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198 表面技術 マグネシウムの表面現象と酸化皮膜の成長 小野幸子 a 工学院大学工学部 ( 東京都八王子市中野町 ) Surface Phenomena and Oxide Film Growth on Magnesium Sachiko ONO a a Facult

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1 .はじめに

 マグネシウムへの実用材としての注目度は,軽薄短小化の 言葉に象徴される世相の下でここ 10 数年の間に顕著に高ま り,携帯電話,パソコンなど携帯機器のマグネシウムボディ 化が急速に進展した。マグネシウムは実用金属として最も軽 く,その比重 1.72 はアルミニウムの 2/3 弱,鉄の 1/5 程度で あり,さらに人体に無害で高比強度,リサイクル性に優れる という特質を持つ1),2)。より軽く,より薄い実用金属材料と しての活用は,家電産業や電子機器産業での新たな用途開発 や,省エネルギーと環境負荷低減規制の強化が大きな課題で ある自動車産業における期待が高い。  軽量さと裏腹に,マグネシウムは標準電極電位が低い卑な 金属であるため反応性が高く,容易に酸化が進行する。この 特性は水素発生源や新たなデバイスとしての可能性を持つ一 方で,耐久材として利用するためにはマグネシウム素材表面 の反応性制御が大きな課題となる。  本稿では,マグネシウム特有の表面現象に着目し,基礎的 な酸化皮膜成長の機構と表面制御法としてのアノード酸化に ついて概説する。

2 .マグネシムの表面酸化挙動と合金成分の効果

 マグネシウム素材自体の耐食性は,鉄やニッケル,銅など 重金属イオンの存在に強く依存するため,それらの除去に よって顕著に向上した3)。さらに,アルミニウム,マンガン, 亜鉛,希土類元素などとの合金化を進めることによって近年 著しく改善されてきた。これらマグネシウム合金の耐食性向 上は素地金属の組織変化のみでは十分説明できず,表面の酸 化皮膜生成挙動に対する合金元素の効果を考慮する必要があ る。  マグネシウム(Mg)の腐食速度は,アルミニウム(Al)を数 パーセント添加することによって著しく低下することが知ら れている。この効果は種々の異なるマグネシウム合金におい ても,アルミニウム濃度の関数として表すと,4 ~ 5 wt% 前 後を閾値としており,これ以上の添加量でいずれも急激に腐 食量が下がることが報告されている。Nordlien ら4)は,真空 中で MgAl 合金の新生面を出し,酸素を導入して生成した酸 化皮膜中の Al 濃度を XPS により定量した結果,素地中の Al 濃度が 5 % 以上の場合に,酸化皮膜中には 35 at % に達す る顕著な Al の濃縮が起こることを見出した。この事実から, 表面酸化膜の性質が素地金属の耐食性の強い制御因子になる ことが確認された。  表面に大気中で生成する自然酸化皮膜の特性を明確にする ため,純度 99.99 % Mg において,①湿式法による表面機械 研磨後の表面,②表面をダイヤモンドナイフで切削した後, さらに,③その表面を大気中にさらした場合,④試料を純水 に浸漬した場合,のそれぞれに生成した酸化皮膜を,ウルト ラミクロトーム法により断面を作製し TEM 観察すると,機 械研磨後には 100 nm 程度の不均一な厚い酸化膜が生成する のに対し5),表面をダイヤモンドナイフで切削した場合は,

マグネシウムの表面現象と酸化皮膜の成長

小 野 幸 子

a a工学院大学 工学部(〒 192︲0015 東京都八王子市中野町 2665︲1)

Surface Phenomena and Oxide Film Growth on Magnesium

Sachiko ONO

a

a Faculty of Engineering, Kogakuin University(2665-1, Nakano-machi, Hachioji-shi, Tokyo 192-0015)

Keywords : Surface Phenomena, Oxide Film Growth, Magnesium

小特集:未来材料としてのマグネシウム

100 nm 400 nm 50 nm 50 nm a b c d Oxide -1 Oxide -2 Mg 図 1  ウルトラミクロトーム法によるマグネシウムの酸化皮膜断面 TEM 像      (a)自然酸化皮膜,(b)大気中に 48 h 放置した表面,(c)水 中に 24 h 放置して成長した水和皮膜の内層,(d)水和皮膜 の上部薄片層

(2)

マグネシウムの表面現象と酸化皮膜の成長 図 1a の TEM 像に示すように約 23 nm の連続的で均一な非 晶質の皮膜が生成する6)。さらに大気中に放置すると,空気 中の水分がはじめに生成した皮膜を内側に移動し皮膜/素地 界面で 100 nm から 500 nm 程度の厚い酸化膜が生成する(図 1b)7)。この酸化物層は含水量が多いため,TEM 観察による 電子線照射の影響で直ちにセル状の構造変化が生じる。さら に,マグネシウム試料を水中に浸漬すると,初めに表面に存 在した薄い非晶質自然酸化膜を境界として,大気中に放置し た膜とほぼ同様な水和物層の内層(図 1c)と,外層の薄片状 水和物層(図 1d)から成る 3 層構造が生成される6),7)。外層の 水和層はアルミニウムを沸騰水に浸漬したときに生成する水 和層と構造が極めて類似している。このように純マグネシウ ムでは常温の水中や高湿度大気中で厚い酸化皮膜が容易に成 長する特徴を持つため,その履歴に十分な注意を払い素材を 扱うことが必要になる。  Mg の密度 1.74 に対し MgO の密度は 3.65 のため,酸化後 の容積比(Pilling-Bedworth 比)は 0.79 と減少する。そのため マグネシウム酸化物は表面を完全には覆えず,耐食性が低い と一般に説明されてきた8)。しかし実際には皮膜は図 1a の ようにち密で連続的な非晶質膜である。Cabrera - Mott9) 理論から予想される数 nm の値より厚く,かつ連続膜である のは,大気中で生成する皮膜が仮想的な結晶性酸化物ではな く非晶質であり,また含水構造を持つ水和酸化物10)(Mg(OH) 2 の場合の容積比は 1.77)でち密度が低く,環境中でのイオン の移動距離が長いためであろう。  マグネシウム素地中へアルミニウムを添加することで,こ れらの大気自然酸化皮膜の構造は大きく変化し,その膜厚は Al 添加濃度の増加とともに直線的に減少する11)。特にその 変化は Al 濃度 4 ~ 5 wt% 程度までが顕著であり,それ以上 の添加ではあまり変わらないが,この結果は先に述べた腐食 速度および XPS による酸化皮膜中に封入されるアルミニウ ム量の変化と一致している。皮膜に濃縮された Al は皮膜中 でアルミナの骨格構造を形成するため水和を妨げて皮膜を安 定化し,マグネシウムの不働態性を高める役割を果たすと言 える。Al の皮膜中への濃縮については,Newman ら12)によ りパーコレーション理論が提唱されている。水中で生成する 外層の薄片状水和物の厚さは,純マグネシウムでの数 μm の 厚さから,アルミニウム濃度が 8 wt%(AM80)での例では 1/20 まで減少した。薄片状水和物の厚さはマグネシウムの水 中での拡散の距離を現すと考えられるから,少量のアルミニ ウムの存在がマグネシウムの溶解による拡散を効果的に妨げ ている。酸化皮膜中へのアルミニウムの濃縮については,既 報に詳述した13)。セリウムなどの希土類元素の添加の場合も, 水中でよりち密で薄い皮膜が生成し,マグネシウムの水和を 顕著に抑制することが示されている14)

3 .アノード分極による特性評価

  マ グ ネ シ ウ ム の 合 金 元 素 に よ る 表 面 特 性 の 変 化 は, 1 mol・dm−3水酸化ナトリウム中での分極挙動にも端的に現 れる。図 2 に種々のマグネシウム合金におけるアノード分極 曲線を示す15)。99.95 % の純マグネシムでは,自然電極電位 から立ち上がる電流が 0 V 付近で不動態化のために停滞する が,2 V を越えると電流が再び急上昇し,その後 5 V 付近で の極大を経て減少し 10 V から 50 V まで低い電流値を保つと いう特異な分極挙動を示す。AZ 31(Al 3 %,Zn 1 %)では停 滞領域が広がり 5 V 付近での電流ピークはやや減少する。し かし Al を 6 % 含む AZ 61 では 5 V 付近の電流ピークが消失 した。AZ 91(Al 9 %,Zn 1 %)になると電流値は全体に低下し, さらに 5 V 付近での電流ピークも見られない。このように, 素地中に含まれる Al が表面の不動態性を顕著に高めている ことがわかる。また,電解液中に 1 mol・dm−3のアルミン酸 イオン(AlO2−)を添加すると,すべての試料において 5 V 付 近の電流ピークが消失し,また電流値が減少した。したがっ て,この電流ピークはマグネシウムに特有なものであり,ア ルミニウムが素地中ばかりでなく電解液中に存在してアニオ ンとして取り込まれる場合も,酸化皮膜中に封入されること によって不動態性が高められ,電流ピークが消失すると考え られる15)。この電流ピークはアルカリ性電解液のみで特徴 的に出現し,中性や Dow 17 のような酸性電解液では観察さ れず,アルカリ性溶液中で不動態化するマグネシウムに特徴 的な挙動である16)  Al は素地中のみでなく,電解液にある場合により顕著に 酸化皮膜に封入される15)。アノード酸化における AlO 2−の添 加は,その濃度の対数に比例して皮膜中に取り込まれ,不動 態性を向上させる効果を持つ。生成電圧が上昇するほど皮膜 中への封入量が増加し,100 V では Al/Mg 比が 0.63 に達す る17)。AlO 2−を添加した電解液中での高電圧での連続的なス パークにより,結晶性の MgAl2O4(スピネル)が形成される こと17)はしばしば報告されている。

4 .アノード酸化皮膜構造に対する電圧の影響

 アノード酸化で成長するバルブ金属の酸化皮膜の構造は, 一般に電解液の酸化皮膜に対する溶解性の強さと印加電圧に 支配される。皮膜を溶解しない電解液ではち密なバリヤー型 皮膜,溶解性が高い場合はポーラス型皮膜が成長し,さらに, 皮膜のバリヤー層の厚さとセルの大きさはほぼ電圧に比例す る。しかしマグネシウムは,Pourbaix の電位- pH 図18)に示 0.0001 0.001 0.01 0.1 1 10 100 1000 -5 0 5 10 15 20 25 30

Potential / V vs Ag/AgCl

C

u

rr

e

n

t

d

e

n

si

ty

/

A

m

-2 99.95% Mg AZ31 AZ91 AZ91+AlO2ion 104 103 102 102 101 100 10- 1 10- 2 10- 3 + AlOAlO2-2 -図 2  NaOH 中でのマグネシウムのアノード分極曲線に対する素 地純度およびアルミン酸イオンの添加効果

(3)

総  説 されるように,アルカリ性溶液中でのみ安定な水和皮膜を生

成し,溶解が抑制されるため,バルブ金属からの単純な類推 は適用できない。

 図 3 に 1 mol・dm-3 NaOH 中で 99.95 %Mg,99.6 %Mg,AZ31,

AZ91 を 10 分間アノード酸化したときの最終電流値と電解 電圧との関係を示す17)。いずれの試料でも,2 V では電流は かなり低く,バリヤー型皮膜の生成が示唆される。5 ~ 7 V 付近で電流は極大となり,図 4a に示すような直径 300 nm 程 度のセル構造を持つ直管状ポーラス型皮膜が成長する15) 20 V 以上からは再びバリヤー型皮膜の生成領域になり,電 流は低い。  さらに電圧が上昇すると,試料全面での微小なスパークを ともなって絶縁破壊が起こり,電流は再度急上昇する。絶縁 破壊電圧は 99.6 % 試料が最も低くて 50 V であり,AZ31 が 90 V,AZ91 および 99.95 % 試料が 100 V と高くなる。この ように,99.95 % から 99.6 % に純度が低下すると絶縁破壊電 圧が 100 V から 50 V まで低下するが,アルミニウムが素地 中に 3 % および 9 % 含有されると絶縁破壊電圧は 90 V およ び 100 V に上昇する。この結果は,素地中に 3 ~ 9 % 含まれ る Al 成分が生成する酸化皮膜の安定性を高め,素地溶解や 絶縁破壊を妨げるためと考えられる。5 V 付近での電流値も 純アルミニウムに比較して AZ 合金では低下し,特に AZ91 では著しく低減する。これらの挙動も皮膜中に素地のアルミ ニウムが混入する結果,より保護性の高いち密な皮膜が生成 するためと説明できる。

5 .アノード酸化法の開発と発展

 実用的なマグネシウムのアノード酸化法としては,ダウケ ミカル社によって開発された Dow 17(酸性フッ化アンモニ ウム,重クロム酸ナトリウム,リン酸を含む)あるいは HAE 法(水酸化カリウム,水酸化アルミニウム,フッ化カリウム, リン酸ナトリウム,過マンガン酸カリウム)が長く用いられ てきた2),19)。生成メカニズムに関する検討については Huber ら20)による先駆的な研究の後,1990 年代には皮膜組成や電 解挙動に関しての報告 10 数報が散見される程度であった21)∼31) しかし 2000 年代に入り,軽量材料としてのマグネシウムに 対する関心の高まりに呼応して,新たな電解液の開発ととも に報文数も急増し,特に 2003 年頃から顕著な増加が見られる。 Dow17 に 関 し て は, 生 成 す る 皮 膜 の 主 成 分 は 結 晶 性 の NaMgF3と MgF2,それに非晶質の水和酸化物 MgχOχ-2y(OH)y

で,PO43−とアンモニウム塩と Cr2O3を少量含むことが XPS と XRD 解析から求められた10)  絶縁破壊によるスパーク(火花放電)をともない厚いポーラ ス皮膜を成長させるアノード酸化法は,プラズマ電解酸化法 (PEO),マイクロアーク酸化法(MAO),セラミックコーティ ング法などと呼ばれる。元素添加による素地由来以外での高 耐食性を付与するための検討課題は,大きく電解液組成と電 解波形の影響に分類され,皮膜の組成と構造,耐食性にこれ らのパラメーターがどのように相関するかを明らかにする目的 で多くの検討がなされている。エンジン用やその他の車載用部 品への応用としては,固さや耐摩耗性,耐クラック性など機械 的特性の検討が重要である。最近,体内での生分解性を期待し た骨代替生体材料やステントなどへマグネシウムを適用させる ため,耐食性の制御に関する研究が急激に増加している。 0 200 400 600 800 1 000 0 20 40 60 80 100 Formation voltage E / V C u rr e n t  d e n s it y i / A m -2 AZ31 9 9.9 5%Mg AZ9 1 図 3  素地純度の異なるマグネシウムを NaOH 中で 10 分間陽極 酸化した時の電圧と最終電流密度との関係 1 m 1 m 1 µm 0.5 m0.5 m0.5 µm pore

a

b

図 4  水酸化ナトリウム中で 5 V で生成した直管セル状のポーラ ス皮膜      (a)破断面,(b)劈開面 50 µm b a 20 m d 50 µm 20 µm Oxide/Metal interface Oxide/Metal interface Oxide/Metal interface 25 µm c 図 5  マグネシウムのリン酸ナトリウム中での火花放電アノード 酸化皮膜      (a)150 V,(b)166 V,(c)200 V 皮膜の破断面,(d)200 V 皮膜の樹脂包埋断面

(4)

マグネシウムの表面現象と酸化皮膜の成長

6 .皮膜成長機構

6.1 火花放電をともなう絶縁破壊型ポーラス皮膜  マグネシウムでは Dow17 のような結晶質で難溶性の MgF2 が生成するフッ化物溶液を除くと,強アルカリ性溶液のみで 酸化皮膜が成長し,基本的にはバリヤー型皮膜となるため, ポーラス皮膜が成長するのは特異的に高電流が流れる 5-7 V 付近か,絶縁破壊が起こる 100 V 程度以上の高電圧領域であ る。後者の場合に生成する皮膜の構造は,Al,Ti,ステンレ スなどでもスパークをともなう電解後に見られる典型的な溶 岩状の不規則なポーラス酸化皮膜である32)。実用され得る 耐食性を付与するには厚い酸化皮膜が必要であり,実用のア ノード酸化は主として定電流電解が用いられる。定電圧ある いは定電流電解のいずれでも,高電圧に達しスパークをとも なって生成する皮膜は,ガス発生により生ずる大小のボイド をアモルファスの流動体状の酸化皮膜に内包し,また結晶質 部分が分散した溶岩状の構造を持つ。皮膜構造の詳細は電解 液と電解電圧,電解時間に依存する33)。図 5 に 99.95 % のマ グネシウムを Na3PO4水溶液中で 200 Am−2で生成した皮膜の 表面および破断面の SEM 像を示す。電解初期(150 V)には孔 は直径 1-2 μm 程度で比較的規則的に分布しているが,電解 が進み放電が見られるようになると(166 V),孔径が最大 10-20 μm となった皮膜が元の微細な孔の表面を覆うように成長 する。このように,絶縁破壊で生成する皮膜は皮膜 / 溶液界 面で成長しており,既存の皮膜を覆うように上部に成長する 様子が確認されている。したがって,孔径は電圧には依存せ ず,火花放電の大きさに支配される33)。さらに火花放電が 続くと,10 μm 以下の薄い部分と 50 μm 以上に達する厚く て流動体状のアモルファス部分が共存し,皮膜内には直径 1 μm から 10 μm 程度の大きさの多数の気泡状ボイドが分布する (図 5 c, d)32)。この皮膜形態は,火花放電による高温で皮膜 が流動状態となり,電解時の絶縁破壊で発生するガスが封じ 込められるためと推定される。特徴的であるのは,EDX 分 析で検出される P 濃度の高さで,内層で約 30 % に達する34) X 線回折からは,Mg(PO3 4)233)および Na4Mg(PO4)2が検出さ れる。おそらく,放電と同時にマグネシムが多量にアノード 溶解し,電解液のリン酸イオンと反応して皮膜上層に析出す る過程を経ると考えられる。  火花放電は,電解初期は白黄色で試料全面に観察されるが, 次第に赤みの強い局部的に集中した放電となる。放電の色に ついては,主たる放出ガスが水素から酸素に変わるためであ るとの報告があるが,Na の皮膜への混入も考えられる。  AZ91D をリン酸ナトリウム中,200 V でアノード酸化し生 成した皮膜断面の TEM 像と 5 nm に絞った電子ビームによ る EDX による元素分布および電子回折像を図 6 に示す34) 皮膜は暗いコントラストの上層,電子線照射により敏感に変 化する中間層,300 nm 程度の厚さで暗いコントラストを示 す素地に密着した内層の 3 層構造であった。018 と記した結 晶部分を除き,いずれも非晶質中に微結晶が分散した構造で ある。皮膜組成では P 含有量が高く,電解質アニオンの取 り込みが顕著であることを示している。図 7 に内層の EDX 線分析結果を示すが,Al は内層において濃縮しており Al/ Mg 比 0.5 に近い高い含有率を示した。組成比(mass %)はお およそ O:45,P:29,Mg:18,Al:8 であり,P の比率が 顕著に高い。上層,中間層も Al 含有量は低下するが同様に P 比率が高く,Mg(PO3 4)2が主成分と言える。このことは, アノード酸化皮膜の特性が電解質アニオンによって大きく左 右されることを意味する。ケイ酸ナトリウムでの電解では,

1 m

014 (O, P, Mg, Al)

015 (O, P, Mg)

017 (P, O, Mg >Al)

018 (P, O, Mg >Al: Cry )

018

017

1µm

図 6  リン酸ナトリウム中 200V で AZ91D に生成 したアノード酸化皮膜の断面 TEM 像と数字 で示す局部の EDS および ED 分析結果 0.3 µm LG2 距離 0.00 0.64μm 質 量 % 0 10 0 Distance M as s % 距離 0.00 0.64μm 質 量 % 0 10 0 Distance M as s % O P Mg Al Ma ss % 0 10 0 0 0.64µm Distance 図 7  リン酸ナトリウム中 200 V で AZ91D に生成 した皮膜の内層(上部 TEM 像)とその元素の EDX 線分析結果

(5)

総  説 皮膜上部はアモルファスのケイ酸から成る。  素地界面付近の内層(図 6 中の 014 および図 7)の比較的ち 密で Al が濃縮し暗いコントラストを示す 0.5 μm 程度の層は “バリヤー層”とも呼ばれ,皮膜の耐食性が上部ポーラス層 部分でなく,この層によって保たれているという考えも提示 されている。ポーラス皮膜中に分散するボイドが素地付近ま で貫通している場合が見られるためである。しかしこのバリ ヤー層の厚さは電圧には依存せずほぼ一定で,一方,耐食性 は皮膜の厚さに強く依存するため,ボイドの分散した厚い上 部ポーラス層と内層がそれぞれどのように耐食性に寄与して いるか今後の解明が求められる。 6.2 低電圧領域で成長する直管状ポーラス皮膜15)  5-7 V 程度の低電圧領域で成長するポーラス皮膜の構造と して,図 4 に示したように約 50 nm のポアを中心に持つ,直 径約 200-300 nm のセル構造が確認されている15)。このポー ラス皮膜は主として水和物から成り層状の劈開性を持つが, 高電流で厚く成長するため,塩水噴霧試験に対して比較的高 い耐食性を示す。アルミニウムのアノード酸化皮膜における Keller モデル型を示すことから,皮膜 / 素地界面で成長した と推定される。しかし,高電流密度で成長することから,皮 膜表面に粒状の酸化物が堆積しやすい。またセル境界が弱く, 破断後はセル間で分離し,チューブ状のセル構造を持つのが 特徴である。 6.3 中間電圧領域で成長するバリヤー型皮膜の構造  バリヤー型皮膜が生成する電圧 40 V で,水酸化ナトリウ ム水溶液で生成した皮膜断面 TEM 像を図 8 に示すが,厚さ 76 nm で明るいコントラストを持つ 10-20 nm の気泡状セル 部分を含む外層(26 nm)と,よりち密な内層(50 nm)から成 る35)。バリヤー型皮膜の厚さの電圧依存性,すなわちアノー ド酸化比(Anodizing ratio)は 1.9 nm/V で,アルミニウムの 1.4 nm/V と比較するとより厚く,電場保持性が低い。外層の 気泡状部分はおそらく TEM 観察による電子線照射の影響に よるもので,この部分に水やアニオンが多く含まれることを 示唆する。EDX 分析によれば外層の Mg/O 比は内層のそれ より低い。  電解液がアルカリ添加したエチレングリコールのような有 機溶媒系の場合は,図 8b に 80 V の場合を示すが,アノード 酸化比はより低く,1.1 nm/V である。この皮膜は Mg 素地の 光沢を残す透明性が高く,薄いバリヤー皮膜にもかかわらず, AZ91 合金において 120 時間の塩水噴霧試験に耐える耐食性 を示すことから,高い電場を保持できるち密な皮膜と言える36) 皮膜中には相当量の電解液成分が混入しているが,生成電圧 によらず常にバリヤー型の皮膜が生成するという,水溶液系 電解液では見られない特異な挙動を示す。

7 .新規なアノード酸化電解液の開発

 近年の廃水規制の強化にともない,クロムやフッ素を用い ないアノード酸化電解液が要求され,従来の Dow17 などク ロム / フッ化物系電解液から,リン酸ナトリウムを主成分と して含むリン酸系電解液やケイ酸ナトリウム電解液,過マン ガン酸カリウム電解液が注目され,生成する皮膜の組成や成 長挙動が,アンモニアや AlO2−,アルコール類の添加の効果 とともに検討されている。これらの電解系成分はリン酸,ケ イ酸,マンガン酸のそれぞれのマグネシウム塩が皮膜中に相 当量混入する。これらの皮膜組成と耐食性の詳細な関係は十 分明らかにされてはいないが,少なくともリン酸ナトリウム を含む電解液を使用した場合に皮膜組成として検出される Mg(PO3 3)2が MgO および Mg(OH)2成分のみの場合より耐

食性向上に寄与すると考えられる37),38)  アンモニアやエチレングリコール,エタノール,メタノー ルなど各種アルコール類やアミン類の添加効果は,主として 火花放電により成長する皮膜の凹凸の平滑化・ち密化に寄与 すると言われる。特異な例として,無水のメタノール,ある いはエタノールに硝酸イオンを含む電解液を用いる場合,組 成は Mg,O,C のみである黒色で数 10 μm の厚さのち密な 皮膜が生成する39)  新しい電解法として,複合皮膜の生成が注目されている。 K2ZrF6-Na2SiO3-KOH 電解液を用いて,AZ91D マグネシウム

合金に ZrO2含有セラミック被覆を行うもの,また K2ZrF6水 溶 液 中 で の ア ノ ー ド 酸 化 に よ り ち 密 で 硬 い Mg2Zr5O12 / Mg2Zr5O12 - ZrO2 - MgF2傾斜層をコーティングする方法が開発 された40)。コーティング層の硬さは 1150-1240 Hv と高く, 耐食性,耐摩耗性の向上も期待されるアノード酸化手法であ る。また,界面活性剤を添加したアルカリ性のリン酸塩電解 質にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を分散させ , パル

a

50nm

b

50nm

図 8  純度 99.99 % のマグネシウムに(a)水酸化ナ トリウム水溶液で 40 V,(b)水酸化ナトリウ ム / エチレングリコール溶液で 80 V,でそれ ぞれ生成した皮膜断面の TEM 像

(6)

マグネシウムの表面現象と酸化皮膜の成長 ス電源でプラズマ電解酸化を行って形成した PTFE 含有皮膜 は,耐食性,耐摩耗性,摩擦係数が優れると報告された41)  マグネシウムのアノード酸化では,直流以外に交直重畳や パルス電解,高周波電解がしばしば適用される。これらの効 果については既報42)に述べた。紙面の関係で割愛した部分 については,別記の解説論文など32),42)∼44)を参照されたい。

8 .おわりに

 マグネシウムを実用材として用いるための研究は年毎に増 加し,生体材料から車載品に至るまで,多くの研究の展開に よる新しい事実の積み重ねには目を見張るものがあるが,表 面に関しての研究の深さと広がりは未だ十分とは言えない。 マグネシウム表面の研究の困難さは,主として素材そのもの の不安定さや不均一性に由来している。素材の実用合金とし ての組成の均一さが少しでも欠ける場合,マグネシウムにお いては特に表面反応に顕著に反映するためである。マグネシ ウム表面の研究の遂行には粘り強い取り組みが必須である。 困難な材料に挑戦する研究者の健闘に期待したい。 (Received March 11, 2011)

文  献

₁ )E. F. Emely ; Principle of Magnesium Technology(Pergamon Press, 1966).

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