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メディア言説における「非行少年」観の変化

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(1)

研究論文

メディア言説における「 非行少年」 観の変化 1)

大 庭 絵 里

要 旨

本稿 は、犯罪事件 を起 こした少年が犯罪ニュースの言説 において どの よ うに構築 されて きたのかを考察 し、少年事件‑の人々の 「まな ざし」の変化 と厳罰主義 について議論す る ことを 目的 としてい る。 ニュース ・メデ ィア としては朝 日新聞を対象 とし、少年法が施行 された1

949

年か ら

2004

年 まで、

5

年 ごとに少年事件 の記事 を収集 した。本稿 が依拠す る理 論的枠組 は、メデ ィア表象研究及び言説分析 における リア リテ ィ構築の観 点である。

犯罪事件 はいつの時代 において も報道 されてお り、 とりわけ、1

960

年代 においては犯罪 事件 の記事は多 く、 日本社会 においては少年事件 に対 して もきわめて大 きな関心があった と考 え られ る。その後、少年事件 の記事数 は次第 に少 な くなる。罪種別 にみ るな らば、か っては軽微 な非行や微罪 にな り得 る犯罪事件 も報道 されていたが、近年 にな ると身体‑の 傷害 を ともな う事件や殺人な ど、 「凶悪」 とされ る事件 が相対的 に多 く報道 され るよ うに なってきている。

加害少年 については、精神 障がいの有無、少年 の経済環境 、家庭環境 な どが否定的に描 かれ、犯罪 は 「特別 な事情」のある人間が犯す出来事 として描 かれ ていた。 しか し、その よ うな差別や偏見 を助長す る表現が減少 し、言説上においては、犯罪 を起 こす少年が 「普 通」の少年であ り得 るよ うに描かれ、犯罪少年のイ メー ジは 「一般化」 した。 同時に、犯 罪 ・非行 は社会的要因によって起 こるとい うよ りも、犯罪事件 を起 こした少年個人 に行為 の理 由が兄いだ され るよ うに、ニュース ・ス トー リーは変化 してきた。 この言説上の変化 は、少年事件 に対す る人々の 「まなざし」の変化 を表 してい ると考 え られ る。

犯罪事件 を引き起 こす人間に対す る厳罰化 を求 める風潮 も、 このよ うなメデ ィアにおけ る犯罪 ・非行のイ メージの構築 と無縁 ではない。

キ ー ワー ド :犯罪ニ ュース、メデ ィア言説、少年事件 、犯罪 の リア リテ ィ、ニュース ・ ス トー リー

1

. 問題意識 ‑ 犯罪への厳罰化傾 向 と犯 罪に対 する 「まな ざ し」の変化

少年法が2000年 に 「改正」 された時、成人 と 同 じよ うに刑事処分 を可能にす るす るための検 察官送致 (いわゆる逆送)年齢が1

6

歳 か ら14歳

に引き下げ られ、また、殺人 な ど、死 に至 らせ る事件 を起 こした1

6

歳以上の少年 は原則 として 逆送す ることになった。少年法 「改正」は、保 護 主義の理念か ら離れ、少年事件が 「凶悪化」

してい るとい う認識 の もとでの 「厳罰主義」 を 求 める主張の反映であった。

メディア言説における「非行少年」観の変化

1 55

(2)

裁判員制度 が始ま り、判決 が 「市民感情」 を 反映 させ てい ると評価 され るとき、それ は、そ れ以前の裁判制度 にお ける量刑 の慣行 よ りも一 層厳 しい判決が下 された ことを意味 してい る2)。 裏返せ ば、 「市民感 情

とは、従来の量刑 の慣 行 よ りも重い刑罰 を求 めてい るとい うことにな

る。

矢 島正見

( 2 01 0:6)

、1 9 8 0

年代 にな るま では、犯罪者 は貧 困や抑圧 といった社会構造が もた らす 「被害者」としてみなされ る傾 向があっ た とい う3)。 また 、刑 事 法研 究者 の石 塚 伸 一

( 2 01 0:7 )

は、 かつ て、人 々は、 「罪や非行 を おか して しまった人たちを "社会的弱者 (‑社 会復帰のための処遇 を受 ける対象)" とみ な し、

憐れみの対象で もあったが、いまや犯罪者や非 行少年 は "改善 ・更生の困難 な"危険な犯罪者

( h i g hr i s ko f f e n d e r ) " 」

と呼ばれ るよ うにな り、

「危 険人物」 とみな され るな ど、犯罪者 に対す る人 々のまな ざ しが変化 して きてい る と論 じ る4)。 さらに石塚 はこの変化 が

1 9 8 0

年代 に始 ま り

、9 0

年代後半には顕著 となった とい う (石塚

2 01 0:7 )

0

このように、犯罪に対す る厳罰化傾 向は、人々 が抱 く犯罪及び犯罪者 に対す る認識 の仕方 を反 映 してい ると考 えて よい。往 々に して、厳罰化 傾 向は、犯罪が凶悪化 し、増加 してい るとい う 認識 にもとで正 当化 され る。 しか し、近年 の犯 罪事象 について統計か ら捉 えるな らば、 「凶悪 化」 「増加 」 とい う変化 を明確 に主張す るには 困難 がある。浜井浩一

( 2 0 0 6 )

は、メデ ィアが 犯罪 の急増や 凶悪化 を主張す るときに使用す る 犯罪 の認知件数 と検挙率は、 ともに警察側 の犯 罪 に対す る対応方針 に よって影響 され、また被 害者側 の届 け出行動 に よって も影響 され ると指 摘 し、犯罪 の波 について短絡的に増減 を判断す ることに対 して注意 を喚起 してい る。その上で 浜井 は、その よ うな影響 を受 けに くい 「凶悪犯 罪」 を考慮 に入れ て も、 「治安 の悪化 を示す よ うな傾 向 は認 め られ ない」 と論 じる (浜井

2 0 06: 4 6)

0

統計上の犯罪 が 「凶悪化」せず、明確 な増加

1 5 6

国際経営論集

No . 3 9 2 0 1 0

も示 していない とす るのであれ ば、人 々の抱 く 犯罪観や犯罪者観 はメデ ィアによる影響が大 き い といって よいだろ う。 自分が犯罪 に巻 き込ま れ る恐れがある と感ず るか否 かは、その個人の 地域環境のみならず、メデ ィア とい う環境によっ て も影響 され る。

犯罪 ・犯罪者‑の厳 しい視線 は、被害者‑の 同情や、 自分 も被害 を被 る恐れ があるのではな いか とい う犯罪不安 を反映 した もの として も捉 え られ る。 この犯罪不安 の高ま りは、地域全体 の防犯活動の推進 とも並行 している

。2 0 0 2

年頃 か らは、 「安全 ・安 心のまちづ く り

を掲 げた 生活安全条例が都道府県 レベルで制定 されだ し た (「生活安全条例」研究会編

2 0 05 )

。近年、

「安全 ・安心」 を標語 と して、町 内会や 商店街 とい う人々の生活 ・居住地域 において、監視カ メラが設置 され、あるいは/かつ市民 をま じえ たパ トロール が推進 ・強化 され る傾 向が全 国的 に展開 されてい る。

犯罪不安や犯罪 に対す る厳罰志向は、 日本社 会 にお ける犯罪 ・犯罪者観 と密接 に関わってい る。 わた したちは実際に犯罪 に遭遇す ることは めったにない。 ほ とん どがメデ ィアか ら犯罪 に 関す る情報 を得 てい る。つ ま り、犯罪 ・非行 に ついてのイ メー ジは、ほぼ、メデ ィアによって 構築 されてお り、そのメデ ィアにおいて構築 さ れた犯罪や犯罪者 に対 して人 々は非難 し、 自ら の犯罪 に関す る リア リテ ィをつ くりだ してい る のである。

2.

研究 目的 と方法

以上の問題意識 か ら、メデ ィア言説 において 犯罪 ・非行 が どのよ うに語 られ 、 どの よ うなイ メー ジ として構築 されてきたのか とい う問い‑

のアプ ローチ として、本稿 は新 聞言説 にお ける 少年事件の語 られ方 の変遷 を考察す る。

本稿 における研究視点は、ジャーナ リズム的 なメデ ィア研究ではな く、犯罪 の リア リテ ィが メデ ィアにおいて どの よ うに構築 され るのか と い う視点であ り、かつ犯罪 ニ ュース5)を犯罪 の

(3)

メデ ィア表象 としてみ る視点である。表象研究 においては、物理的な世界 とシンボ リックな実 践 とを区別 し、言語や他 の文化的システムを用 いて人々は意味 を生みだ し、世界 を意味あるも の としてみなす。このような視点か らみるニュー ス とは、事実 を伝 える報道 とい うよ りも、社会 にお けるモ ラル 、手続 、 ヒエ ラル ヒ‑ を私たち に伝 えるシンポ リカル な構築物である

( Fi s hma n 1 980; Er i c s on e t . a

l

.1 99

1)。 した が って 、犯 罪ニュースは、犯罪事件 とい う出来事 を単 に記 述 した ものなのではな く、当該社会の価値 、具 体的にいえば、犯罪 に関す る行政や司法のあ り 方やその手続 をも表 している。ニ ュース製作 の 過程 には様 々な権力 関係 が入 り込んでお り、メ デ ィアにおける犯罪の表象 は、その時代、その 文化 における犯罪観や社会統制 にかかわるポ リ ティクスやイデオロギーを表すのである

( Ba r a k 1 994)

0

ニュースは様 々な事柄 を 「事件」 とい う出来 事に変形 させたものであるが

( Tuc hma n 1 978)

、 その際には特定のコンテ クス トの中で、道徳 と 逸脱 との境界 をシンポ リカル に伝 える

( J e nki ns 1 994)

。 換言すれば、様 々な事柄が特定のタイ プの出来事 として組織化 され る時、それ はオー デ ィェ ンスに理解可能 な形で提示 されな くては な らず、その際に使用 され る解釈装置がニュー ス ・フレイムである。 ニュース製作機 関は、 し たがって、出来事 をオーデ ィェ ンスに理解 させ るため、また共感 を得 るために特定のフ レイム のもとで出来事 を語 る。

犯罪ニュースは、捜査 に関す る情報 を基礎 と しなが らも、行為者 が どのよ うな被害 をもた ら したのかに関す るひ とつの 「物語」である。犯 罪ニュースにおいては、犯罪事件 は、加害者や 被害者 とい う事件 関係者 、またその双方の関係 性や事件 の要因な どが、特定のフ レイムの もと でス トー リー化 され る。 そのフレイムは、犯罪 行為‑の非難 と秩序回復 を求 める社会統制 の視 点である。 また犯罪 とい う複雑 な事柄 を出来事 にま とめあげるために単純なフ レイムが必要 と な るが 、 それ は 「悪 が悪 を生 み 出す

」 ( e vi 上

c a us e s ‑e vi

l) とい う神話 が基礎 となってい る。

す なわち、 「悪人」や 「正常」 でない人が犯罪 を犯す とい うステ レオ タイプな発想 に よってつ くられたフ レイムの中で、それ にふ さわ しい情 報が収集 され、意味を付与 され、出来事 として 語 られ 、人 々の話題 と して発 展す るので あ る

(大庭

2000)

このよ うな視点か ら、本稿では、まず、メディ アにお ける犯罪 の表象 の され方 が どの よ うに変 化す るのかを追いつつ、犯罪 に対す る人々のま な ざしの変化 を考察す る。本稿 では、メデ ィア を新聞記事 に限定 し、少年 によって起 こされ る 犯罪事件 に関す る記事 の うち、逮捕 、検挙、起 訴 とい う刑事手続 きに関わる記事 を分析対象 と してい る。 したがって、本稿 では、裁判 に関す る記事、少年法 に関す る議論や社説 を除外 し、

もっぱ ら捜査主体が関わ る事件記事 のみ を考察 の対象 としてい る。新聞にお ける少年事件 の言 説 は多岐 にわた るため、本稿 では、記事 となる 事件 の罪種の変化 と事件 を起 こした少年 に関す る記述の仕方 に限定 して考察す る。新 聞記事 を 事件 に関す る 「語 り」 とみな し、その 「語 り」

の特徴 か ら、メデ ィアは何 を重視 し、あるいは 何 を無視 したのかを明 らかに して、 日本社会 に お ける犯罪‑のまな ざしを考察す る。

なお、本稿 の分析対象 とす るデータは、戦後 の少年法が施行 された1

949

年 か ら

2004

年 に至 る 朝 日新聞の記事であ り

、1 949

年か ら5年お きに、

縮刷版 か ら少年事件 に関す る記事 を抽 出 した。

なお、本研究 は質的研究 として行 うものであ り、記事 をあ くまで も言説 として扱 ってい る。

以下、記事件数 な どの数値 を記載す るが、数字 の大小 を問題化 してい るわけではない。

3

, 報道 され る少年事件 の罪種 に関す る特徴

3.1記事化 される事件数の変化

1 949

年 か ら

2004

年 までの事件捜査 に関す る記 事 の数 を罪種別 に表 した ものが【表 1】である。

事件 の報道 は、 日々変化す る様 々な条件 の中で メディア言説における「非行少年」観の変化

1 5 7

(4)

1

記事化 された少年事件 の件数 と記事数 の変化

( 1949‑2004)

殺 人 3 (3) ● ● 13 (26) 18 (56) 16 (79) 7 (9) 12 (39) 9 (19) 9 (25) 4 (7) 13 (22) 9 (121) 強 盗 5 (5) 25 (25) 27 (27) 28 (33) 6 (6) 3 (3) 10 (15) 7 (7) 4 (4) 6 (18) 18 (20) 8 (8) 放 火 0 0 4 (6) 5 (5) 5 (5) 1 (1) 1 (1) 5 (7) 4 (4) 0 0 1 (1) 1 (1) 0 0 傷害 0 0 7 (9) ll (ll) 19 (86)1 (1) 2 (2) 8 (10) ll (13) 2 (2) 8 (9) 9 (10) 14 (14) 窃 盗 9 (9) 22 (22) 12 (12) 24 (24) 7 (7) 7 (7) 6 (6) ll (ll) 1 (1) 1 (3) 3 (3) 3 (3) 暴 力行為 0

0

1 (1) 3 (4) 4 (5) 1 (1) 4 (4) 3 (3) 0 0 1 (1

)

0 (2) 2 (2) 0 0

恐喝.脅迫 0

0

7 (7) 2 (2) 10 (10)1 (1) 1 (1) 2 (2) 0 0 2 (3) 1 (5) 5 (5) 4 (4)

一斉補 導 1 (1) 1 (1) 9 (9) 9 (9) 0 0 2 (2)

0

(1

)

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 脱 走 0

0

5 (14)1 (1) 3 (5) 1 (1) 1 (1

)

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

その他 2 (2) 8 (9) 8 (8) 25 (27) 2 (2) 12 (19) 8 (8) 10 (10) 4 (4) 5 (13) 13 (16) 18 (30)

注 1.各年 にお ける左側 の数字 は事件 の数、右側 の()内の数字 は記事の数 を示す。事件数 と記事数 の差異 は、 1 件 の事件 について、複数 回の記事が掲載 された ことを意味す る。 また、記事数 については、 1つの見出 し

と記事か ら構成 され るものを1つの記事 として計上 した。

2.

殺人 には、殺人未遂 、殺人予備 、強盗殺人 を含 め、強盗 には、強盗、強盗傷害、強盗傷人 を含 めた。傷害 には傷害致死 も含 まれ、恐喝には、記事 中 「お どし」 「ゆす り」 と表現 されてい るもの も含 めた。

選択 され た結果 であるので、事件総数 と記事数 を特定 の年 の間、あるいは罪名別 に単純 に比較 す るこ とはできない。 これ らの数字 は偶然 であ る可能性 もあ る。 しか しなが ら、 【表

1

】に表 され る数字 は、それぞれ の年 にお ける様 々な条 件 の も とで、ニ ュース製作機 関が最低 限、報道 す る価値があると判断 した結果 ととらえ、ニュー ス製作機 関が どの よ うな少年事件 に注 目したの か とい う観 点か ら、報道 され た事件 の件数 と記 事数 を考察す ることは可能で ある。

1949年 は、戦後 の政府 に よる用紙 の統制 をま だ受 けていた時期 にあた り、一 目一回朝刊 のみ が印刷 され 、一枚 (

2

面)が一部 とい う形式で 発行 され ていた。 1949年 においては、記事化 さ れた少年 に よる事件 は22件 と他 の年 に比べ最 も 少 ないが、その理 由は この よ うな用紙 の制 限に よる。 しか し、逆 に言 えば、用紙 が極 めて限定 的に しか使用 できない時代 においてす ら、少年 事件 は報道 され ていたのであ り、成人 による犯 罪事件 も含 め、紙面 にお ける犯罪 の 占める比率 は極 めて高い ことが容易 に推測 され得 る。

や がて新 聞の紙面のペー ジは時代 とともに増 えてい く 朝 日新 聞が朝刊 夕刊 をセ ッ トで販 売 し始 めたのは、 1951年 か らである。本稿 が分析 対象 とす る記事デー タにおいては、 1954年以降

158 国際経 営論 集 No.39 2010

か ら、犯罪事件 はいわゆる 「社会面」 とよばれ るペー ジに指定席 を得 る。記事 となる事件数及 び記事数 の流れ をみ るな らば、 1969年 まで両者 含 めて少年事件 に関す る記事 は増加 し、その後 は減少す る。 1974年以降は、年 に よって増減 は あ るものの、報道 され る事件数 も記 事数 も100

件 を超 えることはない。注 目すべ きは、朝刊及 び夕刊 の総合ペ ー ジ数 が今 日よ りもかな り少 な い時代 に、今 日よ りもは るか に多 くの少年事件 が報道 されてい るこ とである。ペー ジ数 の少 な い時代 において も犯罪事件 が頻繁 に報道 され続 けていた とい うことは、かつ てのほ うが犯罪 は ニ ュー ス製作機 関において相対的に大 きな扱 い を受 けていた とい うこ とで あ り、少年 に よる犯 罪事件 に も関心が高かった とい えよ う。

少年事件 の記事数 の増減 を、少年 に よる刑 法 犯検挙人員 の推移 と比較 して、両者 の間に関係 があ る と単純 に論 じることはで きない。戦後 の 少年 に よる刑 法犯検挙人員 の統計 においては、

検挙人員 は1951年 を第1ピー ク (16万6,433人)、

1964年 を第

2

の ピー ク (23万8,830人)、 1983年 の第3の ピー ク (31万7,438人) として増加 し、

その後 は減少す る (法務省法務総合研究所 2009:

132‑133)。1964年 よ りも1984年 の少年 に よる刑 法犯検 挙 人員(30万1252人 ) の方 が多 い に もか

(5)

かわ らず

、 1 964

年 においては1

45

件 の事件 が記 事 となってお り

、1 984

年 において記事 となった 事件数は52件である。つま り、犯罪ニュースは、

統制主体が検挙す る犯罪事件数 によって影響 さ れてい るのではな く、ニュース製作機 関が情報 源機 関 としての警察か ら得た情報 をもとに、悪 意的に選択 した結果 なのである。

3.2記事 となる少年事件 の罪種の変化

報道 された事件 の件数や記事数だけでは、記 事 として取 りあげ られ る少年事件が どのよ うな ものであ り、記事 の対象 となる少年事件 の範 囲 が どのよ うに変化す るのかはわか らない。 そ こ で、次 にニュース製作機 関の側が報道対象 とす る少年事件 の罪名 と事件 の内容 を考察す る。

報道 の対象 となる少年非行 に関す る最 も明 白 な変化 は、街頭 にお ける警察や補導員等 による 一斉街頭補導が1

984

年以降には全国版 の記事 と して表れ ない ことであ る6)。少年院等 か らの脱 走 も1

979

年以降の記事 には兄いだ され ない。

同様 に、窃盗の記事 も減少 した。窃盗 につい ては、1

964

年 に至 るまできわめて報道 され る回 数が多い。1

979

年における

6

件の窃盗の記事は、、 現金、個人宅の物品、店内の商品、 自動車の他、

万引きも含 まれている

。 1 984

年 の1

2

件 の うち、

宝石 を百貨店か ら窃盗 した事件 が一件 あるが、

これ以外 はひ った くりである。 1

989

年以降、窃 盗 自体の記事が減少 し、記事 となる事件 はひっ た くりである。

強盗は、1

949

年か ら1

964

年 まで、 もっ とも多 く記事 となった罪種である。 しか し、 この期 間 においては、いわゆる 「ベ タ記事」 と呼ばれ る、

行数 の少 ない小 さな記事 として も強盗 は報道 さ れてい る。 た とえば、1

6

歳 と1

5

歳の少年が学生

( 1 9

歳 ) をお ど して腕 時計

1

個 を奪 った事 件

( 1 954

年 5月

27

日夕刊 3頁) は、 7行 の記事 で ある。 1

964

年 の記事 においては、強盗 としては 人 を脅 して金 品を奪 うとい う事件が典型的であ り、行数 の少 ない小 さなベ タ記事 も多 く、 この ことが記事 となる強盗事件 の事件数 と記事数 を

他 の年 よ りも多 くしてい る要因の一つ となって い ると考 え られ る。

1 989

年以降の強盗 をみ るな らば、金 品の強奪 に加 え、被害者が傷つけられ る事件が記事 となっ てい る。つま り、補導や微罪、あるいは被害が それほ ど大 き くない窃盗 な どが報道 の対象 にな らな くなってきた一方で、ニュース製作機 関は 身体‑の被害 を ともな う強盗 をよ り一層重視す るよ うに変化 した こ とがわ か る。 1

999

年 及 び

2004

年 においては、強盗事件 の記事 は再び増 え る。 この時期 は、 「オヤ ジ狩 り」 と呼ばれ る少 年 による 「強盗」事件や 、少年 の 「凶悪化」が 叫ばれた時期である。 その よ うな社会的風潮 の 中で、敢 えて 「強盗」 を選択 して報道 した とい うニュース製作機 関側 の意図をそ こに読み取 る ことができる。

これ らを総合す ると、街頭補導の対象 となる 行為や万引きな どの窃盗 は、少年非行 の典型 と もいえる行為であるが、それが報道 され な くな る一方で、身体‑の被害 をもた らす事件 が相対 的に多 く報道 され るよ うになった。人び との前 に可視化 され る少年事件 は、相対的に、 よ り一 層 「凶悪」な事件 となったのである。オーデ ィ エ ンスか らみれ ば、少年事件が 「凶悪化」 して い ると感 じて も無理 はない。

4.

加害者を語る語童か らみるまなざ しの 変化

社会統制的な犯罪ニュース ・フ レイムの もと では、被疑者 は 「悪人」 として描 かれ、制裁的 な視点で被疑者像が構築 され る。本稿では以下、

事件 を起 こ した として逮捕 ・補導 され る少年 に 対す る表現方法、言葉の使用や構成 に注 目して、

少 年 事 件 が どの よ うに一 般 の 人 び とに 呈 示

( r e p r e s e n t )

されたのか、すなわち、犯罪ニュー スの中で、 「悪」 が どの よ うに して構築 され 、 さらにはそれが時代 とともに どの よ うに変化 し たのかについて検討す る。

1 95 4

年 か ら1

984

年 にかけて、記事 に登場す る 加 害者 としての少年 は、負 のイ メー ジを ともな メデ ィア言説 における「非行少年」観 の変化

1 5 9

(6)

う語 桑 に よって描 かれ る。 つ ま り、 「悪

「悪」 を生み 出す フ レイ ムにふ さわ しく、少年 は、「悪」を生み出す 「悪人」、もしくは 「普通」

でない 「異質」な存在 としてマーキングされ、

加害少年 として構築 され る。 この構築 に使用 さ れ る言語資源 としての語嚢 は、すでに否定的な 意味合いをもつ語であ り、精神障がい、知的障 がい、人格、補導歴や更正施設‑の収容歴 、家 族構成や生育環境 な どに関連す るものである。

4.1精神障が い、知的障が いに関連する偏見 とその語嚢

文字数 が少 な

小 さな記事 において も、事件 を起 こす行為者 に対す る否定的表現が記事の最 後に一行程度で付加的に記述 され る場合があ り、

このパ ター ンは頻繁 に見受 け られ る。以下の記 事がその典型的な例である。

【記事例 】

「夜道 で女 の背 中刺す 浮浪児、犯行 を 自供」

(朝 日新 聞1

954

5

月27日夕刊

3

頁)

二十六 日夜十時頃、東京都北区田端町一五二事 務員

S

さん (二一)は客を送っての帰 り、自宅裏 口付近ですれ違った少年に切 り出し様のもので背 中を刺されて全治一週間の負傷。滝野川署員が間 もなく現場近 くで少年 (一六)を職務質問したと ころ、犯行を自供 した。調べでは住所不定の浮浪 児で頭が少しおかしいらしい (強調は筆者による)0

一見補足的にみえるこの最後の行 における記 述 は、 もしこの記述 がなけれ ば、 この行為者や 事件 について全 く異 なる解釈 が成立す る。 これ は典型 ともいえる差別的表現であるが、差別的 であるがゆえに、 「異常

ともい える事件 を引 き起 こ した少年が 「異常」であるとい う語 りは 一般 の人々には納得 しやすい。 この よ うな発想 がニュース ・フ レイ ム とな り、読み手 を特定の 方 向にを導 くよ うに、記事は構成 されてい る。

1 979

年の記事 までは、逮捕段階において、事 件 を起 こ した とされ る少年が精神 障がい者 であ

1 6 0

国際経営論集

No. 3 9 2 01 0

るか否 かが、ため らい もな く言及 され る。 た と えば、1

95 9

年 には、通 り魔事件 の被疑者少年 に ついて、「受験勉強の しすぎで精神異常 とな り」、

通院 していた とい う経歴 が記載 されている (戟 日新 聞1

959

1

月31日夕刊

3

頁)。 同年 の皇太 子夫妻 (当時) が乗 った馬 車 に投石 した少年

( 1 9

歳)については、「強度の精神分裂症の疑い」

「知能指数70」と記 されてい る。 1

964

3

月 、 当時の駐 日米国大使 ライシャワー氏の刺殺事件 が起 こるが、その1

9

歳 の被疑者少年 は精神 障が い者 で あった ことが逮捕 時 よ り明記 され、 「

1 9

歳 の "異常少年"逮捕」 とい う見出 しがつ け ら れている (朝 日新聞1

964

3

月2

4

日夕刊)

01 974

年 には小学校一年生の少女 が1

7

歳 の少年 によっ て 「ドブ川 に投 げ込 まれ る」 とい う事件 の記事 があるが (朝 日新 聞1

974

7

月1

0

日朝刊

1 9

頁)、

最後 に 「少年 は知恵遅れ」 と言及 されてい る。

1 979

年 、高校一年生

( 1 6

歳)がモデルガ ンを使 用 して銀行強盗 を起 こす とい う事件 については、

記事が

8

段 とい う大 きさで掲載 され、その中で 少年 は 「最近で こそ、 ノイ ローゼ的な行動が 目 立った とい うが、お とな しくて成績は中くらい」

(朝 日新 聞1

979

2

7

日朝刊23頁) と描 写 さ れてい る。

1 984

年以降には、精神鑑 定に関す る記事 の他 は、逮捕 時において少年 に精神障がいや知的障 がいがあると露骨 に言及す る記事 はない。 また

「知恵遅れ」 「精神薄弱」な どは、 ことば 自体が 置 き換 え られ るよ うにな り、否定的表現 はな さ れ な くなって きた)。 その他 、 「ダニ少年 」 「不 良」「札付 きの愚連 隊」「浮浪児」「住所不定」

とい う、事件 の行為者 自身 に対す る負 のラベル は1

950

年代 までは見受 け られ るが、それ以降は 次第 に消 えてい く。

4.2非行キャ リア

逮捕 ・補導の記事 において、少年 の補導歴や 更正施設‑の収容歴 が記述 され ることがある。

た とえば、中学生が教員 をナイ フで傷 を負 わせ た事件 (朝 日新 聞1

979

3

月1

0

日朝刊22頁)で

(7)

は、出来事 の記述 の最後 に 「これまでにもこの 中学生は万引きや 自転車 を盗むな ど三回の非行 歴 があ り、同署 に補導 されている」 と書かれ て い る。

このよ うに、行為者 の少年 の補導歴や逮捕歴 といった過去の非行 キャ リアが言及 され る事件 記事が1

95 4

年 には

1

件、1

95 9

年に

3

件、1

9 64

年 に

1

件、1

96 9

年 に

2

件、1

97 4

年 に

2

件、1

97 9

年 に

3

件 あった。 この後 には、少年 の描写 として 言及 され る記事は本稿 が使用す る記事 の中には ない。

非行 キャ リアをにおわす語嚢 としては、警察 による逮捕 ・補導歴 の他 、鑑別所や少年院‑の 送致の経験が記述 され る場合 もある。た とえば、

1 964

年 の強盗殺人事件 についての記事 は、 「無 職少年 A (一八)は強盗殺人、殺人未遂の疑い で逮捕」 された とい う内容であるが、その記事 の最終行 には、 「Aは さる六 日、東京 、練馬 の 少年鑑別所 を出て来たばか りだった」 と書かれ てい る (朝 日新聞1

964

3

月1

8

日朝刊

1 5

頁)0

犯罪ニュースにおいては、補導の回数、鑑別 所‑の送致、少年院‑の収容経験の有無が、少 年の非行 キャ リアの深化 を示 し、少年 がいかに

「ワル」 であるか を示す ために使 用 され る レ ト リカル な道具 となってい る。 しか し、鑑別所 と 少年院は、まった く異なる 目的をもつ施設 であ り、鑑別 は矯正のための施設ではな く、あ くま で も少年 を調査 し、鑑別す るための場所である。

にもかかわ らず、鑑別所‑の入所や少年院‑の 収容の経験は、少年の過去のスティグマ として、

刑務所 のよ うな制裁機 関であるかのよ うな印象 をオーデ ィェ ンスに与 えなが ら、ニュース言説 において存続 し続 けていた。

4.3少年の家庭環境

1 95 0

年代 においては家庭環境はす なわち経済 状態 を表す指標 であ り、 「父は戦死

「両親 は死 亡」 な どい う表現 が出て くる。 た とえば、 「貧 しい家庭 の少年」による窃盗事件 について 「親 か ら小遣いが もらえないのでや った」 とい う記

述 のある事件 (朝 日新 聞1

95 4

6

5日夕刊 3

頁) に代表 され るよ うに、貧 困が非行 の背景 に なってい ることを表す事件 が この時期 の典型で ある。 しか し、中には 「お しゃれ を競 う虚栄心 か ら家庭で もらう小遣いだけでは足 らず盗み を 覚 えた もので (中略)娘の親 たちは娘 の犯行 に は全 く気付 かなかった とい ってい る」 (朝 日新 聞1

95 4

6

7日夕刊 3

頁) と、 「良家の子女

による窃盗 を問題 とす る記事 もある。

60

年代、7

0

年代 に入 り、 「中流家庭」 の少年 による事件 が 目立っ よ うになる。 1

96 4

年 におい て家庭 が記事 に現れ るときは 「中流家庭

であ り、かつては、非行 は貧 困であるが故 に起 こる とい う考 え方が主流であったが、それが徐 々に 崩れて くる変化 を60年代以降の記事 に兄いだす

ことができる。

さらに、事件 を起 こす少年 の家庭 の構成 もま た、少年事件 のニュース ・ス トー リーに とって 重要 な要素 となってい るD 中で も、親 の婚姻 的 地位や母 と子の戸籍上の関係 が、少年 に よる事 件 に関連す るかの よ うなス トー リー となってい る。特 に単親 、離婚 、再婚 に対 しては、否定的 視点 を ともなって言及 され る。 1

950

年代 におい ては 「片親 だ けの者 」 (朝 日新 聞1

95 4

9

月1

0

日夕刊

3

頁)、 「継母育 ちの家庭」 (朝 日新 聞同 年

6

1 8

日)、 「先妻 の子」 (朝 日新 聞同年

9

1 4

日) とい うよ うに、実母 ・実父 によって育 っ たか否 かが非行少年 に とっての重要な情報 とし て記事の中で書かれてい る。実母 ・実父が とも に存在す る家庭 でなけれ ば 「逸脱」カテ ゴ リー に属す少年 としてみな されていたのである。

同様 に、 「鍵 っ子」 とい う表現 の よ うに、母 親 の就業状況 によって も子 どもは区別 され る。

た とえば、1

979

年 に1

0

歳 の少女が

6

歳女児 を殺 害す るとい う事件 が起 こるが、事件 間もない時 点 (したがって詳細が不明である時点) の記事 において、加 害少女 は 「母親 がマ ッサー ジ業で 愛 に飢 えていた」 と記述 された (朝 日新 聞

1 97 9

年1

0

月1

5

日朝刊23頁)0

この家庭環境 と非行 とを関連づ けた記事 は80 年代 において顕著 となる。 と りわけ富裕層 にお

メディア言説における「非行少年」観の変化

1 61

(8)

ける少年 による事件 、受験期 の少年 による事件 が耳 目を集 めるよ うに大き く報道 され るとき、

母親‑の非難が寄せ られ るよ うになる。

5.

議論 ‑ 表現の変化 と少年へのまなざ しの変化

1 984

年以降の記事には、精神障がいについて、

ステ レオタイプな表現や明 らかに差別 を助長す ると判断 され得 る語 によって表現 され ることは な くなる。 さらに、非行歴 自体 も記述 され な く なる。 また、 【表 Ⅰ】にも表れてい るよ うに、

鑑別所や少年院か らの脱走 も記事 とはな らな く な り、少年院 も鑑別所 もめったに記事 として現 れ ることはな くなった。 もっぱ ら、事件 の発生 とその捜査活動 が犯罪ニュースの中心 となって いるが、鑑別所や少年院の意味は不明確 のまま、

オーデ ィェ ンスか ら遠 い存在 となっていった と 思われ る。

精神 障がいや知的障がいに関 して、 「異常

といったかつての露骨 な差別的表現は、90年代 に入 り、ほ とん ど見受 け られ ない。 「浮浪児 」

「不良

「ダニ」 とい う個別の少年を否定的にマー キングす る語や、少年の過去の非行 キャ リアは、

新聞記事の中で使用 されな くなった。親の再婚、

離婚 とい う婚姻状況 を非難す る語 は消 え、母親 の就業 を問題視 して犯罪ニュースが構成 され る ことは、近年 めったにない。

これ らの表現の変化 は、 とりわけ60年代 に入 り、 日本経済が潤 い始 め、貧 困を背景 として非 行 が起 きる とい う説 明 よ りも、 「中流」 の子 ど

もが非行す るとい う視点が一般化 した ことを表 してい る。 さらに、近年 に至 っては、 日本社会 において人権‑の関心が高まったことや、ニュー ス製作機 関 自体が報道倫理 を向上 させ 、差別語 や偏見 を助長す る語 を使 わな くなった ことも、

記事 にお ける語嚢の変化 を生 じさせてい る。

しか し、 これ らの記事 とい う新聞媒体 にお け る少年事件 に関す る言説 の変化 は、そ うしたメ デ ィア界やニ ュース製作者たちによる言葉 の使 用ルールの変化だけを表 しているのではない。

1 6 2

国際経営論集

No. 3 9 2 01 0

かつては、偏見、差別 も含 め、非行少年 は、

メデ ィアにおいて 「普通 ではない」 「特別

な 事情のある少年 としてカテ ゴ リー化 されていた が、近年 になって、非行少年 はその よ うなカテ ゴ リーでは語 られない よ うになった とい う変化 を示すのである。今 日、精神 障がいについては、

精神鑑 定 な どを争 うときに言及 は され て も、

「異常者」 としては描写 され ない。

50

年代 においては、事件 を起 こす少年が 「浮 浪児

「ヤ ミ市 に巣 く う」 とい うよ うな、貧 困 な生い立ちであることを表す記事 は頻繁 に見受 け られたが、それ は60年代以降減少 し、む しろ

「中流

家庭 の少年 が犯罪行為 をす るこ とを強 調す るよ うになる。それは、貧 困 とい う 「特別

な事情が犯罪 を引き起 こしていた とい う 「常識

が、 もはや メデ ィアにおいて成立 し得 ない こと を物語 る。

非行の前歴 は、非行 を説 明す る要因 としてス トー リー に使用 されていたが、今 では前歴 とし ての 「少年院

「鑑別所」経験 は記事 に書かれ ることはな くなった。

また、「継母」に育て られた子や、「カギっ子

は、60年代 においては、 「普通」 の家庭 ではな い とい うマイ ノ リテ ィに属 していた。 しか し、

近年 、そのよ うな表現がな くなるだけでな く、

親 の離婚 、再婚 自体が、子 どもの逸脱行為の要 因 としてス トー リー化 され ない よ うになってき てい る。

社会的マイ ノ リテ ィに入 る少年 が否定的に描 かれていた時代、その よ うな少年 を とりま く社 会環境 が犯罪 ・非行 の要因 と見な されていたの だ ろ う。簡単 にい うな ら、 「特別 の事情

のあ る者 が犯罪 を犯すのであって、一般 的な人 々の 日常生活か らは離れた者 による出来事 とい うイ メー ジのもとに少年 による犯罪が受 け取 られて いた と考 え られ る。

しか し、報道倫理 の向上 によ り、加害少年 に は (被害者 も)偏見ある差別語や負 の熔印を付 与す るよ うな語桑が使用 され ることはな くなっ た。 かつては、子 どもが子 どもを殺害す るよ う な事件や複数の人々を殺害す る事件が起 こると、

(9)

その加害少年の 「異常」 とされ る部分やマイ ノ リテ ィ的な属性 が注 目されたが、今 日では 「な ぜ !

?

」 とい う見出 しとなる。近年 の新聞報道 では、少年 の属性が書かれな くなっただけに、

どこの誰 にで も当てはまるス トー リー として、

少年事件 は一般化 して受 け取 られているよ うに 思われ る。 犯罪 のイ メー ジは、 「特別」な事情 のある者 たちの間で生 じる出来事ではな く、誰 にで もどこでで も起 こ りえるとい うイ メー ジ‑

と変容 し、犯罪 ・非行イ メージの 「一般化」が 生 じてい るのではないだろ うか。

この よ うな傾 向は、同時に、犯罪 ・非行が も はや環境 によって生み出 され る社会現象ではな く、個人が個人的理 由によって引き起 こす 出来 事 としての犯罪事件 とい うニュース ・ス トー リー

を生み出す。

少年事件が語 られ るとき、家庭 と学校 は、少 年 を と りま く環境 として重視 され、常に犯罪 ・ 非行 の要因 として語 られてきた。 しか し、今 日 においては、 「心の闇

「キ レる少年」 といった 少年個人の 「心」や精神 のあ りよ うが犯罪 ・非 行 の要因 として言及 され るよ うになってきてい る。 それ は、かつての 「病」 としての精神陣が いや社会環境 を原因 とす る事件 とい う視点では な く、少年個人が内包す る問題 として事件が語 られ、いわば、犯罪 ・非行の 「個人化」 ともい うべ き変化 が少年事件 の言説 には現れ、報道倫 理向上の意図せ ざる結果 が起 こってい るよ うに 思われ る (大庭

201 0)0

少年事件 として表象 され る犯罪事象 は、かつ ては微罪 も含 まれていたが、今 日では殺人、強 盗な どの 「凶悪」 とされ る事件に しぼ られてき てお り、少年法の改正に関す る議論が激 しくなっ た90年代 においては、裁判 に関す る記事 も現れ るよ うになったため、特 に殺人等の事件 を起 こ した少年については詳細に報道 され るようになっ た。 このよ うな新聞言説 における 「凶悪化」は、

人々の少年事件‑のイ メージを 「凶悪化」 させ るのに十分 であろ う。 「凶悪」イ メー ジ ととも に、少年事件 の 「個人化」が起 こ り、 「世 間

は安全 ・安心のまちづ くりに奔走す るようになっ

た。社会にお ける厳罰化 は、犯罪 を犯す者個人 を排除す ることで安心、を得 よ うとす る社会的風 潮 を表 しているよ うに思われ る

また、本稿 が とりあげてきた例 には、現在 で あれ ばよ り一層大 き く取 り上げ られ るだろ うと 推測できる事件 が含 まれ る。た とえば、中学生 が教員 をナイ フで刺す 、あるいは子 どもが子 ど もを殺害す る といった事件 は、 ここ数年 、 「凶 悪化」の証であるかの よ うに、きわめて大 きな 注 目をあび、子 どもの 「心」の問題 として話題 化す る。 しか しなが ら、過去 においては同様 の 行為や態様 を示す事件 が起 きていたにもかかわ らず、今 日の よ うな問題 として取 り上 げ られて いなかった。 そ こに、子 どもの変化 とい うよ り も、大人のまな ざ し、社会の側 か らのまな ざし の変化 を読み取 ることもできるだろ う。

6.

おわ りに

本稿 では、朝 日新 聞の記事か ら少年事件 に関 す る言説 の変化 を追い、加 害少年が どのよ うに 語 られ るのかについて分析 し、少年‑のまな ざ しの変化 について考察 した。犯罪ニ ュースにお いては、報道 され る罪種が 「凶悪化」す ると同 時に、犯罪 を引き起 こす少年イ メージが 「一般 化」 され るよ うになった。それ は単なる報道倫 理の向上の結果 とい うよ りも、言説上の少年犯 罪が、犯罪 ・非行 は特別 な事情がある者 が起 こ すのではな く、誰で もが起 こすか も しれ ない と い うよ うに 「一般 化

しなが ら行 為者個 人 の

「心」 の問題 として捉 え られてい った過程 と深 く関連 してい る。

本稿 は新聞記事 をデータ として分析 ・考察 し たが、 もちろん、その他 のメデ ィアによる影響 も今後 は必要 になるだろ う。テ レビやイ ンター ネ ッ トでは、逮捕 された少年の個人に関わる情 報 が流れてお り、新 聞記事 とは異 なる様相 を示 してい る。 しか し、新 聞は他 メデ ィアにおける 犯罪ニ ュースのプ ロ トタイプ ともい え、記録的 価値 もある。 とりわけ1

949

年以降の変化 を追 う 上では、新聞のみ を対象 とす る研究は有意義で メディア言説における「非行少年」観の変化

1 63

(10)

あ る と考 え る。

本稿 で は、記 事 のス トー リー構成 の変化 、被 害者 や捜 査 主体 につ いて の言 説 、裁 判 、 さ らに は犯 罪 以外 の他 の社 会 的事象 に関す る言説 との 関係 な どにつ い て は考 察 してお らず 、別 の機 会 に議 論 したい。

1)本稿 は、 日本犯罪社会学会第

36

回大会 にお け るシンポジ ウム 「今 日の犯罪者観 を考 える」

( 2009

年) にお ける筆者 の報告 を基礎 として、

新 たに書 き下ろ した論文である シンポジ ウ ムにお ける筆者 の報告 内容 については、大庭

( 201 0)

を参照 され たい。

2 )201 0

1

5日発行 の読売新 聞 (

朝刊) に よ れ ば、裁判員制度 開始後 の判決 にお ける懲役 年数 は、厳罰化 していない とい う。 しか し、

これ は、検察 による求刑 との比較 であって、

裁判員制度前の量刑 との比較 とはいえない。

3 )

日本犯罪社会学会 、第

36

回大会 シ ンポジ ウム

「今 日の犯罪者観 を考 える

」 ( 2009

年) にお け る矢島正兄の報告。矢 島

( 2 01 0)

参照。

4 )

日本犯罪社会学会 、第

36

回大会 シ ンポジ ウム

「今 日の犯罪者観 を考 える

」 ( 2009

年) にお け る石塚伸一の報告.石塚

( 201 0))

参照。

5 )

新 聞、テ レビな どとい う媒体 において、娯 楽 や生活情報 とは異 なる犯罪 に関す るニ ュース

を犯罪 ニュース とよぶ0

6 )2004

年 においては、東京版 において一斉補導 の記事が1件 ある。

1 6 4

国際経 営論集

No. 3 9 2 01 0

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0

表 1 記事化 された少年事件 の件数 と記事数 の変化 ( 1949‑2004) 殺 人 3 ( 3) ● ● 13 ( 26) 18 ( 56) 16 ( 79) 7 ( 9) 1 2 ( 39) 9 ( 19) 9 ( 25) 4 ( 7) 13 ( 22) 9 ( 1 21 ) 強 盗 5 ( 5) 25 ( 25) 27 ( 27 ) 28 ( 33) 6 ( 6) 3 ( 3) 1 0 ( 1 5) 7 ( 7) 4 ( 4) 6 ( 18) 18 ( 20) 8 ( 8) 放 火 0 0 4

参照

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