウ化銅と酢酸 インジウムをDDT
と180-270
℃の範囲で加熱することにより~10 nm
のCuInS
2ナノ結晶を合成されている。また、CuInS
2ナノ結晶を合成する場合、硫黄源としてチオ尿素58を用いる報告例もある。この場合、溶媒としてアルコー ルを用いると
100 nm
以上の大きな粒子が形成される。また、溶媒にオレイルアミン60, 61を組み合わせると粒子サイズを
20 nm
以下にすることができる結果が示された。硫黄粉末とオレイルアミンを組み合わせると比較的、サイズの小 さい粒子を合成することができる。オレイルアミンは粒子の核表面に働き、核 成長を抑制する効果があると考えられる。また、同じ合成条件で
TOP
を加える ことにより大きなサイズの粒子を合成できることも明らかとなっている。そし て、CuInS(Se)
2ナノ結晶だけでなくAgInSe
265, CuGaS
266ナノ結晶の合成も活発 に行われている。14
表
1.1
これまでに報告されたCuInS(Se)
2ナノ結晶の調製方法*1Material Precursor Method Size (nm), shape Ref.
CuInS
2CuI, In(acac)
3, DDT HU 3-8 triangular 51
CuI, In(acac)
3, DDT HU/A 2 52
CuI, In(acac)
3, DDT, ODE HU 3, spherical 53
CuI, In(acac)
3, DDT, OA, ODE HU 3 54
CuI, In(acac)
3, DDT, OA, ODE HU 3 55
CuI, In(acac)
3, DDT, MA, OA, ODE
HI 2-5 spherical 56
CuI, In(acac)
3, DDT, MA, OA, ODE
HI 9-11.5 57
CuCl
2, In(NO
3)
3, thiourea, benzylalchol
HU/A 1000-2000, cube 58
CuCl, InCl
3,, thiourea, ethanol HU/A 1800-2400 59 CuInSe
2CuCl, InCl
3,, selenourea, OLA HI 16, trigonal 60 CuInSe
2CuCl, InCl
3,, selenourea, OLA HI 7 , spherical 61
CuInS
2CuI, InCl
3, S, OLA HI 5-10 62
CuCl, InCl
3,S, OLA HU 15-17 57
CuCl, InCl
3,S, OLA, Hexane HU/A 3-5 63
CuInSe
2CuCl, InCl
3, Se, TOP or TOPO Hi 10 spherical 64
*略語
HI: heating-up, HU/A: Heating-up/autoclave, HI: hot-injection, ODE: octadecene, DDT: dodecanthiol, OA: olic acid, OLA: oleylamine, EDA: ethylenediamine, TOP: trioctylphoshine, TOPO: trioctylphosphine oxide, EG: ethylene glycol: TMAOH: tetramethylammonium hydroxide, acac: acetylacetonate, ac, acetate:
表
1.1
の引用元) *1Aldakov, D.; Lefracois, A.; Reiss, P. Ternary and Quaternary Metal Chalcogenide
Nanocrystals : synthesis, properties and applications. J. Mater. Chem. C, 2013, 1, 3756-
3776.
15 1.5.3 I-II-VI-VI
族半導体2009
年に3
つのグループがCZTS
ナノ結晶の合成法69, 70, 84を報告した。Guo ら70は硫黄-オレイルアミンをインジェクションしてナノ結晶を合成した。また、Riha
ら69は硫黄-オレイルアミン溶液に金属前駆体とトリオクチルホスフィンオ キシド(TOPO)の混合溶液をインジェクションしてCZTS
ナノ結晶を合成した。一方、
Steinhagen
ら84は他のグループとは合成手法は少し異なるheating-up
法を 用いてCZTS
ナノ結晶の合成を行った。彼らは室温ですべての原料を混ぜ込み、オレイルアミン中で
280
℃で加熱してCZTS
ナノ結晶を合成した。これらの合 成報告のなかで、Rihaらの合成したナノ結晶のサイズは12.8±1.8 nm
であり、そのナノ結晶は他の二つのグループよりサイズ均一性に優れていた。
その後、これらの合成法に基づき、多くの研究グループが
CZTS
ナノ結晶の合 成に取り組んだ。表1.3
にCu
2ZnSnS
4 ナノ結晶の合成条件を示す。硫黄-オレイ ルアミンを用いた合成法67は5-25 nm
の角張った、あるいは丸い粒子 71が生成 される傾向があった。また、エチレンジアミンのようなアルキル鎖の短いアミン を溶媒または配位子に使用した場合、凝集した粒子やワイヤー形状の粒子が生 成した。硫黄の代わりにチオウレアを用いた合成手法 74, 75は、多くの場合、粒子は
100 ~ 500 nm
と凝集した。しかし、チオウレアとオレイルアミンを組み合わせた合成手法77は比較的サイズの小さな粒子(20×15 nm)が得られた。更にオ レイルアミンとジエチルジチオカルバメートを用いた合成法86では
2-7 nm
のサ イズコントロールに成功している。一方で、CZTS
ナノ結晶においてケステライ ト構造とは別構造が合成された。斜方晶系のCZTS
ナノ結晶はチオ尿素とエチ レンジアミン組み合わせた水熱法により合成 78された。エチレンジアミンを抜 いた場合、結晶構造はケステライトになった。また、Singh
ら87はCZTS
ナノ結 晶合成条件におけるチオールの効果について研究した。その結果、アミンを用い ない条件ではCZTS
ナノ結晶はwurtzite
構造になることが明らかとなった。この 他 に も 、CZTS
ナ ノ 結 晶 を 別 元 素 で 置 き 換 え たCu
2ZnSnSe
488, Cu
2ZnGeS
489,Cu
2CdSnSe
490ナノ結晶も合成報告があり、このときに多元系硫化物ナノ結晶への異元素ドーピングによる光学的禁制帯幅の制御技術が進歩した。
16
表
1.2
これまでに報告されたCu
2ZnSnS
4 ナノ結晶調製法*2*略語
ODE: octadecene, DDT: dodecanthiol, OA: olic acid, OLA: oleylamine, EDA: ethylenediamine, TOP:
trioctylphoshine, TOPO: trioctylphosphine oxide, EG: ethylene glycol: TMAOH: tetramethylammonium hydroxide, acac: acetylacetonate, ac, acetate:
表
1.2
の引用元) *2Aldakov, D.; Lefracois, A.; Reiss, P. Ternary and Quaternary Metal Chalcogenide Nanocrystals : synthesis, properties and applications. J. Mater. Chem. C, 2013, 1, 3756- 3776.
合成法 結晶構造 金属原料、溶媒 Size(nm), Morphology Ref.
Hot-injection Kesterite CuCl2, ZnCl2, SnCl4, S, OLA 7-9 67
CuCl2, ZnCl2, SnCl2, thiourea, OLA 22×14, spindle like 68 Cu(acac)2, Zn(ac)2,Sn(ac)2 , S, OLA, TOPO 13, irregular faceted shape 69
Cu(acac)2, Zn(ac)2,
Sn (bis-acacdibromide)2 , S, OLA, 15-25 70
CuI, ZnCl2, SnI4, S, OLA 7-10 71
Wurtzite Cu(acac)2, Zn(ac), Sn(acac)4, Tert-DDT,
TOPO, ODE 35×11, rod or bullet 72
CuCl2, ZnCl2, SnCl4, DDT, OLA or OA 20×28, prisms, 14, thick
plates 73
Heating-up/autoclave Kesterite CuCl2, ZnCl2, SnCl4, thiourea, PVP, EG 500, flowerlike 74 CuCl2, ZnCl2, SnCl4, thiourea, PVP, EG 100-150, aggregated 75 CuCl2, ZnCl2, SnCl4, S, EDA 5-32, aggregated 76
CuCl2, ZnCl2, SnCl4, thiourea, OLA,
TMAOH, EG Aggregated 77
orthorhombic CuCl2, ZnCl2, SnCl2 thiocarbamide, EDA, water
20-50, plate-like,
aggregated 78
Heating-up Kesterite CuCl2, ZnCl2, SnCl4, thiourea, PVP, EG,
TMAOH 5-8, aggregated 79
CuCl2, ZnCl2, SnCl4, S, OLA, ODE 15, irregular faceted 80 CuCl2, ZnCl2, SnCl4, S, EDA m×200 , wires 81 Cu(ac)2, Zn(ac)2, Sn(ac)4, S, OLA 5-6 spherical 82 Cu(acac)2, Zn(ac)2,SnCl2 , S, OLA 11, irregular faceted 83 Cu(acac)2, Zn(ac)2,SnCl2 , S, OLA 11, irregular faceted 84 Cu(NO3)2, Zn(NO3)2, SnCl4,S, OLA 10-15 agglomerated 85
Cu(S2CNEt2)2, Zn(S2CNEt2)2,
Sn(S2CNEt2)4,OLA 2-7 faceted 86
Wurtzite Cu(S2CNEt2)2, Zn(S2CNEt2)2,
Sn(S2CNEt2)4,trioctylamine 15×8, elongated 87
17 1.6
化合物半導体ナノ結晶の応用例1.6.1
太陽電池2002
年にAlivisatos
らは図1.2
に示すよう にCdSe
ナ ノ 結 晶 と 有 機 ポ リ マ ー で あ るP3HT
を用いた有機・無機ハイブリット太陽 電池 112を発表し、ナノ結晶太陽電池の研究 はブレークスルーした。半導体を用いた高変 換効率の太陽電池が塗布法により作製でき ることが期待される一方で、その太陽電池は 有機物を用いているので耐久性は乏しかっ た。3
年後、彼らは図1.3
の構造でCdS
およ びCdTe
を用いた完全無機ナノ結晶太陽電池92を開発した。この太陽電池は無機ナノ結晶 のみで構成され、ナノ結晶の分散溶液を基板 にスピンキャストといった簡単な成膜手法 で薄膜を作製できる。そして無機物ゆえに有 機太陽電池より耐久性に優れる長所がある。
当時、有機太陽電池が注目されていただけ に、彼らの作ったナノ結晶太陽電池は注目を 集めた。この後、この研究に感化されて、多 くの研究者が半導体ナノ結晶を用いた研究 に着手した。これまで
Cu(In,Ga)Se
2104, PbSe
94-96
, Cu
2S
93ナノ結晶を用いた太陽電池が作製され、
1-5 %
程度の変換効率が報告されている。また、
n
型ワイドギャップ半導体ではTiO
2やZnO
ナノ結晶 105 を用いて太陽電池の窓層に もちいられている。CZTS
においても、そのナノ結晶が合成さ れ、図1.4
に示すようにCZTS
ナノ結晶を光 吸収層に用いた太陽電池で0.23 %
の変換効率105が報告された。表
1.4
に半導体ナノ結晶を用いた太陽電池の構造と特性を示す。ナノ結晶を光吸収層に用いた太陽電池の 中で最も変換効率が高いものは
PbS
ナノ結晶の5 %
が報告99されている。図
1.2 CdSe
ナノ結晶を用いた有機・無機ハイブリッド太陽電池の構造112
図
1.3 CdSe,CdTe
ナノ結晶を用いた完 全無機ハイブリッド太陽電池の構造92図
1.4 CZTS
ナノ結晶を光吸収層に用いた
CZTS
太陽電池の構造10518
表
1.3
報告されたナノ結晶を光吸収層とした太陽電池の特性*3ナノ結晶焼結膜を用いた太陽電池
CuInSe2 Mo/CuInSe2/CdS/ZnO/ITO 280 25.8 39 2.8 106 CIGSSe Mo/CIGSSe/CdS/ZnO/ITO 460 23.7 51 5.5 107 CZTS Mo/CZTS/CdS/ZnO/ITO 210 11.5 33 0.8 108 CZTSSe Mo/CZTSSe/CdS/ZnO/ITO 430 31.2 54 7.2 119 CZTGeSSe Mo/CZTGeSSe/CdS/ZnO/ITO 640 21.5 49 6.8 110 CdTe ITO/CdTe/ZnO/Al 590 20.7 56 6.9 111
表
1.3
の引用元)*3Akhavan, V.A.; Goodfellow, B. W.; Panthani, M. G.; Steinhagen, C.;; Harvey, T. B. ; Stolle, C. J. ; Korgel, B. A. Colloidal CIGS and CZTS Nanocrystals: A Precursor Route to Printed Photovoltaics. J. Solid State Chem. 2012, 189, 2-12.
ナノ結晶 構造 Voc(mV) Jsc(mA/cm2) FF(%) (%) Ref.
CuInSe2 Au/ CuInSe2/CdS/ZnO/ITO 410 16.3 46 3.1 91 CdSe and CdTe Ca/CdTe/CdSe/ITO 450 13.2 49 2.9 92 Cu2S Al/CdS/Cu2S/ITO 600 5.63 47 1.6 93 PbSe Mg/ PbSe/ITO 230 17 40 1.1 94 PbSe Al/Ca/ PbSe/ITO 240 24.5 41 2.1 95 PbSe Au/-NPD/PbSe/ZnO/ITO 390 15.7 27 1.6 96 PbS Al/a-Si/PbS/ITO 200 9.0 39 0.7 97 PbS ITO/PbS/LiF/Al/Ag 460 14.5 64 3.9 98 PbS and TiO2 SnO2:F/TiO2/PbS/Au 510 16.2 58 5.1 99 PbSexS1-x Al/PbSexS1-x/ITO 450 14.8 50 3.3 100 PbSe and ZnO ITO/PEDOT/PbSe/ZnO/Al 440 24.0 32 3.4 101 CuInSe2 Mo/CuInSe2/CdS/ZnO/ITO 300 3.2 25 0.24 102 Cu2ZnSnS4 Au/CZTS/CdS/ZnO/ITO 320 1.95 37 0.23 84 CuInS2 ITO/CuInS2/CdS/Al 590 12.4 55 4.0 103 Cu(In,Ga)Se2 Mo/CIGS/CdS/ZnO/ITO 305 17.3 50 2.6 104 SnS and TiO2 SnO2:F/TiO2/SnS/Pt 470 0.30 71 0.10 105
19
1.6.2
発光ダイオード発光ダイオードは半導体
pn
接合の構造で構成されおり、ホールと電子が再結 合する時に、バンドギャップに相当するエネルギーの発光が起きる。一般的に発 光ダイオードでナノ結晶を用いる場合、表面の再結合を防ぐため、CuInS
2-ZnS
やAgInS
2-ZnS
といったコア-シェル構造が用いられている。Zhongら113はCuInS
2- ZnS
のコア-シェル構造から量子効率65 %を記録した。黄色、橙色の発光で 1200 cd/m
2の高い輝度を得た。また他の報告ではCuInS
2-ZnS/ZnSe/ZnS
114コア-シェル-シェルナノ結晶において赤、黄、緑色の光で 1200-1600 cd/m
2の高い値が得られている。
1.6.3
その他 受光素子3
元、4元カルコゲナイド半導体ナノ結晶を用い て有機ではカバーできない赤外領域を用いた受光 素子の研究が進められている。これまでに図1.5
に 示す構造でCuInSe
2 やCZTSe
ナノ結晶を用いてP3HT
と混合させたものが作製された115。この他に も配位子を除去したCuInSe
2 ナノ結晶を用いてス ピンキャストにより成膜した完全無機ナノ結晶で 構成されるフレキシブル基板を用いた受光素子の 開発が行われた。更に、Au
を核粒子にして、CuInSe
2をシェルにした
Au-CuInSe
2コア・シェル構造のナノ結晶116を用いた
P3HT
との有機・無機ハイブリッド受光素子ではCuInSe
2ナ ノ結晶の場合に比べ、素子特性が向上することが報告された。この特性向上には プラズモン共鳴吸収が起因した効果であると考えられている。熱電素子
熱電素子はナノ結晶を用いることで熱電性能が向上する。熱電素子材料の評 価は無次元指数
ZT(S
2
で表記される。この指数にはゼーベック係数(S)
、電気 伝導率(
、熱伝導率)
が関係している。ナノ結晶における熱伝導率は粒界でフ ォノン散乱が起因して大きく減少する。4
元系カルコゲナイド化合物において、粒界の増大するためフォノン散乱の増大より、熱伝導率が小さくなる。これまで に
Cu
2CdSnSe
4, Cu
2ZnGeSe
4, Cu
2SnSe
3117, CZTS
118ナノ結晶においてZT= 0.5-0.7
が 報告された。しかしながら、バルク材料に比べて電気伝導率が低いのが課題であ る。この要因の一つは粒子表面の配位子が絶縁性を示すことが考えられている。図
1.5 CuInSe
2ナノ結晶を用 いた有機・無機ハイブリッド受 光素子の構造20
そのため、配位子交換や熱処理により配位子除去が研究行われている。次節では ナノ結晶表面の配位子除去法について述べる。
1.7
ナノ結晶表面の有機配位子前述したように金属カルコゲナイドナノ結晶は太陽電池や光受光素子熱電変 換素子などへの応用に期待されている。ナノ結晶を電子デバイスへ応用する場 合、ナノ結晶間の電気的な相互作用を最大限まで高めることが重要とされてい る。しかし、ナノ結晶の表面には合成時に使用した界面活性剤が配位している。
界面活性剤は合成時にサイズ制御などの重要な役割をはたすが絶縁性を示し、
デバイス作製段階では不要である。そこで、この問題を解決する手法を2つに大 別して紹介する。
熱処理は一般的に有機配位子の脱離、分解温度(> 300 ℃)以上で行う。この手 法はナノ結晶表面の有機配位子を効率的に除去できる。しかし、熱処理手法は
3
元、4
元系カルコゲナイド半導体ナノ結晶でも用いられており、ナノ結晶をベー スとした薄膜太陽電池としてよく用いられる。しかし、熱処理の最大の欠点はコ ストが高く、高温で熱処理するため、フレキシブル基板への適用ができないこと にある。また、熱分解により炭素の分解物が化合物層のコンタミとなり、電子輸 送を妨げる可能性も考えられる。配位子交換とは長鎖のアルキル鎖をより短いものに交換する手法である。
Bawendi
ら119はCdSe
ナノ結晶薄膜とbutylamine, aniline, 1,6-diaminohexane, 1,4-
phenylenediamine
などと反応させることで光電気特性が向上することを報告した。
Riha
ら120はCZTS
ナノ結晶膜をethylenediamine
と反応させて配位子交換を 行った。Lutherら121はPbSe
ナノ結晶膜を1,2-ethanedithiol
を含むアセトニトリ ル溶液(0.1 M) に数分間浸漬させることで粒子表面の界面活性剤を交換できる ことを報告した。また1,2-ethanedithiol
処理と成膜を交互に行うことで膜厚を制 御できることを示した。これによりナノ結晶膜の膜厚をスピンコートの回数で 制 御 で き る よ う に な っ た 。 今 日 で は 、 ナ ノ 結 晶 表 面 の 配 位 子 交 換 に1,2-
ethanedithiol
は広く用いられている。また、Talpin らは粒子表面の有機配位子とSn
2S
64–, S
2- やHS
-のような無機配位子122, 123との交換を提案した。これは交換し た無機配位子溶液とナノ結晶インク溶液を攪拌することにより配位子交換が行 われる。ただし、金属無機配位子の溶液はヒドラジンが用いられているので取り 扱いが難しくなる。一方、
Rosen
ら124はメーヤワイン(Meerwein’s) ((C2H
5)
3OBF
4)試薬を用いた配位
子の除去プロセスを見出した。彼らのグループはカルボン酸塩、ホスホン酸塩、アミンといった炭化水素鎖が配位した様々なナノ結晶(PbSe, CdSe, ITO,や
TiO
2など)に対してメーヤワイン試薬を用いたアルキル化による配位子の効果的な除