第 5 章 CuSbS 2 の光吸収材料への適用
5.1 緒言
3章で述べたようにCdTe1、Cu(In,Ga)Se22といった既存の化合物薄膜太陽電池 材料は希少、有毒元素を含んでいる事が問題となっている。そこで将来の太陽 電池材料を見据えて希少、有毒元素を用いない材料の探索が求められている。
近年、KumarとPersonは密度汎用関数を用いた第一原理計算3により、CuSbS2
とCuBiS2は既存のp型半導体太陽電池光吸収材料の代替材料になることを報告
した。彼らの報告によるとCuSbS2は直接遷移型のバンドギャップ1.6-1.8 eVと 強い光吸収係数104 cm-1)を持ち、CuInS2やCuZnSnS4の太陽電池光吸収材料 と同等の性能が期待できる。他の研究グループも理論計算4よりCuSbS2の太陽 電池としての可能性を予測した。またCuSbS2は構成元素に希少、有毒元素を 含まない低コスト太陽電池材料として期待できる。
過去、CuSbS2薄膜は噴霧熱分解法5、真空蒸着6、化学溶液析出法7、電着-硫 化法8、熱蒸着法9といった方法で成膜された。CuSbS2を用いた太陽電池の報 告例は少なく、Lazcanoらは10化学溶液析出法を用いてCuSbS2薄膜を成膜し、
太陽電池を作製した。彼らは作製した太陽電池から擬似太陽光照射下(1
kW/cm2)で345 mV, 0.18 mA/cm2を観測した。また、CuSbS2ナノ構造を用いた光 電気化学実験においてp型半導体の特性が明らかとなった。
本章ではこれまでに得られたナノ結晶の合成手法とデバイス作製技術を活か して、CuSbS2ナノ結晶の太陽電池光吸収層としての可能性を評価する。そのた めにまず、初めに太陽電池材料として知られるCuInS2ナノ結晶を合成し、本デ バイス構造が他の硫化物ナノ結晶でも有効であるか検討し、次に新しい光吸収 材料として期待されているCuSbS2のナノ構造の合成とそれを用いた太陽電池 デバイスの擬似太陽光照射下における太陽電池特性について検討した。
5.2 CuInS2(CIS)ナノ結晶太陽電池 5.2.1 CuInS2(CIS)ナノ結晶の合成
CISナノ結晶はPanthaniら11の報告を参考に少し修正を加えて合成した。Cu(II) アセチルアセトナート (1 mmol)とIn(II) アセチルアセトナート (1 mmol)、硫黄 粉末2 mmol, オレイルアミン(2ml), o-ジクロロベンゼン (10 mL)を三口フラスコ に入れて、シュレンクラインに接続した。次に真空雰囲気下において60 ℃まで 上昇させ、30 分間維持することで混合物から水、酸素を除去した。その後、Ar ガス雰囲気に切り替えて180 ℃で1時間加熱することでCISナノ結晶を合成し た。
87 5.2.2 物性評価
図5.1に合成したCISのTEM像を示す。粒子サイズは8-30 nmと分散性は乏 しかった。図5.2にCISナノ結晶のXRDパターンを示す。CISナノ結晶のXRD パターンはchalcopyriteのCuInS2のXRDパターン(空間群: I4-2d, a = 5.5170, c
= 11.0600)と一致した。図5.3 にCISナノ結晶のナノ結晶のUV-vis-NIRスペク トルを示す。光の吸収端から、調製した CIS ナノ結晶の禁制帯幅を 1.3eV と見 積もった。この値は過去の文献12, 13と一致する。
図5.2 CISナノ結晶のXRDパターン
図5.1 CISナノ結晶のTEM像
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5.2.3 太陽電池特性
CISナノ結晶太陽電池は3章のデバイスを参考にAu/CIS/CdS/ZnO/ITO-glassの 構造で作製した。デバイス作製手順は 3 章で述べた CZTS ナノ結晶太陽電池の 場合と同様である。CIS薄膜(膜厚:約200 nm)はCISナノ結晶インク溶液を 用いてスピンコート法により成膜した。製膜後、ヨードメタン(CH3I)を用いて粒 子表面に配位したオレイルアミンの除去を行った。図 5.4 に CuInS2ナノ結晶太 陽電池における太陽電池特性を示す。3章で述べたCZTSナノ結晶太陽電池と同 様にCISナノ結晶太陽電池においても、光照射下(AM1.5 (100 mW/cm2))で光誘起 整流特性を観測した。その変換効率は0.19 %である。開放電圧(VOC) は330 mV, 短絡電流値 (Jsc)は 1.8 mA/cm2, 曲率因子は (FF) は 0.32 であった。この変換効 率は過去に報告 14されているものとおおよそ同じ値である。本結果よりアルキ ル化剤を用いた太陽電池作製法が他のナノ結晶半導体材料においても有効であ ることが示された。
図5.3 CISナノ結晶のUV-vis-NIRスペクトル
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5.3 CuSbS2ナノ結晶太陽電池
5.3.1CuSbS2ナノ結晶の合成
CuSbS2 ナノ結晶は過去の文献 15 を参考に少し修正を加えてホット・インジェ
クション法により合成した。Cu(II) アセチルアセトナート と Sb(III) アセテー
ト各 1.5 mmol と 5 ml のオレイルアミンを三ッ口フラスコに加え、真空下で
120 ℃30分間加熱した後、200 ℃まで昇温した。昇温後200 ℃で1mol の硫黄
10 ml に溶かした硫黄-オレイルアミンをインジェクションした。その混合物は
200 ℃で60分間加熱した。その後、80 ℃付近まで自然冷却した後、2-プロパノ ールとヘキサンを加えて50 mLとし、6000 rpmで5分間遠心分離した。生じた 沈殿にヘキサン20 mLとオレイルアミン3滴を加え、1500 rpmで1分間遠心分 離することでサイズ選択を行った。分離液を 2 分割し、それぞれに 2-プロパノ ールを加えて50 mLとした上で、6000 rpmで5分間遠心分離した。生じた沈殿 をトルエンに分散させることでインク溶液(0.15 g/ml)を調製した。
図5.4 CISナノ結晶太陽電池のI-V特性
90 5.3.2 物性評価
図1(a)に透過電子顕微鏡(TEM)像と走査電子顕微鏡(SEM)像を示す。合成した
粒子は50 nm×1 mのロッド形状の粒子が見られた。このナノロッド形状の粒
子はソルボサーマル法 9 やホットインジェクション法 15を用いて合成報告され たものとほぼ同じ形状であった。図(b-d)にITOガラス基板上にCuSbS2インク溶 液を用いてドロップキャストにより成膜した CuSbS2膜の SEM 像を示す。観察 された膜はTEMで観察されたナノロッドで緻密膜を形成していた。図1(b)に見 られるようにナノロッドの異方形状やピンホールが見られた。
図 2(a)に合成した CuSbS2ナノロッドの XRD パターンを示す。合成したナノ
ロッドのXRD パターンはシュミレーションした Chalcostibite 構造の XRDパタ ーン(space group: Pnma, a = 6.018 , b = 3.7958, c = 14.498 and )とよく 一致した。これは調製したナノロッド粒子が CuSbS2 であることを示している。
図2(b)に CuSbS2ナノロッドの UV-vis-NIRスペクトルを示す。CuSbS2ナノロッ ドの吸収端立ち上がりが約1000 nmの位置で見られた。( h vs h でプ ロットした。エネルギー eV以降の曲線を直線で外挿し、x軸との交点から Egは ~ 1.5 eV と見積もれた。CuSbS2ナノロッドの平均的な元素組成比は ICP-AES を用いて Cu1.0Sb1.0S1.7と見積もれた。硫黄元素が少し欠損した状態であっ た。
図5.5 CuSbS2ナノロッドの TEM(a)及び、CuSbS2膜の表面 SEM 像(b)~(d)
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図5.6 CuSbS2ナノロッドのXRDパターン
図 5.7 CuSbS2 ナノロッドの UV-vis-NIR スペクトル。(挿入図)
(hvs hプロット
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5.3.3太陽電池作製
ITOガラス基板((15 Ω/sq.)はKintec Companyより購入し、使用前にアセトンや 純粋で5分間超音波洗浄を行った。CuSbS2膜(膜厚: 400-1500 nm) はITOガラス
基板上にCuSbS2ナノロッドを含んだインク溶液をドロップキャストにより製膜
した。3章で述べたように表面に配位したオレイルアミンは膜の電子輸送を阻害 する。従って、ナノ結晶用いた電子デバイスを作製する際には粒子表面のオレイ ルアミンを取り除かなければならない。そこで、メーヤワイン試薬(C2H5)3OBF4
を用いてナノロッド表面からのオレイルアミンの除去を行った。メーヤワイン 試薬といった強いアルキル化剤と反応させることでオレイルアミンは四級アミ ンへと変わる。また、これらのアルキル化剤金属硫化物とは反応しない。詳しい 条件は3章を参照のこと。CdSバッファ層(膜厚~ 30 nm)は成膜したZnO層の上 に化学溶液析出法を用いて成膜した。最後にAl電極を真空加熱蒸着により取り 付けた。図5.3にCuSbS2ナノロッドの電流-電圧(I-V)特性を示す。このデバイス からは非線形なIV特性が見られた。しかし逆バイアスに大きなリーク電流が見 られ、この構造では接合が弱いものと考えられる。この考えられる理由としては
CuSbS2膜が粗いため、CdSとの接合が上手くいっていないと考えられる。
従って、次にデバイスを修正してITO/ZnO/CdS/CuSbS2/Au構造の太陽電池を作 製した。ZnO ナノ結晶はドロップキャストにより成膜し、ZnO 薄膜は 300℃で 30分間加熱した。CdSバッファ層(膜厚~ 30 nm)は成膜したZnO層の上に化学溶 液析出法を用いて成膜した。CdS層はZnOを製膜した基板をホットプレートで 90℃まで加熱した状態で、0.015 Mの硫酸カドミウムと1.5 Mのチオ尿素水溶液
(分量比1:1)で混ぜ合わせた物を基板に滴下した。この時の pHの値はアンモ ニア水溶液で10程度に調整した。その条件下で3分間加熱を行った後で、基板 を取り出して純水でよく洗浄、乾燥を行った。CuSbS2 光吸収層(膜厚: 500-1500 nm)はCdS層の上にトルエンで分散させたCuSbS2インク溶液を用いてドロップ キャストにより成膜した。この時の製膜条件は回転数 2000 rpm、インク溶液の
濃度は約0.23 mg/mlとした。その薄膜に対して配位子処理(参照)を行った。最後
に金電極を真空加熱蒸着により取り付け、Glass/ITO/ZnO/CdS/CuSbS2/Auのデバ イス構造を作製した。太陽電池測定は Keithly 2400 のソースメーターを用いて
AM1.5 (100 mW/cm2)の擬似太陽照射下で測定を行った。図4に修正したCuSbS2
太陽電池の電流-電圧(I-V)特性を示す。修正したデバイスからは擬似太陽光照射 下(AM1.5 (100 mW/cm2))で光誘起整流特性を観測した。その変換効率は0.01 %で ある。開放電圧(VOC) は 306 mV, 短絡電流値 (Jsc)は 0.17 mA/cm2, 曲率因子は
(FF) は 0.28 であった。本実験で作製した太陽電池の変換効率は非常に低いが、
太陽電池光吸収層としてCuSbS2ナノロッドの効果を明らかとなった。
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図5.9 Au/CuSbS2/CdS/ZnO NCs/ITO-glass
構造における電流-電圧(I-V)特性。光照射時(赤線)、暗時(黒線)
図5.8 Al/CdS/CuSbS2/ITO-glass構造における電流-電圧(I-V)特性
94 5.4本章のまとめ
本章ではホットインジェクション法を用いて CuInS2 及び CuSbS2ナノ結晶の 調製を行った。調製したCuInS2ナノ結晶は 8-30nm 範囲であり、UV-vis-NIR ス ペクトルから CuInS2ナノ結晶の光学的禁制帯幅を 1.3 eV と見積もれた。また、
トルエンに分散させたCuInS2ナノ結晶のインク溶液を用いて3章と同様の手法 で太陽電池を作製したところ、光誘起整流特性を観測した。アルキル化剤を用い た太陽電池作成は他のカルコパイライト化合物半導体でも有効であることが明 らかとなった。
次に調製した CuSbS2ナノ結晶は約 50 nm×1 mのロッド形状の形で形成さ れていた。UV-vis-NIR スペクトルから CuSbS2 ナノロッドの光学的禁制帯幅を 1.3 eVと見積もれた。またこの時の組成比はCu1.0Sb1.0S1.7と硫黄が少し欠損した 状態であった。またn 型半導体CdSと組み合わせることでダイオードのような IV特性を観測した。そこで上記同様の構造で太陽電池を作製したところ、CuSbS2
ナノロッドにおいて光誘起整流特性を見ることができた。その変換効率は0.01 % である。開放電圧(VOC) は306 mV, 短絡電流値 (Jsc)は0.17 mA/cm2, 曲率因子は (FF) は0.28であった。
アルキル化剤を用いたナノ結晶太陽電池作製は手早く、新しい太陽電池光吸 収材料を探索できるメリットを持っている。湿式法を用いた太陽電池の成膜プ ロセスは真空プロセスより、時間とコストと抑えて作製できる。それ故、本実験 では、CuInS2 及びCuSbS2薄膜はナノ結晶インク溶液を用いて成膜し、3,4章と 同様の構造で作製した。この手法はではナノ材料インクを用いた薄膜作製の技 術は迅速かつ効果的に様々な新しい光吸収材料をスクリーン印刷で調べること ができる。
参考文献
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Phys. Lett. 1993, 62, 2851-2852.
2. Green, M. A.; Emery, K.; Hishikawa, Y.; Warta, W. Solar Cell Efficiency Tables (version 36). Prog. Photovolt: Res. Appl. 2010, 18, 346-352.
3. Kumar, M.; and Persson, C.; CuSbS2 and CuBiS2 as Potential Absorber Materials for Thin-Film Solar Cells. J. Renewable Sustainable Energy 2013, 5, 031616-031621.
4. Dufton, J. T. R.; Walsh, A.; Panchmatia, P. M.; Peter, L. M.; Colombara, D.; Islam, M. S. Structural and Electronic Properties of CuSbS2 and CuBiS2: Potential Absorber Materials for Thin-Film Solar Cells. Phys. Chem. Chem. Phys. 2012, 14, 7229–7233.