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障害児保育における保育者への支援

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障害児保育における保育者への支援

コンサルテーションとしての巡回相談の果たす役割一

浜谷 直人

1 はじめに

 1970年代の後半に多くの自治体で障害児保育が制度化された。今日では,自 閉症やダウン症などの障害にっいての知識が,保育の場でかなり浸透してきた が,その当時,ほとんどの保育者は障害児に接した経験もなければ,障害にっ いての知識も乏しい状況であった。保育現場では不安な気持ちを抱えるなかで,

制度がスタートしている。それから20年余を経た。今日なお多くの課題がある とはいえ,その当時に比べれば,障害児保育は広く普及し,一定の安定した保 育実践として定着してきている。

 この間の障害児保育の普及と定着にあたっては,さまざまな要因が寄与して きたと考えられる。

 まず,小児科学,発達心理学,障害児心理学などにおける研究の進展は,子 どもの発達と障害にっいての科学的な理解を可能にした。これによって,保育 者が子どもを発達的に理解することを可能にした。このことが障害児保育実践 を理論的に支え推進する役割を果たしてきた。

 同時に,乳幼児健診や療育機関の整備など,障害児の早期発見から早期療育 のシステムが整備され,そのシステムの中に障害児保育が位置ついてきた。典 型的には,保健所の乳幼児健診などで早期に発見され,その後,一定の療育を うけた障害児が保育園に入園して集団生活を経験して就学を迎える。この発達 を保障する全体の場の一っとして保育園が位置づき期待されるようになってき

た。

 また,インテグレーションという思想が多くの人に受け入れられ支持される

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ようになるなかで,障害児もまた保育所や幼稚園のなかに積極的に受け入れら れ保育されるようになった。

 このようないくっかの社会の変化がそれぞれ独立に進展すると同時に相互に 関連しながら障害児保育をすすめる役割を果たしてきた。

 一方,制度化にあたって,障害児保育を直接的に支える事業が作られた。保 育者の加配置,保育者の研修の保障,専門機関からの支援などであり,これら

もまた十分整備されたとは言えないが,障害児保育の不可欠な条件である。

 さて,本稿では,このような障害児保育を支えてきた多くの要因のなかで,

巡回相談ないしは巡回指導と呼ばれる専門機関からの支援(以ド,巡回相談と する)にっいてとりあげる。

 専門機関からの支援は多くの場合,障害児が専門機関に出向いて,そこで専 門的な診断や評価や療育を受け,そこで得られた障害児に関する情報が保育に 利用される形で支援するのが一般的である。これに対して,巡回相談は,専門 職が園に行って保育の中での障害児の姿を評価して支援する。巡回相談では相 談員がその子どもだけでなくできるだけ園の状況などを理解して支援すること が期待される。

 また,専門機関に障害等を持っ子どもを招いての療育と比べた場合,巡回相 談においては,直接の援助対象は子どもや保護者ではなく,保育者という専 門職である。したがってこれは,保育者という別の専門職に対するコンサルテー

ションと呼ぶことができよう。

 本稿ではこのようなコンサルテーションという視点から巡回相談をとりあげ,

それが保育実践に有効な支援として機能するにはどのような相談が求められる のか,また,相談員はどのような専門性を有する必要があるかについて検討す

る。

2 巡回相談事業の背景

 多くの自治体で,心理職などを保育の現場に派遣する巡回相談事業を実施す るようになってきている(近藤他(1991))。その実施形態や内容は多様である。

ここでは筆者が相談員としてかかわってきたK市とH市の巡回相談をとりあげ

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障害児保育における保育者への支援  3

る。これらが現在実施されている多様な巡回相談の標準でも模範でもないが,

お互いに背景はかなり異なりながらも,比較的類似した実施形態をもっ二っの 巡回相談を比較し整理する作業を行いながら巡回相談の一っの規準型を想定し て考察を進めてみる。

 巡回相談が実際にどのように機能し何を期待されるかは,その地域の障害児 等の療育環境に少なからず影響をうける。そこで,両市の巡回相談事業の背景

にある療育環境などについてここで概観する。

 近藤ら(1991)よれば,先進的な早期療育システムを有する自治体は以下の 課題を達成しているという。①早期発見からスムーズに早期療育にっなぐ早期 療育事業の充実と制度化,②障害児保育制度の充実と拡大ときめ細かな巡回相 談事業などの保育現場や親の要求に応える制度づくり,③そのような課題をに なう地域療育センターを人口30万人単位を目安に設置する,という課題である。

 K市はこのような課題をおおむね達成していると判断される数少ない自治体 の一っである。一方,H市は医療機関や保健センターなどによる障害児等の早 期発見体制は整っているが療育事業が未整備である。

 K市においては,障害児等は発見後,児童期まで地域療育センターのケース ワーカー(以下CWと記す)が担当して追跡し,センターの多専門の職種が 援助指導を行う。いわば,専門機関中心型,多専門総合援助型,継続療育援助 型とでも類型化できるシステムが整備され機能している(実際には,学齢期に 達すると継続指導は困難になっている)。

 H市においては,障害児等は発見後,専門機関から援助を受ける場合もある が,ほとんど援助を受けることなく幼児期をすごす場合もあり,さまざまな状 況が見られる。個々の機関のとりくみや保護者の努力や運によって受ける援助 に大きな格差がある。あえて言えば,保護者中心型,断続療育型とでも類型化 できる状態であり,システムが未整備である。

 また,地域の障害児保育の質という点でも両市には違いがある。

 K市は民間保育園に比べて公立保育園が多いのに対して,H市は逆である。

本稿では,両市において主要な役割を担うK市の公立保育園,H市の民間保育 園の巡回相談を検討するが,それぞれの保育園の障害児等保育の質はかなり異

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なる。障害児等保育の質は,以下のような規準で概略,評価できるのではない かと考える。

 一っは,保育者の保育観や発達観や保育者集団の民主性,共同性,支持性,

開放性や保育者集団の士気や魅力など保育の風土とでも呼ぶべきものである。

第二は,保育者がこどもを把握し導く力,保育技術や障害に関する知識など,

保育者の力量とでも呼ぶべきものである。

 K市の場合,どのような保育園でもこのような質が一定の水準を持っている のに対して,H市の場合は個々の保育園によっても,一人一人の保育者によっ てもかなり格差がある。公立の場合,幅広い年齢や経験の保育者が一っの職場 を構成し,職場の移動などによって保育者間の交流がある。それに対して,民 間の場合は園長や一部のベテラン保育者と多くの若く経験年数の少ない保育者 が職場を構成し交流が少ない。このようなことが保育の質の違いを生み出して いると考えられる。

 また,K市では,1976年に障害児保育(全園全入)の制度化にあたっての職 員組合からの要求条件の一つとして保育課が所管する巡回相談が開始されたと いう歴史を持っ。したがって,保育者が自ら必要を感じ要求して実現した事業 である。今日,そういう意識を持っている保育者は多くはないが,この事業を 継続して守ろうという意識が保育関係者に残っている。

 一方,H市の巡回相談は,市の民間保育園に対する障害児等保育助成にかか わる障害児等保育認定事業の一環として始まった。これは,相談員が児童の状 況にっいて市に報告し,それをもとに市から保育園への経費の支弁が決定され

るという事業である。そのような判定業務として開始され,実質的に相談とし ての役割が大きくなった。このため,一部の園長などを除けば,多くの保育者 にとって障害児保育をすすめるために必要な事業だという意識が薄い。

3 巡回相談の概要

 上述したように,両市の巡回相談の背景はかなり異なっている。それにもか かわらず,実際に相談員が行う相談は形式的にはかなり類似しており,それは,

保育者へのコンサルテーションとしての巡回相談として共通に検討できるもの

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障害児保育における保育者への支援  5

表1 巡回相談の概要

K  市 H  市

対象児 障害児受託児童 障害児要判定児童

保護者の承諾 保護者の承諾 巡回相談スタッフ 医師(小児神経) 心理

心理 保育課職員

CW(センター)

保育課職員

事前準備 派遣依頼書 児童状況報告書

(園→保育課→相談員) 発達状況報告書

当日スケジュール 9:40−10:00聴き取り ・打ち合わせ 10:00−11:00 保育場面の行動観察 11:00−11:30発達検査

13:00−14:30 カンファレンス 発達検査 新版K式発達検査

カンファレンス 担任以外職員も参加

事後報告 巡回相談勤務日誌 保育判定調書

(相談員→保育課→ (相談員→保育課→園)

園・センター・園医)

である。

 表1は,両市の巡回相談の概要を対照的に整理したものである。まず,両市 のおおまかな相違点を先に述べる。

 3−1巡回相談の対象児

 対象児は,K市の場合,すでに障害児等として受託された児童であるのに対 して,H市の場合は,障害児等として判定が必要な児童である。っまり, H市 の場合,医療機関等ですでに障害児として診断を受けたり障害者手帳をもっ児 童は巡回相談の対象児にならない(ただし,障害児認定児に対しても一定の範 囲の中で相談希望に応じる)。このためK市ではダウン症や脳性まひのような 比較的早期に診断を受ける障害児も対象児として一定の割合を占めるのに比べ

ると,H市では対象児になることが少ない。また, K市の場合,市の療育シス テムが整備されているので,療育センターなどでの療育を受けた4歳児や5歳

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児が巡回相談の対象になる割合が高いのに対して,H市の場合は広範囲の年齢 が対象である(もっとも,H市の場合は,相談を受けることを保護者から承諾 を得るのに時間を要して,年長児になるというケースがある)。

 K市では,保育園における園児全体に対する障害児の在籍率は1.5%前後で 推移し,例年,巡回実施園は園全体の30%前後,巡回児は障害児受託児の30

%程度で推移している。巡回相談の実施割合が,児童数においても園数におい てもあまり高いとはいえない。これは園からの希望によって相談を実施するか らである。障害児を受託しながら,園が巡回相談を希望しない場合があるのは,

その児童にっいて療育センターなどの専門機関から支援を受けていることや,

園が相談を必要なケースだと感じていないことなどによる。

 一方,H市における障害児の在籍率はK市に比べやや低い。 H市の場合も,

園からの希望によって相談を実施するが,要判定児童にっいては基本的に全員 相談を実施し,さらに若干の相談希望に応じている。結果的に障害児措置児童

の半数程度の相談を実施している。

 3−2 巡回相談のスタッフ

 相談のケースに応じた専門性を有したスタッフをそろえることが理想的であ るが,現実にはあらゆる専門のスタッフを用意することは不可能である。K市 では,どのケースでも,心理とCWと保育課職員が同行する。特に医学的な 観点からの支援が必要なケースでは小児神経科の医師も同行する。この判断は 相談依頼書の内容や園からの希望を医師と心理職が総合的に判断して決定して いる。また,療育センターでST, OT, PTなどの指導を受けているケースで は,それらの専門職が巡回相談に参加することもある。このように,一っのケー スに対して多専門の視点から保育を支援するのがK市の特徴であり,心理職は それらの多専門が有機的に機能するように参加する。

 一方,H市では, K市のような多職種から構成されず,心理職のみである。

 以上が両市の巡回相談で大きく異なる点であるが,事前事後の調整と,当日 のスケジュールは若干異なる点もあるが類似しているので,以下は,K市の相 談を念頭において概略を記す。

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障害児保育における保育者への支援  7

 3−3 巡回相談の過程

 巡回相談は,事前の準備,当日の相談,事後の調整の三っの過程に大別でき

る。

 a 事前の準備

 事前の準備は3っの作業に大別できる。

 一っは園内で相談を受けることにっいて合意形成をはかる作業である。通常 はそのような相談を依頼する以前に,園内で一定の事例検討が行われている。

典型的には,担任同士での話しあいにはじまり,主任保育者や園長を含めた話 しあいを経て,園の職員全体での検討を行い,その上で相談を受けることを決 定するという手続きをとる。

 このような相談に至るまでの園内の検討は,その作業自体が事態の問題解決 へと導くことが少なくない。とくに,担任保育者がケースの概要や自分が感じ ている困難を他の保育者に説得的に説明する作業の中で,子どもや保育のとら え直しが行なわれる。その結果,事態が好転に向かうことがある。

 しかし,ケースの対応に困難を感じていても園が巡回相談を依頼しないこと があったり,担任保育者が相談を希望していても,園長が抑制的な判断を行う などして相談に至らないことがある。この点では,巡回相談事業が保育者から どのような信頼を得ているか,相談の実際をどの程度多くの保育者,とりわけ 園長に周知されているか,などの要因によって依頼件数が増減する。

 第二は,相談を受けることにっいて保護者の承諾を得る作業である。障害児 として受託されている児童であっても,保護者は園で何か特別なことがその児 童に対して行われることに警戒の念を持っことが少なくない。巡回相談は,児 童に対する一種の検査や診断と受けとめられやすい。その場合,保護者が相談

を受けることに拒否的になるのはよく見られる。園は,相談を受ける目的が,

その児童の保育をより改善することにあるという点を保護者に十分納得できる ように説明するという作業を行う。

 第三は,依頼書の作成である。依頼書は相談員が可能なかぎり事前に児童や 保育に関する情報を把握し,相談を効率良くかっ質の高いものとするために準

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備されるものである。その記載内容は,児童の障害に関する内容,医療育歴,

家庭状況,児童の発達の状況,保育の状況,相談事項などからなる。

 このような事前の準備の総体が,相談を気軽なものではなくしていると同時 に,相談の質を確保している。

 b 当日の相談

 当日の相談もいくっかの部分からなっている。

 b−1保育者からの聴き取りと打ち合わせ

 相談員はすでに事前の依頼書で児童や保育の情報を得ているが,依頼書の作 成から相談日まで最低でも2ケ月程度が経過しているために状況が変化してい

る。その状況の変化について聴き取りを行う。また,保育者の主訴に対応して,

どういう保育場面のどういう行動を相談員が観察するべきかにっいて,当日の 保育の予定と合わせて保育者から説明を受け,場合によっては,評価のために 必要な場面を設定するように保育の予定の調整を行う。

 b−2 保育場面の行動観察

 実際に子どもが生活する保育場面で児童の発達や障害にっいて評価するため に行う。そのたあに,日常の保育の凝縮された典型ないしは平均の状態を見る ように観察場面を調整する。一般的には,自由遊び場面,課題やルールがある ような設定保育的な場面,着替え・食事・排泄などの生活習慣の場面,それぞ れにっいて一定の行動観察をすることになる。また,そういう場面間を移行す るときに保育のトラブルが生じたり,保育者が困難を感じることが多いので,

移行時の行動に注目する。さらに,ケースによって,相談主訴に関連する場面 を中心に観察を行う。

 自由遊び場面では,児童が園の環境にどのように適応しているかという視点 から観察する。警戒感をもった探索的な段階から,安心感をもって自由に遊べ

るようにいたる段階までの間で,児童が,保育者,周囲の子ども,園舎や玩具 などとどのようなかかわりをもっているかを評価する。

 設定保育場面では,児童がどのように保育課題を理解して取り組んでいるか という視点から観察する。特別な援助を受けながらも課題に注意を払わない段 階から,特別な援助がなくても課題に参加して取り組んでいる段階にいたるま

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障害児保育における保育者への支援  9

での間で,児童が,課題状況,保育者の指示や援助,周囲の子どものはたらき かけなどを,どのように受けとめ応えているかを評価する。

 日常の保育の場面と相談日の観察場面は実際には異なる。相談員などの外来 者が保育場面を観察することは,子どもにも保育者にもさまざまな影響を与え る。このため,いっもはパニックを起こしたり,他児とのトラブルを頻発する 子どもが相談日には落ち着いているというような違いが見られることが多い。

その違いがあまりに大きい場合には,日常の状況にっいて保育者から詳しい情 報を得る必要がある。一方,このような違いから,子どもや保育にっいての情 報や保育への示唆を引きだすことができる。

 b−3発達検査

 新版K式検査は,運動領域,認知一適応領域,言語一社会領域の3領域で子ど もの発達を評価する。それぞれ,発達年齢を算出することができるが,30分程 度の時間では限られた項目を実施することになる。したがって,子どもの発達

にっいて可能な限り幅広く的確な情報を引きだすことを念頭において実施項目 を選択する。そのために,状況に応じて検査項目以外の課題を実施することも

ある。

 通常は担任保育者が側に同席して検査を実施する。CWや園長なども同席す ることが多い。担任保育者が同席することは子どもの発達を評価するうえでも,

相談を有効なものとするためにも重要である。たとえば,課題ができないこと を不合格と判定するだけでなく,保育者に援助を求めるか否か,保育者の援助 を受け入れて学習するか否かという反応の差異は子どもの発達欲求を知るうえ での貴重な情報である。

 このように検査項目の合否だけでなく,課題への関わり方や援助可能性,協 同可能性,達成感の共有可能性などにっいて知ることが子どもの発達を理解し,

保育への手がかりへの判断情報を得ることになる。

 同席した保育者は検査場面の子どもの姿に驚くことが多い。こんなことが分 かっていなかったと驚く場合と,逆に,こんなことができるのかと驚く場合が ある。保育者は相談員による説明を受けるだけではそのような子どもの姿を理 解し納得することは困難である。保育者は検査場面に同席することによって,

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相談員の子どもの発達にっいての評価を実感をもって理解することができ,相 談に対する動機づけが高まり相談の効果を高めることにっながる。

 b−4 カンファレンス

 カンファレンスには,できるだけ多くの職員の参加を促す。通常は,園長,

保育者10人前後(午睡担当は参加できない),看護婦が参加する。

 園長の司会で,まず,収録されたビデオ(同行の保育課職員が保育場面と検 査場面をビデオ録画する)を見ながら,保育場面の観察時の様子にっいて,担 任保育者と相談員が説明や質疑を行う。保育者からの説明によって,相談員は 観察された子どもの行動の背景や意味を知ることができる。次に,検査場面の 様子にっいて相談員が説明を行う。このとき,検査項目が,どの範囲の月齢の 課題であり,その課題ができる,ないしはできないことは発達においてどのよ うな意味があるか,また,課題のでき方やできないときの反応から何を知るこ とができるかなどにっいて説明し,同時に,保育のなかで,どのような経験を 与えていくことが必要であるかなど,保育への助言を行う。

 その後,まず相談員から子どもの発達と障害にっいての評価にっいて説明す る。保育者はすでに子どもの発達と障害にっいて自分なりのイメージを持って いるが,相談員の説明によって,そのイメージが確認されて明瞭化されたり,

修正されたり,付加的な情報が付け加えられる。いずれにしても相談員は,保 育者がより多面的であると同時に統合されたイメージをもち,それを土台に保 育を構成することができるようになることをめざす。実際には,発達検査の結 果による領域ごとの発達年齢から,何が理解でき,何が理解できないのか,保 育場面での行動に関連づけながら説明することになる。たとえば,子どもの発 達の評価に即して,子どもが保育者の指示をある場面では言語を理解している が,別の場面では視覚的な手がかりをもとに行動しているという状態にあるこ とを説明し,それを考慮した保育のあり方について考える必要性を提起するな

どである。

 また,発達や障害について,そのケースに関連する概論的な説明をすること も少なくない。保育者にとって教科書的な知識はともすれば難解であるが,身 近な子どもの保育を考えるなかでの説明は親近感があり分かりやすく効率的な

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障害児保育における保育者への支援 II

学習の機会になる。

 次に,保育者の主訴に対して具体的な助言を行う。主訴は多岐にわたるが,

「子どもの集団参加をすすめる,ことばなどの発達を促す,問題行動に対処す る」ための保育を知りたい,保護者との関係づくりなどが多い。相談員が何か 解決法を提示するというよりは,保育者が取り組んでいる状況や,困難に感じ ている状況について整理し,ありうる手だての例を示すことになる。子どもの 家族に関する問題については,同行のCWから状況説明を受け,対応を確認す

る。

保育場面

事前資料・

聴き取り

観察

カンファ レンス

図1 相談員が評価と助言を行う過程

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 このような心理職の相談員が評価と助言を行うまでの過程を模式的に図式化 したものを図1に示す。

医師が同行するケースにっいては,医学的な観点から同様な説明と助言がある。

さらに,ケースによっては療育センターの各種専門職から助言がある。

 3−4 事後報告と調整

 相談員は勤務日誌として評価所見と助言を報告し,それが保育課を通して保 育園,療育センター,園医に(H市の場合は,保育園のみ)に送付される。

4 コンサルテーションとしての巡回相談

 次にこのような巡回相談が実際に障害児保育の実践において,保育者をいか に支援しているのかを考えてみる。

助言

子ども a保育

b連携

d要求

c協力

保育課

図2 コンサルテーションとしての巡回相談のモデル

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障害児保育における保育者への支援  13

 4−1 コンサルテーションとしてのモデル

 図2は,巡回相談が果たすコンサルテーションとしての役割を図示したもの

である。

 相談員は園・保育者に対して助言を行うが,それはいくっかの領域に分ける ことができると考えられる。

 a 保育への支援(保育者と子どもとの関係)  通常,保育実践への支援 と言う場合はこの領域をさす。保育者が子どもをいかに保育するかにっいて相 談員が助言をする。

 b 連携への支援(保育者と専門機関との関係)  障害児保育は病院,療 育機関,各種相談機関等との連携をしなければ子どもの発達を保障する保育実 践をすることができない場合が少なくない。相談員は,子どもや園の状況に応

じて適切な専門機関を紹介するなど,連携を支援する助言を行う。

 c 協力への支援(保育者と保護者の関係)  保育者が保護者との関係に 困難を感じ,協力関係を形成するたあの援助を求める場合が多い。相談員は両 者の関係形成にむけて助言を行う。

 d 要求への支援(園と保育課(行政))との関係  園における人的配置,

園の施設の問題,園と保護者との関係などを改善することが必要であり,それ らが行政の所管業務にかかわる場合がある。相談員はそれらにっいても園に対 して助言を行う。

 e 組織化と力量形成への支援(園・保育者内部の関係)  園は複数の職 員による組織を持った集団によって構成されている。その職員間の連携や協力 が保育実践を改善するうえで重要であり,その観点からの助言を行う場合があ

る。また,保育者の力量の形成や精神的な負担の軽減などにおいても相談員に 期待される場合がある。

 4−2地域の療育環境とコンサルテーションの機能

 実際の相談においては,さまざまな要因によって,モデルに示した5っのど の領域のコンサルテーションが行われるかが異なると考えられる。実際の相談 事例によって,この点を検討する。

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相談事例1 (K市の事例)

相談日 ××年6月1×日 相談時5歳0ケ月 経過

  生後1ヶ月でダウン症と診断。10ケ月から療育センターで母子通園し,

  4歳10ケ月で保育園に入園。センターでは,医師が合併症等,PTが   運動機能の発達,心理が知的発達,OTが日常動作の獲得という視点   からかかわり,CWが家庭の状況把握と支援を行い,母子通園で,集   団指導を受けてきた。

  入園後,運動,知的にも他の4歳児と差が著しく,4歳児クラスの集   団の活動でどのように保育をしていいのか,他の子どもとの関わりの   持たせ方はどうすべきかという主訴での相談となった。

評価と助言

  聴き取り,観察,検査の結果を総合して,全般的な重度の発達遅滞で   あると評価し,現在の発達課題として,対物的な認知の発達を促す点   から準備すべき玩具,愛着形成にむけて担任保育者の役割,運動全般   の発達に向けて経験すべき活動などにっいて助言した。本人もクラス   の他児も,児がクラスに所属している気持ちを大切に思うように,ク   ラスの活動には個別的な援助のもとでできるだけ参加を促し,参加が   不可能な場面では児の意欲を引きだせる活動を個別に準備することを   助言した。他児との関係で,ダウン症の子どもたちがしばしば,過剰   に世話される傾向があることを指摘し,クラスの他児に対する保育の   基本的な姿勢を確認した。また,しばしば自己刺激的な行動をする点   に注意を促し,児が保育場面を理解できるように援助することを助言   した。さらに,食事の時のスプーンや食器の持ち方を改善するために   食器や持ち方の工夫の余地を指摘し,CWにセンターでの指導状況を   確認した。CWから,最近OTの指導を受けていない点が報告され,

  近日中にOT, PT,心理で,この相談で指摘された点を含めて,園に   対してより具体的な指導と助言を行うことと,保護者に対しても,

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障害児保育における保育者への支援 15

CWから継続的にセンターへの来所を促すことが確認された。同行の 医師から,現在健康な状態であり,基本的に保育活動に制限は不要で あることや,その上で健康上保育において留意すべき点が助言された。

相談事例2 (H市の相談事例)

相談日 ××年6月1×日  相談時3歳11ヶ月 経過

  2歳6ケ月,専門機関に相談して言葉の遅れを指摘され,集団保育を   すすめられ,3歳0ケ月,幼稚園の2歳児クラスに入園するが半年ほ   どで退園。母親の就労希望があり,3歳9ケ月で保育園に入園。入園   当時パニックを頻発し,言葉の遅れが見られるため,4月中旬より保   育者を一人児の担当としてっける。個人日誌をつけ,言葉掛けを多く   して,他児との関わりをもつように働き掛けた。まもなくパニックは   徐々に減って少しずっ落ち着いてきた。しかし障害児等としての認定   が必要ではないかと考え相談を申請する。相談主訴は,言葉を育てる   ための保育の働きかけを知りたい,母親が仕事のため保育時間の延長   を希望しているが,それを受け入れるべきか判断しかねている,パニッ   クへの対処を知りたい等であった。

評価と助言

  軽度の発達の遅れと自閉性障害の疑いがあるという評価を行い,児の   発達にとって,園に受け入れる意義が大きいことを確認した。パニッ   クは新奇でどうしていいか分からない場面で出現し,保育時間の長短   よりは,延長保育への移行時などに出現しやすいので,そういう観点   からの配慮が必要であること,言葉を育てるためには,児にとって保   育者がコミュニケーションしたい相手になることと,楽しい活動を豊   かに経験することが重要であること,集団での活動には,当分は関心   を見せなくても誘うなかで興味を持っようになるので基本的に誘うよ   うにすること等の保育上の助言を行った。

  また,園における児の状態について保護者が理解できるように促す意

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味で,保護者ができるだけ園での児の様子を見る機会を作ることが大 切であることを確認した。

また,親子が専門機関からの支援を受けるべきケースであると判断し,

障害児の療育に詳しい近隣の「××幼児相談」へ保護者が相談するよ うにすすめることを助言した。また,将来,保護者が自ら児の障害等 にっいて言及し,悩みを園に語るようになった場合には,保健センター に相談し,そこから専門機関への紹介を依頼する手続きをとることを 確認した。

 2つの相談事例では,子どもの障害と発達の状態,保育の状況などが異なる ので,子どもの評価や具体的な助言内容は異なる。しかし,中心的な支援は保 育への助言である点は共通している。筆者が経験する巡回相談においては多く の場合,このような保育への支援が中心である。しかし,ケースの中心的な問 題が保育をどうするかということよりも家庭の問題等にあり,連携や協力への 支援が切実に重要である場合も少なくない。その場合に,巡回相談においてど のような支援ができるかは,もちろん,その問題の内容にもよるが,さまざま な要因が介在してくる。

 図3−1と図3−2は,上の2っの相談事例においてコンサルテーションがどの ように機能したのかを図にしたものである。相談員が保育の助言をする点は同 じである。しかし,保護者に対しては,K市の場合,園は相談結果を報告して いるにとどまる。これは,センターのCWが保護者に対して助言指導する役 割を持っているからである。一方,H市の場合は,相談結果をもとに保護者に 対して助言的な関わりをせざるをえない。そして,保護者は自らの判断で他の 専門機関への相談にっいて判断せざるをえない(場合によっては,自分で専門 機関を探すことになる)。この結びっきをいちいち新たに作らなければならな い。さらに,K市では,助言結果に基づいてその後適宜センターから園に助言 や指導があり園の保育を支える。一方,H市では,保護者経由で専門機関とっ ながりができても,そこから園が支援を受けるまでには至らないことが多い。

 二っの図に見られる大きな違いは,対象児の違いや園の違いによるというよ

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障害児保育における保育者への支援 17

報告

報告

助言

助言・指導

助言・指導

報告

地域療育 センター

(CW)

図3−1巡回相談によるコンサルテーション 事例1(K市)

報告

報告・助言

助言

相談

図3−2巡回相談によるコンサルテーション 事例2(H市)

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18

りも,二つの自治体・地域の障害児の療育環境の違いによる。

 K市は地域療育センターをもっている。そこでは,0歳から18歳までの障害 児および障害の疑いのある児童とその家族にっいて,診断・検査・療育・訓練 及び指導等全般的援助を行っており,センターと個々の保育園とは日常的に連 携している。事例1(K市)では巡回相談員は,園や保護者に必要な助言・指 導について療育センターに伝えることができ,円滑に連携や協力の支援ができ

る。

 一方,H市にはそのような機関が存在しない。市内に民間療育機関と市外に 公的な療育機関があるが,保育園と日常的な関係がないだけでなく,保育関係 者や住民の間でそれらの機関の認知度が低い。このため,事例2のように相談 員が連携や協力の支援を必要と判断した場合,相談員が地域の専門機関を園に 紹介し,そこへの相談を保護者に勧めるように園に助言するということになる。

この一連の過程を円滑に行うためには,相談員がH市および近隣地域の障害児 等の療育相談関連機関などの育児資源について熟知し,相談員自身が関連機関

とのネットワークを有している必要がある。事例2(H市)の場合,相談員が このケースの援助に適当と判断される,対象児の家庭の近隣にある相談機関に っいて熟知していたので,相談をすすめることができた。しかし,H市の他の 相談事例では,連携・協力の必要性を強く感じながらも適切な助言ができない

ことが少なくない。

 このように,巡回相談員が保育者にコンサルテーションを行うとき,それが 有効に機能するために相談員に求められる役割や専門性は地域の障害児等の療 育環境がどのように整備されているかによってかなり異なることがこの二っの 事例の比較から分かる。

 4−3 保育者の役割や経験とコンサルテーションの有効性

 K市もH市の場合も多くの相談事例は一人に1回だけである。当日の助言が 実際に保育にどのように活かされているかは1回だけの相談では相談員は知る

ことが困難である。

 どのように活用されるかには,さまざまな要因が介在すると考えられる。次 に,その点について探索的に考えてみる。

(19)

障害児保育における保育者への支援 19

 事例2(H市)にっいて,相談日の約2ケ月後に園を再訪問し,相談が保育 のなかでどのように活かされているかにっいて園長,主任保育者,担当保育者

(パート職)の3人から約40分間聴き取りを行った。

聴き取り項目は,以下のようなもので,自由に話してもらった。

   「助言は理解できたか。どの助言が参考になったか。保育に助言をどの    ように活かしたか。相談の後に園内でどのような話しあいをもったか。

   相談の後に保育の仕方や保育体制などを変えたか。相談にっいて保護者    にどのように報告したか。」

 以下はその聴き取りの概要である。

 ・子どもの発達と障害の説明について   担当保育者はそれまでに障害児   保育の経験がなく,児を担当して未だ3日目で,児についての自分の考え   がまだなかったので,よくは理解できないがそうかなという程度に思った。

  主任保育者は,児がパターンがくずれるとパニックになるということはす   でに分かっていたが,説明を受けてあらためて具体的な行動にっいてそれ   が理解できた。

 ・保育時間について   主任保育者は,以前の障害児の保育では延長保育   は行わなかったので不安だったが,説明を受けて,保育上の問題は保育時   間の長短によるものではないとその時は思った。しかし,その後,「長時   間保育にすると疲れるのではないか」とか,「延長保育になると,保育者   が1対1で対応できない,担当保育者以外の保育者が保育することになる,

  集団がクラスの子どもたちだけでなくなる,親とのスキンシップが少なく   なる点が気掛かりである」など,いろいろと問題があると思った。

 ・ことばを育てることについて   主任保育者は,「聞いてないようにみ   えても話しかけることが大切ということで,何度も繰り返し話しかけるよ   うにした」と,助言を具体的な保育のなかで取り入れていた。担当保育者   は,発達検査の中で「……は,どっち?」という質問に対して全く理解で   きないのを見て,保育の中でも比べることを促したところオーム返しにな   り,比較ができないということを確認した。しかし,保育の中で「どっち」

  と問いかけるのは難しく具体的な保育にはっながらなかったが,言葉を育

(20)

20

てる視点にはいろいろな見方があることを初めて知ることができ視野が広 がったQ

・集団活動への参加にっいて   無理強いはしないが誘うようにしてきた が,助言を受けて,これまでの保育を続けることを確認することができた。

・専門機関への紹介にっいて  園として巡回相談の以前から何度か保護者 に専門機関での言語指導を勧めていた。巡回相談を機会にあらためて,保 護者に「××幼児相談」のパンフレットを見せて相談を勧めたが保護i者は

ほとんど関心を示さなかった。その後,園なりに相談機関を十分理解して 保護者に紹介したいと考えて,職員が相談機関を訪問した。しかし,それ からは保護者にこの問題を話すことは慎重に控えている。保護者がもう少  し,子どもの障害について自覚的に考えて,保護者から相談があれば対応

できるが,現在のところ,障害にっいて認あたくない気持ちのようであり,

園としてどうしていいか分からず苦慮している。

・園内での話しあいにっいて   巡回相談での話しを受けて,これまでの 子どもの見方と保育をいったん白紙に戻して再確認する話しあいを,主任,

担任,担当保育者でもった。その後の保育のなかで生じた問題や疑問に対 しては,その場その場で話しあった。

・その後の保育の変更などにっいて   園長として朝晩の延長保育時に,

複数の保育者が交代でみて,どの保育者ともうまくかかわれるような体制 をとることを決あた。また,巡回相談の翌日の朝の会で簡単に巡回相談で 児にっいての話しがあったことを報告し,数日後の定例の職員会議で数分 程度で全職員に,児の障害,基本的な対応や注意事項,クラス担任として

の保育の方針を説明した。その後多くの職員が児に声をかけるようになり,

乳児クラスに行っても自然に受け入れられるようになった。

 この事例は,入園してまだ2ケ月ほどであり,園として少しずつ子どもの状 態を把握し対応が見えてきていたが,まだ修正を考慮に入れた暫定的な対応を

していたようであった。巡回相談による子どもの評価と助言を参考により明確 な保育方針をとりたいと考えている状況であった。そして,助言を受けて実際

(21)

障害児保育における保育者への支援 21

にいくっか具体的な保育方針を確認し定着化することになった。とくにこの園 では,主任保育者が保育の方針にっいて園内の中心的な役割を担っており,主 任保育者にとって巡回相談の評価や助言は保育方針を確認し決定するうえで良 い機会であったと考えられる。

 一方,担当保育者は保育経験が浅く,相談員の評価や助言を理解できなかっ た。相談日当日は,担当になって三日目で,カンファレンスで疑問点を質問す ることもできない状態であった。その2ケ月後でもまだ,その状態は基本的に 変わっていなかった。担当保育者は助言の意味を自分なりに理解できないたあ

に相談員の助言のなかで具体的な保育方法に関連する部分を試行錯誤的に実行 しようとした。しかし,たとえば,ことばの発達にっいての基本的な理解を伴 わないままに助言を実行しようとしても子どもの反応に戸惑うばかりで悩みが 深まるばかりであったようである。このため,この保育者は障害や障害児保育

について学習する必要を強く感じ相談員に参考となる本の紹介を依頼した。

 このように,この相談事例では,主任保育者と担当保育者にとって,相談の 意味はかなり異なっていた。それは,一っには両者の保育経験とそれに伴う障 害児や子どもの発達に対する理解の違いによる。これを一般的に言えば,相談 に対する受け手の準備性によって相談の実質的な活用度は大きく異なるという ことである。相談員としては,できるだけどの保育者にも理解できるように助 言したっもりであったが,担当保育者にはそれを理解する準備性が十分ではな かった。逆に見れば,より受け手の準備性を考慮においた助言をすることによっ て,活用度を高めることができることになる。

 しかし両者の違いはそのような相談の受け手としての準備性だけではない。

主任保育者と担当保育者という役割の違いが,それ以上に大きかったと考えら れる。主任保育者は,時々その子どもを保育する機会があったが,基本的には 担当保育者や担任保育者の保育を見守り助言したり援助する立場であった。主 任保育者にとっては,概括的な子どもの理解を正しく持っことで,職務をこな すことができる。一方,担当保育者は毎日,時々刻々と子どもに対応する必要 がある。そのためには,概括的な理解を具体的な保育の手だてにまで応用でき なければならない。その部分は保育者の創造によるものであり,相談時の助言

(22)

22

でいちいち明らかにできるものではない。

 また,他クラスの保育者にとってはときどき子どもに出会う場面で,行動を 禁止するべきかいなか,自分のクラスで受け入れるべきか所属クラスに戻るよ

うに促すべきかなど,おおまかな対応にっいての判断が必要であった。このよ うな立場にある保育者にとっては,巡回相談によって基本的な保育の方針が明 らかになった。その意味で,巡回相談を有効に利用できた。

 このように立場によって,巡回相談の実際の活用はかなり異なっていたよう

である。

 この担当保育者の直面した問題に対しても有効に支援するためには,このよ うな一回限りの支援では困難であり,継続的な支援が必要であると考えられる。

その際には,おそらく担当保育者が感じるストレスに対するカウンセリング的 な支援と,助言を理解し保育の具体的な手だてを導けるような研修的な支援や,

相談員と保育者が協同で保育カリキュラムを作成するというような支援が必要 であろう。幸い,この園では,主任保育者や園長が,担当保育者に対してその ような支援を行っていた。

 このように考えると,園を構成するそれぞれの職員にたいして必要な支援は 共通する部分もありながらもかなり異なると考えられる。相談員がそれらに個々

に手厚い支援をすることは実際上不可能であることを考えるならば,園の職員 構成や役割を理解したうえで助言したり,場合によっては,有機的な組織を作

ることを促すようなコンサルテーションが必要である。

 4−4 コンサルテーションの保育者への研修・関係形成的機能

 K市では,巡回相談の実施後に,担任ないしは担当保育者が書いた相談に対 する感想,意見の自由記述を,保育園から相談員に伝えることを数年間にわたっ て行っていた。そこに記された巡回相談に対する肯定的な評価記述(否定的な 評価はほとんど記載されなかった)を抽出したのが表2である。

 これを見ると,巡回相談がさまざまな側面から評価を受けていることが分か る。これらのなかでも,どの点での評価が高いのかを知るために,これを質問 項目とした質問紙調査を行った。その結果をもとに,巡回相談が園からどのよ

うに評価され,保育者をどのように支援しているのかを検討する。

(23)

障害児保育における保育者への支援 23

表2 園からの評価に関する質問項目

発達の状況を確認できた

何が問題なのか整理することができた 保育への具体的な方法が見つけられた 障害について学習する良い機会になった

児について職員同士の共通理解を深める機会になった 自分たちの保育のやり方に自信をもっことができた 保護者へどう対応したらよいか知ることができた 保育園の職員の児への保育への意欲が高まった 他の子どもの保育にとっても示唆が得られた 児の障害がどういうものか分かった

保育者が保育や障害にっいてもっと勉強する必要を感じた そのときの保育の問題点を知ることができた

保育体制にっいての示唆が得られた

保育園の職員の精神的な負担が軽くなった

児にとって保育園がどういう役割であるかを知ることができた どのように児の状態について保護者に説明したらよいかが分かった 保育について学習する機会になった

児の保育を見直すことができた

児を違った視点から見ることができるようになった

質問紙調査の概要

・調査時1993年5月   ・調査対象 K市公立保育園全園長

・調査方法 園長会で各園長に配付し,個別に保育課で回収。記入は匿名。

・回収率 全園長81人のうち,69人分を回収した(回収率85%)。ただし,

 そのうちの2人の回答は白紙だったので,集計の資料となったのは,67人

83%。

・調査内容  最近,実際に巡回相談を受けたなかで鮮明な印象のある1事 例にっいて表2の項目それぞれに,6件法で回答する。巡回相談全般に対 する評価ではなく,具体的な事例についての評価を質問する形式にした。

ただし,それがどの相談事例であるかは調査者は同定できない。したがっ て,そのときの相談員が誰であったか(当時,心理3名,医師1名の相談 員がいた)も同定できないので,4人の相談員への評価の混合になってい

(24)

24

 ると考えられる。

結果 それぞれの項目に対する回答率を表3に示す。

        表3 巡回相談に対する園からの評価        (数字は%)

ややあてはまる

発達確認 42 44 15

0

0 0 問題整理 29 50 19

0 2

0 具体方法 22 40 31

4 2

0 障害学習 45 32 23

0

0 0 職員理解 27 48 25

0 0

0 保育自信 10 35 48

4 2

0

保護者対応 10 35 40 13

2

0

保育意欲 17 35 38 8

0 2

他児保育 13 34 36

9 9

0 障害中身 27 40 25 4

4

0 勉強必要 32 38 38

0 2

0 保育問題 13 41 33 13

0 0

保育体制 10 35 38 10

6 0

精神負担 15 23 42 13 4 4

園 役 割 20 33 37

9 0 2

保護者説明 13 30 39

9 4

4

保育学習 23 46 25

6 0

0 保育見直 30 43 21

6 0 0

異視 点 15 43 30

11 2 0

(25)

障害児保育における保育者への支援 25

 全体的に,どの項目に対しても「あてはまる」という回答が多い。「あては まらない」という回答がもっとも多かったのは,「職員の精神的負担が軽くなっ た」という項目だったが,それでも,3つの「あてはまらない」の合計で21%

にすぎない。おおむね,これらのほとんどの観点で,巡回相談を受けて良かっ たという評価がされたことになる。

 その中でも,比較的高い評価を受けた項目は以下のようなものである。

 発達の状況を確認できた,障害について学習する機会になった,問題を整理 できた,保育や障害にっいてもっと勉強する必要を感じた,職員同士で共通理 解を深める機会になった,保育を見直すことができた,などである。これらの 項目に対しては,「よくあてはまる」という評価の割合が高く,「かなりあては

まる」という評価を加えると,70%以上であった。

 それぞれの質問項目を以下のように三っに分類してみる。

 第一群は,保育の風土(保育への意欲,保育者間の関係など)に対する効果 にかかわる項目である。

 職員理解,保育自信,保育意欲,勉強必要,保育学習,が該当する。

 第二群は,保育者の力量形成に対する効果にかかわる項目である。

 発達確認,問題整理,障害学習,他児保育,障害中身,園役割,保育見直し,

異視点,が該当する。

 第三群は,その時の保育への対処にかかわる項目である。

 具体方法,保護者対応,保育問題,保育体制,精神負担,保護者説明,が該

風 土 力量形成 保育対処

よ  く 22 28 14

かなり 40 40 34

や  や 33 26 37

や  や

4 5

10

あまり 1 2

3

ほとんど

0 0

1

(数字は%)

(26)

26

当する。

 それぞれの群の項目の回答率の平均を示したのが上の表である。3群の回答 を比較すると,保育対処よりもむしろ,風土や力量形性の面で高い評価を受け ていることがわかる。どちらかといえば,保育への対処の項目の中に,あては まらない」という低い評価を受ける項目が見られた。これは,相談員にとって は意外な結果であった。巡回相談の第一の機能は,保育の具体的な対処にっい て保育者に助言をすることにあると考えていたからである。

 なぜ,巡回相談が職員の共通理解を深めたり,保育への意欲を高めるという ような,保育の風土に影響を与えると評価されるのか。おそらく,カンファレ

ンスに多くの職員が参加し,実質的に職員会議のような役割を担っているため と考えられる。実際,K市の何人かの園長は,巡回相談を園内のケース検討会 のような形で利用している。そのようなカンファレンスでは,相談員や担任保 育者からの説明だけでなく,できるだけ多くの職員の意見や疑問を引きだすよ うに園長は司会する。このような巡回相談の利用の仕方によって,保育者は子 どものことを理解するだけでなく,担任保育者の取り組んでいることや,園長 はじめお互いの子ども観や保育観を理解することになると考えられる。

 また,巡回相談が保育者の力量形成に寄与すると評価を受ける点は,一っに は,カンファレンスで相談員が子どもの発達や障害について,その該当児の状 態を説明するにとどまらず,その事例を通して発達や障害一般にっいて概説し て述べているからだと考えられる。また,相談員は,K市の障害児保育の研修 の講師を務めるなどK市の障害児保育にかかわる他の事業にも関わりをもって おり,そのようなことが間接的に影響を与えているのかもしれない。そのよう な相談員の活動全体が,園長や保育者と相談員との信頼関係をっくり,それが 相談の場における相談員に対する期待や評価にっながると思われる。

 ただし,この回答は園長の評価である。もし担任保育者が回答すれば,若干 異なる評価を受けたかもしれない。おそらく,保育対処の評価が高く,風土と 力量形成は低く評価したと思われる。その意味では,相談の評価は,受け手の 役割や立場でも変わると考えられる。

 このように,巡回相談は実際には多様な役割を果たして保育者を支援してい

参照

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